20年12月の書籍雑誌推定販売金額は1148億円で、前年比8.3%増。
書籍は552億円で、同8.3%増。
雑誌は596億円で、同8.3%増。
かつてないトリプルの8.3%増である。
雑誌の内訳は月刊誌が523億円で、同11.2%増、週刊誌は73億円で、同8.7%減。
返品率は書籍が29.9%、雑誌は35.7%で、月刊誌は34.2%、週刊誌は44.8%。
書籍は前年同月が13.1%減という大幅マイナス、及び返品の大きな改善によりプラスとなり、雑誌はひとえに『鬼滅の刃』最終巻の初版395万部、そのスピンオフ作品『鬼滅の刃 外伝』初版100万部の爆発的売れ行きに負っている。
このかつてないトリプルの8.3%増は21年の幸先となるか、それとも仇花なのか、それが問われていくことになろう。
1.出版科学研究所による1996年から2020年にかけての出版物推定販売金額を示す。
年 | 書籍 | 雑誌 | 合計 | |||
金額 | 前年比(%) | 金額 | 前年比(%) | 金額 | 前年比(%) | |
1996 | 10,931 | 4.4 | 15,633 | 1.3 | 26,564 | 2.6 |
1997 | 10,730 | ▲1.8 | 15,644 | 0.1 | 26,374 | ▲0.7 |
1998 | 10,100 | ▲5.9 | 15,315 | ▲2.1 | 25,415 | ▲3.6 |
1999 | 9,936 | ▲1.6 | 14,672 | ▲4.2 | 24,607 | ▲3.2 |
2000 | 9,706 | ▲2.3 | 14,261 | ▲2.8 | 23,966 | ▲2.6 |
2001 | 9,456 | ▲2.6 | 13,794 | ▲3.3 | 23,250 | ▲3.0 |
2002 | 9,490 | 0.4 | 13,616 | ▲1.3 | 23,105 | ▲0.6 |
2003 | 9,056 | ▲4.6 | 13,222 | ▲2.9 | 22,278 | ▲3.6 |
2004 | 9,429 | 4.1 | 12,998 | ▲1.7 | 22,428 | 0.7 |
2005 | 9,197 | ▲2.5 | 12,767 | ▲1.8 | 21,964 | ▲2.1 |
2006 | 9,326 | 1.4 | 12,200 | ▲4.4 | 21,525 | ▲2.0 |
2007 | 9,026 | ▲3.2 | 11,827 | ▲3.1 | 20,853 | ▲3.1 |
2008 | 8,878 | ▲1.6 | 11,299 | ▲4.5 | 20,177 | ▲3.2 |
2009 | 8,492 | ▲4.4 | 10,864 | ▲3.9 | 19,356 | ▲4.1 |
2010 | 8,213 | ▲3.3 | 10,536 | ▲3.0 | 18,748 | ▲3.1 |
2011 | 8,199 | ▲0.2 | 9,844 | ▲6.6 | 18,042 | ▲3.8 |
2012 | 8,013 | ▲2.3 | 9,385 | ▲4.7 | 17,398 | ▲3.6 |
2013 | 7,851 | ▲2.0 | 8,972 | ▲4.4 | 16,823 | ▲3.3 |
2014 | 7,544 | ▲4.0 | 8,520 | ▲5.0 | 16,065 | ▲4.5 |
2015 | 7,419 | ▲1.7 | 7,801 | ▲8.4 | 15,220 | ▲5.3 |
2016 | 7,370 | ▲0.7 | 7,339 | ▲5.9 | 14,709 | ▲3.4 |
2017 | 7,152 | ▲3.0 | 6,548 | ▲10.8 | 13,701 | ▲6.9 |
2018 | 6,991 | ▲2.3 | 5,930 | ▲9.4 | 12,921 | ▲5.7 |
2019 | 6,723 | ▲3.8 | 5,637 | ▲4.9 | 12,360 | ▲4.3 |
2020 | 6,661 | ▲0.9 | 5,576 | ▲1.1 | 12,237 | ▲1.0 |
20年の出版物推定販売金額はコロナ禍の中にあっても『鬼滅の刃』のような神風にも似た超ベストセラーによって、1兆2237億円、前年比1.0%減で、かろうじて1兆2000億円台をキープできたことになる。
電子書籍も同じく電子コミックが好調で、3931億円、同28.0%増、紙と合算すると1兆6168億円、同4.8%増となっている。
しかし紙の現実を見れば、書籍は1996年に比べ6割、雑誌に至っては3分の1にまで落ちこんでしまっている。しかも雑誌はコミックスを含んでいるので、実際に『鬼滅の刃』がなければ、5000億円を割りこんでいたかもしれない。
20年は予期しないコロナ禍、またこちらも同様の『鬼滅の刃』の神風の下で過ぎていったが、21年はどのような出版状況を迎えることになるのだろうか。
2.『Pen』が かつて「2020年の世界と東京」(2016.9/1)という特集を組んでいた。
そこでの一章は「2020年の世界はこうなっている」で、次のような10の各分野専門家による「大胆予測」が提出されていた。
1 目標は年間4000万人。日本は観光立国になっている?
2 中国の民主化は進んでいるか、それとも退化しているか?
3 朝鮮半島は、統一への道を歩んでいる?
4 東京五輪は、イスラム過激派の標的になるのか?
5 ヒラリーとトランプの争う米政界の、4年後の風景は?
6 ブレグジットに揺れるEUは、共同体を保てる?
7 貧富の差は解消される? 拡大する?
8 LGBTは、権利平等を勝ち取れるか?
9 目まぐるしく変化するSNSは、どんなカタチに?
10 人工知能は、近未来の世界をどう変える?
これらの「大胆予測」をもう少しシンプルにして、二者択一の場合、前者とすると、1から8にしても、9や10にしても、「こうなっている」とはいえないし、未来予測の難しさを教えてくれる。まして全項目において、誰もが新型コロナウイルスの出現などはまったくの想定外であった。
日本の観光立国、朝鮮半島統一、東京オリンピック、ヒラリーとトランプの政局、貧富の差の解消などの「予測」は見事に外れてまった。朝鮮半島の統一に関しては、思いがけない『愛の不時着』というドラマがもたらされたけれど。
それは同じく『Pen』(2018・9/1)の「いま最も知りたい『中国』最新案内」も同様で、そこに示された現代中国のハイテクな風景からは新型コロナウイルスの発生は想像すらできないし、まして都市のロックダウンも同様である。
1で20年の雑誌販売金額を見たように、雑誌の時代は終わりつつあり、もはや誰も雑誌のバックナンバーのことなど語らない。
『Pen』(1/1.・15)が「昭和レトロに癒されて。」だったので、かつての『Pen』の未来特集を思い出し、しかもそれが20年の予測だったので、ここで戯れにそれを試みてみた。
3.年末年始(12/29~1/3)の書店売上はトーハンの1470店のposデータによれば、前年比94.7%、日販の1667店は97.8%。
いずれもコミックだけは前年を上回っているが、書籍、雑誌、開発商品はすべてマイナスとなっている。
コロナ禍の中で迎えた年末年始の売上だが、20年1月が0.6%減と小さなマイナスだったことに比べれば、やはり厳しい幕開けと見なせよう。
コミックだけは好調だけれど、書籍と雑誌のマイナスはいずれも二ケタ減で、回復は難しく、コミック人気もどこまで続くのか、保証の限りではないからだ。
それから学参シーズンに入っていくが、小中高はともかく、大学は対面授業の問題が解決しておらず、それが大学生協の売上へと影響していくのは間違いない。テキストなどの採用品市場の縮小は必至だし、昨年もそうだったように、出版社の資金繰りに跳ね返っていくかもしれない。
4.日本フランチャイズチェーン協会による大手7社のコンビニの2020年売上高は10兆6608億円で、前年比4.5%減、2005年以来の統計で前年割れは初めてである。
店舗数は5万5924店で、前年比0.6%増。
コンビニ店舗数と書籍雑誌実販売額の推移を示す。
年 | CVS店舗数 | CVS書籍・雑誌 実販売額(億円) |
2005 | 43,856 | 5,059 |
2006 | 44,036 | 4,852 |
2007 | 43,729 | 4,044 |
2008 | 45,413 | 3,673 |
2009 | 46,470 | 3,166 |
2010 | 45,375 | 2,886 |
2011 | 47,190 | 2,642 |
2012 | 49,735 | 2,466 |
2013 | 53,451 | 2,262 |
2014 | 56,367 | 2,117 |
2015 | 56,998 | 1,908 |
2016 | 56,160 | 1,859 |
2017 | 56,344 | 1,576 |
2018 | 56,586 | 1,445 |
2019 | 55,620 | 1,285 |
2020 | 55,924 | ー |
コンビニ店舗数は19年の初めてのマイナスから、20年は微増に転じたものの、売上高は前年割れとなった。
コロナ禍の影響もあるだろうが、売上高にしても、店舗数にしても、それが機となり、減少していくと考えるきだろう。
だがそれ以上に顕著なのはコンビニにおける出版物販売額で、19年は前年比11%減の1285億円で、13年の約半分になっている。数年後には1000億円を割ることになるだろうし、本クロニクル151でファミリーマートの雑誌売場の縮小を伝えているように、コンビニの雑誌コーナーの存続自体が問われていくことになろう。
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5.『文化通信』(1/11)が一面で、日販の奥村景二社長インタビューしている。
大見出しは「出版流通改革タイムリミットまで1年余/業界全体で同じ理解のもと、議論したい」とある。それを要約してみる。
* 昨年4月から社長として出版流通改革に取り組み始め、日販は出版物の物流と仕入と営業だけの組織になったので、社内の意識を統一できるし、取次事業の赤字も浮かび上がったので、どのように立て直すかがはっきりした。 |
* 取次事業の黒字化を前提とし、短いスパンで物事を進め、将来のビジョンを示していく。そして出版流通を守り、それをコアとして新たな事業を始めていかないと、企業として成長するビジョンを描くことは難しい。 |
* 出版流通の赤字を減らしながら、新たな事業と利益を生み出し、取次でない部分を持つ日販という新しい会社をめざしていく。 |
* 出版流通改革、取引や流通の構造を変えるためには、業界全体が一つのゴールに向かって同じ目線で話し合う必要があるので、日販がもっている出版流通や経営状況などを開示していく。 |
* 来期の早い段階で、出版流通の現状認識と方向を共有し、改革を進めるための会議体を設け、議論したい。 |
* 1年での改革の結論が出るかもしれないが、もっとかかるとタイムリミットを迎え、出版流通が破綻に近づいていくことも考えられる。 |
* 同業他社との物流協業などによる流通コストを下げる努力をしているので、出版社にも相応のコスト負担、及び定価値上げをしてほしいし、出版社と書店に対する条件払いやリベートもゼロベースにすることも考える必要があるのではないか。 |
しかし売上の9割を占める取次事業の赤字を、新たな事業によって補完していくことは不可能であろう。その新しい事業が「文喫」や「箱根本箱」であるとしたら、誰も信じない。
結局のところ、大手出版社への条件払と正味の変更、書店に対するリベートの廃止、低正味買切制への移行しかないと思われる。
これらは神田の専門取次の鈴木書店が、日販などによる大学生協や書店の帖合変更で追いこまれる中で、模索していた手段であり、一部は実現したものの、その流通システムの改革にはならず、破産するしかなかったのである。
それは日販の場合、CCC=TSUTAYAだけでなく、多くの傘下書店、子会社としての書店を抱えているわけだから、リベートを廃止すれば、それらの書店のほうが破綻してしまうだろう。それに加え、文教堂、フタバ図書問題はどうなるのか、それこそこの1年がタイムリミットだ。
これらとタテマエとホンネの混じったインタビューをトータルに考慮すれば、例によって当然のことながら、出版流通改革は先送りされ、タイムリミットは否応なく近づいてくることになる。
なお1月28日にフタバ図書の「弊社事業を新会社に承継する旨のお知らせ」が出され、ファンドによる新会社に事業譲渡が発表された。新会社には日販、蔦屋書店も出資し、店舗は6のTBNに加盟予定。
6.TSUTAYAはTSUTAYA BOOK NETWORK(TBN)の直営、FC加盟店の2020年書籍雑誌年間販売総額が1427億円で、過去最高を更新と発表。
こちらも日販と同じく、しかしである。
TSUTAYAの書籍雑誌年間販売総額は『出版状況クロニクルⅤ』や本クロニクル136などでずっと試算してきたように、1店当たりの出版物売上高は坪数に対して驚くほど少ない。
20年はTBNの店舗数は779店とされているので、1店当たり年商1億8000万円、月商にして1500万円となる。しかも今期は静岡の谷島屋など34店の新規加入、開店を含めてである。
19年には835店だったことからすれば、本クロニクルで見てきたように、18年からの大量閉店で100店以上が減少したことになり、それを新規加入、開店で帳尻を合わせていると見なせよう。
それに今回の発表は例年よりも半年以上も早く、コロナ禍の中にあっても、TSUTAYA=CCCは売上を伸ばしているとのアピール=プレスリリースだと考えるべきであろう。
7.文教堂GHDは45歳から64歳未満の正社員25人程度の希望退職に25人の応募があったと発表。
当該社員は所定の退職金に割増加算金を上乗せし、最就職支援サービス会社を通じて再就職を斡旋する。
希望退職者が退職金+割増加算金を得たことは何よりだが、早急に決まったようで、これもまた正社員の不安と動揺の反映とも思われる。
本クロニクル139で、文教堂の事業再生手続き(ADR)は「再建策ではなく延命策」との声が挙がっていることを伝えておいたし、また前回の本クロニクルでも文教堂の90円割れの株価低迷にふれておいた。
「延命策」の果てに待ちかまえている事態はどのようなものになるのか、広島のフタバ図書と同様に、その行方に注視しなければならない。
それからこれは余計なことかもしれないが、長野の平安堂が正社員を募集していることを付記しておこう。
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8.『新文化』(1/14)が「電子取次・メディアドゥの成長戦略」と題し、メディアドゥの藤田社長と新名副社長にインタビューしているので、それらを要約してみる。
* メディアドゥは国内電子書籍取次会社として、市場シェア第1位を占め、2020年の連結期決算は売上高658億円で、17年と比較し、4倍以上の成長を遂げている。 |
* 電子書籍市場の成長率は18年の「漫画村」の閉鎖と今回の新型コロナによる巣ごもり需要で、幅広世代に読者が増えた。この2つが市場を押し上げる起爆剤となった。 |
* 出版業界では電子書籍ビジネスがその一部で、紙と電子は区別しないという方向性が主流になっているが、電子だけで成功すれば安泰だとは思っていないし、業界全体が活性化しないと電子にも未来はない。 |
* 電子だけで1兆円規模にし、紙と半々の世界をめざすべきだと考えているし、これからは電子市場は現在の第1期から第2期に突入していく。開発中のブロックチェーンなどによって読者の情報をつかみ、潜在的な読者に本の情報を提供していく。それを書店や出版社と一緒に進めていきたい。 |
* 日本はアメリカと異なり、電子書店の数が多いので、本質的に電子取次会社が必要とされる市場であり、電子書店や出版社が文化に根差した展開ができるように情報を提供し、紙と電子市場を拡大していきたい。 |
メディアドゥに関しては、本クロニクル145などでトレースしてきたが、あらためて「漫画村」の閉鎖とコロナ禍が成長のきっかけだったことを確認した次第だ。
その仕入れ先というべき出版社はともかく、取引先に当たる電子書店の全貌は定かでないけれど、この10年に多くが生まれたことになろう。
電子市場第1期は現在で、紙を電子化し、電子書店がネット上で広告を打ち、販売数が伸びていく。それに対し第2期に進むためには読者情報で、ブロックチェーンなどの新しいテクノロジーを通じ、読者をつかみ、本の情報も提供していく。それが第2期、1兆円の電子市場ということになるが、果たして実現するのか、実現すれば紙の世界はどうなるのか、これからも観測していきたいと思う。
9.『創』(2月号)が恒例の特集「出版社の徹底研究」を組んでいる。
『創』の恒例特集は最初の座談会からして床屋談議にすぎないので、ほとんど取り上げてこなかった。だが今日はコロナ禍あって、それは掲載されず、「総論」として、『鬼滅の刃』大ヒットとコロナの影響を受けて、「出版界は今、どうなっているのか」に代わっている。
またそれに続く大手出版社レポート、ほとんどがコミックとデジタル化が中心となり、1の電子コミック、8の電子書籍問題と呼応している。それこそ大手出版社のコミックとデジタル化を俯瞰する特集として読むことをお勧めしよう。
10.東京の古本屋としてよく知られた高円寺の都丸書店と練馬のポラン書房の閉店が伝えられてきた。
コロナ禍の中にあっての閉店であり、その影響を受けているのだろうが、やはり古本屋もネット販売へと移行せざるをえない状況を象徴している。
1970年代には中央線高架下の都丸書店によくいったことを思い出す。だが今世紀に入ってからは数回で、ご無沙汰していたことを実感してしまう。
東京の街角の古本屋という物語ももはや成立しない時代を迎えているのかもしれない。
11.『FACTA』(2月号)が貴船かずま「コロナ禍『映画館がなくなる!』」という記事を発信している。
この記事によれば、アニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の興行収入が324億円で歴代1位、累計観客動員数は2400万人を超えた。だが全体的な20年の興行収入はコロナ禍の影響を受け、前年の半分にも満たない惨状である。
映画大国のアメリカも深刻な感染状況で、大都市部の映画館は閉館が続いている。その一方で、動画配信サービスの利用者はうなぎ登りで、「映画館のなくなる日が近づいている」。
これは日本でも同様であろうし、ネットフリックスは国内で有料会員数500万人、世界で2億人を超えたとされる。
それにアマゾン・プライム、ディズニー+(プラス)を加えれば、動画配信サービス会員数は日本でも「うなぎ登り」状態にあると見なせよう。
10の古本屋と同じく、都市の映画館も消えていく時代を迎えようとしているのだろうか。
またネットフリックスが独自のニュース配信も始めるようになれば、日本のテレビ局もまた大きな影響を受けるであろうし、それも将来的には実現するようにも思われる。
12.『日経MJ』(1/25)が「青山、見えぬスーツの次」の大見出しで、青山商事の21年3月の初の営業赤字と大規模なリストラを特集している。
服装のカジュアル化とコロナ禍の拡大で、スーツ離れは急速に進み、20年のスーツ販売は400万着となり、18年から4割減、ピーク時の1992年の1350万着からは7割減。
営業損失は128億円の赤字、最終赤字は292億円と予測され、全体の2割にあたる160店の閉店、大型店の売場縮小、社員も400人の希望退職を募り、人件費も削減する。
本クロニクル144などで、コロナ禍にある衣料品専門店の販売実績を伝えてきたが、それらの中でも紳士服の青山商事のダメージは最も大きかったようだ。
1990年代において、青山商事はロードサイドビジネスの雄として郊外店出店の範となり、カジュアル衣料のユニクロにしても、青山をモデルとして成長してきたのである。
それは書店も同様で、1980年代から90年代にかけては、青山商事の時代だったといえよう。しかしそのような青山商事にしても、否応なく危機は訪れてくるのであり、それは郊外消費社会の衰退の前兆ともいえよう。
1980年から90年代にかけての郊外消費社会の成立に関しては、拙著『〈郊外〉の誕生と死』を参照されたい。
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13.『フリースタイル』46が恒例の特集「THE BEST MANGA 2021 このマンガを読め!」を組んでいる。
年齢とともにマンガに接する機会が少なくなり、コミック誌にしても、病院に置いてある『ビックコミック』を読むくらいになってしまった。
そんなわけで、「BEST10」では5の和山やま『女の園の星』(祥伝社)、「BEST20」では『鬼滅の刃』、それも第1巻だけを読んでいるにすぎない。
草森紳一は死の前年に荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』全63巻を読破し、『ジョジョ伝』を書きたいといっていたそうだ。
私も今年はかつて書いた『ブルーコミックス論』を上梓する予定なので、あらためてマンガへの精進も心がけるつもりだ。
14.菊地史彦の『「象徴」のいる国で』(作品社)が届いた。
『「幸せ」の戦後史』『「若者」の時代』(いずれもトランスビュー)に続く、菊地の3冊目の戦後史で、天皇という「象徴」をコアにすえ、戦後の多様な「二重性」を論じた力作にして問題作といえよう。
菊地と同じく、私も「戦後」を手離せないので、一方的に彼を戦後史における同志だと考えてきた。
私だけの思い込みかもしれないのだが、戦後生まれ世代は1952年で一区切りされ、しかも51年と52年生まれは後期占領下世代に属するという個人的観測があるからだ。私は51年、菊地は52年である。
だから同じ戦後生まれの「戦後史」であっても、明らかに団塊の世代と異なる色彩と陰影を伴って提出され、『「象徴」のいる国で』においては、天皇とサブカルチャーに表象される「二重性」をキーワードとして描かれていくことになる。
拙著『郊外の果てへの旅/混住社会論』も戦後社会論に他ならず、そこではアジア的農耕社会とアメリカ的郊外消費社会の「二重性」が問われている。その「二重性」こそが私たちをリンクさせるのであり、農村で育った私と都市生活者の菊地のコレスポンデンスがあると信じたい。
菊地の次のテーマは「平成」を予定しているという。
そういえば、本クロニクルも「平成」と併走して書かれてきたし、意図しない「平成史」であることにあらためて気づかされた。
( 『郊外の果てへの旅/混住社会論』)
15.論創社HP「本を読む」〈60〉は「『ノヴァーリス全集』と戦前の翻訳」です。
『出版状況クロニクルⅥ』は現在編集中。
今年は『リブロが本屋であったころ』の中村文孝と共著で、誰もが予想もしないであろう一冊を刊行する予定でいる。
14の菊地からも望まれているので、ご期待下さい。