出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

消費社会をめぐって

10 カネコアツシ『SOIL[ソイル]』

消費社会の風景はまったく映し出されていないのだが、郊外のニュータウンそのものを舞台とする不気味な物語がずっと書き続けられている。その物語はいまだに完結しておらず、それがどのようなクロージングを迎えるのか、まったく予断を許さない。それは小説…

9 奥田英朗『無理』

郊外消費社会が全国的に出現し始めたのは一九八〇年代だったことを繰り返し書いてきた。だからその歴史はすでに四半世紀の年月を経てきたことになる。それ以前の六〇年代から七〇年代にかけての郊外はまだ開発途上にあり、新しい団地に象徴されるように、高…

8 山田詠美『学問』

ケータイ小説のような「小説」ならぬ「大説」を続けて読んでいると、「テクストの快楽」どころか、それこそ「テクストの苦痛」に襲われてしまい、口直しに「小説」を味わってみたくなる。だからそのつもりで買っておいた山田詠美の『学問』 (新潮社)を読ん…

7 ケータイ小説『Deep Love』

「女王」中村うさぎの欲望のみならず、郊外消費社会の成立と不可分の関係にあるケータイ小説も視野に収めておくべきだろう。それは極東の島国の郊外消費社会とケータイテクノロジーが、ミレニアムに出現させた日本でしか成立しない小説形式とベストセラー現…

6 「女王」中村うさぎ

一九七〇年代半ばに起きた戦後日本の消費社会化に続いて、主要幹線道路沿いにロードサイドビジネスが林立する郊外消費社会が形成され始めたのは八〇年だった。全国的に広がった郊外消費社会の出現は風景、生活、環境、産業構造のすべてをドラスチックに変え…

5 中内功の流通革命

〇六年に「中内ダイエーと高度成長の時代」のサブタイトルが付された、佐野眞一編著『戦後戦記』(平凡社)に、「オクターヴ・ムーレと中内㓛」という一文を寄せたことがあった。残念ながら、ムーレの名前が馴染みのないものだったこともあり、それは編集者…

4 エミール・ゾラ『ボヌール・デ・ダム百貨店』

ジョン・ダワーは『敗北を抱きしめて』の中で、パンパンを始めとする占領下の日本人たちがアメリカに魅せられたのは、その豊かで快適な生活ゆえだと述べていた。それはアメリカ的消費社会を体現しているからだと解釈できよう。占領時の日本は第一次産業就業…

 3 アンドレ・シフレン『理想なき出版』

ジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』の原書『Embracing Defeat』は一九九九年にハードカバーとして出版され、翌年にペーパーバック化されている。私が入手したのは後者で、これはニュープレス社発行、ノートン出版社発売となっている。 " src="http://imag…

 2 太宰治とジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』

2001年に翻訳されたジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』(三浦陽一他訳、岩波書店)は「第二の敗戦」的状況の中で刊行されたこともあり、その出版は偶然のように思われなかった。そして戦後日本が敗者として始まったこと、占領が現在まで続いている実態を…

1 堤清二、渥美俊一、藤田田

「辻井喬+堤清二回顧録」である『叙情と闘争』(中央公論新社)を、戦後の消費社会のキーパーソンの記録として読んでいくと、そこに渥美俊一と藤田田についての知らなかった事実が述べられていたので、驚いてしまった。 渥美は読売新聞の経済記者を経て、チ…