出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル131(2019年3月1日~3月31日)

 19年2月の書籍雑誌推定販売金額は1221億円で、前年比3.2%減。
 書籍は737億円で、同4.6%減。
 雑誌は473億円で、同0.9%減。その内訳は月刊誌が389億円で、同0.3%減、週刊誌は84億円で、同3.6%減。
 雑誌のマイナスが小幅なのは、前年同月が16.3%という激減の影響と返品減少で、ムックとコミックスの返品の改善によるものである。
 その返品率は書籍が33.2%、雑誌は41.5%で、月刊誌は41.6%、週刊誌は41.0%。
 雑誌の返品率は16年41.4%、17年43.7%、18年同じく43.7%と、続けて40%を超え、19年も同様であろう。
 3月は第1四半期と取次の決算などが重なり、どのような影響を及ぼしていくのだろうか。


1.日販は10月1日付で持株会社体制に移行すると発表。
 4月1日付で子会社を新設し、子会社管理、及び不動産管理以外のすべての事業を簡易吸収分割により継承する。
 その「10月1日以降のグループ体制の概要(予定)」を示す。

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『新文化』 (2/21)

 つまり日販の新体制において、持株会社は新お茶の水ビルなどの資産を保存し、グループの経営に特化する。グループは「取次」「小売」「海外」「雑貨」「コンテンツ」「エンタメ」「その他」「グループIT」「シェアードサービス」の9事業に分かれ、それぞれに子会社が配置されることになる。
 「取次事業」は新設の日販を始めとして、出版共同流通などの物流子会社、文具卸の中三エス・ティ、TSUTAYA卸のMPDなどから構成される。
 「小売事業」は中間持株会社NICリテールズに6法人、273店の書店が入る。折しもクロス・ポイントはファミリーマートとの一体型店舗「ファミリーマートクロスブックス我孫子店」を開店。同店は旧東武ブックス我孫子店で、1階がCVS、2階が書店。NICリテールズとしては2店目で、CVSとの融合を加速させていくようだ。
 「海外事業」は台湾での日本出版物の卸の日盛図書有限公司、中国で日本出版物の翻訳出版に携わる北京書錦縁諮詢有限公司。
 「雑貨事業」はダルトン、「コンテンツ事業」はコミックや小説の電子書籍を発行するファンギルド。
 「その他事業」のASHIKARIはブックホテル「箱根本箱」を経営、日本緑化計画はそら植物園との合弁会社、蓮田ロジスティクスセンターは倉庫会社。
 「エンタメ事業」と「シェアードサービス」は10月以降の将来構想とされる。

 前回の本クロニクルで、トーハンの「機構改革」と月刊広報誌『書店経営』の休刊にふれ、「ポスト書店を迎える中での取次のサバイバルの行方」を象徴していると既述しておいたが、日販の持株会社体制移行もまた同様だと見なすしかない。本クロニクル119などで、「日販非常事態宣言」に言及してきたが、その1年後の動向となる。
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2.トーハンは岐阜・多治見市のアクトスとフランチャイズ契約を締結し、フィットネスビジネス運営事業に参入。
 アクトスは1998年に設立され、フィットネスクラブなどを全国90店舗展開している。トーハンは「スポーツクラブアクトスwill-G」の屋号で、文真堂書店ゲオ小桑原店の2階に開店し、群馬県高崎市、埼玉県熊谷市にも新規出店。

 これはポストDVDレンタルの行方のほうを伝えてもので、この3店がそれなりに好調であれば、トーハン傘下の書店に続けて導入されていくだろう。
 だが2月の書店閉店状況を見てみると58店で、大型店の閉店が増えている。これらは日販だが、フタバ図書GIGA福大前店は700坪、同高陽店は600坪、TSUTAYA天神駅前福岡ビル店は710坪である。

 新規事業の導入にしても、大型店の場合は家賃コストとテナント料の問題もあり、すべての店舗に可能だとはいえない。それらのことを考えれば、これからも大型店の閉店は続いていくはずだ。それからTSUTAYAの6店に加え、チェーン店の未来屋が2店、宮脇書店も3店が閉店している。これらも気にかかるところだ。
 また東海地方のカルコスチェーンが、日販からトーハンへ帳合変更。



3.取協は4月1日から中国、九州地方で、雑誌や書籍の店頭発売が1日遅れになると発表。
 これは中国、九州地方への輸送を受け持っている各運送会社からの要請を受けたものである。現行のトラック幹線輸送が運行や労務管理上、法令違犯の状態にあり、出版社からの商品搬入日や発売日を含む輸送スケジュールの見直しが、法令順守やコストの点からも迫られていたからだ。

 本クロニクル127などで、出版輸送問題に関して、出版輸送事業者の現状からすると、もはやコストも含め、負担も限界を超え、明日にでも出版輸送が止まってしまってもおかしくない状況にあることを伝えてきた。
 今回の中国、九州地方での発売の遅れは、その一端が現実化してしまったことを告げている、しかもそれで問題解決とはならないのである。それから最も気になるのは、これがさらなる中国、九州地方での雑誌離れにつながり、dマガジンなどの電子雑誌への移行を促すのではないかということだ。
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4.『ニューズウィーク日本版』(3/5)が特集「アマゾン・エフェクト」を組んでいる。
 その巻頭に「誰もがアマゾンから逃れられない」を寄せているビジネスライターのダニエル・グロスは、「今も広がり続けるアマゾン・エフェクトの脅威、生活を支配する怪物企業は世界の破壊者か変革者か」と問い、急成長を続けるアマゾンの現在を次のように描いている。

ニューズウィーク日本版

 アマゾンが扱う品目は2000万点を超える。しかも物流(専用の貨物機と倉庫網を運用する)や食品販売(自然食品チェーンのホール・フーズ・マーケットを買収した)、映像コンテンツ(動画配信のプライム・ビデオ)、クラウドホスティング(アマゾンウェブサービス、略称AWS)、そしてゲームの世界(動画共有サービスのツィッチ)でも巨大な存在だ。(中略)
 その急成長を物語る数字には唖然とする。見たことがないような急速かつ多角的な事業拡大だ。18年度の総売り上げは2329億ドルで、前年度の1780億ドルから30%増。100億ドルという前代未聞の営業利益も記録した。(中略)事業の多角化が奏功し、今や売り上げの半分近くはネット通販以外で稼いでいる。
 この四半世紀にわたる躍進で、今では誰もがアマゾン・エフェクト(アマゾン効果)―アマゾンの急成長と多角化がもたらす影響、市場の混乱や変革を指す―を感じている。
 アマゾンは消費者を囲い込み、注目と忠誠と出費を促す。そのために提供するのは利便性、価値、そして商品とサービスの拡充だ。人々はアマゾンを身内のように信頼し、自宅に招き入れる。使い勝手の良さで関係が深まれば、もう他社は割り込めない。


 このようなアマゾンの急成長の背後には、「リテールズ・アポリカス(小売店)の残骸」が散らばり、それらも具体的に写真に示される。
 書店チェーンのボーダーズの経営破綻、バーンズ&ノーブルの店舗の減少、玩具チェーンのトイザらス、家電販売大手のラジオジャック、靴の安売りのペイレス・シューソース、通販のシアーズの経営破綻、これにショッピングモールも続いている。
 そしてフォトジャーナリストのセフ・ローレンスの「アマゾン時代の“墓場”を歩く」という「フォトエッセイ」には、それらのショッピングモールの廃墟が映し出されていく。

 私もロメロの映画『ゾンビ』を論じて、「やがて哀しきショッピングセンター」(『郊外の果てへの旅/混住社会論』所収)なる一文を書いているが、それらの写真はもはやゾンビも出没しないであろう何もない無残な姿を浮かび上がらせている。
 日本ではまだここまでの、「リテールズ・アポリカス」は出現していないと思われるが、書店状況を考えれば、その日も近づいているのかもしれない。
 なおこの特集は18ページに及ぶものなので、実際に読むことをお勧めする。
ゾンビ 郊外の果てへの旅(『郊外の果てへの旅/混住社会論』)



5.『出版ニュース』(3/下)に緑風出版の高須次郎が「アマゾンの『買い切り・時限再販』宣言に出版社はどう対応すべきか」を寄稿している。それを要約してみる。

郊外の果てへの旅

* 再販制下にあって、アマゾンが出版社との直接取引で、「買い切り」を条件とし、売れ残りを時限再販するというのは、越権行為に他ならず、時限再販をする、しないは出版社の専横事項に属する。
* 時限再販や部分再版については取引条件交渉のらち外の問題で、アマゾンから要求を持ち出すこと自体が、出版社の自由意思を妨げる行為、すなわち現行再販制度の任意再販、単独実施の原則に反する行為である。
* それにこれを日本最大の小売書店といえるアマゾンが要求することは圧力であり、事実上の強要である。出版社はアマゾンとの交渉内容を記録し、不公正な取引方法、優越的地位の乱用で公取委に訴えるなどの断固たる対応が必要である。
* アマゾンの要求に屈して、出版社が「買い切り・時限再販」を呑んでしまえば、出版社は完全にダブルスタンダードとなり、アマゾンでは買い切り・時限再販、一般書店では従来通りの返品条件付き委託の定価販売を求めることになり、現行再販制度上できる話ではない。
* 出版社の正当な権利も行使せず、アマゾンの要求を呑めば、次には完全な部分再版=自由価格取引を要求されることになり、出版界は自ら崩壊への道をたどっていくだろう。


 これはアマゾンと取引していない緑風出版の経営者の立場だからいえることで、直接取引している2942社は千々に乱れている状況にあると推測される。
 現在の出版危機下にあって、アマゾンとの直接取引によってサバイバルしている中小出版社も多いからだ。
 それに再販制に関する視座として、高須と私は異なっているので、いずれあらためて再販制の起源と歴史、その功罪をめぐって意見を交わしたいと思う。



6.5と同じ『出版ニュース』の最終号の伊藤暢章「海外出版レポート・ドイツ」が「大手取次店の倒産の影響」を伝えている。
 2月14日にドイツの大手取次KNV(コッホ、ネフ&フォルクマール有限会社)が突然、倒産申請し、出版業界を震撼させ、様々な論議を呼んでいる。
 KNVは1829年にライプツィヒで書籍の委託販売業を創業したことから始まり、それがドイツの書籍取次店の淵源であった。そして時代の変遷とともに、いくつもの同業他社の吸収合併、グループ化などがあり、大取次の地位を占めることになった。
 現在のKNVは5600の書店に納本し、その内訳はドイツが4200店、オーストリアとスイスが800店、その他の国が600店、また70ヵ国以上に輸出している。
 KNVは5000社以上の出版社の50万点の書籍を常備し、ニューメディアも6万3000点以上、ゲームなども1万6000点を扱い、「KNV書店輸送サーヴィス」という独自の配送システムを有し、全商品が翌日に販売拠点に配達されるという。
 倒産の原因は赤字の累積に加えて、広大なロジステックセンターの新設という設備投資の失敗によるもので、複雑ではあるけれど、書籍市場そのものになく、いわばKNV「自家製」の危機とされている。そのために出版社も書店も全面支援体制を組み、KNVをつぶしてはならないということで、援助策が打ち出されているようだ。

 ただそうはいっても、KNVの場合もアマゾンの影響がまったくないとは言い切れないだろう。このKNVのその後の行方もたどりたいが、『出版ニュース』は最終号なので、もはやそれもかなわない。その後『文化通信』(3/25)でも報じられている。
 本クロニクルとしては「海外レポート」を最も愛読、参照してきたので、これが終わってしまうのはとても残念だ。といって、各国の出版情報誌を講読する気にはならないし、日本だけのことに専念することにしよう。
 そういえば、かつて「ドイツの出版社と書店」(『ヨーロッパ 本と書店の物語』所収、平凡社新書)を書いたことがあった。新書なので、よろしければ参照されたい。
ヨーロッパ 本と書店の物語



7.『DAYS JAPAN』(3、4月号)も届いた。
 やはり最終号なので、『出版ニュース』に続けて取り上げておこう。
 この最終号は第一部「広河隆一性暴力報道を受けて検証委員会報告」、第二部「林美子責任編集による特集「性暴力をどう考えるか、連鎖を止めるために」で、前者は14ページ、後者は実質的に26ページの構成となっている。

DAYS JAPAN

 この構成からわかるように、「広河隆一性暴力報道」は十分に「検証」されているとはいえず、斎藤美奈子がラストページに書いているように、「広河事件の背後に見えるもうひとつの闇」を浮かび上がらせているような印象をもたらしてしまう。
 戦前の出版史に伴う文学、思想史をたどっていると、女性に関して白樺派は女中、左翼はハウスキーパー、京都学派は祇園ではないかとの思いを抱かされる。それが戦後も出版業界で同様に続いていて、広河事件はそれをあからさまに露出してしまったことになる。
 ただ私としては、セクハラもパワハラも無縁だと自覚しているが、『リブロが本屋であったころ』の中村文孝からは「出版業界にいるだけでパワハラだ」といわれているので、自戒しなければならないと思う。
DAYS JAPAN



8.『日経MJ』(3/15)が「ビッグ・バッド・ウルフ」というブックフェアを紹介している。
 これは洋書中心のブックフェアで、欧米で在庫処分となった洋書を大量調達し、定価の5~9割引という格安価格で売りさばくのが特徴で、期間限定だが、24時間営業である。
 同記事はミャンマーのヤンゴンでのブックフェアを伝え、11日間の営業中の来場者は15万人、在庫数は合計100萬冊に達し、ヤンゴンの書店にはその1%の在庫すらもないので、5冊、10冊のまとめ買いは当たり前とされる。
 ブックフェアはマレーシアから始まり、アジア8ヵ国、地域に広がっている。これはマレーシアのクアラルンプールの郊外の書店の若きオーナー夫妻が始めたもので、「赤ずきん」などに登場する「大きな悪いオオカミ」から命名され、子どもたちにこそ読書に親しんでほしいという思いがこめられているという。

 このブックフェアがのアマゾンの動向とリンクしているのかは詳らかにしないが、10年目を迎え、世界最大の洋書フェアと謳われるブックフェア「ビッグ・バッド・ウルフ」のことは初めて目にするし、どこにもレポートされていないと思えるので、ここで紹介してみた。



9.『出版月報』(2月号)が特集「紙&電子コミック市場2018」を組んでいる。
 18年のコミック市場全体の販売金額は4414億円、前年比1.9%増。
 その内訳は紙のコミックスが1588億円、同4.7%減、紙のコミック誌が824億円、同0.1%減。
 電子コミックスは1965億円、同14.8%増、電子コミック誌は37億円、同2.8%増。
 そのうちの「コミック市場(紙+電子)販売金額推移」と「コミックス・コミック誌推定販売金額」を示す。

■コミック市場全体(紙版&電子)販売金額推移(単位:億円)
電子合計
コミックスコミック誌小計コミックスコミック誌小計
20142,2561,3133,56988258874,456
20152,1021,1663,2681,149201,1694,437
20161,9471,0162,9631,460311,4914,454
20171,6669172,5831,711361,7474,330
20181,5888242,4121,965372,0024,414
前年比(%)95.389.993.4114.8102.8114.6101.9


■コミックス・コミック誌の推定販売金額(単位:億円)
コミックス前年比(%)コミック誌前年比(%)コミックス
コミック誌合計
前年比(%)出版総売上に
占めるコミックの
シェア
(%)
19972,421▲4.5%3,279▲1.0%5,700▲2.5%21.6%
19982,4732.1%3,207▲2.2%5,680▲0.4%22.3%
19992,302▲7.0%3,041▲5.2%5,343▲5.9%21.8%
20002,3723.0%2,861▲5.9%5,233▲2.1%21.8%
20012,4804.6%2,837▲0.8%5,3171.6%22.9%
20022,4820.1%2,748▲3.1%5,230▲1.6%22.6%
20032,5492.7%2,611▲5.0%5,160▲1.3%23.2%
20042,498▲2.0%2,549▲2.4%5,047▲2.2%22.5%
20052,6024.2%2,421▲5.0%5,023▲0.5%22.8%
20062,533▲2.7%2,277▲5.9%4,810▲4.2%22.4%
20072,495▲1.5%2,204▲3.2%4,699▲2.3%22.5%
20082,372▲4.9%2,111▲4.2%4,483▲4.6%22.2%
20092,274▲4.1%1,913▲9.4%4,187▲6.6%21.6%
20102,3151.8%1,776▲7.2%4,091▲2.3%21.8%
20112,253▲2.7%1,650▲7.1%3,903▲4.6%21.6%
20122,202▲2.3%1,564▲5.2%3,766▲3.5%21.6%
20132,2311.3%1,438▲8.0%3,669▲2.6%21.8%
20142,2561.1%1,313▲8.7%3,569▲2.7%22.2%
20152,102▲6.8%1,166▲11.2%3,268▲8.4%21.5%
20161,947▲7.4%1,016▲12.9%2,963▲9.3%20.1%
20171,666▲14.4%917▲9.7%2,583▲12.8%18.9%
20181,588▲4.7%824▲10.1%2,412▲6.6%18.7%

 16年までのコミック市場全体の販売金額は4400億円台で推移し、17年は4300億円と前年マイナスになっていたが、18年はプラスとなった。しかしこれは『出版月報』でもリストアップされているように、紙の大手コミックレーベルの価格値上げの影響が大きい。
 電子コミック市場は初めて2000億円を超えたけれど、1965億円という電子コミックスの伸びによるもので、これは海賊版サイト「漫画村」の閉鎖とリンクしている。
 それらを考えると、コミック市場全体が回復しつつあるとの判断は留保すべきだろう。それに1997年は紙のコミックス、コミック誌だけで、5700億円を販売していたのであり、2018年はそれが半減以下の2412億円まで落ち込んでしまっている。このマイナスはまだ続いていくだろうし、電子コミックスはまだ伸びていくにしても、この5年間のコミック市場全体の販売金額の推移からすれば、4300から4400億円台を上回る成長は期待できないように思われる。

 それから最も留意すべきはコミック誌の販売金額で、17年に1000億円を割りこみ、917億円だったのが、さらに93億円のマイナスで、824億円となってしまったのである。19年は確実に700億円台になるだろう。1997年には3279億円だったから、5分の1の販売金額で、コミック誌の終わりの時代を象徴しているかのようだ。

 またこれは本クロニクル119でも書いておいたが、電子コミックス市場にしても、紙のコミックス市場がそうであるように、あくまで紙のコミックス誌が母胎となって形成されている。その母体であるコミックス誌の凋落は確実に電子コミックス市場へとも反映されていくだろう。
 海賊版サイトが閉鎖されても、旧作の電子コミックス化が一巡してしまえば、それほどの成長を期待することはできないのではないだろうか。



10.講談社の決算が出された。
 売上高は1204億円、前年比2.1%増、当期純利益は28億円、同63.6%増。
 その内訳は雑誌509億円、同8.9%減、書籍は160億円、同9.4%減。広告収入50億円、同8.6%増、事業収入443億円、同24.1%増。
 事業収入のデジタル関連収入は334億円、同33.9%増、そのうちの電子書籍売上は315億円、同44.1%増、国内版権収入は60億円、同5.2%減、海外版権収入は47億円、同9.3%増。

 雑誌と書籍のマイナスを電子書籍などの事業収入でカバーし、3年連続の増収となった。
 それはで既述したコミックの定価値上げ、海賊版サイトの閉鎖も作用しているはずだ。
 これも本クロニクル118で、講談社は出版社・取次・書店という近代出版流通システムからのテイクオフをめざしているのではないかとの推測を述べておいたが、19年のアマゾンとの取引はどうなるのか、それを注視すべきだろう。
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11.文化庁の著作権侵害物の全面的なダウンロードを違法化の提出は、今国会では見送りとなった。

 これは前回の本クロニクルでもふれているが、2月27日に日本漫画家協会に加入する1600人の漫画家たちの異議申し立てが大きな力となったようだ。
 日本漫画家協会理事長、里中満智子へのインタビューが『朝日新聞』(3/13)にも掲載され、それらの事情、漫画家としての立場が語られている。
 やはり問題なのは「著作権者である私たち漫画家が知らない間に話が進んでいて」、漫画家は政府や文化庁から意見を聞かれることもなく、出版社からも説明や経過報告を受けていないことだ。つまり肝心な当事者に説明責任を果たすことなく、万事が進められていたのだ。
 里中も海賊版には悩んでいるけれど、「現案では、漫画を護るゆえに一般の方が不自由になってしまうのはかえって不本意です」と述べている。まさに正論というべきであろう。



12.地球丸が破産手続き。
 同社はアウトドア専門誌出版社で、ルアー&フライフィッシング雑誌『Rod and Reel』などを出していた。
 負債は7億1700万円。
Rod and Reel

13.医薬ジャーナル社倒産。
 同社は1965年設立で、『医薬ジャーナル』などの5点の月刊誌の他に、医学専門書を出版し、大手製薬会社、病院、薬局などを定期購読者としていた。
 負債は3億8800万円。

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 本クロニクルでも趣味の雑誌の世界の解体にふれてきているが、12の地球丸の破産も、その具体的な一例となろう。
 13の医薬ジャーナル社の倒産は、事情通によれば、これから起きるであろう医学書出版社の危機の前ぶれであるとのことだ。
 その他にも数社の破綻が伝えられているが、複数の確認がとれていないので、今回は書かない。



14.大修館書店の関連会社大修館A.S.が、ゆまに書房の全株式を取得し、グループ会社化。
 大修館の鈴木一行社長が、ゆまに書房代表取締役社長に、ゆまに書房の荒井秀夫社長が代表取締役会長に就任。
 社員19人の継続雇用と、当面の間の取引先変更はなく、編集、営業、物流、制作面でのシナジー効果を高めたいと説明されている。

 私は ゆまに書房の『編年体大正文学全集』を所持していることもあって、ゆまに書房が大修館と一緒になって、文芸書における新たな企画と分野に進出してほしいと思う。
 これは知らなかったけれど、ゆまに書房は1975年創業で、大学市場に強く、千代田区の本社、茨城の杜やロジスティックスセンターも自社物件であるという。それに加えて今回の決定は後継者問題ゆえだとされている。
編年体大正文学全集



15.釧路市の絵本と童話の専門店、プー横丁が閉店。
 そのプロフィールは次のようなものだった。

 「おとなとこどものプー横丁」
 本好きが高じてなってしまった絵本と童話の店。読み聞かせが好きで小さい人が来てくれたら読まずにいられない。その為か個人の文庫か私設の図書館みたいな所、と勘違いされる時もあるが、れっきとした読み・売り本屋です。


 夏の閉店を前倒しして、3月いっぱいで閉店となったようで、やはりいろいろな事情が絡んでいるのだろう。
 本クロニクル115でも名古屋のメルヘンハウスの閉店を取り上げているけれど、児童書専門店は1980年代から90年代にかけて、ブームの感すらもあったけれど、現在はどうなっているのだろうか。
odamitsuo.hatenablog.com



16.産業編集センター編著『本をつくる―赤々舎の12年』を読了。

本をつくる―赤々舎の12年

 これはサブタイトルに「赤々舎の12年」とあるように、京都のアートブック、写真集専門出版社といっていい赤々舎の創業者姫野希美へのインタビュー、及び170冊の写真集などの書影も添えた、赤々舎の歴史と出版目録を兼ねた一冊である。
 12年間でこれほど多くの写真集を刊行し、そのうちの10冊近くが木村伊兵衛写真賞を受賞しているのは驚くしかない。それらを挙げてみれば、岡田敦『I am』、志賀理江子『CANARY』、浅田政志『浅田家』などだ。
 だがかつて写真集は返品されるとダメージが大きく、採算などが難しいとされていた。現在ではそのような問題はクリアーされたのであろうか。それらも含めて、姫野に会う機会があったら、そっと経営の秘訣を教えてもらいたいと思う。
I am CANARY 浅田家



17.安田浩一×倉橋耕平の対談集『歪む社会』(論創社)を読み終えた。

I am

 これは論創社から献本され、読んだのだが、思いもかけずにこの一冊が歴史修正主義、ヘイト本、ネット右翼、新自由主義の出版史に他ならないことに気づいた。
 そうした意味において、『歪む社会』は現代出版史としても読めるし、広く推奨する次第である。



18.宮田昇が90歳で亡くなった。

 宮田は早川書房や日本ユニエージェンシーなどを経て、出版太郎名義の『朱筆』全2冊(みすず書房)から、『出版状況クロニクルⅤ』で紹介しておいた近著『昭和の翻訳出版事件簿』(創元社)までを著わしている。それらは宮田でしか書けなかった戦後の出版と翻訳史であり、出版界はかけがえのない証言者を失ってしまったことになる。
 謹んでご冥福を祈る。
朱筆  昭和の翻訳出版事件簿



19.今月の論創社HP「本を読む」㊳は「新人物往来社『怪奇幻想の文学』と『オトラント城綺譚』」です。

出版状況クロニクル130(2019年2月1日~2月28日)

 19年1月の書籍雑誌推定販売金額は871億円で、前年比6.3%減。
 書籍は492億円で、同4.8%減。
 雑誌は378億円で、同8.2%減。その内訳は月刊誌が297億円で、同7.6%減、週刊誌は81億円で、同10.2%減。
 18年12月の、2年1ヵ月ぶりのプラスである同1.8%増の反動のように、19年1月は17年の6.9%、18年の5.7%という通年マイナスの数字へと逆戻りするスタートとなってしまった。
 返品率は書籍が35.6%、雑誌は47.4%で、月刊誌が49.3%、週刊誌は39.3%。
 雑誌の返品率は18年5月の48.6%に次ぐもので、月刊誌のほうはコミックの販売金額7%増がなかったならば、50%を超えていたであろう。
 またそれに週刊誌の落ち込を重ねると、19年も雑誌の凋落が続いていくことは確実で、かつてない書店市場の激減に立ち合うことになるとも考えられる。
 そのようにして、19年が始まっているのである。


1.出版科学研究所による18年度の電子出版市場販売金額を示す。

■電子出版市場規模(単位:億円)
20142015201620172018前年比
(%)
電子コミック8821,1491,4601,7111,965114.8
電子書籍192228258290321110.7
電子雑誌7012519121419390.2
合計1,1441,5021,9092,2152,479111.9

 18年度の電子出版市場規模は2479億円で、前年比11.9%増。
 それらの内訳は電子コミックが1965億円、前年比14.8%増で、その占有率は79.3%に及び、来年は確実に売上とシェアは2000億円、80%を超えるであろう。
 それに対して、電子雑誌は193億円、前年比9.8%減で、200億円を割り、シェアは7.8%となった。
 要するに日本の電子出版市場は電子コミック市場と見なしていいし、電子雑誌は初めてのマイナスで、「dマガジン」の会員数が2年連続して減少したことが影響している。それらを考えれば、電子出版市場の成長もあと数年しか続かないかもしれない。
 18年の紙と電子を合わせた出版市場は1兆5400億円で、前年比3.2%減、電子出版市場の成長が止まれば、合体の出版物市場もさらなるマイナスへと追いやられていくだろう。



2.アルメディアによる18年の書店出店・閉店数が出された。

■2018年 年間出店・閉店状況(面積:坪)
◆新規店◆閉店
店数総面積平均面積店数総面積平均面積
11300300726,41490
2428471818,412106
3142,940210937,32982
4163,292206383,08593
51120120545,15999
671,259180473,45280
7102,118212595,948106
81107107555,876109
981,757220444,804117
104582146402,96774
11113,777343421,97952
1273,696528391,82952
合計8420,23224166457,25491
前年実績16534,69221065861,793101
増減率(%)▲49.1▲41.714.60.9▲7.3▲10.3

 出店84店に対して、閉店は664店である。
 17年の出店は165店だったから、ほぼ半減となり、閉店は高止まりの横ばいだったので、実質的に書店坪数は3万7000坪の減少となった。
 本クロニクル118において、13年から続いてきた出店と閉店のフラットな数字の反復は、18年に入ると疑わしいと既述したが、ついに出店は100店を割りこむ段階に入り、それでいて閉店は変わらず続いているという最悪の書店状況を迎えている。
 しかもそれが19年も続いていくだろうし、そうしたプロセスに立ち会うことになる取次は、どのような事態に追いやられていくのだろうか。
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3.2と同じく、アルメディアによる取次別新規書店数と新規書店売場面積上位店を示す。

■2018年 取次別新規書店数 (面積:坪、占有率:%)
取次会社カウント増減(%)出店面積増減(%)平均面積増減(%)占有率増減
(ポイント)
日販48▲41.515,790▲26.532925.678.016.1
トーハン26▲65.33,722▲68.8143▲10.118.4▲15.9
大阪屋栗田4▲20.0528▲56.4132▲45.52.6▲0.9
中央社3200.010088.733▲37.70.50.3
その他350.092178.83182.40.0▲0.1
合計84▲49.120,232▲41.724114.8100.0
                           (カウント:売場面積を公表した書店数)


■2018年 新規店売場面積上位店
順位 店名所在地
1江別 蔦屋書店江別市
2高知 蔦屋書店高知市
3蔦屋書店龍ヶ崎店龍ヶ崎市
4フタバ図書ジアウトレット広島店広島市
5TSUTAYA BOOK STORE岡山駅前店岡山市
6TSUTAYA東福原店米子市
7ブックスミスミ日向店日向市
8TSUTAYA BOOK STORE Oh!Me大津テラス店大津市
9TSUTAYA大崎古川店大崎市
10ブックス・モア本荘店由利本荘市

 取次別の新規書店数を見ると、日販が48店、1万5790坪に及び、全体の半分以上を占め、売場面積シェアも78%に達している。
 しかも売場面積上位店からわかるように、大半がTSUTAYAの大型店であり、これも本クロニクル116で指摘してきたように、16年から続いていて、異常な出店状況だというしかない。
 しかしこのような出版状況が19年も続いていくとは考えられない。それを支えてきた日販の体力が落ちこんできているのは明らかだし、MPDにしても、それは同様である。すでに今期決算も近づいているし、文教堂問題も予断を許さない状況下に置かれている。取次にとっては薄氷を踏むような事態の中にあると推測される。
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4.19年1月のTSUTAYAの閉店と坪数を挙げておく。

■2019年1月TSUTAYA閉店名と売場面積
店名売場面積(坪)
フジワTSUTAYA国分店120
TSUTAYA高須店170
TSUTAYA府中駅前店280
蔦屋フジグラン四万十270
TSUTAYA JR野田店240
TSUTAYA砥部店280
TSUTAYA上尾原市店280
TSUTAYAフジグラン十川店200
TSUTAYA宇都宮鶴田店270
TSUTAYA仁戸名店400
TSUTAYA祖師谷大蔵店166
TSUTAYA上尾駅前店240

 1月の閉店数は83店で、そのうちの12店がTSUTAYAと蔦屋で占められているわけだから、でふれた出店の異常さは、閉店も同様であることをあからさまに伝えていよう。
 前回の本クロニクルで、18年の81店というTSUTAYAの全国的な大量閉店にふれ、さらに19年が大型店も含め、それ以上の本格的な閉店ラッシュに見舞われるのではないかと予測しておいた。何とすでに1月だけで、2916坪のマイナスが生じたのである。それはの売場面積上位3店の合計売場面積に相当するものだ。
 この1月のTSUTAYA閉店状況を見ると、まさにそのように進んでいくと考えるしかない。



5.『朝日新聞』(2/4)が各社の「ポイントカードなど個人情報を扱う各社の対応例」表を添え、CCCの「Tカード」が会員の知らないままに個人情報を捜査当局に任意提供していたことに言及している。

 おそらくTSUTAYAの大量閉店も「Tカード」の行方とリンクしているのだろうし、それは本クロニクル128でもふれたばかりだ。ファミリーマートのTポイント離脱に、ドトールも続いている。
 その他にも動画配信サービス「TSUTAYA TV」の全作品見放題宣伝は虚偽で、景品表示法違反に当たるとして、消費者庁はTSUTAYAに課徴金1億円の納付命令を出している。
 また一方で、ネット証券のSBI証券がTポイントで株式投資ができるSBIネオモバイバル証券を、CCCグループと資本業務提携して設立。早期に50万口座の獲得をめざすという。これらに関してはいずれ『FACTA』などが内幕をレポートしてくれるだろう。
 なお本クロニクル121でもCCCによるフェイスブックへの個人情報の提供などに言及しているので、ツタヤ図書館との関係もあり、ぜひ参照してほしい。
 それから『出版ニュース』(2/下)にも田井郁久雄「マスコミの図書館報道を検証する」が掲載されていることを付記しておく。

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6.もう少し4の1月の書店閉店に関して続けてみる。
 TSUTAYA以外に、複数の閉店がある書店とその数を示す。
 天牛堺書店11、ヴィレヴァン4、宮脇書店3、文教堂2、WonderGOO 2、福家書店2、夢屋書店2となっている。

 天牛堺書店と福家書店は本クロニクル129,128でレポートしておいたように、破産に伴う閉店、ヴィレヴァンも18年に続く閉店ラッシュ、宮脇書店はフランチャイズシステムの限界、文教堂はこれも前回の本クロニクルでふれたとおりの延長線上にある。
 だがWonderGOO の場合は本クロニクル127などで取り上げてきたように、少し入り組んでいて、これもTSUTAYAのFCだから、その閉店と関係があるだろうし、親会社のRIZAPの動向も反映されていよう。
 後者については『週刊東洋経済』(2/2)が深層レポート「RIZAP役員大幅削減の真相」を掲載している。それによれば、ワンダーコーポレーションの内藤雅也会長兼社長は元大創専務だが、「ワンダーを本格的にこう変えていこうというビジョンも戦略」もなく、「経営者としての資質には疑問符がつく」とされている。赤字とはいえ、ワンダーは売上高700億円に及び、RIZAP中核企業で、再建の失敗は許されない状況にあることは間違いない。
 書店閉店状況は、より深刻化する出版危機を照らし出す鏡のようにして、出版業界の現在を虚飾なく映し出しているといえよう。
週刊東洋経済

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7.トーハンの「機構改革」「役員人事」「人事異動」の「お知らせ」が届いた。

 「機構改革」や「役員人事」からうかがえるのは、明らかにポスト書店を迎える中での取次のサバイバルの行方ということになるだろう。書店と出版物販売に関してはリストラ、不動産事業とそれにまつわる新たな業態の開発などに向っていることが伝わってくる。
 そのことを象徴するかのように、トーハンの月刊広報誌『書店経営』が3月で休刊となる。これは1957年に創刊され、747号まで出されてきたのだが、その廃刊はかつての「書店経営」という言葉が死語となってしまった時代を迎えたことをも意味していよう。

 そのかたわらで、トーハンは中小出版社に対し、2月後半の新刊配本が3月にずれこむと通達してきた。これはまったく報道されていないし、また文書によるものではないこともあり、大手出版社の書籍に関しても同様なのか、確認ができていない。
 しかしこのような処置が全出版社に対して行なわれているようであれば、大手出版社、老舗出版社こそ資金繰りの問題に直面することになろう。いってみれば、様々な原因は考えられるにしても、大手取次による新刊配本のデフォルトであり、これからも反復されていくのではないだろうか。



8.アマゾンは買切取引を始めると発表。
 現在の返品率は既刊が3%だが、新刊は20%に達しているので、買切によって返品率低下をめざす。
 書籍、雑誌、コミックの全分野に及ぶ。
 商品選定は出版社との話し合いにより、在庫過多になった場合、出版社と協議し、ケースバイケースで対処する。買切仕入れ条件や時限再販も同様で、一律の条件設定はしない。

 しかしこのアマゾンの買切仕入れには疑念がつきまとう。確かに既刊本に関しては販売データの蓄積により可能かもしれないが、新刊については難しいのではないか。AIによる自動発注のテスト運用を開始し、返品率を改善するとの言は鵜呑みにはできない。
 現在のアマゾンの新刊返品率は50%を超えるものもかなりあり、仕入れの難しさは明らかである。自店の売れ行き動向をつかんでいる書店にしても、適正な新刊仕入れは困難であり、それがAIによって可能になるとは思われないからだ。
 現在のアマゾンの直取引出版社数は2942社、その取引率は取次ルートを越える56%に達しているとされるが、それこそ各出版社が「ケースバイケース」で判断していくしかないだろう。



9.持ち株会社カドカワの川上量生社長がドワンゴの動画配信サービス「niconico」の業績不振のため引責辞任し、ドワンゴはKADOKAWAの子会社となる。
 カドカワの第3四半期連結業績は売上高1521億円で増収増益だったが、ドワンゴの固定資産減損損失を計上したことで、純損失21億6900万円。
 新社長には松原眞樹代表取締役専務が就任。
 これらに関しては『週刊ダイヤモンド』(2/9)が「財務で会社を読む」で「カドカワ」に言及し、さらなるリスクとしての「所沢プロジェクト」にもふれている。

 本クロニクル126で、カドカワの川上社長がブロッキングの導入推進派の急先鋒で、カドカワの角川歴彦会長は「ブロッキングに反対」とのコントラストを紹介しておいたばかりだ。
 川上の立場もそのようなドワンゴ動画配信サービス状況、及び角川会長との意思の相違も影響しているのかもしれない。
 動画サイトという新しいメディア企業にしても、様々な思惑が犇き合っているのであろう。
週刊ダイヤモンド
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10.大阪地裁は海賊版リーチサイト「はるか夢の址」を運営する主犯格の3人に、それぞれ懲役3年6ヵ月から2年4ヵ月に及ぶ執行猶予がつかない実刑判決を下した。

 前回の本クロニクルで、海賊版サイトを強制的に止めるブロッキング法制化が事実上棚上げになったことを既述しておいた。その一方で、文化庁が海賊版ダウンロードの違法範囲をネット上のすべてのコンテンツに広げ、国会への著作権法開催案の提出を目論んでいることも。
 それを文化審議会著作権文化会が了承し、通常国会に提出することが明らかになった。これは権利者の許可なくインターネット上に挙げられているコミック、写真、論文などのあらゆるコンテンツのダウンロードは全面的に違法とするもので、「はるか夢の址」の主犯3人の実刑判決もそのような流れの中で出されたように思われる。
 本クロニクルで繰り返し述べてきたが、東京オリンピックを目にしての、規制と管理によって、社会が包囲されていく兆候の表われと見なせよう。
 出版広報センターも2月21日付で、「今国会に提出される著作権法改正『リーチサイト規制』『ダウンロード違法化の対象範囲見直し』について」という声明を出している。



11.ベストセラーズの月刊男性ファッション誌『Men’s JOKER』が休刊。
 2004年創刊で、18年は7万部近くを保っていたが、発行部数と広告収入は減少していた。

Men’s JOKER


12.エムディエスコーポレーションのデザイン専門総合誌『MdN』休刊。
 1989年創刊で、18年12月号から隔月刊に移行したが、休刊になってしまった。

MdN

 それほどポピュラーでもないのに2つの休刊を記したのは、まず11の場合、本クロニクル118で記しておいたように、新たな経営者が株式を取得したことと関係しているのかもしれない。やはりM&Aされると、当初はともかく、出版内容は変わらざるを得ないようで、最近もM&Aされた人文書出版社がビジネスと自己啓発書の分野に方向転換し、既存在庫も最低ロットを残し、断裁されるという話を聞いたばかりだ。

 12に関しては月刊、隔月刊、休刊という流れゆえに取り上げたのである。実は大手出版社の雑誌も40誌ほどが刊行サイクルを減らしていて、その主なものを挙げてみる。
 文春の『オール読物』が年10回、マガジンハウスの『Hanako』が各週から月刊、講談社の『FRaU』、セブンアイ出版の『saita』がそれぞれ不定期刊となっている。

 もはや月刊誌というコンセプト自体が揺らいでいる。万年赤字に他ならない文芸誌『文学界』『新潮』『群像』などにしても、『オール読物』のような道筋をたどるのかもしれないし、それも遠からずやってくるだろう。
 雑誌といえば、『噂の真相』の岡留安則も死んだし、それはインディーズ雑誌に他ならなかったけれど、雑誌の終わりの時代を象徴しているようにも思える。


オール読物 Hanako FRaU saita 文学界 新潮 群像



13.村崎修三の『昭和懐古 想い出の少女雑誌物語』(発行 熊本出版文化会館 発売 創流出版 販売代行 武久出版)を読んだ。

 昭和懐古 想い出の少女雑誌物語

敗戦後のGHQ占領下を含め、二十年間の少女雑誌のカレードスコープ的物語が目前で展開されているような思いを味わった。
 塩澤実信『倶楽部楽雑誌探究』や植田康夫『「週刊読書人」と戦後知識人』(いずれも「出版人に聞く」シリーズで語られていた『ロマンス』や『銀の鈴』も取り上げられている。
 初見の雑誌が多く、それらが大半を占めていて、雑誌収集の奥深さとすごみを教えてくれるとともに、戦後に出現した少女雑誌物語があったことを実感させてくれる。
 私が愛読していた草の根出版会の『ママのバイオリン』『ユカをよぶ海』などが講談社の『少女クラブ』に連載されたことも教えられた。
 そしてあらためて、戦後は続いているはずだが、時代はまったく異なってしまったことも。「雑誌とともに去りぬ」というフレーズも思い浮かべてしまう。


倶楽部楽雑誌探究 『「週刊読書人」と戦後知識人』 ママのバイオリン ユカをよぶ海



14.そういえば、やはり亡くなった橋本治も少女漫画ファンであり、デビュー作の『桃尻娘』(講談社)にしても、それを抜きにしては語れないだろう。

桃尻娘 花咲く乙女たちのキンピラゴボウ

 実は「本を読む」で、いずれ橋本と北宋社のことを書くつもりでいたが、彼の存命中に間に合わなかったことが残念である。
 橋本は1980年代に北宋社から少女漫画論『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』全2冊を始めとして、合わせて6冊刊行している。
 まだそれほど売れてなかった橋本にとって、北宋社は「つなぎ」の役割を果たした小出版社であり、それは橋本だけでなく、その他にも何人もの著者を挙げることができる。いずれそれらのことを書いておきたい。
 それにつけても、北宋社の渡辺誠とはもう20年以上会っていない。お達者であろうか。



15.今月は岡留や橋本治に続いて、2人の出版人の訃報が届いた。
 それは春秋社の澤畑吉和と以文社の勝股光政である。

 澤畑とは長きにわたる付き合いで、最後に会ったのは彼が春秋社の社長に就任した頃だった。その時、会社を訪ねている。
 それから数年前に、私と論創社の森下紀夫、緑風出版の高須次郎が三島の畑毛温泉に行く際に、一緒にどうかと誘ったところ、行きたいのは山々だけれど、今回は遠慮するということで、会えずじまいになってしまった。
 今になってみれば、当時すでに病んでいたのではないかとも思う。また会おうといっているうちに、それが果たせず亡くなってしまった一人に澤畑も加わっている。心からご冥福を祈る。
 以文社の勝股は理想社や筑摩書房を経て、以文社を引き継ぎ、現代思想書のベストセラーであるアントニオ・ネグリたちの『〈帝国〉』(水嶋一憲他訳)を刊行したことはまだ記憶に新しい。
 今回の本クロニクルで挙げた4人の死者たちは、いずれもほぼ同世代といっていいし、私たちもそのような時代を迎えていることを本当に実感してしまう。
 
『〈帝国〉』



16.今月の論創社HP「本を読む」㊲は「ハヤカワ・ミステリ『幻想と怪奇』、東京創元社『世界大ロマン全集』、江戸川乱歩編『怪奇小説傑作集』」です。

出版状況クロニクル129(2019年1月1日~1月31日)

 18年12月の書籍雑誌推定販売金額は1163億円で、前年比1.8%増。
 これは16年11月以来の2年1ヵ月ぶりのプラスである。
 書籍は586億円で、同5.3%増。双葉文庫の佐伯泰英の新刊『未だ行ならず』(上下)、ポプラ社の原ゆたか『かいけつゾロリ ロボット大さくせん』、トロル『おしりたんてい』シリーズなどの大物新刊が多かったこと、また返品率が改善されたことによる。
 雑誌は576億円で、同1.6%減。その内訳は月刊誌が490億円で、同1.2%減、週刊誌は85億円で、同4.3%減。
 返品率は書籍が35.0%、雑誌が39.7%で、月刊誌は39.1%、週刊誌は42.7%。
 18年の最後の月は本当に久し振りのプラスで年を越したことになるが、年末年始の書店売上動向は日販が4.3%減、トーハンは3.8%減である。
 19年1月の販売金額と返品は、18年12月の反動の数字となるかもしれない。

未だ行ならず かいけつゾロリ ロボット大さくせん おしりたんてい
 


1.出版科学研究所による1996年から2018年にかけての出版物推定販売金額を示す。

■出版物推定販売金額(億円)
書籍雑誌合計
金額前年比(%)金額前年比(%)金額前年比(%)
199610,9314.415,6331.326,5642.6
199710,730▲1.815,6440.126,374▲0.7
199810,100▲5.915,315▲2.125,415▲3.6
1999 9,936▲1.614,672▲4.224,607▲3.2
2000 9,706▲2.314,261▲2.823,966▲2.6
2001 9,456▲2.613,794▲3.323,250▲3.0
2002 9,4900.413,616▲1.323,105▲0.6
2003 9,056▲4.613,222▲2.922,278▲3.6
2004 9,4294.112,998▲1.722,4280.7
2005 9,197▲2.512,767▲1.821,964▲2.1
2006 9,3261.412,200▲4.421,525▲2.0
2007 9,026▲3.211,827▲3.120,853▲3.1
2008 8,878▲1.611,299▲4.520,177▲3.2
2009 8,492▲4.410,864▲3.919,356▲4.1
2010 8,213▲3.310,536▲3.018,748▲3.1
20118,199▲0.29,844▲6.618,042▲3.8
20128,013▲2.39,385▲4.717,398▲3.6
20137,851▲2.08,972▲4.416,823▲3.3
20147,544▲4.08,520▲5.016,065▲4.5
20157,419▲1.77,801▲8.415,220▲5.3
20167,370▲0.77,339▲5.914,709▲3.4
20177,152▲3.06,548▲10.813,701▲6.9
20186,991▲2.35,930▲9.412,921▲5.7

 本クロニクル126や同128で、18年の出版物推定販売金額は1兆3000億円を割りこみ、1兆2830億円前後に落ちこむのではないかと予測しておいたが、12月がプラスとなったことで、かろうじて1兆2900億円台を保ったことになる。
 しかし19年はさらに深刻な危機に見舞われていくことは確実だ。雑誌は1997年に比べ、3分の1の販売金額になるだろうし、書籍もまた半分近くに迫っていくだろう。
 そのような出版状況の中で、どんぶり勘定を象徴する再販委託制は、もはや破綻に限りなく近づき、それに依存してきた大手出版社、大手取次、大手書店をさらなる危機へと追いやっていく。
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2.トーハンと日販の2007年から18年にかけての売上高の推移も示しておく。

■トーハンと日販の売上高推移(百万円)
トーハン日販2社合計
売上高
売上高前年比(%)売上高前年比(%)
2007641,396▲2.1648,653▲4.41,290,049
2008618,968▲3.5647,109▲0.21,266,077
2009574,826▲7.2632,673▲2.21,207,499
2010 547,236▲4.8613,048▲3.11,160,284
2011519,445▲5.1602,025▲1.81,121,470
2012 503,903▲3.0589,518▲2.11,093,421
2013 491,297▲2.6581,3550.61,072,652
2014 492,5570.2566,731▲2.51,059,288
2015 480,919▲2.4538,309▲5.11,019,228
2016 473,733▲1.5513,638▲4.6987,371
2017 461,340▲2.6502,303▲2.2963,643
2018427,464▲7.4462,354▲8.0889,818


 2社の売上高は合わせて、2007年が1兆2900億円であったが、18年には8898億円で、この10年間で4000億円のマイナスとなっている。
 能勢仁は『昭和の出版が歩んだ道』(出版メディアパル、2013年)の「取次盛衰記」において、1998年の神田村取次の松島書店の自主廃業から「取次受難期」が始まり、柳原書店、北隆館、鈴木書店、神奈川図書、日新堂書店、安達図書、三星、金文図書などの倒産の2005年まで続いたと指摘していた。
 だが残念なことに、そこで終わったわけではなく、本クロニクルにおいても、それ以後の東邦書籍、栗田出版販売、大阪屋、太洋社、日本地図共販などの倒産をレポートしてきた。
 中小取次の倒産のかたわらで、トーハン、日販の4000億円のマイナスも生じていることになり、で見た出版物売上高の凋落が2大取次にも如実に反映しているのである。
 しかもこれも前回の本クロニクルで取り上げておいたように、2社の中間決算は赤字基調で、通年決算は大幅な赤字が予想される。それに流通業の場合、一度赤字になれば、それは加速し、累積するばかりの道をたどるであろう。
昭和の出版が歩んだ道



3.『FACTA』(2月号)が文教堂レポートとして、「『暗愚の火遊び』上場書店が徳俵」を掲載している。
 サブ見出しは「創業家出身者のままごと遊びで文教堂GHDが上場廃止の危機。トップ交代にはかない望み」とある。それを要約してみる。

*文教堂GHDは1949年に川崎で島崎文教堂として始まり、ピーク時には全国で200店を超え、売上高は500億円となり、94年に文教堂としてジャスダックに上場し、2008年に持ち株会社制に移行。
*しかし業績は振るわず、赤字続きで、18年連結売上高はピーク時のほぼ半分の273億円、前年比8.5%減。5億9100万円の赤字となり、2億3300万円の債務超過で、それらは20店の不採算店舗閉鎖と13店舗のリニューアルの結果でもある。
*その文教堂GHDに対し、昨年11月東京証券取引所は上場廃止の猶予期間入り銘柄に指定し、最後通牒を突きつけた。今期中に財務を健全化しなければ、上場廃止となる。
*その原因として、出版市場の低迷もあるが、「文教堂の中興の祖である嶋崎欽也の息子で、欽也の跡を継いで社長に就いた富士雄の『火遊び経営』が債務超過を招いた」ことによる。
*それらはコミック専門店「アニメガ」の出店、ゲオとの提携、トーハンから日販への帳合変更などだが、結果がついてこなかった。
*それでいて、書店経営の基本的な部分は思いつきで、地域担当者も置かなかった時期もあり、社長と少数の取り巻きからなる川崎市の本部が、全国140店を直接支配する体制で、「典型的なブラック企業」だった。
*そのとばっちりを食らったのが16年に筆頭株主となった日販で、社長は経営改善案にまったく聞く耳を持たず、同じく大株主のDNPやみずほ銀行などの金融機関も匙を投げた状態だった。 債務超過にもかかわらず、社長の座に固執し、周囲の説得により、ようやく株主総会の前日に降りたという。
*経営を引き継ぐことになったのは、文教堂GHD生え抜きではない佐藤協治で、彼は88年に北海道の「本の店岩本」に入社し、文教堂がそれを買収したことにより、2000年に文教堂入りしている。
*しかし文教堂GHDの再建はかなり厳しく、財務健全化の期限の月までに打てる手立てはさらなる店舗の削減、不動産売却や賃貸、もしくは日販やDNPの増資を期待するしかない。だが増資は難しいだろう。


 本クロニクル127などでの言及と重複するところもあるが、これも『FACTA』のような直販誌でしか書けないレポートだと見なせるので、詳細に紹介してみた。
 しかし出版業界はこの文教堂GHDの一件を単なる「創業家出身者のままごと遊び」として片づけることができるだろうか。再販委託制を逆利用し、出店バブルという「暗愚の火遊び」に加わったのは文教堂だけでなく、その他の大手チェーン、ナショナルチェーンも同様なのである。このレポートは日販からのリークを主として書かれているように判断できるが、それは取次も同罪だといっていい。

 しかも『出版状況クロニクルⅤ』でもふれておいたように、文教堂GHDの株はDNP、丸善ジュンク堂グループが筆頭株主だった16年に日販へと譲渡され、日販が筆頭株主となっていたのである。これは現在から見れば、文教堂GHDとは関係のない株式売買ゲームに位置づけることができよう。それゆえに、これらの株式売買ゲームも「暗愚の火遊び」に他ならず、その果てに文教堂GHDの上場廃止の危機も必然的にもたらされたというべきだろう。
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4.(株)出版人の今井照容が【文徒】2018年12月3日号で、18年1月から12月までのTSUTAYAの閉店をリストアップしている。

 このリストを見れば、誰でも知っているTSUTAYA店があることに気づかされるだろう。それほど多く、しかも全国的に閉店している。
 で文教堂が20店舗閉店したことが赤字の要因であることを既述しておいたが、TSUTAYAの場合、その4倍に及び、平均坪数にしても200坪は下らないのではないか。それにこれらはCCCの直営店、FC、FCのFCと多岐にわたり、さらに各地域会社のTSUTAYAが絡み、複雑に入り組んだかたちで大量閉店が起きているのである。
 このようなTSUTAYAは出店に際し、開店初期在庫の支払いは据え置きとなっていると伝えられているので、出版物に関しては返品してもマイナスが生じることになる。
 その81店に及ぶトータルなマイナス金額は予測以上のものになるだろう。それに加えて、様々な閉店にまつわるコストを考えると、日販とMPDに逆流する損失は多大なものになると判断するしかない。文教堂が前門の虎とすれば、TSUTAYAは後門の狼のようにして、日販を包囲しているといっていい。

 またこの18年の大量閉店にしても、閉店コストが少ないところから始まっていることは確実で、むしろ19年のほうが18年以上の本格的な閉店ラッシュとなる可能性も高い。もしそうであれば、フランチャイズシステムにベースを置くレンタルと出版物の複合大型店、すなわちTSUTAYA方式はビジネスモデルとして崩壊し、成立しなくなりつつあることを露呈していくはずだ。
 そしてそれが結局のところ、日販とMPDを直撃する。本クロニクル119で、流通コストの問題から発せられた「日販非常事態宣言」にふれておいたが、その1年後には閉店ラッシュと債務超過を背景とする「主要取引先、及び傘下書店非常事態宣言」をも公表しなければならない状況に追いやられていると見なせよう。
 で取次も危機の連続であったことを示したが、今年はその最大の危機を迎えているといっていい。 
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5.大阪の天牛堺書店が破産。負債は18年5月時点で16億4000万円。
 天牛堺書店は1963年創業で、新館と古本を中心とし、CDや文具等も扱い、大阪府内に12店舗を展開していた。
 新刊と古本を併売する業態で知られ、古書や専門書にも通じ、大学図書館、研究室とも取引があり、1998年には売上高28億円を計上していた。しかし近年のアマゾンや電子書籍の台頭などにより、集客力と売上が低下し、18年には18億円にまで落ちこんでいた。 
 また不採算店の閉店に伴う資金繰りの悪化を受け、取次や銀行の支援もあったが、先の見通しが立たず、今回の措置となった。

 本クロニクル127で、山口県の鳳鳴館の負債が6億5000万円であり、前回のクロニクルで、広島県の広文館はさらに負債は多く、これからの書店破産はそのようにして続いていくという予測を述べておいた。 
 それが早くも出来してしまったことになるし、また実際に多額の負債を抱えた破産が続いていくだろう。
 なお取次はトーハンである。



6.『日経MJ』(1/16)の「2019トップに聞く」にゲオHDの遠藤結蔵社長が登場しているので、それを紹介してみる。

*リユース事業は好調だが、レンタル業は苦戦している。スマホの登場後、時間の消費が多様化したことが原因で、レンタル事業からの撤退はないが、モバイバルなどの他の商材に切り替えることはある。
*リユース事業はフリマアプリが成長を後押しし、まだまだ広がり、中古品買い取り競争が続く。ゲオの強みは創業期から増やし続けてきた実店舗と多彩な買い取り品目で、「ゲオショップ」と「セカンドストリート」の2つの屋号で何でも買い取っていくし、好調に推移している。
*店舗数はグループ全体で1800店を超え、業界最多となっているが、今後も買い取りの拠点を増やすために、2022年までに2000店舗を実現し、さらに新業態を増やしていきたい。


 ゲオとトーハンの関係は定かになっていないけれど、やはりレンタルからリユースへとシフトするようなコラボレーションを展開しているのだろうか。
 FCシステムによらないゲオにしても、レンタル事業は苦戦しているとのことだから、TSUTAYAの場合はさらに苦しいことが想像できる。ゲオは直営多店舗+リユース事業という、レンタルから一歩進んだところに新たなビジネスモデルを構築しようとしているのだろう。



7.折しも2のノセ(能勢)事務所より、出版社645社、書店300店ほどの売上高実績表を恵送された。

 これらに関してのコメントは差し控えるが、多くがの出版物販売金額や取次売上高の推移とパラレルであることはいうまでもないであろう。
 ただ気になるのはこれらのデータの今後の行方である。これらは『出版ニュース』も毎年掲載していたが、3月には休刊となってしまうので、途切れてしまうことになる。といってノセ事務所に代行をお願いするのは心苦しい。
 それに『出版ニュース』ならではのデータ提供、また『出版年鑑』に基づく実売データも同様で、今後は出版業界における多様で総合的な出版データの把握すらも難しくなっていくかもしれない。



8.セブン-イレブンとローソンは8月末までに全店での成人向け雑誌の販売を原則中止。

 昨年1月のイオングループのミニストップの販売中止に続くもので、20年の東京オリンピックに向けてのコンビニ清浄化の一環として、他のコンビニも追随していくであろう。その後、ファミリーマートも続いた。
 それは所謂「エロ雑誌業界」を壊滅させることになるだろう。だが飯田豊一の『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(「出版人に聞く」シリーズ12)にも明らかなように、「エロ雑誌業界」も出版のアジールであり、そこが多くの著者や編集者も含めた人材の揺籃の地だったことは、出版史に記録されなければならない。
 だがそれと同時に、そのような時代が終わっていくことも。
『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』



9.海賊版サイトを強制的に止めるブロッキングの法制化に関し、政府は通常国会での関連法案提出を見送り、事実上の棚上げとなる。

 本クロニクル126などでも、このサイトブロッキング問題にふれてきたが、実質的に出版業界の主張が受け入れられず、「通信の秘密」を侵害する恐れという慎重論が優勢だったことを伝えていよう。
 だがその一方で、文化庁が海賊版ダウンロードの違法範囲をネット上のすべてのコンテンツに広げ、国会への著作権法改正案の提出を目論んでいる。これもまた実効性が疑わしく、拙速な議論によって進められ、サイトブロッキング法制化の断念の代わりに、政府の体面を維持するためのものだとの観測もなされている。
 コンビニの成人雑誌販売中止ではないけれど、東京オリンピックを前にして、規制と管理が社会の隅々にまで及んでいくように思われる。



10.WAVE出版は12月にぎょうせいグループ会社の一員となる。
 WAVE出版は1987年創業で、ビジネス、自己啓発、実用書、児童書などでベストセラー『働く君に贈る25の言葉』『インバスケット思考』『石井ゆかりの12星座シリーズ』、課題図書『がっこうだってどきどきしている』を刊行している。

 他にも何社かM&Aの話が伝わってきているけれど、最終的に確認がとれていないので、今回はふれないことにする。
 しかしこのような出版状況下ゆえ、水面下でM&Aが進められているはずで、判明したら、できるだけ本クロニクルでも伝えていきたいと思う。
働く君に贈る25の言葉 がっこうだってどきどきしている



11.駒井稔の『いま、息をしている言葉で。』(而立書房)を読了した。
 サブタイトルにあるように、「『光文社古典新訳文庫』誕生秘話」に他ならない。

 駒井は1979年に光文社に入り、81年に『週刊宝石』創刊に参加し、週刊誌編集者を16年間続けた後、97年に翻訳編集部に異動となる。そして2006年に古典新訳文庫を創刊し、10年にわたり編集長を務める。その「誕生秘話」を語った一冊である。 
 光文社が「古典新訳文庫」を創刊したことは、私も翻訳やその出版に携わっている関係もあり、それなりのインパクトを受けた。ただそれは単行本シリーズではなく、「新訳文庫」というコンセプトによって提出されたことに対してではあった。それゆえに本棚の一段分は買っている。
 しかしその創刊の内幕事情、及び駒井が長きにわたる週刊誌記者だったことは知らなかったので、とても興味深く読んだ。巻末の「刊行一覧」を見ると、よくぞここまで出したというオマージュを捧げたくなる。
 いま、息をしている言葉で。



12.『フリースタイル』41の特集『THE BEST MANGA 2019このマンガを読め!』が出た。

 年々歳々、新刊マンガと新刊小説を読むことが減っているのを自覚しているが、19年BEST10で読んでいたのは3の吉本浩二『ルーザーズ』(双葉社)の一冊だけだった。同書は幸いにして、それに先駈け、本クロニクル122で紹介しておいてよかったと思う。
 呉智英の「マンガ史マンガにまた傑作が生まれた」との言はまさに『ルーザーズ』にふさわしいし、続けて読んでいこう。
 4の山田参助『あれよ星屑』(KADOKAWA)は5年前に第1巻だけしか読んでいないし、第7巻で完結とのことなので、あらためてこれから読むつもりでいる。

THE BEST MANGA 2019このマンガを読め! ルーザーズ あれよ星屑
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13.『創』(2月号)の恒例の特集「出版社の徹底研究」が出された。

 その「深刻不況の出版業界をめぐる大きな動き」という座談会で、本クロニクルへの言及もあるが、それよりも巻頭の篝一光のカラーグラビア「東京street ! 」が連載終了になったことにふれておきたい。
 その理由は篝夫人が病気で倒れ、彼がカメラを持って都内を自由に歩き回れる状況ではなくなってしまったことによるという。私の周辺でも、そのようなことがしばしば起き始めていて、同世代の哀感を強くする。

 これは書いてもかまわないはずで、篝はかつて伊達一行という作家で、『沙耶のいる透視国』(集英社)を書き、カメラマンとして写真集も出し、私はそれを彼から直接購入している。「東京street ! 」はその延長線上にある仕事として、ずっと楽しませてくれた。かつてはストリートカメラマンとよんでいい人たちもいたけれど、いつの間にか篝しかいなくなってしまったように思われる。再開の時がくることを祈る。

 なお、『DAYS JAPAN』(2月号)と広河隆一問題にもふれるつもりでいたが、3月最終号にて真摯に検証し、公表するというので、それを待ってのこととする。

創 沙耶のいる透視国 創



14.SF作家で明治文化史研究家の横田順彌が73歳で死去。

 1980年頃に、今はなき『日本読書新聞』で、私は「大衆文学時評」を担当していたことがあり、12の伊達一行や横順を読む機会に恵まれた。それをきっかけにして、『日本SFこてん古典』(早川書房)を読み、このような文献発掘もあることを教えられた。横順の仕事を範とし、ミステリー研究や文献探索も深化していったように思える。
 それに加えて、今世紀を迎え、『日本古書通信』で連載をともにしていた時期もあったのである。面識はなかったけれど、ご冥福を祈る。
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15.元未来社の編集者で、後に影書房を設立した松本昌次が91歳で亡くなった。

 松本と最後に会ったのは、これも2014年に急逝した元講談社の編集者鷲尾賢也のお別れの会においてだった。元信山社の柴田信に会ったのもこれが最後だった。
 鷲尾は『小学館の学年誌と児童書』(「出版人に聞く」シリーズ18)の野上暁とともに松本にインタビューし、『わたしの戦後出版史』(トランスビュー)を残している。これを読むと、松本が編集した多くの本を読んだことを、今さらながら思い出す。本当に時は流れたが、彼が何よりも長寿を全うしたことはよかったと思う。
小学館の学年誌と児童書 わたしの戦後出版史



16.今月の論創社HP「本を読む」㊱は「『澁澤龍彦集成Ⅶ』、ルイス『マンク』、『世界幻想文学大系』」です。

出版状況クロニクル128(2018年12月1日~12月31日)

 18年11月の書籍雑誌推定販売金額は1004億円で、前年比6.1%減。
 書籍は507億円で、同1.5%減。雑誌は496億円で、同10.4%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が411億円で、同9.9%減、週刊誌は85億円で、同12.6%減。
 返品率は書籍が40.3%、雑誌が42.3%。しかも月刊誌は41.9%、週刊誌は43.9%で、いうなれば、トリプルで40%を超える返品率となってしまった。
 雑誌のほうは取次が送品抑制をしているし、書籍にしても同様だと推測されるので、この年末に及んでの高返品率は、さらに加速して出版物が売れなくなっていること、また書店の閉店が続いていることを告げていよう。
 このような出版状況の中で、2019年を迎えることになる。
 


1.出版科学研究所による18年1月から11月までの出版物推定販売金額を示す。

■2018年1月~11月 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2018年
1〜11月計
1,175,763▲6.4640,410▲2.9535,353▲10.2
1月92,974▲3.551,7511.941,223▲9.5
2月125,162▲10.577,362▲6.647,800▲16.3
3月162,585▲8.0101,713▲3.260,872▲15.0
4月101,854▲9.253,828▲2.348,026▲15.8
5月84,623▲8.743,305▲8.841,318▲8.5
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
7月91,980▲3.443,900▲6.048,079▲0.8
8月92,617▲9.248,0243.344,593▲12.8
9月121,482▲5.468,186▲5.353,295▲5.6
10月99,129▲0.348,5802.550,550▲2.8
11月100,406▲6.150,729▲1.549,677▲10.4

 18年11月までの書籍雑誌推定販売金額は1兆1757億円、前年比6.4%減である。17年12月の販売金額は1143億円だったので、同様に6.4%減と見なせば、73億円マイナスの1070億円となる。本クロニクル126で予測しておいたように、ついに18年は1兆2830億円前後にまで落ちこんでしまうだろう。
 これはピーク時の1996年の2兆6980億円の半減をさらに下回り、それに加えて19年もまたマイナスと高返品率が続いていくことを予測させるものである。
 10月の消費税増税も待ちかまえているし、19年こそはかつてない出版業界の地獄を見ることになるだろう。
 ダンテの『神曲』は「地獄篇」が終われば、「煉獄篇」「天国篇」へと進んでいくのだが、出版業界の場合、いつまで経っても「地獄篇」が終わらないという状況へと追いやられている。しかも導き手のウェルギリウスや救い手のベアトリーチェの姿はどこにもない。
 それは大手出版社、取次、書店のすべてにまで及んでいて、かつてない深刻な危機状況にあると考えざるをえない。
 かくして年が明けていく。
「地獄篇」(『神曲』地獄篇)



2.文教堂GHDは嶋崎富士雄社長と山口竜男常務が退任し、佐藤協治常務が新社長に選任。

 前回の本クロニクルで文教堂が債務超過に陥っていることを既述しておいたが、結局のところ、創業家も含む経営陣の辞任という次の段階へと進んだことになろう。それは2007年の552億円の売上高が、18年には274億円と半減していることにも起因している。
 その一方で、これも前回の本クロニクルで挙げておいたように、11月21日に239円だった文教堂HDの株価は12月28日には152円となり、株式市場が経営陣の交代に対して、むしろ失望を示すかの安値で、まだ下げ止まっていない感がする。
 それに加え、知らなかったのはブックオフコーポレーションの元社長、現在は日販グループ会社ダルトンの佐藤弘志社長が、文教堂GHDの副社長であったことだ。彼はそのまま再選されたという。これも前回「文喫」をめぐって記しておいたように、日販とブックオフの関係も複雑に絡み合い、清算されていないことを伝えているのだろう。



3.『日経新聞』(12/18)が「苦境のTポイント」と題し、その内実をレポートしている。それを要約してみる。

* 全国に1万7000店を有するコンビニのファミリーマートとTポイントの10年超の独占契約が終わり、ファミマは楽天やドコモ利用客にも買い物でたまるポイントを付与する。
* 2003年に始まったTポイントの躍進と成長を支えていたのはファミマとの提携だったが、蜜月の終わりが突然やってきた。
* 親会社の伊藤忠商事の不満は、自社系列のコンビニの購買データをCCCにもっていかれることと、手数料が高いことだった。また離脱の最大の理由として、Tポイントのネットでの強みの先細り懸念、スマホ決済の急速な普及が挙げられる。
* 楽天の「楽天ペイ」、ドコモの「d払い」により、楽天やドコモはポイントカードの競争力を左右するデータ解析力を高め、消費者の購買行動を正確に予測できるが、Tポイントにはこのピースが欠けていた。
* Tポイントカードはレンタルビデオ店「TSUTAYA」の会員証から進化してきたが、このように楽天やNTTドコモの猛追にさらされ、旗艦店「恵比寿ガーデンプレイス店」を始めとして、「TSUTAYA」も相次いで閉店している。
* レンタルはアマゾンやネットフリックスの動画配信に押され、CCCはTSUTAYAとTポイントという両輪を失いつつある。
* CCCは次世代型書店「代官山蔦屋書店」をモデルとし、FCを含めて16店を全国出店し、「コト(体験)消費」に活路を見出そうとしている。それにはリゾート地における「コト消費」関連の大規模施設も計画されているという。


 これはCCCの危機であると同時に、日販やMPDをも直撃していくことになろう。
 だがそのような危機の中にあっても、相変わらずバブル出店が続いている。
 11月には株式会社北海道TSUTAYAとパッシブホーム株式会社の合弁会社のアイビーデザイン株式会社が、北海道江別市に「江別蔦屋書店」を開店している。そのコンセプトは「田園都市のスローライフ」で、「食・知・暮らし」の3棟からなる大型複合書店とされている。店舗面積は1350坪、北海道TSUTAYAとスターバックスが600坪を占める。
 こうした開発にまつわる様々な資金調達、入り組んだ不動産賃貸借システム、それらに様々なリース、FCが絡み合い、日販もMPDもそのコアを占めざるをえないと思われる

 このような蔦屋出店状況は、『出版状況クロニクルⅤ』における栃木県のTSUTAYAのFCビッグワングループのTSUTAYA佐野店、及び本クロニクル118などで確認してほしい。
 しかしこのようなFCによる大規模開発プロジェクトが、かつてのFC展開のように長きにわたって反復されていくはずもない。その金融と流通を支えた日販の体力ももはや失われているからだ。それにTSUTAYAとTポイントという両輪を失いつつありながら、依然として進められているわけだから、その果てには何が待ち受けているのだろうか。
出版状況クロニクルⅤ
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4.トップカルチャーの連結決算は売上高322億円、前年比3.2%増だったが、当期純損失は13億8400万円で、2期連続の赤字決算。
 期中は蔦屋書店のアクロスプラザ富沢西店、蔦屋書店竜ケ崎店の2店を出店し、TSUTAYAから東日本地区の7店舗を譲り受け、期末店舗数は81店。
 それらの店舗増により、「蔦屋書店事業」は314億円、同3.6%増となったが、既存店売上、その他の事業の中古買取販売、スポーツ関連事業などがマイナスで、営業損失11億3200万円、経常損失11億9900万円。

 CCC=TSUTAYAの最大のFCであり、東証一部上場のトップカルチャーがトリプル赤字となり、文教堂と同じく株価へと反映されている。これも11月21日は382円だったが、12月21日は280円で、まだ下げ止まっていない。
 トップカルチャーに象徴されているように、CCC=TSUTAYAのFCの行方はどうなるのか。それは日販とMPDの行方を問うことでもある。



5.広島の広文館の事業を継承するために新会社「廣文館」が新設され、トーハン、大垣書店、広島銀行の3社が出資し、社長にはトーハンの石川二三久経営戦略部長が就任。
 広文館は1915年に創業しているので、100年以上の歴史を有する老舗書店であり、18店舗を運営し、その株式は経営者の丸岡家が100%保有していた。
 トーハン、大垣書店は第三者割当増資を引き受け、トーハンは3300株を引き受けることで、議決権比率は100%だとされる。ただ廣文館の資本金、広島銀行を含めた3社の出資額、その比率などは非公表。
 廣文館は18店舗と外商事業を引き継ぎ、社員38人やパート・アルバイト126人は1人ずつ面接し、再雇用するかを決めていくという。

 前回の本クロニクルで、山口県の老舗書店鳳鳴館の破産を伝え、15店舗を経営し、その負債が6億5000万円であることを記しておいた。
 おそらく広文館の場合、それどころの負債ではないことが、広島銀行の廣文館への出資からもうかがえる。ただそれは債権確保の一環と見なすべきで、再建の一助ではないことはいうまでもないだろう。
 経営陣の派遣と議決権から考えても、廣文館はトーハン主導による清算会社の色彩が強く、店舗と社員リストラ、その受け皿としての大垣書店、資産の売却とリースバック的不動産プロジェクトなどの様相を呈していくと思われる。
 これからさらに露出してくるのは、取次による書店経営は可能かという問題であろう。講談社や小学館による取次経営が成立しなかったことは、大阪屋栗田に見てきたばかりだが、取次による書店経営の破綻も続出していくことは確実だ。



6.福家書店管財(旧福家書店)が特別清算開始。
 同社は1999年に設立され、大手芸能プロダクションの代表が社長に就任し、福家書店として新宿、銀座、横浜、福島など、ピーク時には20店舗を展開していた。
 その特色はアイドル写真集発売の際のサイン会や握手会を始めとする各種のイベント開催で、2009年には売上高46億円となっていた。
 しかし経営的には地方店舗などの赤字が積み重なり、不採算店舗の閉鎖により、11店舗まで減少し、2016年には売上高28億円、債務超過状態に追いやられていた。
 なお17年に現商号に変更するとともに、会社分割で(株)福家書店が設立され、事業は継承され、福家書店は存続している。

 銀座にあった福家書店はずっと芸能物に強い書店として知られていたが、経営的に行き詰まり、それを大手芸能プロダクションが引き受けたことで、当時はかなり話題になったものだった。 
 だが当然のことながら、芸能プロダクションに書店経営ができるはずもなく、今回の措置へと必然的に至りつくしかなかったのであろう。



7.一般財団法人「全国書店再生支援財団」が発足。
 同財団はさらに書店のない地域を増やさないように、その都度、審査した上で、既存書店や業界団体の支援などに一定の金額を支出し、援助していくことを目的としている。
 TRCの石井昭社長が南天堂の奥村弘志社長に提案し、1年間の調整期間を経て設立に至り、来年2月から本格的に始動予定で、奥村が代表理事となる。
 財団の目的は書店の支援の他に、読書推進運動、書店人の育成、業界の各種団体の支援などが挙げられている。

 しかしTRCからの毎年の拠出資金は非公表で、書店会館に事務所を置くこと、及び評議員や理事メンバーのことを考えると、またしてもパラサイトがぶら下がる出版業界の外郭団体の設立、それももはや時期を逸した印象を否めない。



8.紀伊國屋書店は海外法人17社などを含めた連結決算を初めて発表し、連結売上高は1222億円、単体売上に190億円が上乗せとなった。
 単体売上高は1031億円、前年比0.2%減、国内70店舗を運営する「店売総本部」売上は506億円、営業総本部は480億円。


9.有隣堂の決算は売上高517億円、前年比1.9%増。その内訳は書籍が176億円、同3.9%減、雑誌が40億円、同3.8%減だったが、雑貨、音楽教室、OA機器などが前年を上回り、増収となった。

 からにあるような現在の書店状況下における大手書店の決算をラフスケッチとして提出しておく。



10.日販の連結中間決算は2640億円、前年比6.6%減。
 「出版流通業」は2469億円、同7.0%減、その経常利益は5億円、同41.9%減。
 日販単体売上高は2119億円、同6.4%減で、145億円のマイナス、MPDも53億円減で、経常損失。
 「小売業」は265店舗で317億円だが、1100万円の経常損失。


11.トーハンの単体中間決算は1831億円、前年比9.2%減。経常利益はこの10年で初めて10億円を割るという9億7500万円、同38.7%減。
 連結売上高は1917億円、同8.3%減、中間純利益は8600万円で、グループ書店の閉店に伴う除却損を計上したために、単体よりも収益性が低下。

 これも8、9と同様にラフスケッチにとどめたが、大手取次の売上減少と実質的な赤字状況が急速に進んでいることがうかがわれる。
 それにで指摘しておいたように、これからは取次による書店経営が可能かという問題が浮かび上がり、店舗リストラに伴う損失はますます積み重なっていくだろう。まだバブル出店の後始末は端緒についたばかりであり、さらなる損失が待っている。
 それに加えて、取次の運賃協力金の要請に応じたのは、日販やトーハンとも150社から200社のようで、とても流通改善につながるとも思えない。
 またこれも前回の本クロニクルでも引いておいた、日販とトーハンがいうところの「プロダクトアウトからマーケットインをめざした根本的な流通改革」などのきざしは、取次や書店の現場からまったく感じられない。
 日販とトーハンの年間決算はどうなるのか。



12.日教販は売上高280億円、前年比2.6%増で、7年ぶりの増収決算となる。
 当期純利益は2億円、同0.7%減の微減。
 売上高内訳は、書籍が196億円、同100%、「教科書」が75億円、同9.6%増。

 日教販の「書籍」は学参、辞書、事典がメインで、「教科書」と合わせた総合返品率も12%であることが増収の要因といえよう。
 TRCもそうであるが、専門取次の場合、低返品率によって利益を確保できる。
 それに反し、総合取次における40%前後に及ぶ返品率と、取引書店の閉店がどのようなダメージをもたらしているか、そのことはあらためていうまでもないだろう。



13.『日本古書通信』(12月号)において、岡崎武志が「昨日も今日も古本さんぽ」98で、飯能の文録堂書店、池袋の夏目書房の閉店を伝え、後者の「閉店セール」をレポートしている。
 また同じく福田博が「和書蒐集夢現幻譚」83で、岩波書店の『国書総目録』全9巻の古書価が「何と!2千円」になったことを取り上げ、「哀愁の『国書総目録』」追悼文を書いている。

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 実は私も18年にわたって『日本古書通信』に「古本屋散策」を連載していて、それが200回を超えたので、一本にまとめるために、現在校正に取り組んでいるところなのである。
 その2004年に、40年も通っていた「浜松の泰光堂書店の閉店」のことを書き、「閉店祝」として、『国書総目録』を5割引の2万5千円で買ったことにふれておいた。それから15年後には「何と!2千円」となってしまったことになる。時は流れた。
 この事実に象徴される古書価の暴落を考えると、泰光堂はまだよき時代に閉店したと思うしかない。それに私が「浜松の泰光堂書店の閉店」を『日本古書通信』で書いたことにより、東海道沿線の老舗だったことも相乗し、客が殺到するように押し寄せ、在庫がほとんど売れてしまったという。店主もとても喜び、私も書いてよかったと思った次第だ。だがそれも15年前のことで、古本屋状況もドラスチックに悪化していったことを、『国書総目録』の古書価は伝えている。



14.これも通販専門古書目録『股旅堂』20が届いた。

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 この古書目録の特色は未知のアンダーグラウンド文献を紹介していて、とても教えられる。確か店主は八重洲ブックセンター出身だと記憶しているが、古書業界においても、惜しくも亡くなってしまったリブロ出身の上の文庫の中川道弘のことを彷彿とさせる。
 今回の目玉は大島渚の映画L' Empire des sens のモデル事件の現場写真で、高価格であることはいうまでもないが、売れたであろうか。



15.創元社からディヴィッド・トリッグの『書物のある風景』(赤尾秀子訳)が出された。

書物のある風景

 これはサブタイトルに「美術で辿る本と人との物語」が付されているように世界各地の美術館コレクションの古今東西の作品から、まさに「書物のある風景」を描いたものを300点ほど選び、編まれた一冊である。
 ほとんどが初見で、「書物のある風景」がこのように多く描かれていたのかとあらためて教えられた。もはや現在では電車の中で本を読んでいる姿はほとんど見られず、そのような300点ならぬ300人を見るには、何本もの電車が必要とされるであろう。
 それを「書物のある風景」は一冊だけで実現させている。もっとも印象的なのは、右にジャン=アントワーヌ・ロランの「グーテンベルグ、活版印刷所の発明者」が置かれ、左にはマルクーハンの「グーテンベルクによって、人はみな読者になれた」との一節が掲げられた70、71ページの見開きである。
 年始の読書にふさわしい一冊としてお勧めしよう。



16.中柳豪文『日本昭和トンデモ児童書大全』(「日本懐かし大全」シリーズ、辰巳出版)を読んだ。

日本昭和トンデモ児童書大全

 「著者のことば」として、「昭和時代、ぼくたちが子どもだった頃には、今では信じられないような内容の児童書がたくさん溢れていた」とある。
 確かに岩波書店や福音館の児童書が良書とされる一方で、大手出版社、実用書出版社の児童書は俗悪だとされ、出版業界においても、売れてはいても評価はとても低いものだった。
 しかしあらためてこの一冊を読むと、縁日のお化け屋敷にも似て、いかがわしい「トンデモ児童書」の世界にまさに「懐かしさ」を覚えてしまう。これも著者がいうように、「子ども相手に、作り手である大人たちが真っ向から勝負を挑んだ『本気の出来』であったからだろう」。
 現在ではそれどころか、子どもだましの本ばかりが売られているように思える。



17.沖縄の比嘉加津夫が編集発行する『脈』(99号)が友人から送られてきた。

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 『脈』は本クロニクル124などでも取り上げてきたが、99号は『沖縄大百科事典』を編集した「上間常道さん追悼」、及び吉本隆明の少年時代の師であった「今氏乙治作品アンソロジー」のふたつの特集となっている。
 いずれも貴重な特集といえるし、『脈』は売り切れると入手は難しくなると思うので、ぜひ早めに購入してほしい。書店注文は地方・小出版流通センター扱いであることも記しておく。
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18.論創社HP「本を読む」㉟は「『幻想と怪奇』創刊号と紀田順一郎『幻想と怪奇の時代』」です。


出版状況クロニクル127(2018年11月1日~11月30日)

 18年10月の書籍雑誌推定販売金額は991億円で、前年比0.3%減。1%未満のマイナスは16年12月以来である。
 書籍は485億円で、同2.5%増。雑誌は505億円で、同2.8%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が404億円で、同0.3%減、週刊誌は100億円で、同11.5%減。
 返品率は書籍が41.1%、雑誌が39.3%。
 ただ書籍のプラスは送品が多かったこと、月刊誌の1%未満マイナスも、大手出版社のコミックスの値上げと返品率の改善によるものとされる。
 それらもあって、10月の前年マイナスは2億円で、一息ついたといえるが、返品率はやはり高止まりしている。
 残りの11月、12月の売上状況はどうなのか。18年最後の月が始まろうとしている。
 『旧約聖書』でいうところの「逃れの町」ならぬ、「逃れの月」となるであろうか。
 


1.日販の『出版物販売の実態2018』が出され、『出版ニュース』(11/上)に「販売ルート別出版物販売額2017年度」と「同推移グラフ」が掲載されている。ここでは前者を示す。

 

■販売ルート別推定出版物販売額2017年度
販売ルート推定販売額
(百万円)
構成比
(%)
前年比
(%)
1. 書店1,024,99063.294.1
2. CVS157,6469.784.8
3. インターネット198,77012.3108.6
4. その他取次経由73,8134.593.5
5. 出版社直販167,08310.390.4
合計1,622,302100.094.2

 出版科学研究所による17年の出版物販売金額は1兆3701億円、前年比6.9%減だったのに対し、こちらは出版社直販も含んで1兆6223億円、同5.8%減となる。
 しかし今月の問題に絡んで注目すべきは、書店とコンビニの大手取次ルート販売額であろう。本クロニクルでたどってきているように、18年のマイナスも明らかだ。書店は1兆円を下回り、初めてシェアの10%を割り、前年比15.2%減のコンビニも1500億円台を維持できないだろう。これは言うまでもないけれど、コンビニは雑誌をメインとしているので、雑誌はさらにマイナスが続いていくことも確実だ。

 そしてさらに流通の現在を見てみると、書店が1万店、コンビニが5万店という配置になっている。それを出版物販売額に当てはめ、概算すれば、年商で書店は1億円、コンビニは300万円で、もはや後者が取次にとって赤字になることは歴然であろう。かつての小取次の書店採算ベースが月商100万円、つまり年商1200万円とされていたから、現在のコンビニはその4分の1の売上しかない。
 それでも2000年代までは出版物販売額が2兆円を超え、書店数も2万店を保っていたからこそ、コンビニの流通アンバランスは露出していなかった。だが雑誌の凋落に伴う出版物販売額のマイナスと書店数の半減、それと逆行するコンビニの増加は、まさにいびつな流通状況を浮かび上がらせ、それがこの「販売ルート別出版物販売額」にも表出しているのである。

 取次にしてみれば、コンビニの雑誌売上が伸びていた時代には、コンビニ本部からの一括支払いによるメリットが認められていたにしても、現在ではもはや赤字を重ねるだけの流通になっている。
 だが恐ろしいのは書店とコンビニの店数から見れば、週刊誌の売上はコンビニに依存している。だから大手取次にすれば、コンビニは赤字だが、大手出版社の週刊誌などはコンビニが生命線ともいえるのである。まさにいびつな構造というべきであろう。



2.『新文化』(10/25)が「出版輸送重量運賃制にメスを」との大見出しで、東京都トラック協会 出版・印刷・製本・取次専門部会の瀧沢賢司部会長(ライオン運輸社長)にインタビューしている。それを要約してみる。

* 同部会の企業数は23社で、1969年の設立時に比べると、本を手がけなくなった会社が増え、3分の1になっている。
* 「出版物関係輸送の経営実態に関するアンケート」を行った結果はほとんどの会社において、「経営が成り立っていない」というものだった。その原因は荷物の重さに応じて荷主が支払う重量制運賃で、出版業界が右肩上がりだったときは非常に有難かったが、売上減少の現在では採算ベースに追いつかない。
* さらに原油価格、人件費、車両価格の高騰、ドライバーの高齢化、人出不足による長時間労働が重なり、今後も業量の減少とコストが上がり続けるようであれば、出版輸送から撤退する運送会社も出てくるだろうし、出版輸送は赤字だから関わらないほうがいいという声も上がっている。
* ライオン運輸も10月から一部運賃の値上げの実施を得たが、重量制運賃はそのままなので、今後の業量減少が止まらなければ、問題は再熱するし、今回の値上げで問題解決にはならない。
* 深夜配送の主な業務は書店とコンビニへの書籍、雑誌の配送だが、雑誌売上低迷による経営ダメージが増大している。
* とりわけコンビニ配送の落ち込みは深刻で、日販から書店、コンビニへの店舗配送を受託しているが、事前の集荷、仕分け、コース別積込などの手順があり、多くの手間がかかり、専業にならざるを得ない。9月は百万円単位のマイナスが生じ、様々な現況を考えると、いつまでこの業務が続けられるかとも思う。
* 昨年からの土曜日休配にしても、ドライバーの夏の体力の消耗は防げたが、稼働日数が減り、売上に影響したことは否めない。人手不足もあって、ドライバーの労働時間の短縮は重要だが、賃金が低いので、求人を出しても若い人からの応募はない。
* コンビニの店舗が増え続けているのに、業量は減少し、収入減、経費増という収支バランスが悪化する一方で、適正な運賃の収受とコンビニ配送などの改善が必要だ。
* 出版社や書店に対して、本の価格には原稿料、印刷、製本だけでなく、運送料も含まれることを自覚してほしいし、ネット上の送料無料にしても、それは業者が負担している。もはや出版輸送事業者の現状からすると、負担の限界を超えており、明日にでも出版輸送が止まってしまってもおかしくない状況にある。出版業界に関わっている人たちにはこの現実を直視してほしい。
* ただこれまでの荷主との交渉は手詰まり感があり、トラック輸送のあるべき姿を検討、対策を進めている国土交通省にも改善に向けての協力を求めていきたい。


 と密接に関連する出版輸送の現場の声なので、詳細に挙げてみた。
 瀧沢部会長へのインタビューは『出版状況クロニクルⅤ』の17年1月のところでも紹介しておいたが、「一部運賃の値上げ」を除いて、その現況はまったく変わっていないし、さらに悪化しているとわかる。
 結局のところ、大手出版社と大手取次による低定価の雑誌をベースとする大量生産、大量流通、大量販売システムは、これまた低コストの「重量運賃制」に支えられていたことにつきるし、もはやそれも限界に達している。
 それは出版輸送における「重量運賃制」そのものが再版委託制と同様に、「出版業界が右肩上がり」であれば有効だが、現在のような状況では「経営が成り立っていない」。それゆえにこれは出版輸送の問題だけでなく、出版社、取次、書店の全分野に及んでいると見なすことができよう。
出版状況クロニクル5



3.11月19日付で、日販、トーハンより「物流協業に関する検討開始のお知らせ」が届いた。これは両社のHPに掲載されている。
 両社は4月19日から、公取委に物流協業に関する事前相談を行い、10月12日にその回答を得て、今回の基本合意書締結に至ったとされる。
 この「お知らせ」は社名が異なるだけなので、日販のほうを引き、その「背景及び目的」「検討内容」「検討体制」を挙げておこう。

1.背景及び目的
出版物の売上は1996年をピークに低減が続いております。
2017年度ではピーク時の52%程度の規模に縮小し昨今の輸送コストの上昇と相まって流通効率の悪化が顕著となり、全国津々浦々にわたる出版物流網をいかに維持するかが業界全体の喫緊の課題となっております。
今回の両社による取り組みは、かかる課題の解決を導き出すために行われるものであり、同時にプロダクトアウトからマーケットインを目指した抜本的な流通改革への新たな一歩となることを目指すものです。

2.検討内容
当社とトーハンの間で、制度面・システム面を含めて、厳密な情報遮断措置を講じることを前提として、両社の物流拠点の相互活用ないし統廃合を中心とした出版流通の合理化に向けた物流協業について検討致します。それぞれが保有する経営資源を有効活用することを基本として、システム面・業務面などからの実現可能性と経済的合理性を評価して、物流協業の具体的な方向性の検討を進めてまいります。

3.検討体制
当社・トーハン各社からメンバーを選定し、プロジェクトチームを設置した上で、具体的な検討を進めてまいります。

尚、検討を進めるにあたり、当社・トーハン各社において、独占禁止法遵守の観点から機微情報の厳密なコントロールを行います。具体的には、機微情報の目的外利用を防止するため、プロジェクトチームのメンバーを限定し、情報交換の範囲や運用管理を明文化する等の措置を講じます。また、必要に応じて公正取引委員会への報告・相談を行います。


 本クロニクル119で、平林彰社長の「日販非常事態宣言」、同124で近藤敏貴新社長の「トーハン課題と未来像」に言及しておいたが、それらに先行して公取委に物流協業を相談していたことになる。
 しかしこれが日販とトーハンの「協業」によって進められたとは考えられない。なぜならば、近代取次史は各取次がどのようにして独自の物流を確立するかという歩みを伝えていて、「物流協業」は自らのアイデンティティを放棄するものであるからだ。
 それに「検討内容」で謳われている「両社の物流拠点の相互活用ないし統廃合を中心とした出版流通の合理化に向けた物流協業」が、新たな投資と多大なリストラを伴い、困難で、少なからぬ年月を要することは、取次の人々にとっても自明のことだろう。そして「検討」を進める一方で、出版状況はさらなる危機へと追いやられていくことも。
 これらを総合して考えると、この「物流協業」は両取次の内部から出されたものではなく、経産省などが絵を描いたものではないだろうか。それがトーハン、日販の両社長の言葉の端々にうかがわれるし、における瀧沢部会長の国土交通省に向けての協力を求めていくとの発言にもリンクしていよう。
 近代取次史をたどってみれば、拙稿「日本出版配給株式会社と書店」(『書店の近代』所収、平凡社新書)で既述しておいたように、大東亜戦争下の1941年に官僚と軍部によって、国策取次の日配が誕生している。日配は雑誌と書籍の「出版一元配給体制」をめざしたのである。そこで何が起きたかはふれないけれど、興味ある読者は拙稿や清水文吉『本は流れる』(日本エディタースクール出版部)などを参照してほしいし、今回の日販とトーハンの「物流協業」も日配の例を想起させずにはおかない。


書店の近代    

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4.文教堂GHDの連結決算は売上高273億8800万円、前年比8.5%減で、営業損失5億8990万円、親会社株主に帰属する当期純損失は5億9100万円の赤字決算となった。
 財務面でも、資産は210億1300万円、負債は212億4600万円で、2億3300万円の債務超過。
 保有不動産の売却、賃貸、増資などによる経営改善計画が検討中とされる。

 今期は文具などの導入による13店舗のリニューアル、不採算店20店舗の閉店ラッシュを受け、そのコストが増え、赤字決算、債務超過の事態を招いたことになる。
 1980年代に神奈川県を舞台として始まった東販と文教堂によるバブル出店では、いわば日販と有隣堂に対する代理戦争のような色彩を帯びていた。
 会社の上場を果たした後も、バブル出店に起因する多大な有利子負債は抱えたままだった。それもあって、『出版状況クロニクルⅤ』で既述しておいたように、DNPグループ傘下となっていた。だが16年に同グループから日販に文教堂の株式が譲渡され、日販が筆頭株主となり、奇妙な代理戦争の結末を迎えていた。
 この赤字決算を受けてか、文教堂HDの株価は下がり、11月21日は239円である。日販の取得株価は1株当たり422円で、17億円だったと伝えられているので、その損失は大きい。 
 文教堂は金融機関からの借入金返済、及び日販からの仕入れ債務支払いの猶予を協議しているようだが、どうなるだろうか。



5.ワンダーコーポレーションの15店舗が、日販から大阪屋栗田に帳合変更。

 本クロニクル118や125において、ワンダーコーポレーションが売上高741億円で、TSUTAYA事業が151億円を占めているが、2年連続赤字であること、及びライザップグループに買収されたことを取り上げておいた。またライザップグループの「損失先送り経営」の危険性についても。
 折しも、そのライザップグループが赤字に転落と発表し、ワンダーコーポレーションなどの傘下企業の株価に売りが殺到し、M&Aによる事業拡大にもストップがかかった。
 不採算事業からの撤退も始まるとされるし、ワンダーコーポレーションもその対象となろう。そのことと日販から大阪屋栗田への帳合変更は関係しているのだろうか。
 また同じく傘下の日本文芸社の行方も気にかかる。


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6.4と5の問題もあり、上場企業の書店と関連小売業の株価を示しておく。
 左は5月の高値、右は11月21日の終値である。

■上場企業の書店と関連小売業の株価
企業5月高値11月21日終値
丸善CHI363348
トップカルチャー498382
ゲオHD1,8461,840
ブックオフHD839808
ヴィレッジV1,0231,078
三洋堂HD1,008974
ワンダーCO1,793660
文教堂HD414239
まんだらけ636630

 この株価推移表は今年の初めに作成するつもりでいたが、出版業界のあわただしい動きの中で遅れてしまい、年末にずれこんでしまった。
 確かにのワンダーコーポレーションは半年で3分の1になってしまい、の文教堂にしても下げ止まりは見られず、株価はそれらの現況を反映していると見るべきだろう。
 他の株価にしても、これからどのような推移をたどっていくのか、本クロニクルも追跡するつもりでいる。



7.未来屋書店の44店舗が日販からトーハンへ帳合変更。

 この未来屋の帳合変更はかなり前から伝えられていたが、ここになってようやく実現したことになろうか。
 本クロニクル123で示しておいたように、イオングループの未来屋は書店ランキング5位で、売上高560億円、306店舗を有している。 
 そのうちの44店だけの変更であるのか、それとも全店に及んでいくのかは注視する必要があろう。
 だがこの帳合変更はトーハンが日販よりも有利な取引条件を出したという事実を告げているし、それはトーハンのほうがまだ日販より体力のあることを象徴しているのだろうか。
 一方で、「物流協業」が提起されながら、そのかたわらではこのようなトーハンと日販の帳合戦争は続いているのだ。
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8.日販は青山ブックセンター六本木店跡地に、12月11日、リブロプラスによる直営店「文喫 六本木」を新規出店。
 146坪の店内にアート、デザイン、人文書、自然観察所など3万冊の書籍と90種の雑誌を陳列、販売し、来店者は入場料として1500円の入場料を支払う。
 1人で読むための閲覧室、複数人で利用できる研究室、飲食ができる喫茶室も備え、椅子やソファなどは90席、基本在庫はリブロプラスが買切で仕入れる。
 営業時間は午前9時から午後11時で、日商目標は1000万円。

 「マンガ喫茶」の模倣でしかない「本喫茶」は既存の書店を馬鹿にしたプロジェクトで、このような企画が取次から出され、現実化されることは退廃の極みだといっていい。
 月商1000万円ということは、入場料だけなら7000人近くが必要で、それだけの集客が可能だと本気で信じているとは思われない。

 だから別の視点から考えてみる。本クロニクル121で、ブックオフ傘下のABCの閉店を伝えたが、「文喫 六本木」まで次のテナントが入っていなかったことになる。また同125でリブロプラスが日販関連会社NICリテールズの100%子会社となったことにふれている。またこれは『出版状況クロニクルⅤ』の17年3月のところで取り上げておいたが、日販グループ会社のプラスメディアコーポレーションなどの3社が合併し、プラスとなっている。プラスメディアコーポレーションはブックオフの子会社としてTSUTAYA33店を運営していたけれど、14年に日販が子会社化している。

 これらの事実からの推測だが、ABCの運営にも日販子会社が絡み、テナント賃貸借契約に連帯保証し、ABC閉店の際にはまだ契約完了とならず、かなりのペナルティの生じる年月が残されていたのではないだろうか。
 それもあって、日販は代わりのテナントを見つけることができず、「文喫 六本木」を出店させたとも考えられる。
 これからも同様のケースが出てくるにちがいない。



9.山口県の老舗書店鳳鳴館が破産。
 徳山毛利家の書籍庫をルーツとし、1943年に設立され、90年代には県内や九州市内で15店舗を経営していたが、2000年代に入り、本店だけになっていた。負債は6億5000万円。

  本クロニクル119で、周南市の新徳山ビルのツタヤ図書館の開館によって、鳳鳴館が駅前銀座商店街の本店を閉店したことを記しておいた。だがやはり外商や教科書販売だけでは続けることができず、破産ということになったのであろう。これも取次は日販である。 
 6億5000万円という負債は出店と閉店が繰り返されていく中で、積み上げられていったと考えられるし、同様の書店もまだ多く残され、今後も閉店は続いていくはずだ。
 「朝日歌壇」(11/8)で見つけた一首を引いておく。
 いつのまにか駅の本屋の閉じられて バスを待つ間の手持ち無沙汰よ」(岸和田市) 高槻銀子



10.海悠出版が破産。
 同社は1992年創業で、月刊誌『磯・投げ情報』、ムック「磯釣り秘伝」「釣り場ガイド」「友釣り秘伝」シリーズなどを刊行していた。2008年には売上高2億5000万円を計上していたが、今年7月に事業を停止。負債は1億700万円。

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11.モーニングデスクが事業停止。
 同社は1987年創業で、92年に創刊した演劇・ミュージカルの月刊誌『シアターガイド』などを刊行していた。
 インターネットや競合誌の影響を受け、3期連続赤字だったとされる。

シアターガイド


12.月刊誌『GG』を発刊していたGGメディアが破産し、負債は1億3700万円。
 この倒産の内幕は『週刊文春』(11/29)の「ちょいワル雑誌名物編集者の“極悪”倒産」としてレポートされている。

GG 週刊文春

 図らずもから12まで書店と出版社の倒産が続いてしまったけれど、それらに象徴されるように、出版業界は多くの難民を生じさせているといっていい。しかしもはや受け入れ先は少なく、同じ出版業界内での再就職は本当に難しい状況となっている。
 これは親しい古本屋から聞いた話だが、ある古本屋がハローワークに2人の求人を出したところ、数百人が殺到し、それぞれ面接して採用する時間がとてもとれないので、求人そのものを取り止めてしまったという。
 このエピソードこそは出版業界難民、及び出版物関連仕事に従事したい多くの人々の存在を物語っている。



13.ジェシカ・ブルーダー『ノマド』(鈴木素子訳、春秋社)を読んだ。

 これは偶然ながら、今月読み終えたところで、サブタイトルには「漂流する高齢労働者たち」が付されている。
 2008年のリーマン危機に見舞われ、住宅を手離し、キャンピングカーやトレーラーハウスによる車上生活者となり、季節労働を求めて移動する高齢者たちを描いている。まさにアメリカの膨大な高齢者たちが文字どおり「ノマド」として暮しているのである。
 その第5章は「アマゾン・タウン」と題されている。そこでは63歳のリンダが季節労働者のためのアマゾンの労働プログラムである「キャンパーフォース」に雇用され、その倉庫労働の実態を伝えている。
 それはアマゾンの便利さがリンダのような「ノマド」によって支えられていること、またアマゾンが成長すればするほど、さらなるグローバルな「ノマド」を生み出していくことを意味していよう。
ノマド: 漂流する高齢労働者たち



14.『DAYS JAPAN』(12月号)が届き、読み終えると、巻末に「DAYS JAPAN休刊のお知らせ」があることを知った。
 そこには2004年3月創刊で、来年19年3月号(15周年記念号)をもって休刊するとあった。そして休刊の理由が挙げられている。
 「まず経営上の理由です。出版不況の中、定期購読者数が落ち込み、同時に書店での購読者数も減少しました。世界の出版業界を襲った紙離れ、書籍離れの傾向に飲みこまれた感じになりました。この経営上の問題は、どうにも解決法が見つかりませんでした。」

 その他にも発行人の広河隆一の病気による体力と気力の減退、後任の代表者が見つからないことなどから、会社も解散せざるを得ないことが語られている。
 かつて『DAYS JAPAN』が講談社から発刊されていたことを考えれば、「DAYS JAPANは二度死ぬ」という事態を迎えてしまったのである。
 それでもずっと定期購読していたことで、少しばかり併走できてよかったと思うしかない。
 小学館の『サピオ』も不定期刊ということは、遠からず休刊となるのだろう。
DAYS JAPAN サピオ



15.『創』(12月号)が特集「どうなる『週刊金曜日』」を組み、『創』編集部「創刊25周年を迎えた『週刊金曜日』が立たされた岐路」、及び佐高信「『金曜日』編集委員を辞任した理由」と北村肇「『金曜日』存続のために奇跡を信じたい」を掲載している。

創 週刊金曜日

 これらは読んでもらうしかないが、『週刊金曜日』が存続できたのは、『買ってはいけない』の大ベストセラー化による資本蓄積だと承知していたけれど、それでもそれが4億円に及ぶことまでは、北村文を読むまで知らないでいた。それに現状の定期購読数が1万3000部強、当期決算は4390万円の赤字だということも。
 私は雑誌出版の経験がないので、実感がわかないが、雑誌、とりわけ週刊誌は採算ベースを割ると急速に赤字が増えていくことだけはわかる。
 それは14『DAYS JAPAN』も同じだし、他のすべての雑誌にも忍び寄っている危機なのであろう。



16.続けて雑誌をめぐる休刊や危機にふれてきたが、日本ABC協会の2018年の上半期の「雑誌販売部数」が公表され、『文化通信』(11/29)になどに掲載されている。
 それによれば、報告誌販売部数は週刊誌34誌が前年同期比9.2%減、月刊誌115誌が10.0%減、合計で9.7%減となっている。
 前期比、前年同比でともにプラスだったのは15誌で、そのうちの6誌は『ハルメク』(ハルメク)などの女性誌である。
 デジタル版報告誌は93誌で、前期比3.9%減、読み放題UU誌は報告誌93誌で、前期比10.5%増となっている。
 なお『FACTA』(11月号)にも、ABC協会のデータに基づく10年で販売総額が半減した主要120誌調査が「雑誌メディア『ご臨終』」として報告されていることを付記しておく。

 ABC協会の報告誌には挙げられていないけれど、晋遊舎の女性誌『LDK』、モノ雑誌『MONOQLO(モノクロ)』『家電批評』などが売れているようだ。それで書店だけでなく、ブックオフなどで見かけるのだろう。
 これらはメーカーの広告を掲載せず、製品性能を調査する雑誌で、『暮しの手帖』を想起させる。その晋遊舎の西尾崇彦社長が、『日経MJ』(10/29)の「トップに聞く」に登場している。
 やはり『暮しの手帖』と比較されるのではないかと問われ、次のように応じている。

「我々も商品テストだけの本を出したこともありますが、驚くほど売れませんでした。日本ではエンタメにしないとダメですね。当社のキャッチコピーを『遊びある、ホンネ。』としたのはそれからです。テスト誌って反戦や反原発とか社会派になりがち。否定はしませんが、我々は楽しく商品を選んでもらう」



 確かに現在では「エンタメ」とイベントの時代といえるし、晋遊舎の雑誌は「楽しく商品を選んでもらう」ということで、それらを体現していることになろう。この視点から見れば、「社会派」の『DAYS JAPAN』『週刊金曜日』が休刊や危機に追いやられていく雑誌状況、いやそれだけでなく、出版業界と出版物全体の現在すらも浮かび上がってくる。それをこちらも「否定しませんが」、いつまで続くのか気になるところだ。
 西尾は晋遊舎に「商品ジャーナリズムの拠点になる可能性」を見ているので、その「壮大な夢」の実現を期待しよう。

LDK MONOQLO(モノクロ) 家電批評 暮しの手帖



17.高須次郎の『出版の崩壊とアマゾン』(論創社)がようやく刊行の運びとなった。
 それこそ、高須の緑風出版は「反戦や反原発とか社会派」の「拠点」でもあるが、「エンタメ」ではない出版業界の現在を知るために一読をお勧めする次第だ。
出版の崩壊とアマゾン


18.論創社HPの「本を読む」㉞は「美術出版社『美術選書』、宮川淳『鏡・空間・イマージュ』、広末保『もう一つの日本美』」です。