出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル122(2018年6月1日~6月30日)

 18年5月の書籍雑誌推定販売金額は846億円で、前年比8.7%減。
 書籍は433億円で、同8.8%減。雑誌は413億円で、同8.5%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が322億円で、同9.6%減、週刊誌は90億円で、同4.7%減。
 返品率は書籍が43.7%、雑誌が48.6%。
 雑誌返品率は16年12月以来、初めて前年を下回ったとされるが、週刊誌の39.5%はともかく、月刊誌は前年5月期の51.0%と同様に50.7%と、50%を超えてしまっている。
 ムックなどの返品率改善にもかかわらず、トータルとしての雑誌の凋落は加速していくばかりだ。
 それに6月は大阪北部地震によって、詳細はまだ伝えられていないが、大型店を中心に30店ほどに被害が生じたとされる。被害や影響が少ないことを祈るしかない。
 その後の余震や各地での地震の発生も起きているので、今年はそれらによる出版物販売金額の落ちこみも考慮すべきかもしれない。


 
1.アルメディア調査によれば、2018年5月1日時点での書店数は1万2026店で、前年比500店の減少。
 売場面積は130万8227坪で、やはり3万3750坪の縮小。
 1999年からの書店数の推移を示す。

■書店数の推移
書店数減少数
199922,296
200021,495▲801
200120,939▲556
200219,946▲993
200319,179▲767
200418,156▲1,023
200517,839▲317
200617,582▲257
200717,098▲484
200816,342▲756
200915,765▲577
201015,314▲451
201115,061▲253
201214,696▲365
201314,241▲455
201413,943▲298
201513,488▲455
201612,526▲962
201712,026▲500

 秋田県の1店増加を除く全都道府県で減少。その中でも大阪府は46店、東京都は39店、北海道37店、神奈川県34店、兵庫県30店のマイナスで、都市から書店が消えていることを伝えている。
 だが減少が少ない地方においても、鳥取県、島根県、徳島県、高知県、佐賀県、宮崎県はそれぞれ99店から67店で、すでに100店を割り、それは来年には倍の県に及ぶだろう。
 またアルメディアの書店数は売場面積を有しない本部、営業所などの1296店を含んでいるので、実際の書店数は1万730店となる。

 雑誌と円本の時代を担った昭和初期、1927年には書店は1万店を超え、戦後の1960年代には2万6000店に至ったとされる。その販売インフラとしての中小書店が出版業界の成長を支えていたのだと実感できるし、それと逆行する「書店数の推移」こそが、出版業界の危機の最大要因だったとわかるだろう。

 これも本クロニクルで繰り返し書いてきたけれど、文化、教育、通信インフラとしての書店、小学校、郵便局は20世紀までは共通して2万を超えていた。ところが書店だけは21世紀に入り、その半分となり、実質的に来年は1万店を割ってしまうことが確実である。
 それはマクロ的に見るならば、出版だけでなく、日本の文化、教育、通信の分野における、かつてないパラダイムチェンジを告げているし、生活や産業の全領域に及んでいるだろう。これからはそれがさらに現実化していくと思われる。



2.アルメディアによる「取次別書店数と売場面積」も挙げておく。

■取次別書店数と売場面積 (2018年5月1日現在、面積:坪、占有率:%)
取次会社書店数前年比(店)売場面積前年比平均面積売場面積占有率前年比
(ポイント)
トーハン4,488▲130494,271▲8,93711037.80.3
日本出版販売4,252▲222662,540▲14,98415650.60.1
大阪屋栗田1057▲72116,898▲9,4811118.9▲0.5
中央社408▲721,458▲135531.60.0
その他962▲1813,060▲213141.00.0
不明・なし08000000.0
合計11,167▲4491,308,227▲33,750117100.0

 前年のデータは『出版状況クロニクルⅤ』を見てほしいが、17年はこれまでと異なる動向が浮かび上がってくる。
 それは日販の222店の減少で、前年は159店のプラスだったわけだから、ここで出店から閉店へとシフトしていったことが歴然である。この事実が本クロニクルで指摘してきた「日販非常事態宣言」、及び取次業の赤字とパラレルであることはいうまでもない。

 しかも今回の「取次別書店数」は、売場面積を公開しているカウント書店数1万1167店となっているので、前年の1万2526店と比較すれば、1359店のマイナスである。それは実質的に外商、もしくは清算のための本部、営業所としてだけ残っている書店が増えていること、ここに示されている以上に閉店や撤退が多発していることを告げているのだろう。

 さらに売場面積別にみると、100坪から499坪までが3427店、面積占有率56.2%で、前年比2万6529坪減と最も多くなっていることからすれば、大型店の閉店、撤退がさらに起きてくると考えられる。
 これらの3427店に500坪以上の454店を加えると、何と面積占有率は84.5%に及んでしまう。ちなみに300坪以上でも51.7%となる。それは取次の問題が大型店にあること、書店にとっては大型店の運営が困難な状況に追いやられていることを意味していよう。つまりそれは取次と書店の双方にとっても、大きすぎてつぶせないというバブル崩壊の典型的危機の再現を迎えていると思われる。
出版状況クロニクルⅤ



3.大阪屋栗田の、楽天をメインとする新たな「経営執行体制」文書が、「平成30年5月吉日」の日付入りで届いた。

 『出版状況クロニクルⅣ』において、2013年からの大阪屋危機、14年の講談社の大竹深夫の社長就任と増資、15年の栗田の民事再生と大阪屋への統合、その再生スキーム問題と大阪屋栗田の発足を詳細にレポートしてきた。

 そして再生大阪屋に関して、「大手出版社に取次の経営などできるはずもない。そのことは講談社、小学館、集英社にしても、今回選ばれた5人(注―講談社などの出身の役員)にしても、よく自覚しているはずだ。取次の根幹は金融とロジスティクスであり、大手出版社の営業経験は役に立たないからでもある」(p360)と述べておいた。また大阪屋栗田再生スキームについても、「明らかに破綻している現在の正味体系に基づく再販委託制の先送りに他ならず、大阪屋に統合されたとしても、それは同じことの繰り返しだし、行き詰まることは目に見えている」(p622~23)とも書いておいた。

 実際に大阪屋栗田が発足したのは16年4月だから、結果としてわずか2年で講談社を始めとする大手出版社はギブアップし、楽天へ丸投げしてしまったことになる。
 それは楽天との何らかの密約を疑われても仕方がないし、栗田再生スキームで中小出版社に多大な損失を与えたことを考えれば、無責任の極みというしかない。まさに前回ふれた、書協による消費税の内税決定と共通している。

 しかしさらに問題なのは、出資額は非公表だが、大阪屋栗田が楽天の完全な子会社となってしまったという事実であろう。もはや出版業界の取次ではなく、ネット企業の一子会社に過ぎず、まさに書店の取次としてのポジションを維持していくはずもない。2で示したように、大阪屋栗田帳合の書店は1057店であり、それらの峻別が始まり、優良店と不良店、売掛金の多寡と担保力、売上状況などを通じて、書店選別とリストラに向かうと考えたほうがいいだろう。その際に帳合変更ができる書店はサバイバルできるとしても、そうでない場合は閉店と清算を迫られることになるかもしれない。

 それに楽天にとって、現在の大阪屋栗田の子会社化が、とりわけ利益をもたらすものではない。ただ細野裕二が「楽天―非上場株で『膨らし粉』経営」(『FACTA』7月号所収)で指摘しているような効果はあるかもしれないが。この記事を読んで、取次の書店の「囲い込み」にしても、CCC=TSUTAYAの出版社などの買収にしても、同じような「『膨らし粉』経営」の一環ではないかとも思われた。だがこれは専門的事柄に属するので、そのうちに専門家に問うてみるつもりである。
出版状況クロニクルⅣ



4.日販の連結子会社28社を含めた連結売上高は5790億9400万円で、453億円の減収となり、前年比7.3%減だが、営業利益23億6600万円、同7.2%増、経常利益25億5000万円、同5.9%増。
 そのうちの取次事業売上高は5462億3800万円、同7.7%減、経常利益は14億円減の14億800万円、同49.8%減。
 日販単体の取次売上高は4623億5400万円で、400億円の減収となり、同8.0%減、営業利益は5億100万円、同69.7%減、経常利益は10億1600万円、同54.5%減と大幅減益。
 これはコンビニルート赤字拡大、運賃値上げによる出版流通業の5億5000万円の営業損失、雑誌営業利益が5億1800万円にとどまり、書籍赤字25億7800万円を吸収できなかったことなどが主たる要因とされる。

 その結果、取次事業は創業以来の赤字となったが、大幅な経費削減とグループ書店小売業、不動産事業などが貢献し、連結では増益を確保したとされる。

 連結、取次事業、日販単体と意図して錯綜させるかのような決算発表で、しかも実際の赤字額、及び例年報告されているMPDの業績は公表されていない。そこで後者に関して、取次事業と日販単体データから見てみる。そのためにまず、日販単体売上高を挙げておく。


■日販 単体売上高 (単位:百万円、%)
金額増加率返品率返品率
前年差
書籍227,948▲4.931.30.9
雑誌150,440▲10.045.52.2
コミックス64,706▲11.833.04.0
開発商品27,535▲12.845.03.4
470,631▲8.037.61.9


 連結ベースでの取次事業売上高は5462億3800万円とされているので、日販単体売上高を引くと、756億円で、それに様々なレンタル、FCビジネスなどの売上が加わり、MPDビジネスは形成されていたと考えられる。本クロニクルでこのMPD売上高も、発足以来ずっと追跡してきているが、前期は1880億円で、前年比0.7%の減だった。
 しかしで見たように、日販帳合書店は前期と逆行する閉店ラッシュといっていいし、それはTSUTAYAを中心とするもので、MPDを直撃したはずだ。それゆえに業績は急激に悪化し、それが公表できなかった理由となろう。
 日販単体分野別売上高のマイナス、返品率だけを見ても、流通業として臨界点に達していることは明らかで、それにブラックボックスと化したようなMPDとCCC= TSUTAYAを抱えているし、スパイラル的に危機は深まっていくばかりだろう。

 そのかたわらで、日販の そら植物園との合弁会社日本緑化企画の設立、文教堂との文具卸の中三エス・ティの買収などが起きているが、試行錯誤の印象を与えるだけである。



5.トーハンの単体売上高は4274億6400万円で、338億円の減収となり、前年比7.4%減。
 取次事業は運賃値上げ分6億円などから5億6000万円の営業赤字。ただコンビニルートは黒字。
 不動産などのその他事業を加えても、単体営業利益は50億3200万円、同23.2%減。経常利益は30億1000万円、同28.7%減、当期純利益は18億1800万円、同40.3%減。
 連結売上高も4437億5100万円、同6.8%減。
 トーハンは藤井社長が顧問、近藤敏貴副社長が代表取締役社長、川上専務が代表取締役副社長に就任すると発表。

 日販と比べて、MPDとCCC= TSUTAYAを抱えていないだけに、シンプルな決算発表といえるし、赤字額も公表されている。こちらもその売上高内訳を挙げておこう。


■トーハン 売上高 内訳(単位:百万円、%)
金額増減額前年比返品率
書籍174,058▲6,89996.141.2
雑誌143,714▲19,27988.149.5
コミックス43,976▲8,07984.433.2
MM商品65,714382100.514.8
427,464▲33,87592.640.9


 トーハンの場合も、日販の「開発商品」に当たる「MM商品」がプラスとなっていることを別にすれば、出版物取次事業の分野別売上高マイナス、返品率状況はまったく同じであるといっていい。

 決算発表で、川上専務が雑誌の192億円マイナスに関して、「ここまで落ちるとは思わなかった」と語ったとされるが、2018年の本クロニクルの毎月のリードでレポートしているように、さらに加速しているのである。
 また近藤社長就任の言として、「一致団結して、街の本屋さんがやっていける態勢をつくっていくことが私の使命」とあるが、本当に現在の書店状況を認識しているのだろうか。
 トーハンにしても、「囲い込み」書店を始めとする閉店は避けられないだろうし、日販と同様に大手取次の危機もさらに顕在化していくであろう。



6.4と5の取次状況を受け、『日経新聞』(6/2)が「出版取次、苦境一段と」という記事を発信し始めている。
 それは書籍が赤字事業であること、物流費の高騰などが挙げられ、日販が大手出版社100社に対し、雑誌の運賃協力金の引き上げや書籍の定価値上げを要請しているという内容である。
 また『朝日新聞』(6/21)も「出版流通機能の限界」、『読売新聞』(6/23)も「雑誌離れ 苦しむ出版流通」と題し、同様の記事を掲載している。

 だがこれらの記事は、日販などの取次リリースにそのままよったもので、本質的な出版危機の実態をミスリードする危惧を孕んでいる。出版社が物流コストの負担と仕入れ正味を引き下げれば、問題が解決するような出版状況ではないのだ

 本質的には再販委託制に基づく近代出版流通システムがすでに崩壊から解体過程に入っていることが問題なのである。それは本クロニクルがずっとレポートしてきたように低正味買切制といった現代出版流通システムを確立することなく、1980年代から始まった郊外店出店ラッシュと商店街の中小書店の大量閉店、90年代からの複合店と大型店の相次ぐ出店による書店の減少、公共図書館の増加、今世紀に入ってのアマゾンの隆盛と電子書籍の成長などが絡み合っている

 それらが要因として重なり、書店と出版物販売金額を半減させたことによって、必然的にトータルとしての出版業界の歴史的、構造的危機が生じてしまったのである。それが総合取次においても、2010年代から現実化してきたというしかない。そのような出版状況を直視することなく、ここまできてしまった大手取次自身が招来した象徴的な帰結だともいえよう。



7.地方・小出版流通センターの決算も出された。
 今期は売上高10億1259万円で、前年比3.3%減、当期純損失282万円と、前期に引き続き赤字決算。
 それを報告した「地方・小出版流通センター通信」(No.502)に次のような一文があったので、それを引いてみる。

 偶然に旅行中の日曜の地元の「岩手日報」の読者の広場という紙面で、かつてカリスマ店長と言われ、現在は一関市立図書館の副館長をされている伊藤清彦さんが「消えていく小出版社―多様性を失う危機感」という見出しで寄稿されていました。「ここ20年余で4分の1の出版社消え、そこが出していた出版物は絶版となりもう日の目は見ない。そして自分が大事に読み続けている本は小さな出版社の本が多く、図書館にもほとんどない。それがつぶれている。~多様性という側面からも今の時代の流れには危機感を覚える」と。

 伊藤は『盛岡さわや書店奮戦記』(「出版人に聞く」シリーズ2)刊行後に、図書館の副館長に迎えられたようで、本当によかったと思う。
 しかし現在の出版状況において、図書館どころか、同じ出版業界で職を得ることすらも困難だし、かつての旧リブロと地方小は書店員のリクルート、転職のハローワーク的役割も果たしていたが、それも昔語りになってしまった。それに加えて、多くの人々にとってアジールでもあった出版業界は、もはや存在しないといっていい。出版物売上のマイナスもさることながら、そちらが大きな損失のように思える。
盛岡さわや書店奮戦記



8.小学館の売上高は945億円、前年比2.8%減、経常利益は3億円の黒字だったが、当期損失は5億7200万円で、3年連続の赤字。
 売上高のうちの「出版」は568億円、前年比6.7%減。その内訳の雑誌は250億円、同8.5%減、書籍105億円、同11.8%減、コミックは192億円、同0.4%増で、「雑誌は底なしの状態が止まらない」とされる。

  小学館の赤字決算も、の日販やトーハンの取次業赤字と確実にリンクし、大手出版社の雑誌をベースにして構築された近代出版流通システムが、解体に向かっていることを告げていよう。
 これまで見てきたように、現在の出版業界の問題はいずれも大手の取次、出版社、書店をめぐって噴出してきていることが了解されるし、この3者の金融、支払いシステムが危機を迎えているのだ。

 取次正味問題に関しても、中小出版社の場合は実質的に60%と見ていいし、最初から仕入れ条件見直しなどは論外なのである。しかもそれらの中小出版社が大半であることはいうまでもないだろう。



9.白泉社は月刊少女コミック誌『別冊 花とゆめ』、月刊青年コミック誌『ヤングアニマル嵐』を休刊。
 前者は1977年創刊で、『ガラスの仮面』、後者は2000年創刊で、『ふたりエッチ』などを連載していた。
 集英社も女性コミック誌『YOU』を休刊。1980年創刊で、『ごくせん』などを連載。

ガラスの仮面 ふたりエッチ ごくせん』

 の小学館ではないけれど、いずれも一ツ橋グループにおけるコミック誌の休刊であり、「雑誌は底なしの状態が止まらない」ことを象徴するかのような例として、続けて挙げてみた。
 私にしても、本誌は読んでいないけれど、『ガラスの仮面』『ごくせん』は読んでいる。そういえば、『ガラスの仮面』はどこまで読んだのかを忘れてしまった。
 それは無理もないことで、30年近く前だったのであり、ヒロインと異なり、こちらも歳をとってしまったことを実感してしまう。



10.三洋堂HDの売上高は213億2700万円、前年比3.6%減。
 営業利益2億4600万円、同3.6%減、経常利益2億7700万円、同1.1%増。
 当期純利益500万円、同91.6%減。
 部門別売上高は「書店」134億1400万円、同5.0%減で、既存店売上は5.5%減。「レンタル」26億2400万円、同9.0%減、「セルAV」15億700万円、同3.0%減、「文具、雑貨、食品」18億7000万円、同0.8%減。「TVゲーム」8億8900万円、同10.9%増。これはNintendo Switch効果。
 「古本」5億8100万円、同1.4%増。「新規事業」は教室、フィットネス・ランドリー・カフェを合わせて、1億7800万円、同156.3%増。期末書店数は83店。

 上場企業の大手書店チェーンの現在を示すものとして、少しばかり詳細に紹介してみた。
 三洋堂はバラエティショップの試みに加え、営業時間短縮や集中カウンター化を推進したが、雑誌とコミックの凋落で苦戦し、加藤社長の言によれば、「かつかつの黒字」を計上したことになる。しかし今期の業績予想は売上高200億円、当期純損失3億円と見込まれ、出口なしといった状況が続いていくことを告げている。
 ここまできて、大手出版社、取次、書店の現在状況を提出したことになろう。



11.ゲオHDの連結決算は、売上高2992億円、前年比11.6%増、営業利益146億円、同69.3%増、当期純利益66億円、同56.6%増。

 この好決算は、10の三洋堂の「TVゲーム」と同様に、任天堂の家庭用ゲーム機とそのソフトの売上の寄与だとされ、来期連結業績売上高2900億円と、マイナス見込みとなっている。
 こうしたゲオの動向が、提携しているトーハンにどのような影響を及ぼしているのかは詳らかでないが、「囲い込み」書店の複合化、業態転換には関係しているはずだし、三洋堂ともリンクしているように思える。



12.地図ガイドの昭文社の決算は、売上高91億円、前年比11.2%減、当期純損失17億円。
 減収の主要因は「電子売上」23億円、同18.4%減、「市販出版物」53億円、同8.6%減による。
 前者の大きなマイナスはスマホによる無料ナビアプリの影響で、カーナビ売上が減少したこと、大型継続案件の失注によるとされる。

 『出版状況クロニクルⅤ』でもふれておいたが、「市販出版物」の低迷は専門取次の日本地図共販を失ったことも影響しているのだろう。それこそ地図共取引書店は最盛期に、現在の書店数を超える1万5000店を抱えていたと推測されるからである。
 もちろん地図の電子化も作用していようが、そうした流通販売インフラが解体された後に生じた事態だと見なせよう。



13.NET21が出版社の選ぶ既刊本を低正味で仕入れて販売する「ストックブック・プライオリティ・セール」(SPS)のテスト販売を開始。
 委託品は58%、買切品は25%の正味条件。
 取次はトランスビューで、出版社は納品運賃、1タイトルにつき3000円、納品1冊に対し50円を、書店も1冊に対し50円、販売金額の3%をそれぞれトランスビューに支払う。
 まず出版社の5社の提案する20点の実用書を20書店でテスト販売。


14.出版梓会が、29社で20%から30%引き販売商品約1000点を直接取引で出荷。
 それは大垣初手に御モールKYOTO店、丸善京都本店、ふたば書房御池ゼスト店の3店で、昨年に続き、「京都『読者謝恩』ブックフェア」を開催。

 これもなどの取次の動向に対しての書店や出版社からの時限再販販売の試みといっていいだろう。
 この2つの試みが定着すれば、八木書店の他にもバーゲン本市場が出現することになるのだが、八木書店のように、そのための常設フロアを持つことは難しい。とりあえず、後者は二度目であるので、販売結果を公表してほしいと思う。



15.『キネマ旬報』(5/下)が「映画本大賞2017」を掲載している。
 第1位は『田中陽造著作集 人外魔境篇』(文遊社)である。

キネマ旬報 田中陽造著作集 人外魔境篇

 これは昨年4月の刊行なので、前回と異なり、幸いにして読んでいる。
 田中が鈴木清順の『殺しの烙印』『ツィゴイネルワイゼン』などの脚本家であることは承知していたが、『週刊サンケイ』の記者だった下川耿史に誘われ、1970年代初めにルポライターを務めていたことは聞いていなかった。
 それらは「人外魔境―異能人間たち」や「犯罪調書」として、同書に初めて収録され、脚本と通底する「人外魔境」的世界を堪能させてくれると同時に、かつての映画をめぐる奇妙な人脈をも想起させたのである。

 手元にDVD『愛欲の罠』がある。これは73年の日活映画で、制作は天象儀館、監督は太和屋竺、脚本は田中、撮影は朝倉俊博、主演は荒戸源次郎という組み合わせで、これが『ツィゴイネルワイゼン』へと結びついていったとわかる。

 それとはまったく関係ないのだが、出席できなかったけれど、リベルタ出版の80人ほどの「卒業式参列者」リストが届いた。それを見ると、出版をめぐる70年代までの左翼出版人脈交錯図を彷彿とさせるものだった。田中の映画人脈と重なるものではないが、かつてどのような領域にもあった、ひとつの不可視のコミュニティを思い出させてくれた。
 出版業界の崩壊はのアジールばかりでなく、このようなコミュニティの成立も不可能にしてしまったと痛感してしまう。
殺しの烙印 ツィゴイネルワイゼン 愛欲の罠



16.吉本浩次のコミック『ルーザーズ』第1巻が双葉社から出された。
 これはサブタイトルに「日本初の週刊青年漫画誌の誕生」とあるように、双葉社の『週刊漫画アクション』創刊の物語である。

ルーザーズ f:id:OdaMitsuo:20180628133614j:plain:h110

 『漫画アクション』は1967年の創刊で、第1巻ではモンキー・パンチの『ルパン三世』を売り出そうとするところまで描かれている。だが私などにしてみれば、小池一夫作、小島剛夕画『子連れ狼』とバロン吉元『任侠伝』であり、酒場などに置かれていた『漫画アクション』を読んだものだった。
 まだそこまではうかがえないが、『漫画アクション』の成功が、その編集長清水文人を双葉社の社長へと至らしめたのであろう。
 その一方で、『倶楽部雑誌探究』(「出版人に聞く」シリーズ13)の塩澤実信は同じ双葉社の『週刊大衆』の編集長を務めていたのである。それゆえに、同書が双葉社の大衆雑誌の記録であることに対し、『ルーザーズ』は双葉社のコミックを中心とする、もうひとつの出版史を形成していくことになろう。
 なおやはり同年に創刊された少年画報社の『ヤングコミック』に関しては、「本を読む」㉗として、「岡崎英生『劇画狂時代』とシリーズ《現代まんがの挑戦》」を書いているので、よろしければ参照されたい。
倶楽部雑誌探究



17.「新興古書会創立八十年記念目録」として、『新興古書大即売展略目』が届いた。
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 これは古本ではなく、まさに古書を中心とする、目も鮮やかなるカラー図版を多く収めた目録で、門外漢ながらすっかり楽しませてもらった。
 それに加えて、九蓬書店の出品した山中共古蒐集諸家染筆帳である『奉加帳』は一度手にとって見たいと思わせるものだった。説明によれば、これは横中本総376丁、明治33年から大正12年にかけて、共古が500名に及ぶ諸家の揮毫を求めて蒐集し、裏面に共古による諸氏略伝有とのことだ。
 私は山中共古の『見付次第/共古日録抄』を刊行していることもあり、ほしいと思うけれど、古書価は120万円近いので、如何せん手が出ない。そのような訳で、見る機会が得られればと念ずるしかない。だがこれはその存在も知らなかったし、誰がどこに架蔵していたのだろうか。

見付次第/共古日録抄



18.『出版状況クロニクルⅤ』は『読売新聞』(6/10)に紹介記事は見られたが、例によって書評はひとつも出ない。これも現在の出版業界を象徴していることになろう。

 また最近、鄭義信監督の映画『焼肉ドラゴン』を見てきたばかりだ。これも書評はまったくといっていいほど出なかったが、拙著『郊外の果てへの旅/混住社会論』と問題は通底していて、いずれ言及してみたいと思う。
 まだ半年すぎたばかりだけれど、18年の映画ベスト1として推奨したい。
f:id:OdaMitsuo:20180630203428j:plain 郊外の果てへの旅(『郊外の果てへの旅/混住社会論』)

 今月の論創社HP「本を読む」㉙は「安原顕、竹内書店、『パイディア』」です。