出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル127(2018年11月1日~11月30日)

 18年10月の書籍雑誌推定販売金額は991億円で、前年比0.3%減。1%未満のマイナスは16年12月以来である。
 書籍は485億円で、同2.5%増。雑誌は505億円で、同2.8%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が404億円で、同0.3%減、週刊誌は100億円で、同11.5%減。
 返品率は書籍が41.1%、雑誌が39.3%。
 ただ書籍のプラスは送品が多かったこと、月刊誌の1%未満マイナスも、大手出版社のコミックスの値上げと返品率の改善によるものとされる。
 それらもあって、10月の前年マイナスは2億円で、一息ついたといえるが、返品率はやはり高止まりしている。
 残りの11月、12月の売上状況はどうなのか。18年最後の月が始まろうとしている。
 『旧約聖書』でいうところの「逃れの町」ならぬ、「逃れの月」となるであろうか。
 


1.日販の『出版物販売の実態2018』が出され、『出版ニュース』(11/上)に「販売ルート別出版物販売額2017年度」と「同推移グラフ」が掲載されている。ここでは前者を示す。

 

■販売ルート別推定出版物販売額2017年度
販売ルート推定販売額
(百万円)
構成比
(%)
前年比
(%)
1. 書店1,024,99063.294.1
2. CVS157,6469.784.8
3. インターネット198,77012.3108.6
4. その他取次経由73,8134.593.5
5. 出版社直販167,08310.390.4
合計1,622,302100.094.2

 出版科学研究所による17年の出版物販売金額は1兆3701億円、前年比6.9%減だったのに対し、こちらは出版社直販も含んで1兆6223億円、同5.8%減となる。
 しかし今月の問題に絡んで注目すべきは、書店とコンビニの大手取次ルート販売額であろう。本クロニクルでたどってきているように、18年のマイナスも明らかだ。書店は1兆円を下回り、初めてシェアの10%を割り、前年比15.2%減のコンビニも1500億円台を維持できないだろう。これは言うまでもないけれど、コンビニは雑誌をメインとしているので、雑誌はさらにマイナスが続いていくことも確実だ。

 そしてさらに流通の現在を見てみると、書店が1万店、コンビニが5万店という配置になっている。それを出版物販売額に当てはめ、概算すれば、年商で書店は1億円、コンビニは300万円で、もはや後者が取次にとって赤字になることは歴然であろう。かつての小取次の書店採算ベースが月商100万円、つまり年商1200万円とされていたから、現在のコンビニはその4分の1の売上しかない。
 それでも2000年代までは出版物販売額が2兆円を超え、書店数も2万店を保っていたからこそ、コンビニの流通アンバランスは露出していなかった。だが雑誌の凋落に伴う出版物販売額のマイナスと書店数の半減、それと逆行するコンビニの増加は、まさにいびつな流通状況を浮かび上がらせ、それがこの「販売ルート別出版物販売額」にも表出しているのである。

 取次にしてみれば、コンビニの雑誌売上が伸びていた時代には、コンビニ本部からの一括支払いによるメリットが認められていたにしても、現在ではもはや赤字を重ねるだけの流通になっている。
 だが恐ろしいのは書店とコンビニの店数から見れば、週刊誌の売上はコンビニに依存している。だから大手取次にすれば、コンビニは赤字だが、大手出版社の週刊誌などはコンビニが生命線ともいえるのである。まさにいびつな構造というべきであろう。



2.『新文化』(10/25)が「出版輸送重量運賃制にメスを」との大見出しで、東京都トラック協会 出版・印刷・製本・取次専門部会の瀧沢賢司部会長(ライオン運輸社長)にインタビューしている。それを要約してみる。

* 同部会の企業数は23社で、1969年の設立時に比べると、本を手がけなくなった会社が増え、3分の1になっている。
* 「出版物関係輸送の経営実態に関するアンケート」を行った結果はほとんどの会社において、「経営が成り立っていない」というものだった。その原因は荷物の重さに応じて荷主が支払う重量制運賃で、出版業界が右肩上がりだったときは非常に有難かったが、売上減少の現在では採算ベースに追いつかない。
* さらに原油価格、人件費、車両価格の高騰、ドライバーの高齢化、人出不足による長時間労働が重なり、今後も業量の減少とコストが上がり続けるようであれば、出版輸送から撤退する運送会社も出てくるだろうし、出版輸送は赤字だから関わらないほうがいいという声も上がっている。
* ライオン運輸も10月から一部運賃の値上げの実施を得たが、重量制運賃はそのままなので、今後の業量減少が止まらなければ、問題は再熱するし、今回の値上げで問題解決にはならない。
* 深夜配送の主な業務は書店とコンビニへの書籍、雑誌の配送だが、雑誌売上低迷による経営ダメージが増大している。
* とりわけコンビニ配送の落ち込みは深刻で、日販から書店、コンビニへの店舗配送を受託しているが、事前の集荷、仕分け、コース別積込などの手順があり、多くの手間がかかり、専業にならざるを得ない。9月は百万円単位のマイナスが生じ、様々な現況を考えると、いつまでこの業務が続けられるかとも思う。
* 昨年からの土曜日休配にしても、ドライバーの夏の体力の消耗は防げたが、稼働日数が減り、売上に影響したことは否めない。人手不足もあって、ドライバーの労働時間の短縮は重要だが、賃金が低いので、求人を出しても若い人からの応募はない。
* コンビニの店舗が増え続けているのに、業量は減少し、収入減、経費増という収支バランスが悪化する一方で、適正な運賃の収受とコンビニ配送などの改善が必要だ。
* 出版社や書店に対して、本の価格には原稿料、印刷、製本だけでなく、運送料も含まれることを自覚してほしいし、ネット上の送料無料にしても、それは業者が負担している。もはや出版輸送事業者の現状からすると、負担の限界を超えており、明日にでも出版輸送が止まってしまってもおかしくない状況にある。出版業界に関わっている人たちにはこの現実を直視してほしい。
* ただこれまでの荷主との交渉は手詰まり感があり、トラック輸送のあるべき姿を検討、対策を進めている国土交通省にも改善に向けての協力を求めていきたい。


 と密接に関連する出版輸送の現場の声なので、詳細に挙げてみた。
 瀧沢部会長へのインタビューは『出版状況クロニクルⅤ』の17年1月のところでも紹介しておいたが、「一部運賃の値上げ」を除いて、その現況はまったく変わっていないし、さらに悪化しているとわかる。
 結局のところ、大手出版社と大手取次による低定価の雑誌をベースとする大量生産、大量流通、大量販売システムは、これまた低コストの「重量運賃制」に支えられていたことにつきるし、もはやそれも限界に達している。
 それは出版輸送における「重量運賃制」そのものが再版委託制と同様に、「出版業界が右肩上がり」であれば有効だが、現在のような状況では「経営が成り立っていない」。それゆえにこれは出版輸送の問題だけでなく、出版社、取次、書店の全分野に及んでいると見なすことができよう。
出版状況クロニクル5



3.11月19日付で、日販、トーハンより「物流協業に関する検討開始のお知らせ」が届いた。これは両社のHPに掲載されている。
 両社は4月19日から、公取委に物流協業に関する事前相談を行い、10月12日にその回答を得て、今回の基本合意書締結に至ったとされる。
 この「お知らせ」は社名が異なるだけなので、日販のほうを引き、その「背景及び目的」「検討内容」「検討体制」を挙げておこう。

1.背景及び目的
出版物の売上は1996年をピークに低減が続いております。
2017年度ではピーク時の52%程度の規模に縮小し昨今の輸送コストの上昇と相まって流通効率の悪化が顕著となり、全国津々浦々にわたる出版物流網をいかに維持するかが業界全体の喫緊の課題となっております。
今回の両社による取り組みは、かかる課題の解決を導き出すために行われるものであり、同時にプロダクトアウトからマーケットインを目指した抜本的な流通改革への新たな一歩となることを目指すものです。

2.検討内容
当社とトーハンの間で、制度面・システム面を含めて、厳密な情報遮断措置を講じることを前提として、両社の物流拠点の相互活用ないし統廃合を中心とした出版流通の合理化に向けた物流協業について検討致します。それぞれが保有する経営資源を有効活用することを基本として、システム面・業務面などからの実現可能性と経済的合理性を評価して、物流協業の具体的な方向性の検討を進めてまいります。

3.検討体制
当社・トーハン各社からメンバーを選定し、プロジェクトチームを設置した上で、具体的な検討を進めてまいります。

尚、検討を進めるにあたり、当社・トーハン各社において、独占禁止法遵守の観点から機微情報の厳密なコントロールを行います。具体的には、機微情報の目的外利用を防止するため、プロジェクトチームのメンバーを限定し、情報交換の範囲や運用管理を明文化する等の措置を講じます。また、必要に応じて公正取引委員会への報告・相談を行います。


 本クロニクル119で、平林彰社長の「日販非常事態宣言」、同124で近藤敏貴新社長の「トーハン課題と未来像」に言及しておいたが、それらに先行して公取委に物流協業を相談していたことになる。
 しかしこれが日販とトーハンの「協業」によって進められたとは考えられない。なぜならば、近代取次史は各取次がどのようにして独自の物流を確立するかという歩みを伝えていて、「物流協業」は自らのアイデンティティを放棄するものであるからだ。
 それに「検討内容」で謳われている「両社の物流拠点の相互活用ないし統廃合を中心とした出版流通の合理化に向けた物流協業」が、新たな投資と多大なリストラを伴い、困難で、少なからぬ年月を要することは、取次の人々にとっても自明のことだろう。そして「検討」を進める一方で、出版状況はさらなる危機へと追いやられていくことも。
 これらを総合して考えると、この「物流協業」は両取次の内部から出されたものではなく、経産省などが絵を描いたものではないだろうか。それがトーハン、日販の両社長の言葉の端々にうかがわれるし、における瀧沢部会長の国土交通省に向けての協力を求めていくとの発言にもリンクしていよう。
 近代取次史をたどってみれば、拙稿「日本出版配給株式会社と書店」(『書店の近代』所収、平凡社新書)で既述しておいたように、大東亜戦争下の1941年に官僚と軍部によって、国策取次の日配が誕生している。日配は雑誌と書籍の「出版一元配給体制」をめざしたのである。そこで何が起きたかはふれないけれど、興味ある読者は拙稿や清水文吉『本は流れる』(日本エディタースクール出版部)などを参照してほしいし、今回の日販とトーハンの「物流協業」も日配の例を想起させずにはおかない。


書店の近代    

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4.文教堂GHDの連結決算は売上高273億8800万円、前年比8.5%減で、営業損失5億8990万円、親会社株主に帰属する当期純損失は5億9100万円の赤字決算となった。
 財務面でも、資産は210億1300万円、負債は212億4600万円で、2億3300万円の債務超過。
 保有不動産の売却、賃貸、増資などによる経営改善計画が検討中とされる。

 今期は文具などの導入による13店舗のリニューアル、不採算店20店舗の閉店ラッシュを受け、そのコストが増え、赤字決算、債務超過の事態を招いたことになる。
 1980年代に神奈川県を舞台として始まった東販と文教堂によるバブル出店では、いわば日販と有隣堂に対する代理戦争のような色彩を帯びていた。
 会社の上場を果たした後も、バブル出店に起因する多大な有利子負債は抱えたままだった。それもあって、『出版状況クロニクルⅤ』で既述しておいたように、DNPグループ傘下となっていた。だが16年に同グループから日販に文教堂の株式が譲渡され、日販が筆頭株主となり、奇妙な代理戦争の結末を迎えていた。
 この赤字決算を受けてか、文教堂HDの株価は下がり、11月21日は239円である。日販の取得株価は1株当たり422円で、17億円だったと伝えられているので、その損失は大きい。 
 文教堂は金融機関からの借入金返済、及び日販からの仕入れ債務支払いの猶予を協議しているようだが、どうなるだろうか。



5.ワンダーコーポレーションの15店舗が、日販から大阪屋栗田に帳合変更。

 本クロニクル118や125において、ワンダーコーポレーションが売上高741億円で、TSUTAYA事業が151億円を占めているが、2年連続赤字であること、及びライザップグループに買収されたことを取り上げておいた。またライザップグループの「損失先送り経営」の危険性についても。
 折しも、そのライザップグループが赤字に転落と発表し、ワンダーコーポレーションなどの傘下企業の株価に売りが殺到し、M&Aによる事業拡大にもストップがかかった。
 不採算事業からの撤退も始まるとされるし、ワンダーコーポレーションもその対象となろう。そのことと日販から大阪屋栗田への帳合変更は関係しているのだろうか。
 また同じく傘下の日本文芸社の行方も気にかかる。


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6.4と5の問題もあり、上場企業の書店と関連小売業の株価を示しておく。
 左は5月の高値、右は11月21日の終値である。

■上場企業の書店と関連小売業の株価
企業5月高値11月21日終値
丸善CHI363348
トップカルチャー498382
ゲオHD1,8461,840
ブックオフHD839808
ヴィレッジV1,0231,078
三洋堂HD1,008974
ワンダーCO1,793660
文教堂HD414239
まんだらけ636630

 この株価推移表は今年の初めに作成するつもりでいたが、出版業界のあわただしい動きの中で遅れてしまい、年末にずれこんでしまった。
 確かにのワンダーコーポレーションは半年で3分の1になってしまい、の文教堂にしても下げ止まりは見られず、株価はそれらの現況を反映していると見るべきだろう。
 他の株価にしても、これからどのような推移をたどっていくのか、本クロニクルも追跡するつもりでいる。



7.未来屋書店の44店舗が日販からトーハンへ帳合変更。

 この未来屋の帳合変更はかなり前から伝えられていたが、ここになってようやく実現したことになろうか。
 本クロニクル123で示しておいたように、イオングループの未来屋は書店ランキング5位で、売上高560億円、306店舗を有している。 
 そのうちの44店だけの変更であるのか、それとも全店に及んでいくのかは注視する必要があろう。
 だがこの帳合変更はトーハンが日販よりも有利な取引条件を出したという事実を告げているし、それはトーハンのほうがまだ日販より体力のあることを象徴しているのだろうか。
 一方で、「物流協業」が提起されながら、そのかたわらではこのようなトーハンと日販の帳合戦争は続いているのだ。
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8.日販は青山ブックセンター六本木店跡地に、12月11日、リブロプラスによる直営店「文喫 六本木」を新規出店。
 146坪の店内にアート、デザイン、人文書、自然観察所など3万冊の書籍と90種の雑誌を陳列、販売し、来店者は入場料として1500円の入場料を支払う。
 1人で読むための閲覧室、複数人で利用できる研究室、飲食ができる喫茶室も備え、椅子やソファなどは90席、基本在庫はリブロプラスが買切で仕入れる。
 営業時間は午前9時から午後11時で、日商目標は1000万円。

 「マンガ喫茶」の模倣でしかない「本喫茶」は既存の書店を馬鹿にしたプロジェクトで、このような企画が取次から出され、現実化されることは退廃の極みだといっていい。
 月商1000万円ということは、入場料だけなら7000人近くが必要で、それだけの集客が可能だと本気で信じているとは思われない。

 だから別の視点から考えてみる。本クロニクル121で、ブックオフ傘下のABCの閉店を伝えたが、「文喫 六本木」まで次のテナントが入っていなかったことになる。また同125でリブロプラスが日販関連会社NICリテールズの100%子会社となったことにふれている。またこれは『出版状況クロニクルⅤ』の17年3月のところで取り上げておいたが、日販グループ会社のプラスメディアコーポレーションなどの3社が合併し、プラスとなっている。プラスメディアコーポレーションはブックオフの子会社としてTSUTAYA33店を運営していたけれど、14年に日販が子会社化している。

 これらの事実からの推測だが、ABCの運営にも日販子会社が絡み、テナント賃貸借契約に連帯保証し、ABC閉店の際にはまだ契約完了とならず、かなりのペナルティの生じる年月が残されていたのではないだろうか。
 それもあって、日販は代わりのテナントを見つけることができず、「文喫 六本木」を出店させたとも考えられる。
 これからも同様のケースが出てくるにちがいない。



9.山口県の老舗書店鳳鳴館が破産。
 徳山毛利家の書籍庫をルーツとし、1943年に設立され、90年代には県内や九州市内で15店舗を経営していたが、2000年代に入り、本店だけになっていた。負債は6億5000万円。

  本クロニクル119で、周南市の新徳山ビルのツタヤ図書館の開館によって、鳳鳴館が駅前銀座商店街の本店を閉店したことを記しておいた。だがやはり外商や教科書販売だけでは続けることができず、破産ということになったのであろう。これも取次は日販である。 
 6億5000万円という負債は出店と閉店が繰り返されていく中で、積み上げられていったと考えられるし、同様の書店もまだ多く残され、今後も閉店は続いていくはずだ。
 「朝日歌壇」(11/8)で見つけた一首を引いておく。
 いつのまにか駅の本屋の閉じられて バスを待つ間の手持ち無沙汰よ」(岸和田市) 高槻銀子



10.海悠出版が破産。
 同社は1992年創業で、月刊誌『磯・投げ情報』、ムック「磯釣り秘伝」「釣り場ガイド」「友釣り秘伝」シリーズなどを刊行していた。2008年には売上高2億5000万円を計上していたが、今年7月に事業を停止。負債は1億700万円。

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11.モーニングデスクが事業停止。
 同社は1987年創業で、92年に創刊した演劇・ミュージカルの月刊誌『シアターガイド』などを刊行していた。
 インターネットや競合誌の影響を受け、3期連続赤字だったとされる。

シアターガイド


12.月刊誌『GG』を発刊していたGGメディアが破産し、負債は1億3700万円。
 この倒産の内幕は『週刊文春』(11/29)の「ちょいワル雑誌名物編集者の“極悪”倒産」としてレポートされている。

GG 週刊文春

 図らずもから12まで書店と出版社の倒産が続いてしまったけれど、それらに象徴されるように、出版業界は多くの難民を生じさせているといっていい。しかしもはや受け入れ先は少なく、同じ出版業界内での再就職は本当に難しい状況となっている。
 これは親しい古本屋から聞いた話だが、ある古本屋がハローワークに2人の求人を出したところ、数百人が殺到し、それぞれ面接して採用する時間がとてもとれないので、求人そのものを取り止めてしまったという。
 このエピソードこそは出版業界難民、及び出版物関連仕事に従事したい多くの人々の存在を物語っている。



13.ジェシカ・ブルーダー『ノマド』(鈴木素子訳、春秋社)を読んだ。

 これは偶然ながら、今月読み終えたところで、サブタイトルには「漂流する高齢労働者たち」が付されている。
 2008年のリーマン危機に見舞われ、住宅を手離し、キャンピングカーやトレーラーハウスによる車上生活者となり、季節労働を求めて移動する高齢者たちを描いている。まさにアメリカの膨大な高齢者たちが文字どおり「ノマド」として暮しているのである。
 その第5章は「アマゾン・タウン」と題されている。そこでは63歳のリンダが季節労働者のためのアマゾンの労働プログラムである「キャンパーフォース」に雇用され、その倉庫労働の実態を伝えている。
 それはアマゾンの便利さがリンダのような「ノマド」によって支えられていること、またアマゾンが成長すればするほど、さらなるグローバルな「ノマド」を生み出していくことを意味していよう。
ノマド



14.『DAYS JAPAN』(12月号)が届き、読み終えると、巻末に「DAYS JAPAN休刊のお知らせ」があることを知った。
 そこには2004年3月創刊で、来年19年3月号(15周年記念号)をもって休刊するとあった。そして休刊の理由が挙げられている。
 「まず経営上の理由です。出版不況の中、定期購読者数が落ち込み、同時に書店での購読者数も減少しました。世界の出版業界を襲った紙離れ、書籍離れの傾向に飲みこまれた感じになりました。この経営上の問題は、どうにも解決法が見つかりませんでした。」

 その他にも発行人の広河隆一の病気による体力と気力の減退、後任の代表者が見つからないことなどから、会社も解散せざるを得ないことが語られている。
 かつて『DAYS JAPAN』が講談社から発刊されていたことを考えれば、「DAYS JAPANは二度死ぬ」という事態を迎えてしまったのである。
 それでもずっと定期購読していたことで、少しばかり併走できてよかったと思うしかない。
 小学館の『サピオ』も不定期刊ということは、遠からず休刊となるのだろう。
DAYS JAPAN サピオ



15.『創』(12月号)が特集「どうなる『週刊金曜日』」を組み、『創』編集部「創刊25周年を迎えた『週刊金曜日』が立たされた岐路」、及び佐高信「『金曜日』編集委員を辞任した理由」と北村肇「『金曜日』存続のために奇跡を信じたい」を掲載している。

創 週刊金曜日

 これらは読んでもらうしかないが、『週刊金曜日』が存続できたのは、『買ってはいけない』の大ベストセラー化による資本蓄積だと承知していたけれど、それでもそれが4億円に及ぶことまでは、北村文を読むまで知らないでいた。それに現状の定期購読数が1万3000部強、当期決算は4390万円の赤字だということも。
 私は雑誌出版の経験がないので、実感がわかないが、雑誌、とりわけ週刊誌は採算ベースを割ると急速に赤字が増えていくことだけはわかる。
 それは14『DAYS JAPAN』も同じだし、他のすべての雑誌にも忍び寄っている危機なのであろう。



16.続けて雑誌をめぐる休刊や危機にふれてきたが、日本ABC協会の2018年の上半期の「雑誌販売部数」が公表され、『文化通信』(11/29)になどに掲載されている。
 それによれば、報告誌販売部数は週刊誌34誌が前年同期比9.2%減、月刊誌115誌が10.0%減、合計で9.7%減となっている。
 前期比、前年同比でともにプラスだったのは15誌で、そのうちの6誌は『ハルメク』(ハルメク)などの女性誌である。
 デジタル版報告誌は93誌で、前期比3.9%減、読み放題UU誌は報告誌93誌で、前期比10.5%増となっている。
 なお『FACTA』(11月号)にも、ABC協会のデータに基づく10年で販売総額が半減した主要120誌調査が「雑誌メディア『ご臨終』」として報告されていることを付記しておく。

 ABC協会の報告誌には挙げられていないけれど、晋遊舎の女性誌『LDK』、モノ雑誌『MONOQLO(モノクロ)』『家電批評』などが売れているようだ。それで書店だけでなく、ブックオフなどで見かけるのだろう。
 これらはメーカーの広告を掲載せず、製品性能を調査する雑誌で、『暮しの手帖』を想起させる。その晋遊舎の西尾崇彦社長が、『日経MJ』(10/29)の「トップに聞く」に登場している。
 やはり『暮しの手帖』と比較されるのではないかと問われ、次のように応じている。

「我々も商品テストだけの本を出したこともありますが、驚くほど売れませんでした。日本ではエンタメにしないとダメですね。当社のキャッチコピーを『遊びある、ホンネ。』としたのはそれからです。テスト誌って反戦や反原発とか社会派になりがち。否定はしませんが、我々は楽しく商品を選んでもらう」



 確かに現在では「エンタメ」とイベントの時代といえるし、晋遊舎の雑誌は「楽しく商品を選んでもらう」ということで、それらを体現していることになろう。この視点から見れば、「社会派」の『DAYS JAPAN』『週刊金曜日』が休刊や危機に追いやられていく雑誌状況、いやそれだけでなく、出版業界と出版物全体の現在すらも浮かび上がってくる。それをこちらも「否定しませんが」、いつまで続くのか気になるところだ。
 西尾は晋遊舎に「商品ジャーナリズムの拠点になる可能性」を見ているので、その「壮大な夢」の実現を期待しよう。

LDK MONOQLO(モノクロ) 家電批評 暮しの手帖



17.高須次郎の『出版の崩壊とアマゾン』(論創社)がようやく刊行の運びとなった。
 それこそ、高須の緑風出版は「反戦や反原発とか社会派」の「拠点」でもあるが、「エンタメ」ではない出版業界の現在を知るために一読をお勧めする次第だ。
出版の崩壊とアマゾン


18.論創社HPの「本を読む」㉞は「美術出版社『美術選書』、宮川淳『鏡・空間・イマージュ』、広末保『もう一つの日本美』」です。