出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル126(2018年10月1日~10月31日)

 18年9月の書籍雑誌推定販売金額は1215億円で、前年比5.4%減。
 書籍は682億円で、同5.3%減。雑誌は533億円で、同5.6%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が446億円で、同4.5%減、週刊誌は86億円で、同10.4%減。
 返品率は書籍が32.3%、雑誌が39.8%で、月刊誌は39.4%、週刊誌は41.9%。
 月刊誌の返品率が40%を割ったのは今年で初めてだが、これはコミックスの返品の大きな減少に拠っている。しかし週刊誌は高止まりしたままだ。
 書店店頭売上は書籍3%減、定期誌4%減、ムック12%減、コミックス10%増である。
 コミックスは『ONE PIECE』90巻や『SLAM DUNK』15-20巻が牽引したこと、「ジャンプコミックス」などの値上げも大きいとされる。
 この数字からだけでは10月の台風24号の影響はうかがえないけれど、11月に持ちこされているのかもしれない。 
 前回の本クロニクルは台風24号の襲来の最中に更新されたが、今回は皮肉なことに、まさに「本の日」に更新となる。

ONE PIECE SLAM DUNK
 


1.出版科学研究所による18年の1月から9月にかけての出版物推定販売金額の推移を示す。

■2018年1月~9月 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2018年
1〜9月計
976,228▲7.0541,102▲3.5435,126▲11.0
1月92,974▲3.551,7511.941,223▲9.5
2月125,162▲10.577,362▲6.647,800▲16.3
3月162,585▲8.0101,713▲3.260,872▲15.0
4月101,854▲9.253,828▲2.348,026▲15.8
5月84,623▲8.743,305▲8.841,318▲8.5
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
7月91,980▲3.443,900▲6.048,079▲0.8
8月92,617▲9.248,0243.344,593▲12.8
9月121,482▲5.468,186▲5.353,295▲5.6

 18年もあますところ2ヵ月となったが、9月までの出版雑誌推定販売金額は9762億円で、同7.0%減、前年比マイナス728億円である。
 17年10、11、12月の前年比は7.9%、7.8%、10.9%減という落ちこみなので、18年のマイナスも9月までの7.0%減を想定してみる。すると18年は959億円のマイナスで、1兆2741億円となり、ついに1兆3000億円を割ってしまうことになる。
 これはピーク時の1996年の2兆6980億円の半減をさらに下回る販売金額で、19年は1兆2000億円すらも割っていくことも考えられる。 
 すでに取次の赤字はカミングアウトされているし、大手出版社の苦境はいうまでもなく、大手書店の店舗リストラも進められている。それは現在の出版流通販売市場の危機の臨界点を示している。
 このまま何もなく新しい年を迎えられるのかという状況の只中に、出版業界は置かれていると見なすしかない。



2.『日経MJ』(10/12)によれば、アメリカの大型書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルはアマゾンなどの影響で業績が低迷し、身売りを前提とする経営戦略のための特別委員会を組織。
 2011年には同業のボーダーズが経営破綻し、バーンズ・アンド・ノーブルが唯一の上場企業となっていた。だが同社の18年の売上高は36億ドルで、ピークの12年の71億ドルから半減し、店舗数も08年の726店から18年には630店に縮小し、18年5月~7月期の最終損益は1700万ドルの赤字となっていた。

 日本の大型書店がバーンズ・アンド・ノーブルなどを範としてきたことはいうまでもないだろう。そのビジネスモデルがアメリカ本国において、ついに破綻してしまったのである。そしてその売上高の半減は日本の出版業界と重なるものだ。
 折しもほぼ同時に、アメリカのデパートのシアーズとその子会社のディスカウント店Kマートの経営破綻が伝えられている。これはアメリカ小売業としては過去最大の負債で、100億ドル超と推測される。
 シアーズにしても、ウォルマートやホームデポとの競合に加え、ネット通販による消費者の変化に対応できなかったことが指摘されている。
 日本の消費社会はアメリカをモデルとしたものであり、小売業界においても、アメリカで起きたことは日本でも反復されていくことは確実で、日本の場合にはどのようなかたちで表出してくるのだろうか。



3.丸善ジュンク堂は丸善池袋店と津田沼店に、レゴ®スクールをオープン。
 レゴ®スクールは2006年に設立され、全国で30教室を展開し、同社認定インストラクターによる少人数制カリキュラムを特色としている。

 前回のクロニクルで、ジュンク堂旭川店の売場の半減を伝えておいたが、「地方・小出版流通センター通信」(No・506)によれば、「丸善ジュンク堂チェーンの規模縮小、及びレイアウト変更」は札幌店、三宮店、南船橋、津田沼店、松山店にも及び、「これに伴い返品が発生」することは必至である。ブックファースト大井町店の閉店も伝えられている。
 これに津田沼店の名前も挙がっているように、レゴ®スクールなどが誘致されているのだろう。単なる家賃の補足手段か、「事業領域の拡大」なのかは、今後の動向を見るしかないと思われる。



4.台湾の大手書店「誠品書店」グループで、台湾の雑貨と書籍を扱う「誠品生活」が、2019年に日本橋に開業する三井不動産の物販とオフィスの複合商業施設「コレド室町テラス」に雑貨店として出店。
 「誠品生活日本橋」は、三井不動産との合弁会社を設け、そこからライセンス供与を受けた有隣堂が運営する。

 本クロニクル120で、有隣堂の東京ミッドタウン日比谷にオープンした「HIBIYA CENTRAL NARKET」を既述しておいた。
 これらはもはや脱書店モデルの模索であり、「誠品生活」もその一環と見なすべきであろう。大手書店チェーンからして、雑誌や書籍から離れていこうとしている。
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5.トーハンが初めて手がける文具専門店「伊勢治」を新装オープン。
 伊勢治書店が経営を担い、その旧本店跡地に建設されたマンションの1階、56坪で、江戸時代からの老舗イメージを生かす店舗デザインにより、文具、画材などを揃える。

 『出版状況クロニクルⅣ』で、2015年の伊勢治書店の「囲い込み」をレポートしておいた。ここにその後の推移が意図せずして伝えられている。トーハンは伊勢治書店旧本店跡地にマンションを建設することで、不良債権を清算しようとし、その一方で伊勢治書店に文具専門店「伊勢治」を残したとも推測できる。
 つまりここに本クロニクル124で示しておいたトーハンの取次としての文具事業、及び不動産プロジェクトという「事業領域の拡大」を見ることもできよう。しかし書店清算とこれらの事業の三位一体の行方はどうなるのか。これもいずれ明らかになるだろう。
出版状況クロニクル4
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6.中小書店の協業会社NET21の会員書店である埼玉の熊谷市の藤村書店が事業を停止し、破産手続きを申請。
 藤村書店は1947年に創業し、教科書販売も手がけ、熊谷、秩父、立正大学キャンパス店を有していた。

 17年の矢尾百貨店内の秩父店閉店などにより、売上減少と事業継続が困難になり、取次にも支払不能となっていたようだ。
 その秩父店で3年間店長を務めていた那須ブックセンターの谷邦弘が、『新文化』(10/11)に「藤村書店の倒産に思う」という一文を寄稿している。それによれば、社長は週100時間以上働き、その両親、叔父、叔母と一家総出で、人件費も抑えていたという。
 これを読んで、本クロニクル118でふれた幸福書房の閉店を想起してしまった。一家で一生懸命働いても報われないどころか、破産に至ってしまう中小書店の現在を浮かび上がらせていよう。
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7.日販子会社の精文館書店の決算は売上高196億円、前年比0.3%増の微増減益。
 既存店は「書籍・雑誌」「レンタル部門」が前年を下回ったが、新規店のTSUTAYA 東大宮店(900坪)、一宮南店(376坪)が売り上げに貢献したとされる。

 しかし私が見ている精文館は、以前の文具部門が縮小され、UFOキャッチャーが置かれるようになった。その一方で、出版物にしてもレンタルにしても、明らかに低迷していることが伝わってくる。
 それに精文館の外看板だけは残っているが、レシートはTSUTAYAとあるだけで、精文館とTSUTAYAの関係も、FCだけでなく、日販とMPDも介在し、複雑に絡み合い、再編が進められているのかもしれない。



8.日本レコード協会によれば、2018年6月末時点で、全国の音楽CDレンタル店数は2043店、前年比6%減。
 店舗数の減少は21年連続で、1989年のピーク時の6213店と比べ、3分の1の水準に落ちこんでいる。定額聞き放題の音楽配信サービスの広がりもあり、2000店割れも時間の問題となっている。
 ただ店舗数が減る一方で、大型店が増え、音楽CD在庫が1万5000枚以上の大型店の比率は71.9%に上る。

 これらの事実はTSUTAYAやゲオの複合店や大型店のシェアが高まり、そのCD、DVDレンタル市場に対して、音楽配信サービスだけでなく、動画配信サービスも攻勢をかけて広がり、2000店割れに迫っていることになろう。それは複合大型店への逆風がさらに続いていくことを意味している。



9.ブックオフグループホールディングスは同社を株式移転設立完全親会社、ブックオフコーポレーションを株式移転完全子会社とする単独株式移転を行ない、10月1日付で新会社として発足。

 簡略にいえば、グループの純粋持株会社設立、及びブックオフの子会社化ということになるし、リユース業界の急速な変化、多様化する顧客ニーズへの対応、そのための事業再編が謳われている。
 だがブックオフの成長を支えたのはFCシステムによる店舗増に他ならず、そのことから考えてみても、もはや成長は望むことができず、子会社化させ、切り離したとの見方も可能である。
 これからのブックオフFC店はどうなるのだろうか。



10.『日本古書通信』(10月号)で、岡崎武志が「昨日も今日も古本さんぽ」96において、「ブックセンターいとう 星ヶ丘店」の閉店にふれ、「どれだけリサイクル系大型古書店『ブックセンターいとう』の閉店を見てきたことか」と書いている。そして近年の恋ヶ窪、青梅、中野島、立川羽衣、西荻、西荻窪、聖蹟桜ヶ丘の撤退を上げ、「秋の枯葉が舞い落ちるような凋落ぶりだ」と述べている。
 それに続いて、ブックオフの撤退も多く、「疲弊が目立つ」し、セドラーも見かけなくなったことにも言及している。

  「ブックセンターいとう」の経営者とは面識があるけれども、店舗は見ていないので何もいえないが、ブックオフに関しては同感である。それがの完全子会社化ともリンクしているはずだ。 

 『日本古書通信』同号はこの他に、船橋治「みすず書房『現代史資料』(1)~(3)・ゾルゲ事件(一)~(三)の原本を発見する」や折付桂子「東北の古本屋(5)福島県」が興味深く、印象に残る。特に後者は故佐藤周一『震災に負けない古書ふみくら』(「出版人に聞く」6)の現在もレポートされ、佐藤夫人の元気な姿も伝わってきた。もう十年以上お会いしていないけれど、お達者で何よりだ。
震災に負けない古書ふみくら



11.三和図書から、次のような「取次部門業務終了のお知らせ」が届いた。

 さて、突然ではございますが、この度、株式会社三和図書は諸般の事情により
10月末日を目途に取次部門の業務を終了する運びとなりました。
 長年にわたるご支援ご芳情に心から御礼申し上げますとともに
ご迷惑をおかけする結果となりましたことをお詫び申し上げる次第でございます。
 尚、お支払いについては書店様からの返品を入帳後、請求書を送付して頂いたうえで
 清算をさせて頂きたいと存じます。
 事情ご賢察の上、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

 三和図書は1950年設立で、文芸書を主としていたが、またしても神田村取次を失うことになる。もはや取次の店売風景も過去のものと化しているのであろう。
 『出版状況クロニクルⅣ』において、1999年から2008年にかけての取次受難史を示しておいた。それらに加え、『出版状況クロニクルⅤ』でも、さらに続く東邦書籍、栗田出版販売、大阪屋、太洋社、日本地図共販の退場もたどってきている。
 出版社や取次ばかりでなく、取次も消えていったことを実感してしまう。
出版状況クロニクル5



12.『出版ニュース』が来年3月下旬号で休刊。
 同誌は1941年に創刊され、49年に発行所の日配より、出版ニュース社が引き継いでいるので、75年にわたって出されてきたことになる。
 公称部数は4300部だが、近年は赤字続きで、部数も低下していたとされる。

 『出版ニュース』と本クロニクルなどとの関係について、いくつもいいたいことはある。だがそれよりも、年度版『出版年鑑』『日本の出版社・書店』の刊行、それらに基づく様々なデータの公開、海外出版ニュースなどの行方が気にかかる。
 その一方で、神田神保町に出版クラブビルが完成し、書協、雑協、日本出版クラブ、JPOなどが一堂に入居することになると報道されているが、そこに出版ニュース社がないのは象徴的なことのような気がするからだ。
 もはや『出版ニュース』は必要とされていないことを告げているし、それは書評紙や出版業界紙にも及んでいくであろう。
f:id:OdaMitsuo:20181024223408j:plain:h110 出版年鑑 日本の出版社・書店



13.リンダ・パブリッシャーズが倒産、負債は3億4000万円。

 この版元は未知だったので調べてみると、処女出版が『おっぱいバレー』で、本は読んでいないが、映画は見ている。このように映画の原作となる書籍の出版を手掛け、『恋する日曜日 私。恋した』『99のなみだ』などを刊行していた。
 またCCCのトップ・パートナーズの出資を受けていたが、ヒット作が続かず、資金繰りが悪化し、赤字決算が続いていたとされる。

おっぱいバレー おっぱいバレー(映画) 恋する日曜日 私。恋した 99のなみだ



14.旧商号を潮書房光人社とするイノセンスが倒産。
 2006年には年商6億1000万円が16年には3億6000万円となり、今年に解散を決議した。負債は3億8000万円。

 『出版状況クロニクルⅤ』で、出版事業は会社分割された潮書房光人新社に引き継がれ、産経新聞出版グループ傘下に入ったことを既述しておいた。
 また本クロニクル120で、旧商号をキネマ旬報社とするケージェイの破産、船井メディアの清算も伝えているが、イノセントも同じ道をたどったことになる。
 出版事業を売却し、本業を失い、清算会社として残された出版社は、このような破産や清算という道筋を選ぶしかないのだろう。
odamitsuo.hatenablog.com



15.日本新聞協会の2017年新聞社総売上高推計調査によれば、日刊新聞社92社の総売上高は1兆7122億円で前年比3.1%減と6期連続マイナスで、販売収入も初めて1兆円を割る9900億円、前年比3.0%、309億円減となった。

 いうまでもなく、1兆円を割ったということは、新聞の売上部数も減少している。
 これは本クロニクルで繰り返し書いているが、チラシを打てない書店にとって、代わりに新聞が雑誌や書籍の宣伝を毎日掲載していることで、読者の確保と集客が可能であるのだ。
 しかしそのような新聞と出版社と書店の蜜月も昔話になっていきつつあるのだろう。新聞に書評が出ても、ほとんど反響もないし、売れない時代に入って久しいし、もはや電車で新聞を読む人を見ることもないのである。



16.光文社が11月19日発売の尾崎英子『有村家のその日まで』(本体1700円)において、「責任仕入販売、報奨企画」を実施し、初回搬入分の70%以上を販売した書店に1冊170円の報奨金を支払う。
 これは光文社が事前注文を促進し、効率的な書籍販売を模索する実験で、参加申し込み先着100店に限定して実施。
 初版4000部、初回10冊以上の事前注文に対し、70%以上の実売に報奨金が支払われる。

f:id:OdaMitsuo:20181025115129p:plain:h120
 どこの実用書版元だったか思い出せないのだが、かつて一冊につき10円の報奨金が支払われるスリップがついていた。これは前世紀のことだったけれど、よくぞ踏み切ったという印象があった。
 しかし1冊につき定価の170円の報奨金とは予想もしていなかったし、面白い試みだと思う。書店の取り組みと販売の実態を見守ることにしよう。



17.『選択』(10月号)が「マスコミ業界ばなし」で、『新潮45』の休刊にふれ、次のように書いている。

新潮45

 同誌編集部の停滞ぶりはひどく、部員六人の平均年齢は五十歳超。今春には二十代の社員が退職、三十代の女性社員も異動となり、残るは定年間近の人間ばかり。当該の問題記事についても「編集長の独断で、部内で特に議論もなかったようだ」と別の社員は呆れる。
 新潮社は約四百人いる社員を、今後十年で約百人減らす方針だ。九月二十五日に発表された『新潮45』の休刊にかこつけて、「この際、雑誌もろとも、編集部員も無きものに」との非情な声も聞かれる。

『新潮45』の休刊をめぐっては事後に喧しいが、このように社内事情が絡み、それを機として、新潮社はリストラの道を歩んでいくことになるだろう。



18.『FACTA』(11月号)が「『海賊版対策』一人燃えるカドカワ」と題し、「通信の秘密や表現の自由を脅かす」ブロッキングの法制化の攻防内幕をレポートしている。
 それによれば、導入推進派の急先鋒はカドカワの川上量生社長である。それに対し、講談社の野間省伸社長は「明らかにトーンダウン」し、一ツ橋グループ(小学館、集英社)は「静観の構え」、カドカワの角川歴彦会長は「ブロッキングに反対」とされている。
 この川上の急先鋒の理由は、経産省官僚であるその夫人の「経産省におけるキャリアパスを意識した援護射撃と考えることもできる」と指摘されている。
 そして「官邸サイドが、ブロッキングの法制化を一旦棚上げしないことには、不毛な議論が続くばかりで出口は見えてこない」と結ばれている。

 前回のクロニクルでも、このサイトブロッキング問題にふれ、その「超法規処置」に疑念を呈してきたが、この一文を読むと、まさに「忖度」に他ならず、何をかいわんやという気にさせられる。しかもこうした記事は直販誌でなければ読むことができないからだ。



19.今月は訃報がふたつ届いた。
 ひとりは青蛙房の岡本修一で、本クロニクルの愛読者、ふたり目は元出版芸術社の原田裕で『戦後の講談社と東都書房』(「出版人に聞く」14)の著者である。
 岡本はまだ69歳だったが、原田は90歳半ばで、天寿を全うしたといえよう。
 二人とその出版社に関して、一文をしたためるつもりなので、とりあえず、ここに二人の死だけを記しておく。
戦後の講談社と東都書房


20.『金星堂の百年』が出された。

 待望の初めて編まれた社史で、近代出版史と文学史の空白を埋める一冊といっていい。いずれの研究者も必携である。
 それに拙著『古本探究Ⅱ』が参考文献に挙げられていることに驚いた次第だ。
 f:id:OdaMitsuo:20181030145210j:plain:h110 古本探究2



21.風船舎古書目録第14号『特集 楽隊がやってきた 日本近代音楽120年史抄』が届いた。門外漢ではあるけれど、520ページに及ぶ、音楽関係者必見のすばらしい目録である。
 これもそのことだけを書きつけておく。

f:id:OdaMitsuo:20181025151842j:plain:h120


22.高須次郎の 『出版の崩壊とアマゾン』は11月中旬刊行予定。
出版の崩壊とアマゾン
 論創社HP「本を読む」㉝は「河出書房新社『人間の文学』『今日の海外小説』と白水社『新しい世界の文学』」です。

出版状況クロニクル125(2018年9月1日~9月30日)

 18年8月の書籍雑誌推定販売金額は926億円で、前年比5.2%減。
 書籍は480億円で、同3.3%増。雑誌は446億円で、同12.8%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が364億円で、同13.1%減、週刊誌は82億円で、同11.7%減。
 返品率は書籍が40.2%、雑誌が45.1%で、月刊誌は45.7%、週刊誌は42.4%。
 書籍の推定販売金額のプラスは7月の西日本豪雨により、広島、岡山、九州などの書店の返品入帖処理が8月になっても終わっていないことに起因している。
 出版輸送は運賃問題や人手不足に加え、西日本豪雨により、輸送遅延が長期化し、現在も続いているのである。それゆえに書籍は返品減となり、プラスになったわけで、その反動が必ず発生する。
 さらに9月は北海道胆振東部地震が起き、書店の被害とともに、北海道も返品や輸送遅延が生じていくであろう。このような災害状況の中で、これまで以上に露出してきたのは運送問題だとされている。出版輸送業界はまったく余裕がない状態で営まれてきたこともあり、今回のような立て続けの災害には対応できない現実に直面しているという。
 そのために新刊配本に関しても、雑誌が優先され、書籍のほうは大手出版社に新刊は受け入れられても、重版は配本できなくなっているようだ。
 それを背景にしてか、小出版社の新刊配本も当月のはずが、翌月にずれこむ事態となっているし、資金繰りにもダイレクトな影響が出始めている。また大量の返品が生じ、逆ザヤ状態となることも覚悟しなければならない出版状況を迎えていよう。
 今回のクロニクルは猛烈な台風24号襲来の中で、更新される。 
 


1.出版科学研究所による2018年8月までの書籍雑誌推定販売金額とマイナス金額を示す。

■2018年 推定販売金額
書籍雑誌合計金額(百万円)前年比
(%)
前年比金額(億円)
2018年
1〜8月計
854,746▲7.2▲658
1月92,974▲3.5▲33
2月125,162▲10.5▲147
3月162,585▲8.0▲140
4月101,854▲9.2▲102
5月84,623▲8.7▲80
6月102,952▲6.7▲74
7月91,980▲3.4▲32
8月92,617▲5.2▲50

 18年8月までの推定販売金額は8547億円で、前年比7.2%減、金額にして658億円のマイナスとなっている。
 この20年間の販売金額の推移と年毎のマイナス金額は本クロニクル118に掲載してあるので参照してほしいが、これまでの最大のマイナスは17年の1008億円である。9月からの返品の反動などを考慮すれば、さらなるマイナスも想定せざるをえない。
 このような出版状況の中で、18年の最後の四半期が進行していく。まさに奈落の底に沈んでいくような思いに捉われざるをえない。
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2.日本出版者協議会相談役である緑風出版の高須次郎が『出版ニュース』(9/中)に「出版はどうなるか」を寄稿している。彼は『再版/グーグル問題と流対協』(「出版人に聞く」シリーズ3)の著者である。
 この論稿は自社の書籍をめぐるアマゾンの電子書籍化の具体的な実例、2014年の著作権法改正の問題点、その見直しの必要性、電子書籍の再販に関わる失敗と出版危機、アマゾンのバックオーダー中止と直取引拡大戦略の成功、その影響を受けた日販決算の意味などに及んでいる。
 そして現在は「出版敗戦前夜」にあるとし、次のような結論に至る。

紙の市場規模の急速な縮小とアマゾンの躍進のなかで、問題は、大手取次店のダウンサイジングがうまくいくかどうかに懸かっている。仮にうまくいかなければ、大手取次店に莫大な売掛金をもつ出版社は、多くが資金繰りに詰まり、倒産・廃業の危機を迎えよう。まして「栗田出版販売再生スキーム」が適用されれば、膨大な返品を出版社は買うはめになり、さらに倒産・廃業に拍車がかかるといえる。

 また「出版敗戦を打開する道はあるのか?」として、7つの提案が挙げられ、「もはや手遅れの感もするが、こうした課題のいくつかを実現できなければ、出版敗戦の日を迎えるしかない。そこには戦後復興はない」と結ばれている。

再版/グーグル問題と流対協  『新潮45』(8月号)(8月号) 『新潮45』(10月号)(10月号)

 この高須の「出版はどうなるか」は数字データや資料として、本クロニクルが参照され、また「出版敗戦」のタームが使われていることからわかるように、高須から見た現在地点での出版状況論に他ならない。
 しかし高須がいうところの7つの提案は、どれひとつとしてスムースに実現することはないだろう。なぜならば高須もいうように、「敗戦の原因は、(中略)ほとんど戦わずして落城の危機をまねいた出版業界、出版社団体や出版社内部」に起因しているからだ。本クロニクルの言葉に言い換えれば、長期にわたる正確な出版状況分析の不在と錯誤によっている。
 それにこのような出版状況が、日本出版者協議会に属する小出版社だけに出来しているのではなく、さらに広範なかたちで「出版敗戦」は大手出版社に押し寄せていることを認識すべきであろう。もちろんそれは大手取次、大手書店とも連鎖していることはいうまでもあるまい。これらの論稿を一冊にまとめた高須の『出版界の崩壊とアマゾン』は10月に論創社から刊行される。

 それから『出版ニュース』の同じ号に、『新潮45』(8月号)の「『LGBT』支援の度が過ぎる」に対して、8月20日付の「杉田水脈衆議院議員の発言に抗議する出版社代表82社の共同声明」も掲載されていることを付け加えておこう。
 『新潮45』10月号の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」をめぐって、新潮社の佐藤信隆社長や文芸部門から批判が出され、マスコミで取り上げられているが、いち早く緑風出版の高須たちを呼びかけ人とする「共同声明」が出されていたことも知ってほしいからだ。

 その後、月末になって、論議もほとんどなされない前に、新潮社は『新潮45』の休刊を発表した。高須の「敗戦前夜」ではないけれど、この杉田の言説が、かつて大東亜戦争下における「産めよ増やせよ」の大スローガンに通じていることは指摘しておかなければならない。それへの注視もなされないままの休刊は、雑誌にとっても忌わしい記憶を残すだけであろう。『新潮45』の創刊は1982年だった。



3.ジュンク堂書店旭川店から返品リストとともに、次のような「改装のご案内」が届いた。

 2011年6月にオープンいたしましたジュンク堂旭川店は、開店以来お客様に大変ご好評を頂いて参りました。 
 しかし来る2018年9月、館の大規模なリニューアルにともない、デベロッパーより強い要請があり、現在の4階5階2フロア営業から5階1フロアのみへと、規模を大幅に縮小することが決定し改装する運びとなりましたのでご案内申し上げます。
 従来の1257坪から600坪と大幅な縮小となりますが、弊社がこれまで培ってきた経験を踏まえてレイアウトを見直し、読者のニーズにお応えし、地域の皆様に愛されるような店舗づくりにこれからも努力する所存でございます。
 急な話でたいへん申し訳ございませんが、今回の改装に伴いまして返品が発生いたします。
 甚だ勝手なお願いではございますが、出版社様におかれましては、商品の返送につきましてご了解とご協力を賜りますよう何卒お願い申し上げます。


 1フロア、600坪で店としては半分に縮小だが、書籍を中心として多くが返品され、それは在庫全部の3分の2ほどに及ぶのではないだろうか。すなわち出版社に大量の返品が逆流してくる。
 「デベロッパー」云々との文言が見えているけれども、もはや書店の大型店が売上マイナスと家賃負担に耐え切れず、リストラに向かっていく流れを象徴していよう。
 本クロニクル123で、三洋堂書店の300坪ほどのバラエティショップの閉店を既述しておいたが、毎月のように大型店の閉店が起きていて、それがまったく改善されない高返品率へとリンクしていることになろう。
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4.『朝日新聞』(8/26)の「朝日歌壇」に次のような一首が掲載されていた。

 おおきくはしなくていいと祖父はいい 父もまもったちいさな書店 (東京都)高橋千絵

 これを読んでから、山口県と島根県を旅行してきた。主としてバスによる移動だったが、ロードサイドに書店を見かけたのは1店だけで、ホテルのある商店街には小書店が閉店したままで残されていた。
 翌朝、そのホテルで『山口新聞』(8/29)を読むと、周南市のツタヤ図書館の入館者が100万人を突破したとの報道がなされていた。本クロニクル119で、駅前ビルでのツタヤ図書館の開館による、地元老舗書店の閉店を伝えたばかりだ。
 ナショナルチェーンの大型書店の出店やCCCのツタヤ図書館の開館が、このような地方の書店が消えてしまった状況に反映されているだろうし、それが書店の半減という事実を裏づけていることになろう。
 先の一首で歌われている「父もまもったちいさな書店」は現在でも存続しているのだろうか。

 それに関して、鳥羽散歩という人が「詩歌句誌面」で次のような返歌を寄せているので、引いておこう。

 大きくはしなくていいと思ったが 私の代で潰れた書店

 旅行から帰った後、たまたま鈴木書店の元幹部と話す機会があり、取次にとっては中小書店が生命線で、大書店の場合はほとんど利益が出なかったという告白を聞いた。倒産してから、それを実感したという。これは大手取次にとっても中小書店が生命線だったことを告げていよう。
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5.ティーエス流通協同組合(TS)は9月30日で解散を決議。
 売上のピークは2005年の1億2000万円で、それ以後は会員や売上が減少し、負債が生じるようになったとされる。
 ブックスページワンの片岡隆理事長は「昨年の総会終了後、NET21や青年部などが声を上げてくれたが、事業としての実態は生まれ」ず、清算に取り組むことに決定したと説明している。

 TSに関しては『出版状況クロニクルⅤ』において、損失が組合出資金額を上回る債務超過に陥るので、解散の方向に進んでいくしかないように思われると記しておいたが、残念なことに本当にそのような事態になってしまった。出版社との直取引によるマージン確保が難しかったことになり、TS加盟の各書店の困難さも自ずと伝わってくる。
出版状況クロニクルⅤ



6.中央社の売上高は217億円、前年比4.6%減。当期純利益は8107万円、同30.7%減で減収減益の決算。
 その内訳は雑誌120億円、同6.9%減、書籍は82億円、同0.5%減。
 期中の新規店は8店(90坪)、閉店は18店(500坪)となり、名古屋・関西支店を廃止し、名阪支社に中部営業課と西部営業課を新設。

 『出版状況クロニクルⅣ』で、2010年代に中央社だけが取次として増収増益だったことにふれてきたが、その中央社にしても3年連続の減収減益の決算になってしまった。
 それはコミックも含めた雑誌の凋落、コラボしてきたアニメイトの売上の低迷、アニメイトがM&Aした書泉や芳林堂のその後の売上状況などが作用しているのだろう。
 これらの推移初めて『出版状況クロニクルⅤ』でたどっているが、海外展開などのアニメイト120店の現在はどうなっているのだろうか。期中の出店と閉店を見るかぎり、やはり店舗リストラの波が押し寄せているように思われるし、それは何よりもアニメイトが得意とするコミック特装版などの「特品等」が11億円、同8.6%減にもうかがわれる。中央社にとって、雑誌、書籍に告ぐ部門にして、その特色でもあったからだ。
 それを反映して、今期の中央社の決算も213億円、同1.1%減を売上目標としているが、さらなる減収減益は必至であろう。
出版状況クロニクルⅣ



7.学研HDは日本政策投資銀行と共同で、さいたま市の介護大手のメディカル・ケア・サービス(MCS)の全株式を取得。
 MCSは認知症患者グループホームを270棟運営し、売上高は265億円。
 学研HD傘下の学研ココファンはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)100棟を運営し、売上高は200億円。サ高住とグループホームの再編は初めての試みで、両社の複合開発にも進出するとされる。

 もはや学研は学参の出版社ではなく、塾などの教育事業と介護などの医療福祉事業をメインとする企業へと転身したと見なすべきだろう。
 ここに学研の介護事業を挿入したことに唐突な感を抱かれると思うが、トーハンの「事業領域の拡大」がこのような学研の動向と併走していると判断できるからだ。

 前回、本クロニクルで、「トーハンの課題と未来像」を取り上げ、グループ会社のトーハン・コンサルティングが実際に西新井に介護施設を建設中であることを既述しておいた。このパートナーは学研と考えてよかろう。
 そうした学研HDの、出版社から教育事業と介護事業への転身を範として、トーハンも介護事業も含めた不動産事業などの「事業の拡大」が構想されたのではないだろうか。
 しかし学研の転身にしても、古岡創業一族からの離脱、出版事業のドラスチックなリストラと改革、新たな事業ノウハウの蓄積など、一朝一夕になされたものではないし、それをトーハンが模倣できるとは思えない。
 それは介護事業にしても、不動産事業にしても、大いなる陥穽に満ちているし、コラボするゼネコンや官僚にしても、再販委託制に基づく出版社や書店を相手にするのとはまったく異なる相手であることを、冷静に自覚することから始めなければならない。だがそれはないものねだりであるかもしれない。



8.日販のグループ会社ダルトンは東京・武蔵村山市に、売場面積220坪で「DULTON FACTORY SERVICE MUSASHI-MURAYAMA」をオープン。
 郊外型大型店舗で倉庫を改装した7店目の直営店。
 創業以来、インテリア雑貨メーカーとして積み上げてきた商品群と空間創りのノウハウを投入した「人とモノを繋ぐ、日常彩るマーケット」とされる。

 これは前回のトーハンの近藤敏貴社長の言葉を借りれば、「事業領域の拡大」に属するのではなく、「カフェ、文具、雑貨は本を売るための取次事業」に当たるのかもしれないが、実際に見ていないので、判断を下せない。出版物はまったく売っていないのだろうか。
 しかしこのようなダルトンの展開にしても、本クロニクル121で引いておいた日販の平林社長がいう市場の要求に応じて商品やサービスを提供する「マーケットイン」の試みだとしても、「本業の回復」にただちに結び付くことはないだろう。
 7も含め、取次はどこに向かっているのか、それがどのような影響を出版社や書店にもたらすかを注視すべきであろう。



9.TSUTAYAは家具とホームセンターの島忠とFC契約し、家具と本を軸とする生活提案方店舗開発に着手。
 その第1号店として、島忠の「ホームズ新山下店」(横浜市中区)をリニューアルし、同店舗内にブック&カフェ「TSUTAYA BOOKSTORE 新山下店」を今冬に開店。
 島忠は家具とホームセンターの複合店舗を首都圏に59店を有し、今後「TSUTAYA BOOKSTORE」の展開を進める。

 これもCCC=TSUTAYAが行なってきた、他の物販やサービス業と本を結びつける試みであり、またしても委託制によって出版物が利用され、汚れて返品されるという悪循環が繰り返されていくだろう。
 日販にいわせれば、「マーケットイン」ということになろうが、日販にしても、CCC=TSUTAYAにしても、レンタルに代わるビジネスモデルとして成長させることは難しい。それに今期はFC店の問題が大きくせり上がり、日販へと逆流していくはずだ。
 代官山蔦屋書店や蔦屋家電も赤字だとされているし、やはりCCC=TSUTAYAはレンタルとFC事業を超えられないし、Tポイント事業にしても、すでに会社分割が想定されているのではないかと推測される。



10.大垣書店の決算は売上高112億8450万円、前年比3.5%増で、過去最高額となる見通し。
 その内訳は「CD/DVD」部門を除き、BOOK、文具、カフェ、カードBOXの4部門がプラスになったこと、出店に加え、イオンモール店や外商部門が好調であることなどが挙げられている。

 同時期に発表された三洋堂HDの第1四半期の連結決算は、売上高48億8400万円、前年比5.2%減で、書店部門は30億7000万円、同6.2%減である。
 複合店であることは大垣書店も三洋堂書店も共通していて、前者が後者と異なり、売上高を伸ばしているのは閉店がなく、出店攻勢を続けているからだと思われる。だが出版状況から考えると、その反動が生じることも推測できよう。



11.集英社の売上高は1164億円、前年比0.9%減で、営業損失は9億6000万円の赤字。
 だが不動産収入などの営業外収益により、純利益は25億2500万円、同52.9%減で黒字決算。
 売上高内訳は雑誌が501億円、同13.0%減、そのうちの「雑誌」は249億円、同11.0%減、「コミックス」は251億円、同14.9%減。書籍は108億円、同2.7%減。その他の「web」「版権」などは461億円、同21.1%増。


12.光文社の売上高は217億円、前年比1.9%減で、経常・当期純利益ベースで2年連続の赤字。当期純損失は1億8700万円。
 売上高内訳は雑誌が71億円、同7.3%減、書籍が35億円、同4.2%増、広告69億円、同6.0%減。

 いうまでもないことかもしれないが、集英社は小学館に代表される一ツ橋グループ、光文社は講談社に象徴される音羽グループの有力出版社である。
 戦後の出版業界のメインシステムは一ツ橋と音羽グループの雑誌の大量生産、大手取次の大量流通、商店街の中小書店による大量販売によって形成され、営まれてきたといっていい。だが中小書店は退場してしまい、取次も危機の中であえいでいる。

 その結果としてもたらされた今回の集英社と光文社の赤字は、そのシステムの終焉を物語っているように見える。それに何よりも驚かされるのは雑誌の返品率で、集英社は32.9%、光文社は49.2%に及んでいる。こうした事実に対しての説明は不要だろうし、ブックオフならぬマガジンオフの現在を突きつけているように思える。

 なお小学館の3期連続赤字は本クロニクル122、講談社の決算は同118で既述しているので、必要なら参照されたい。
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13.『日経MJ』(9/3)が「消え始めた短冊状伝票」という記事を発信し、「スリップを発行しない出版社」リストを挙げているので、それを示す。

■スリップを発行しない出版社
出版社時期対象
KADOKAWA4月角川文庫など
岩崎書店7月すべての書籍
金の星社7月すべての書籍
フレーベル館8月すべての書籍
一迅社8月すべての書籍と漫画
竹書房8月すべての書籍と漫画

 この記事によれば、この1年間でリストを含む20社がスリップ廃止を決め、今後も1ヵ月に2~3社のペースで続くとされている。
 ひとえに書店現場での自動発注やオンライン化が整備され、スリップの重要性が薄れたことによっているが、スリップは長きにわたって、販売、注文、追加伝票とデータ作成資料、報奨金用として使用されてきた。その起源に関しては様々に伝えられているが、『出版事典』(出版ニュース社)によれば、戦後の1955年頃から広く普及するようになり、ほとんどの書籍の挿入されるようになったという。つまりスリップも戦後の出版流通システムの落とし子であり、それが消えていくことは11、12ではないけれど、戦後の出版流通システムの終わりを告げていることになるのだろう。
 また『本の雑誌』(9月号)も「特集スリップを救え!」を組んでいることを付記しておこう。

出版事典 本の雑誌



14.「地方・小出版流通センター通信」(No505)が、松村久の85歳の死を追悼している。彼はそれこそ、4の周南市駅前で古本屋のマツノ書店を営みながら、明治維新史を中心とする防長史資料280点余りの復刊と刊行に携わり、2007年には菊池寛賞を受賞している。
 そこには松村だけでなく、沖縄タイムス社出版部で『沖縄大百科事典』や『沖縄美術全集』を編集し、退職後も出版舎Mugenを立ち上げた上間常道の76歳の死も伝えられている。

 松村とは面識がなかったけれど、その出版記は『六時閉店』(マツノ書店)で読んでいるし、中村文孝『リブロが本屋であったころ』(「出版人に聞く」シリーズ4)にも登場してもらっている。だが申し訳ないことに、中村も私も版元名から松村でなく松野だと思いこんでいたので、松野と間違って記載してしまったことが本当に悔やまれる。
 上間のことは知らなかったが、前回取り上げた沖縄の同人誌『脈』に関係していたかもしれない。それらはともかく、このようにして、地方出版の時代も終わっていくのだろうか。
f:id:OdaMitsuo:20180926212922j:plain:h110 リブロが本屋であったころ



15.『FACTA』(10月号)が細野祐二の「会計スキャン」として「RIZAPグループ―損失先送り経営」を掲載している。
 ライザップは上場9会社を持ち、前期も23社を企業買収しているが、その当期利益は大半が「負ののれん」によって占められているというものだ。これは専門的論稿にして、「ライザップへの質問と回答」などの掲載もあることから、実際に読んでもらうしかない。
 それは次のように結ばれている。

 「負ののれん」が当期純利益の大半を占めるライザップの財務諸表は会社の財務状況と経営成績を適正に表示しておらず、その利用は危険極まりない。


 『出版状況クロニクルⅣ』で、ライザップによる日本文芸社、本クロニクル118で、CD/DVDショップのワンダーコーポレーションの買収を取り上げてきているが、これらも同様の「損実先送り経営」の一環なのであろうか。
 やはり本クロニクル122で、大阪屋栗田を買収した楽天に関しても、細野が「非上場株で『膨らし粉』経営」だと指摘していることにふれているが、トーハン、日販の書店買収、CCC=TSUTAYAの出版社買収なども、同じような危惧を孕んでいるのではないだろうか。
 いずれも非上場ゆえに詳細に分析されていないけれど、取次を通さない直販誌『FACTA』と細野に、それらの「会計スキャン」を期待したいところだ。



16.『ジャーナリズム』(9月号)が「先の見えない時代 読み解くカギは読書にある!」として、「現在地を知る100冊」特集を組んでいる。

ジャーナリズム 沖縄の市場〈マチグヮー〉文化誌

 「現在地を知る」とのタイトル名は卓抜で、それに見合う多くの未読の本を教えられた。
 読んでいるのは多くなく、与那原恵の「『今』照らす古琉球以来の歴史―現在の沖縄問題を理解するための10冊」では、小松かおり『沖縄の市場〈マチグヮー〉文化誌』(ボーダーインク)だけだった。
 これから気になる本は読んでいきたいと思うが、『ジャーナリズム』で恒例のように挙げられていた出版に関する「現在地」が見当らないことに気づいた。何か事情でもあるのだろうか。
 その代わりといっていいのか、川本裕司「接続遮断は通史の秘密を侵害か 大規模漢詩の指摘、運用拡大も」が寄せられていた。この「サイトブロッキング」、コミックの海賊版サイトの問題に関して、本クロニクル120、121などでもふれ、その「通信の秘密」を侵害する「超法規処置」に疑問を表してきた。川本文は、政府の知的戦略本部の検討会議において、法制化強行を危惧する複数委員の批判と、それに対する反論が繰り広げられ、決議に至らなかったプロセスと事情を報告している。これは詳細レポートであるので、ぜひ読んでほしいし、その論議の行方を見守りたいと思う。
 「サイトブロッキング」問題は、「表現の自由」や「知る権利」と合わせ鏡になっているからだ。



17.前田雅之『書物と権力』(吉川弘文館)を読了した。

書物と権力

 今回、繰り返しふれてきた戦後出版システムの終わりではないけれど、実用、趣味、娯楽ではなく、教養を身につけるための読書、自分の中身を高めるための読書も、1990年代に終焉したと前田は述べている。それは明治末期から1980年代までは確かに存在していた。
 その起源は、中世における権門体制(院・天皇―公家・武家・寺家)を相互につなぐ文化的要素が中世エリート公共圏で、同時に「古典的公共圏」を形成していた。それが近代まで続き、「教養のコンセプト」となっていたのである。
 「古典的公共圏」の成立とは、古典、和歌を抜きにしての人間関係は考えられず、それゆえに書物と権力の問題がせり上がり、サブタイトルにある「中世文化の政治学」がオーバーラップしていく。そして「書物・知」をめぐる権力のネットワークが描かれ、あらためて中世における書物の位相を教示してくれる。
 だがそのような「書物・知」をめぐる教養的読書は20世紀において終焉し、今世紀を迎え、インターネットに置き換えられたということになるのだろうか。



18.今月の論創社HP「本を読む」㉜は「森一祐、綜合社、集英社『世界の文学』」です。

出版状況クロニクル124(2018年8月1日~8月31日)

 18年7月の書籍雑誌推定販売金額は919億円で、前年比3.4%減。
 書籍は439億円で、同6.0%減。雑誌は480億円で、同0.8%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が384億円で、同0.6%増、週刊誌は96億円で、同6.2%減。
 月刊誌が前年を上回ったのは16年12月期以来のことだが、それは前年同月が17.1%減という大幅なものだったことに加え、コミックスやムックの返品が大きな改善を見たことによる。
 返品率は書籍が41.8%、雑誌が43.2%。
 しかし月刊誌の増や返品率の改善といっても、西日本豪雨の被害の影響で、輸送遅延が長期化し、中国、四国、九州エリアで、7月期には返品できなかったことも大きく作用していることに留意すべきだろう。
 それに記録的な猛暑と豪雨の影響を受け、書店店頭状況も、書籍が6%減、雑誌の定期誌8%減、ムック3%減、ただコミックスはジャンプコミックスの人気作もあり1%減。
 18年のマイナスは7月でついに600億円を突破し、2の大阪屋栗田の17年売上高に迫りつつある。
 


1.出版科学研究所による2018年上半期の 紙+電子出版市場の動向を示す。

2018年上半期 紙と電子の出版物販売金額
2018年1〜6月電子紙+電子
書籍雑誌紙合計電子コミック電子書籍電子雑誌電子合計紙+電子合計
(億円)3,8102,8926,7028641531081,1257,827
前年同期比(%)96.486.992.0111.2109.396.4109.394.2
占有率(%)48.736.985.611.02.01.414.4100.0

2017年上半期 紙と電子の出版物販売金額
2017年1〜6月電子紙+電子
書籍雑誌紙合計電子コミック電子書籍電子雑誌電子合計紙+電子合計
(億円)3,9543,3277,2817771401121,0298,310
前年同期比(%)97.391.594.5122.7114.8121.7121.597.2
占有率(%)47.640.087.69.41.71.312.4100.0

 前回は表が多かったこともあり、紙の出版物だけを取り上げ、電子出版市場に関してはふれなかったので、今月はそれに言及してみる。
 上半期の紙と電子出版物販売金額は7827億円で、前年比5.8%減。そのうちの電子出版市場は1125億円で、同9.3%増で、金額にしても96億円のプラス。そのシェアは2%増の14.4%で、書籍は48.7%、雑誌は36.9%となる。
 電子出版の内訳は電子コミックが864億円で、同11.2%増、電子書籍が153億円で、同9.3%増、電子雑誌が108億円で、同3.6%減。
 電子コミックシェアは76.8%に及び、二ケタ成長を続けているが、17年の同期22.7%増と比べれば、半分以下の伸び率である。
 それに電子雑誌が始めてのマイナスとなったことで、これは読み放題サービス会員の減少が原因とされる。だが前年同期が21.7%増だったのだから、大幅な落ちこみで、やはりそれは下半期も続くと見るべきだろう。
 出版科学研究所のデータからすると、明らかに電子出版市場も頭打ちの兆候を示し始めている。

 その一方で、インプレス総合研究所も17年度の電子書籍市場規模を発表している。それによれば、17年度は2241億円で、前年比13.4%増。その内訳は電子コミックが1845億円で、同14.1%増、そのシェアは82%を超える。電子雑誌は315億円、同4.1%増、文芸、実用、写真集などは396億円、同10.3%増。
 無料のマンガアプリ広告市場は100億円の大台に達したが、電子コミック市場の成長は鈍化しつつあり、電子雑誌の将来も不透明とされている。
 それでもインプレス総研は、2022年の電子出版市場規模は2017年度の1.4倍にあたる3500億円規模を予測している。
 しかし5年先どころか、出版業界は数年先がどうなっているのかわからない状況にあるのは自明なことで、電子出版市場もまたそれと併走していることを認識すべきだろう。



2.『日経MJ』(8/1)の17年度「日本の卸業調査」が出された。「書籍・CD・ビデオ部門」を示す。

■書籍・CD・ビデオ卸売業調査
順位社名売上高
(百万円)
増減率
(%)
営業利益
(百万円)
増減率
(%)
経常利益
(百万円)
増減率
(%)
税引後
利益
(百万円)
粗利益率
(%)
主商品
1日本出版販売579,094▲7.32,3667.22,5505.972112.5書籍
2トーハン443,751▲6.84,452▲29.42,413▲42.975813.4書籍
3大阪屋栗田77,037▲3.9書籍
4図書館流通
センター
45,1315.31,648▲12.41,841▲10..61,05817.6書籍
5日教販27,367▲0.84029.221883.219010.7書籍
9春うららかな書房3,617▲6.0書籍
MPD180,793▲3.9417▲50.0418▲50.52124.3CD

 前回の本クロニクルなどで、大阪屋栗田やMPDが業界紙を始めとして、公式に決算発表をしていないことにふれておいた。しかし流通業界の恒例の調査なので、無視できなかったのであろう。
 ただそうはいっても、大阪屋栗田は売上高と伸び率だけで、大赤字の実態は露出していない。
 MPDの売上高は1807億円で、前年比3.9%減だが、営業利益、経常利益は双方とも半減していて、これが決算発表を避けた要因だと推測される。
 日販とトーハンの大幅なマイナスは雑誌の凋落とクロスし、それが18年も続いているわけだから、両社が赤字に追いやられることも想定できよう。流通業の場合、採算売上を割りこめば、急速に赤字が増大していくとされるし、それは取次そのものが置かれている流通状況に他ならないだろう。
 そのような減収の中で、昨年とは逆に日販のほうは増益、トーハンのほうは減益というコントラストを示しているが、そのうちにMPDも含め、様々なメカニズムの矛盾が露出してくると思われる

 それから17年調査の特色は税引後利益で、TRCが日販、トーハンを上回ったことであろう。粗利益と返品率の問題が絡んでいるが、出版業界のとりあえずの勝者は、主流ではないTRCと公共図書館ということになってしまうのだろうか。



3.『新文化』(8/9)がトーハンの近藤敏貴新社長に「トーハン課題と未来像」というインタビューを掲載しているので、それを要約してみる。

基本的な経営方針は「本業の復活」と「事業領域の拡大」です。
トーハンの本業は書店を通じ、本を売っていくことで、取引書店の繁栄を第一に考え、それが出版社の繁栄、ひいては社会や文化の発展につながるし、そうした考えがDNAとしてトーハンに脈々と引き継がれている。しかし書店の事業環境が非常に厳しくなっているので、サポートするために、物流改革、利益の適正な再配分が必要だし、その改革ができなければ、出版を支える公器としての取次の存在意義が問われる。
物流網が非常に疲弊し、トーハンだけではその運賃値上げをとても吸収できないので、出版社にその支援をお願いしている。それに出版流通を支える雑誌、コミックの売上低下の中で、書籍を中心とする流通構造を構築するために、書籍の赤字の改善も必要である。
多くの出版社が状況を理解し、早々に回答してくれているし、まだ十分な回答を得られず、交渉を継続している出版社もある。
書店マージンも重要な課題だが、返品も減らしていかないとその原資が確保できない。新刊委託制を見直し、プロダクトアウトの発想から、マーケットインの受注生産出版構造にシフトしていかないと、返品減少と書店の粗利向上は不可能だろう。
ICタグは1個4~5円なので、定価を上げてコストを吸収できるだろうし、導入できれば、出版社、取次、書店の仕事は劇的に変わり、検品や棚卸しも不要で、事故品の追跡調査や万引防止にも活用できる。
そのシミュレーションのために、営業統括本部にAIとデータキャリアの導入というミッションを与え、AIに関してはまず雑誌と書籍の配本を考えている。
「本業の復活」に向けて市場開発方針があり、地方だけでなく、都市部の生活圏内にも書店のない区域がめずらしくないので、商圏人口や商業業種動向などを見ながら、デベロッパーや書店と組んで、常に出店可能性をリサーチしている。
今期上半期の紙市場の規模は、過去最大の減少率の前年比8.0%減で、衝撃をもって受け止めた。生半可なことでは回復できないし、一刻も早く委託制度に依存しない書籍を主軸とする出版流通を確立しなければならない。
カフェ、文具、雑貨は本を売るための取次事業であり、「事業領域の拡大」はそれ以外の領域で、介護事業や不動産事業が該当する。グループ会社トーハン・コンサルティングでは2棟目の介護施設を東京の西新井に建設中で、不動産事業も京都支店跡地にホテルが完成する。また本社の再開発経計画も控えているし、M&Aも含めた新規事業開発も積極的に考え、グループ経営をより重視していく。
本社再開発計画は東五軒町の本社ビルを立て直し、敷地一帯を再開発し、新本社ビルは2021年春をめどに完成させたい。現在本社内での書籍新刊物流は和光市に最新の作業所を確保したので、来年のゴールデンウイークに移転を考えている。
これらは大きな投資であり、数年がかりのプロジェクトとして、「本業の復活」と「事業領域の拡大」を絡めて進めていく。


 本クロニクル119で、大阪屋栗田が株主にしか目が向いていないこと、日販の「非常事態宣言」は日販傘下書店とCCC=TSUTAYAの売上状況の悪化を背景にしていることを既述しておいた。

 それにならえば、トーハンは「事業領域の拡大」を最大の目的としていることが伝わってくる。「本業の復活」に関して、プロダクトアウトの発想から、マーケットインの受注生産型の出版構造へのシフト、ICタグの導入による出版業界の仕事の劇的な変化、AIとデータキャリアの導入というミッションなどがまことしやかに語られている。だが、それらがただちに「本業の復活」にリンクしていくとはとても思えない。本気でそう考えているとすれば、現在の出版状況を直視していないといわざるをえない。
 
 日販の「非常事態宣言」には、傘下書店ともども沈没していくという危機感が見られたが、トーハンの場合にしても、同じように傘下書店売上は700億円から800億円に及んでいるはずだ。だがこのインタビューに感じられる限り、それらは他人事のようでもあり、それゆえにトーハンは「本業の復活」というよりも、「事業領域の拡大」にしか目が向いていないと判断するしかないだろう。
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4.三洋堂書店はトーハンとの資本業務提携、第三社割当による新株式の発行を決議。
 これによりトーハンが三洋堂書店の筆頭株主となる。

 まさにのトーハンの「事業領域の拡大」ではないけれど、三洋堂も雑誌やDVDレンタルの凋落の中で、コインランドリー事業、教育事業、フィットネス事業などを導入してきている。
 しかし本クロニクル122でふれておいたように、純利益は500万円という「かつかつの黒字」で、今期予想は純損失3億円と見込まれている。それもあって、金融機関からの借り入れではなく、トーハンからの直接金融による資金調達が選択されたのであろう。
 だが書店の「事業領域の拡大」も容易ではなく、コインランドリーや教育事業は苦戦していると伝えられている。
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5.日販傘下のリブロ、万田商事(オリオン書房)、あゆみBooks の3社が合併し、新会社としてリブロプラスを設立し、日販関連会社NICリテールズの100%子会社となる。3社は首都圏を中心に、14都府県に89店を有する。

 新会社の資本金は1億円で、統合によって、書店事業の未来につながる店舗づくりに向けた投資、リノベーションを進めるとされているが、ここに集約されているのは、取次による書店経営は可能かという問題のように思える。

 大阪屋栗田のケースは、出版社が取次を経営することの不可能性をあらためて教えてくれたが、それは取次と書店の場合にも当てはまるのではないだろうか。ましてそれぞれ異なる立地や店舗を統合し、新たな書店ブランドを取次が立ち上げることは困難だというしかない。たやすくそれができるのであれば、それまでの書店の苦労は何だったのか、ナショナルチェーン化すれば問題は解決するかといった疑念が生じてしまう。
 そのケーススタディをで見たばかりではないか。



6.これも日販のNICリテールズとファミリーマートは、書店とCVSを一体化した新業態店の展開に向けて、包括提携契約を締結。
 その1号店として、積文館書店の佐賀三日月店(佐賀・小城市)を改装。
 売場面積は160坪で、書店エリアは100坪、CVSエリアは60坪。レジは一ヵ所に集約し、営業時間は午前10時から午後9時までが24時間営業に変更。

 『出版状況クロニクルⅤ』で、ちょうど1年前の兵庫県加西市の西村書店とファミマの融合のケースを紹介しておいた。その背景には日販が書店存続の最終手段として、ファミマにコンビニ書店展開を持ちかけたこと、ファミマにとってはFCオーナーの確保と新規出店が結びつくことも挙げておいた。

 しかしその後、単独書店の参加は続かなかったので、日販は傘下書店を新業態店に組み入れるしかなかったと判断できよう。その第一の目的は、ファミマと提携することによる家賃コストの軽減であり、そこまでしなければチェーン店の維持ができないところまできていることを意味している。
 もし日販が今後も次々とファミマとのコンビニ書店を展開していくのであれば、それをあからさまに証明していることになろう。
 それは北陸でも始まっていて、富山県のファミリーブックスは、北陸地方で初めてのコンビニ書店「ファミリーマート+ファミリーブックス福光店」(南砺市)を開店する。
出版状況クロニクルⅤ



7.習志野市のBooks昭和堂と東京中央区のLIXILブックギャラリーが閉店。
 前者は1986年開店で、手書きpop による『白い犬とワルツを』(新潮文庫)を平台販売で書店発リバイバル・ベストセラー化へと導いた。後者は1988年にINAXブックギャラリーとして開店し、ショールームとギャラリーを併設し、建築、デザイン、インテリア書などをメインに販売していた。


白い犬とワルツを

 Books 昭和堂の手書きpop による平台販売は、現在に至る書店員の手書きpop の嚆矢といえるだろうし、INAXブックギャラリーは90年代に営業にいったことがある。
 だがどちらも30年間にわたってそこに存在していたわけだから、閉店後は何らかの空白感に包まれるのではないかと察せられる。本クロニクル121の青山ブックセンター六本木店、同118の幸福書房と同じようにして、町から書店が消えていくことになる。
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8.日販から出版者社に「計算書および関連帳表のご提供方法変更のご案内」が届いた。
 それによれば「計算書」「計算明細書」「控除明細書(及びその補正資料)」について、紙の郵送を廃止し、インターネット画面でのデータ提供に移行する(WEB化)とし、移行時期は2019年2月予定とされる。
 その利点として「帳票情報取得の早期化」「データ活用による業務効率化」「控除の明細書の様式統一」が挙げられている。
 日本出版社協議会はそれに対し、以下の4つの問題を挙げているので、それを示す。


(1)インターネット画面でのデータ提供は、第三者へ取引内容を記した文書を私、そこからその文書を取得することを強制する仕組みである点。
(2)上記の仕組みを使用する場合、第三者(サーバー会社等)へIDやメールアドレスなどの自社の情報の登録を強いる点。
(3)「控除明細書」には物品代、運送料運賃類、広告費、売上値引や歩戻など各種の取引条件が含まれ、通常その通知は「信書」扱いとされ、その通知方法の変更が行われる場合、双方の同意が不可欠である点。
(4)その同意がない場合は、従来通り、郵送でなければならない点。

そしてこれを添え、会員各社に「緊急アンケート」を配信している。

 これは6月下旬から7月にかけて、日販から文書として届いているが、業界紙などでも報じられていない。出版協のアンケートにしても、7月下旬配信で、まだそれらの集計が出ていないこともあり、本クロニクルでも注視を続け、レポートしていくつもりである。
 またこちらはトーハンだが、小出版社の新刊配本に対し、総量規制ならぬ総量緩和が起きていて、これまでより多い仕入れが生じている。だがこれも大手出版社でも同様なのか、まだ確認できていない。こちらも続けてレポートしていきたい。



9.本クロニクル121で、文春の内紛を伝えたが、その後「文藝春秋 木俣正剛常務取締役による『社員の皆さんへ』というメール」が出回り、そこには文春の社長人事の内紛事情がしたためられ、次のような文言が見える。

 いうまでもなく出版不況はさらにこれから厳しさを増すでしょう。そのなかで生き残る のに問われるのは、なぜ文藝春秋という会社がこの国に必要なのか、文藝春秋が日本人の ために何ができるのかを常に自戒することだと思います。私は文藝春秋という会社は日本 にとって大切な会社だとずっと思ってきました。ただ、数字的に生き延びればいい、という会社ではあってはならないと思いますし、これからもそうであってほしい。


この一文を引いたのは、「文藝春秋」を「出版業界」に置き換えて読むことができるからだ。ただ残念なのは、木俣が依然として「出版不況」というタームを使っていることで、やはり出版業界の人々は、自分がいた場所とそこでの体験を通じてしか、出版とその状況を理解できず、語れないと実感してしまう。

 これはもはや今世紀初頭の話になってしまうけれど、文春の労組に呼ばれ、文春で講演したことがあった。そこで再版委託制に基づく近代出版流通システムが崩壊していること、書店のバブル出店と郊外消費社会の関係、ブックオフとCCC=TSUTAYAの台頭による書店の退場、公共図書館の増殖などを挙げ、すでに出版状況は危機を迎え、このまま書籍の再版委託制を続けていけば、その危機は加速していくばかりだと話してきた。
 おそらく木俣たちもその場にいたはずだが、当時は誰も理解しておらず、現在のような出版状況、それに重なるような文春の内紛が生じるとは予想もしていなかったにちがいない。
 その頃、私は同じことをダイレクトに、小学館の相賀社長、ジュンク堂の工藤社長にも伝えたし、それは新潮社や岩波書店も同様である。しかし彼らにしても、木俣や文春と同じだったことがよくわかる。

 結局のところ、私の出版危機論は一部の人にしか理解されず、ついにはここまできてしまったというしかない。



10.筑摩書房は大宮の老朽化した物流倉庫「筑摩書房サービスセンター」を閉鎖し、在庫の保管や物流を小学館グループの昭和図書に移す。

 それに伴い、1100坪の敷地は売却されるようで、すでにその金額も固まっていると伝えられている。
 前回の本クロニクルでも既述したが、社長の交代と倉庫用地の売却はパラレルで進められたことになろう。
 でトーハンの本社内書籍新刊物流が和光市の最新作業所に移されることにふれたが、日教販も本社内の教科書物流機能を、京葉流通倉庫の笹目流通センター(埼玉県戸田市)に移管する。



11.彩流社が京都のIT企業コギトにM&A され、コギトグループの一員となった。
 ただし代表取締役には竹内淳夫が引き続き就任し、出版事業に何ら変更はないと発表されている。

 これまでも本クロニクルで多くの出版社のM&Aを伝えてきたし、それによって出版物が変わってしまった例も見てきた。だが幸いにして、彩流社は経営者も出版物も変わらないままということなので、まずはよかったというべきだろう。
 出版社のM&Aをめぐっては水面下で多くの交渉がもたれているようだが、買収企業が定かでなく進められている場合も多くあるようで、これはこれで一筋縄ではいかない世界なのであろう。



12.岩田書院から創立25周年となる2018年『図書目録』を送られた。
 そこには「25周年記念謝恩セール」の案内とともに、「新刊ニュースの裏だより2017・5~2018・3」も収録され、次のような「売上高・出版点数推移」が公開されている。

 1997年(創立4年目)が売上8730万円で新刊31点、これに対して、昨年2016年(創立23年目)が同じ8780万円で40点、しかも1997年は総点数が98点に対して、2016年は10倍の984点に達しているにもかかわらず、である。
 これは、いかに新刊1点あたりの売上が落ちているか、ということと、既刊本の点数がいくらあっても、売り上げとしては あまり期待できない、ということを示している。途中の2006年の谷間は何か?、なんでだろう。そんな大きな企画があったわけではないし、よく判らないが、いずれにしろ、出版社は新刊を作り続けなくてはならない、ということか。


 かつては在庫点数が増えるほど、出版社の財産となると信じられたけれど、そうした神話はとっくに失われてしまったのである。
 出版点数が10倍になっても、売上高はまったく変わらないという出版社の恐るべき現実がここに語られている。
 それは大中出版社も例外ではなく、小出版社と同様に「新刊を作り続けなくてはならない」現実を浮かび上がらせている。



13.『選択』(8月号)が「滅びゆく『大学出版会』」という記事を発信し、次のように始めている。

 学者、研究者が自らの研究成果を世に問う学術書を出す機能を担う大学出版会の衰退が加速している。東京大学出版会、慶應義塾大学出版会などトップ大学の出版会すら経営は実質赤字。経営破綻し、民間の出版社に業務を丸投げした名門大学の出版会もある。学術的価値よりも「売れる本」づくりに走る出版会も多く、肝心の学術書は科研費や研究者の自己負担でようやく日の目をみる、といった状況だ。日本語で書かれた学術書は世界に市場を持たないという事情はあるにせよ、大学出版会の惨状は日本の「知の衰退」そのものを映し出しているようだ。

そして実際に大阪大学出版会、名古屋大学出版会、慶応義塾大学出版会などの例が挙げられ、安定収入だった教科書出版の激減、大学や国からの助成金、著編者負担金が出版収入を上回る実態がレポートされている。

12の岩田書院ではないけれど、東大出版会の『知の技法』などを例外として、おそらく既刊書もまったく売れなくなっているのだろう。それほど「全国の大学出版会の本は売れていないのだ」。
 これが一般の出版社と変わらない大学出版会の現在の姿といえるであろう。
知の技法



14.同時代社から三宅勝久『大東建託の内幕』を送られた。

大東建託の内幕

 同書はアマゾンの隠れたるベストセラーとなっているようで、それを受けて『朝日新聞』(7/26~28)で、「サブリースリスク」が付された「負動産時代」特集が組まれたといっていい。
 スルガ銀行に端を発したサブリース問題はレオパレス21や大東建託にも及び、18年はサブリース破綻元年になるのではないかとも伝えられている。しかもそれにリンクする個人の賃貸アパート向け融資残高は23兆円に達していて、これが日本版「サブプライムローン問題」となって現実化するのではないかとも観測されている。

 「サブリース」とは『大東建託の内幕』に詳しいが、オーナーが建てたアパートなどを建設業者が一括で借り上げ、家賃も一括で支払うシステムをさしている。
 それならば、出版業界との関係はないように思われるかもしれないが、大手ハウスメーカーなどはこのシステムを利用し、テナント開発を行なってきたのであり、それを通じて1980年代以後の郊外消費社会も形成され、そこでは書店も例外ではなかったのだ。

 実際に書店の大手ナショナルチェーンは大手ハウスメーカーと組み、資産家を対象としてフランチャイズ展開をしていたし、その建物と商品代金の巨額な投資は自殺者まで発生したと伝えられている。これは資産家と大手書店FCを直接リンクさせているとはいえないけれど、サブリース商法の一環として、生み出されたことは間違いない。
 このサブリースの第一の特徴は建築費が高いことで、それが家賃へと反映され、商業テナントも同様である。だがその代わり、サブリースを導入したことで、テナント側は家賃は高いけれど、賃貸拘束期間も他に比べて短く、どちらかといえば、容易に出店、閉店できる。また1990年に入っての大店法の規制緩和と2000年の大店立地法の成立も相乗し、店舗は大型化していき、そこには多くの場合、サブリースが応用されていた。そして当然のことながら、家賃は高くなり、ビルテナント、ショッピングセンターにも及び、その結果採算がとれる業種とそうでない業種に分かれていった。その後者の典型が書店の大型複合店で、しかも雑誌とレンタルの凋落を受け、現実的に高い家賃を払えない状況を招来している。その表われの一端が、書店マージン30%要求だと見なすべきだろう
 
 本クロニクルはずっと書店の出店をバブルだと指摘してきたが、それはこのようなサブリース問題を含んだ出店メカニズムに注視してきたからである。
 それからこれは稿をあらためてけれど、CCC=TSUTAYAに象徴されるフランチャイズ展開もサブリースシステムといえるだろう。取次に対し、フランチャイジーの支払いを一括で引き受けることによって成立しているのだから。
 また郊外消費社会成立のメカニズムに関しては、拙著『〈郊外〉の誕生と死』『郊外の果てへの旅/混住社会論』を参照されたい。
『〈郊外〉の誕生と死 郊外の果てへの旅

 

15.『脈』(98号、地方・小出版流通センター扱い)が特集「写真家潮田登久子・島尾伸三」として届けられた。 

f:id:OdaMitsuo:20180825162338j:plain:h113 みすず書房旧社屋(『みすず書房旧社屋』)

 『脈』は那覇市の比嘉加津夫を編集発行人とする文芸同人誌で、友人がずっと恵送してくれることもあって、愛読している。『脈』は沖縄に関係する人々の特集をマインとしているのだが、今回の特集は思いがけないものだった。
 とりわけ巻頭の『みすず書房旧社屋』の写真家である潮田の「本と景色と私」における17の「PLATE」は近代から現在にかけての本の生々しい景色を物語っているようで、現在のメタファーとなっていると思われた。またそれに続く島尾伸三による島尾敏雄の写真も興味深い。
 ちなみに『脈』96号は「芥川賞作家・東峰夫の小説」、97号は「沖縄を生きた島成郎」を特集し、次の99号は「吉本隆明が尊敬した今氏乙治作品集」(11月刊行)予定となっている。



16.「出版人に聞く」シリーズ番外編2として、関根由子『家庭通信社と戦後五〇年史』が8月下旬に刊行された。
 論創社HP「本を読む」㉛は「『二十世紀の文学』としての集英社『世界文学全集』」です。

家庭通信社と戦後五〇年史

出版状況クロニクル123(2018年7月1日~7月31日)

 18年6月の書籍雑誌推定販売金額は1029億円で、前年比6.7%減。
 書籍は530億円で、同2.1%減。雑誌は499億円で、同11.2%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が406億円で、同11.5%減、週刊誌は92億円で、同9.6%減。
 返品率は書籍が41.4%、雑誌が44.5%。
 6月の大阪北部地震に続いて、7月の西日本豪雨による被災書店は中部、関西、中国、四国、九州と広範囲にわたり、浸水に見舞われたようだ。
 災害の詳細はまだ明らかになっていないけれど、被害が少ないこと、速やかな復旧と再開を祈るしかない。


1.出版科学研究所による18年上半期の出版物推定販売額を示す。

■2018年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2018年
1〜6月計
670,150▲8.0380,991▲3.6289,159▲13.1
1月92,974▲3.551,7511.941,223▲9.5
2月125,162▲10.577,362▲6.647,800▲16.3
3月162,585▲8.0101,713▲3.260,872▲15.0
4月101,854▲9.253,828▲2.348,026▲15.8
5月84,623▲8.743,305▲8.841,318▲8.5
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2

 書店雑誌推定販売金額は6702億円、前年比8.0%減。前年は7281億円だったので、この上半期で579億円のマイナスである。
 いうまでもなく、18年のマイナスは加速し、毎月100億円近くが減少し、最大の落ちこみとなるだろう。
 書籍が3810億円、3.6%減、雑誌が2892億円、13.1%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が2341億円、13.6%減、週刊誌が550億円、10.7%減。
 その月刊誌のほうだが、月刊定期誌11%減、ムック16%減、コミックス15%減と、雑誌分野がすべて二桁マイナスということになる。
 恐ろしいといっていいほどで、日本の書店市場は雑誌をベースにして成立していたわけだから、18年上半期の販売状況が、書店を苦境に追いやっていることは歴然だし、それは大手出版社や取次も同様である。そのために書店の閉店も増えているのではないだろうか。 
  
 今月は近隣のイオンタウン内にある三洋堂書店の閉店を目撃してしまった。300坪ほどのバラエティショップであったが、ほぼ5年で撤退してしまった。結局のところ黒字化しなかったのであろう。 
 それにしても、バラエティショップの大型複合店の閉店は、取次に雑誌書籍を返品して終わりということではないので、様々な順序があるようだ。まず最初に古本コーナーが棚だけになり、続いてレンタル商品や文具や什器なども店舗間移動し、再利用されることになるのだろうか。
 そのような大型複合店の閉店が全国各地で起きているように思われる。



2.『出版ニュース』(7/中)に「日本の出版統計」がまとめられているので、『出版年鑑』による17年の出版物総売上高と出版社数の推移を示す。

■書籍・雑誌発行売上推移
新刊点数
(万冊)
書籍
実売総金額
(万円)
書籍
返品率
(%)
雑誌
実売総金額
(万円)
雑誌
返品率
(%)
書籍+雑誌
実売総金額
(万円)
前年度比
(%)
199660,462109,960,10535.5%159,840,69727.0%269,800,8023.6%
199762,336110,624,58338.6%157,255,77029.0%267,880,353▲0.7%
199863,023106,102,70640.0%155,620,36329.0%261,723,069▲2.3%
199962,621104,207,76039.9%151,274,57629.9%255,482,336▲2.4%
200065,065101,521,12639.2%149,723,66529.1%251,244,791▲1.7%
200171,073100,317,44639.2%144,126,86730.3%244,444,313▲2.7%
200274,259101,230,38837.9%142,461,84830.0%243,692,236▲0.3%
200375,53096,648,56638.9%135,151,17932.7%231,799,715▲4.9%
200477,031102,365,86637.3%132,453,33732.6%234,819,2031.3%
200580,58098,792,56139.5%130,416,50333.9%229,209,064▲2.4%
200680,618100,945,01138.5%125,333,52634.5%226,278,537▲1.3%
200780,59597,466,43540.3%122,368,24535.3%219,834,680▲2.8%
200879,91795,415,60540.9%117,313,58436.3%212,729,189▲3.2%
200980,77691,379,20941.1%112,715,60336.1%204,094,812▲4.1%
201078,35488,308,17039.6%109,193,14035.4%197,501,310▲3.2%
201178,90288,011,19038.1%102,174,95036.0%190,186,140▲3.7%
201282,20486,143,81138.2%97,179,89337.5%183,323,704▲3.6%
201382,58984,301,45937.7%92,808,74738.7%177,110,206▲3.4%
201480,95480,886,55538.1%88,029,75139.9%168,916,306▲4.6%
201580,04879,357,21737.7%80,752,71441.6%160,100,931▲5.2%
201678,11378,697,43037.4%75,870,39341.2%154,567,823▲3.5%
201775,41276,259,69837.2%67,808,47043.5%144,068,168▲6.8%


■出版社数の推移
出版社数
19984,454
19994,406
20004,391
20014,424
20024,361
20034,311
20044,260
20054,229
20064,107
20074,055
20083,979
20093,902
20103,817
20113,734
20123,676
20133,588
20143,534
20153,489
20163,434
20173,382

 本クロニクル117などで示しておいたように、出版科学研究所の取次ルート販売金額は1兆3701億円、前年比6.9%減であった。
 『出版年鑑』による実売金額のほうは1兆4406億円、同6.8%減ということになり、どちらもかつてない1000億円以上のマイナスで、しかもまったく下げ止まりが見られないことも共通していよう。
 出版社数の推移にしても、1990年代に比べれば、1000社以上が減少していて、このまま進めば、近年のうちに3000社を割ることが確実であろう。
 前回の本クロニクルで、18年の実質的書店数は1万店を割るのではないかと既述しておいたが、それは書店市場が出版社の多様性を支えられない状況を浮かび上がらせている。その流通と金融を担う取次も同様で、出版危機は出版業界の全分野に及んでいることなる。
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3.大阪屋栗田から「資本金及び資本準備金の額の減少(振替)に関するご案内」が届いた。
 そこには「平成30年5月25日付にて第三者割当により増加した資本金の額金1,750,000,000円及び資本準備金の額金1,750,000,000円につき、平成30年7月6日付けで同額を減少し、その他資本剰余金に振り替えることにいたしました」とあった。
 そして「最終貸借対照表の開示状況」は、『官報』(7/3、136頁)に掲載とのことだったので、それを見てみた。

 要するに大阪屋栗田の第4期決算は売上高770億3700万円で、当期純利益は10億6200万円の赤字。
 その結果、利益剰余金が△53億1700万円となる。そこで第三者割当増資などによる35億円をその他資本剰余金に振り替え、その後利益剰余金に振り替えることで、欠損補填を行い、財務体質の健全化を図る目的としての操作と見なせよう

 しかし今期はともかく、これから大阪屋栗田はどのような道をたどるのだろうか。もはや出版業界に対し、決算も公表していないことからすれば、取次というよりは楽天の子会社としてサバイバルしていくしかないだろう。
 これも前回ふれておいたが、そのプロセスにおいて、不良債権を有している帳合書店はどのように処理されるのか、それが問題であろう。



4.『日経MJ』(7/11)の「第46回日本の専門店調査」が出された。
 そのうちの「書籍・文具売上高ランキングを示す。

■ 書籍・文具売上高ランキング
順位会社名売上高
(百万円)
伸び率
(%)
経常利益
(百万円)
店舗数
1カルチュア・コンビニエンス・クラブ
(TSUTAYA、蔦谷書店)
276,5018.418,201
2紀伊國屋書店103,376▲2.41,24969
3丸善ジュンク堂書店76,034▲1.2
4ブックオフコーポレーション65,619▲4.41,349825
5未来屋書店56,073▲2.5▲278306
6有隣堂50,7402.424944
7くまざわ書店41,467▲1.6241
8フタバ図書37,3374.91,01667
9ヴィレッジヴァンガード34,689▲4.6119387
10トップカルチャー(蔦屋書店、TSUTAYA)30,397▲1.724971
11文教堂26,907▲8.7121185
12三省堂書店25,500▲2.337
13三洋堂書店21,224▲3.68383
14精文館書店19,598▲2.650750
15明屋書店14,0241.710991
16リラィアブル(コーチャンフォー、リラブ)13,8701.460010
17リブロ(mio mio、よむよむ、パルコブックセンター)13,021▲2.72469
18キクヤ図書販売11,604▲2.833
19オー・エンターテイメント(WAY)11,060▲5.05061
20大垣書店10,3171.64036
21ブックエース10,247▲1.511628
22京王書籍販売(啓文堂書店)6,609▲8.54129
23戸田書店6,410▲4.0▲3731
ゲオホールディングス
(ゲオ、ジャンブルストア、セカンドストリート)
299,26211.615,2481,843

 売上高が前年を上回っているのは23社のうちの6社だけで、CCCとフタバ図書を除いて、微増といっていい。
 赤字は2社だけだが、実質的にはブックオフではないけれど、かなりが赤字になっていると考えられる。それほどまでに書店市場における雑誌の凋落は大きな打撃を与えていよう。
 フタバ図書は店舗増によっているが、CCCは店舗数を公表していないけれど、店舗減は明らかで、17年度だけでも閉店は100店近くに及んでいるはずだ。それは前回の本クロニクルで示した日販帳合の書店数の200店以上に及ぶ減少にも表われている。それにレンタル部門も大幅なマイナスに見舞われていると推測できる。

 それなのにどうしてCCCだけが、今回も増収増益を確保できているのだろうか。これはチェーン店売上高の集積だけでなく、すべての関連会社などの連結数字であり、様々に展開するフランチャイズ事業とそれらの商品も含めた売上、M&Aした出版社売上なども計上されていると考えられる。だが上場企業ではないことから、それらの売上内訳、純利益などは公表されておらず、日販との関係もそうであるが、ブラックボックスと化している。実際に第2位の紀伊國屋書店と比べても、その突出した経常利益はどのようにしてもたらされているのか。

 これまでも『出版状況クロニクルⅤ』などでも追跡してきたように、CCCはTSUTAYAの書籍雑誌売上高を発表してきている。しかし今期はそれを見ていない。16年のその売上高は総売上の約半分の1308億円だったが、17年はどうなっているのか。これも前回の本クロニクルにおいて、日販の決算発表に際し、これまでと異なり、MPDの業績が公表されなかったことにふれておいたが、TSUTAYAの書籍雑誌売上高未公開もそれに照応しているのだろう。

 だがその一方で、TSUTAYAが「本でつながる『親子の日』書店プロジェクト」をコーディネートし、それに旭屋、リブロ、パルコなどの900店が参加し、講談社や集英社などの出版社も協賛するという。これはまさにブラックユーモアのように思える。
 これも『出版状況クロニクルⅤ』で取り上げておいたように、16年のTSUTAYAの1店当たり書籍雑誌売上高は月商1340万円で、大書店に当たる坪数と比較して、驚くほど出版物を売っていないのである。それに加えて、日販、MPD、CCC=TSUTAYAによる複合大型店の出店と、ナショナルチェーン化が、出版業界を支えていた中小書店を壊滅させた一因であること、その果てに日販が危機に追いやられ、「日販非常事態宣言」を出すに至ったことはいうまでもないだろう。

 このようなミスマッチを見ると、このほど成立したカジノ法案が想起される。現在の郊外消費社会の風景に多少なりとも通じていれば、そのエリアシェアのトップにパチンコ店が挙げられるだろう。最も広い駐車場と店舗を有していることは、自明といっていい。しかもそれは数においても、書店を超える1万店に及び、売上も20兆円強に達している。それに他のギャンブルも加えれば、日本はギャンブル王国だし、私たちも周囲にパチンコ中毒者や破産者がいることを知っている。そうした現実を弁えれば、今回のカジノ法案の成立は、日本のギャンブルの現在状況に無知な国会議員たちによる専横だとしか思えない。
 だが出版業界でもそのようなことがまかり通り、それが積み重なり、めぐりめぐって日本だけの出版危機を招来させてしまったと考えられるのである。
出版状況クロニクル5



5.『新文化』(7/12)が西日本豪雨で、書店に大きな被害が出ていることを伝えている。
 それによれば、倉敷市の宮脇書店真備店、岡山市のゆめタウン平島店、愛媛県大洲市の大洲店(いずれも宮脇書店)、広島県啓文社コア神辺店は浸水し、フタバ図書も20店舗が雨漏り、浸水したとされる。
 同紙には、啓文社コア神辺店の浸水写真も掲載され、被害の深刻さが伝わってくる。

 先月の大阪北部地震の書店の被害は30社とされていたが今回の西日本豪雨はそれどころではないようだ。まして被害額は浸水ということで、やはり同様であろう。出版社としては浸水出版物を入帳することで協力するしかないが、その処理はどのようになされるのか。それにフタバ図書だけでなく、のナショナルチェーンも被害が及んでいるだろう。 
 まだすべてが明らかになっていないが、西日本豪雨の被害は周辺にも及び、知人の故郷の町は浸水により、壊滅状態になってしまったという。まだ本格的な台風シーズンを迎えていないが、8月は大丈夫だろうか。



6.秋田県潟上市の高桑書店は会社分割を行い、同社の書店TSUTAYA事業を秋田市のWAPに譲渡。
 WAPは書店事業の他に、新品・中古ゲームソフト販売、CD・DVDのレンタルショップを手がけている。

  『ブックストア全ガイド96年版』(アルメディア)で確認したが、秋田県に高桑書店もWAPも見当たらないので、それ以後に設立、もしくは展開されたTSUTAYAのFCグループだと思われる。
 いずれにしても、高桑書店の書店・TSUTAYA事業がWAPによってM&Aされたということで、そこに何が生じていたのかは言うまでもないだろう。おそらくこのようなTSUTAYA事業をめぐるケースは、至るところで生じていると考えられる。
 また『会社四季報』夏号によれば、トップカルチャーはTSUTAYAより7店を譲渡されているという。そのようなM&A店舗譲渡が、FCグループ内で頻繁に起きているのだろう。



7.ブックオフの渋谷センター街店が閉店。

 ブックオフの3年連続赤字は本クロニクル121で、創業地の「相模原駅前店」と、青山ブックセンター六本木店の閉店とともに伝えておいたが、2008年に開業した大型店も同様となった。

 『週刊実話』web(6/29)が「止まらない店舗数減 ブックオフ経営危機のドロ沼の先」という記事を発信している。それによれば、ヤフーの「ヤフオク!」やフリマアプリの「メルカリ」との競合もさることながら、メインの中古本の低迷が最大の原因だとされる。つまり冗談ではなく、「本離れ」がブックオフを直撃しているのである。
 そのために店舗運営が困難となり、次々に閉店に追いやられ、それは大型店の渋谷センター街店も例外ではなかったことになる。ブックオフの利益率でも店舗コストが合わないのであれば、通常の書店の大型店がどのような状況に追いやられているかはいうまでもないだろう。
odamitsuo.hatenablog.com



8.埼玉日販会が解散。
 同会は1970年に会員書店86店で設立され、98年には140店が加盟していたが、現在では38店となり、48年の歴史に幕を閉じる。

 これも前回の本クロニクルで、1999年の2万2296店から、2017年の1万2026店という所詮数の半減をレポートしておいたが、埼玉日販会も同様で、大手取次と都市部においてはそれ以上に加速しているとわかる。
 確かに1970年代には各地で日販会のみならず、東販会=トーハン会も組織されたが、現在ではその大半が埼玉日販会のような状況にあるのだろう。それは日書連の現在とまったく重なっている。



9.日書連が書店マージン30%以上の獲得を唱え始め、今年はそのスローガンだけが繰り返されていくだろう。

 これは明らかに本クロニクル119や121などでふれた「日販非常事態宣言」やトーハンの動向と連動している。
 しかしこの期に及んでの相乗りという印象を抱かざるを得ない。現実的に考えても、再版委託制のままで粗利30%というのは難しいし、出版社における旧刊依存ではなく、新刊売上シェアの高止まりからしても、それに応じられる体力がないことは自明である。

 取次は流通コストの増加と「囲い込み」書店状況を背景とし、そこに至る原因に関しては見ぬふりをして、出版社に対し、コスト負担と正味切り下げを要求している。
 だがそこには取次がこれだけ努力、アピールしているのに、応じてくれない出版社が悪いという責任回避言説の形成が見え隠れしているように思える。それゆえに、日書連は取次とは異なる新しい流通と販売を提案すべきであるのに、そうでないことは、相乗りスローガンだけに終始しているからだろう。



10.図書カードNEXTも発行する日本図書普及の発行高は419億円で、前年比9.2%減。
 期末時点加盟法人は6100社で、同290社減。

 この20年間の「図書券、図書カード発行高、回収高」の推移は『出版状況クロニクルⅤ』に掲載しておいたが、やはりそのマイナス過程は加盟店の減少とパラレルである。
 2000年には2万2500店あったわけだから、現在では半減してしまったことになる。
 雑誌や書籍だけでなく、図書カードもそれに見合う絶対的書店数が必要であり、もはや単独では存続が難しいところまできているのかもしれない。



11.出版社における経営者の交代が目に見えて増えている。
 本クロニクル121で、文春の社長人事とそれを伝えたが、筑摩書房も社長が山野浩一から喜入冬子、岩崎書店が岩崎夏海から岩崎弘明、ハースト婦人画報社が二コラ・フロケへと代わっている。

 やはりこれらの社長交代にも、各社の様々な事情が絡んでいるのだろう。筑摩書房の山野の場合、まだ任期は残っているし、とりわけ岩崎書店の岩崎弘明は相談役からの復帰である。
 このような出版状況下において、サラリーマン社長にしても、オーナー社長にしても、困難な立場であることは共通しているのだろう。
odamitsuo.hatenablog.com



12.東京・武蔵野市で、直販誌『オピニオン』などを発行するオピニオン社が破産。負債は1億1200万円。

 これはどのような雑誌なのか未見であるけれど、直販誌の世界にも活字離れ現象は起きているのだろうか。
 私も直販誌は『出版月報』『選択』『FACTA』を定期購読しているが、やはり発行部数、定期購読者数は減少しているのであろうか。



13.明治古典会の「明治一五〇年」にあたる『第五十三回七夕古書大入札会』目録を恵贈された。

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 そのうちの「文芸作品」はほとんどが初版本、署名本、稀覯本で、私はこれらに門外漢であるけれど、すっかり目の保養をさせてもらった。
 それでも揃いでも署名本でもないが、ひとつだけ所持しているものがあった。それは垂水書房の『吉田健一著作集』で、そのことを「垂水書房と天野亮」(「古本屋散策」297、『日本古書通信』2018年8月号所収)として書いたばかりだ。そうした個人全集や文学全集に関して、最近聞いた話を書いておきたい。

 ひとつは親しい古本屋から伝えられたことである。頼まれて、元高校の国語教師だった人の本を買いにいったところ、岩波書店と筑摩書房の個人全集と文学全集ばかりで、分量的に段ボール50箱ほどがあった。しかしいずれも在庫が何セットもあり、とても買えるものではなかったけれど、どうしても片づけたいというその人の80を超える年齢と、知人からの紹介ということもあり、わずかばかりの金額を置き、買い入れてきた。かつてであれば、岩波書店や筑摩書房の全集類は古本屋スタンダードなアイテムだったが、もはやそうした基本セオリーも崩壊してしまったと。

 もうひとつはまさに筑摩書房の『明治文学全集』全百巻を古本屋に売った話だが、何とわずか5000円だったという。これは日本の全集の金字塔ともいうべきもので、私も最も参照している全集だが、それが何と一冊50円になってしまったのである。
 書物と文学と出版の神話の崩壊シーンを見ているといっても過言ではないだろう。残念ながら、それが現在なのだ。
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14.西潟浩平『カストリ雑誌』(カストリ出版)が届いた。

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 これはカストリ雑誌116冊の創刊号表紙セレクションで、初めて目にするものが多く収録され、敗戦と占領下の雑誌出版のひとつの実態を浮かび上がらせてくれる。
 現在が第二の敗戦と占領下であるとすれば、13のような書物状況がそれを伝えていることになろうか。



15.これもまた「特集 ひん死の論壇を再生する」という『情況』(2018年夏号)が送られてきた。

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 年初に情況出版の大下敦史が亡くなっていたこと、また同号が第五期創刊に当たることを教えられた。
 しかし特集の内容や、旧知の人たちが出たりしているのに、『出版状況クロニクルⅤ』への言及は見られず、結局のところ、ひとつの書評も現れなかったことになる。



16.論創社HP「本を読む」㉚は「中野幹隆、『現代思想』、『エピステーメー』」です。

出版状況クロニクル122(2018年6月1日~6月30日)

 18年5月の書籍雑誌推定販売金額は846億円で、前年比8.7%減。
 書籍は433億円で、同8.8%減。雑誌は413億円で、同8.5%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が322億円で、同9.6%減、週刊誌は90億円で、同4.7%減。
 返品率は書籍が43.7%、雑誌が48.6%。
 雑誌返品率は16年12月以来、初めて前年を下回ったとされるが、週刊誌の39.5%はともかく、月刊誌は前年5月期の51.0%と同様に50.7%と、50%を超えてしまっている。
 ムックなどの返品率改善にもかかわらず、トータルとしての雑誌の凋落は加速していくばかりだ。
 それに6月は大阪北部地震によって、詳細はまだ伝えられていないが、大型店を中心に30店ほどに被害が生じたとされる。被害や影響が少ないことを祈るしかない。
 その後の余震や各地での地震の発生も起きているので、今年はそれらによる出版物販売金額の落ちこみも考慮すべきかもしれない。


 
1.アルメディア調査によれば、2018年5月1日時点での書店数は1万2026店で、前年比500店の減少。
 売場面積は130万8227坪で、やはり3万3750坪の縮小。
 1999年からの書店数の推移を示す。

■書店数の推移
書店数減少数
199922,296
200021,495▲801
200120,939▲556
200219,946▲993
200319,179▲767
200418,156▲1,023
200517,839▲317
200617,582▲257
200717,098▲484
200816,342▲756
200915,765▲577
201015,314▲451
201115,061▲253
201214,696▲365
201314,241▲455
201413,943▲298
201513,488▲455
201612,526▲962
201712,026▲500

 秋田県の1店増加を除く全都道府県で減少。その中でも大阪府は46店、東京都は39店、北海道37店、神奈川県34店、兵庫県30店のマイナスで、都市から書店が消えていることを伝えている。
 だが減少が少ない地方においても、鳥取県、島根県、徳島県、高知県、佐賀県、宮崎県はそれぞれ99店から67店で、すでに100店を割り、それは来年には倍の県に及ぶだろう。
 またアルメディアの書店数は売場面積を有しない本部、営業所などの1296店を含んでいるので、実際の書店数は1万730店となる。

 雑誌と円本の時代を担った昭和初期、1927年には書店は1万店を超え、戦後の1960年代には2万6000店に至ったとされる。その販売インフラとしての中小書店が出版業界の成長を支えていたのだと実感できるし、それと逆行する「書店数の推移」こそが、出版業界の危機の最大要因だったとわかるだろう。

 これも本クロニクルで繰り返し書いてきたけれど、文化、教育、通信インフラとしての書店、小学校、郵便局は20世紀までは共通して2万を超えていた。ところが書店だけは21世紀に入り、その半分となり、実質的に来年は1万店を割ってしまうことが確実である。
 それはマクロ的に見るならば、出版だけでなく、日本の文化、教育、通信の分野における、かつてないパラダイムチェンジを告げているし、生活や産業の全領域に及んでいるだろう。これからはそれがさらに現実化していくと思われる。



2.アルメディアによる「取次別書店数と売場面積」も挙げておく。

■取次別書店数と売場面積 (2018年5月1日現在、面積:坪、占有率:%)
取次会社書店数前年比(店)売場面積前年比平均面積売場面積占有率前年比
(ポイント)
トーハン4,488▲130494,271▲8,93711037.80.3
日本出版販売4,252▲222662,540▲14,98415650.60.1
大阪屋栗田1057▲72116,898▲9,4811118.9▲0.5
中央社408▲721,458▲135531.60.0
その他962▲1813,060▲213141.00.0
不明・なし08000000.0
合計11,167▲4491,308,227▲33,750117100.0

 前年のデータは『出版状況クロニクルⅤ』を見てほしいが、17年はこれまでと異なる動向が浮かび上がってくる。
 それは日販の222店の減少で、前年は159店のプラスだったわけだから、ここで出店から閉店へとシフトしていったことが歴然である。この事実が本クロニクルで指摘してきた「日販非常事態宣言」、及び取次業の赤字とパラレルであることはいうまでもない。

 しかも今回の「取次別書店数」は、売場面積を公開しているカウント書店数1万1167店となっているので、前年の1万2526店と比較すれば、1359店のマイナスである。それは実質的に外商、もしくは清算のための本部、営業所としてだけ残っている書店が増えていること、ここに示されている以上に閉店や撤退が多発していることを告げているのだろう。

 さらに売場面積別にみると、100坪から499坪までが3427店、面積占有率56.2%で、前年比2万6529坪減と最も多くなっていることからすれば、大型店の閉店、撤退がさらに起きてくると考えられる。
 これらの3427店に500坪以上の454店を加えると、何と面積占有率は84.5%に及んでしまう。ちなみに300坪以上でも51.7%となる。それは取次の問題が大型店にあること、書店にとっては大型店の運営が困難な状況に追いやられていることを意味していよう。つまりそれは取次と書店の双方にとっても、大きすぎてつぶせないというバブル崩壊の典型的危機の再現を迎えていると思われる。
出版状況クロニクルⅤ



3.大阪屋栗田の、楽天をメインとする新たな「経営執行体制」文書が、「平成30年5月吉日」の日付入りで届いた。

 『出版状況クロニクルⅣ』において、2013年からの大阪屋危機、14年の講談社の大竹深夫の社長就任と増資、15年の栗田の民事再生と大阪屋への統合、その再生スキーム問題と大阪屋栗田の発足を詳細にレポートしてきた。

 そして再生大阪屋に関して、「大手出版社に取次の経営などできるはずもない。そのことは講談社、小学館、集英社にしても、今回選ばれた5人(注―講談社などの出身の役員)にしても、よく自覚しているはずだ。取次の根幹は金融とロジスティクスであり、大手出版社の営業経験は役に立たないからでもある」(p360)と述べておいた。また大阪屋栗田再生スキームについても、「明らかに破綻している現在の正味体系に基づく再販委託制の先送りに他ならず、大阪屋に統合されたとしても、それは同じことの繰り返しだし、行き詰まることは目に見えている」(p622~23)とも書いておいた。

 実際に大阪屋栗田が発足したのは16年4月だから、結果としてわずか2年で講談社を始めとする大手出版社はギブアップし、楽天へ丸投げしてしまったことになる。
 それは楽天との何らかの密約を疑われても仕方がないし、栗田再生スキームで中小出版社に多大な損失を与えたことを考えれば、無責任の極みというしかない。まさに前回ふれた、書協による消費税の内税決定と共通している。

 しかしさらに問題なのは、出資額は非公表だが、大阪屋栗田が楽天の完全な子会社となってしまったという事実であろう。もはや出版業界の取次ではなく、ネット企業の一子会社に過ぎず、まさに書店の取次としてのポジションを維持していくはずもない。2で示したように、大阪屋栗田帳合の書店は1057店であり、それらの峻別が始まり、優良店と不良店、売掛金の多寡と担保力、売上状況などを通じて、書店選別とリストラに向かうと考えたほうがいいだろう。その際に帳合変更ができる書店はサバイバルできるとしても、そうでない場合は閉店と清算を迫られることになるかもしれない。

 それに楽天にとって、現在の大阪屋栗田の子会社化が、とりわけ利益をもたらすものではない。ただ細野裕二が「楽天―非上場株で『膨らし粉』経営」(『FACTA』7月号所収)で指摘しているような効果はあるかもしれないが。この記事を読んで、取次の書店の「囲い込み」にしても、CCC=TSUTAYAの出版社などの買収にしても、同じような「『膨らし粉』経営」の一環ではないかとも思われた。だがこれは専門的事柄に属するので、そのうちに専門家に問うてみるつもりである。
出版状況クロニクルⅣ



4.日販の連結子会社28社を含めた連結売上高は5790億9400万円で、453億円の減収となり、前年比7.3%減だが、営業利益23億6600万円、同7.2%増、経常利益25億5000万円、同5.9%増。
 そのうちの取次事業売上高は5462億3800万円、同7.7%減、経常利益は14億円減の14億800万円、同49.8%減。
 日販単体の取次売上高は4623億5400万円で、400億円の減収となり、同8.0%減、営業利益は5億100万円、同69.7%減、経常利益は10億1600万円、同54.5%減と大幅減益。
 これはコンビニルート赤字拡大、運賃値上げによる出版流通業の5億5000万円の営業損失、雑誌営業利益が5億1800万円にとどまり、書籍赤字25億7800万円を吸収できなかったことなどが主たる要因とされる。

 その結果、取次事業は創業以来の赤字となったが、大幅な経費削減とグループ書店小売業、不動産事業などが貢献し、連結では増益を確保したとされる。

 連結、取次事業、日販単体と意図して錯綜させるかのような決算発表で、しかも実際の赤字額、及び例年報告されているMPDの業績は公表されていない。そこで後者に関して、取次事業と日販単体データから見てみる。そのためにまず、日販単体売上高を挙げておく。


■日販 単体売上高 (単位:百万円、%)
金額増加率返品率返品率
前年差
書籍227,948▲4.931.30.9
雑誌150,440▲10.045.52.2
コミックス64,706▲11.833.04.0
開発商品27,535▲12.845.03.4
470,631▲8.037.61.9


 連結ベースでの取次事業売上高は5462億3800万円とされているので、日販単体売上高を引くと、756億円で、それに様々なレンタル、FCビジネスなどの売上が加わり、MPDビジネスは形成されていたと考えられる。本クロニクルでこのMPD売上高も、発足以来ずっと追跡してきているが、前期は1880億円で、前年比0.7%の減だった。
 しかしで見たように、日販帳合書店は前期と逆行する閉店ラッシュといっていいし、それはTSUTAYAを中心とするもので、MPDを直撃したはずだ。それゆえに業績は急激に悪化し、それが公表できなかった理由となろう。
 日販単体分野別売上高のマイナス、返品率だけを見ても、流通業として臨界点に達していることは明らかで、それにブラックボックスと化したようなMPDとCCC= TSUTAYAを抱えているし、スパイラル的に危機は深まっていくばかりだろう。

 そのかたわらで、日販の そら植物園との合弁会社日本緑化企画の設立、文教堂との文具卸の中三エス・ティの買収などが起きているが、試行錯誤の印象を与えるだけである。



5.トーハンの単体売上高は4274億6400万円で、338億円の減収となり、前年比7.4%減。
 取次事業は運賃値上げ分6億円などから5億6000万円の営業赤字。ただコンビニルートは黒字。
 不動産などのその他事業を加えても、単体営業利益は50億3200万円、同23.2%減。経常利益は30億1000万円、同28.7%減、当期純利益は18億1800万円、同40.3%減。
 連結売上高も4437億5100万円、同6.8%減。
 トーハンは藤井社長が顧問、近藤敏貴副社長が代表取締役社長、川上専務が代表取締役副社長に就任すると発表。

 日販と比べて、MPDとCCC= TSUTAYAを抱えていないだけに、シンプルな決算発表といえるし、赤字額も公表されている。こちらもその売上高内訳を挙げておこう。


■トーハン 売上高 内訳(単位:百万円、%)
金額増減額前年比返品率
書籍174,058▲6,89996.141.2
雑誌143,714▲19,27988.149.5
コミックス43,976▲8,07984.433.2
MM商品65,714382100.514.8
427,464▲33,87592.640.9


 トーハンの場合も、日販の「開発商品」に当たる「MM商品」がプラスとなっていることを別にすれば、出版物取次事業の分野別売上高マイナス、返品率状況はまったく同じであるといっていい。

 決算発表で、川上専務が雑誌の192億円マイナスに関して、「ここまで落ちるとは思わなかった」と語ったとされるが、2018年の本クロニクルの毎月のリードでレポートしているように、さらに加速しているのである。
 また近藤社長就任の言として、「一致団結して、街の本屋さんがやっていける態勢をつくっていくことが私の使命」とあるが、本当に現在の書店状況を認識しているのだろうか。
 トーハンにしても、「囲い込み」書店を始めとする閉店は避けられないだろうし、日販と同様に大手取次の危機もさらに顕在化していくであろう。



6.4と5の取次状況を受け、『日経新聞』(6/2)が「出版取次、苦境一段と」という記事を発信し始めている。
 それは書籍が赤字事業であること、物流費の高騰などが挙げられ、日販が大手出版社100社に対し、雑誌の運賃協力金の引き上げや書籍の定価値上げを要請しているという内容である。
 また『朝日新聞』(6/21)も「出版流通機能の限界」、『読売新聞』(6/23)も「雑誌離れ 苦しむ出版流通」と題し、同様の記事を掲載している。

 だがこれらの記事は、日販などの取次リリースにそのままよったもので、本質的な出版危機の実態をミスリードする危惧を孕んでいる。出版社が物流コストの負担と仕入れ正味を引き下げれば、問題が解決するような出版状況ではないのだ

 本質的には再販委託制に基づく近代出版流通システムがすでに崩壊から解体過程に入っていることが問題なのである。それは本クロニクルがずっとレポートしてきたように低正味買切制といった現代出版流通システムを確立することなく、1980年代から始まった郊外店出店ラッシュと商店街の中小書店の大量閉店、90年代からの複合店と大型店の相次ぐ出店による書店の減少、公共図書館の増加、今世紀に入ってのアマゾンの隆盛と電子書籍の成長などが絡み合っている

 それらが要因として重なり、書店と出版物販売金額を半減させたことによって、必然的にトータルとしての出版業界の歴史的、構造的危機が生じてしまったのである。それが総合取次においても、2010年代から現実化してきたというしかない。そのような出版状況を直視することなく、ここまできてしまった大手取次自身が招来した象徴的な帰結だともいえよう。



7.地方・小出版流通センターの決算も出された。
 今期は売上高10億1259万円で、前年比3.3%減、当期純損失282万円と、前期に引き続き赤字決算。
 それを報告した「地方・小出版流通センター通信」(No.502)に次のような一文があったので、それを引いてみる。

 偶然に旅行中の日曜の地元の「岩手日報」の読者の広場という紙面で、かつてカリスマ店長と言われ、現在は一関市立図書館の副館長をされている伊藤清彦さんが「消えていく小出版社―多様性を失う危機感」という見出しで寄稿されていました。「ここ20年余で4分の1の出版社消え、そこが出していた出版物は絶版となりもう日の目は見ない。そして自分が大事に読み続けている本は小さな出版社の本が多く、図書館にもほとんどない。それがつぶれている。~多様性という側面からも今の時代の流れには危機感を覚える」と。

 伊藤は『盛岡さわや書店奮戦記』(「出版人に聞く」シリーズ2)刊行後に、図書館の副館長に迎えられたようで、本当によかったと思う。
 しかし現在の出版状況において、図書館どころか、同じ出版業界で職を得ることすらも困難だし、かつての旧リブロと地方小は書店員のリクルート、転職のハローワーク的役割も果たしていたが、それも昔語りになってしまった。それに加えて、多くの人々にとってアジールでもあった出版業界は、もはや存在しないといっていい。出版物売上のマイナスもさることながら、そちらが大きな損失のように思える。
盛岡さわや書店奮戦記



8.小学館の売上高は945億円、前年比2.8%減、経常利益は3億円の黒字だったが、当期損失は5億7200万円で、3年連続の赤字。
 売上高のうちの「出版」は568億円、前年比6.7%減。その内訳の雑誌は250億円、同8.5%減、書籍105億円、同11.8%減、コミックは192億円、同0.4%増で、「雑誌は底なしの状態が止まらない」とされる。

  小学館の赤字決算も、の日販やトーハンの取次業赤字と確実にリンクし、大手出版社の雑誌をベースにして構築された近代出版流通システムが、解体に向かっていることを告げていよう。
 これまで見てきたように、現在の出版業界の問題はいずれも大手の取次、出版社、書店をめぐって噴出してきていることが了解されるし、この3者の金融、支払いシステムが危機を迎えているのだ。

 取次正味問題に関しても、中小出版社の場合は実質的に60%と見ていいし、最初から仕入れ条件見直しなどは論外なのである。しかもそれらの中小出版社が大半であることはいうまでもないだろう。



9.白泉社は月刊少女コミック誌『別冊 花とゆめ』、月刊青年コミック誌『ヤングアニマル嵐』を休刊。
 前者は1977年創刊で、『ガラスの仮面』、後者は2000年創刊で、『ふたりエッチ』などを連載していた。
 集英社も女性コミック誌『YOU』を休刊。1980年創刊で、『ごくせん』などを連載。

ガラスの仮面 ふたりエッチ ごくせん』

 の小学館ではないけれど、いずれも一ツ橋グループにおけるコミック誌の休刊であり、「雑誌は底なしの状態が止まらない」ことを象徴するかのような例として、続けて挙げてみた。
 私にしても、本誌は読んでいないけれど、『ガラスの仮面』『ごくせん』は読んでいる。そういえば、『ガラスの仮面』はどこまで読んだのかを忘れてしまった。
 それは無理もないことで、30年近く前だったのであり、ヒロインと異なり、こちらも歳をとってしまったことを実感してしまう。



10.三洋堂HDの売上高は213億2700万円、前年比3.6%減。
 営業利益2億4600万円、同3.6%減、経常利益2億7700万円、同1.1%増。
 当期純利益500万円、同91.6%減。
 部門別売上高は「書店」134億1400万円、同5.0%減で、既存店売上は5.5%減。「レンタル」26億2400万円、同9.0%減、「セルAV」15億700万円、同3.0%減、「文具、雑貨、食品」18億7000万円、同0.8%減。「TVゲーム」8億8900万円、同10.9%増。これはNintendo Switch効果。
 「古本」5億8100万円、同1.4%増。「新規事業」は教室、フィットネス・ランドリー・カフェを合わせて、1億7800万円、同156.3%増。期末書店数は83店。

 上場企業の大手書店チェーンの現在を示すものとして、少しばかり詳細に紹介してみた。
 三洋堂はバラエティショップの試みに加え、営業時間短縮や集中カウンター化を推進したが、雑誌とコミックの凋落で苦戦し、加藤社長の言によれば、「かつかつの黒字」を計上したことになる。しかし今期の業績予想は売上高200億円、当期純損失3億円と見込まれ、出口なしといった状況が続いていくことを告げている。
 ここまできて、大手出版社、取次、書店の現在状況を提出したことになろう。



11.ゲオHDの連結決算は、売上高2992億円、前年比11.6%増、営業利益146億円、同69.3%増、当期純利益66億円、同56.6%増。

 この好決算は、10の三洋堂の「TVゲーム」と同様に、任天堂の家庭用ゲーム機とそのソフトの売上の寄与だとされ、来期連結業績売上高2900億円と、マイナス見込みとなっている。
 こうしたゲオの動向が、提携しているトーハンにどのような影響を及ぼしているのかは詳らかでないが、「囲い込み」書店の複合化、業態転換には関係しているはずだし、三洋堂ともリンクしているように思える。



12.地図ガイドの昭文社の決算は、売上高91億円、前年比11.2%減、当期純損失17億円。
 減収の主要因は「電子売上」23億円、同18.4%減、「市販出版物」53億円、同8.6%減による。
 前者の大きなマイナスはスマホによる無料ナビアプリの影響で、カーナビ売上が減少したこと、大型継続案件の失注によるとされる。

 『出版状況クロニクルⅤ』でもふれておいたが、「市販出版物」の低迷は専門取次の日本地図共販を失ったことも影響しているのだろう。それこそ地図共取引書店は最盛期に、現在の書店数を超える1万5000店を抱えていたと推測されるからである。
 もちろん地図の電子化も作用していようが、そうした流通販売インフラが解体された後に生じた事態だと見なせよう。



13.NET21が出版社の選ぶ既刊本を低正味で仕入れて販売する「ストックブック・プライオリティ・セール」(SPS)のテスト販売を開始。
 委託品は58%、買切品は25%の正味条件。
 取次はトランスビューで、出版社は納品運賃、1タイトルにつき3000円、納品1冊に対し50円を、書店も1冊に対し50円、販売金額の3%をそれぞれトランスビューに支払う。
 まず出版社の5社の提案する20点の実用書を20書店でテスト販売。


14.出版梓会が、29社で20%から30%引き販売商品約1000点を直接取引で出荷。
 それは大垣初手に御モールKYOTO店、丸善京都本店、ふたば書房御池ゼスト店の3店で、昨年に続き、「京都『読者謝恩』ブックフェア」を開催。

 これもなどの取次の動向に対しての書店や出版社からの時限再販販売の試みといっていいだろう。
 この2つの試みが定着すれば、八木書店の他にもバーゲン本市場が出現することになるのだが、八木書店のように、そのための常設フロアを持つことは難しい。とりあえず、後者は二度目であるので、販売結果を公表してほしいと思う。



15.『キネマ旬報』(5/下)が「映画本大賞2017」を掲載している。
 第1位は『田中陽造著作集 人外魔境篇』(文遊社)である。

キネマ旬報 田中陽造著作集 人外魔境篇

 これは昨年4月の刊行なので、前回と異なり、幸いにして読んでいる。
 田中が鈴木清順の『殺しの烙印』『ツィゴイネルワイゼン』などの脚本家であることは承知していたが、『週刊サンケイ』の記者だった下川耿史に誘われ、1970年代初めにルポライターを務めていたことは聞いていなかった。
 それらは「人外魔境―異能人間たち」や「犯罪調書」として、同書に初めて収録され、脚本と通底する「人外魔境」的世界を堪能させてくれると同時に、かつての映画をめぐる奇妙な人脈をも想起させたのである。

 手元にDVD『愛欲の罠』がある。これは73年の日活映画で、制作は天象儀館、監督は太和屋竺、脚本は田中、撮影は朝倉俊博、主演は荒戸源次郎という組み合わせで、これが『ツィゴイネルワイゼン』へと結びついていったとわかる。

 それとはまったく関係ないのだが、出席できなかったけれど、リベルタ出版の80人ほどの「卒業式参列者」リストが届いた。それを見ると、出版をめぐる70年代までの左翼出版人脈交錯図を彷彿とさせるものだった。田中の映画人脈と重なるものではないが、かつてどのような領域にもあった、ひとつの不可視のコミュニティを思い出させてくれた。
 出版業界の崩壊はのアジールばかりでなく、このようなコミュニティの成立も不可能にしてしまったと痛感してしまう。
殺しの烙印 ツィゴイネルワイゼン 愛欲の罠



16.吉本浩二のコミック『ルーザーズ』第1巻が双葉社から出された。
 これはサブタイトルに「日本初の週刊青年漫画誌の誕生」とあるように、双葉社の『週刊漫画アクション』創刊の物語である。

ルーザーズ f:id:OdaMitsuo:20180628133614j:plain:h110

 『漫画アクション』は1967年の創刊で、第1巻ではモンキー・パンチの『ルパン三世』を売り出そうとするところまで描かれている。だが私などにしてみれば、小池一夫作、小島剛夕画『子連れ狼』とバロン吉元『任侠伝』であり、酒場などに置かれていた『漫画アクション』を読んだものだった。
 まだそこまではうかがえないが、『漫画アクション』の成功が、その編集長清水文人を双葉社の社長へと至らしめたのであろう。
 その一方で、『倶楽部雑誌探究』(「出版人に聞く」シリーズ13)の塩澤実信は同じ双葉社の『週刊大衆』の編集長を務めていたのである。それゆえに、同書が双葉社の大衆雑誌の記録であることに対し、『ルーザーズ』は双葉社のコミックを中心とする、もうひとつの出版史を形成していくことになろう。
 なおやはり同年に創刊された少年画報社の『ヤングコミック』に関しては、「本を読む」㉗として、「岡崎英生『劇画狂時代』とシリーズ《現代まんがの挑戦》」を書いているので、よろしければ参照されたい。
倶楽部雑誌探究



17.「新興古書会創立八十年記念目録」として、『新興古書大即売展略目』が届いた。
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 これは古本ではなく、まさに古書を中心とする、目も鮮やかなるカラー図版を多く収めた目録で、門外漢ながらすっかり楽しませてもらった。
 それに加えて、九蓬書店の出品した山中共古蒐集諸家染筆帳である『奉加帳』は一度手にとって見たいと思わせるものだった。説明によれば、これは横中本総376丁、明治33年から大正12年にかけて、共古が500名に及ぶ諸家の揮毫を求めて蒐集し、裏面に共古による諸氏略伝有とのことだ。
 私は山中共古の『見付次第/共古日録抄』を刊行していることもあり、ほしいと思うけれど、古書価は120万円近いので、如何せん手が出ない。そのような訳で、見る機会が得られればと念ずるしかない。だがこれはその存在も知らなかったし、誰がどこに架蔵していたのだろうか。

見付次第/共古日録抄



18.『出版状況クロニクルⅤ』は『読売新聞』(6/10)に紹介記事は見られたが、例によって書評はひとつも出ない。これも現在の出版業界を象徴していることになろう。

 また最近、鄭義信監督の映画『焼肉ドラゴン』を見てきたばかりだ。これも書評はまったくといっていいほど出なかったが、拙著『郊外の果てへの旅/混住社会論』と問題は通底していて、いずれ言及してみたいと思う。
 まだ半年すぎたばかりだけれど、18年の映画ベスト1として推奨したい。
f:id:OdaMitsuo:20180630203428j:plain 郊外の果てへの旅(『郊外の果てへの旅/混住社会論』)

 今月の論創社HP「本を読む」㉙は「安原顕、竹内書店、『パイディア』」です。