出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話54 西谷操と秋朱之介の『書物游記』

梅原北明の出版人脈の中にあって、その文章がまとめられ、出版や翻訳や装丁に携わった「書物一覧」も編まれている人物が一人だけいる。それは西谷操で、秋朱之介『書物游記』として、書肆ひやね から昭和六十三年に刊行された。そこには荻生孝による「秋朱之…

25 スウェーデン社会と「マルティン・ベックシリーズ」

ロス・マクドナルドの影響は日本だけでなく、同時代のスウェーデンにも伝播し、それはマイ・シューヴァル/ペール・ヴァールーの「マルティン・ベックシリーズ」として出現している。シューヴァルとヴァールーは夫婦で、いずれも新聞、雑誌社に勤めた後、結婚…

古本夜話53 戦前戦後の二見書房

昭和初期 艶本時代の梅原北明を中心とする出版人脈について、様々に言及してきたが、具体的に名前が挙がっているのは氷山の一角であり、その他にも編集者、翻訳者、洋書輸入業者、画家、それに印刷、製本、用紙関係者を含めれば、たちまち数倍の人数に及ぶだ…

24 ロス・マクドナルドと藤沢周平『消えた女』

ロス・マクドナルドの影響は日本のハードボイルドやミステリだけでなく、広範な分野に及んでいて、意外に思われるかもしれないけれど、時代小説にもその投影を見つけることができる。それは藤沢周平の「彫師伊之助捕物覚え」三部作の『消えた女』『漆黒の霧…

古本夜話52 風俗資料刊行会の『エル・キターブ』

前回取り上げた太洋社書店の『さめやま』だけでなく、梅原北明の文芸市場社に端を発する文芸資料研究会、発藻堂書院、南柯書院、東欧書院、温故書屋、国際文献刊行会、風俗資料刊行会などの出版物の書影をあらためて見てみると、それらのポルノグラフィの装…

23 マクドナルドと結城昌治『暗い落日』

ロス・マクドナルドの娘リンダ失踪事件を背景にして書かれ、彼の代表作と見なされる『ウィチャリー家の女』『縞模様の霊柩車』『さむけ』の三部作は、それぞれ昭和三十七年、三十九年、四十年と続けて「ハヤカワポケットミステリ」として翻訳刊行された。訳…

古本夜話51 シャンソール『さめやま』

戦後の『奇譚クラブ』から始めたのに、戦前の艶本時代のことに深く入りこんでしまった。だが気になる手持ちの本がまだあるので、もう少し続けさせてほしい。山口昌男の『「挫折」の昭和史』 (岩波書店)の中に、「知のダンディズム再考―『エロ事師』たちの…

22 リンダ失踪事件とマクドナルド『縞模様の霊柩車』

ロス・マクドナルドの個人史における悲劇はさらに繰り返されていく。それはやはり リンダをめぐる事件であった。これもまた既述したように、トム・ノーランの評伝Ross Macdonald : A Biography によって、よく知られた事実となった。オイディプスが娘のアン…

古本夜話50 丸木砂土『風変りな人々』と澤村田之助

岩田準一の『男色文献書志』 に列挙された書物群を見ていくと、同じ人物を扱ったものが三作あることに気づく。それらは岡本起泉の『澤村田之助曙草紙』(島鮮堂、明治十三年)、矢田挿雲の『澤村田之助』(報知新聞出版部、大正十四年)、林和の「田之助色懺…

出版状況クロニクル28(2010年8月1日〜8月31日)

出版状況クロニクル28(2010年8月1日〜8月31日)記録的な今年の猛暑の中での7月売上高が公表されつつある。 スーパーは前年比1.2%減、百貨店も同1.4%減、コンビニは猛暑による飲料やアイスクリーム需要が伸び、14ヵ月ぶりにプラスとなる0.5%増だった。 それ…