◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 |
1 東北書房と『黒流』 |
2 アメリカ密入国と雄飛会 |
3 メキシコ上陸とローザとの出会い |
4 先行する物語としての『黒流』 |
5 支那人と吸血鬼団 |
6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 |
7 カリフォルニアにおける日本人の女 |
8 阿片中毒となるアメリカ人女性たち |
9 黒人との合流 |
10 ローザとハリウッド |
11 メイランの出現 |
12『黒流』という物語の終わり |
13 同時代の文学史 |
14 新しい大正文学の潮流 |
15 『黒流』の印刷問題
白色人種の小説との関連に言及する前に、物語の紹介の中でふれられなかった『黒流』の印刷問題について記さなければならないだろう。当初読み始めた時は単なる印刷ミス、不鮮明な印刷部分だと思ったが、読み進めていくと頻出し、これらが所謂伏字部分に相当することに気づいた。それも「××」や「削除」を伴う伏字ではなく、紙型を半ばつぶして読めないように処理されている伏字なのである。そのために少しは読める箇所も残り、まったく読めないようにはなっていない。だがこの伏字部分が『黒流』には異常なまでに多く、明治、大正を通じて、これほどまでに伏字処理を施した小説は、発禁になったプロレタリア文学の他には存在していないと思われるほどで、数ページに及ぶ部分もあるのだ。したがって前例のない多くの伏字部分を内包する小説であると考えられるので、煩雑さと忌わず、それらの部分を列挙してみよう。
第一章「国境」
1 荒木と春子が結ばれる場面――六九ページ
第四章「流浪者」
2 シーコーという賭博の場面――二一五ページ
第五章「宣誓」
3 リイとの初夜の場面――二四八ページ
第六章「夜」
4 ロツドマン未亡人邸での仮装舞踏会における一匹の猩々が舞台で踊る場面――二五五〜五六ページ
5 ロツドマン未亡人と荒木の抱擁場面――二六五〜六六ページ
第七章「猟人」
6 お花の阿片中毒の話――三〇〇ページ
第八章「堕ち行く者」
7 ロツドマン未亡人と荒木の激しい接吻場面、及び阿片吸引による言動――三四一〜四三ページ
8 チンデル令嬢が阿片を吸引し、荒木が誘惑する場面――三五七〜六〇ページ
9 ロツドマン未亡人が荒木の刺青に異常な刺激を受け、接吻し、ベッドに連れこむ場面――三八〇〜八五ページ
10 リイとの抱擁場面――三八四〜八五ページ
第九章「志士」
11 黒人の金を吸い上げる白人の賭博場兼淫売窟が舞台での美しい白人女のグラハムのストリップと二匹の青鬼がからみつく場面、それに彼女の入札と荒木の「地下室の楽園」体験――四二一〜三〇ページ
第十章「ローザ」
12 ローザと結ばれる場面――四五九〜六〇ページ
13 ローザとの接吻と抱擁の場面――四九七〜九八ページ
14 ローザが荒木の刺青を見て、心を燃やす場面――五二一ページ
15 デミル夫人が阿片で恍惚状態になる場面――五二七ページ
16 荒木がジエシイという新進女優を誘惑する場面――五三二ページ
17 荒木とローザの就寝場面――五三四ページ
第十四章
18 メイランとトンワングの初夜の場面――六一三〜一四ページ