出版状況クロニクル69(2014年1月1日〜1月31日)
本クロニクルにおいて、危機の中にある出版業界を、社会要因と構造から限界集落にたとえ、そこで起きている現象を出版敗戦ともよんできた。そして今年はその不可避の帰結として、出版業界のあからさまな解体が顕在化してくるであろうことを既述してきた。
その予兆を示すように、取次の書店POSデータによる年末年始売上調査は最悪で、日販は6.5%減、トーハンは4.6%減と大幅なマイナスとなっている。対象先は前者が1745店、後者は1591店。前年は日販が1.9%増、トーハンは0.9%減であったことからすれば、今年の深刻さを象徴しているような落ちこみといえるだろう。
それに加え、昨年から出版業界に関する多くの噂や風聞が飛びかっている。本クロニクルは原則として、それらを取り上げていないが、アクセスワードを確認すると、それらの多くを目にすることになり、最近のアクセス数の増加の一因でもあるとわかる。
これらも危機と解体を前にして、出版業界が様々な不安に覆われ、また疑心暗鬼にも陥り、浮き足立っていることの表われでもあろう。本当に覚悟して、この一年を過ごさなければならないのだ。
1.出版科学研究所による2013年の出版物推定販売金額が出されたので、それを含め、1996年からの数字を示す。
■出版物推定販売金額(億円) 年 書籍 雑誌 合計 金額 (前年比) 金額 (前年比) 金額 (前年比) 1996 10,931 4.4% 15,633 1.3% 26,564 2.6% 1997 10,730 ▲1.8% 15,644 0.1% 26,374 ▲0.7% 1998 10,100 ▲5.9% 15,315 ▲2.1% 25,415 ▲3.6% 1999 9,936 ▲1.6% 14,672 ▲4.2% 24,607 ▲3.2% 2000 9,706 ▲2.3% 14,261 ▲2.8% 23,966 ▲2.6% 2001 9,456 ▲2.6% 13,794 ▲3.3% 23,250 ▲3.0% 2002 9,490 0.4% 13,616 ▲1.3% 23,105 ▲0.6% 2003 9,056 ▲4.6% 13,222 ▲2.9% 22,278 ▲3.6% 2004 9,429 4.1% 12,998 ▲1.7% 22,428 0.7% 2005 9,197 ▲2.5% 12,767 ▲1.8% 21,964 ▲2.1% 2006 9,326 1.4% 12,200 ▲4.4% 21,525 ▲2.0% 2007 9,026 ▲3.2% 11,827 ▲3.1% 20,853 ▲3.1% 2008 8,878 ▲1.6% 11,299 ▲4.5% 20,177 ▲3.2% 2009 8,492 ▲4.4% 10,864 ▲3.9% 19,356 ▲4.1% 2010 8,213 ▲3.3% 10,536 ▲3.0% 18,748 ▲3.1% 2011 8,199 ▲0.2% 9,844 ▲6.6% 18,042 ▲3.8% 2012 8,013 ▲2.3% 9,385 ▲4.7% 17,398 ▲3.6% 2013 7,851 ▲2.0% 8,972 ▲4.4% 16,823 ▲3.3% [13年12月期は取次の年末年始売上調査に見られるように、書籍8.6%減、雑誌3.3%減、合計5.6%減という5ヵ月にわたるトリプルマイナスだったこともあり、13年の推定販売金額は1兆6823億円、前年比575億円、3.3%減となった。その内訳は書籍が7851億円で2%減、雑誌が8972億円で4.4%減。前回のクロニクルで、1兆6859億円と予測し、12月のマイナスが大きければ、それをさらに割りこむだろうと記しておいたとおりになってしまった。
これも繰り返しになるが、ピーク時の1996年は2兆6564億円だったから、何と1兆円が失われてしまい、しかもリードで示しておいたように、今年はさらなるマイナスになることは確実である。
消費税増税も待ち構えている。もし14年が1兆5000億円台ということになれば、1983年、すなわち30年前の売上へと戻ってしまう。
これが出版業界の失われた18年の内実と結果であったことになる]
2.1の雑誌の推定販売金額と販売部数の内訳も挙げておく。
■雑誌推定販売金額(単位:億円) 年 雑誌 前年比 月刊誌 前年比 週刊誌 前年比 1997 15,644 0.1% 11,699 0.1 3,945 0.1% 1998 15,315 ▲2.1% 11,415 ▲2.4% 3,900 ▲1.1% 1999 14,672 ▲4.2% 10,965 ▲3.9% 3,707 ▲5.0% 2000 14,261 ▲2.8% 10,736 ▲2.1% 3,524 ▲4.9% 2001 13,794 ▲3.3% 10,375 ▲3.4% 3,419 ▲3.0% 2002 13,616 ▲1.3% 10,194 ▲1.7% 3,422 0.1% 2003 13,222 ▲2.9% 9,984 ▲2.1% 3,239 ▲5.3% 2004 12,998 ▲1.7% 9,919 ▲0.6% 3,079 ▲4.9% 2005 12,767 ▲1.8% 9,905 ▲0.1% 2,862 ▲7.1% 2006 12,200 ▲4.4% 9,523 ▲3.9% 2,677 ▲6.5% 2007 11,827 ▲3.1% 9,130 ▲4.1% 2,698 0.8% 2008 11,299 ▲4.5% 8,722 ▲4.5% 2,577 ▲4.5% 2009 10,864 ▲3.9% 8,455 ▲3.2% 2,419 ▲6.1% 2010 10,536 ▲3.0% 8,242 ▲2.4% 2,293 ▲5.2% 2011 9,844 ▲6.6% 7,729 ▲6.2% 2,115 ▲7.8% 2012 9,385 ▲4.7% 7,374 ▲4.6% 2,012 ▲4.9% 2013 8,972 ▲4.4% 7,124 ▲3.4% 1,848 ▲8.1%
■雑誌推定販売部数(単位:万冊) 年 雑誌 前年比 月刊誌 前年比 週刊誌 前年比 1997 381,370 ▲1.3% 229,798 ▲0.4% 151,572 ▲2.5% 1998 372,311 ▲2.4% 226,256 ▲1.5% 146,055 ▲3.6% 1999 353,700 ▲5.0% 215,889 ▲4.6% 137,811 ▲5.6% 2000 340,542 ▲3.7% 210,401 ▲2.5% 130,141 ▲5.6% 2001 328,615 ▲3.5% 203,928 ▲3.1% 124,687 ▲4.2% 2002 321,695 ▲2.1% 200,077 ▲1.9% 121,618 ▲2.5% 2003 307,612 ▲4.4% 194,898 ▲2.6% 112,714 ▲7.3% 2004 297,154 ▲3.4% 192,295 ▲1.3% 104,859 ▲7.0% 2005 287,325 ▲3.3% 189,343 ▲1.5% 97,982 ▲6.6% 2006 269,904 ▲6.1% 179,535 ▲5.2% 90,369 ▲7.8% 2007 261,269 ▲3.2% 172,339 ▲4.0% 88,930 ▲1.6% 2008 243,872 ▲6.7% 161,141 ▲6.5% 82,731 ▲7.0% 2009 226,974 ▲6.9% 151,632 ▲5.9% 75,342 ▲8.9% 2010 217,222 ▲4.3% 146,094 ▲3.7% 71,128 ▲5.6% 2011 198,970 ▲8.4% 133,962 ▲8.3% 65,008 ▲8.6% 2012 187,339 ▲5.8% 127,044 ▲5.2% 60,295 ▲7.2% 2013 176,368 ▲5.9% 121,396 ▲4.4% 54,972 ▲8.8% [販売金額は16年、販売部数は17年連続のマイナスである。販売金額は定価値上げもあり、まだそこまで落ちこんでいないが、販売部数を見ると、ピーク時の1995年は39億冊、2013年は17億冊だったので、半減してしまった。それはとりわけ週刊誌に顕著に表われ、90年代前半に比べれば、3分の1になっている。
また月刊誌にはコミックが含まれ、13年の数字はまだ出されていないにしても、12年のコミック売上2200億円を引けば、月刊誌売上は5000億円を下回ってしまい、雑誌合計でも7000億円を割りこむ。
つまり雑誌が、書籍推定販売金額7851億円を下回る流通販売状況を迎えているのである。この徴候は11年から露出し始めていたが、コミックに関しては書籍扱いもあるので、言及を保留してきた。だが今後はさらに雑誌におけるコミックシェアが高まっていくであろう。
しかしこのような雑誌状況の中にあって、返品率は書籍の37.3%を上回る38.8%と悪化している。13年に至って、書籍以上に雑誌は販売金額、部数、返品率が最悪といっていい事態に陥っている。これに4月の消費税増税を迎えるわけだから、さらなる危機に向かっていることは自明であろう。返品率の推移はすでに本クロニクル58に示しておいた。
『出版社と書店はいかにして消えていくか』に始まる拙著や本クロニクルなどで既述しておいたように、1890年前後にスタートした出版社・取次・書店という近代出版流通システムが、大手出版社の雑誌を中心にして構築され、それに書籍が相乗りするかたちで、出版業界は成長してきた。
それは戦後における1956年の再販制実施以後も同様で、90年代まではそのようにして稼働してきた。その流通販売システムを支えるのは、高回転、低返品率の週刊誌と月刊誌であり、取次にとって低回転、高返品率の書籍は赤字とされ、それでも雑誌と同じく、再販委託制のもとに流通販売されてきた。
ところが出版危機の当然の帰結として、雑誌をめぐる状況は、これらの近代出版流通システムを支える前提がすでに崩壊してしまったことを、否応なく突きつけている。ただでさえ低回転、高返品率、委託制低マージンの書籍が、逆に雑誌を支えることは不可能だと見なすしかない。
戦前においては再販制もなかったし、弾力的な出版社による時限バーゲンが実施され、それによって取次や書店はマージンを確保できる仕入れを行なっていたのである。これについては本ブログ[古本夜話]364「アルスのバーゲンと東京出版協会の図書祭記念『特売図書目録』」をぜひ参照されたい]
3.大阪屋の南雲隆男社長は楽天、講談社、小学館、集英社、DNPと進めている資本業務提携について、本社売却や大規模希望退職を含んだ5年の事業再生計画、出資する出版社からの役員招聘、自らの退任を発表。増資は6月の定時株主総会以降とされる。
[大阪屋の赤字決算、修正決算、第三者割当増資については本クロニクル64などでふれてきたが、その後は風聞だけで、公式発表はなされていなかったので、ほぼ半年ぶりのリリースということになる。
しかし1と2のような出版状況の中にあって、「再生計画」は前途多難だと判断するしかない。大阪屋の前期売上高は942億円だったが、今期はどれほどマイナスになるのか予断を許さないし、赤字決算も必至であろう。
出版社から役員を招聘したところで、取次経営に通じている人材がいるわけではなく、その結果はすでに01年の鈴木書店の破綻に見てきたとおりである。
また楽天の出資だが、電子書籍コボに関してもまったくの失敗で、万年赤字と見なすしかなく、年度末に減損処理が確実だと見られている。だから大阪屋への出資は実現しないと考えたほうがいい。
結局のところ、再販委託制を含めた構造改革に取り組まない限り、取次の再生も困難だという出版状況を、これからさらに露出させていくことになろう]
4.3の大阪屋問題も、アマゾンが主要取次を日販へと変更したことにもよっているが、そのアマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長が『日経MJ』(1/13)の「トップの戦略」欄のインタビューに登場している。
そのインタビューによれば、比較年は不明だが、「紙の書籍と電子書籍を合わせた売り上げは4倍になっています」。まさに付されたデータは、12年売上高は8100億円、13年は1兆円を大きく上回っているとされる。
[電子書籍はキンドルとアマゾンのシェアが5、6割を占めるのではないかと伝えられるので、大手出版社が電子書籍化を進めれば進めるほど、アマゾンを利することになろう。
しかしそれはひとまずおくにしても、最近古本屋の友人から聞かされたマーケットプレイスの話には考えさせられるものがあった。正確な数字なのかわからないが、アマゾンの1円本の出品は70万件を数え、その売上は1年に30万冊以上に及ぶという。
アマゾンのマーケットプレイスの仕組みはいくつかあってややこしいので、1円本に関して簡略にいうと、それを買った場合、送料の250円をプラスし、251円を払う。すると出品者にはアマゾンから手数料60円を引いた191円が支払われる。ただ発送料は自己負担なので、送料80円と発送経費を合わせて100円を計上すれば、91円の粗利となる。
しかしアマゾンにしても出品者にしても、経費を考えれば、1円本に関してほとんど利益は上がらないのではないか。それも仕入れがほとんどゼロということで成り立つビジネスで、これもまたアマゾンを利するだけではないかという話であった。それがアマゾンの1円本の流通販売事情である。
出版社や作者には何も還元されないシステム、それに加え、アマゾンは日本に税金を納めていないのであるから、撒き餌としての消費者への利便性だけを求めていることになり、日本の出版業界へも社会インフラへの何の寄与も果たしていない。出版敗戦下のひとつの現実といえよう]
5.4のアマゾンのマーケットプレイスはダイレクトに古本市場へと反映されているのだが、国会図書館がデジタル化した本や雑誌の絶版や入手困難なもの131万点に関して、全国の公共図書館や大学図書館で閲覧コピーできるサービスを開始。その内訳は古典籍2万点を含む書籍52万点、雑誌67万点、博士論文12万点。
[これまで国会図書館は著作権保護期間が過ぎた47万点をインターネットで公開してきたが、今回からそのデジタル書籍や雑誌は3倍に及ぶ数となる。47万点が公開された際にも、大学図書館などがそれらの紙の実物の購入をカットしたと仄聞している。
今回の131万点に及んで、図書館予算の削減と相俟って、そうした処置はさらに広がるだろう。そして行き着く果てには、図書購入費よりもコンピュータなどの図書館システム維持経費のほうが高くなるという現実が待っているのかもしれない。
これも「日本の古本屋」に与える影響は大であり、地域によってはもはや市会が成立しない状況を迎えている古本業界に対するボディブローとなっていくはずだ]
6.書協、雑協、取協、日書連で構成される出版流通改善協議会から『出版再販・流通白書』が出され、また日本出版者協議会会長の高須次郎による「紙と電子の再販制度を考える」(『出版ニュース』(1月上中旬号)が掲載されている。
[前者は出版業界4団体、後者は小出版社を代表し、それぞれのポジションは異なるのだが、いずれも再販制の維持と擁護が主旨であることに変わりはない。それは公取委と出版主要団体の相も変わらぬ官民揃っての再販制見解でしかない。
しかし1兆円が失われるという日本だけで起きている出版危機状況において、どうして再販制だけが金科玉条のように唱え続けられているのか、根拠はきわめて脆弱なのだ。その再販制がこの出版危機の大きな原因のひとつだったと考えるべきであるのに。
まず再販制は出版文化を守るために必要だとされているが、3で既述しておいたように、再販制の実施は戦後の1956年からであり、戦前に再販制は導入されていなかったし、雑誌や書籍の返品にしても過剰在庫にしても、弾力的に見切雑誌、バーゲン本として処理することで、リサイクル、在庫調整を行ない、それが取次や書店のマージン確保のひとつの方法だったのである。
またそのようなプロセスを経て、出版社、取次、書店だけでなく、バックヤードとしての古本屋も成長の道を歩んできたといえる。そこに再販制が導入され、半世紀以上にわたって実施されてきたことになる。これは木下修『書籍再販と流通寡占』(アルメディア)や拙著『出版業界の危機と社会構造』(論創社)などを参照してもらえばわかるが、再販制の出版物への導入の根拠ははっきりしておらず、出版業界はその導入に積極的ではなかった。それなのに新聞も含めた、後の再販制に対する洗脳めいたプロパガンダによって、再販廃止はタブーのようになってしまい、それが現在まで続いていることを『白書』や高須文は示している。
私は書籍に関して、再販制廃止論者であるので、前記以外にその根拠を挙げてみる。ただ理念としての出版と再販ではなく、具体的な流通システムの中での出版業界と再販であることに留意されたい。
* 1970年代に至って近代は終わり、現代へと移行し、日本も高度成長期から第三次産業を中心とする消費社会へと離陸しつつあった。
再販委託制は近代流通システムというべきものであり、配本、定価、設定、取引条件も含めた出版社と取次による、書店に対する上意下達的システムに他ならず、社会の変容に伴い、現代出版流通システムへの移行、書店に仕入れ、販売価格などの決定権を委譲すべき時代を明らかに迎えていた。* 80年代にいたって、その現代と第三次産業時代は郊外店ラッシュとなり、郊外消費社会の全盛を招いた。それが近代的な商店街を衰退させていくのだが、各業種は郊外店に現代システムを導入することで、成長をとげた。例えば、コンビニはロジステクスの新たな提出、ファミレスはセントラルキッチンの設営、衣服関係はSPAの戦略といったように進化していったのである。
ところが書店だけは郊外店化=立地の現代化を果たしたものの、肝心の改革はまったくなされず、旧来の近代システムのままで現代まで至ってしまった。* それゆえに書店の郊外店化は、家賃などの出店コストに対して、出版流通システムの変革によって利益がもたらされるものではなかったために、必然的に複合店戦略、それは主としてビデオレンタルの広範な導入を見ることになり、その結果、レンタルが主で、雑誌書籍は従という傾向を促進した。現在ではそれは常態化したともいえる。
* このような書店のドラスチックな立地や業態の変容のかたわらで、70年代に2万3千店あった書店の大半と、その後に出店したところを含めれば、80年代以後3万店以上が閉店、廃業、倒産したと推定される。書店の場合、70年代まではそれらのことはほとんど起きていなかったことを考えると、書店市場は出版社や取次以上に現代化の波にさらされていたことになる。
* これらの中小書店の閉店、廃業、倒産の原因の多くは、絶えざる大型店の出店であり、その開店商品メカニズムは、再販委託制を逆手に利用して行なわれたものといえる。このことについてもふれていくときりがないので、『出版社と書店はいかにして消えていくか』などを参照されたい。* これらについては、一冊分の説明を要するし、説明不足は恐縮であるのだが、要するに書籍に関して再販委託制が外れて、現代出版流通システムへ移行していれば、現在のようなバブル書店市場は出現しておらず、多種多様な中小のセレクトショップ的書店を多く見ることができたのかもしれないのだ。
それなりのマージンが見こめる時限再販、低正味買切制に基づく自由な仕入れによって成立する書店が全国に100店あれば、現在の危機のかたちはもっと異なっていたと思われる。* 結論をいってしまえば、1と2に見られる出版危機は、大手出版社と大手取次が根幹とする、マス雑誌をベースとする護送船団的再販委託制の破綻と限界を告知している。
それを支えていたのは消えてしまった中小書店であり、大手出版社と大手取次はそれらを切り捨てたことで、かつての書店市場からの報復を受けているといえるのだ]
7.このような出版状況下にあって、『ソトコト』(2月号)が「特集なじみの本屋」を組んでいる。
[『ソトコト』だけでなく、近年これほど本屋特集が組まれ、また様々な本屋本が出され、カリスマ書店員やコンシェルジュが露出している時代もなかったように思われる。
しかしそれらの大半はファンタジーであり、出版業界の危機的構造を直視せず、このような特集が次から次へと組まれることは、よほど能天気なのか、まったく無知なのかのどちらかと判断するしかない。
それは読書特集も古本屋特集も同様であり、それらだけ見れば、本屋も古本屋も繁盛しているかのように錯覚してしまうが、毎日のように消えていっている事実を忘れるべきではない]
8.主婦と生活社の『すてきな奥さん』休刊。
[『すてきな奥さん』は1990年に『主婦と生活』の後継誌として創刊された。『主婦と生活』は1946年の創刊で、それこそ近代、『すてきな奥さん』は現代を表象していたことになろう。その意味において、もはや「主婦」も「すてきな奥さん」も、イメージとして消えていく時代へと移行しつつあるのだろう。
代わりに95年創刊の女性ビューティ誌[『ar (アール』が、12年の「エロかわ」路線へのリニューアルで部数を伸ばしているという]
9.KADOKAWAが汐文社を子会社化。
[汐文社とKADOKAWAの組み合わせは唐突な印象を受ける。刊行書籍もそうであるが、中沢啓治『はだしのゲン』はとりわけそれを否めない。
『フリースタイル』25に、エンターブレインがKADOKAWAにあらたに組みこまれたことで、管理が厳しくなるのではないかという観測が書かれていたが、思わずそれを想起してしまった]
10.アメリカのインディーズ出版社ニュー・プレスのアンドレ・シフリンが亡くなった。
[シフリンはアメリカの戦後の編集者として、異例なことに『理想なき出版』(柏書房)や『出版と政治の戦後史』(トランスビュー)の二冊が翻訳されている。これは日本と共通する人文書出版状況とも絡んで刊行されたもので、前者の翻訳に合わせ、来日し、その滞日報告が『本とコンピュータ』(第二期9号)にも掲載されたことがある。
シフリンの出版人生は20世紀の歴史と交錯し、興味深いので、ラフスケッチしておく。彼の父親はパリへ亡命したユダヤ系ロシア人で、ガリマール出版社のプレヤード叢書の企画編集者だった。だが1940年にフランスに侵攻したナチから逃れるために、一家全員でアメリカへと再亡命した。シフリンは5歳だった。
戦後の62年に父が創設したパンセオンに入り、ヨーロッパの人文書の翻訳とアメリカの優れた書き手の発掘をメインとする路線を確立し、サルトル、フーコー、チョムスキー、ターケルなどの主著を送り出した。しかし90年代になってパンセオンはランダムハウスの傘下に入っていたこともあり、利益優先の方針ゆえに追放の憂き目にあう。そのシフリンを著者たちが支援し、ニュープレス設立に至るのである。その刊行物で著名な一冊を挙げれば、ジョン・ダワーの『敗戦を抱きしめて』(岩波書店)であろう。
『理想なき出版』は書評(本ブログ、「消費社会をめぐって」3所収)を求められて書いているし、『出版と政治の戦後史』も近年の刊行なので、読むきっかけになればと思い、つい長くなってしまった]
11.「出版人に聞く」シリーズだが、出版界の最長老ともいえる出版芸術社の原田裕へのインタビュー『戦後の講談社と東都書房』を終えた。
原田は八十八歳と高齢なので、早く出すことを心がけたい。
《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》