21年7月の書籍雑誌推定販売金額は820億円で、前年比11.7%減。
書籍は426億円で、同4.6%減。
雑誌は394億円で、同18.2%減。
雑誌の内訳は月刊誌が328億円で、同19.0%減、週刊誌は65億円で、同14.3%減。
返品率は書籍が41.4%、雑誌は43.9%で、月刊誌は43.3%、週刊誌は46.7%。
書店売上はコロナ禍と東京オリンピック開催もあり、全体的に低調で、学参や児童書はプラスだったが、コミックは『鬼滅の刃』の爆発的売れ行きも収まり、月刊誌の大幅なマイナスとなった。
いずれにしても、販売金額の大きなマイナス、高返品率を前提として、秋へと向かっていくことになろう。
1.『日経MJ』(8/11)の「第49回日本の専門店調査」が出された。
そのうちの「書籍文具売上高ランキング」を示す。
順位 | 会社名 | 売上高 (百万円) | 伸び率 (%) | 経常利益 (百万円) | 店舗数 |
1 | カルチュア・コンビニエンス・クラブ (TSUTAYA、蔦谷書店) | 298,259 | ▲15.6 | 4,235 | ー |
2 | 紀伊國屋書店 | 98,141 | ▲4.0 | 813 | 68 |
3 | 丸善ジュンク堂書店 | 67,191 | ▲9.2 | ー | ー |
4 | 有隣堂 | 51,497 | ▲4.0 | 168 | 52 |
5 | 未来屋書店 | 50,184 | ▲1.3 | 450 | 244 |
6 | くまざわ書店 | 41,768 | ▲2.3 | ー | 240 |
7 | トップカルチャー(蔦屋書店、TSUTAYA) | 29,453 | ▲3.5 | 456 | 73 |
8 | ヴィレッジヴァンガード | 23,019 | ▲30.5 | 634 | ー |
9 | 三洋堂書店 | 20,819 | 4.8 | 521 | 74 |
10 | 精文館書店 | 20,787 | 7.1 | 616 | 52 |
11 | 文教堂 | 20,182 | ▲7.7 | 390 | 101 |
12 | 三省堂書店 | 19,840 | ▲18.7 | ー | 28 |
13 | リブロプラス (リブロ、オリオン書房、あゆみBOOKS他) | 16,550 | ▲8.4 | ▲62 | 80 |
14 | リラィアブル(コーチャンフォー) | 15,762 | 12.6 | 1,079 | 10 |
15 | 明屋書店 | 14,946 | 8.2 | 494 | 83 |
16 | 大垣書店 | 11,979 | 5.7 | 60 | 38 |
17 | キクヤ図書販売 | 9,941 | ▲8.6 | ー | 36 |
18 | オー・エンターテイメント(WAY) | 9,875 | ▲0.6 | 215 | 63 |
19 | ブックエース | 9,622 | 2.5 | 216 | 30 |
20 | 京王書籍販売(啓文堂書店) | 6,046 | ▲0.7 | 141 | 24 |
ゲオホールディングス (ゲオ、ジャンブルストア、セカンドストリート) | 328,358 | 7.6 | 4,795 | 1,956 | |
ワンダーコーポレーション | 42,949 | ▲9.4 | 1,334 | ー | |
テイツー(古本市場他) | 24,009 | 11.9 | 783 | 105 |
『出版状況クロニクルⅥ』の20年のところで、「来期はかつてないほどのマイナスになるだろう」と予測しておいたが、まさにそうなってしまった。それに前回の本クロニクルでCCCの赤字も伝えたばかりだ。
CCCの15.6%減を始めとして、14社がマイナスであり、プラスの6社にしても、出店とコミック特需がなければ、マイナスに転じるであろう。
ヴィレヴァンの30.5%減も象徴的だ。1990年代の書店パラダイムチェンジは、80年代の郊外店ラッシュに続いて、ヴィレヴァンのセレクト複合化、CCCのFCによる大型レンタル複合書店化であった。
しかし今期のCCCとヴィレヴァンの大幅なマイナスは、そのトレンドが急速な失墜に見舞われていることを告げていよう。とりわけCCCの場合、FCとしてのトップカルチャー、オー・エンターテイメント、ブックエース、精文館も傘下にある。一方でネットフリックスなどの動画配信市場の成長は続いている。
それらに直結するのは日販とMPDで、1990年代に日販はCCCのFC展開に連動し、危機を迎えたが、それが再現するのではないかと思われる。
トーハンは『書店経営の実態』の発行は19年度版を最後にして、発行を中止する。1973年から出されていたが、これも象徴的だ。
今期はブックオフからの回答がなかったようで、初めてランキングからもれている。これにも何らかの事情があるのだろう。
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(『書店経営の実態』)
2.これも『日経MJ』(8/18)に「20年度コンビニ調査」も発表されている。
その「全店舗売上高ランキング」を示す。
順位 | 社名(店名) | 全店舗年間売上高 | 売上高 前年度比増減率(%) | 店舗数 | 店舗数 増減率 (%) |
1 | セブンイレブン・ジャパン | 4兆8,706億円 | ▲2.8 | 2万1,167店 | 1.0 |
2 | ファミリーマート | 2兆9,452億円 | ▲6.8 | 1万6,646店 | 0.2 |
3 | ローソン | 2兆5,433億円 | ▲9.8 | 1万4,476店 | 0.2 |
4 | ミニストップ | 2,909億円 | ▲7.4 | 1,999店 | 0.1 |
5 | セコマ(セイコーマート) | 1,837億円 | 1.4 | 1,170店 | ▲0.6 |
6 | 山崎製パン(デイリーヤマザキ) | 1,542億円 | ▲11.4 | 1,420店 | ▲1.6 |
7 | JR東日本クロスステーション(NewDays) | 660億円 | ▲34.0 | 496店 | ▲0.2 |
8 | ポプラ | 345億円 | ▲25.5 | 368店 | ▲22.2 |
国内の全店舗売上高は11兆886億円、前年比6.1%減。
1981年度以降、全店舗売上高がマイナスとなったのは初めてである。
平均日販は45万円、同10.8%減、来店客数は743.5人、同18.3%減。
コロナ禍による影響を受けているにしても、コンビニの成長も止まったと考えるべきであろう。
出版業界の1980年代から90年代にかけての成長は、コンビニの隆盛に負うところが大だった。それゆえに、80年代の雑誌とコミックのパラダイムはコンビニと郊外型書店によって支えられていた。
しかし21世紀に入り、1と同じくアマゾンの上陸、動画配信や電子コミックの隆盛、コロナ禍の襲来などによって、80年代以降のパラダイムは失墜し始めたといえよう。
20年のアマゾン売上高は2兆1848億円、前年比25.22%増という勢いで、成長し続けている。
本クロニクル158で、「LAWSON マチの本屋さん」ブランド1号店の開店をレポートしておいたが、出版状況から見て、多店舗化は難しいと判断せざるをえない。
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3.『文化通信』(8/2)が「電子書籍特集2021」を4面にわたって組んでいる。
文春による佐伯泰英の時代小説123作品の電子化、青弓社の紙書籍と電子書籍の同時発売、ベネッセの「電子図書館まなびライブラリー」、TRCの電子図書館サービスの拡大がまずレポートされている。
それに続き、ブックウォーカー、パピレス、モバイルブック・ジェーピー(MBJ)の電子事業の海外も含めた展開と現在が各1ページ、チャート入りで紹介され、啓蒙的に電子書籍の現在の内容と立ち位置を伝えている。
前回の本クロニクルでもふれたように、21年上半期電子市場は2187億円、前年比24.1%増となっていて、そうした背景をふまえて、この特集が組まれたといっていいだろう。
しかしここに出版社とコンテンツと読者はあっても、取次と書店はすっぽり抜けている。
取次や書店を視野に収めない特集が組まれる時代を迎えていることを痛感させられる。
これも前回書いておいたが、雑誌売上高は2758億円だから、下半期には電子市場と逆転してしまう可能性すらあることも認識しておくべきだろう。
4.中央社の決算は売上高225億5794万円、前年比8.0%増、営業利益3億9020万円、同65.1%増、当期純利益7952万円、同97.7%増。7年ぶりの増収増益となった。
雑誌売上は134億円、同10.3%増、書籍は74億円、同2.1%増と、雑誌書籍ともに、コロナ禍の巣ごもりによるコミックのブームに支えられている。
それに合わせて、27.6%という低返品率、及び販管費と一般管理費の11.5%減も相乗し、今期の決算となった。
前回の本クロニクルで、中央社帖合の商店街の書店の閉店を伝えたが、今期の書店閉店は32店で、大型店は少なく、ダメージとならなかったことが了承される。
やはりコミックに特化した取次の強みは、雑誌と書籍売上のバランスにもうかがえるし、それに低返品率が中央社の利点であり、栗田、太洋社、大阪屋と異なり、サバイバルを可能にしてきたことを示していよう。
しかしコミック特需はずっと保証されるわけではないし、3の電子コミックの影響も出てくるであろう。
5.文部科学省の2020年度「学校図書館の現状に関する調査」によれば、公立学校の1人当たりの年間貸出冊数は小学校49冊、中学校9冊、高校3冊。
本クロニクル158で、「公立図書館の推移」を示し、2010年から2020年の間の個人貸出登録者数は5300万人から5800万人と増えているにもかかわらず、個人貸出冊数が7.1億冊から6.5億冊まで減少していることを見てきた。
その要因は高齢化社会の進行、スマホの普及、児童の少子化と様々に考えられるけれど、学校図書館のこのようなデータから何を引き出せるだろうか。
この数字からすると、高校図書館はほとんど使われていないようにも思える。大学進学率が60%に達しようとしているのに、貸出冊数はマイナスの一途をたどっているのかもしれない。
ちなみに2018年の大学図書館貸出冊数を見てみると、大学図書館の年間平均貸出冊数は1万9720冊であり、これも1人当たりの貸出冊数に当てはめれば、高校と変わらない数字になってしまうかもしれない。
6.『週刊文春』と『週刊新潮』が電車の中吊り広告を中止。
『週刊新潮』の創刊は1956年、『週刊文春』は59年で、同年には私たちの世代に馴染み深い『朝日ジャーナル』『週刊少年マガジン』『週刊少年サンデー』『週刊平凡』も創刊され、1960年代が週刊誌の時代となることを告げていた。
そして1970年代は週刊誌売上は1000億円を越え、2300億円に達し、80年代から90年代にかけては4000億円、97年には5000億円に届こうとしていた。
しかしそれからはつるべ落としのようで、2020年には1600億円と3分の1になってしまったのである。
そのような21世紀における週刊誌の衰退に伴い、出版社系週刊誌としての『週刊文春』や『週刊新潮』の電車中吊り広告が消えていくのも、必然的な歴史というべきだろ。
だが雑誌の寿命ではないけれど、出版社系週刊誌として、両誌が半世紀以上刊行されてきたことは特筆すべきことのように思われる。
7.インプレスHDがイカロス出版の全株式を取得し、完全子会社化。
買収価格は仲介経費も含め、13億6600万円で、同社のグループ会社は15社となった。
イカロス出版は1980年設立で、月刊誌『エアライン』を始めとして、航空関連本、陸海空、旅行、防災などの分野の専門書を刊行し、20年売上高は13億2700万円。
インプレスHDの連結決算は本クロニクル157でふれておいたように、売上高140億円、純利益7億円と好調である。
一方でイカロス出版はブランド力やコンテンツがあるとはいえ、実質的に赤字であり、本当にインプレスHDにとってシナジー効果と事業への有効な展開をもたらすのかどうか、見極め難い。
もちろん特異な専門出版社の買収であるし、純資産も算定した上でのM&Aだと目されるけれど、相性はどうなのか、気になるところだ。
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8.『FACTA』(9月号)が「『ロック』錬金術師 渋谷陽一の背信』というレポートを掲載している。
FACTA ONLINE
facta.co.jp
それによれば、1972年創刊の『ロッキング・オン』によった渋谷は思想と理念を持ち、ロックを「規制秩序に異議を申し立てる革新的な文化と位置づけ、その論調は新左翼的ですらあった」。
しかし赤字だった『ロッキング・オン』が80年代になって10万部に乗ると、86年に兄弟誌『ロッキング・オン・ジャパン』を創刊し、40万部のマス雑誌となる。
それを背景に、渋谷は音楽フェスティバル事業へ参入し、興行家となり、現在のロッキング・オングループは雑誌ではなく、フェス事業が主体で、売上高は100億円に達し、ロック財閥と化している。
このような批判は紋切り型で驚かないが、ミュージシャン小山田圭吾の差別主義のカミングアウトが『ロッキング・オン・ジャパン』94年1月号で、それを受けて『クイック・ジャパン』95年8月号がさらにそれをエスカレートさせたという事実は初めて知らされた。
それで「あまりに残酷なため大手マスコミは具体的に言及」せず、なぜオリンピック辞退の背景が語られなかったかが判明したことになる。
確かに『ロッキング・オン・ジャパン』や『クイック・ジャパン』の編集者の神経を疑ってしまうが、そうした人物がえてして雑誌編集長を務めていることも事実なのである。
9.『神奈川大学評論』(第98号)が特集「コロナ終焉後の世界」を組んでいる。
國分功一郎、白井聡の対談「ポスト・コロナを考える」を始めとして、充実した特集で、大学発とはいえ、「ポスト・コロナ」状況に関して様々に啓発される。
実はこの2年近く、コロナ禍のために、近隣の大学の図書館を利用できず、教師たちとも話す機会がなく、コロナ状況の中での大学の現在が不明でもあった。
『神奈川大学評論』はかつて寄稿したことから、ずっと献本されているのだが、コロナ禍状況の中にあって、大学発信の場として、このような雑誌メディアの必要性を強く実感している。他の大学にも同様の試みをと勧めている。
とりわけコロナ禍を受けてからの数号は、特集として充実し、編集の意志を浮かび上がらせている。それぞれの特集だけを挙げる。「AIとシンギュラリティ—知識基盤社会の行方」「揺れ動くアメリカ—コロナと人権をめぐって」「『学問の自由』を考える」である。
10.萩尾望都『一度切りの大泉の話』(河出書房新社)読了。
石田美紀『密やかな教育〈やおい・ボーイズラブ〉前史』(洛北出版、2008年)以来の〈少女マンガ革命〉についての疑問が、この一冊によって解明された。
そしてその背景には『血と薔薇』と薔薇十字社、『JUNE』とサン出版というリトルマガジン、及び小出版社が存在していたことを確認できる。
いってみれば、この2誌は〈やおい・ボーイズラブ〉における『奇譚クラブ』と『裏窓』の役割を果していたことになる。
薔薇十字社や『奇譚クラブ』に関しては、内藤三津子『薔薇十字社とその軌跡』(「出版人に聞く」10、論創社)、飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(同12)を参照されたい。
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11.加藤敬事の『思言敬事』(岩波書店)を読み終えると、ほぼ同時にその死が伝えられてきた。
これは「ある人文書編集者の回想」と付されているように、みすず書房の編集長、社長も勤めた加藤による出版回想録である。
6で1960年代が週刊誌の時代だったと記したが、それは百科事典、文学全集、個人全集の時代でもあり、大部の資料集も刊行されていた。
その代表的なものは『現代史資料』で、加藤はこの編集に携わっていた。現在から考えれば、このような大部にして長期にわたる企画を完結させた小出版社の編集力と営業力は信じられないように思われるけれど、60年代とはそのような時代だったし、出版の黄金時代であったかもしれない。
加藤の筆はそのような『現代史資料』の編集、及びみすず書房を取り巻く著者や訳者のニュアンスをよく伝え、時代と出版物の誕生を映し出している。
12.ドメス出版の鹿島光代の死亡記事を見た。92歳であった。
かつて彼女とドメス出版に言及する機会を得たのだが、情報提供者から関係者も多いので、止めてほしいとのことで、これまでふれてこなかった。
しかし出版史にとってドメス出版も記録されるべきだと考えられるので、ラフスケッチを提供しておく。
ドメス出版は1969年に医歯薬出版をスポンサーとして設立された。それは鹿島の夫が医歯薬出版に勤めていたからで、彼は多和田葉子の父の多和田英治と親しく、二人は早大露文科の同窓だった。多和田のほうも1975年にドイツ語の人文社会科学書を輸入販売するエルベ書店を立ち上げている。
鹿島の夫は医歯薬出版で家庭問題や歴史部門をスタートさせていたが、亡くなってしまい、それらを鹿島光代が引き継ぎ、ドメス出版として始まった。
これがドメス出版の誕生に至る前史である。当時、私はドメス出版の『今和次郎集』全9巻に注視していたので、関心が生じていたことになる。
13.『出版状況クロニクルⅥ』で既述しておいたように、去年の夏はネットフリックスの『愛の不時着』で乗り切ったが、今夏はU-NEXTの動画配信がそれに代わった。
たまたまマキノ雅弘監督、大友柳太郎主演『江戸の悪太郎』(1959年)を観たが、すっかり楽しませてもらった。この映画はマキノ自身も言及していないし、B級映画としてほとんど語られないが、戦後のプログラムピクチャーとして、芸達者な俳優を揃え、江戸の長屋の光景を描いて秀逸だと思う。半世紀後に観ても、充分に楽しめるのだ。
出版物に例えれば、プログラムピクチャーは文庫新書に当たるけれど、半世紀後に現在の文庫新書が読むに耐えうるかどうかは疑問であるというしかない。
なおU-NEXTは「見放題」の日本映画に力を入れていて、観ていなかった大島渚『飼育』もあり、何と山下耕作『総長賭博』、加藤泰『明治侠客伝 三代目襲名』も観ることができる。
さらに新東宝までラインナップしてくれれば有難い。
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14.『近代出版史探索外伝』は9月下旬発売。
「外伝」にふさわしい『ゾラからハードボイルドへ』『謎の作者 佐藤吉郎と『黒流』』『ブルーコミックス論』の三本立て、文芸批評の「飯綱落とし」や「変移抜刀霞切り」をお目にかけよう。
論創社HP「本を読む」〈67〉は「ジャン・ド・ベルグ『イマージュ』」です。