22年10月の書籍雑誌推定販売金額は845億円で、前年比7.5%減。
書籍は484億円で、同5.9%減。
雑誌は360億円で、同9.7%減。
雑誌の内訳は月刊誌が296億円で、同10.8%減、週刊誌は64億円で、同4.3%減。
返品率は書籍が34.1%、雑誌は43.8%で、月刊誌は43.4%、週刊誌は45.5%。
8、9月に比べてマイナス幅が大きくなってきていることからすれば、
20年、21年の書籍推定販売金額よりも22年の大幅な減が予測される
そのような出版状況の中で、22年の最後の月へと入っていく。
1.『出版月報』(10月号)が特集「出版物の価格を考える」を組んでいる。
出版科学研究所の水野敦史による時宜を得た好企画で、各種グラフと表も併せて「出版物の価格」の推移と出版、社会状況をトレースしている。
そのうちの総務省「家計調査(二人以上の世帯)」に基づく「消費支出と品目別支出額の推移(月額平均)」を示す。
西暦(年) | 消費支出 | 書籍 | 雑誌 | 固定電話 通信料 | 携帯電話 通信料 | インターネット 接続料 |
2000 | 317,328 | 908 | 449 | 5,830 | 2,383 | ー |
2001 | 309,054 | 857 | 453 | 5,424 | 3,225 | ー |
2002 | 305,953 | 887 | 417 | 4,577 | 4,697 | 650 |
2003 | 301,841 | 842 | 397 | 4,243 | 5,635 | 861 |
2004 | 302,975 | 872 | 418 | 4,062 | 6,109 | 1,106 |
2005 | 300,531 | 860 | 420 | 3,672 | 6,420 | 1,253 |
2006 | 294,943 | 823 | 390 | 3,495 | 6,963 | 1,315 |
2007 | 297,782 | 789 | 370 | 3,295 | 7,283 | 1,509 |
2008 | 296,932 | 805 | 374 | 3,101 | 7,675 | 1,715 |
2009 | 291,737 | 768 | 385 | 2,907 | 7,933 | 1,841 |
2010 | 290,244 | 764 | 372 | 2,859 | 8,055 | 1,992 |
2011 | 282,966 | 731 | 361 | 2,847 | 7,990 | 1,974 |
2012 | 286,169 | 713 | 332 | 2,824 | 8,131 | 2,003 |
2013 | 290,454 | 695 | 329 | 2,760 | 8,326 | 2,009 |
2014 | 291,194 | 690 | 307 | 2,591 | 8,783 | 2,022 |
2015 | 287,373 | 677 | 283 | 2,498 | 9,251 | 2,107 |
2016 | 282,188 | 630 | 279 | 2,258 | 9,867 | 2,199 |
2017 | 283,027 | 623 | 263 | 2,032 | 10,208 | 2,323 |
2018 | 287,315 | 627 | 253 | 1,782 | 10,508 | 2,293 |
2019 | 293,379 | 651 | 247 | 1,760 | 10,611 | 2,341 |
2020 | 277,926 | 706 | 230 | 1,628 | 10,581 | 2,549 |
2021 | 279,024 | 729 | 234 | 1,542 | 10,424 | 2,730 |
これはダイレクトな「出版物の価格」の推移を伝えるものではないけれど、出版物、出版市場、社会メディア環境の変容を如実に物語っているといえよう。
消費支出は2000年の317,328円に対して、2021年は279,024円で、38,304円、12.1%のマイナスとなっている。物価指数、税金などの「非消費支出」の上昇に賃金指数が追いついていないことも明らかだ。
それとパラレルに「書籍」も908円から729円、「雑誌」は449円から234円に減少し、後者に至っては半減ということになる。ここに雑誌の凋落と雑誌を中心とする書店の衰退がそのまま映し出されている。
それに対して、2021年の「携帯電話通信料」と「インターネット接続料」はそれぞれ10,424円、2730円で、合わせて13,154円である。「書籍」「雑誌」の963円に対して、13倍の支出となり、出版物が占めていた社会的役割が失墜してしまった現実をあからさまに照らし出している。
もはや出版とジャーナリズムの時代だった20世紀ではなく、新たな21世紀を迎えていることを否応なく自覚しなければならない。
2.日書連加盟店が10月1日時点で2756店、47店減となった。
日書連加盟店は本クロニクルでもずっと定点観測してきたように、ピーク時の1986年には1万2935店あったわけだから、ほぼ5分の1になってしまったのである。
それと対照的に、公共図書館は1980年以後増え続け、2021年には3316館を数え、日書連加盟店を上回る事態が続いている。
どうしてそのような逆転状況が生じたかは『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』で詳述しておいたが、これからも書店数と図書館数の差は開いていくばかりであろう。
3.『朝日新聞』(10/30)と同(11/6)の「朝日歌壇」に次のような短歌が寄せられていた。
ただいまと言える書店が閉店し駅前が消え新幹線来る
札幌市 港 詩織
こころざし高き山根屋書店主の訃報の朝に彼岸花咲く
長野市 細野 正昭
駅近く書店営み歌に生き沓掛喜久男氏逝きて閉じたり
長野市 栗平たかさ
第一首と第二首は「高野公彦選」、第三首は「永田和宏選」だが、第二首と第三首は同じ書店と書店主を詠んでいる。
第二首の「評」として、高野は「頑張って個人書店を維持してきた沓掛喜久男さん(朝日歌壇の常連)への弔歌。」と述べている。
第一首の書店は不明だが、第二首、第三首は前歌に見えているように、長野市坂城町の山根屋書店で、創業一世紀の歴史を有する老舗である。沓掛は三代目店主として長野県書店商業組合理事も務めたが、9月に亡くなり、閉店となったという。
第一首の書店にしても、駅前に位置していたことからすれば、日書連加盟店であったはずだし、そのような老舗にして好立地の書店でさえも、閉店せざるを得ない出版状況に追いやられてしまったのである。
本クロニクル170などでも沓掛の歌を引かせてもらってきたが、もはやそれもかなわない。このような書店状況を背景として、自由民主党議員145人による「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」が発足している。
出版業界の官僚ともいえる出版文化産業振興財団(JPIC)と政治家がコレボレーションしたところで、何ができるというのか。単なるパフォーマンスにすぎないだろう。悪質な冗談のように思うのは私だけではあるまい。
4.『朝日新聞』(11/22)が「クールジャパン機構崖っぷち」という記事を発信している。
それによれば、経産省の官民ファンド「クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構 CJ機構)」は2013年にアニメなどの海外展開を支援するために設立されたが、累積赤字額は309億円に拡大し、経産省は25年度に黒字転換して存続をめざすが、財務省は統廃合を検討中とされる。
『出版状況クロニクルⅣ』で、経産省のクールジャパン構想とその内実に対して批判しておいたが、やはり予測どおりになってしまった。
クールジャパン機構は官民ファンドのひとつとして、これまで56件の投資を決めたが、ほとんど失敗している。その代表的なものは映像コンテンツの海外展開で、アニメ配信会社「アニメコンソーシアムジャパン」や衛星放送会社「WAKUWAKU JAPAN」を立ち上げたが、ネットフリックスなどの台頭で失敗に終わり、これらの投資だけで60億円にのぼる。
コミックにしてもアニメにしても、近代出版史が証明しているように、その成長は民によるもので、官とは全く無縁の存在だったのである。それをまったく弁えずにクールジャパン機構を立ち上げた経産省の罪は重いというしかない。
5.ゲオHDは23年3月までにセカンドストリートを800店とし、メーカーなどの過剰在庫を安く仕入れ、販売する「オフプライスストア」やアウトドア専門店も展開する一方で、中古CDの買い取りを終了。
21年のリユース市場規模は2兆6988億円、前年比12%増で、25年には同45%増の3兆5000億円という成長が見こまれているので、セカンドストリートの出店も加速しているのだろう。
本クロニクル168で、近隣の閉店したTSUTAYA店舗がセカンドストリートになったことを既述しておいたが、そのようなテナントチェンジが取次問題を忖度することなく、各地で起きているのかもしれない。
ゲオの店舗数は1107で、5年前より100店以上減少しているけれど、CD、DVDの販売の終了予定はないとされる。
しかしゲオHDの売上総利益の構成はリユース事業が過半を占める状態になっているので、経営の主軸がレンタルからリユースへと転換していくことは必然だと見なせよう。
odamitsuo.hatenablog.com
6.ノセ事務所より2022年上期の46紙に及ぶ「ブロック紙・地方紙一覧」レポートが届いた。その全国紙も含めた現況を引いてみる。
前回調べたときは40万部以上発行する地方紙は10社だったが、今回は中日新聞(192万部)、北海道新聞(85万部)、静岡新聞(53万部)、中国新聞(51万部)、信濃毎日新聞(41万部)、西日本新聞(43万部)、神戸新聞(40万部)にとどまった。
東京新聞(39万部)を含めた主要8紙の合計発行部数は544万部で21年上期比4.1%減。河北新報と新潟日報は40万部を下回った。
一方、46紙のうち夕刊を発行する社は21年に15紙あったが現在は10紙にとどまっている。
静岡新聞の朝刊、夕刊ともに50万部を超えるケースは稀有である。
全国紙(朝刊)の発行部数は、読売新聞686万部、朝日新聞は429万部、毎日新聞は193万部、日本経済新聞は175万部、産経新聞は102万部。
このレポートは各紙の読書欄の現在にも及んでいるが、以前とは異なりつつあるように思われる。
例えば、『東京新聞』『中日新聞』の場合、『日本読書新聞』出身の書評担当者が退職後は明らかに変わってしまった印象が強い。
それは『北海道新聞』『信濃毎日新聞』なども同じで、かつては小出版社の人文書にも目配りを見せていたが、最近はどうなのであろうか。
しかしそれよりも、新聞の凋落も加速していて、『朝日新聞』は早くも400万部を下回ったと伝えられているし、地方紙にしても次回には40万部を割りこむところも出てくることは確実だ。
それは1で示した「消費と支出と品目別支出金額の推移」とも連鎖しているのである]
7.宮後優子『ひとり出版入門 つくって売るということ』(よはく舎)読了。
著者の宮後はBOOK&DESIGNギャラリーを営み、3章はひとり出版社の運営で、よはく舎も含め、8社が紹介されている。
取次は鍬谷書店で、9月刊行、10月重版となっているので、何よりだ。
8.『群像』(10月号)に古賀詩穂子「本屋の“売場”と“場”」が掲載されている。
古賀は21年1月コロナ禍野の中で、名古屋の金山駅近くにTOUTEN BOOKSTOREをオープンし、その後の本屋状況と展開を伝えている。
古賀は取次出身で、「本のある空間にまつわる企画・運営を行う会社」を経て、2階建25坪の本屋、カフェ、ギャラリーをオープンし、「ギャラリー展示」と「イベント企画」を継続し、現在へと至っている。
7のひとり出版社と同じく、現在の出版状況において、本屋をオープンするのであれば、このような業態しかないと思う。だがこれは少し前の話になってしまうけれど、コンセプトは異なるにしても、同じく本屋、カフェ、ギャラリーを兼ねてオープンした友人が苦戦していたことを想起してしまう。
そのことはともかく、名古屋に行ったら、一度訪ねてみよう。
9.チョムスキーの新刊『壊れゆく世界の標』(NHK出版)を読んでいると、重要な独立系メディアとして、オンライン雑誌、コミュニティ・ラジオ局と並んで、次のような出版社と雑誌が挙げられていた。
出版社はヴァーソ・ブックス、ヘイマーケット、マンスリー・レビュー、シティライツ、ザ・ニュープレス、雑誌はジャコビン、ネイション、プログレッシブ、インジーズ・タイムズである。
これらの出版社と雑誌を挙げたのは、それこそ「壊れゆく世界の標」のようにして、旧来の出版社に加え、新たな出版社や雑誌が立ち上がっていることを示唆されたからだ。
たまたま最近、クロポトキンの『相互扶助論』のデヴィッド・グレーバー序文の最新版テキストを注文したところ、A4判のイラスト入りが送られてきた。これまで見たことがない編集と挿絵、装幀と造本で、出版社はPM PRESSである。
2007年に創立された社会科学書の小出版社で、アメリカのオークランドにある。おそらくPM PRESSも重要な独立系出版社に位置づけられるのではないだろうか。念のためにタイトルなども示しておく。
Peter Kropotkin,Mutual Aid An Illuminated Factor of Evolution、PM PRESS 2021
www.pmpress.org
10.国文社の廃業がSNSで言及されているので、本クロニクルでも取り上げておく。
すでに数年前に実質的に廃業したと仄聞していたが、業界紙などでも報道されなかったこともあり、これまでふれてこなかった。
国文社は戦後の1949年創業で、印刷屋も兼ねていた詩集出版社だったと思われる。それは谷川雁の詩集『天山』(1956年)や『谷川雁詩集』(1960年)などに明らかで、私たちが知った時代には桶谷秀昭の『近代の奈落』、『増補版土着と情況』などを刊行し、リトルマガジン『磁場』も創刊していた。
これらの編集に携わったのは橋川文三門下の田村雅之で、吉本隆明の『詩的乾坤』や『村上一郎著作集』も同様だが、田村は後に村上一郎『岩波茂雄』などの砂子屋書房を設立するに至る。
その後に「ポリロゴス叢書」などの現代思想の翻訳書が刊行され始める。これらは国文社二代目の前島哲の企画だったと思われる。
国文社は池袋にあり、自社ビルを構えていたはずで、1980年頃に一度訪ねた記憶がある。
いずれにしても古い話だが、本クロニクルでもふれてほしいとの要望も出されているようなので、ここにラフスケッチしてみた。
11.削除 16〈付記〉参照
12.書店からは難しくてよくわからないところが多いので、解説版を出してくれないかという要望が寄せられてきた。
これは20代後半の書店員からのもので、我々としてはタイトルはゴダールによっているが、内容は淀川長治的にわかりやすく具体的にというアイテムで臨んでいる。
だがこの指摘を受け、力量不足と説明の欠落を痛感してしまった。ただ我々は年齢的なギャップもあり、解説版の試みの任にはふさわしくないし、どなたかが試みて下されば幸いである。
その一方で、『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』に関して、オープンな論議や質疑応答などが必要とされ、JLAやTRC、公共図書館や大学図書館だけでなく、出版社、取次、書店などからも要請があれば、私も中村も気軽に参加することを約束しよう。
13.もうひとつ、公共施設を多く手がけている親しい建築家からも、次のような見解が伝えられてきた。
図書館の運営やシステムに関しては門外漢だが、これからの図書館の建設、再建築は運営の民営化が始まっているように、土地、建物も含めて民営化され、それを自治体が借りるというシステムになっていくだろうし、すでに始まっている子ども図書館の試みはその前段階にあたるだろう。
要するに現在の市レベルの自治体は資金不足と税収減収、これからの少子高齢化に伴う財政圧迫もあり、従来のシステムでのハコモノ行政は不可能になってきている。そのために自前ではなく、民間資金、土地、建物の賃借システムを導入するかたちでないと実現が難しい。
まして図書館は文化施設として後発であり、優先的位置づけとはなっていないし、リニューアル、再整備にしても、行政の財政問題と密接に絡むだろうし、そうした中で、図書館建設の第二の成長を望むことは難しいのではないか。
実際に図書館の土地、建物の民営化の例として、本クロニクル170などで、町田市の鶴川駅前図書館や紀伊國屋と荒屋市立図書館を挙げておいたが、それが将来の図書館の主流となっていくのではないかと建築家の側から語られていることになる。
1980年代のロードサイドビジネスの成長は広い駐車場と借地借家方式によるもので、図書館の大駐車場もそれを範にしていた。とすれば、図書館の借地借家方式への移行も必然的とも考えられる。
図書館の場合、老朽化しても、蔵書問題もあり、解体、再建設は困難で、リプレース、借地借家方式のほうがコスト的にかなっている。しかも公共建築物は50年寿命とされているので、1980年代建設の図書館はそれが近づいているのである。
odamitsuo.hatenablog.com
14.『朝日新聞』(11/28)が次の記事を発信している。
「手取り9万円台・・・非正規司書の悲鳴」という見出しで、20代の女性司書を呼びかけ人とする雇用年限の撤廃や最低賃金の引き上げなどを求めるオンライン署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」が7万人以上の署名を集め、要望書とともに文部科学省や総務省に提出した。
非正規司書のことも『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』で指摘した重要な問題的テーマに他ならず、なぜか書名は挙げられていないが、ひとつの波紋であることは明らかだ。
おそらく水面下でも図書館をめぐる様々な問題がくすぶり始めているのだろう。
15.『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』は重版発売中。
論創社HP「本を読む」〈82〉は「 北宋社と片山健、『迷子の独楽』」です。
ronso.co.jp
16.〈付記〉
11で匿名の「図書館関係者」の投書を引用したが、本人より削除要請が寄せられてきたので、無断引用でもあり、12月23日に 11の項目そのものを削除したことを明記しておく。