出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル182(2023年6月1日~6月30日)

23年5月の書籍雑誌推定販売金額は667億円で、前年比7.7%減。
書籍は366億円で、同10.0%減。
雑誌は311億円で、同4.9%減。
雑誌の内訳は月刊誌が252億円で、同6.1%減、週刊誌は58億円で、同0.7%増。
返品率は書籍が40.8%、雑誌が45.9%で、月刊誌は46.3%、週刊誌は44.3%。
いずれも40%を超える高返品率で、23年下半期も高止まりしたままで続いていくように思われる。
月末になって、名古屋ちくさ正文館の閉店が伝えられてきた。


1.トーハンから出版社に対して、トップカルチャーの59店舗が日販、MPDからトーハンへの帳合変更が伝えられてきた。
 帳合変更は10月1日の予定。

 前回、未来屋書店の日販からトーハンへの帳合変更を取り上げたばかりだ。トップカルチャーのほうも本クロニクル172の『日経MJ』の「書籍・文具売上ランキング」第7位、売上高は257億円に及ぶ。
 はっきりいってしまえば、日販は未来屋とトップカルチャーの2社を合わせ、700億円以上の売上を失うことになる。このような事態はトーハンによる日販の一部吸収合併と見なすべきではないだろうか。
 ただ問題なのは、こうしたスキームを誰が描いているかにある。2016年の大阪屋と栗田出版販売の経営統合は『出版状況クロニクルⅤ』でトレースしておいたように、小学館や講談社などの大手出版社によって進められ、19年に楽天ブックスネットワークへと至っている。ところが今回の日販からトーハンの帳合変更の背景はまだ見えてこない。
 なお未来屋の決算は最終損益9億2800万円の赤字、トップカルチャーの第2四半期の営業損益は1億6600万円の赤字。



2.CCCと三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は来年春をめどとする「Tポイント」と「Vポイント」の新たな名称を「Vポイント」にすると発表。

 これも本クロニクル176などで既述しているが、当初はCCCが6割、MSFGが4割という株式保有スキームだった。
 だがその後の進展は困難で、とりあえず先行して、新生「Vポイント」が発表されたことになろう。
 株式のことといえば、1のトップカルチャーの19%を占める第2位株主はCCCだった。だが今回の日販、MPDからトーハンへの帳合変更で、その株式の行方はどうなるのだろうか。
 また長きにわたるCCC、日販、MPDの三位一体の関係も解体過程に入っている。
 そのことに注視しなければならない。
odamitsuo.hatenablog.com



3.今秋、紀伊國屋書店、CCC、日販が共同仕入れのための新会社を設立すると発表。

 これは紀伊國屋の高井昌史社長のコメントから考えると、3社が新たな取次別会社を設立し、紀伊國屋、CCCのFC書店、日販の子会社書店の1000店がそれに加わるというスキームである。
 当然のことながら、そこで意図されているのは表層的に1000店のバイニングパワーによる仕入れ正味のダンピングである。つまりMPDをモデルとする特販的出版取次バージョンだと考えるしかない。
 しかし3社の出自とDNPの相違、で見たような日販とCCCの問題を背景としていることからすれば、スムーズにことが進むとは思われない。日販とCCCはともかく、紀伊國屋のメリットはどこにあるのか、これもはっきりしていない。
 これも『ブックオフと出版業界』で既述しておいたが、かつて丸善が日販とブックオフと連携し、ブックオフ業態のチェーン化を試みたことを想起してしまった。もちろん失敗に終わったのであるが。
 またこれも本クロニクル168で、講談社、小学館、集英社と丸紅のAI活用のソリューション事業新会社「パブテックス」にふれているけれど、こちらはどうなっているのだろうか。
ブックオフと出版業界 ブックオフ・ビジネスの実像



4.丸善ジュンク堂の第13期決算は売上高663億9100万円、前年比35億円減、営業利益は1200万円、前年比95.7%減、最終損益は1億5900万円の赤字。前期は9000万円の黒字。

 これも本クロニクル180で、丸善CHIHDの連結決算にふれ、実質的に赤字だと述べておいたが、その事実が確認されたことなろう。おそらく店舗リストラが始まっていくと考えられる。
 丸善ジュンク堂の第6期から11期にかけての50億円を超える赤字は、同170、日販からトーハンへの帳合変更は同174で既述している。



5.三洋堂HDの加藤和裕社長が2億5900万円の営業損失となった決算説明会を開き、『新文化』(6/1)や『文化通信』(6/6)などによれば、次のように語っている。

 「営業損失となったのは1993年以来、30年ぶり。これは商売をやっている意味がない」し、「書店」は、「(本の)メディアとしての力が弱まっている」。複合書店業態にしても、「この世から複合書店はなくなるのではないか。我々は本を扱っているがゆえに、本と何かを複合させるという発想から脱却できず、赤字を招いた。本にこだわり過ぎた結果、この十数年の低落から抜け出せていない」と。

 加藤の言を引いたのは、前回の本クロニクルで三洋堂HDのデータを示したこともあるけれど、三洋堂の1975年の郊外店出店が嚆矢とされているからだ。
 彼の言葉には地方商店街の書店から、郊外店出店、複合店化、ナショナルチェーン化、株式上場、トーハン傘下書店に至る半世紀の書店の変遷の実感がこめられているように思う。
 2010年代後半は近隣の郊外ショッピングセンターに三洋堂が出店したこともあり、時々出かけ、その本と雑誌、ビデオとCDのセルとレンタル、古本と雑貨販売などの複合業態を目にしていた。しかし採算ベースにあるとは思えず、それもあってか、数年で撤退してしまった。すでにこの頃から複合書店も行き詰っていたはずだ。
 それでも三洋堂の株価が900円前後を保っているのは、トーハン傘下にあることに加え、このような前向きの情報開示によっているのであろう。
 それは日販傘下の文教堂のほぼ40円の株価がまったく動いていないことと対照的である。



6.日書連加盟店は前年138店マイナスの2665店となった。

 1986年のピーク時には1万2935店あったわけだから、ほぼ5分の1になってしまった。東京は前年13店減の264店。
 これも前回の「公共図書館の推移」で示しておいたが、22年の全国の公共図書館は3305館であるので、それをはるかに下回るのだ。ちなみに公共図書館は2006年から3000館を超えている。
 また日書連加盟店が二ケタマイナスとなっている県は、岩手、山梨、石川、福井、佐賀、宮崎で、23年はさらに拍車がかかるだろう。
 出版業界も書店の歴史と構造も知らない国会議員たちによる「町の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)が悪質な冗談を見なすしかないのは、その事実に加え、彼ら彼女たちの多くが読書と無縁の存在であるからだ。



7.日販GHDの連結決算は売上高4440億円、前年比12.1%減、営業損益は4億1700万円の赤字。
 経常損失は1億5800万円(前年同期は36億4800万円の黒字)。
 純損失は2億1800万円(同13億9100万円の黒字)。
 日販とMPDの取次事業売上高は4023億1400万円、同12.6%減、金額ベースで580億円のマイナスで、営業損益は24億2900万円の赤字。
 小売事業売上高は537億2400万円、同12.8%減で、営業赤字は1億5800万円(同2億4600万円の赤字)。


8.トーハンの連結決算は売上高4025億5000万円、前年比6.0%減、営業利益は2億2800万円、同81.4%減。
 純利益は3億1200万円(前年は16億4800万円の損失)。
 トーハンの単体売上高は3768億1100万円、同6.2%減、営業損益は4億8500万円の赤字だが、営業外収入によって経常利益8億2300万円(同17億2900万円の損失)。
 書店事業も10社で1億6600万円の経常損失。

 日販の商品売上高の500億円超のマイナスは276億円が「書店ルート減収」、84億円が「既存書店売上減少」、90億円が「閉店の影響」、110億円が「帳合変更の影響」とされる。
 それらのマイナスは「帳合変更の影響」を除いてトーハンも同様であろうし、要するに日販にしても、トーハンにしても、書店の売上の減少、閉店と新規出店の少なさが直撃している。しかし1で示しておいたように、「帳合変更の影響」が本格化するのは今期であることはいうまでもない。
 またコンビニルートも売上の激減と返品率の悪化によって、運賃コストも捻出できなくなっているようだ。



9.「地方・小出版流通センター通信」(No.562)においても、売上状況が厳しい中での決算が次のように報告されている。コロナ禍も収まり、新刊も増え、総売上高は9億1937万円と前年を上回った。ところがである。

 三省堂神保町本店、渋谷丸善&ジュンク堂の閉店、三省堂池袋店の規模縮小による返品が膨大の量となりました。図書館売上-9.28%、書店売上-28.8%、取次出荷+5.76%で総売上は2.32%増でしたが、粗利益は微々たる増加しかありませんでした。取次出荷に置いては、昨年に転換した楽天ブックスネットワークのリアル書店取引停止が影響して、昔の規模には戻りません。経費的には、管理費合計が13.99%減でした。営業損失は917万円となり、営業外収入1237万円で埋めて、最終当期利益439万円と、営業内黒字とはほど遠く、厳しい決算数字です。


 大手取次と規模は異なるにしても、現在の取次状況がそのままリアルに語られているといっていい。さらに今期は八重洲ブックセンター本店の閉店に伴う返品も生じるであろうし、それに丸善ジュンク堂のリストラも重なってくるまもしれない。
 そういえば、中村文孝『リブロが本屋であったころ』(「出版人に聞く」4)で語られていたように、地方・小出版社流通センターが発足したのは1976年で、それは4の三洋堂の郊外店出店と同時期だったことになる。
 このところ、コミックや写真集に関して書いているのだが、そのうちの多くが地方・小出版流通センターを経由していたことに気づく。
 それに多くのリトルマガジンの創刊とその流通を担ったのは同センターに他ならず、もう忘れられているかもしれないが、『本の雑誌』にしてもそうだったのである]

リブロが本屋であったころ (出版人に聞く 4)



10.小学館の決算は総売上高1084億7100万円、前期比2.6%増。
経常利益73億100万円、同18.4%増、当期利益61億6200万円、同2.8%増の増収増益。
 総売上高のうち出版売上は433億4600万円、同7.9%減、その内訳は雑誌が151億9400万円、同10.7%減、コミックスが130億2900万円、同10.6%減、書籍は151億2300万円、同2.1%減のいずれもがマイナスで、版権収入も106億5700万円、同5.2%減だが、広告収入は92億7600万円、同1.5%増、デジタル収入も451億9200万円で18.0%増。

 前回の本クロニクルで、KADOKAWAの決算において、「ゲーム事業」が好調であることを伝えたばかりだ。
 小学館の場合も、出版物売上はコミックスすらマイナスだが、デジタル収入のプラスが大きく、増収増益となっている。
 結局のところ、小学館もKADOKAWAも書店市場からテイクオフしつつあり、それは講談社、集英社も同様だ。
 かくして書店市場とともに歩み、成長してきた大手4社にしても、紙ではなく、デジタル分野へと移行しつつあることを告げていよう。



11.『週刊東洋経済』(5/27)が特集「アニメ熱狂のカラクリ」を組んでいる。そのリードは次のようなものだ。

 10年で市場は2倍以上に拡大―アニメは今の日本で希有な成長産業だ。動画配信の普及、アニメ映画のヒット連発で、世界に商機が広がる中、企業は投資を加速させる。出資者と制作者との不釣り合いな収益分配など、長年の課題を抱えながらも、熱狂が続く。そんなアニメマネーから目が離せない。

週刊東洋経済 2023年5/27号[雑誌](アニメ 熱狂のカラクリ)

 この特集は世界市場規模とその広がりから、アニメ制作の現場、声優たちの過酷な境遇に至るまでを取材し、私のような門外漢でも教えられることが多かった。
 とりわけ「出版社がボロ儲け 狂乱のIP(漫画の知的財産)パブル」は、コミックスとアニメのメディアミックスによる版権収入が集英社、小学館、講談社の業績を支えていることを明らかにしている。それが現在の大手出版社のトレンドなのだ。
 私のアニメは1995年の押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』あたりで止まっているので、その後のアニメを観ていない。反省しなければならない。
Ghost in the Shell: Stand Alone Complex Complete Series Collection - Blu-ray



12.国会図書館のデジタル化事業のもとで、図書館が所蔵資料の一部分をメールなどで利用者に送信できる新制度が6月1日に施行された。
 これは改正著作権法に基づき、流通している本もパソコンなどで読めるようになり、権利者保護のために1冊の1部分に対し、最低500円の補償金額が必要とされる。

 これと関連して、日本出版著作権協会(JPCA)が「国会図書館のデジタル化事業についてここで一旦立ち止まるべきであると、考える」という声明を発表し、国会図書館と文化庁著作権課に送付している。
 これは前回の本クロニクルで挙げた『出版権をめぐる攻防』の緑風出版の高須次郎によるもので、同書と併読されれば、著作権法とデジタル化の問題のコアの在り処がわかるであろう。
 出版権をめぐる攻防



13.日本図書館協会が全国の都道府県知事や市長に対し、公立図書館に勤める非正規職員の処置改善を求める要望所を送付。

 これは『東京新聞』(6/7)などで大きく報道されている。だが発端は『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』において、「官製ワーキングプアの実態」が広く知られたことで、日本図書館協会がアリバイ工作的に出したとしか考えられない。
 このような要望書の送付とマスコミ発表によって、公共図書館における、その76%に及ぶ非正規職員の処遇が改善されるわけでもないことは自明であるからだ。それに司書資格取得が「資格トレトレ詐欺」に近いと指摘されたことにも起因しているのだろう。
 



14.『新文化』(6/1)が「『インボイス制度』出版業界の対応は?」という一面特集を掲載している。
 「インボイス制度」とは「適格請求書等保存方式」のことで、事業者が消費税の控除や還付を受ける際に、課税事業者のみが発行できる適格請求書が必要となる。
 出版業界では著者、翻訳者、ライター、デザイナーなどのフリーランスで、年間1000万円以下で消費税納税を免除されてきた事業者が多く、その対応に追われている。
 この特集ではいち早く「インボイス制度反対」声明を出していた日本出版者協議会の水野久会長(晩成書房)を中心として特集が組まれているので、彼の言を引いておく。

 誰が納税するかを民間に決めさせるもの。本づくりに携わる現場の人間を対立させ、負担を強いる。出版文化にとって、なにひとついいところのない制度です。
 問題ばかりの制度だが、仕組みが煩雑で、正確に理解している人は多くない。十分に周知されていないのです。
 出版に携わる個人事業主はいま、業界がどのような方向に進むのか不安を感じている。彼らと密に連携し、本づくりをしてきた中小出版社団体である私たちは、意思表示する義務がある。

 本クロニクル171で、日本漫画家協会のインボイス制度の反対声明を既述しているし、の地方・小出版流通センターも、取引出版社の多くが免税事業者となる可能性が高く、対応に苦慮していると述べているが、本当に10月からのインボイス制度実施は中小出版社を直撃するので、そのために廃業や倒産に追いやられるところもでてくるとも考えられる。

odamitsuo.hatenablog.com



15.『週刊朝日』(6/9)が表紙に「101年間、ご愛読ありがとうございました。」の言葉を付し、休刊となった。

週刊朝日 2023年 6/9 休刊特別増大号【表紙:撮影/浅田政志】 [雑誌]

 あらためて考えてみると、朝日新聞社の場合、1990年に『アサヒグラフ』、92年に『朝日ジャーナル』が休刊となっている。
 『朝日ジャーナル』の創刊は59年だから、朝日新聞社には戦後になって一般週刊誌の『週刊朝日』、報道写真誌『アサヒグラフ』、政治、思想誌としての『朝日ジャーナル』の週刊誌3派鼎立時代を迎え、それが30年近く維持されてきた。その全盛は60年代から70年代にかけてであろう。
 それは言い換えれば、新聞と週刊誌の蜜月の時代だったが、再販制と宅配の新聞販売店によって営まれてきたのである。
 ところがデジタル化の時代を迎え、『週刊朝日』も休刊となってしまった。『朝日ジャーナル』の場合、休刊後の93年に『朝日ジャーナルの時代』という大冊アンソロジーが編まれ、刊行されたが、『週刊朝日』はすでに『「週刊朝日」の昭和史』全5巻が出版されているので、平成における試みはなされないままに忘れられていくように思える。
  



16.『東京人』(7月号)が特集「僕らが愛したなつかしの子ども雑誌」を組んでいる。

東京人2023年7月号 特集「なつかしの子ども雑誌」[雑誌]

 大手出版社の児童雑誌にもっと照明が当てられるべきだと常々思っていたので、時宜を得た企画である。
 山下裕二が語る「学年誌の表紙画家玉井力三」の再発見もうれしい。それにこの特集は「学年誌は「学年誌のターニングポイント」と「出版史」の二本を受け持っている野上暁からのサジェッションを多く受けていると思われる。
 野上暁『小学館の児童書と学年誌』(「出版人に聞く」18)に語られているように、野上は実際に『小学一年生』の編集長を務め、しかも長きにわたって学年誌と児童書、及び児童文学の最前銭にもいたので、こうした特集には不可欠の人物だったのである。
 この特集を読むことで、同書において聞きそびれてしまった多くが想起され、後悔の念にかられるけれど、こうした機会を得て、野上がそれらの欠落を埋めてくれれば、何よりだと思う。
小学館の学年誌と児童書 (出版人に聞く 18)



17.バルザック原作のフランス映画『幻滅』を観てきた。

 それはかつて私が40ページほどの「バルザック『幻滅』の書籍商」(『ヨーロッパ本と書店の物語』所収)の一編を書いていたことにもよっている。
 この『幻滅』は19世紀前半のフランスの出版業界を舞台とするもので、映画のほうでは描かれていないが、当時の出版業界の実相を浮かび上がらせて興味深い。そのこともあって既訳では意味不明なところもあり、該当部分は私訳している。
 主人公の文学志望者リュシアンは取次において、出版者と取次仕入れ担当者との会話を耳にする。それは拙著の72、73ページ示しておいた。少しばかり我田引水的に日本の出版取引用語を当てはめているけれど、このように解釈すると、フランスの当時の出版社と取次の実態が明らかになってくる。
 ただ残念なのは映画において、これらのシーンは省かれていることで、その理由は新聞ジャーナリズムのほうに焦点が当てられたことによっている。
 拙訳も読んでほしいのだが、これも品切である。それでも図書館にはあるだろうし、映画のほうを観て、興味を覚えて読んで頂ければ幸いだ。

ヨーロッパ 本と書店の物語 (平凡社新書)  幻滅 ― メディア戦記 上 (バルザック「人間喜劇」セレクション <第4巻>)   



18.椎根和『49冊のアンアン』(フリースタイル)読了。

49冊のアンアン

 『幻滅』の後にはこれを推奨するしかない。1970年に創刊された『アンアン』を語ってすばらしい一冊で、椎根こそは銀座の雑誌編集の快楽を教えてくれる比類なき編集者であることが実感される。
 私たちは書籍編集しか知らない貧しい編集体験しかないからだ。それゆえに『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』においても、椎根の『銀座Hanako物語』(マガジンハウス)を雑誌バブルと消費社会の快楽を描いた一冊として、絶賛しておいたが、そのプレリュードが『アンアン』だったとわかる。
 『アンアン』とは女性ファッション誌をよそおっていたけれど、本格的な消費社会の訪れの中でめばえつつあった写真とファッションの狂気と愛を表出させようとしていたのである。
 謎のようでもあり、アナーキーな編集者としての椎根は堀内誠一と女性たちのみならず、多くの写真家、デザイナー、編集者たちを召喚することで、それを実現したといえよう。

 銀座Hanako物語――バブルを駆けた雑誌の2000日  



19.『股旅堂古書目録』27が届いた。
 今回の特集は「明治大正昭和売春史考~遊郭/公娼/私娼/吉原/玉の井/赤線・・・」である。


 股旅堂は本クロニクル172の風船舎と同様に、古書目録を送られるたびに紹介してきた。それはいつもテーマ別の厚い編集によって、必ずひとつの分野のアーカイブを形成していたからである。
 そのことを通じて、公共図書館の日本十進分類法とはまったく異なる書物群とその宇宙が出現している。図書館が購入先となっているかは不明だが、今回の『股旅堂古書目録』の後記には「公費・経費で御購入下さるお客様へ」として、「インボイス(適格請求書)発行事業者となる申請を見合わせる予定」だという告知がなされている。
 中小出版社、地方・小出版流通センターのみならず、古本屋もインボイス制度に苦慮しているとわかるし、目録販売に関しても重大な問題となっているのだ。



20.『新版 図書館逍遥』は7月3日発売予定。
新版 図書館逍遙
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 論創社HP「本を読む」〈89〉は「冨士田元彦『さらば長脇差』と大井広介『ちゃんばら芸術史』」です。
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