出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル176(2022年12月1日~12月31日)

22年11月の書籍雑誌推定販売金額は915億円で、前年比4.2%減。
書籍は508億円で、同6.3%減。
雑誌は406億円で、同1.5%減。
雑誌の内訳は月刊誌が345億円で、同0.3%増、週刊誌は61億円で、同10.5%減。
返品率は書籍が34.7%、雑誌は40.4%で、月刊誌は39.3%、週刊誌は46.1%。
雑誌のマイナス幅の減少と月刊誌のプラスは、コミックスの『ONE PIECE』『HUNTER×HUNTER』『怪獣8号』(いずれも集英社)、『東京卍リベンジャーズ』(講談社)などの人気新刊が集中刊行されたことによっている。
週刊誌と同様で、月刊誌売上が改善したわけではない。
雑誌売上は新刊コミック次第という出版状況はこれからも続いていくだろう。

ONE PIECE 104 (ジャンプコミックス) HUNTER×HUNTER 37 (ジャンプコミックス) 怪獣8号 8 (ジャンプコミックス) 東京卍リベンジャーズ(30) (講談社コミックス)


1.出版科学研究所による22年1月から11月にかけての出版物販売金額を示す。

 

■2022年1月~11月 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2022年
1〜11月計
1,031,999▲6.6597,478▲4.6434,521▲9.2
1月85,315▲4.851,0020.934,313▲12.3
2月107,990▲10.367,725▲5.740,265▲17.0
3月143,878▲6.094,434▲2.749,444▲11.7
4月99,285▲7.554,709▲5.944,577▲9.5
5月73,400▲5.340,700▲3.132,700▲7.9
6月86,182▲10.844,071▲10.242,111▲11.4
7月74,567▲9.139,717▲6.934,851▲11.5
8月80,189▲1.142,322▲2.337,8670.2
9月105,129▲4.663,504▲3.741,625▲6.0
10月84,529▲7.548,443▲5.936,086▲9.7
11月91,535▲4.250,852▲6.340,683▲1.5

 22年11月までの書籍雑誌推定販売金額は1兆319億円、前年比6.6%減である。
 1兆2000億円台を割りこむことは確実で、23年には1兆円をキープすることが難しくなってくるかもしれない。
 再版委託制に基づく近代出版流通システムが最終場面を迎えると見なすべきだろう。



2.出版科学研究所の『出版月報』がコスト問題もあり、2023年から『季刊出版指標』に変更され、季刊となる。


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 いうまでもないが、本クロニクルのリードや1の書籍雑誌推定販売金額は『出版月報』の取次ルートデータによっている。
 ただこれからも『季刊出版指標』定期購読者には特典として月次統計データをまとめた「出版指標マンスリーレポート」PDF版がメール提供されるということなので、本クロニクルでもそれを引続き参照するつもりだ。
 『出版月報』は発行所を公益社団法人全国出版協会、出版科学研究所として刊行されているが、東販によって設置された出版科学研究所は1969年に全国出版協会に移管され、今日に及んでいることになる。
 だが『出版月報』は頒価2200円で、本クロニクルの他に定期購読している読者や出版人は聞いたことがないことからすれば、発行部数は数百部と推定され、毎月の紙での発行は困難になってきたのであろう。

 近年アルメディアの休業によって、取次と書店の出店、休廃業データ、また出版ニュース社の廃業に伴い、年度版『出版年鑑』と『日本の出版社』を失い、出版業界の基本ベースとなるインフラ状況や数次の把握が難しくなってきている。そうした意味において、出版科学研究所の存在は貴重であり、データベースとしての存続を願うしかない。
 それに最近の特集は、前回ふれた「出版物の価格を考える」(10月号)に続いて、「GIGAスクール構想 デジタル教科書と出版界」(11月号)も啓発されることが多かったことを付記しておく。



3.日販の「出版物販売額の実態2022」が出されたので、こちらも昨年から紙の発行は中止となり、電子版だけの刊行である。
 

■販売ルート別推定出版物販売額2022年度
販売ルート推定販売額
(億円)
前年比
(%)
1. 書店8,342▲2.1
2. CVS1,172▲4.7
3. インターネット2,8076.5
4. その他取次経由371▲12.5
5. 出版社直販1,778▲1.7
合計14,473▲1.0

 これらに対して、タッチポイント別市場規模上位3位は書店(構成比38.5%)、電子出版物(同26.3%)、インターネット(同12.9%)である。
 インターネット販売は2807億円、前年比6.5%増だが、電子出版物は前年の4744億円に対し、5996億円と大幅に伸びている。
 電子出版物がさらに伸び続ければ、タッチポイント市場において、書店と電子出版物の構成比が逆転してしまう状況も生じてくるだろう。すでに電子出版物とインターネット販売を合わせれば、51.4%という半分以上を占めることになるのだから。



4.出版文化産業振興財団(JPIC)調査による全国自治体別無書店率が出された。
 それによれば、全国1741の市区町村のうちで、書店がひとつもないのは456、26.2%に及んでいる。
 これは日本出版インフラセンターの共通書店マスタに基づくもので、「無書店自治体」は沖縄県が56.1%、長野県が51.9%、奈良県が51.3%。それらに福島県47.5%、熊本県44.4%、高知県44.1%、北海道42.5%が続いている。

 
■全国自治体別無書店率
自治体数無書店自治体無書店率
全国 1,74145626.2%
北海道1797642.5%
青森県401537.5%
岩手県33721.2%
宮城県35925.7%
秋田県25832.0%
山形県351131.4%
福島県592847.5%
茨城県 44511.4%
栃木県25312.0%
群馬県351028.6%
埼玉県6357.9%
千葉県 541120.4%
東京都62711.3%
神奈川県 33618.2%
新潟県30516.7%
富山県 15213.3%
石川県1915.3%
福井県 17211.8%
山梨県27829.6%
長野県774051.9%
岐阜県42614.3%
静岡県3538.6%
愛知県5423.7%
三重県29620.7%
滋賀県19210.5%
京都府26519.2%
大阪府4349.3%
兵庫県4124.9%
奈良県392051.3%
和歌山県30826.7%
鳥取県19736.8%
島根県19421.1%
岡山県27414.8%
広島県2300.0%
山口県19526.3%
徳島県24937.5%
香川県1700.0%
愛媛県20210.0%
高知県341544.1%
福岡県601728.3%
佐賀県20420.0%
長崎県21419.0%
熊本県452044.4%
大分県18211.1%
宮崎県26934.6%
鹿児島県431432.6%
沖縄県412356.1%


 このような調査は『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』に触発されたものだと考えられるし、書名は挙げられていないけれど、次のような一節にも明らかであろう。

 「公共図書館のベストセラーや新刊本等の過度な複数蔵書等により、公共図書館と書店の共存が難しくなっている側面もある。これは公共図書館の評価基準が利用者数や貸出冊数にあることが、その傾向に拍車をかけている。」

 こうした公共図書館と書店の相関関係は本クロニクル173でも示してあるので、それも参照してほしい。しかし書店の閉店問題は最近になって続出していることもあり、自治体における無書店率は加速していくばかりだろう。
odamitsuo.hatenablog.com



5.ノセ事務所より、2021年の「出版社実態調査」が届いた。
 今回は501社の出版社の実績が掲載レポートされ、それは次の3ランクに分類されている。

J1出版社 10億円以上売上 247社
J2出版社 5億~10億円売上 104社
J3出版社 1億~5億円売上 150社

 それぞれの売上高はJ1が1兆5320億円、シェア93.9%、J2が661億円、同4.0%、J3が341億円、同2.1%、合計売上は1兆6322億円、前年比0.4%増となる。
 その第1の特色は1000億円を超える4社の突出ぶりで、それらは集英社、講談社、KADOKAWA、小学館である。
 第2の特色は日本の出版社の零細性で、5億円以下は254社、50.7%を占める。しかもJ3の従業員数は150社のうちの129社が10人以下で、独自の専門性にもかかわらず、その零細性を浮かび上がらせている。
 第3の特色は利益の脆弱性で、J1は7割強が利益を出しているが、J2、J3の中小出版社の大半は利益が上がっておらず、売上も減少している。
 21年のトータルでの0.4%増も上位出版社の電子出版、版権ビジネス、新たなマーケット開発によるものである。

 これまでは上位10社の売上リストを掲載するだけにとどめてきたが、今回はコロナ禍における大手、中小出版社の明暗がコンクリートにレポートされているので、そちらの分析のほうを紹介してみた。



6.日販GHDの連結中間決算は売上高2198億1300万円、前年比10.8%減。
 営業損失は1億400万円(前年は16億4500万円の利益)、経常利益は1500万円で、前年比99.2%減、中間純利益は11億7800万円で、三菱地所とのロジテクス蓮田(埼玉)の不動産交換差益21億円の計上による。
 日販単体の売上高は1775億4100万円、235億円のマイナスで、同11.7%減。
 営業損失は6億2600万円(前年は4億3700万円の利益)、中間損失は5億8400万円(前年は3億4800万円の利益)。


7.トーハンの連結中間決算は1913億8300万円、前年比10.2%減。
 営業損失は7億4300万円(前年は11億2600万円の利益)、中間純損失は9億5700万円(前年は4億7800万円の利益)。
 トーハン単体の売上高は1786億7300万円、同10.5%減。
 営業損失は9億6100万円(前年は5億200万円の利益)、中間純損失は6億2000万円(前年は2億7100万円の利益)。
 書店事業7法人249店の売上は235億5200万円、同9.8%減。

 日販にしても、トーハンにしても、取次業は二ケタ減の赤字で、それは通年決算でも変わらないだろう。
 もはや取次は限界状況を迎えているし、それは取次の書店事業も同様である。
 公取委はアマゾンのこともふまえ、日販とトーハンの合併も独占禁止法違反ではないという見解に至っていたようだが、双方の書店事業問題もあり、一体化は難しいと見なすしかない。
 日販とトーハンは流通と販売の双子の赤字の中で、23年を迎えようとしている。



8.日教販の決算は売上高268億7600万円、前年比1.4%減。
 営業利益は3億9200万円、同28.4%減、当期純利益は2億8700万円、同27.7%増。遊休不動産の売却益を含む。
 その内訳は書籍185億6500万円、同3.1%減、「教科書」72億4600万円、同6.5%増、「デジタル配送等」6億2100万円、同10.5%減、「不動産」5億8000万円、同2.6%減。
 書籍返品率は12.7%。

 本クロニクル173で、21年の「卸業調査」のところで、トーハンが赤字であることに対し、日教販が黒字であることを示しておいたが、それは何よりも12.7%という低返品率によっているのである。
 それはTRCにしても、日販を伍する利益を上げているのも、その事実によっている。しかし日販とトーハンは雑誌と書籍の総合取次であり、40%前後の高返品率から脱却できていない。しかもそれは再版委託制のメカニズムゆえで、近代出版流通システムの崩壊の最終段階ということになろう。
odamitsuo.hatenablog.com



9.紀伊國屋書店の決算は連結売上高1209億3170万円、前年比4.6%増。
 営業利益24億7420万円、同117.3%増、当期純利益20億3200万円、同34.8%増。
 連結売上高の内訳は「店売総本部」413億1320万円、同4.3%減、「営業総本部」499億2870万円、同5.0%増、「海外」234億1000万円、同36.8%増。
 期末店舗数は国内67店、海外39店の計106店。
 紀伊國屋書店単体売上高は968億8520万円、同1.0%減、営業利益は3億3600万円、同56.5%減、当期純利益6億5900万円、同4.1%減。15年連続の黒字決算。


10.有隣堂の決算は売上高522億1640万円、前年比22.0%減。
 営業利益6億1380万円、同27.4%減、当期純利益3億1340万円、同16.3%減。
 その内訳は「書籍類」157億9340万円、同6.4%減、「雑誌」32億2920万円、同5.7%減、「文具類」33億5350万円、同1.3%減、「雑貨類」9億7790万円、同30.4%増、「通販商品」152億7170万円、同3.9%増。
 期末店舗数は41店。

 紀伊國屋書店も湯林道も利益を出しているものの、日販やトーハンと同じく、再版委託制に基づく近代出版流通システムの最後の場面に立ち会っていることに変わりはない。



11.『日経MJ』(12/9)が「Tポイント、統合で目指すV」という大見出しで、CCCのポイント事業「Tポイント」と三井住友フィナンシャルグループ(FG)の「Vポイント」との統合に関する一面特集を組んでいる。
 三井住友グループがCCC傘下のCCCMKホールディングス(HD)に4割出資し、残りの6割はCCCが保有する方向で、年内に資本業務提携の最終合意を交わし、2024年4月をメドに統合し、「日本最大級のポイント決済経済圏の創出を目指す」と10月に発表されていた。

 これは本クロニクル174でも既述し、日販にもリンクしていくので、本当に実現するだろうかと疑念を提出しておいた。
 それは会員数がPontaポイント1億992万人、楽天ポイント1億人超、dポイント9040万人で、Tポイント7000万人とVポイント2000万人をあわせても、「日本最大級のポイント決済経済圏」になるとは思えない。またTポイント加盟店は14万6000店で、21年から2万店近く減っているし、24年4月の統合時には楽天などとさらに差をつけられるかもしれない。
 それにCCCの6割出資、及び日販との関係も絡み、最終合意に至ることは難しくなっているのではないだろうか。
 これも本クロニクル171で、『日経MJ』による「文喫」と「蔦屋書店」の一面特集がリークに近いものではないかと指摘しておいたが、今回の特集もそれに類するもののように思われる。
odamitsuo.hatenablog.com



12.日販、トーハンの2022年ベストセラーが出された。


■日本出版販売・トーハン 2022年 年間ベストセラー(総合)
順位書名著者出版社本体(円)
日販トーハン
1180歳の壁和田秀樹幻冬舎900
2人は話し方が9割永松茂久すばる舎1,400
36ジェイソン流お金の増やし方厚切りジェイソンぴあ1,300
4920代で得た知見FKADOKAWA1,300
53同志少女よ、敵を撃て逢坂冬馬早川書房1,900
65メシアの法大川隆法幸福の科学出版2,000
78898ぴきいせいぞろい!ポケモン大図鑑(上・下)小学館編小学館各1,000
8770歳が老化の分かれ道和田秀樹詩想社1,000
910本当の自由を手に入れるお金の大学両@リベ大学長朝日新聞出版1,400
1015私が見た未来 完全版たつき諒飛鳥新社1,091
1111TOEIC L&R TEST 出る単特急 金のフレーズTEX加藤朝日新聞出版890
12WORLD SEIKYO vol3聖教新聞社編聖教新聞社227
1312ネイティブなら12歳までに覚える
80パターンで英語が止まらない!
塚本亮高橋書店1,200
14WORLD SEIKYO vol2聖教新聞社編聖教新聞社227
1514聖域コムドットやまとKADOKAWA1,300
16パンどろぼう柴田ケイコKADOKAWA1,300
1718マスカレード・ゲーム東野圭吾集英社1,650
18パンどろぼうとなぞのフランスパン柴田ケイコKADOKAWA1,300
1917ドラゴン最強王図鑑健部伸明、なんばきび他Gakken1,200
20だるまさんがかがくりひろしブロンズ新社850
2WORLD SEIKYO vol2、vol3聖教新聞社編聖教新聞社各227
4人は話し方が9割
人は聞き方が9割
永松茂久すばる舎各1,400
13パンどろぼう
パンどろぼうVSにせパンどろぼう
パンどろぼうとなぞのフランスパン
パンどろぼうとおにぎりぼうやのたびだち
柴田ケイコKADOKAWA各1,300
16コムドッと写真集TRACEコムドット講談社1,800
19ヒトの壁養老孟司新潮社780
20その本は又吉直樹、ヨシタケシンスケポプラ社1,500
(集計期間:2021年11月22日~2022年11月21日)

 かつては本クロニクルでも、「紅白歌合戦」のようなものとして、続けて掲載していたこともあったが、実用書や自己啓発書が多くなるばかりで、近年は紹介もしてこなかった。
 だがこのようなベストセラーが図書館のリクエスト本や複合本と連動している関係、及びここまできてしまった出版業界の行き詰まりを象徴しているように思われることもあり、あえて挙げてみた。
 これもそうした出版状況と時代を物語っているのだろうし、そこに出版業界の現在も投影されているのであろう。



13.能勢仁・八木壮一共著『明治・大正・昭和の出版が歩んだ道』(出版メディアパル)を恵送された。

昭和の出版が歩んだ道: 激動の昭和へTime TRaVEL (本の未来を考える=出版メディアパル No. 26) 平成の出版が歩んだ道: 激変する「出版業界の夢と冒険」30年史 (本の未来を考える=出版メディアパル No. 38)

 『昭和の出版が歩んだ道』『平成の出版が歩んだ道』に続く三部作の完成で、本クロニクルでも常に座右に置き、参照している。
 能勢も八木も長きにわたって出版業界、古書業界に身を置き、これまで体験してきた事実に裏づけられているので、それらの肉声が行間からも伝わってくる記述になっている。
 そうした証言はわれらが同時代人のものだと実感するのだが、『令和の出版が歩んだ道』は成立するのかと自問することにもなる。



14.松本大洋の『ビッグコミックオリジナル』連載『東京ヒゴロ』2 を読了。

東京ヒゴロ (1) (ビッグコミックススペシャル) 東京ヒゴロ (2) (ビッグコミックススペシャル)

 本クロニクル165で、そのを読み、「出版関係者必読のコミック」として推奨しておいたが、それは2も同様である。
 主人公の編集者塩澤は大手出版社を辞め、小出版社を興し、新たな漫画雑誌を創刊するので、書店営業を試み、第14話は「本日、30軒の書店を訪問す。」と題され、実際のその書店の風景と営業シーンも描かれている。コミックにそのようなシーンを見たことはこれまでなかったように思われる。
 しかし気になるところもあって、塩澤が書店営業で苦労している目にしたかつての部下が、「ウチの販売コードを塩澤さんが作る本に利用するとか」できないかと営業部に相談したと語る場面が出てくる。
 だがこれはありえない話で、販売コード云々ではなく、「塩澤さんが作る本をウチが発売所となる」ということでないと辻褄が合わないと思う。
 最初の例でいえば、元筑摩書房の山野浩一が夕日社を設立し、夕日新書を創刊したが光文社を発売所としている。
 『東京ヒゴロ』は出版業界を舞台とする秀作コミックでもあるので、気になることを記してみた。
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15.笠井潔『新・戦争論』(言視舎)が出された。

新・戦争論「世界内戦」の時代

 これは本クロニクル173で、単行本化が望まれると書いておいた、聞き手を佐藤幹夫とするリトルマガジン『飢餓陣営』の「『世界内戦』としてのロシア―ウクライナ戦争」をメインとするものである。
 『新・戦争論』は笠井の『例外社会』(朝日新聞出版、2009年)に基づく国家の例外化としての世界内戦が語られ、それが日本の現在へともリンクしていくのである。 
 たまたま『新・戦争論』と同時に笠井の新作『煉獄の時』(文藝春秋)を読み、続けてこれも新刊の外山恒一を聞き手とする絓秀実『対論1968』(集英社新書)に目を通していたところに、『Les Anges』(レザンジュの会)第4号が届き、1960年代後半から2020年代に至る「世界内戦」の時代をいささか考えさせられてしまった。
 また同じ頃、『神奈川大学評論』101も届き、そこでの小野塚知二、藤原辰史の対談「食糧の平和」も世界内戦時代を迎えての食糧問題として読むことになった。
 とりとめのない本と雑誌の羅列となってしまったかもしれないが、1冊でも手にとって頂ければ幸いである。
例外社会 煉獄の時 対論 1968 (集英社新書)
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16.アマゾンの「カスタマーレビュー」(12/21)に「コーディネーター」名で、「『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』を読んで:出版関係者と図書館関係者の対話を進めよう」と題する書評が寄せられている。
 これは前回の本クロニクルに対するコレスポンダンスだと思われる。きわめてまっとうな紹介の後で、次のように述べられている。

 非常に大きく重要な問題提起で、かなりの議論が必要です。図書館外の分野から図書館に対してこのような《まとまった意見》が寄せられたことはなかったように思います。
 本書を機会に、出版・書店関係者と図書館関係者が対話を進めること、書店・図書館の両方を含む《出版流通》について議論が進められることを期待します。議論をすると、様々な問題が生じますが、それを克服して、お互いの立場を尊重した上で議論を進めていただきたいと思います。


 それは私も中村も望むべきところで、本当に出版業界と図書館の対話や議論がなされるべきだと思う。
 前回も既述しておいたように、私も中村も気軽に参加するつもりなので、論創社に連絡して頂ければと思う。
 なお前回のクロニクルの「図書館関係者」の投書は本人からの申し出により、無断引用でもあり、11の項目そのものを削除したことを明記する。
  



17.渡辺京二が92歳で亡くなった。

 私が4翁とよんできた人たちも次々に鬼籍に入っていく。
 それは読み続けてきた著者や作家たちがいなくなることを意味しているし、そのようにして私たちの時代も終わろうとしているのだろう。



18.『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』は重版発売中。
 論創社HP「本を読む」〈83〉は「 矢作俊彦とダディ・グース作品集『少年レボリューション』」で、これもまったく偶然ながら、『対論1968』とそのままつながっている。

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