出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル132(2019年4月1日~4月30日)

 19年3月の書籍雑誌推定販売金額は1521億円で、前年比6.4%減。
 書籍は955億円で、同6.0%減。
 雑誌は565億円で、同7.0%減。その内訳は月刊誌が476億円で、同6.2%減、週刊誌は89億円で、同11.3%減。
 返品率は書籍が26.7%、雑誌は40.7%で、月刊誌は40.7%、週刊誌は40.8%。
 4月27日から大型連休が始まり、当然のことながら、書籍雑誌の送品は減少するだろう。
 4月、5月はそれがどのような数字となって跳ね返るか、書店売上にどのような影響を及ぼしていくのかが、問われることになろう。


1.『出版月報』(3月号)が特集「文庫本マーケット2018」を組んでいるので、その「文庫本マーケットの推移」を示す。

■文庫マーケットの推移
新刊点数推定販売部数推定販売金額返品率
増減率万冊増減率億円増減率
19954,7392.6%26,847▲6.9%1,396▲4.0%36.5%
19964,718▲0.4%25,520▲4.9%1,355▲2.9%34.7%
19975,0577.2%25,159▲1.4%1,3590.3%39.2%
19985,3375.5%24,711▲1.8%1,3690.7%41.2%
19995,4612.3%23,649▲4.3%1,355▲1.0%43.4%
20006,09511.6%23,165▲2.0%1,327▲2.1%43.4%
20016,2412.4%22,045▲4.8%1,270▲4.3%41.8%
20026,155▲1.4%21,991▲0.2%1,293 1.8%40.4%
20036,3733.5%21,711▲1.3%1,281▲0.9%40.3%
20046,7415.8%22,1352.0%1,3132.5%39.3%
20056,7760.5%22,2000.3%1,3392.0%40.3%
20067,0253.7%23,7987.2%1,4165.8%39.1%
20077,3204.2%22,727▲4.5%1,371▲3.2%40.5%
20087,8096.7%22,341▲1.7%1,359▲0.9%41.9%
20098,1434.3%21,559▲3.5%1,322▲2.7%42.3%
20107,869▲3.4%21,210▲1.6%1,309▲1.0%40.0%
20118,0101.8%21,2290.1%1,3190.8%37.5%
20128,4525.5%21,2310.0%1,3260.5%38.1%
20138,4870.4%20,459▲3.6%1,293▲2.5%38.5%
20148,6181.5%18,901▲7.6%1,213▲6.2%39.0%
20158,514▲1.2%17,572▲7.0%1,140▲6.0%39.8%
20168,318▲2.3%16,302▲7.2%1,069▲6.2%39.9%
20178,136▲2.2%15,419▲5.4%1,015▲5.1%39.7%
20187,919▲2.7%14,206▲7.9%946▲6.8%40.0%

 文庫の推移販売金額はついに1000億円を割りこみ、しかも前年比6.8%減という最大のマイナスで、946億円となった。ピーク時は2006年の1416億円だったことからすれば、18年は500億円近くの減少となる。それでいて、14年からの前年比を見ても、下げ止まる気配はまったくない。 
 同特集はスマホが与えた影響を大きいとし、10年にスマホの世帯保有率が9.7%だったことに対し、17年が75.1%に及んでいることを挙げている。
 確かにそれも大きな要因だが、推定出回り冊数から見ると、1998年は4億2025万冊で、18年は2億3677万冊とほぼ半減している。それはちょうどこの20年で書店が半減してしまった事実を反映しているし、書店における文庫の滞留在庫も同様であることを意味していよう。

 1980年代の郊外書店全盛期において、主力商品は雑誌、コミックス、文庫が三本柱で、売上の半分以上のシェアを占めていた。だが本クロニクル129で示しておいたように、雑誌は1990年代の1兆5000億円から、18年には6000億円のマイナスとなり、コミックスも前回挙げておいたように、2400億円から1500億円台へと落ちこみ、今回の文庫も加えれば、トリプル失墜という販売状況である。 
 また複合店にしても、それらとDVDレンタルが主力だったわけだから、こちらは四重苦のような中で、暗中模索、もしくは閉店に追いやられている。

 3月の書店閉店状況も86店に及び、1月の82店を超えている。それに100坪以上の大型店は24店を数え、こちらもとどまる要因は見つからない。取次の決算も絡んで、4月はどうなるのだろか。

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2.トーハンと日販は検討を進めてきた物流の協業化に関して、「雑誌返品処理」「書籍返品処理」「書籍新刊送品」の3業務の協業を進めることで合意と発表。

 前回、ドイツの大手取次KNVの倒産を伝え、それが広大なロジスティックセンターの新設という設備投資の失敗によることを既述しておいた。
 トーハンにしても日販にしても、桶川SCMセンターや王子流通センターを始めとして、多大の設備投資を行なった。その果てに、本クロニクル129などでトレースしておいたように、出版物推定販売金額は1996年の2兆6000億円から、2018年には1兆3000億円を下回り、半減してしまったのである。それによって生じた過剰設備化が、トーハンと日販の物流協業化の背後に潜んでいる大きな問題であろう。すなわち半減しているのだから、一社でまかなえるということにもなろう。

 しかしさらなる重要な取次問題は、今回の協業化に含まれない「雑誌送品」で、総コストにおける配送運賃の7割を占めている。結局のところ、先送りされていることになるが、前回や同127などで取り上げておいたように、出版物関係輸送も危機に追いやられている。このままでいけば、さらなる出版物の発売の遅れも蔓延化していくかもしれない。



3.文教堂GHDの2019年第2四半期連結決算が出された。
 売上高は127億300万円、前年比10.2%減、営業損失2億3200万円、経常損失2億8800万円、親会社に帰属する四半期純損失3億6500万円で赤字幅が増加。
 そのために、前年連結決算における2億3358万円の債務超過もさらに拡大し、5億9700万円となった。期中における不採算の6店の閉店などにより、売上、利益が圧縮され、財務が悪化した。
 昨年度に引き続き、増資を検討し、金融機関からの借入金返済、支払い猶予の同意を得ているとされる。

 本クロニクル129などで既述してきているが、文教堂GHDの増資や再建は難しく、赤字幅は増加していく一方である。
 3月も400坪の大型店も含め、3店が閉店しているし、さらに売上、利益、財務が悪化していくことは必至だ。
 東京証券取引所は文教堂GHDに対し、最後通牒というべき上場廃止猶予期間入り銘柄に指定している。そのために今期中に財務を健全化しなければ、上場廃止が待ち受けていることになる。文教堂GHDにとって、残された時間は少ない。



4.TSUTAYAの2018年1月から12月の書籍雑誌販売額が1330億円、前年比3.3%の増で、過去最高額を更新と発表。
 その理由として、全国に於ける大型店40店の新規オープン、「TSUTAYA BOOK NETWORK」への新規加盟による店舗数の増加、独自の商品展開やデータベースマーケティングが挙げられている。
  40店は「BOOK&CAFE」スタイルだが、「TSUTAYA BOOKSTORE」は「ライフスタイル提案型」店舗である。島忠とジョイントした「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」はホームリビング、オートバックスとの「TSUTAYA BOOKSTORE APIT東雲店」はカーライフをテーマとしている。

 しかしそれらのトータルな店舗数は開示されておらず、大型店出店と「TSUTAYA BOOK NETWORK」の新規加盟店の増加によって、「過去最高額」がかさ上げされたと推測するしかない。また旭屋書店も子会社化されている。
 TSUTAYAの18年の出店については本クロニクル130、大量閉店に関しては同129で取り上げているので、そちらを見てほしいが、閉店に追いつく出店なしといった状態で、それはやはりこれも同130で示しておいたように、19年に入っても続いている。
 これらの出店と閉店の尋常ではないコントラストは、日販とMPDの決算に確実に反映されるだろうし、それらはTSUTAYAの「過去最高額」の内実を知らしめるであろう。

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5.丸善CHIホールディングの連結決算が発表された。
 連結子会社は丸善ジュンク堂、hontoブックサービス、TRC、丸善出版、丸善雄松堂など29社。
 売上高は1770億円、前年比0.7%減、当期純利益は24億円で、前年の赤字から減収増益決算。セグメント別の90店舗とネット書店売上高は740億円、同2.2%減、営業利益は3300万円。

 店舗ネット販売事業も前年は赤字だったので、減収増益ということになるが、営業利益は3300万円で、かろうじて黒字を保ったとわかる。それは出版事業も同様で、売上高43億円に対し、営業利益50万円。
 つまり丸善CHIホールディングスの場合、書店や出版事業は利益がほとんど上がらず、文教市場販売や図書館サポート事業などにより、バランスが保たれているである。
 株価もずっと300円台だが、今期はどうなるのか、とりわけ丸善ジュンク堂はどこに向かおうとしているのだろうか。



6.大垣書店が京都経済センターに京都本店をオープン。
 同センターは京都府や京都市などが再開発を進めてきたビルで、その商業ゾーン「SUINA室町」1階全フロア700坪を大垣書店が借り上げ、そのうちの350坪を書籍、雑誌、文具、雑貨売場とする。そして残りの350坪には大垣書店とサブリースした8社が飲食店、フードマーケット、カフェなどの10店を出店し、大垣書店はデベロッパーを兼ねるポジションでの出店となる。。
 なお大垣書店は続けて、「京都駅ビルTHE CUBE」、堺市に「イオンモール堺鉄砲町店」を出店。

 これはまったく新しいビジネスモデルというよりも、TSUTAYA=CCCが先行し、本クロニクル120で紹介しておいた有隣堂の東京ミッドタウン日比谷の「HIBIYA CENTRAL MARKET」などに続くものだろう。
 さらに今年は日本橋の複合商業施設「コレド室町テラス」に、有隣堂がライセンス供与を受け、「誠品生活日本橋」を出店することになっている。ポストレンタル複合店の模索がなされていくわけだが、年商7億円を目標とするサブリースによるデベロッパーを、書店が兼ねることができるであろうか。



7.東京都書店商業組合員数は4月現在で324店。

 『出版状況クロニクルⅢ』において、1990年から2010年にかけての各都道府県の日書連加盟の書店数の推移を掲載しておいた。
 東書商組合員数もほぼそれと重なっているはずなので、それを引いてみると、1990年には1401店、2010年には591店となっている。何と30年間で、1000店以上の書店が消えてしまったのである。しかもそれはまだ続いていて、この10年でさらに半減し、来年は300店を割ってしまうだろう。
 1400万人近くの人口を擁する東京ですらも、こうした書店状況にあるのだから、他の道府県の書店環境も推して知るべしといっていい。書店の黄昏は出版や読書の現在を紛れもなく照らし出している。
出版状況クロニクルⅢ



8.幻戯書房の田尻勉社長が「出版流通の健全化に向けて」というプレスリリースを発表し、出荷正味を60%とすると表明。そのコアの部分を引いてみる。

 小社では少部数で高定価の書籍が多く、新刊は書店様から事前注文に基づいて、取次会社に配本していただいており、取次の見計らいの配本は多くありません。しかしながら、配本後すぐの返品も増え、返品類も増えています。また、一部の取次は、月一度の締日を考慮することなくムラのある返品となり、小社の資金計画に支障を来しています。こうしたことから、出版流通に携わる方々も厳しい状況にあると推察しております。
 業界をあげて、先人が築いてきた出版流通の仕組みが疲弊していることに対して、表立った改善策の提案が上がっていません。小社としては、読者の方々に届けていただくためにも、取次会社・書店が機能していただかなくてはなりません。そのために小社としては出荷正味を原則60%といたします。(但し、お取引先からのお申し入れをいただき、詳細は別途相談させていただきます)。

 この提起に対して、『文化通信』(4/8)や『新聞之新聞』(4/12)も、田尻社長のインタビューを掲載しているので、それらも参照されたい。

 こうした提起を幻戯書房の田尻があえてしたのは、次のようなインタビューの言葉に集約されていよう。
 「出版流通がどうしようもなくなっているにもかかわらず、どこからも表だって具体的な改善策は示されない。そこで、小さいとはいえ、一石を投じたいと思いました。」「そもそも販売を取次、書店へ外部依存してきた出版社として、何ができるかと考えたとき、最もインパクトがあるのが『正味』を下げる宣言だと考えました。」
 このような田尻の視座は、彼が冨山房で書店、藤原書店で取次書店営業、そして12年から幻戯書房を引き継いだことで、出版業界の生産、流通、販売という3つのメカニズムを横断し、熟知していることで成立したといえるだろう。
 幻戯書房へは大手取次や書店からもすぐに連絡が入り、書店ではフェアを開くといった話も出ているという。これからも幻戯書房に関しては見守っていきたい。



9.文藝春秋がスリップを廃止。

 本クロニクル125で、スリップレス出版社を挙げておいたが、その後も続き、現在では60社に及んでいる。
 とりわけ文庫本はKADOKAWAから始まり、講談社、幻冬舎、光文社、実業之日本社、祥伝社、宝島社、徳間書店、竹書房、PHPが続き、それにこの4月から文春も加わることになる。
 スリップ関連経費は2円から3円とされ、そのコストカットは取次の運賃協力金の原資になっているとも伝えられている。
 それとは別に、小出版社にとってもスリップ経費は年間を通じると、それなりのコストとなってしまうので、スリップレスに向かう状況にあるようだ。
 近代出版流通システムの終焉は、このようなスリップレス化にも象徴されているのだろう。

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10.『FACTA』(4月号)が「『川上切り』角川歴彦の大誤算」というレポートを発信している。それを要約してみる。

* ネット業界の有望株ドワンゴと出版業界の異端児KADOKAWAによる経営統合から4年半がたち、カドカワが窮地に追い込まれている。2019年3月期は43億円の最終赤字に沈む見通しである。
* 経営統合当初はドワンゴの「ニコニコ動画」を柱とする「niconico」事業が右肩上がりで、ドワンゴ優位だったが、その後「YouTube」に太刀打ちできず、プレミアム会員数も256万人から188万人にまで減少してしまった。
* それにM&Aの失態も重なり、ドワンゴは17年から赤字続きとなり、今期も12月までの純損失が63億円に上り、もはや土俵際に追いこまれた状況にある。
* ドワンゴの川上量生創業者は統合後のカドカワの社長を務め、辞任して取締役に降格、ドワンゴはKADOKAWAの子会社へと格下げになった。だが川上はカドカワの8.4%の株を握る筆頭株主で、角川歴彦はその5分の1以下しか所有していない。
* だが絶大の権力者である角川歴彦は川上を後継者として考え、ドワンゴはその壮大な構想を叶える推進力はずだった。しかしそれらを失った中で、400億円の投資となる「ところざわサクラタウン」の建設が進み、昨年は冨士見の社屋に高級レストラン「INUA」を開店している。


 このレポートは「その行く末が案じられるばかりだ」と結ばれている。
 このカドカワとドワンゴ問題に関しては、本クロニクル130で既述しているし、さらなるリスクとしての「所沢プロジェクト」にもふれてきている。
 これは詳細が定かでないけれど、かつての角川書店とCCC=TSUTAYAは深く関係し、後者が大手株主だった時期もあった。そのような関係から、角川はTSUTAYAが手がけている代官山プロジェクトのような不動産開発プロジェクト事業へと接近していったのではないだろうか。 
 しかし1980年代から90年にかけて、郊外型書店全盛時代に、ゼネコンやハウスメーカーの不動産プロジェクトに巻きこまれ、多くの悲劇が起きたことを知っている。大垣書店のサブリースデベロッパーに危惧を覚えるのも、それゆえだが、「ところざわサクラタウン」は400億円という巨大な投資に他ならず、「その行く末が案じられるばかりだ」と思わざるをえない。

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11.フレーベル館がJULA出版局の全株式を取得し傘下に収める。
 JULA出版局は1982年に日本児童文学専門学院の出版部として始まり、絵本「プータン」シリーズがロングセラーとして知られていた。

「プータン」シリーズ
「プータン」シリーズ

12.岩崎書店が海外絵本輸入卸の絵本の家の全株式を取得し、子会社化。
 絵本の家は1984年に設立され、英語の海外絵本の輸入・卸販売を主として、キャラクター関連グッズの制作なども手がけ、ショールームも兼ねた直営店では小売りも行なっていた。
 岩崎書店は絵本の家の子会社化によって英語教材の強化を図る。

13.辰巳出版グループの総合図書、富士美出版、スコラマガジンの3社が、スコラマガジンを存続会社として合併し、経営の効率化をめざす。

14.主婦の友社は、子会社の主婦の友インフォスの株式をIMAGICAグループに譲渡。
 主婦の友インフォスは、主婦の友社発行の雑誌、書籍などの編集製作会社で、「ヒーロー文庫」「プライムノベル」などのライトノベル、月刊誌『声優グランプリ』を手がけている。
 IMAGICAグループはロボットなどの61社の連結子会社を有し、劇場映画、テレビドラマ、アニメ作品などの幅広い分野の映像コンテンツの企画、製作を行なっている。
 今後、主婦の友社、主婦の友インフォス、IMAGICAグループは新たな企画開発、戦略的メディアミックスの取り組みを推進していく。

15.世界文化社が100%子会社としてプレミアム旅行社を設立し、旅行事業へと進出。

16.JTBパブリッシングは中央区築地に新店舗「ONAKA PECO PECO byるるぶキッチン」をオープン。
 新店舗は地方創生共同事業として、「るるぶキッチン」を運営するJTPパブリッシング、デジタルマーケティング支援のmode,コラボレーション店舗の企画、運営ノウハウを持つツインプラネット3社のタイアップ。
 「るるぶキッチン」は東京の赤坂見付、京都、広島に続く4店目のオープン。

 11から16は、たまたま3月から4月に集中してしまったけれど、ポスト出版時代に向けての各出版社をめぐるM&A、合併、他業種進出の動向を伝えていることになろう。
 トーハンもサービス付高齢者向け住宅事業の第2弾「プライムライフ西新井」を開業しているし、出版社、取次、書店の他業種進出はこれからも続いて行くだろう。もちろん成功するかどうかはわからないにしても。



17.『朝日新聞』(4/16)の一面に『漫画アクション』(No.9)本日発売広告が掲載され、矢作俊彦×大友克洋による新作「気分はもう戦争3(だったかもしれない)」の告知があったので、それを購入してきた。

漫画アクション ( 『漫画アクション』) 気分はもう戦争

 『漫画アクション』を買ったのは何十年ぶりで、確か『気分はもう戦争』が連載されていたのは1980年代初頭で、リアルタイムで読んでいたことからすれば、広告にあるように「38年ぶり」の再会ということになる。17ページの「完全新作」は国際状況の変化とテクノロジーの進化を伝え、読者の私だけでなく、矢作や大友の高齢化をも想起してしまう。私たちだって38年前は若かったのである。
 「気分はもう戦争3(だったかもしれない)」の後に、本連載122で取り上げた吉本浩二『ルーザーズ』が続き、1960年代後半から70年代にかけて連載されたモンキー・パンチ『ルパン三世』、小池一夫、小島剛夕『子連れ狼』を始めとする作品が紹介されていく。当時は『漫画アクション』の読者だったことを思い出す。
 それから数日して、モンキー・パンチと小池一夫の訃報が伝えられてきた。彼らの死はやはりひとつの時代が終わってしまったことを痛感させられた。

 たまたま私は坂本眞一『イノサン』(集英社)をフランス版『子連れ狼』として読んでいるのだが、その第3巻にダンテの『神曲』を想起させる見開きのシーンがあり、そこに「この得体の知れない不安感は何だ……?/まるで僕一人だけが真っ暗な穴に迷いこんでいくような……」という言葉が表記されていた。これこそは20世紀後半の『漫画アクション』ならぬ21世紀コミックの声なのであろう。
ルーザーズ f:id:OdaMitsuo:20190427152907j:plain:h112 >『子連れ狼』 イノサン 

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18.今月も出版人の死が伝えられてきた。
 それは太田出版の前社長の高瀬幸途である。

 前回、宮田昇の死を記したが、高瀬も宮田と同じく、日本ユニ・エージェンシーに在籍していた。その関係もあって、『出版状況クロニクルⅤ』で取り上げておいた、宮田の『出版の境界に生きる』を始めとする太田出版の「出版人・知的所有権叢書」の成立を見たと思われる。その後の続刊を確認していないけれど、宮田に続いて高瀬も亡くなってしまうと、刊行も難しくなるかもしれない。
 いずれ太田出版と高瀬のことは近傍にいた編集者が書いてくれるだろう。
出版の境界に生きる



19.今月の論創社HP「本を読む」㊴は「新人物往来社『近代民衆の記録』と内川千裕」です。
 『日本古書通信』に17年間連載した拙著『古本屋散策』は200編1000枚を収録して、連休明けに刊行予定。

古本屋散策