出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話230 田中英夫『山口孤剣小伝』と京華堂・文武堂『東都新繁昌記』

前回ふれた『山川均自伝』の中に、「赤旗事件が起きるまで」という一章があった。そこで『平民新聞』の筆禍により、服役していた山口孤剣の神田での出獄歓迎会をきっかけにして起きた、所謂「赤旗事件」のことがレポートされている。この明治四十一年の事件…

古本夜話229 白揚社、三徳社「民衆科学叢書」、有楽社「平民科学」

ここで再び左翼系出版社に戻る。梅田俊英の『社会運動と出版文化』において、「白揚社は商業的左翼物出版社のひとつの典型」で、当時の左翼からもあまり信頼を得られていなかったと指摘されている。しかしこれは出版ジャーナリストの甘露寺八郎の見解を踏襲…

ブルーコミックス論49 かわかみじゅんこ『軽薄と水色』(宙出版、二〇〇七年)

今回の『軽薄と水色』の「水色」は、前回のような夏休みを具体的に表象する色彩ではなく、若さ、それは「軽薄」の代名詞でもあるが、に伴う様々な感情のメタファーと見なせるだろう。それを示すかのようにfrivolité et blue clair というフランス語訳タイト…

古本夜話228 『婦人之友』と『羽仁もと子著作集』

続けて内外出版協会にふれ、その光というよりも影の部分にずっと焦点を当ててきたので、最後となる今回は、同協会から巣立った雑誌と出版社に言及してみる。内外出版協会の創業者山縣悌三郎の自伝『児孫の為めに余の生涯を語る』(弘隆社)において、明治三…

古本夜話227 三陽堂、東光社、三星社と菊池山哉

本連載218で、三陽堂、東光社、三星社については稿をあらためたいと書いた。この三社の本を何冊か集めてからにしようと思っていたからだ。しかし別のところで例を挙げ、書いていると本も出てくると記しておいたのだが、それがこの三社にも当てはまり、初…

ブルーコミックス論48 大石まさる『みずいろパーフェクト』(少年画報社、二〇〇八年)

前回と物語はまったく異なるにしても、夏であるから、それにふさわしい一編を続けてみよう。大石まさるのその『みずいろパーフェクト』を手にする以前に、同じ少年画報社から出された「水惑星年代記」シリーズを読んでいた。この五部作に、大石の水に関する…

古本夜話226 六盟館と新渡戸稲造 『ファウスト物語』

本連載220の佐々木邦訳『全訳ドン・キホーテ』のところで、島村抱月、片上伸共訳『ドン・キホーテ』は「村山何とかいう人」の名訳との、宇野浩二の『文学の三十年』などにおける証言を引いておいた。そこで宇野はこの名訳が森鷗外訳『ファウスト』、上田…

古本夜話225 前川又三郎、前川文栄閣、小島烏水『日本アルプス』

山縣悌三郎の内外出版協会のところで、『文庫』やその編集者の小島烏水にもふれたこともあり、烏水の山岳紀行文学の重要な著作を刊行した前川文栄閣のことも書いておこう。それは『日本アルプス』であり、岩波文庫に同様のタイトルで、アンソロジーが収録さ…

ブルーコミックス論47 グレゴリ青山『マダムGの館 月光浴篇』(小学館、二〇一〇年)

われ月明の砂丘にまろびて蜃気楼(かいやぐら)を観たり、楼上に一女仙ありてわれにくさぐさの恠(あや)しき物語などなしけり。横溝正史「かいやぐら物語」猛暑が続いているので、暑気払いのような一編を記してみたい。 一九九〇年に出版された石川賢治の写真集…

古本夜話224 独歩社と『獄中之告白』

前回の『独歩名作選集』と大正三年の内外出版協会の倒産のことで思い出されたのは、それより八年前の明治四十年に破産した独歩社のことである。国木田独歩はその翌年に亡くなっているのだが、特価本と見なしていい『独歩名作選集』の出版は、この破産が尾を…

古本夜話223 大町桂月編著『文章宝鑑』と『書翰文大観』

前回その後の内外出版協会の出版物をリストアップし、その1に大町桂月編著『作例軌範文章宝鑑』(以下『文章宝鑑』と表記)を挙げておいた。『独歩名作選集』の巻末二ページ広告は「大町桂月先生は遂に逝かれた!!」とあり、次のような文章が続いていた。 …

ブルーコミックス論46 豊田徹也『アンダーカレント』(講談社二〇〇五年)

『アンダーカレント』と題された作品がある。鮮やかな紫みの青とされる花色のA5判のカバーに、一人の女性が川に沈んだオフェーリアのように横たわっている姿が描かれ、上の白い部分にこれもまた花色抜きで、そのタイトルが記されている。作者は豊田徹也で、…

古本夜話222 『独歩名作選集』とその後の内外出版協会

『児孫の為めに余の生涯を語る』 前回予告したように、内外出版協会の終焉とその後について、レポートしてみる。山縣悌三郎は『児孫の為めに余の生涯を語る』の中で、大正三年における内外出版協会の終焉事情が営業不振のために、巨額の融通手形を発行するに…

出版状況クロニクル51(2012年7月1日〜7月31日)

出版状況クロニクル51(2012年7月1日〜7月31日)私は日常の習慣として、午前11時頃スーパーなどに買物に出かけている。たまたまその日は用事ができて行けなかったのだが、まさに同日同時刻に高齢者の運転する車が駐車場から猛スピードで同じスーパーに突っ込…