出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル128(2018年12月1日~12月31日)

 18年11月の書籍雑誌推定販売金額は1004億円で、前年比6.1%減。
 書籍は507億円で、同1.5%減。雑誌は496億円で、同10.4%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が411億円で、同9.9%減、週刊誌は85億円で、同12.6%減。
 返品率は書籍が40.3%、雑誌が42.3%。しかも月刊誌は41.9%、週刊誌は43.9%で、いうなれば、トリプルで40%を超える返品率となってしまった。
 雑誌のほうは取次が送品抑制をしているし、書籍にしても同様だと推測されるので、この年末に及んでの高返品率は、さらに加速して出版物が売れなくなっていること、また書店の閉店が続いていることを告げていよう。
 このような出版状況の中で、2019年を迎えることになる。
 


1.出版科学研究所による18年1月から11月までの出版物推定販売金額を示す。

■2018年1月~11月 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2018年
1〜11月計
1,175,763▲6.4640,410▲2.9535,353▲10.2
1月92,974▲3.551,7511.941,223▲9.5
2月125,162▲10.577,362▲6.647,800▲16.3
3月162,585▲8.0101,713▲3.260,872▲15.0
4月101,854▲9.253,828▲2.348,026▲15.8
5月84,623▲8.743,305▲8.841,318▲8.5
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
7月91,980▲3.443,900▲6.048,079▲0.8
8月92,617▲9.248,0243.344,593▲12.8
9月121,482▲5.468,186▲5.353,295▲5.6
10月99,129▲0.348,5802.550,550▲2.8
11月100,406▲6.150,729▲1.549,677▲10.4

 18年11月までの書籍雑誌推定販売金額は1兆1757億円、前年比6.4%減である。17年12月の販売金額は1143億円だったので、同様に6.4%減と見なせば、73億円マイナスの1070億円となる。本クロニクル126で予測しておいたように、ついに18年は1兆2830億円前後にまで落ちこんでしまうだろう。
 これはピーク時の1996年の2兆6980億円の半減をさらに下回り、それに加えて19年もまたマイナスと高返品率が続いていくことを予測させるものである。
 10月の消費税増税も待ちかまえているし、19年こそはかつてない出版業界の地獄を見ることになるだろう。
 ダンテの『神曲』は「地獄篇」が終われば、「煉獄篇」「天国篇」へと進んでいくのだが、出版業界の場合、いつまで経っても「地獄篇」が終わらないという状況へと追いやられている。しかも導き手のウェルギリウスや救い手のベアトリーチェの姿はどこにもない。
 それは大手出版社、取次、書店のすべてにまで及んでいて、かつてない深刻な危機状況にあると考えざるをえない。
 かくして年が明けていく。
「地獄篇」(『神曲』地獄篇)



2.文教堂GHDは嶋崎富士雄社長と山口竜男常務が退任し、佐藤協治常務が新社長に選任。

 前回の本クロニクルで文教堂が債務超過に陥っていることを既述しておいたが、結局のところ、創業家も含む経営陣の辞任という次の段階へと進んだことになろう。それは2007年の552億円の売上高が、18年には274億円と半減していることにも起因している。
 その一方で、これも前回の本クロニクルで挙げておいたように、11月21日に239円だった文教堂HDの株価は12月28日には152円となり、株式市場が経営陣の交代に対して、むしろ失望を示すかの安値で、まだ下げ止まっていない感がする。
 それに加え、知らなかったのはブックオフコーポレーションの元社長、現在は日販グループ会社ダルトンの佐藤弘志社長が、文教堂GHDの副社長であったことだ。彼はそのまま再選されたという。これも前回「文喫」をめぐって記しておいたように、日販とブックオフの関係も複雑に絡み合い、清算されていないことを伝えているのだろう。



3.『日経新聞』(12/18)が「苦境のTポイント」と題し、その内実をレポートしている。それを要約してみる。

* 全国に1万7000店を有するコンビニのファミリーマートとTポイントの10年超の独占契約が終わり、ファミマは楽天やドコモ利用客にも買い物でたまるポイントを付与する。
* 2003年に始まったTポイントの躍進と成長を支えていたのはファミマとの提携だったが、蜜月の終わりが突然やってきた。
* 親会社の伊藤忠商事の不満は、自社系列のコンビニの購買データをCCCにもっていかれることと、手数料が高いことだった。また離脱の最大の理由として、Tポイントのネットでの強みの先細り懸念、スマホ決済の急速な普及が挙げられる。
* 楽天の「楽天ペイ」、ドコモの「d払い」により、楽天やドコモはポイントカードの競争力を左右するデータ解析力を高め、消費者の購買行動を正確に予測できるが、Tポイントにはこのピースが欠けていた。
* Tポイントカードはレンタルビデオ店「TSUTAYA」の会員証から進化してきたが、このように楽天やNTTドコモの猛追にさらされ、旗艦店「恵比寿ガーデンプレイス店」を始めとして、「TSUTAYA」も相次いで閉店している。
* レンタルはアマゾンやネットフリックスの動画配信に押され、CCCはTSUTAYAとTポイントという両輪を失いつつある。
* CCCは次世代型書店「代官山蔦屋書店」をモデルとし、FCを含めて16店を全国出店し、「コト(体験)消費」に活路を見出そうとしている。それにはリゾート地における「コト消費」関連の大規模施設も計画されているという。


 これはCCCの危機であると同時に、日販やMPDをも直撃していくことになろう。
 だがそのような危機の中にあっても、相変わらずバブル出店が続いている。
 11月には株式会社北海道TSUTAYAとパッシブホーム株式会社の合弁会社のアイビーデザイン株式会社が、北海道江別市に「江別蔦屋書店」を開店している。そのコンセプトは「田園都市のスローライフ」で、「食・知・暮らし」の3棟からなる大型複合書店とされている。店舗面積は1350坪、北海道TSUTAYAとスターバックスが600坪を占める。
 こうした開発にまつわる様々な資金調達、入り組んだ不動産賃貸借システム、それらに様々なリース、FCが絡み合い、日販もMPDもそのコアを占めざるをえないと思われる

 このような蔦屋出店状況は、『出版状況クロニクルⅤ』における栃木県のTSUTAYAのFCビッグワングループのTSUTAYA佐野店、及び本クロニクル118などで確認してほしい。
 しかしこのようなFCによる大規模開発プロジェクトが、かつてのFC展開のように長きにわたって反復されていくはずもない。その金融と流通を支えた日販の体力ももはや失われているからだ。それにTSUTAYAとTポイントという両輪を失いつつありながら、依然として進められているわけだから、その果てには何が待ち受けているのだろうか。
出版状況クロニクルⅤ
odamitsuo.hatenablog.com



4.トップカルチャーの連結決算は売上高322億円、前年比3.2%増だったが、当期純損失は13億8400万円で、2期連続の赤字決算。
 期中は蔦屋書店のアクロスプラザ富沢西店、蔦屋書店竜ケ崎店の2店を出店し、TSUTAYAから東日本地区の7店舗を譲り受け、期末店舗数は81店。
 それらの店舗増により、「蔦屋書店事業」は314億円、同3.6%増となったが、既存店売上、その他の事業の中古買取販売、スポーツ関連事業などがマイナスで、営業損失11億3200万円、経常損失11億9900万円。

 CCC=TSUTAYAの最大のFCであり、東証一部上場のトップカルチャーがトリプル赤字となり、文教堂と同じく株価へと反映されている。これも11月21日は382円だったが、12月21日は280円で、まだ下げ止まっていない。
 トップカルチャーに象徴されているように、CCC=TSUTAYAのFCの行方はどうなるのか。それは日販とMPDの行方を問うことでもある。



5.広島の広文館の事業を継承するために新会社「廣文館」が新設され、トーハン、大垣書店、広島銀行の3社が出資し、社長にはトーハンの石川二三久経営戦略部長が就任。
 広文館は1915年に創業しているので、100年以上の歴史を有する老舗書店であり、18店舗を運営し、その株式は経営者の丸岡家が100%保有していた。
 トーハン、大垣書店は第三者割当増資を引き受け、トーハンは3300株を引き受けることで、議決権比率は100%だとされる。ただ廣文館の資本金、広島銀行を含めた3社の出資額、その比率などは非公表。
 廣文館は18店舗と外商事業を引き継ぎ、社員38人やパート・アルバイト126人は1人ずつ面接し、再雇用するかを決めていくという。

 前回の本クロニクルで、山口県の老舗書店鳳鳴館の破産を伝え、15店舗を経営し、その負債が6億5000万円であることを記しておいた。
 おそらく広文館の場合、それどころの負債ではないことが、広島銀行の廣文館への出資からもうかがえる。ただそれは債権確保の一環と見なすべきで、再建の一助ではないことはいうまでもないだろう。
 経営陣の派遣と議決権から考えても、廣文館はトーハン主導による清算会社の色彩が強く、店舗と社員リストラ、その受け皿としての大垣書店、資産の売却とリースバック的不動産プロジェクトなどの様相を呈していくと思われる。
 これからさらに露出してくるのは、取次による書店経営は可能かという問題であろう。講談社や小学館による取次経営が成立しなかったことは、大阪屋栗田に見てきたばかりだが、取次による書店経営の破綻も続出していくことは確実だ。



6.福家書店管財(旧福家書店)が特別清算開始。
 同社は1999年に設立され、大手芸能プロダクションの代表が社長に就任し、福家書店として新宿、銀座、横浜、福島など、ピーク時には20店舗を展開していた。
 その特色はアイドル写真集発売の際のサイン会や握手会を始めとする各種のイベント開催で、2009年には売上高46億円となっていた。
 しかし経営的には地方店舗などの赤字が積み重なり、不採算店舗の閉鎖により、11店舗まで減少し、2016年には売上高28億円、債務超過状態に追いやられていた。
 なお17年に現商号に変更するとともに、会社分割で(株)福家書店が設立され、事業は継承され、福家書店は存続している。

 銀座にあった福家書店はずっと芸能物に強い書店として知られていたが、経営的に行き詰まり、それを大手芸能プロダクションが引き受けたことで、当時はかなり話題になったものだった。 
 だが当然のことながら、芸能プロダクションに書店経営ができるはずもなく、今回の措置へと必然的に至りつくしかなかったのであろう。



7.一般財団法人「全国書店再生支援財団」が発足。
 同財団はさらに書店のない地域を増やさないように、その都度、審査した上で、既存書店や業界団体の支援などに一定の金額を支出し、援助していくことを目的としている。
 TRCの石井昭社長が南天堂の奥村弘志社長に提案し、1年間の調整期間を経て設立に至り、来年2月から本格的に始動予定で、奥村が代表理事となる。
 財団の目的は書店の支援の他に、読書推進運動、書店人の育成、業界の各種団体の支援などが挙げられている。

 しかしTRCからの毎年の拠出資金は非公表で、書店会館に事務所を置くこと、及び評議員や理事メンバーのことを考えると、またしてもパラサイトがぶら下がる出版業界の外郭団体の設立、それももはや時期を逸した印象を否めない。



8.紀伊國屋書店は海外法人17社などを含めた連結決算を初めて発表し、連結売上高は1222億円、単体売上に190億円が上乗せとなった。
 単体売上高は1031億円、前年比0.2%減、国内70店舗を運営する「店売総本部」売上は506億円、営業総本部は480億円。


9.有隣堂の決算は売上高517億円、前年比1.9%増。その内訳は書籍が176億円、同3.9%減、雑誌が40億円、同3.8%減だったが、雑貨、音楽教室、OA機器などが前年を上回り、増収となった。

 からにあるような現在の書店状況下における大手書店の決算をラフスケッチとして提出しておく。



10.日販の連結中間決算は2640億円、前年比6.6%減。
 「出版流通業」は2469億円、同7.0%減、その経常利益は5億円、同41.9%減。
 日販単体売上高は2119億円、同6.4%減で、145億円のマイナス、MPDも53億円減で、経常損失。
 「小売業」は265店舗で317億円だが、1100万円の経常損失。


11.トーハンの単体中間決算は1831億円、前年比9.2%減。経常利益はこの10年で初めて10億円を割るという9億7500万円、同38.7%減。
 連結売上高は1917億円、同8.3%減、中間純利益は8600万円で、グループ書店の閉店に伴う除却損を計上したために、単体よりも収益性が低下。

 これも8、9と同様にラフスケッチにとどめたが、大手取次の売上減少と実質的な赤字状況が急速に進んでいることがうかがわれる。
 それにで指摘しておいたように、これからは取次による書店経営が可能かという問題が浮かび上がり、店舗リストラに伴う損失はますます積み重なっていくだろう。まだバブル出店の後始末は端緒についたばかりであり、さらなる損失が待っている。
 それに加えて、取次の運賃協力金の要請に応じたのは、日販やトーハンとも150社から200社のようで、とても流通改善につながるとも思えない。
 またこれも前回の本クロニクルでも引いておいた、日販とトーハンがいうところの「プロダクトアウトからマーケットインをめざした根本的な流通改革」などのきざしは、取次や書店の現場からまったく感じられない。
 日販とトーハンの年間決算はどうなるのか。



12.日教販は売上高280億円、前年比2.6%増で、7年ぶりの増収決算となる。
 当期純利益は2億円、同0.7%減の微減。
 売上高内訳は、書籍が196億円、同100%、「教科書」が75億円、同9.6%増。

 日教販の「書籍」は学参、辞書、事典がメインで、「教科書」と合わせた総合返品率も12%であることが増収の要因といえよう。
 TRCもそうであるが、専門取次の場合、低返品率によって利益を確保できる。
 それに反し、総合取次における40%前後に及ぶ返品率と、取引書店の閉店がどのようなダメージをもたらしているか、そのことはあらためていうまでもないだろう。



13.『日本古書通信』(12月号)において、岡崎武志が「昨日も今日も古本さんぽ」98で、飯能の文録堂書店、池袋の夏目書房の閉店を伝え、後者の「閉店セール」をレポートしている。
 また同じく福田博が「和書蒐集夢現幻譚」83で、岩波書店の『国書総目録』全9巻の古書価が「何と!2千円」になったことを取り上げ、「哀愁の『国書総目録』」追悼文を書いている。

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 実は私も18年にわたって『日本古書通信』に「古本屋散策」を連載していて、それが200回を超えたので、一本にまとめるために、現在校正に取り組んでいるところなのである。
 その2004年に、40年も通っていた「浜松の泰光堂書店の閉店」のことを書き、「閉店祝」として、『国書総目録』を5割引の2万5千円で買ったことにふれておいた。それから15年後には「何と!2千円」となってしまったことになる。時は流れた。
 この事実に象徴される古書価の暴落を考えると、泰光堂はまだよき時代に閉店したと思うしかない。それに私が「浜松の泰光堂書店の閉店」を『日本古書通信』で書いたことにより、東海道沿線の老舗だったことも相乗し、客が殺到するように押し寄せ、在庫がほとんど売れてしまったという。店主もとても喜び、私も書いてよかったと思った次第だ。だがそれも15年前のことで、古本屋状況もドラスチックに悪化していったことを、『国書総目録』の古書価は伝えている。



14.これも通販専門古書目録『股旅堂』20が届いた。

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 この古書目録の特色は未知のアンダーグラウンド文献を紹介していて、とても教えられる。確か店主は八重洲ブックセンター出身だと記憶しているが、古書業界においても、惜しくも亡くなってしまったリブロ出身の上の文庫の中川道弘のことを彷彿とさせる。
 今回の目玉は大島渚の映画L' Empire des sens のモデル事件の現場写真で、高価格であることはいうまでもないが、売れたであろうか。



15.創元社からディヴィッド・トリッグの『書物のある風景』(赤尾秀子訳)が出された。

書物のある風景

 これはサブタイトルに「美術で辿る本と人との物語」が付されているように世界各地の美術館コレクションの古今東西の作品から、まさに「書物のある風景」を描いたものを300点ほど選び、編まれた一冊である。
 ほとんどが初見で、「書物のある風景」がこのように多く描かれていたのかとあらためて教えられた。もはや現在では電車の中で本を読んでいる姿はほとんど見られず、そのような300点ならぬ300人を見るには、何本もの電車が必要とされるであろう。
 それを「書物のある風景」は一冊だけで実現させている。もっとも印象的なのは、右にジャン=アントワーヌ・ロランの「グーテンベルグ、活版印刷所の発明者」が置かれ、左にはマルクーハンの「グーテンベルクによって、人はみな読者になれた」との一節が掲げられた70、71ページの見開きである。
 年始の読書にふさわしい一冊としてお勧めしよう。



16.中柳豪文『日本昭和トンデモ児童書大全』(「日本懐かし大全」シリーズ、辰巳出版)を読んだ。

日本昭和トンデモ児童書大全

 「著者のことば」として、「昭和時代、ぼくたちが子どもだった頃には、今では信じられないような内容の児童書がたくさん溢れていた」とある。
 確かに岩波書店や福音館の児童書が良書とされる一方で、大手出版社、実用書出版社の児童書は俗悪だとされ、出版業界においても、売れてはいても評価はとても低いものだった。
 しかしあらためてこの一冊を読むと、縁日のお化け屋敷にも似て、いかがわしい「トンデモ児童書」の世界にまさに「懐かしさ」を覚えてしまう。これも著者がいうように、「子ども相手に、作り手である大人たちが真っ向から勝負を挑んだ『本気の出来』であったからだろう」。
 現在ではそれどころか、子どもだましの本ばかりが売られているように思える。



17.沖縄の比嘉加津夫が編集発行する『脈』(99号)が友人から送られてきた。

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 『脈』は本クロニクル124などでも取り上げてきたが、99号は『沖縄大百科事典』を編集した「上間常道さん追悼」、及び吉本隆明の少年時代の師であった「今氏乙治作品アンソロジー」のふたつの特集となっている。
 いずれも貴重な特集といえるし、『脈』は売り切れると入手は難しくなると思うので、ぜひ早めに購入してほしい。書店注文は地方・小出版流通センター扱いであることも記しておく。
odamitsuo.hatenablog.com



18.論創社HP「本を読む」㉟は「『幻想と怪奇』創刊号と紀田順一郎『幻想と怪奇の時代』」です。


出版状況クロニクル127(2018年11月1日~11月30日)

 18年10月の書籍雑誌推定販売金額は991億円で、前年比0.3%減。1%未満のマイナスは16年12月以来である。
 書籍は485億円で、同2.5%増。雑誌は505億円で、同2.8%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が404億円で、同0.3%減、週刊誌は100億円で、同11.5%減。
 返品率は書籍が41.1%、雑誌が39.3%。
 ただ書籍のプラスは送品が多かったこと、月刊誌の1%未満マイナスも、大手出版社のコミックスの値上げと返品率の改善によるものとされる。
 それらもあって、10月の前年マイナスは2億円で、一息ついたといえるが、返品率はやはり高止まりしている。
 残りの11月、12月の売上状況はどうなのか。18年最後の月が始まろうとしている。
 『旧約聖書』でいうところの「逃れの町」ならぬ、「逃れの月」となるであろうか。
 


1.日販の『出版物販売の実態2018』が出され、『出版ニュース』(11/上)に「販売ルート別出版物販売額2017年度」と「同推移グラフ」が掲載されている。ここでは前者を示す。

 

■販売ルート別推定出版物販売額2017年度
販売ルート推定販売額
(百万円)
構成比
(%)
前年比
(%)
1. 書店1,024,99063.294.1
2. CVS157,6469.784.8
3. インターネット198,77012.3108.6
4. その他取次経由73,8134.593.5
5. 出版社直販167,08310.390.4
合計1,622,302100.094.2

 出版科学研究所による17年の出版物販売金額は1兆3701億円、前年比6.9%減だったのに対し、こちらは出版社直販も含んで1兆6223億円、同5.8%減となる。
 しかし今月の問題に絡んで注目すべきは、書店とコンビニの大手取次ルート販売額であろう。本クロニクルでたどってきているように、18年のマイナスも明らかだ。書店は1兆円を下回り、初めてシェアの10%を割り、前年比15.2%減のコンビニも1500億円台を維持できないだろう。これは言うまでもないけれど、コンビニは雑誌をメインとしているので、雑誌はさらにマイナスが続いていくことも確実だ。

 そしてさらに流通の現在を見てみると、書店が1万店、コンビニが5万店という配置になっている。それを出版物販売額に当てはめ、概算すれば、年商で書店は1億円、コンビニは300万円で、もはや後者が取次にとって赤字になることは歴然であろう。かつての小取次の書店採算ベースが月商100万円、つまり年商1200万円とされていたから、現在のコンビニはその4分の1の売上しかない。
 それでも2000年代までは出版物販売額が2兆円を超え、書店数も2万店を保っていたからこそ、コンビニの流通アンバランスは露出していなかった。だが雑誌の凋落に伴う出版物販売額のマイナスと書店数の半減、それと逆行するコンビニの増加は、まさにいびつな流通状況を浮かび上がらせ、それがこの「販売ルート別出版物販売額」にも表出しているのである。

 取次にしてみれば、コンビニの雑誌売上が伸びていた時代には、コンビニ本部からの一括支払いによるメリットが認められていたにしても、現在ではもはや赤字を重ねるだけの流通になっている。
 だが恐ろしいのは書店とコンビニの店数から見れば、週刊誌の売上はコンビニに依存している。だから大手取次にすれば、コンビニは赤字だが、大手出版社の週刊誌などはコンビニが生命線ともいえるのである。まさにいびつな構造というべきであろう。



2.『新文化』(10/25)が「出版輸送重量運賃制にメスを」との大見出しで、東京都トラック協会 出版・印刷・製本・取次専門部会の瀧沢賢司部会長(ライオン運輸社長)にインタビューしている。それを要約してみる。

* 同部会の企業数は23社で、1969年の設立時に比べると、本を手がけなくなった会社が増え、3分の1になっている。
* 「出版物関係輸送の経営実態に関するアンケート」を行った結果はほとんどの会社において、「経営が成り立っていない」というものだった。その原因は荷物の重さに応じて荷主が支払う重量制運賃で、出版業界が右肩上がりだったときは非常に有難かったが、売上減少の現在では採算ベースに追いつかない。
* さらに原油価格、人件費、車両価格の高騰、ドライバーの高齢化、人出不足による長時間労働が重なり、今後も業量の減少とコストが上がり続けるようであれば、出版輸送から撤退する運送会社も出てくるだろうし、出版輸送は赤字だから関わらないほうがいいという声も上がっている。
* ライオン運輸も10月から一部運賃の値上げの実施を得たが、重量制運賃はそのままなので、今後の業量減少が止まらなければ、問題は再熱するし、今回の値上げで問題解決にはならない。
* 深夜配送の主な業務は書店とコンビニへの書籍、雑誌の配送だが、雑誌売上低迷による経営ダメージが増大している。
* とりわけコンビニ配送の落ち込みは深刻で、日販から書店、コンビニへの店舗配送を受託しているが、事前の集荷、仕分け、コース別積込などの手順があり、多くの手間がかかり、専業にならざるを得ない。9月は百万円単位のマイナスが生じ、様々な現況を考えると、いつまでこの業務が続けられるかとも思う。
* 昨年からの土曜日休配にしても、ドライバーの夏の体力の消耗は防げたが、稼働日数が減り、売上に影響したことは否めない。人手不足もあって、ドライバーの労働時間の短縮は重要だが、賃金が低いので、求人を出しても若い人からの応募はない。
* コンビニの店舗が増え続けているのに、業量は減少し、収入減、経費増という収支バランスが悪化する一方で、適正な運賃の収受とコンビニ配送などの改善が必要だ。
* 出版社や書店に対して、本の価格には原稿料、印刷、製本だけでなく、運送料も含まれることを自覚してほしいし、ネット上の送料無料にしても、それは業者が負担している。もはや出版輸送事業者の現状からすると、負担の限界を超えており、明日にでも出版輸送が止まってしまってもおかしくない状況にある。出版業界に関わっている人たちにはこの現実を直視してほしい。
* ただこれまでの荷主との交渉は手詰まり感があり、トラック輸送のあるべき姿を検討、対策を進めている国土交通省にも改善に向けての協力を求めていきたい。


 と密接に関連する出版輸送の現場の声なので、詳細に挙げてみた。
 瀧沢部会長へのインタビューは『出版状況クロニクルⅤ』の17年1月のところでも紹介しておいたが、「一部運賃の値上げ」を除いて、その現況はまったく変わっていないし、さらに悪化しているとわかる。
 結局のところ、大手出版社と大手取次による低定価の雑誌をベースとする大量生産、大量流通、大量販売システムは、これまた低コストの「重量運賃制」に支えられていたことにつきるし、もはやそれも限界に達している。
 それは出版輸送における「重量運賃制」そのものが再版委託制と同様に、「出版業界が右肩上がり」であれば有効だが、現在のような状況では「経営が成り立っていない」。それゆえにこれは出版輸送の問題だけでなく、出版社、取次、書店の全分野に及んでいると見なすことができよう。
出版状況クロニクル5



3.11月19日付で、日販、トーハンより「物流協業に関する検討開始のお知らせ」が届いた。これは両社のHPに掲載されている。
 両社は4月19日から、公取委に物流協業に関する事前相談を行い、10月12日にその回答を得て、今回の基本合意書締結に至ったとされる。
 この「お知らせ」は社名が異なるだけなので、日販のほうを引き、その「背景及び目的」「検討内容」「検討体制」を挙げておこう。

1.背景及び目的
出版物の売上は1996年をピークに低減が続いております。
2017年度ではピーク時の52%程度の規模に縮小し昨今の輸送コストの上昇と相まって流通効率の悪化が顕著となり、全国津々浦々にわたる出版物流網をいかに維持するかが業界全体の喫緊の課題となっております。
今回の両社による取り組みは、かかる課題の解決を導き出すために行われるものであり、同時にプロダクトアウトからマーケットインを目指した抜本的な流通改革への新たな一歩となることを目指すものです。

2.検討内容
当社とトーハンの間で、制度面・システム面を含めて、厳密な情報遮断措置を講じることを前提として、両社の物流拠点の相互活用ないし統廃合を中心とした出版流通の合理化に向けた物流協業について検討致します。それぞれが保有する経営資源を有効活用することを基本として、システム面・業務面などからの実現可能性と経済的合理性を評価して、物流協業の具体的な方向性の検討を進めてまいります。

3.検討体制
当社・トーハン各社からメンバーを選定し、プロジェクトチームを設置した上で、具体的な検討を進めてまいります。

尚、検討を進めるにあたり、当社・トーハン各社において、独占禁止法遵守の観点から機微情報の厳密なコントロールを行います。具体的には、機微情報の目的外利用を防止するため、プロジェクトチームのメンバーを限定し、情報交換の範囲や運用管理を明文化する等の措置を講じます。また、必要に応じて公正取引委員会への報告・相談を行います。


 本クロニクル119で、平林彰社長の「日販非常事態宣言」、同124で近藤敏貴新社長の「トーハン課題と未来像」に言及しておいたが、それらに先行して公取委に物流協業を相談していたことになる。
 しかしこれが日販とトーハンの「協業」によって進められたとは考えられない。なぜならば、近代取次史は各取次がどのようにして独自の物流を確立するかという歩みを伝えていて、「物流協業」は自らのアイデンティティを放棄するものであるからだ。
 それに「検討内容」で謳われている「両社の物流拠点の相互活用ないし統廃合を中心とした出版流通の合理化に向けた物流協業」が、新たな投資と多大なリストラを伴い、困難で、少なからぬ年月を要することは、取次の人々にとっても自明のことだろう。そして「検討」を進める一方で、出版状況はさらなる危機へと追いやられていくことも。
 これらを総合して考えると、この「物流協業」は両取次の内部から出されたものではなく、経産省などが絵を描いたものではないだろうか。それがトーハン、日販の両社長の言葉の端々にうかがわれるし、における瀧沢部会長の国土交通省に向けての協力を求めていくとの発言にもリンクしていよう。
 近代取次史をたどってみれば、拙稿「日本出版配給株式会社と書店」(『書店の近代』所収、平凡社新書)で既述しておいたように、大東亜戦争下の1941年に官僚と軍部によって、国策取次の日配が誕生している。日配は雑誌と書籍の「出版一元配給体制」をめざしたのである。そこで何が起きたかはふれないけれど、興味ある読者は拙稿や清水文吉『本は流れる』(日本エディタースクール出版部)などを参照してほしいし、今回の日販とトーハンの「物流協業」も日配の例を想起させずにはおかない。


書店の近代    

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4.文教堂GHDの連結決算は売上高273億8800万円、前年比8.5%減で、営業損失5億8990万円、親会社株主に帰属する当期純損失は5億9100万円の赤字決算となった。
 財務面でも、資産は210億1300万円、負債は212億4600万円で、2億3300万円の債務超過。
 保有不動産の売却、賃貸、増資などによる経営改善計画が検討中とされる。

 今期は文具などの導入による13店舗のリニューアル、不採算店20店舗の閉店ラッシュを受け、そのコストが増え、赤字決算、債務超過の事態を招いたことになる。
 1980年代に神奈川県を舞台として始まった東販と文教堂によるバブル出店では、いわば日販と有隣堂に対する代理戦争のような色彩を帯びていた。
 会社の上場を果たした後も、バブル出店に起因する多大な有利子負債は抱えたままだった。それもあって、『出版状況クロニクルⅤ』で既述しておいたように、DNPグループ傘下となっていた。だが16年に同グループから日販に文教堂の株式が譲渡され、日販が筆頭株主となり、奇妙な代理戦争の結末を迎えていた。
 この赤字決算を受けてか、文教堂HDの株価は下がり、11月21日は239円である。日販の取得株価は1株当たり422円で、17億円だったと伝えられているので、その損失は大きい。 
 文教堂は金融機関からの借入金返済、及び日販からの仕入れ債務支払いの猶予を協議しているようだが、どうなるだろうか。



5.ワンダーコーポレーションの15店舗が、日販から大阪屋栗田に帳合変更。

 本クロニクル118や125において、ワンダーコーポレーションが売上高741億円で、TSUTAYA事業が151億円を占めているが、2年連続赤字であること、及びライザップグループに買収されたことを取り上げておいた。またライザップグループの「損失先送り経営」の危険性についても。
 折しも、そのライザップグループが赤字に転落と発表し、ワンダーコーポレーションなどの傘下企業の株価に売りが殺到し、M&Aによる事業拡大にもストップがかかった。
 不採算事業からの撤退も始まるとされるし、ワンダーコーポレーションもその対象となろう。そのことと日販から大阪屋栗田への帳合変更は関係しているのだろうか。
 また同じく傘下の日本文芸社の行方も気にかかる。


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6.4と5の問題もあり、上場企業の書店と関連小売業の株価を示しておく。
 左は5月の高値、右は11月21日の終値である。

■上場企業の書店と関連小売業の株価
企業5月高値11月21日終値
丸善CHI363348
トップカルチャー498382
ゲオHD1,8461,840
ブックオフHD839808
ヴィレッジV1,0231,078
三洋堂HD1,008974
ワンダーCO1,793660
文教堂HD414239
まんだらけ636630

 この株価推移表は今年の初めに作成するつもりでいたが、出版業界のあわただしい動きの中で遅れてしまい、年末にずれこんでしまった。
 確かにのワンダーコーポレーションは半年で3分の1になってしまい、の文教堂にしても下げ止まりは見られず、株価はそれらの現況を反映していると見るべきだろう。
 他の株価にしても、これからどのような推移をたどっていくのか、本クロニクルも追跡するつもりでいる。



7.未来屋書店の44店舗が日販からトーハンへ帳合変更。

 この未来屋の帳合変更はかなり前から伝えられていたが、ここになってようやく実現したことになろうか。
 本クロニクル123で示しておいたように、イオングループの未来屋は書店ランキング5位で、売上高560億円、306店舗を有している。 
 そのうちの44店だけの変更であるのか、それとも全店に及んでいくのかは注視する必要があろう。
 だがこの帳合変更はトーハンが日販よりも有利な取引条件を出したという事実を告げているし、それはトーハンのほうがまだ日販より体力のあることを象徴しているのだろうか。
 一方で、「物流協業」が提起されながら、そのかたわらではこのようなトーハンと日販の帳合戦争は続いているのだ。
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8.日販は青山ブックセンター六本木店跡地に、12月11日、リブロプラスによる直営店「文喫 六本木」を新規出店。
 146坪の店内にアート、デザイン、人文書、自然観察所など3万冊の書籍と90種の雑誌を陳列、販売し、来店者は入場料として1500円の入場料を支払う。
 1人で読むための閲覧室、複数人で利用できる研究室、飲食ができる喫茶室も備え、椅子やソファなどは90席、基本在庫はリブロプラスが買切で仕入れる。
 営業時間は午前9時から午後11時で、日商目標は1000万円。

 「マンガ喫茶」の模倣でしかない「本喫茶」は既存の書店を馬鹿にしたプロジェクトで、このような企画が取次から出され、現実化されることは退廃の極みだといっていい。
 月商1000万円ということは、入場料だけなら7000人近くが必要で、それだけの集客が可能だと本気で信じているとは思われない。

 だから別の視点から考えてみる。本クロニクル121で、ブックオフ傘下のABCの閉店を伝えたが、「文喫 六本木」まで次のテナントが入っていなかったことになる。また同125でリブロプラスが日販関連会社NICリテールズの100%子会社となったことにふれている。またこれは『出版状況クロニクルⅤ』の17年3月のところで取り上げておいたが、日販グループ会社のプラスメディアコーポレーションなどの3社が合併し、プラスとなっている。プラスメディアコーポレーションはブックオフの子会社としてTSUTAYA33店を運営していたけれど、14年に日販が子会社化している。

 これらの事実からの推測だが、ABCの運営にも日販子会社が絡み、テナント賃貸借契約に連帯保証し、ABC閉店の際にはまだ契約完了とならず、かなりのペナルティの生じる年月が残されていたのではないだろうか。
 それもあって、日販は代わりのテナントを見つけることができず、「文喫 六本木」を出店させたとも考えられる。
 これからも同様のケースが出てくるにちがいない。



9.山口県の老舗書店鳳鳴館が破産。
 徳山毛利家の書籍庫をルーツとし、1943年に設立され、90年代には県内や九州市内で15店舗を経営していたが、2000年代に入り、本店だけになっていた。負債は6億5000万円。

  本クロニクル119で、周南市の新徳山ビルのツタヤ図書館の開館によって、鳳鳴館が駅前銀座商店街の本店を閉店したことを記しておいた。だがやはり外商や教科書販売だけでは続けることができず、破産ということになったのであろう。これも取次は日販である。 
 6億5000万円という負債は出店と閉店が繰り返されていく中で、積み上げられていったと考えられるし、同様の書店もまだ多く残され、今後も閉店は続いていくはずだ。
 「朝日歌壇」(11/8)で見つけた一首を引いておく。
 いつのまにか駅の本屋の閉じられて バスを待つ間の手持ち無沙汰よ」(岸和田市) 高槻銀子



10.海悠出版が破産。
 同社は1992年創業で、月刊誌『磯・投げ情報』、ムック「磯釣り秘伝」「釣り場ガイド」「友釣り秘伝」シリーズなどを刊行していた。2008年には売上高2億5000万円を計上していたが、今年7月に事業を停止。負債は1億700万円。

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11.モーニングデスクが事業停止。
 同社は1987年創業で、92年に創刊した演劇・ミュージカルの月刊誌『シアターガイド』などを刊行していた。
 インターネットや競合誌の影響を受け、3期連続赤字だったとされる。

シアターガイド


12.月刊誌『GG』を発刊していたGGメディアが破産し、負債は1億3700万円。
 この倒産の内幕は『週刊文春』(11/29)の「ちょいワル雑誌名物編集者の“極悪”倒産」としてレポートされている。

GG 週刊文春

 図らずもから12まで書店と出版社の倒産が続いてしまったけれど、それらに象徴されるように、出版業界は多くの難民を生じさせているといっていい。しかしもはや受け入れ先は少なく、同じ出版業界内での再就職は本当に難しい状況となっている。
 これは親しい古本屋から聞いた話だが、ある古本屋がハローワークに2人の求人を出したところ、数百人が殺到し、それぞれ面接して採用する時間がとてもとれないので、求人そのものを取り止めてしまったという。
 このエピソードこそは出版業界難民、及び出版物関連仕事に従事したい多くの人々の存在を物語っている。



13.ジェシカ・ブルーダー『ノマド』(鈴木素子訳、春秋社)を読んだ。

 これは偶然ながら、今月読み終えたところで、サブタイトルには「漂流する高齢労働者たち」が付されている。
 2008年のリーマン危機に見舞われ、住宅を手離し、キャンピングカーやトレーラーハウスによる車上生活者となり、季節労働を求めて移動する高齢者たちを描いている。まさにアメリカの膨大な高齢者たちが文字どおり「ノマド」として暮しているのである。
 その第5章は「アマゾン・タウン」と題されている。そこでは63歳のリンダが季節労働者のためのアマゾンの労働プログラムである「キャンパーフォース」に雇用され、その倉庫労働の実態を伝えている。
 それはアマゾンの便利さがリンダのような「ノマド」によって支えられていること、またアマゾンが成長すればするほど、さらなるグローバルな「ノマド」を生み出していくことを意味していよう。
ノマド: 漂流する高齢労働者たち



14.『DAYS JAPAN』(12月号)が届き、読み終えると、巻末に「DAYS JAPAN休刊のお知らせ」があることを知った。
 そこには2004年3月創刊で、来年19年3月号(15周年記念号)をもって休刊するとあった。そして休刊の理由が挙げられている。
 「まず経営上の理由です。出版不況の中、定期購読者数が落ち込み、同時に書店での購読者数も減少しました。世界の出版業界を襲った紙離れ、書籍離れの傾向に飲みこまれた感じになりました。この経営上の問題は、どうにも解決法が見つかりませんでした。」

 その他にも発行人の広河隆一の病気による体力と気力の減退、後任の代表者が見つからないことなどから、会社も解散せざるを得ないことが語られている。
 かつて『DAYS JAPAN』が講談社から発刊されていたことを考えれば、「DAYS JAPANは二度死ぬ」という事態を迎えてしまったのである。
 それでもずっと定期購読していたことで、少しばかり併走できてよかったと思うしかない。
 小学館の『サピオ』も不定期刊ということは、遠からず休刊となるのだろう。
DAYS JAPAN サピオ



15.『創』(12月号)が特集「どうなる『週刊金曜日』」を組み、『創』編集部「創刊25周年を迎えた『週刊金曜日』が立たされた岐路」、及び佐高信「『金曜日』編集委員を辞任した理由」と北村肇「『金曜日』存続のために奇跡を信じたい」を掲載している。

創 週刊金曜日

 これらは読んでもらうしかないが、『週刊金曜日』が存続できたのは、『買ってはいけない』の大ベストセラー化による資本蓄積だと承知していたけれど、それでもそれが4億円に及ぶことまでは、北村文を読むまで知らないでいた。それに現状の定期購読数が1万3000部強、当期決算は4390万円の赤字だということも。
 私は雑誌出版の経験がないので、実感がわかないが、雑誌、とりわけ週刊誌は採算ベースを割ると急速に赤字が増えていくことだけはわかる。
 それは14『DAYS JAPAN』も同じだし、他のすべての雑誌にも忍び寄っている危機なのであろう。



16.続けて雑誌をめぐる休刊や危機にふれてきたが、日本ABC協会の2018年の上半期の「雑誌販売部数」が公表され、『文化通信』(11/29)になどに掲載されている。
 それによれば、報告誌販売部数は週刊誌34誌が前年同期比9.2%減、月刊誌115誌が10.0%減、合計で9.7%減となっている。
 前期比、前年同比でともにプラスだったのは15誌で、そのうちの6誌は『ハルメク』(ハルメク)などの女性誌である。
 デジタル版報告誌は93誌で、前期比3.9%減、読み放題UU誌は報告誌93誌で、前期比10.5%増となっている。
 なお『FACTA』(11月号)にも、ABC協会のデータに基づく10年で販売総額が半減した主要120誌調査が「雑誌メディア『ご臨終』」として報告されていることを付記しておく。

 ABC協会の報告誌には挙げられていないけれど、晋遊舎の女性誌『LDK』、モノ雑誌『MONOQLO(モノクロ)』『家電批評』などが売れているようだ。それで書店だけでなく、ブックオフなどで見かけるのだろう。
 これらはメーカーの広告を掲載せず、製品性能を調査する雑誌で、『暮しの手帖』を想起させる。その晋遊舎の西尾崇彦社長が、『日経MJ』(10/29)の「トップに聞く」に登場している。
 やはり『暮しの手帖』と比較されるのではないかと問われ、次のように応じている。

「我々も商品テストだけの本を出したこともありますが、驚くほど売れませんでした。日本ではエンタメにしないとダメですね。当社のキャッチコピーを『遊びある、ホンネ。』としたのはそれからです。テスト誌って反戦や反原発とか社会派になりがち。否定はしませんが、我々は楽しく商品を選んでもらう」



 確かに現在では「エンタメ」とイベントの時代といえるし、晋遊舎の雑誌は「楽しく商品を選んでもらう」ということで、それらを体現していることになろう。この視点から見れば、「社会派」の『DAYS JAPAN』『週刊金曜日』が休刊や危機に追いやられていく雑誌状況、いやそれだけでなく、出版業界と出版物全体の現在すらも浮かび上がってくる。それをこちらも「否定しませんが」、いつまで続くのか気になるところだ。
 西尾は晋遊舎に「商品ジャーナリズムの拠点になる可能性」を見ているので、その「壮大な夢」の実現を期待しよう。

LDK MONOQLO(モノクロ) 家電批評 暮しの手帖



17.高須次郎の『出版の崩壊とアマゾン』(論創社)がようやく刊行の運びとなった。
 それこそ、高須の緑風出版は「反戦や反原発とか社会派」の「拠点」でもあるが、「エンタメ」ではない出版業界の現在を知るために一読をお勧めする次第だ。
出版の崩壊とアマゾン


18.論創社HPの「本を読む」㉞は「美術出版社『美術選書』、宮川淳『鏡・空間・イマージュ』、広末保『もう一つの日本美』」です。

出版状況クロニクル126(2018年10月1日~10月31日)

 18年9月の書籍雑誌推定販売金額は1215億円で、前年比5.4%減。
 書籍は682億円で、同5.3%減。雑誌は533億円で、同5.6%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が446億円で、同4.5%減、週刊誌は86億円で、同10.4%減。
 返品率は書籍が32.3%、雑誌が39.8%で、月刊誌は39.4%、週刊誌は41.9%。
 月刊誌の返品率が40%を割ったのは今年で初めてだが、これはコミックスの返品の大きな減少に拠っている。しかし週刊誌は高止まりしたままだ。
 書店店頭売上は書籍3%減、定期誌4%減、ムック12%減、コミックス10%増である。
 コミックスは『ONE PIECE』90巻や『SLAM DUNK』15-20巻が牽引したこと、「ジャンプコミックス」などの値上げも大きいとされる。
 この数字からだけでは10月の台風24号の影響はうかがえないけれど、11月に持ちこされているのかもしれない。 
 前回の本クロニクルは台風24号の襲来の最中に更新されたが、今回は皮肉なことに、まさに「本の日」に更新となる。

ONE PIECE SLAM DUNK
 


1.出版科学研究所による18年の1月から9月にかけての出版物推定販売金額の推移を示す。

■2018年1月~9月 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2018年
1〜9月計
976,228▲7.0541,102▲3.5435,126▲11.0
1月92,974▲3.551,7511.941,223▲9.5
2月125,162▲10.577,362▲6.647,800▲16.3
3月162,585▲8.0101,713▲3.260,872▲15.0
4月101,854▲9.253,828▲2.348,026▲15.8
5月84,623▲8.743,305▲8.841,318▲8.5
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
7月91,980▲3.443,900▲6.048,079▲0.8
8月92,617▲9.248,0243.344,593▲12.8
9月121,482▲5.468,186▲5.353,295▲5.6

 18年もあますところ2ヵ月となったが、9月までの出版雑誌推定販売金額は9762億円で、同7.0%減、前年比マイナス728億円である。
 17年10、11、12月の前年比は7.9%、7.8%、10.9%減という落ちこみなので、18年のマイナスも9月までの7.0%減を想定してみる。すると18年は959億円のマイナスで、1兆2741億円となり、ついに1兆3000億円を割ってしまうことになる。
 これはピーク時の1996年の2兆6980億円の半減をさらに下回る販売金額で、19年は1兆2000億円すらも割っていくことも考えられる。 
 すでに取次の赤字はカミングアウトされているし、大手出版社の苦境はいうまでもなく、大手書店の店舗リストラも進められている。それは現在の出版流通販売市場の危機の臨界点を示している。
 このまま何もなく新しい年を迎えられるのかという状況の只中に、出版業界は置かれていると見なすしかない。



2.『日経MJ』(10/12)によれば、アメリカの大型書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルはアマゾンなどの影響で業績が低迷し、身売りを前提とする経営戦略のための特別委員会を組織。
 2011年には同業のボーダーズが経営破綻し、バーンズ・アンド・ノーブルが唯一の上場企業となっていた。だが同社の18年の売上高は36億ドルで、ピークの12年の71億ドルから半減し、店舗数も08年の726店から18年には630店に縮小し、18年5月~7月期の最終損益は1700万ドルの赤字となっていた。

 日本の大型書店がバーンズ・アンド・ノーブルなどを範としてきたことはいうまでもないだろう。そのビジネスモデルがアメリカ本国において、ついに破綻してしまったのである。そしてその売上高の半減は日本の出版業界と重なるものだ。
 折しもほぼ同時に、アメリカのデパートのシアーズとその子会社のディスカウント店Kマートの経営破綻が伝えられている。これはアメリカ小売業としては過去最大の負債で、100億ドル超と推測される。
 シアーズにしても、ウォルマートやホームデポとの競合に加え、ネット通販による消費者の変化に対応できなかったことが指摘されている。
 日本の消費社会はアメリカをモデルとしたものであり、小売業界においても、アメリカで起きたことは日本でも反復されていくことは確実で、日本の場合にはどのようなかたちで表出してくるのだろうか。



3.丸善ジュンク堂は丸善池袋店と津田沼店に、レゴ®スクールをオープン。
 レゴ®スクールは2006年に設立され、全国で30教室を展開し、同社認定インストラクターによる少人数制カリキュラムを特色としている。

 前回のクロニクルで、ジュンク堂旭川店の売場の半減を伝えておいたが、「地方・小出版流通センター通信」(No・506)によれば、「丸善ジュンク堂チェーンの規模縮小、及びレイアウト変更」は札幌店、三宮店、南船橋、津田沼店、松山店にも及び、「これに伴い返品が発生」することは必至である。ブックファースト大井町店の閉店も伝えられている。
 これに津田沼店の名前も挙がっているように、レゴ®スクールなどが誘致されているのだろう。単なる家賃の補足手段か、「事業領域の拡大」なのかは、今後の動向を見るしかないと思われる。



4.台湾の大手書店「誠品書店」グループで、台湾の雑貨と書籍を扱う「誠品生活」が、2019年に日本橋に開業する三井不動産の物販とオフィスの複合商業施設「コレド室町テラス」に雑貨店として出店。
 「誠品生活日本橋」は、三井不動産との合弁会社を設け、そこからライセンス供与を受けた有隣堂が運営する。

 本クロニクル120で、有隣堂の東京ミッドタウン日比谷にオープンした「HIBIYA CENTRAL NARKET」を既述しておいた。
 これらはもはや脱書店モデルの模索であり、「誠品生活」もその一環と見なすべきであろう。大手書店チェーンからして、雑誌や書籍から離れていこうとしている。
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5.トーハンが初めて手がける文具専門店「伊勢治」を新装オープン。
 伊勢治書店が経営を担い、その旧本店跡地に建設されたマンションの1階、56坪で、江戸時代からの老舗イメージを生かす店舗デザインにより、文具、画材などを揃える。

 『出版状況クロニクルⅣ』で、2015年の伊勢治書店の「囲い込み」をレポートしておいた。ここにその後の推移が意図せずして伝えられている。トーハンは伊勢治書店旧本店跡地にマンションを建設することで、不良債権を清算しようとし、その一方で伊勢治書店に文具専門店「伊勢治」を残したとも推測できる。
 つまりここに本クロニクル124で示しておいたトーハンの取次としての文具事業、及び不動産プロジェクトという「事業領域の拡大」を見ることもできよう。しかし書店清算とこれらの事業の三位一体の行方はどうなるのか。これもいずれ明らかになるだろう。
出版状況クロニクル4
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6.中小書店の協業会社NET21の会員書店である埼玉の熊谷市の藤村書店が事業を停止し、破産手続きを申請。
 藤村書店は1947年に創業し、教科書販売も手がけ、熊谷、秩父、立正大学キャンパス店を有していた。

 17年の矢尾百貨店内の秩父店閉店などにより、売上減少と事業継続が困難になり、取次にも支払不能となっていたようだ。
 その秩父店で3年間店長を務めていた那須ブックセンターの谷邦弘が、『新文化』(10/11)に「藤村書店の倒産に思う」という一文を寄稿している。それによれば、社長は週100時間以上働き、その両親、叔父、叔母と一家総出で、人件費も抑えていたという。
 これを読んで、本クロニクル118でふれた幸福書房の閉店を想起してしまった。一家で一生懸命働いても報われないどころか、破産に至ってしまう中小書店の現在を浮かび上がらせていよう。
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7.日販子会社の精文館書店の決算は売上高196億円、前年比0.3%増の微増減益。
 既存店は「書籍・雑誌」「レンタル部門」が前年を下回ったが、新規店のTSUTAYA 東大宮店(900坪)、一宮南店(376坪)が売り上げに貢献したとされる。

 しかし私が見ている精文館は、以前の文具部門が縮小され、UFOキャッチャーが置かれるようになった。その一方で、出版物にしてもレンタルにしても、明らかに低迷していることが伝わってくる。
 それに精文館の外看板だけは残っているが、レシートはTSUTAYAとあるだけで、精文館とTSUTAYAの関係も、FCだけでなく、日販とMPDも介在し、複雑に絡み合い、再編が進められているのかもしれない。



8.日本レコード協会によれば、2018年6月末時点で、全国の音楽CDレンタル店数は2043店、前年比6%減。
 店舗数の減少は21年連続で、1989年のピーク時の6213店と比べ、3分の1の水準に落ちこんでいる。定額聞き放題の音楽配信サービスの広がりもあり、2000店割れも時間の問題となっている。
 ただ店舗数が減る一方で、大型店が増え、音楽CD在庫が1万5000枚以上の大型店の比率は71.9%に上る。

 これらの事実はTSUTAYAやゲオの複合店や大型店のシェアが高まり、そのCD、DVDレンタル市場に対して、音楽配信サービスだけでなく、動画配信サービスも攻勢をかけて広がり、2000店割れに迫っていることになろう。それは複合大型店への逆風がさらに続いていくことを意味している。



9.ブックオフグループホールディングスは同社を株式移転設立完全親会社、ブックオフコーポレーションを株式移転完全子会社とする単独株式移転を行ない、10月1日付で新会社として発足。

 簡略にいえば、グループの純粋持株会社設立、及びブックオフの子会社化ということになるし、リユース業界の急速な変化、多様化する顧客ニーズへの対応、そのための事業再編が謳われている。
 だがブックオフの成長を支えたのはFCシステムによる店舗増に他ならず、そのことから考えてみても、もはや成長は望むことができず、子会社化させ、切り離したとの見方も可能である。
 これからのブックオフFC店はどうなるのだろうか。



10.『日本古書通信』(10月号)で、岡崎武志が「昨日も今日も古本さんぽ」96において、「ブックセンターいとう 星ヶ丘店」の閉店にふれ、「どれだけリサイクル系大型古書店『ブックセンターいとう』の閉店を見てきたことか」と書いている。そして近年の恋ヶ窪、青梅、中野島、立川羽衣、西荻、西荻窪、聖蹟桜ヶ丘の撤退を上げ、「秋の枯葉が舞い落ちるような凋落ぶりだ」と述べている。
 それに続いて、ブックオフの撤退も多く、「疲弊が目立つ」し、セドラーも見かけなくなったことにも言及している。

  「ブックセンターいとう」の経営者とは面識があるけれども、店舗は見ていないので何もいえないが、ブックオフに関しては同感である。それがの完全子会社化ともリンクしているはずだ。 

 『日本古書通信』同号はこの他に、船橋治「みすず書房『現代史資料』(1)~(3)・ゾルゲ事件(一)~(三)の原本を発見する」や折付桂子「東北の古本屋(5)福島県」が興味深く、印象に残る。特に後者は故佐藤周一『震災に負けない古書ふみくら』(「出版人に聞く」6)の現在もレポートされ、佐藤夫人の元気な姿も伝わってきた。もう十年以上お会いしていないけれど、お達者で何よりだ。
震災に負けない古書ふみくら



11.三和図書から、次のような「取次部門業務終了のお知らせ」が届いた。

 さて、突然ではございますが、この度、株式会社三和図書は諸般の事情により
10月末日を目途に取次部門の業務を終了する運びとなりました。
 長年にわたるご支援ご芳情に心から御礼申し上げますとともに
ご迷惑をおかけする結果となりましたことをお詫び申し上げる次第でございます。
 尚、お支払いについては書店様からの返品を入帳後、請求書を送付して頂いたうえで
 清算をさせて頂きたいと存じます。
 事情ご賢察の上、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

 三和図書は1950年設立で、文芸書を主としていたが、またしても神田村取次を失うことになる。もはや取次の店売風景も過去のものと化しているのであろう。
 『出版状況クロニクルⅣ』において、1999年から2008年にかけての取次受難史を示しておいた。それらに加え、『出版状況クロニクルⅤ』でも、さらに続く東邦書籍、栗田出版販売、大阪屋、太洋社、日本地図共販の退場もたどってきている。
 出版社や取次ばかりでなく、取次も消えていったことを実感してしまう。
出版状況クロニクル5



12.『出版ニュース』が来年3月下旬号で休刊。
 同誌は1941年に創刊され、49年に発行所の日配より、出版ニュース社が引き継いでいるので、75年にわたって出されてきたことになる。
 公称部数は4300部だが、近年は赤字続きで、部数も低下していたとされる。

 『出版ニュース』と本クロニクルなどとの関係について、いくつもいいたいことはある。だがそれよりも、年度版『出版年鑑』『日本の出版社・書店』の刊行、それらに基づく様々なデータの公開、海外出版ニュースなどの行方が気にかかる。
 その一方で、神田神保町に出版クラブビルが完成し、書協、雑協、日本出版クラブ、JPOなどが一堂に入居することになると報道されているが、そこに出版ニュース社がないのは象徴的なことのような気がするからだ。
 もはや『出版ニュース』は必要とされていないことを告げているし、それは書評紙や出版業界紙にも及んでいくであろう。
f:id:OdaMitsuo:20181024223408j:plain:h110 出版年鑑 日本の出版社・書店



13.リンダ・パブリッシャーズが倒産、負債は3億4000万円。

 この版元は未知だったので調べてみると、処女出版が『おっぱいバレー』で、本は読んでいないが、映画は見ている。このように映画の原作となる書籍の出版を手掛け、『恋する日曜日 私。恋した』『99のなみだ』などを刊行していた。
 またCCCのトップ・パートナーズの出資を受けていたが、ヒット作が続かず、資金繰りが悪化し、赤字決算が続いていたとされる。

おっぱいバレー おっぱいバレー(映画) 恋する日曜日 私。恋した 99のなみだ



14.旧商号を潮書房光人社とするイノセンスが倒産。
 2006年には年商6億1000万円が16年には3億6000万円となり、今年に解散を決議した。負債は3億8000万円。

 『出版状況クロニクルⅤ』で、出版事業は会社分割された潮書房光人新社に引き継がれ、産経新聞出版グループ傘下に入ったことを既述しておいた。
 また本クロニクル120で、旧商号をキネマ旬報社とするケージェイの破産、船井メディアの清算も伝えているが、イノセントも同じ道をたどったことになる。
 出版事業を売却し、本業を失い、清算会社として残された出版社は、このような破産や清算という道筋を選ぶしかないのだろう。
odamitsuo.hatenablog.com



15.日本新聞協会の2017年新聞社総売上高推計調査によれば、日刊新聞社92社の総売上高は1兆7122億円で前年比3.1%減と6期連続マイナスで、販売収入も初めて1兆円を割る9900億円、前年比3.0%、309億円減となった。

 いうまでもなく、1兆円を割ったということは、新聞の売上部数も減少している。
 これは本クロニクルで繰り返し書いているが、チラシを打てない書店にとって、代わりに新聞が雑誌や書籍の宣伝を毎日掲載していることで、読者の確保と集客が可能であるのだ。
 しかしそのような新聞と出版社と書店の蜜月も昔話になっていきつつあるのだろう。新聞に書評が出ても、ほとんど反響もないし、売れない時代に入って久しいし、もはや電車で新聞を読む人を見ることもないのである。



16.光文社が11月19日発売の尾崎英子『有村家のその日まで』(本体1700円)において、「責任仕入販売、報奨企画」を実施し、初回搬入分の70%以上を販売した書店に1冊170円の報奨金を支払う。
 これは光文社が事前注文を促進し、効率的な書籍販売を模索する実験で、参加申し込み先着100店に限定して実施。
 初版4000部、初回10冊以上の事前注文に対し、70%以上の実売に報奨金が支払われる。

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 どこの実用書版元だったか思い出せないのだが、かつて一冊につき10円の報奨金が支払われるスリップがついていた。これは前世紀のことだったけれど、よくぞ踏み切ったという印象があった。
 しかし1冊につき定価の170円の報奨金とは予想もしていなかったし、面白い試みだと思う。書店の取り組みと販売の実態を見守ることにしよう。



17.『選択』(10月号)が「マスコミ業界ばなし」で、『新潮45』の休刊にふれ、次のように書いている。

新潮45

 同誌編集部の停滞ぶりはひどく、部員六人の平均年齢は五十歳超。今春には二十代の社員が退職、三十代の女性社員も異動となり、残るは定年間近の人間ばかり。当該の問題記事についても「編集長の独断で、部内で特に議論もなかったようだ」と別の社員は呆れる。
 新潮社は約四百人いる社員を、今後十年で約百人減らす方針だ。九月二十五日に発表された『新潮45』の休刊にかこつけて、「この際、雑誌もろとも、編集部員も無きものに」との非情な声も聞かれる。

『新潮45』の休刊をめぐっては事後に喧しいが、このように社内事情が絡み、それを機として、新潮社はリストラの道を歩んでいくことになるだろう。



18.『FACTA』(11月号)が「『海賊版対策』一人燃えるカドカワ」と題し、「通信の秘密や表現の自由を脅かす」ブロッキングの法制化の攻防内幕をレポートしている。
 それによれば、導入推進派の急先鋒はカドカワの川上量生社長である。それに対し、講談社の野間省伸社長は「明らかにトーンダウン」し、一ツ橋グループ(小学館、集英社)は「静観の構え」、カドカワの角川歴彦会長は「ブロッキングに反対」とされている。
 この川上の急先鋒の理由は、経産省官僚であるその夫人の「経産省におけるキャリアパスを意識した援護射撃と考えることもできる」と指摘されている。
 そして「官邸サイドが、ブロッキングの法制化を一旦棚上げしないことには、不毛な議論が続くばかりで出口は見えてこない」と結ばれている。

 前回のクロニクルでも、このサイトブロッキング問題にふれ、その「超法規処置」に疑念を呈してきたが、この一文を読むと、まさに「忖度」に他ならず、何をかいわんやという気にさせられる。しかもこうした記事は直販誌でなければ読むことができないからだ。



19.今月は訃報がふたつ届いた。
 ひとりは青蛙房の岡本修一で、本クロニクルの愛読者、ふたり目は元出版芸術社の原田裕で『戦後の講談社と東都書房』(「出版人に聞く」14)の著者である。
 岡本はまだ69歳だったが、原田は90歳半ばで、天寿を全うしたといえよう。
 二人とその出版社に関して、一文をしたためるつもりなので、とりあえず、ここに二人の死だけを記しておく。
戦後の講談社と東都書房


20.『金星堂の百年』が出された。

 待望の初めて編まれた社史で、近代出版史と文学史の空白を埋める一冊といっていい。いずれの研究者も必携である。
 それに拙著『古本探究Ⅱ』が参考文献に挙げられていることに驚いた次第だ。
 f:id:OdaMitsuo:20181030145210j:plain:h110 古本探究2



21.風船舎古書目録第14号『特集 楽隊がやってきた 日本近代音楽120年史抄』が届いた。門外漢ではあるけれど、520ページに及ぶ、音楽関係者必見のすばらしい目録である。
 これもそのことだけを書きつけておく。

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22.高須次郎の 『出版の崩壊とアマゾン』は11月中旬刊行予定。
出版の崩壊とアマゾン
 論創社HP「本を読む」㉝は「河出書房新社『人間の文学』『今日の海外小説』と白水社『新しい世界の文学』」です。

出版状況クロニクル125(2018年9月1日~9月30日)

 18年8月の書籍雑誌推定販売金額は926億円で、前年比5.2%減。
 書籍は480億円で、同3.3%増。雑誌は446億円で、同12.8%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が364億円で、同13.1%減、週刊誌は82億円で、同11.7%減。
 返品率は書籍が40.2%、雑誌が45.1%で、月刊誌は45.7%、週刊誌は42.4%。
 書籍の推定販売金額のプラスは7月の西日本豪雨により、広島、岡山、九州などの書店の返品入帖処理が8月になっても終わっていないことに起因している。
 出版輸送は運賃問題や人手不足に加え、西日本豪雨により、輸送遅延が長期化し、現在も続いているのである。それゆえに書籍は返品減となり、プラスになったわけで、その反動が必ず発生する。
 さらに9月は北海道胆振東部地震が起き、書店の被害とともに、北海道も返品や輸送遅延が生じていくであろう。このような災害状況の中で、これまで以上に露出してきたのは運送問題だとされている。出版輸送業界はまったく余裕がない状態で営まれてきたこともあり、今回のような立て続けの災害には対応できない現実に直面しているという。
 そのために新刊配本に関しても、雑誌が優先され、書籍のほうは大手出版社に新刊は受け入れられても、重版は配本できなくなっているようだ。
 それを背景にしてか、小出版社の新刊配本も当月のはずが、翌月にずれこむ事態となっているし、資金繰りにもダイレクトな影響が出始めている。また大量の返品が生じ、逆ザヤ状態となることも覚悟しなければならない出版状況を迎えていよう。
 今回のクロニクルは猛烈な台風24号襲来の中で、更新される。 
 


1.出版科学研究所による2018年8月までの書籍雑誌推定販売金額とマイナス金額を示す。

■2018年 推定販売金額
書籍雑誌合計金額(百万円)前年比
(%)
前年比金額(億円)
2018年
1〜8月計
854,746▲7.2▲658
1月92,974▲3.5▲33
2月125,162▲10.5▲147
3月162,585▲8.0▲140
4月101,854▲9.2▲102
5月84,623▲8.7▲80
6月102,952▲6.7▲74
7月91,980▲3.4▲32
8月92,617▲5.2▲50

 18年8月までの推定販売金額は8547億円で、前年比7.2%減、金額にして658億円のマイナスとなっている。
 この20年間の販売金額の推移と年毎のマイナス金額は本クロニクル118に掲載してあるので参照してほしいが、これまでの最大のマイナスは17年の1008億円である。9月からの返品の反動などを考慮すれば、さらなるマイナスも想定せざるをえない。
 このような出版状況の中で、18年の最後の四半期が進行していく。まさに奈落の底に沈んでいくような思いに捉われざるをえない。
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2.日本出版者協議会相談役である緑風出版の高須次郎が『出版ニュース』(9/中)に「出版はどうなるか」を寄稿している。彼は『再版/グーグル問題と流対協』(「出版人に聞く」シリーズ3)の著者である。
 この論稿は自社の書籍をめぐるアマゾンの電子書籍化の具体的な実例、2014年の著作権法改正の問題点、その見直しの必要性、電子書籍の再販に関わる失敗と出版危機、アマゾンのバックオーダー中止と直取引拡大戦略の成功、その影響を受けた日販決算の意味などに及んでいる。
 そして現在は「出版敗戦前夜」にあるとし、次のような結論に至る。

紙の市場規模の急速な縮小とアマゾンの躍進のなかで、問題は、大手取次店のダウンサイジングがうまくいくかどうかに懸かっている。仮にうまくいかなければ、大手取次店に莫大な売掛金をもつ出版社は、多くが資金繰りに詰まり、倒産・廃業の危機を迎えよう。まして「栗田出版販売再生スキーム」が適用されれば、膨大な返品を出版社は買うはめになり、さらに倒産・廃業に拍車がかかるといえる。

 また「出版敗戦を打開する道はあるのか?」として、7つの提案が挙げられ、「もはや手遅れの感もするが、こうした課題のいくつかを実現できなければ、出版敗戦の日を迎えるしかない。そこには戦後復興はない」と結ばれている。

再版/グーグル問題と流対協  『新潮45』(8月号)(8月号) 『新潮45』(10月号)(10月号)

 この高須の「出版はどうなるか」は数字データや資料として、本クロニクルが参照され、また「出版敗戦」のタームが使われていることからわかるように、高須から見た現在地点での出版状況論に他ならない。
 しかし高須がいうところの7つの提案は、どれひとつとしてスムースに実現することはないだろう。なぜならば高須もいうように、「敗戦の原因は、(中略)ほとんど戦わずして落城の危機をまねいた出版業界、出版社団体や出版社内部」に起因しているからだ。本クロニクルの言葉に言い換えれば、長期にわたる正確な出版状況分析の不在と錯誤によっている。
 それにこのような出版状況が、日本出版者協議会に属する小出版社だけに出来しているのではなく、さらに広範なかたちで「出版敗戦」は大手出版社に押し寄せていることを認識すべきであろう。もちろんそれは大手取次、大手書店とも連鎖していることはいうまでもあるまい。これらの論稿を一冊にまとめた高須の『出版界の崩壊とアマゾン』は10月に論創社から刊行される。

 それから『出版ニュース』の同じ号に、『新潮45』(8月号)の「『LGBT』支援の度が過ぎる」に対して、8月20日付の「杉田水脈衆議院議員の発言に抗議する出版社代表82社の共同声明」も掲載されていることを付け加えておこう。
 『新潮45』10月号の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」をめぐって、新潮社の佐藤信隆社長や文芸部門から批判が出され、マスコミで取り上げられているが、いち早く緑風出版の高須たちを呼びかけ人とする「共同声明」が出されていたことも知ってほしいからだ。

 その後、月末になって、論議もほとんどなされない前に、新潮社は『新潮45』の休刊を発表した。高須の「敗戦前夜」ではないけれど、この杉田の言説が、かつて大東亜戦争下における「産めよ増やせよ」の大スローガンに通じていることは指摘しておかなければならない。それへの注視もなされないままの休刊は、雑誌にとっても忌わしい記憶を残すだけであろう。『新潮45』の創刊は1982年だった。



3.ジュンク堂書店旭川店から返品リストとともに、次のような「改装のご案内」が届いた。

 2011年6月にオープンいたしましたジュンク堂旭川店は、開店以来お客様に大変ご好評を頂いて参りました。 
 しかし来る2018年9月、館の大規模なリニューアルにともない、デベロッパーより強い要請があり、現在の4階5階2フロア営業から5階1フロアのみへと、規模を大幅に縮小することが決定し改装する運びとなりましたのでご案内申し上げます。
 従来の1257坪から600坪と大幅な縮小となりますが、弊社がこれまで培ってきた経験を踏まえてレイアウトを見直し、読者のニーズにお応えし、地域の皆様に愛されるような店舗づくりにこれからも努力する所存でございます。
 急な話でたいへん申し訳ございませんが、今回の改装に伴いまして返品が発生いたします。
 甚だ勝手なお願いではございますが、出版社様におかれましては、商品の返送につきましてご了解とご協力を賜りますよう何卒お願い申し上げます。


 1フロア、600坪で店としては半分に縮小だが、書籍を中心として多くが返品され、それは在庫全部の3分の2ほどに及ぶのではないだろうか。すなわち出版社に大量の返品が逆流してくる。
 「デベロッパー」云々との文言が見えているけれども、もはや書店の大型店が売上マイナスと家賃負担に耐え切れず、リストラに向かっていく流れを象徴していよう。
 本クロニクル123で、三洋堂書店の300坪ほどのバラエティショップの閉店を既述しておいたが、毎月のように大型店の閉店が起きていて、それがまったく改善されない高返品率へとリンクしていることになろう。
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4.『朝日新聞』(8/26)の「朝日歌壇」に次のような一首が掲載されていた。

 おおきくはしなくていいと祖父はいい 父もまもったちいさな書店 (東京都)高橋千絵

 これを読んでから、山口県と島根県を旅行してきた。主としてバスによる移動だったが、ロードサイドに書店を見かけたのは1店だけで、ホテルのある商店街には小書店が閉店したままで残されていた。
 翌朝、そのホテルで『山口新聞』(8/29)を読むと、周南市のツタヤ図書館の入館者が100万人を突破したとの報道がなされていた。本クロニクル119で、駅前ビルでのツタヤ図書館の開館による、地元老舗書店の閉店を伝えたばかりだ。
 ナショナルチェーンの大型書店の出店やCCCのツタヤ図書館の開館が、このような地方の書店が消えてしまった状況に反映されているだろうし、それが書店の半減という事実を裏づけていることになろう。
 先の一首で歌われている「父もまもったちいさな書店」は現在でも存続しているのだろうか。

 それに関して、鳥羽散歩という人が「詩歌句誌面」で次のような返歌を寄せているので、引いておこう。

 大きくはしなくていいと思ったが 私の代で潰れた書店

 旅行から帰った後、たまたま鈴木書店の元幹部と話す機会があり、取次にとっては中小書店が生命線で、大書店の場合はほとんど利益が出なかったという告白を聞いた。倒産してから、それを実感したという。これは大手取次にとっても中小書店が生命線だったことを告げていよう。
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5.ティーエス流通協同組合(TS)は9月30日で解散を決議。
 売上のピークは2005年の1億2000万円で、それ以後は会員や売上が減少し、負債が生じるようになったとされる。
 ブックスページワンの片岡隆理事長は「昨年の総会終了後、NET21や青年部などが声を上げてくれたが、事業としての実態は生まれ」ず、清算に取り組むことに決定したと説明している。

 TSに関しては『出版状況クロニクルⅤ』において、損失が組合出資金額を上回る債務超過に陥るので、解散の方向に進んでいくしかないように思われると記しておいたが、残念なことに本当にそのような事態になってしまった。出版社との直取引によるマージン確保が難しかったことになり、TS加盟の各書店の困難さも自ずと伝わってくる。
出版状況クロニクルⅤ



6.中央社の売上高は217億円、前年比4.6%減。当期純利益は8107万円、同30.7%減で減収減益の決算。
 その内訳は雑誌120億円、同6.9%減、書籍は82億円、同0.5%減。
 期中の新規店は8店(90坪)、閉店は18店(500坪)となり、名古屋・関西支店を廃止し、名阪支社に中部営業課と西部営業課を新設。

 『出版状況クロニクルⅣ』で、2010年代に中央社だけが取次として増収増益だったことにふれてきたが、その中央社にしても3年連続の減収減益の決算になってしまった。
 それはコミックも含めた雑誌の凋落、コラボしてきたアニメイトの売上の低迷、アニメイトがM&Aした書泉や芳林堂のその後の売上状況などが作用しているのだろう。
 これらの推移初めて『出版状況クロニクルⅤ』でたどっているが、海外展開などのアニメイト120店の現在はどうなっているのだろうか。期中の出店と閉店を見るかぎり、やはり店舗リストラの波が押し寄せているように思われるし、それは何よりもアニメイトが得意とするコミック特装版などの「特品等」が11億円、同8.6%減にもうかがわれる。中央社にとって、雑誌、書籍に告ぐ部門にして、その特色でもあったからだ。
 それを反映して、今期の中央社の決算も213億円、同1.1%減を売上目標としているが、さらなる減収減益は必至であろう。
出版状況クロニクルⅣ



7.学研HDは日本政策投資銀行と共同で、さいたま市の介護大手のメディカル・ケア・サービス(MCS)の全株式を取得。
 MCSは認知症患者グループホームを270棟運営し、売上高は265億円。
 学研HD傘下の学研ココファンはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)100棟を運営し、売上高は200億円。サ高住とグループホームの再編は初めての試みで、両社の複合開発にも進出するとされる。

 もはや学研は学参の出版社ではなく、塾などの教育事業と介護などの医療福祉事業をメインとする企業へと転身したと見なすべきだろう。
 ここに学研の介護事業を挿入したことに唐突な感を抱かれると思うが、トーハンの「事業領域の拡大」がこのような学研の動向と併走していると判断できるからだ。

 前回、本クロニクルで、「トーハンの課題と未来像」を取り上げ、グループ会社のトーハン・コンサルティングが実際に西新井に介護施設を建設中であることを既述しておいた。このパートナーは学研と考えてよかろう。
 そうした学研HDの、出版社から教育事業と介護事業への転身を範として、トーハンも介護事業も含めた不動産事業などの「事業の拡大」が構想されたのではないだろうか。
 しかし学研の転身にしても、古岡創業一族からの離脱、出版事業のドラスチックなリストラと改革、新たな事業ノウハウの蓄積など、一朝一夕になされたものではないし、それをトーハンが模倣できるとは思えない。
 それは介護事業にしても、不動産事業にしても、大いなる陥穽に満ちているし、コラボするゼネコンや官僚にしても、再販委託制に基づく出版社や書店を相手にするのとはまったく異なる相手であることを、冷静に自覚することから始めなければならない。だがそれはないものねだりであるかもしれない。



8.日販のグループ会社ダルトンは東京・武蔵村山市に、売場面積220坪で「DULTON FACTORY SERVICE MUSASHI-MURAYAMA」をオープン。
 郊外型大型店舗で倉庫を改装した7店目の直営店。
 創業以来、インテリア雑貨メーカーとして積み上げてきた商品群と空間創りのノウハウを投入した「人とモノを繋ぐ、日常彩るマーケット」とされる。

 これは前回のトーハンの近藤敏貴社長の言葉を借りれば、「事業領域の拡大」に属するのではなく、「カフェ、文具、雑貨は本を売るための取次事業」に当たるのかもしれないが、実際に見ていないので、判断を下せない。出版物はまったく売っていないのだろうか。
 しかしこのようなダルトンの展開にしても、本クロニクル121で引いておいた日販の平林社長がいう市場の要求に応じて商品やサービスを提供する「マーケットイン」の試みだとしても、「本業の回復」にただちに結び付くことはないだろう。
 7も含め、取次はどこに向かっているのか、それがどのような影響を出版社や書店にもたらすかを注視すべきであろう。



9.TSUTAYAは家具とホームセンターの島忠とFC契約し、家具と本を軸とする生活提案方店舗開発に着手。
 その第1号店として、島忠の「ホームズ新山下店」(横浜市中区)をリニューアルし、同店舗内にブック&カフェ「TSUTAYA BOOKSTORE 新山下店」を今冬に開店。
 島忠は家具とホームセンターの複合店舗を首都圏に59店を有し、今後「TSUTAYA BOOKSTORE」の展開を進める。

 これもCCC=TSUTAYAが行なってきた、他の物販やサービス業と本を結びつける試みであり、またしても委託制によって出版物が利用され、汚れて返品されるという悪循環が繰り返されていくだろう。
 日販にいわせれば、「マーケットイン」ということになろうが、日販にしても、CCC=TSUTAYAにしても、レンタルに代わるビジネスモデルとして成長させることは難しい。それに今期はFC店の問題が大きくせり上がり、日販へと逆流していくはずだ。
 代官山蔦屋書店や蔦屋家電も赤字だとされているし、やはりCCC=TSUTAYAはレンタルとFC事業を超えられないし、Tポイント事業にしても、すでに会社分割が想定されているのではないかと推測される。



10.大垣書店の決算は売上高112億8450万円、前年比3.5%増で、過去最高額となる見通し。
 その内訳は「CD/DVD」部門を除き、BOOK、文具、カフェ、カードBOXの4部門がプラスになったこと、出店に加え、イオンモール店や外商部門が好調であることなどが挙げられている。

 同時期に発表された三洋堂HDの第1四半期の連結決算は、売上高48億8400万円、前年比5.2%減で、書店部門は30億7000万円、同6.2%減である。
 複合店であることは大垣書店も三洋堂書店も共通していて、前者が後者と異なり、売上高を伸ばしているのは閉店がなく、出店攻勢を続けているからだと思われる。だが出版状況から考えると、その反動が生じることも推測できよう。



11.集英社の売上高は1164億円、前年比0.9%減で、営業損失は9億6000万円の赤字。
 だが不動産収入などの営業外収益により、純利益は25億2500万円、同52.9%減で黒字決算。
 売上高内訳は雑誌が501億円、同13.0%減、そのうちの「雑誌」は249億円、同11.0%減、「コミックス」は251億円、同14.9%減。書籍は108億円、同2.7%減。その他の「web」「版権」などは461億円、同21.1%増。


12.光文社の売上高は217億円、前年比1.9%減で、経常・当期純利益ベースで2年連続の赤字。当期純損失は1億8700万円。
 売上高内訳は雑誌が71億円、同7.3%減、書籍が35億円、同4.2%増、広告69億円、同6.0%減。

 いうまでもないことかもしれないが、集英社は小学館に代表される一ツ橋グループ、光文社は講談社に象徴される音羽グループの有力出版社である。
 戦後の出版業界のメインシステムは一ツ橋と音羽グループの雑誌の大量生産、大手取次の大量流通、商店街の中小書店による大量販売によって形成され、営まれてきたといっていい。だが中小書店は退場してしまい、取次も危機の中であえいでいる。

 その結果としてもたらされた今回の集英社と光文社の赤字は、そのシステムの終焉を物語っているように見える。それに何よりも驚かされるのは雑誌の返品率で、集英社は32.9%、光文社は49.2%に及んでいる。こうした事実に対しての説明は不要だろうし、ブックオフならぬマガジンオフの現在を突きつけているように思える。

 なお小学館の3期連続赤字は本クロニクル122、講談社の決算は同118で既述しているので、必要なら参照されたい。
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13.『日経MJ』(9/3)が「消え始めた短冊状伝票」という記事を発信し、「スリップを発行しない出版社」リストを挙げているので、それを示す。

■スリップを発行しない出版社
出版社時期対象
KADOKAWA4月角川文庫など
岩崎書店7月すべての書籍
金の星社7月すべての書籍
フレーベル館8月すべての書籍
一迅社8月すべての書籍と漫画
竹書房8月すべての書籍と漫画

 この記事によれば、この1年間でリストを含む20社がスリップ廃止を決め、今後も1ヵ月に2~3社のペースで続くとされている。
 ひとえに書店現場での自動発注やオンライン化が整備され、スリップの重要性が薄れたことによっているが、スリップは長きにわたって、販売、注文、追加伝票とデータ作成資料、報奨金用として使用されてきた。その起源に関しては様々に伝えられているが、『出版事典』(出版ニュース社)によれば、戦後の1955年頃から広く普及するようになり、ほとんどの書籍の挿入されるようになったという。つまりスリップも戦後の出版流通システムの落とし子であり、それが消えていくことは11、12ではないけれど、戦後の出版流通システムの終わりを告げていることになるのだろう。
 また『本の雑誌』(9月号)も「特集スリップを救え!」を組んでいることを付記しておこう。

出版事典 本の雑誌



14.「地方・小出版流通センター通信」(No505)が、松村久の85歳の死を追悼している。彼はそれこそ、4の周南市駅前で古本屋のマツノ書店を営みながら、明治維新史を中心とする防長史資料280点余りの復刊と刊行に携わり、2007年には菊池寛賞を受賞している。
 そこには松村だけでなく、沖縄タイムス社出版部で『沖縄大百科事典』や『沖縄美術全集』を編集し、退職後も出版舎Mugenを立ち上げた上間常道の76歳の死も伝えられている。

 松村とは面識がなかったけれど、その出版記は『六時閉店』(マツノ書店)で読んでいるし、中村文孝『リブロが本屋であったころ』(「出版人に聞く」シリーズ4)にも登場してもらっている。だが申し訳ないことに、中村も私も版元名から松村でなく松野だと思いこんでいたので、松野と間違って記載してしまったことが本当に悔やまれる。
 上間のことは知らなかったが、前回取り上げた沖縄の同人誌『脈』に関係していたかもしれない。それらはともかく、このようにして、地方出版の時代も終わっていくのだろうか。
f:id:OdaMitsuo:20180926212922j:plain:h110 リブロが本屋であったころ



15.『FACTA』(10月号)が細野祐二の「会計スキャン」として「RIZAPグループ―損失先送り経営」を掲載している。
 ライザップは上場9会社を持ち、前期も23社を企業買収しているが、その当期利益は大半が「負ののれん」によって占められているというものだ。これは専門的論稿にして、「ライザップへの質問と回答」などの掲載もあることから、実際に読んでもらうしかない。
 それは次のように結ばれている。

 「負ののれん」が当期純利益の大半を占めるライザップの財務諸表は会社の財務状況と経営成績を適正に表示しておらず、その利用は危険極まりない。


 『出版状況クロニクルⅣ』で、ライザップによる日本文芸社、本クロニクル118で、CD/DVDショップのワンダーコーポレーションの買収を取り上げてきているが、これらも同様の「損実先送り経営」の一環なのであろうか。
 やはり本クロニクル122で、大阪屋栗田を買収した楽天に関しても、細野が「非上場株で『膨らし粉』経営」だと指摘していることにふれているが、トーハン、日販の書店買収、CCC=TSUTAYAの出版社買収なども、同じような危惧を孕んでいるのではないだろうか。
 いずれも非上場ゆえに詳細に分析されていないけれど、取次を通さない直販誌『FACTA』と細野に、それらの「会計スキャン」を期待したいところだ。



16.『ジャーナリズム』(9月号)が「先の見えない時代 読み解くカギは読書にある!」として、「現在地を知る100冊」特集を組んでいる。

ジャーナリズム 沖縄の市場〈マチグヮー〉文化誌

 「現在地を知る」とのタイトル名は卓抜で、それに見合う多くの未読の本を教えられた。
 読んでいるのは多くなく、与那原恵の「『今』照らす古琉球以来の歴史―現在の沖縄問題を理解するための10冊」では、小松かおり『沖縄の市場〈マチグヮー〉文化誌』(ボーダーインク)だけだった。
 これから気になる本は読んでいきたいと思うが、『ジャーナリズム』で恒例のように挙げられていた出版に関する「現在地」が見当らないことに気づいた。何か事情でもあるのだろうか。
 その代わりといっていいのか、川本裕司「接続遮断は通史の秘密を侵害か 大規模漢詩の指摘、運用拡大も」が寄せられていた。この「サイトブロッキング」、コミックの海賊版サイトの問題に関して、本クロニクル120、121などでもふれ、その「通信の秘密」を侵害する「超法規処置」に疑問を表してきた。川本文は、政府の知的戦略本部の検討会議において、法制化強行を危惧する複数委員の批判と、それに対する反論が繰り広げられ、決議に至らなかったプロセスと事情を報告している。これは詳細レポートであるので、ぜひ読んでほしいし、その論議の行方を見守りたいと思う。
 「サイトブロッキング」問題は、「表現の自由」や「知る権利」と合わせ鏡になっているからだ。



17.前田雅之『書物と権力』(吉川弘文館)を読了した。

書物と権力

 今回、繰り返しふれてきた戦後出版システムの終わりではないけれど、実用、趣味、娯楽ではなく、教養を身につけるための読書、自分の中身を高めるための読書も、1990年代に終焉したと前田は述べている。それは明治末期から1980年代までは確かに存在していた。
 その起源は、中世における権門体制(院・天皇―公家・武家・寺家)を相互につなぐ文化的要素が中世エリート公共圏で、同時に「古典的公共圏」を形成していた。それが近代まで続き、「教養のコンセプト」となっていたのである。
 「古典的公共圏」の成立とは、古典、和歌を抜きにしての人間関係は考えられず、それゆえに書物と権力の問題がせり上がり、サブタイトルにある「中世文化の政治学」がオーバーラップしていく。そして「書物・知」をめぐる権力のネットワークが描かれ、あらためて中世における書物の位相を教示してくれる。
 だがそのような「書物・知」をめぐる教養的読書は20世紀において終焉し、今世紀を迎え、インターネットに置き換えられたということになるのだろうか。



18.今月の論創社HP「本を読む」㉜は「森一祐、綜合社、集英社『世界の文学』」です。

出版状況クロニクル124(2018年8月1日~8月31日)

 18年7月の書籍雑誌推定販売金額は919億円で、前年比3.4%減。
 書籍は439億円で、同6.0%減。雑誌は480億円で、同0.8%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が384億円で、同0.6%増、週刊誌は96億円で、同6.2%減。
 月刊誌が前年を上回ったのは16年12月期以来のことだが、それは前年同月が17.1%減という大幅なものだったことに加え、コミックスやムックの返品が大きな改善を見たことによる。
 返品率は書籍が41.8%、雑誌が43.2%。
 しかし月刊誌の増や返品率の改善といっても、西日本豪雨の被害の影響で、輸送遅延が長期化し、中国、四国、九州エリアで、7月期には返品できなかったことも大きく作用していることに留意すべきだろう。
 それに記録的な猛暑と豪雨の影響を受け、書店店頭状況も、書籍が6%減、雑誌の定期誌8%減、ムック3%減、ただコミックスはジャンプコミックスの人気作もあり1%減。
 18年のマイナスは7月でついに600億円を突破し、2の大阪屋栗田の17年売上高に迫りつつある。
 


1.出版科学研究所による2018年上半期の 紙+電子出版市場の動向を示す。

2018年上半期 紙と電子の出版物販売金額
2018年1〜6月電子紙+電子
書籍雑誌紙合計電子コミック電子書籍電子雑誌電子合計紙+電子合計
(億円)3,8102,8926,7028641531081,1257,827
前年同期比(%)96.486.992.0111.2109.396.4109.394.2
占有率(%)48.736.985.611.02.01.414.4100.0

2017年上半期 紙と電子の出版物販売金額
2017年1〜6月電子紙+電子
書籍雑誌紙合計電子コミック電子書籍電子雑誌電子合計紙+電子合計
(億円)3,9543,3277,2817771401121,0298,310
前年同期比(%)97.391.594.5122.7114.8121.7121.597.2
占有率(%)47.640.087.69.41.71.312.4100.0

 前回は表が多かったこともあり、紙の出版物だけを取り上げ、電子出版市場に関してはふれなかったので、今月はそれに言及してみる。
 上半期の紙と電子出版物販売金額は7827億円で、前年比5.8%減。そのうちの電子出版市場は1125億円で、同9.3%増で、金額にしても96億円のプラス。そのシェアは2%増の14.4%で、書籍は48.7%、雑誌は36.9%となる。
 電子出版の内訳は電子コミックが864億円で、同11.2%増、電子書籍が153億円で、同9.3%増、電子雑誌が108億円で、同3.6%減。
 電子コミックシェアは76.8%に及び、二ケタ成長を続けているが、17年の同期22.7%増と比べれば、半分以下の伸び率である。
 それに電子雑誌が始めてのマイナスとなったことで、これは読み放題サービス会員の減少が原因とされる。だが前年同期が21.7%増だったのだから、大幅な落ちこみで、やはりそれは下半期も続くと見るべきだろう。
 出版科学研究所のデータからすると、明らかに電子出版市場も頭打ちの兆候を示し始めている。

 その一方で、インプレス総合研究所も17年度の電子書籍市場規模を発表している。それによれば、17年度は2241億円で、前年比13.4%増。その内訳は電子コミックが1845億円で、同14.1%増、そのシェアは82%を超える。電子雑誌は315億円、同4.1%増、文芸、実用、写真集などは396億円、同10.3%増。
 無料のマンガアプリ広告市場は100億円の大台に達したが、電子コミック市場の成長は鈍化しつつあり、電子雑誌の将来も不透明とされている。
 それでもインプレス総研は、2022年の電子出版市場規模は2017年度の1.4倍にあたる3500億円規模を予測している。
 しかし5年先どころか、出版業界は数年先がどうなっているのかわからない状況にあるのは自明なことで、電子出版市場もまたそれと併走していることを認識すべきだろう。



2.『日経MJ』(8/1)の17年度「日本の卸業調査」が出された。「書籍・CD・ビデオ部門」を示す。

■書籍・CD・ビデオ卸売業調査
順位社名売上高
(百万円)
増減率
(%)
営業利益
(百万円)
増減率
(%)
経常利益
(百万円)
増減率
(%)
税引後
利益
(百万円)
粗利益率
(%)
主商品
1日本出版販売579,094▲7.32,3667.22,5505.972112.5書籍
2トーハン443,751▲6.84,452▲29.42,413▲42.975813.4書籍
3大阪屋栗田77,037▲3.9書籍
4図書館流通
センター
45,1315.31,648▲12.41,841▲10..61,05817.6書籍
5日教販27,367▲0.84029.221883.219010.7書籍
9春うららかな書房3,617▲6.0書籍
MPD180,793▲3.9417▲50.0418▲50.52124.3CD

 前回の本クロニクルなどで、大阪屋栗田やMPDが業界紙を始めとして、公式に決算発表をしていないことにふれておいた。しかし流通業界の恒例の調査なので、無視できなかったのであろう。
 ただそうはいっても、大阪屋栗田は売上高と伸び率だけで、大赤字の実態は露出していない。
 MPDの売上高は1807億円で、前年比3.9%減だが、営業利益、経常利益は双方とも半減していて、これが決算発表を避けた要因だと推測される。
 日販とトーハンの大幅なマイナスは雑誌の凋落とクロスし、それが18年も続いているわけだから、両社が赤字に追いやられることも想定できよう。流通業の場合、採算売上を割りこめば、急速に赤字が増大していくとされるし、それは取次そのものが置かれている流通状況に他ならないだろう。
 そのような減収の中で、昨年とは逆に日販のほうは増益、トーハンのほうは減益というコントラストを示しているが、そのうちにMPDも含め、様々なメカニズムの矛盾が露出してくると思われる

 それから17年調査の特色は税引後利益で、TRCが日販、トーハンを上回ったことであろう。粗利益と返品率の問題が絡んでいるが、出版業界のとりあえずの勝者は、主流ではないTRCと公共図書館ということになってしまうのだろうか。



3.『新文化』(8/9)がトーハンの近藤敏貴新社長に「トーハン課題と未来像」というインタビューを掲載しているので、それを要約してみる。

基本的な経営方針は「本業の復活」と「事業領域の拡大」です。
トーハンの本業は書店を通じ、本を売っていくことで、取引書店の繁栄を第一に考え、それが出版社の繁栄、ひいては社会や文化の発展につながるし、そうした考えがDNAとしてトーハンに脈々と引き継がれている。しかし書店の事業環境が非常に厳しくなっているので、サポートするために、物流改革、利益の適正な再配分が必要だし、その改革ができなければ、出版を支える公器としての取次の存在意義が問われる。
物流網が非常に疲弊し、トーハンだけではその運賃値上げをとても吸収できないので、出版社にその支援をお願いしている。それに出版流通を支える雑誌、コミックの売上低下の中で、書籍を中心とする流通構造を構築するために、書籍の赤字の改善も必要である。
多くの出版社が状況を理解し、早々に回答してくれているし、まだ十分な回答を得られず、交渉を継続している出版社もある。
書店マージンも重要な課題だが、返品も減らしていかないとその原資が確保できない。新刊委託制を見直し、プロダクトアウトの発想から、マーケットインの受注生産出版構造にシフトしていかないと、返品減少と書店の粗利向上は不可能だろう。
ICタグは1個4~5円なので、定価を上げてコストを吸収できるだろうし、導入できれば、出版社、取次、書店の仕事は劇的に変わり、検品や棚卸しも不要で、事故品の追跡調査や万引防止にも活用できる。
そのシミュレーションのために、営業統括本部にAIとデータキャリアの導入というミッションを与え、AIに関してはまず雑誌と書籍の配本を考えている。
「本業の復活」に向けて市場開発方針があり、地方だけでなく、都市部の生活圏内にも書店のない区域がめずらしくないので、商圏人口や商業業種動向などを見ながら、デベロッパーや書店と組んで、常に出店可能性をリサーチしている。
今期上半期の紙市場の規模は、過去最大の減少率の前年比8.0%減で、衝撃をもって受け止めた。生半可なことでは回復できないし、一刻も早く委託制度に依存しない書籍を主軸とする出版流通を確立しなければならない。
カフェ、文具、雑貨は本を売るための取次事業であり、「事業領域の拡大」はそれ以外の領域で、介護事業や不動産事業が該当する。グループ会社トーハン・コンサルティングでは2棟目の介護施設を東京の西新井に建設中で、不動産事業も京都支店跡地にホテルが完成する。また本社の再開発経計画も控えているし、M&Aも含めた新規事業開発も積極的に考え、グループ経営をより重視していく。
本社再開発計画は東五軒町の本社ビルを立て直し、敷地一帯を再開発し、新本社ビルは2021年春をめどに完成させたい。現在本社内での書籍新刊物流は和光市に最新の作業所を確保したので、来年のゴールデンウイークに移転を考えている。
これらは大きな投資であり、数年がかりのプロジェクトとして、「本業の復活」と「事業領域の拡大」を絡めて進めていく。


 本クロニクル119で、大阪屋栗田が株主にしか目が向いていないこと、日販の「非常事態宣言」は日販傘下書店とCCC=TSUTAYAの売上状況の悪化を背景にしていることを既述しておいた。

 それにならえば、トーハンは「事業領域の拡大」を最大の目的としていることが伝わってくる。「本業の復活」に関して、プロダクトアウトの発想から、マーケットインの受注生産型の出版構造へのシフト、ICタグの導入による出版業界の仕事の劇的な変化、AIとデータキャリアの導入というミッションなどがまことしやかに語られている。だが、それらがただちに「本業の復活」にリンクしていくとはとても思えない。本気でそう考えているとすれば、現在の出版状況を直視していないといわざるをえない。
 
 日販の「非常事態宣言」には、傘下書店ともども沈没していくという危機感が見られたが、トーハンの場合にしても、同じように傘下書店売上は700億円から800億円に及んでいるはずだ。だがこのインタビューに感じられる限り、それらは他人事のようでもあり、それゆえにトーハンは「本業の復活」というよりも、「事業領域の拡大」にしか目が向いていないと判断するしかないだろう。
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4.三洋堂書店はトーハンとの資本業務提携、第三社割当による新株式の発行を決議。
 これによりトーハンが三洋堂書店の筆頭株主となる。

 まさにのトーハンの「事業領域の拡大」ではないけれど、三洋堂も雑誌やDVDレンタルの凋落の中で、コインランドリー事業、教育事業、フィットネス事業などを導入してきている。
 しかし本クロニクル122でふれておいたように、純利益は500万円という「かつかつの黒字」で、今期予想は純損失3億円と見込まれている。それもあって、金融機関からの借り入れではなく、トーハンからの直接金融による資金調達が選択されたのであろう。
 だが書店の「事業領域の拡大」も容易ではなく、コインランドリーや教育事業は苦戦していると伝えられている。
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5.日販傘下のリブロ、万田商事(オリオン書房)、あゆみBooks の3社が合併し、新会社としてリブロプラスを設立し、日販関連会社NICリテールズの100%子会社となる。3社は首都圏を中心に、14都府県に89店を有する。

 新会社の資本金は1億円で、統合によって、書店事業の未来につながる店舗づくりに向けた投資、リノベーションを進めるとされているが、ここに集約されているのは、取次による書店経営は可能かという問題のように思える。

 大阪屋栗田のケースは、出版社が取次を経営することの不可能性をあらためて教えてくれたが、それは取次と書店の場合にも当てはまるのではないだろうか。ましてそれぞれ異なる立地や店舗を統合し、新たな書店ブランドを取次が立ち上げることは困難だというしかない。たやすくそれができるのであれば、それまでの書店の苦労は何だったのか、ナショナルチェーン化すれば問題は解決するかといった疑念が生じてしまう。
 そのケーススタディをで見たばかりではないか。



6.これも日販のNICリテールズとファミリーマートは、書店とCVSを一体化した新業態店の展開に向けて、包括提携契約を締結。
 その1号店として、積文館書店の佐賀三日月店(佐賀・小城市)を改装。
 売場面積は160坪で、書店エリアは100坪、CVSエリアは60坪。レジは一ヵ所に集約し、営業時間は午前10時から午後9時までが24時間営業に変更。

 『出版状況クロニクルⅤ』で、ちょうど1年前の兵庫県加西市の西村書店とファミマの融合のケースを紹介しておいた。その背景には日販が書店存続の最終手段として、ファミマにコンビニ書店展開を持ちかけたこと、ファミマにとってはFCオーナーの確保と新規出店が結びつくことも挙げておいた。

 しかしその後、単独書店の参加は続かなかったので、日販は傘下書店を新業態店に組み入れるしかなかったと判断できよう。その第一の目的は、ファミマと提携することによる家賃コストの軽減であり、そこまでしなければチェーン店の維持ができないところまできていることを意味している。
 もし日販が今後も次々とファミマとのコンビニ書店を展開していくのであれば、それをあからさまに証明していることになろう。
 それは北陸でも始まっていて、富山県のファミリーブックスは、北陸地方で初めてのコンビニ書店「ファミリーマート+ファミリーブックス福光店」(南砺市)を開店する。
出版状況クロニクルⅤ



7.習志野市のBooks昭和堂と東京中央区のLIXILブックギャラリーが閉店。
 前者は1986年開店で、手書きpop による『白い犬とワルツを』(新潮文庫)を平台販売で書店発リバイバル・ベストセラー化へと導いた。後者は1988年にINAXブックギャラリーとして開店し、ショールームとギャラリーを併設し、建築、デザイン、インテリア書などをメインに販売していた。


白い犬とワルツを

 Books 昭和堂の手書きpop による平台販売は、現在に至る書店員の手書きpop の嚆矢といえるだろうし、INAXブックギャラリーは90年代に営業にいったことがある。
 だがどちらも30年間にわたってそこに存在していたわけだから、閉店後は何らかの空白感に包まれるのではないかと察せられる。本クロニクル121の青山ブックセンター六本木店、同118の幸福書房と同じようにして、町から書店が消えていくことになる。
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8.日販から出版者社に「計算書および関連帳表のご提供方法変更のご案内」が届いた。
 それによれば「計算書」「計算明細書」「控除明細書(及びその補正資料)」について、紙の郵送を廃止し、インターネット画面でのデータ提供に移行する(WEB化)とし、移行時期は2019年2月予定とされる。
 その利点として「帳票情報取得の早期化」「データ活用による業務効率化」「控除の明細書の様式統一」が挙げられている。
 日本出版社協議会はそれに対し、以下の4つの問題を挙げているので、それを示す。


(1)インターネット画面でのデータ提供は、第三者へ取引内容を記した文書を私、そこからその文書を取得することを強制する仕組みである点。
(2)上記の仕組みを使用する場合、第三者(サーバー会社等)へIDやメールアドレスなどの自社の情報の登録を強いる点。
(3)「控除明細書」には物品代、運送料運賃類、広告費、売上値引や歩戻など各種の取引条件が含まれ、通常その通知は「信書」扱いとされ、その通知方法の変更が行われる場合、双方の同意が不可欠である点。
(4)その同意がない場合は、従来通り、郵送でなければならない点。

そしてこれを添え、会員各社に「緊急アンケート」を配信している。

 これは6月下旬から7月にかけて、日販から文書として届いているが、業界紙などでも報じられていない。出版協のアンケートにしても、7月下旬配信で、まだそれらの集計が出ていないこともあり、本クロニクルでも注視を続け、レポートしていくつもりである。
 またこちらはトーハンだが、小出版社の新刊配本に対し、総量規制ならぬ総量緩和が起きていて、これまでより多い仕入れが生じている。だがこれも大手出版社でも同様なのか、まだ確認できていない。こちらも続けてレポートしていきたい。



9.本クロニクル121で、文春の内紛を伝えたが、その後「文藝春秋 木俣正剛常務取締役による『社員の皆さんへ』というメール」が出回り、そこには文春の社長人事の内紛事情がしたためられ、次のような文言が見える。

 いうまでもなく出版不況はさらにこれから厳しさを増すでしょう。そのなかで生き残る のに問われるのは、なぜ文藝春秋という会社がこの国に必要なのか、文藝春秋が日本人の ために何ができるのかを常に自戒することだと思います。私は文藝春秋という会社は日本 にとって大切な会社だとずっと思ってきました。ただ、数字的に生き延びればいい、という会社ではあってはならないと思いますし、これからもそうであってほしい。


この一文を引いたのは、「文藝春秋」を「出版業界」に置き換えて読むことができるからだ。ただ残念なのは、木俣が依然として「出版不況」というタームを使っていることで、やはり出版業界の人々は、自分がいた場所とそこでの体験を通じてしか、出版とその状況を理解できず、語れないと実感してしまう。

 これはもはや今世紀初頭の話になってしまうけれど、文春の労組に呼ばれ、文春で講演したことがあった。そこで再版委託制に基づく近代出版流通システムが崩壊していること、書店のバブル出店と郊外消費社会の関係、ブックオフとCCC=TSUTAYAの台頭による書店の退場、公共図書館の増殖などを挙げ、すでに出版状況は危機を迎え、このまま書籍の再版委託制を続けていけば、その危機は加速していくばかりだと話してきた。
 おそらく木俣たちもその場にいたはずだが、当時は誰も理解しておらず、現在のような出版状況、それに重なるような文春の内紛が生じるとは予想もしていなかったにちがいない。
 その頃、私は同じことをダイレクトに、小学館の相賀社長、ジュンク堂の工藤社長にも伝えたし、それは新潮社や岩波書店も同様である。しかし彼らにしても、木俣や文春と同じだったことがよくわかる。

 結局のところ、私の出版危機論は一部の人にしか理解されず、ついにはここまできてしまったというしかない。



10.筑摩書房は大宮の老朽化した物流倉庫「筑摩書房サービスセンター」を閉鎖し、在庫の保管や物流を小学館グループの昭和図書に移す。

 それに伴い、1100坪の敷地は売却されるようで、すでにその金額も固まっていると伝えられている。
 前回の本クロニクルでも既述したが、社長の交代と倉庫用地の売却はパラレルで進められたことになろう。
 でトーハンの本社内書籍新刊物流が和光市の最新作業所に移されることにふれたが、日教販も本社内の教科書物流機能を、京葉流通倉庫の笹目流通センター(埼玉県戸田市)に移管する。



11.彩流社が京都のIT企業コギトにM&A され、コギトグループの一員となった。
 ただし代表取締役には竹内淳夫が引き続き就任し、出版事業に何ら変更はないと発表されている。

 これまでも本クロニクルで多くの出版社のM&Aを伝えてきたし、それによって出版物が変わってしまった例も見てきた。だが幸いにして、彩流社は経営者も出版物も変わらないままということなので、まずはよかったというべきだろう。
 出版社のM&Aをめぐっては水面下で多くの交渉がもたれているようだが、買収企業が定かでなく進められている場合も多くあるようで、これはこれで一筋縄ではいかない世界なのであろう。



12.岩田書院から創立25周年となる2018年『図書目録』を送られた。
 そこには「25周年記念謝恩セール」の案内とともに、「新刊ニュースの裏だより2017・5~2018・3」も収録され、次のような「売上高・出版点数推移」が公開されている。

 1997年(創立4年目)が売上8730万円で新刊31点、これに対して、昨年2016年(創立23年目)が同じ8780万円で40点、しかも1997年は総点数が98点に対して、2016年は10倍の984点に達しているにもかかわらず、である。
 これは、いかに新刊1点あたりの売上が落ちているか、ということと、既刊本の点数がいくらあっても、売り上げとしては あまり期待できない、ということを示している。途中の2006年の谷間は何か?、なんでだろう。そんな大きな企画があったわけではないし、よく判らないが、いずれにしろ、出版社は新刊を作り続けなくてはならない、ということか。


 かつては在庫点数が増えるほど、出版社の財産となると信じられたけれど、そうした神話はとっくに失われてしまったのである。
 出版点数が10倍になっても、売上高はまったく変わらないという出版社の恐るべき現実がここに語られている。
 それは大中出版社も例外ではなく、小出版社と同様に「新刊を作り続けなくてはならない」現実を浮かび上がらせている。



13.『選択』(8月号)が「滅びゆく『大学出版会』」という記事を発信し、次のように始めている。

 学者、研究者が自らの研究成果を世に問う学術書を出す機能を担う大学出版会の衰退が加速している。東京大学出版会、慶應義塾大学出版会などトップ大学の出版会すら経営は実質赤字。経営破綻し、民間の出版社に業務を丸投げした名門大学の出版会もある。学術的価値よりも「売れる本」づくりに走る出版会も多く、肝心の学術書は科研費や研究者の自己負担でようやく日の目をみる、といった状況だ。日本語で書かれた学術書は世界に市場を持たないという事情はあるにせよ、大学出版会の惨状は日本の「知の衰退」そのものを映し出しているようだ。

そして実際に大阪大学出版会、名古屋大学出版会、慶応義塾大学出版会などの例が挙げられ、安定収入だった教科書出版の激減、大学や国からの助成金、著編者負担金が出版収入を上回る実態がレポートされている。

12の岩田書院ではないけれど、東大出版会の『知の技法』などを例外として、おそらく既刊書もまったく売れなくなっているのだろう。それほど「全国の大学出版会の本は売れていないのだ」。
 これが一般の出版社と変わらない大学出版会の現在の姿といえるであろう。
知の技法



14.同時代社から三宅勝久『大東建託の内幕』を送られた。

大東建託の内幕

 同書はアマゾンの隠れたるベストセラーとなっているようで、それを受けて『朝日新聞』(7/26~28)で、「サブリースリスク」が付された「負動産時代」特集が組まれたといっていい。
 スルガ銀行に端を発したサブリース問題はレオパレス21や大東建託にも及び、18年はサブリース破綻元年になるのではないかとも伝えられている。しかもそれにリンクする個人の賃貸アパート向け融資残高は23兆円に達していて、これが日本版「サブプライムローン問題」となって現実化するのではないかとも観測されている。

 「サブリース」とは『大東建託の内幕』に詳しいが、オーナーが建てたアパートなどを建設業者が一括で借り上げ、家賃も一括で支払うシステムをさしている。
 それならば、出版業界との関係はないように思われるかもしれないが、大手ハウスメーカーなどはこのシステムを利用し、テナント開発を行なってきたのであり、それを通じて1980年代以後の郊外消費社会も形成され、そこでは書店も例外ではなかったのだ。

 実際に書店の大手ナショナルチェーンは大手ハウスメーカーと組み、資産家を対象としてフランチャイズ展開をしていたし、その建物と商品代金の巨額な投資は自殺者まで発生したと伝えられている。これは資産家と大手書店FCを直接リンクさせているとはいえないけれど、サブリース商法の一環として、生み出されたことは間違いない。
 このサブリースの第一の特徴は建築費が高いことで、それが家賃へと反映され、商業テナントも同様である。だがその代わり、サブリースを導入したことで、テナント側は家賃は高いけれど、賃貸拘束期間も他に比べて短く、どちらかといえば、容易に出店、閉店できる。また1990年に入っての大店法の規制緩和と2000年の大店立地法の成立も相乗し、店舗は大型化していき、そこには多くの場合、サブリースが応用されていた。そして当然のことながら、家賃は高くなり、ビルテナント、ショッピングセンターにも及び、その結果採算がとれる業種とそうでない業種に分かれていった。その後者の典型が書店の大型複合店で、しかも雑誌とレンタルの凋落を受け、現実的に高い家賃を払えない状況を招来している。その表われの一端が、書店マージン30%要求だと見なすべきだろう
 
 本クロニクルはずっと書店の出店をバブルだと指摘してきたが、それはこのようなサブリース問題を含んだ出店メカニズムに注視してきたからである。
 それからこれは稿をあらためてけれど、CCC=TSUTAYAに象徴されるフランチャイズ展開もサブリースシステムといえるだろう。取次に対し、フランチャイジーの支払いを一括で引き受けることによって成立しているのだから。
 また郊外消費社会成立のメカニズムに関しては、拙著『〈郊外〉の誕生と死』『郊外の果てへの旅/混住社会論』を参照されたい。
『〈郊外〉の誕生と死 郊外の果てへの旅

 

15.『脈』(98号、地方・小出版流通センター扱い)が特集「写真家潮田登久子・島尾伸三」として届けられた。 

f:id:OdaMitsuo:20180825162338j:plain:h113 みすず書房旧社屋(『みすず書房旧社屋』)

 『脈』は那覇市の比嘉加津夫を編集発行人とする文芸同人誌で、友人がずっと恵送してくれることもあって、愛読している。『脈』は沖縄に関係する人々の特集をマインとしているのだが、今回の特集は思いがけないものだった。
 とりわけ巻頭の『みすず書房旧社屋』の写真家である潮田の「本と景色と私」における17の「PLATE」は近代から現在にかけての本の生々しい景色を物語っているようで、現在のメタファーとなっていると思われた。またそれに続く島尾伸三による島尾敏雄の写真も興味深い。
 ちなみに『脈』96号は「芥川賞作家・東峰夫の小説」、97号は「沖縄を生きた島成郎」を特集し、次の99号は「吉本隆明が尊敬した今氏乙治作品集」(11月刊行)予定となっている。



16.「出版人に聞く」シリーズ番外編2として、関根由子『家庭通信社と戦後五〇年史』が8月下旬に刊行された。
 論創社HP「本を読む」㉛は「『二十世紀の文学』としての集英社『世界文学全集』」です。

家庭通信社と戦後五〇年史