出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル120(2018年4月1日~4月30日)

18年3月の書籍雑誌推定販売金額は1625億円で、前年比8.0%減。
書籍は1017億円で、同3.2%減。
雑誌は608億円で、同15.0%減。
雑誌の内訳は月刊誌が507億円で、同15.9%減、週刊誌は101億円で、同10.2%減。
返品率は書籍が27.1%、雑誌が42.0%。
書店店頭売上は『漫画 君たちはどう生きるか』などのヒットがあり、書籍は前年比1%マイナスだが、雑誌は定期誌10%減、ムック11%減、コミック6%減で、17年以上にトータルとしての雑誌離れが進行している。
3月の前年同月比マイナスは141億円で、18年の1月から3月にかけての第1四半期は322億円減である。
詳細は『出版状況クロニクル4』の2014年のところを見てほしいが、破綻以前の取次のそれぞれの売上高は、大阪屋が766億円、栗田出版販売が371億円、太洋社が252億円であるから、いかにマイナスが大きいかわかるだろう。それが現在の取次を直撃している。
第2四半期も始まっていくが、現在の出版状況から考えれば、マイナスは加速していくと判断するしかない。

君たちはどう生きるか  出版状況クロニクル4


 
1.前回もふれたように、『日経新聞』(3/31)の発信によれば、楽天が大阪屋栗田に対し、20億円追加出資して子会社化し、社名も「楽天」を含む商号に変更するとのことだった。
 だが楽天は、それは自社からのリリースではないとし、コメントを拒否し、その後の動向も伝えられていない。

 結局のところ、『日経新聞』の発信は大阪屋栗田、もしくは株主出版社周辺からのリークと見なせるだろう。
 楽天は3月9日付プレスリリース「一部ウエブサイトについて」を出し、「楽天は、引き続き株式会社大阪屋栗田―OaK 出版流通―と連携し、出版業界の発展に取り組んでまいります」と宣言したばかりなので、どうなっているのか。リリースの注として、これは「発表日現在の情報」で、「最新の情報と異なる場合」があると付されているが、そういうことなのであろうか。
 それに関し、大阪屋栗田も「ニュースリリース」を出さず、マスコミや業界紙などでも続報は伝えられず、1ヵ月が過ぎたことになる。
 その一方で、大阪屋栗田の取引書店による18年「OaK友の会」連合大会は中止、新入社員も17年に引き続き、ゼロ採用となっている。



2.これも前回の本クロニクルで、日販の平林彰社長の出版社への取引条件変更要請について、「日販非常事態宣言」だとの判断を既述しておいた。

 しかしかつて取次史上なかった重要な発言であるにもかかわらず、と同様にマスコミや業界紙も、大問題として言及することを避けていると見なすしかない。大手新聞はいずれも出版部門を抱えているので、自らの問題へと跳ね返ってくるし、それは出版社系経済誌も同様であるからだ。
 だがこれは出版業界で最大の売上高6200億円を超える取次としての日販の発言、しかもこの出版危機状況における発信という事実からすれば、看過すべき問題ではない。正面から直視し、そこにこめられた意味を解読すべきだろう。

 そこから浮かび上がってくるのは、1990年以後の日販がたどってきたCCC=TSUTAYAとの癒着というしかない、複合大型店のフランチャイズ・ナショナルチェーン化の帰結である。それは取次戦争でもあり、鈴木書店、大阪屋、栗田、太洋社、日本地図共販を敗北へと追いやってきた。しかしそうしたプロセスは、流通業としての取次が自ら危機を招来したともいえる。
 流通業の原則からすれば、一定数の標準店をベースとして、取次システムは構築され、成立していたのである。その雑誌をメインとする標準店とは中小書店に他ならず、取次全体として2万店以上が不可欠だったと考えられる。丸善や紀伊國屋などの特販の大型店は統一正味、歩戻し、返品当月入帳などから利益は上がらず、大半を占める中小書店こそが取次にとっての安定した市場で、まさに生命線に他ならなかった。

 だが『出版業界の危機と社会構造』で詳細に記述しておいたように、1990年代半ばの改正大店法の規制緩和から2000年の大店立地法の施行により、大型店出店はフリーとなり、TSUTAYAを始めとするナショナルチェーンは、さらに複合大型店化を進めていった。それが中小書店を壊滅させることになったのはいうまでもあるまい。 
 それとパラレルに中小取次も退場に追いやられ、かくして日販とトーハンだけがサバイバルしてきたことになる。しかし雑誌とレンタルが凋落する中で、こちらもまた利益をもたらさないバブル出店的大型店、「囲い込み」傘下書店、大赤字のコンビニが残されたことになる。

 「日販非常事態宣言」はこのような取次と書店状況を背景として出されたものだと見なせよう。前回、の大阪屋栗田が株主にしか目が向いていないと指摘しておいたが、日販の場合は「囲い込み」傘下書店とCCC=TSUTAYAにあることが歴然としている。
 かつては大手出版社の雑誌をコアとし、その流通と金融を代行することが存在理由だったはずの大手取次は、初めて書店の側に立ったことになる。それは単純計算すると、「囲い込み」傘下書店とCCC=TSUTAYAの販売金額を合わせれば、日販の売上高の半分の3000億円に達するからだ。しかもそれらが危機に追いやられていることは間違いない。

 それに「日販非常事態宣言」はすでに現在の取次システムが赤字だといっているに等しいことに注視しなければならない。これも流通業の原則だが、採算ベースを上回っていけば、利益率は上昇する一方だけれども、下回った場合、赤字が加速して増加していくという事実である。
 そのような取次の状況下においても、出版社との取引条件変更交渉はスムーズに進むはずもないし、出版社側から見れば、書店支援というよりも、レンタルその他部門へ補填流用されるのではないかと疑心暗鬼も生じるだろう。もはや出版社、取次、書店というコミュニティが崩壊してしまった中での交渉が難しいことはいうまでもない。

 これから否応なく焦眉の問題として、取次に関する事柄や情報が語られていくだろうが、その際には取次に関する基礎文献である、村上信明『出版流通とシステム』(新文化通信社、1984)、清水文吉『本は流れる』(日本エディタースクール出版部、1991)、西谷能雄『出版流通機構試論』(未来社、1981)などに目を通してからにしてほしい。
 村上がその著書でいっているように、出版社や書店以上に「一つ一つの事柄が体系的かつ全体的に把握されていなければ、取次を語ることは難しい」し、本クロニクルもそれを自戒の言葉としているからだ。

出版業界の危機と社会構造  f:id:OdaMitsuo:20180426175504j:plain:h110  f:id:OdaMitsuo:20180426175852j:plain:h110



3.有隣堂が東京ミッドタウン日比谷3階に「HIBIYA CENTRAL MARKET」237坪をオープン。
 これは居酒屋、理容室、アパレル、雑貨、メガネ、コーヒー、書籍雑誌、イベントスペースの8業種の新規店で、すべてを直営し、目標粗利益率は60%とされる。


4.今井書店グループが雑貨とカフェと本を融合させた「シマトリ」を本の学校今井ブックセンター内に150坪でオープン。

 これらふたつの新業態店の写真が「文化通信bBB」(4/23)に掲載され、もはや書店が単独店で生き残っていくことが不可能な時代に入ってしまったことを象徴しているかのようだ。
 そういえば、これもすでに20年近く前のことになってしまうけれど、本の学校今井ブックセンターに呼ばれたことがあった。その2階から書店の光景を眺め、感銘を受けたことを思い出す。その時会った人たちはお達者であろうか。



5.『出版月報』(3月号)が特集「文庫マーケットレポート2017」を組んでいるので、その「文庫マーケット推移」を示す。

■文庫マーケットの推移
新刊点数推定販売部数推定販売金額返品率
増減率万冊増減率億円増減率
19954,7392.6%26,847▲6.9%1,396▲4.0%36.5%
19964,718▲0.4%25,520▲4.9%1,355▲2.9%34.7%
19975,0577.2%25,159▲1.4%1,3590.3%39.2%
19985,3375.5%24,711▲1.8%1,3690.7%41.2%
19995,4612.3%23,649▲4.3%1,355▲1.0%43.4%
20006,09511.6%23,165▲2.0%1,327▲2.1%43.4%
20016,2412.4%22,045▲4.8%1,270▲4.3%41.8%
20026,155▲1.4%21,991▲0.2%1,293 1.8%40.4%
20036,3733.5%21,711▲1.3%1,281▲0.9%40.3%
20046,7415.8%22,1352.0%1,3132.5%39.3%
20056,7760.5%22,2000.3%1,3392.0%40.3%
20067,0253.7%23,7987.2%1,4165.8%39.1%
20077,3204.2%22,727▲4.5%1,371▲3.2%40.5%
20087,8096.7%22,341▲1.7%1,359▲0.9%41.9%
20098,1434.3%21,559▲3.5%1,322▲2.7%42.3%
20107,869▲3.4%21,210▲1.6%1,309▲1.0%40.0%
20118,0101.8%21,2290.1%1,3190.8%37.5%
20128,4525.5%21,2310.0%1,3260.5%38.1%
20138,4870.4%20,459▲3.6%1,293▲2.5%38.5%
20148,6181.5%18,901▲7.6%1,213▲6.2%39.0%
20158,514▲1.2%17,572▲7.0%1,140▲6.0%39.8%
20168,318▲2.3%16,302▲7.2%1,069▲6.2%39.9%
20178,136▲2.2%15,419▲5.4%1,015▲5.1%39.7%

 文庫販売金額はかろうじて1000億円を割りこまなかったけれど、5年連続マイナスで、下げ止まる気配はまったくない。17年の書籍推定販売金額のシェアは14.7%で、雑誌、コミックと並ぶ書店売上のベースを占めているが、前回のクロニクルで見たように、雑誌、コミック、文庫と、書店売上の柱が揃って落ちこむばかりである。

 しかも1990年代後半は新刊点数5000点台で、販売金額1300億円をキープしていたのに、それが6000点から8000点台に及びながら、16年に至っては1000億円、18年にはそれも割ってしまうことが確実である。
 それから返品率はこの4年間39%台で推移し、文庫の生産、流通も赤字になっているのではないかとも推測される。文庫は雑誌に最も近いかたちで発行されていることからすれば、雑誌と同じく返品の多くは断裁の憂き目にあっていることも考えられる。もはや文庫もロングセラーではなく、絶版の山を築きながら出されているのだろう。



6.『日本の図書館統計と名簿2017』も出されたので、公共図書館の推移を示す。

日本の図書館統計と名簿2017
 

■公共図書館の推移
    年    図書館数
専任
職員数
(人)
蔵書冊数
(千冊)
年間受入
図書冊数
(千冊)
個人貸出
登録者数
(千人)
個人貸出
総数
(千点)
資料費
当年度
予算
(万円)
1971 8855,69831,3652,5052,00724,190225,338
1980 1,3209,21472,3188,4667,633128,8981,050,825
1990 1,92813,381162,89714,56816,858263,0422,483,690
1997 2,45015,474249,64919,32030,608432,8743,494,209
1998 2,52415,535263,12119,31833,091453,3733,507,383
1999 2,58515,454276,57319,75735,755495,4603,479,268
2000 2,63915,276286,95019,34737,002523,5713,461,925
2001 2,68115,347299,13320,63339,670532,7033,423,836
2002 2,71115,284310,16519,61741,445546,2873,369,791
2003 2,75914,928321,81119,86742,705571,0643,248,000
2004 2,82514,664333,96220,46046,763609,6873,187,244
2005 2,95314,302344,85620,92547,022616,9573,073,408
2006 3,08214,070356,71018,97048,549618,2643,047,030
2007 3,11113,573365,71318,10448,089640,8602,996,510
2008 3,12613,103374,72918,58850,428656,5633,027,561
2009 3,16412,699386,00018,66151,377691,6842,893,203
2010 3,18812,114393,29218,09552,706711,7152,841,626
2011 3,21011,759400,11917,94953,444716,1812,786,075
2012 3,23411,652410,22418,95654,126714,9712,798,192
2013 3,24811,172417,54717,57754,792711,4942,793,171
20143,24610,933423,82817,28255,290695,2772,851,733
2015 3,26110,539430,99316,30855,726690,4802,812,894
20163,28010,443436,96116,46757,509703,5172,792,309
2017 3,29210,257442,82216,36157,323691,4712,792,514

 17年の個人貸出数は、16年に7億冊を回復していたが、14、15年と同様に6億冊台へと戻ってしまった。だが図書館数は19館の増加を見ているし、貸出登録者数もほぼ横ばいであることからすれば、基本的には2010年代は7億冊前後の貸出数で推移してきていると見るべきだろう。

 だが問題なのは書籍の推定販売部数が2011年から7億冊を下回り、図書館貸出数に抜かれてしまったことで、しかも17年にはついに6億冊を割り、5億9157万冊となり、両者の差は1億冊に及んでしまった。
 書籍推定販売冊数の推移をたどれば、1996年の9億冊から3億冊のマイナスとなっている。それに対し、図書館貸出冊数は97年の4.3億冊から、17年の6.9億冊と2.6億冊増加し、書籍販売冊数のマイナスと近い数字となる。
 もちろんこれがすべての図書館の影響だというつもりもないし、この20年間における出版物売上高と書店数の半減も作用していることは承知している。だが書店との棲み分けを考慮しない公共図書館の増加が、このような貸出冊数と販売冊数の逆転を生じさせたことは否定できないだろう。

 またしても、文春の松井清人社長たちと千代田区立図書館員たちによる「文庫貸し出しの議論」がもたれている。しかしそれよりも直視すべきはで示した日本の出版業界における文庫の位置づけ、出版経済も含めた文庫の意味、ここで挙げた図書館データ推移から浮かび上がる公共図書館における市民と読者、蔵書と貸出の関係、文庫で読むことの読書習慣などの根本的な問題ではないだろうか。



7.CCCの連結子会社で、コミックやライトノベルを発行するアース・スターエンターテイメントが泰文堂の全株式を取得し100%子会社化。


8.旭屋書店を運営する旭屋書店と東京旭屋書店は、それぞれ発行済み株式の30%強をCCCに売却。

 いずれもCCC傘下へということになるが、釈然としない印象がつきまとう。
 出版社としての泰文堂は語学や教科書がメインだったはずで、それがコミックやライトノベル版元による子会社化にどのような意味があるのか。考えられるのは、泰文堂が老舗出版社ゆえに高正味という理由だが、まだ他にも事情があるのかもしれない。
 旭屋書店の場合も、『出版状況クロニクル5』でふれておいたように、もはや書店売上ランキングからも姿を消していて、この出版状況下でのM&A案件にふさわしいとも思われない。とりあえず日販がCCC傘下に「囲い込み」させたということになろうか。
 まだ公表されていない出版社のM&Aも多くあり、語学書ということであれば、三修社も映像、ネット、モバイル、ゲームなどを媒体とするコンテンツ制作の総合メディアプロダクションのブレイングループの傘下入りしたようだ。
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9.京都府舞鶴市の書籍販売とCD・DVDレンタルのカルチャープレスが破産。
 2001年の年商4億4000万円が17年には1億6000万円に減少していた。負債は1億3500万円。

 『ブックストア全ガイド96年版』(アルメディア)で確認してみると、舞鶴市にもINDEXにもカルチャープレスは見当らない。
 96年以後の創業、もしくは社名変更も考えられるが、レンタルから始めて出版物も手がけるという複合店化をたどった業態のように思われる。そのようにカルチャープレスを位置づけてみると、レンタル事業の失墜は加速していることがうかがわれる。

 折しも2005年からスタートしたアマゾンのプライム会員数が初めて公表されたが、世界で1億人を突破している。またネットフリックス会員数も1億2500万人に及ぶという。見放題、聴き放題、動画配信のさらなる成長は、レンタル市場の凋落に拍車をかけていくであろう。



10.映画関連書や映画検定試験事業を手がけていたケージェイが破産。
 映画雑誌『キネマ旬報』を発行し、東京都中小企業再生支援協議会の支援を受け、私的整理を実施し、新会社に主力事業を移管し、第二会社方式による再建をめざしたが、解散となり、今回の措置に至った。負債は7億3300万円。

キネマ旬報

「旧」キネマ旬報社のたどった結末ということになる。
 『キネマ旬報』は1919年に創刊され、21年には現在まで続くキネマ旬報ベスト・テンを設け、映画評論誌としての地位を確立した。戦後の1951年に復刊し、2016年まで出されてきたが、17年「新」キネマ旬報社のもとに移されていた。
 映画を観る環境はDVD、動画配信、シネコンなどによって様変わりしてしまったといってもいいけれど、映画をめぐる出版はやせ細っていくばかりのように思える。一期一会のようにしか観られない時代は多くの映画書が出されていたのに、いつでも観られる時代になると、そうではなくなるというのは何という逆説であろうか。
 ケージェイ=「旧」キネマ旬報社のたどった結末は、それを象徴しているといっていい。



11.船井メディアが特別清算。
 同社は1995年船井総研グループの創設者船井幸雄によるプライベート・カンパニーとして設立され、月刊誌『ザ・フナイ』やCDマガジン『JUST』などの制作、販売、セミナー事業などを手がけていた。
 2008年には売上高8億円を計上していたが、14年の船井の死去に伴い、15年には3億円に落ちこみ、出版事業は15年に船井本社に譲渡されていた。負債は1億4800万円。

 船井メディアはバブル時代に設立された多くの出版社のひとつに挙げられるだろう。
 しかし創業者の知名度が高く、自らの名前を付した出版物はそれなりの売上高を確保できるにしても、その依存度が高く、亡くなってしまえば、効果は急速に希薄化していくことを示している。おそらくPHPを範として設立されたはずだが、ビジネス書出版社としての成長は難しかったのであろう。



12.政府は漫画を無料で読める海賊版サイト「漫画村」「Anitube」「MioMio」へのサイトブロッキングの「緊急対策」実施を決定。
 それを受けて、NTTグループは3つの海賊版サイトのサイトブロッキングを実施し、ソフトバンクとKDDIは検討中とされる。

 しかしこのような海賊版サイトは200以上あるとされ、誰がそのサイトブロッキングを決め、接続業者に要請するのか、具体的に明らかになっておらず、政府による検閲と事業者への圧力、議論なきサイトブロッキングの様相も帯びている。
 先に実施された児童ポルノサイトのサイトブロッキングは総務省、警察庁、事業者側が3年がかりの議論を経て決定したもので、今回の漫画の場合の「緊急対策」の内実が問われなければならないだろう。

 それは本クロニクルも、前回ふれたように、議論なきサイトブロッキング的対応に直面したからで、どのようなブログでもそうした事態に追いやられることもふまえるべきだと実感しているからだ。
 それに専門家からは、サイトブロッキングは技術的に簡単ではないし、有効性も理解されていないし、効果は疑問で、対象外サイトも見られなくなる可能性も挙げられている。また著作権被害額にしても、出されている3200億円は過大ではないかとの疑問も生じている。
 いずれにしても、議論なきサイトブロッキングは後に禍根を残すと考えざるをえない。



13.『日経MJ』(4/6)が「LINEに行列 漫画家争奪戦」と題して、スマートフォンによる漫画アプリをめぐる大手出版社とネット企業の特集を組んでいる。
 そのチャートは次のようなものである。

■大手出版社
出版社アプリ名サービス開始ダウンロード数
集英社少年ジャンプ+2014年9月900万件
小学館マンガワン2014年12月1250万件
講談社マガジンポケット2015年7月

■ネット企業
アプリ名サービス開始ダウンロード数
LINELINEマンガ2013年4月1900万件
ディー・エヌ・エーマンガボックス2013年12月1000万件
コミックスマートガンマ2013年12月950万件


 続けて大手出版社の漫画アプリ発ヒット作品も挙げてみる。ネット企業のほうでは、「ガンマ」連載のヒット作『外れたみんなの頭のネジ』の単行本発行はアース・スターエンターテイメントとあるので、7の泰文堂を子会社にしたのはネット企業系だとわかる。
外れたみんなの頭のネジ

■大手出版社漫画アプリ発ヒット作品
出版社タイトル発行部数(電子版含む)
講談社インフェクション
金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿
DAYS外伝
127万部
55万部
21万部
小学館マギシンドバッドの冒険
モブサイコ100
ケンガンアシュラ
560万部
195万部
180万部
集英社終末のハーレム220万部

 トーハンの「LINEマンガ」や「ガンマ」など、ネット系のアプリ集計によれば、それらで連載単行本化された作品数は14年4点、15年67点、16年145点、17年151点と増えてきているが、ネットで人気を得ても、単行本でヒットするとは限らないようだ。

 現在マンガアプリは100以上あると見られるが、これからも単行本点数が増えていくかどうかはもう少し見極める必要があるだろう。
 ちなみに『創』(5、6月号)も「マンガ市場の変貌」を特集している。そこで、前回の本クロニクルでも伝えたが、初めて電子コミックスが紙のコミックスを上回ったことへの言及がなされ、その逆転に対する疑問も提起されている。
 それは大手出版社のマンガ編集者も同様の意見で、電子コミックデータ集計が簡単ではないという事情も浮かび上がってくる。そしてそのことが海賊版サイトによる著作権被害額の問題へとも結びついているのである。
創



14.北海道が稀見理都『エロマンガ表現史』(太田出版)、滋賀県が黒沢哲哉『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』(双葉社)を有害図書指定。
エロマンガ表現史 全国版 あの日のエロ本自販機探訪記

 12の検閲とサイトブロッキングではないけれど、東京オリンピックを控えてであろう検閲を、地方自治体も始めている。本クロニクル116で、イオングループのミニストップや未来屋書店からの成人向け雑誌の販売中止が、千葉市からの要望によることを既述しておいた

 それは前回の東京オリンピックと連動して起きた1963年の「悪書追放運動」を想起させるので、千葉市のイオンの例を、自治体と流通業者は見ならうべきではないと述べておいた。しかしこれらの有害図書指定に明らかなように、地方自治体のほうは見ならおうとしているのだろう。それも政府による海賊版サイトへの検閲とサイトブロッキングによって、さらに推進されていくのではないだろうか。
odamitsuo.hatenablog.com



15.『現代思想』(3月号)が「物流スタディーズ―ヒトとモノの新しい付き合い方を考える」を組んでいる。
現代思想

 本クロニクルでも、何度か『現代思想』の特集に言及してきたが、まさか物流問題までは想像していなかった。
 しかし本クロニクル113でふれているように、デパート、ショッピングセンターなどの「旧大陸」に対して、「新大陸」とされるアマゾンやメルカリを見れば、それがインターネットを通じての金融とロジスティクスを伴うグローバリゼーションであるばかりでなく、新たなテクノロジーによる物流革命だと認識できる。
 
 今回の特集では、田中浩也と若林恵の対談「グローバルとローカルをつなぐテクノロジーの編集力」、大黒岳彦「〈流通〉の社会哲学」にとても触発されたことを記しておこう。
odamitsuo.hatenablog.com



16.春秋社が創業100周年として、「年次別刊行書目(1919年~2017年)」を収録した図書目録を刊行。

 春秋社は昭和円本時代に、『世界大思想全集』第Ⅰ期78巻を刊行しているが、この企画編集と翻訳の全容がつかめていない。
 それから夢野久作の『ドグラ・マグラ』を始めとして、多くの探偵小説を、発行所春秋社、発売所松柏館として刊行している。こちらもその全貌が不明である。
 先日も同様にして、昭和12年刊行のトムソン『探偵作家論』(廣播洲訳)を入手したが、図書目録には同11年刊行とあった。
 春秋社の戦前のまとまった単行本リストを目にするのは初めてなので、とても参考になるし、貴重な書誌データとして有難い。
 なお世界思想社も創業70周年記念号として、『世界思想』(45号)が特集「メディア・リテラシー」を組んでいることを付記しておく。
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17.ロシア文学者の太田正一が亡くなった。

f:id:OdaMitsuo:20180428142400j:plain:h110 プリーシヴィンの日記 エマ・ゴールドマン自伝

 彼は小社のプリーシヴィン『ロシアの自然誌』『森のしずく』の訳者であり、私も『エマ・ゴールドマン自伝』(ぱる出版)の拙訳に際して、ロシア語関連のことで、ご教示を得ている。
 その死を追悼し、中村喜和による太田正一編訳『プリーシヴィンの日記』(成文社)の書評が『産経新聞』(4/1)に掲載された。
 プリーシヴィンはロシアの先駆的なエコロジストにして思想家であった。1990年代に、その初めてといっていい翻訳に際し、ロシア語版選集を彼にプレゼントできたことは本当によかったと思う。この『日記』の訳出もそれによっているのかもしれないからだ。
 しばらく会っていなかったのが残念だが、心からご冥福を祈る。



18.植田康夫の死が伝えられてきた。
『「週刊読書人」と戦後知識人』

 彼はいうまでもなく、『週刊読書人』編集長や上智大学教授、出版学会会長、の本の学校理事長も務め、出版業界でもよく知られていた人物であった。
 だが私にとっては何よりも、『「週刊読書人」と戦後知識人』(「出版人に聞く」17)の著者で、図らずも、これが実質的遺著となってしまった。そうした意味において、インタビューしておいてよかったと思う。とはいえ、このシリーズの著者の死は5人目である。
 外出が困難になってきたとは仄聞していたけれど、死に至るほどではないと考えていた。
 謹んでご冥福を祈ります。



19.『出版状況クロニクル5』は5月上旬発売となる。
 このような出版状況下で、スピルバーグの『ペンタゴン・ペーパーズ』を観たことを、そっと付け加えておこう。
 論創社HP「本を読む」㉗は「松田哲夫、筑摩書房『現代漫画』、『つげ義春集』」です。

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