23年7月の書籍雑誌推定販売金額は738億円で、前年比0.9%減。
書籍は388億円で、同2.2%減。
雑誌は350億円で、同0.5%増。
雑誌の内訳は月刊誌が293億円で、同3.2%増、週刊誌は56億円で、同11.7%減。
返品率は書籍が41.0%、雑誌が42.9%で、月刊誌は42.0%、週刊誌は47.1%。
雑誌のプラスは22年8月以来11ヵ月ぶりだが、コミックスの『ONE PIECE』『呪術廻戦』『キングダム』『【推しの子】』(いずれも集英社)『ブルーロック』(講談社)の新刊が出されたことによっている。
しかし雑誌の40%を超える返品率はまったく改善されておらず、雑誌販売金額もコミック次第という状況が続いている。
1.『日経MJ』(8/2)の「第51回日本の専門店調査」が出された。
そのうちの「書籍・文具売上高ランキング」を示す。
順位 | 会社名 | 売上高 (百万円) | 伸び率 (%) | 経常利益 (百万円) | 店舗数 |
1 | 紀伊國屋書店 | 96,885 | ー | 1,064 | 67 |
2 | ブックオフコーポレーション | 81,121 | ー | 1,264 | ー |
3 | 丸善ジュンク堂書店 | 66,391 | ▲5.1 | ー | ー |
4 | 有隣堂 | 52,216 | ▲21.9 | 514 | 59 |
5 | 未来屋書店 | 45,193 | ー | ー | 236 |
6 | トップカルチャー(蔦屋書店、TSUTAYA) | 20,467 | ー | ▲199 | 64 |
7 | ヴィレッジヴァンガード | 19,927 | ー | 198 | ー |
8 | 精文館書店 | 19,300 | ▲12.6 | 162 | 49 |
9 | 三洋堂書店 | 17,584 | ▲6.4 | ▲187 | 73 |
10 | 文教堂 | 15,845 | ▲10.4 | 120 | 91 |
11 | リブロプラス(リブロ、オリオン書房、あゆみBOOKS他) | 15,717 | ー | ▲81 | 82 |
12 | リラィアブル(コーチャンフォー) | 14,221 | 0.6 | 412 | 11 |
13 | 大垣書店 | 12,736 | ▲2.3 | 94 | 44 |
14 | キクヤ図書販売 | 10,175 | ▲5.8 | ー | 36 |
15 | ブックエース | 8,768 | ▲2.5 | 127 | 31 |
16 | オー・エンターテイメント(WAY書店) | 8,371 | ▲6.6 | 5 | 67 |
17 | 勝木書店 | 4,937 | ▲9.9 | 127 | 15 |
18 | 成田書店 | 1,166 | ▲7.3 | ー | 4 |
ー | カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA、蔦屋書店) | 108,677 | ▲40.3 | 5,390 | ー |
ー | くまざわ書店 | 42,581 | ▲4.9 | ー | 238 |
ー | 三省堂書店 | 18,800 | ▲5.8 | ー | 24 |
ー | ゲオストア(ゲオ) | 197,274 | 4.6 | 3,335 | 1,089 |
今回の調査において、「書籍・文具」部門にコメントが付されていないことに加え、「業種別売上高の増減率」表にも明らかなように、23業種のうち19業種が増収となっているが、「書籍・文具」は最下位で、減収が20%近くに及び、突出した最悪の状況を迎えている。
それはとりわけCCCに顕著で、40.3%減に象徴されている。しかも今回の売上高計上は会計ルール「収益認識に関する会計基準」が適用されたことにもよっている。そのために近年はずっとトップを占めてきたにもかかわらず、「連結適用」となり、番外に置かれている。それはくまざわ書店、三省堂書店も同様である。
もはや、「書籍・文具」部門は専門店調査の対象からも外されていく時代へと向かっているようだ。
2.トップカルチャーは第三者割当増資で、6億7000万円を調達する。
割当先はトーハンでトップカルチャー株式の22%を占める筆頭株主となる。
本クロニクル182で、トップカルチャーの日販、MPDからトーハンへの帳合変更を伝えたばかりだが、その条件のひとつが、この第三者割当増資だったことになろう。その一方で、26年までに19店の撤退を検討中とされる。
このような事態はトーハンによる日販の一部吸収合併ではないか、またCCC、日販、MPDの三位一体の関係も解体過程に入っているのはないかとも記述しておいた。
それにトップカルチャーは1の「売上高ランキング」で6位であり、7位の精文館書店、16位のオー・エンターテインメントにしても、CCCのFCであるから、これらの行方も気にかかる。
さらに付け加えれば、10位の文教堂は日販が筆頭株主となっているが、こちらもどうなるのか。
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3.MPDが10月からカルチュア・エクスペリエンスへと社名変更し、CCCのFC事業とMPDの卸売事業を統合する。
代表取締役会長は日販GHD執行役員、MPD社長の長豊光、代表取締訳社長にはCCCの執行役員、TSUTAYA事業総括の鎌浦慎一郎が就任。
本クロニクル182で、紀伊國屋書店、CCC、日販が共同仕入れのための新会社を設立することにふれておいたが、MPDの社名変更とCCCのFC事業の統合はそれに向けてのMPDの切り離しのように思える。
当初は三社による共同仕入れ会社の設立は紀伊國屋、CCCのFC書店、日販子会社書店の統合による仕入れ正味のダンピングが目的ではないかと考えられた。
しかしカルチュア・エクスペリエンスの業態からすれば、TSUTAYAと日販子会社書店の紀伊國屋への統合が狙いではないだろうか。つまり丸善とジュンク堂が統合し、丸善ジュンク堂が誕生したように。
だが問題なのは丸善ジュンク堂の場合はスポンサーとしてのDNPが存在したが、日販がその役割を果たすのは難しい。それとも背後に思いがけないスポンサーが控えているのだろうか。
4.『新文化』(8/3)が「CCCの代表兼COO高橋誉則氏に聞く」として、「CCCのエンジンは人」の大見出しでの一面インタビューを掲載している。
それを要約してみる。
* 紀伊國屋書店との対話を重ねる中で、書店の粗利改善に着手するという方向性を確認し合った。
* そのためにCCCが培ってきた知的資本を業界のために提供したい。
* 紀伊國屋、日販との新会社のイメージは取次が担ってきた商流・物流機能のうちの商流機能の一部を引き継ぎ、出版社と書店が直接対話できる場をつくる機関である。
* 書店は買切条件も含めて、従来とは異なるコミットメントを求められるし、出版社もそれに合わせ、流通条件を考える必要がある。
* これからのCCCグループの全体事業像は知的資本カンパニーで、事業化されるような企画を生み出す企画会社にして、世の中に出したプロダクトやサービスをイノベーションしていく事業会社である。
* 書店分野でいえば、今一度直営店の役割を「我々の挑戦の舞台」と定義し、それを見たFC企業が社会的に価値がある、面白い、儲かるなどと評価されるのが一番大事だ。
* 今後の複合書店業態は集客と出版物との具善の出会いをどのように提供するかの両方を頑張らなければならない。また販売行為だけでなく、時間の過ごし方、人との出会いを書店の中に組みこんでいけるかも大事だ。
* 収益に関しては返品性のままでは利益率を上げようとすると、誰かがしわ寄せを食うので、出版社、取次、書店の各プレイヤーが少しずつ自分たちのやり方や考え方を変え、新しい収益モデルを作らなければならないし、新会社設立の目的もそこにある。
まだ続いているけれど、何も語っていないに等しい話と要約をさらにたどることは苦痛なので、ここで止める。
それゆえに前回の本クロニクルで示しておいた第38期決算の特別損失や特別利益に関しては「詳細は基本的に非開示」とされている。
またこれも本クロニクル182で取り上げたSMBCとの「Vポイント」化も、「詳細は基本的に非開示」のままで、肝心のことには何も言及されていない。
おそらく1、2、3のCCC状況の中において、否応なく発言を強いられる新社長というポジションに置かれているので、このようなインタビューを受けざるをえなくなったと推測される。
7月もTSUTAYAの大型店の閉店は6店を数えている。
5.出版科学研究所による23年上半期の電子出版市場を示す。
2022年 1~6月期 | 2023年 1~6月期 | 前年同期比(%) | 占有率(%) | |
電子コミック | 2,097 | 2,271 | 108.3 | 89.3 |
電子書籍 | 230 | 229 | 99.6 | 9.0 |
電子雑誌 | 46 | 42 | 91.3 | 1.7 |
電子合計 | 2,373 | 2,542 | 107.1 | 100.0 |
上半期電子出版市場は2542億円、同8.3%増だが、電子書籍、電子雑誌は前年に続いていずれもマイナスで、やはり電子出版市場自体がコミック次第ということになる。
電子コミックは各ストアの販売施策、オリジナル作品の強化、縦スクロールコミックの伸長などによって成長が続いているとされる。
6.『文学界』が9月号から電子版化。
私は『文学界』連載のリレーエッセイ「私の身体を生きる」を愛読していて、8月号の鳥飼茜「ゲームプレーヤー、かく語りき」はとても考えさせられた。私は鳥飼の『先生の白い嘘』(講談社)『サターンリターン』(小学館)を注視している。彼女の言葉を借りれば、紙の「車体」でなく、電子の「車体」でこれらのエッセイを読むと、印象が変わってしまうのではないかとも思われた。
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7.講談社、小学館、集英社は8月からPubteX が供給するRFIDタグを新刊コミックスなどに挿入して流通を始め、9月から一部の書店で実証実験を開始する。
講談社は8月以後の雑誌扱い新刊コミックス、「講談社文庫」「講談社タイガ」の新刊文庫、小学館は8月以降の新刊コミックス、集英社は9月以降の雑誌扱い新刊コミックスが対象。
RFIDは「しおり」の中に埋めこまれ、製本会社で挿入される。
本クロニクル168で、PubteXが講談社、小学館、集英社と丸紅がAI活用ソリューション事業のために立ち上げられたこと、また前回の本クロニクルでも、どうなっているのかと書いたばかりであった。
このRFID事業の他にも、AIによる配本最適化ソリューション事業も進め、出版界のサプライチェーンを再構築していくとされるが、まずはRFIDのほうはどうなるのだろう。
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8.日販が商業文化施設の丹青社と連携し、メトロ溜池山王構内に無人書店「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」を秋にオープンし、持続可能な書店モデルの実現に向けた実証実験をする 。
7との連動は定かでないが、旬なテーマに特化した品揃えの商品展開、遠隔接客システムなどを導入とされる。
こちらもどうなるのか。
9.東京書籍の高校用教科書『新高等地図』に1200ヵ所の大量訂正があり、2025年度分を最後に廃刊となる。
20年度の教科書検定に合格し、同年は3万6千冊が配布され、全国シェアは8% 。
たまたま戦前の中等学校教科書株式会社の『新選大地図外国篇修正版』を入手し、それについて書いていたのである。
奥付を見ると、昭和13年初版で訂正と修正を繰り返しながら、16年には修正6版となっている。
このように地図は修正と訂正の重版を反復しながらもロングセラー、定番商品となっていく。その意味で、ただちに廃刊という処理は校正、校閲のスタッフ不足による大量訂正が発生したことに尽きるだろう。
私も年齢的なこともあり、年を追うごとに校正、校閲が不得手となっているので、他人事ではないと実感してしまう。
10.『朝日新聞』(7/31)が「司書を22年『切られるとは』」という記事を発信している。
埼玉県狭山市の非正規司書の60代の女性が3月末で「切られる」ことになった。
それは2020年に始まった非正規地方公務員の新しい任用制度「会計年度任用職員」によるもので、任期は一年以内、総務省マニュアルで「自動更新の再任用は原則2回まで」という基準を例示したため、今年3月末で多くの人が仕事を失うとされ、「2023年問題」と呼ばれていたという。
本クロニクル182で、日本図書館協会による非正規職員の処置改善要望書の送付にふれておいたが、やはりアリバイ工作にすぎず、相変わらず、非正規職員の問題は何の解決も見ていないのであろう。
私も顔見知りの図書館職員が非正規で、やはり一年ごとの更新の繰り返しで、その時期がくると憂鬱だとの話を聞いている。
おそらくどこの図書館においても、非正規職員がコアでありながらも、不安定なポジションに置かれ、それでいて中枢の仕事を担うことで、図書館が稼働していると察せられる。それに正規職員とのヒエラルキーも存在していよう。
これらの記事も、多少なりとも『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』が参照されているのだろう。
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11.これも『朝日新聞』静岡面(8/23)によれば、伊東市で7月に着工予定だった新図書館建設が入札不調でストップする事態となっている。
建設資材と人件費の高騰、参加企業の辞退、予定価格の超過が原因で、工事費総額37億円が現状では50億近くまで上がり、再入札も見送られた。
伊東市の小野達也市長は2017年の市長選で、図書館、文化ホール建設を公約のひとつに掲げて初当選し、計画を進めていた。
本クロニクル175で、公共施設を多く手がけている親しい建築家の言として、これからの市レベルの図書館建設は資金不足、税収減収、少子高齢化に伴う財政圧迫で、不可能になるのではないかとの将来予測を紹介しておいた。
伊東市の例はまさにそれを象徴する事態を招来してしまったことになろうし、さらに他市でも同様のことが続いていくだろう。
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