17年9月の書籍雑誌の推定販売金額は1284億円で、前年比6.5%減。
書籍は720億円で、同0.5%増となり、4ヵ月ぶりに前年を上回った。
文庫本の大物新刊の刊行などによる底上げとされるが、書店実売の書籍は1%減。
雑誌は564億円で、同14.2%減。その内訳は月刊誌が467億円で、同14.2%減、週刊誌は96億円で、同14.1%減。
雑誌の2ケタ減は今年に入って4回目である。
返品率は書籍が35.5%、雑誌は42.4%で、月刊誌は42.8%、週刊誌は40.5%。
月刊誌の返品率は最悪で、今年は一度も40%を下回っておらず、月刊誌そのものだけでなく、ムックやコミックも売れなくなっている事実を突きつけている。
このような状況がさらに来年も続けば、出版業界はどうなるのか、それは火を見るより明らかであろう。
1.1月から9月までの出版物推定販売金額の推移を示す。
月 | 推定総販売金額 | 書籍 | 雑誌 | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) |
2017年 1〜9月計 | 1,049,420 | ▲6.2 | 560,653 | ▲2.7 | 488,767 | ▲9.9 |
1月 | 96,345 | ▲7.3 | 50,804 | ▲6.0 | 45,541 | ▲8.7 |
2月 | 139,880 | ▲5.2 | 82,789 | ▲1.9 | 57,092 | ▲9.6 |
3月 | 176,679 | ▲2.8 | 105,044 | ▲1.2 | 71,635 | ▲5.0 |
4月 | 112,146 | ▲10.9 | 55,090 | ▲10.0 | 57,056 | ▲11.9 |
5月 | 92,654 | ▲3.8 | 47,478 | 3.0 | 45,176 | ▲10.0 |
6月 | 110,394 | ▲3.8 | 54,185 | ▲0.2 | 56,209 | ▲7.0 |
7月 | 95,208 | ▲10.9 | 46,725 | ▲6.2 | 48,483 | ▲15.0 |
8月 | 97,646 | ▲6.3 | 46,499 | ▲3.7 | 51,147 | ▲8.6 |
9月 | 128,468 | ▲6.5 | 72,040 | 0.5 | 56,428 | ▲14.2 |
今年もあますところ、実質的には2ヵ月ということになるが、2017年の書籍雑誌推定販売金額は1兆4000億円を確実に割りこみ、1兆3800億円前後と予測される。そして18年には1兆3000億円を下回ってしまうであろう。
1996年のピーク時の2兆6563億円に比べれば、この20年間で書籍雑誌推定販売金額はまさに半減してしまった。
それとパラレルに書店数も半減してしまい、さらに閉店が続いていけば、1万店を割ることすらもありえる。大手出版社にしても、取次にしても、正確な状況分析に基づき、ヴィジョンを確立し、書店市場と併走してきたわけではない。
日本の出版業界が雑誌をベースとして成立し、中小書店が大手出版社の雑誌と書籍、大書店が中小出版社の書籍を売るという「対角線取引」によって、書店の棲み分けと再販委託制のバランスは保たれていたのである。
しかしそうした日本の書店の現実を無視した取次とナショナルチェーン書店の出店競争によって、それらの中小書店は退場してしまい、大書店は複合化を進め、実質的に「対角線取引」という言葉も失われてしまった。
もちろんこうした書籍雑誌販売額の失墜の原因は他にも求めることができるけれど、最大の要因は、販売市場としての外売力も備えた地域の中小書店の衰退に求められるであろう。これは2や4でも言及しているとおりである。
2.本クロニクル108などで、雑誌銘柄数がついに3000点を割ってしまったことを既述しておいたが、販売部数、返品率と共に2001年からたどってみる。
次の表は『出版指標年報2017年版』より抽出したものである。
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年 | 雑誌銘柄数 | 前年比(%) | 推定販売部数 (万冊) | 前年比(%) | 返品率(%) |
2001 | 3,460 | 0.8 | 328,615 | ▲3.5 | 29.4 |
2002 | 3,489 | 0.8 | 321,695 | ▲2.1 | 29.4 |
2003 | 3,554 | 1.9 | 307,612 | ▲4.4 | 31.0 |
2004 | 3,624 | 2.0 | 297,154 | ▲3.4 | 31.7 |
2005 | 3,642 | 0.5 | 287,325 | ▲3.3 | 32.9 |
2006 | 3,652 | 0.3 | 269,904 | ▲6.1 | 34.5 |
2007 | 3,644 | ▲0.2 | 261,269 | ▲3.2 | 35.2 |
2008 | 3,613 | ▲0.9 | 243,872 | ▲6.7 | 36.5 |
2009 | 3,539 | ▲2.0 | 226,974 | ▲6.9 | 36.2 |
2010 | 3,453 | ▲2.4 | 217,222 | ▲4.3 | 35.5 |
2011 | 3,376 | ▲2.2 | 198,970 | ▲8.4 | 36.1 |
2012 | 3,309 | ▲2.0 | 187,339 | ▲5.8 | 37.6 |
2013 | 3,244 | ▲2.0 | 176,368 | ▲5.9 | 38.8 |
2014 | 3,179 | ▲2.0 | 165,088 | ▲6.4 | 40.0 |
2015 | 3,078 | ▲3.2 | 147,812 | ▲10.5 | 41.8 |
2016 | 2,977 | ▲3.3 | 135,990 | ▲8.0 | 41.4 |
まずこの雑誌銘柄数だが、2016年の場合、週刊誌は81点で、その他の2896点が月刊誌となる。だが後者には月刊誌以外の不定期刊誌、ムック、コミックが含まれ、ムックとコミックは1シリーズが1点としてカウントされていることをふまえてほしい。
2000年代前半はまだ増加し、後半になると減少し始めているが、それでも3500点前後で推移していた。ところが2010年代に入ると、マイナスが続き、ついに3000点を下回ってしまったのである。
推定販売部数のほうはさらにドラスチックで、2001年から下げ止まらず、2001年の32億8615万冊から、16年にはその半分以下の13億5990万冊まで減少している。しかも2010年代に入ってからのマイナス幅は大きく、返品率は3年続きで40%を超えている。
書籍のほうは2010年代は39%から36%台で、40%を割っているので、返品率から見れば、雑誌の状況の深刻さが浮かび上がる。17年はさらに最悪の返品率となることも確実であろう。
このような雑誌の凋落とパラレルに起きているのは書店の減少で、アルメディアによれば、現在の書店数は1万2526店であるから、この10年間で4572店のマイナスとなる。その結果、書店のない地方自治体は2割を占める420に及ぶ。
雑誌の凋落の原因として、電子雑誌の成長も挙げられるが、最大の原因は1970年代と比較して半減してしまった書店市場に他ならない。しかもまだ減り続けていくだろうし、再販委託制による近代出版流通システムが限界に達していることを意味していよう。
3.太洋社の倒産処理の最終配当率は78.41%という異例の高配当で終了。
この数字は「地方・小出版流通センター通信」No.494で知ったのだが、そこには「先代が蓄積した財産を処分し、それなりの配当になった」のではないかとも記されていた。
昨年の太洋社の自主廃業から自己破産に至る経緯は、本クロニクル94、95で言及しているように、自己破産に至ったが、当初は自主廃業をめざしていた。つまりまだ体力のあるうちに事業整理を行なう予定で、そのための書店売掛金、不動産、有価証券などによる清算が目論まれていた。今回の最終配当率が高かったのは、おそらくそれらが当てられたのであろう。
これまでの鈴木書店、大阪屋、栗田の破産処理スキームと異なり、まだ資産のあるうちの自己破産が功を奏し、今回の高配当で破産処理を終えたことになる。先の「同通信」の言はそのことを伝えている。しかしこれは太洋社だけのケーススタディと見なしておくべきだろう。
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4.全国図書館大会分科会「公共図書館の役割と蔵書、出版文化維持のために」で、文藝春秋の松井清人社長が、図書館での文庫貸出をやめてほしいとの要望を表明。
その根拠として、東京都3区1市の公共図書館文庫貸出率が示され、荒川区26%、板橋区22%、(新書を含む)、豊島区24%、三鷹市17%に及び、この流れが他の地域の公共図書館にも広がっている。
今後さらに文庫貸出が増えれば、文庫収益が30%強を占める文春の売上にも少なからぬ影響を及ぼし、文庫市場の凋落は出版社だけでなく、書店や作家にとっても命とりになりかねないと訴えたとされる。
このような発言は本クロニクル103でふれた新潮社の佐藤信隆社長の公共図書館に対する新刊本の一年間の貸出猶予を求める要望、それに基づく書協の文芸小委員会による公共図書館宛の要望書の送付と同様に、単なるパフォーマンス以外の何ものでもない。新刊貸出猶予や文庫貸出中止などは、現在の公共図書館状況において、実現できるはずがないことは百も承知の上での発言だからだ。
本クロニクル108で示しておいたように、確かに文庫市場も3年続きの6%マイナスで、2017年は販売金額は1000億円、販売部数も1億5000万冊を割りこみ、最悪の数字となるだろう。しかしそれは図書館だけでなく、同108で指摘しておいた書店数の激減によっていることは明らかだ。
雑誌と同様に文庫もまた、書店の増加とパラレルに成長してきたのである。ちなみに明治末期に3000店だった書店は、昭和初期に1万店を数えるに至る。『文藝春秋』は大正12年(1923年)、岩波文庫は昭和2年(1927年)に創刊されたことは、それを証明していよう。
戦後の出版物の成長にしても、絶えず2万を超える書店という販売インフラが寄り添っていたのである。しかし1960年代に2万6000店を数えた書店は現在半減してしまい、昭和初期の1万店に近づきつつある。それこそが文庫もまた最悪の数字へと追いやった主原因に他ならない。
このような出版状況を直視することなく、公共図書館への文庫貸出中止の要請はファルスでしかない。
また『選択』(10月号)が、「マスコミ業界ばなし」で、9月に文春の松井社長から社員に召集がかかり、「雑誌だけでなく、単行本や文庫なども含めた書籍部門も振るわないため、松井社長が発破をかけた」とされる。
16年度は売上高257億円、純利益11億円だったが、17年度は売上高238億円、純利益8億7000万円で、赤字ではないものの、「全社的に息切れ状態」に陥っているようだ。
このような状況の中にあって、文庫出版の行方はどうなるであろうか。
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5.雑協は昨年初めて実施した12月31日の「年末特別発売日」は取りやめ、12月29日を最終発売日、1月4日から全国一斉発売すると発表。
昨年の「年末特別発売日」に関しては、本クロニクル103で疑問を呈し、同109でその「総括」がフェイクニュースに他ならないことを記しておいた。
雑協はこれまで今年も「年末特別発売日」を実施するとしていたが、出版社だけでなく、取次や書店からも疑問視され、また運輸事情も絡んで、中止せざるを得なかったことになろう。
雑誌の現在状況は2に示したとおりであるにもかかわらず、雑協はその現実を直視できていないし、書店が半減してしまったことが雑誌の凋落の大きな原因であることも、気づいていないかのようだ。
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6.16年度の貸与権使用料分配金額が、これまでで最高の23億5100万円となった。
これはレンタルブック事業著作使用料を管理する出版物貸与権管理センターから分配するもので、契約出版社は46社。
これらの出版社から著作権者にさらに分配され、15年は18億1000万円だったので、大幅に増加。なお1回目の2008年は5億2000万円だった。
現代のレンタル店は2172店とされる。
TSUTAYAとゲオはほとんどがコミックレンタルを兼ねているので、現在のレンタル店のシェアは両社によって大半が占められていると考えられる。
しかしわずか1年で1回目を上回る5億4100万円の増大は何を意味しているのだろうか。それは店舗改革におけるレンタルコミック部門の急速な拡張、及びそれに伴うコミック読者の増加と見なすしかない。コミック売上の凋落も、電子コミックばかりでなく、レンタルコミックにも影響されているのだろう。
7.『日経MJ』(10/27)によれば、CCCは3月以降TSUTAYAを43店閉店し、10月半ば時点でさらに3店の閉店を予定しているとされ、CD、DVDレンタル市場の急速な縮小を伝えている。
そのかたわらで、九州TSUTAYAが福岡の複合ビルに「六本松蔦屋書店」を開店。
売り場面積800坪のうち、書籍雑誌は360坪、スターバックス200席、レコード店、ファッション、イベントスペースなどからなる。
月商目標は3000万円。
この出店を取り上げたのは、TSUTAYAの出店で月商目標を初めて目にするからである。それが3000万円ということは年商3億6000万円、坪当たりの在庫50万円とすれば、総在庫は1億8000万円だから、2回転が目標となる。360坪で日商100万円、2回転の書籍、雑誌売場ではほとんど利益は上がらないと考えられるので、その他の複合によって採算をとるということなのか。
それからスタバとCCCの関係だが、書店ばかりでなく、図書館でもコラボしていることからすれば、CCCはスタバのFCなのかもしれない。
今月に入って、CCCとTSUTAYAのマスコミリリースと露出は目に見えて多くなっている。増田社長の新風会での講演、CCCの中国の出版社との合弁会社設立、Tカードプレミアム会員特典、TSUTAYAプレミアム、文具雑貨のTSUTAYAプライベートブランドなどで、これらは10月に集中している。
CCCはTSUTAYAで、812店、全チェーンで1250店を数え、Tカード会員6400万人を有するにしても、かつてない閉店ラッシュ、またここまで雑誌が凋落し、レンタルなどの複合も落ちこむ一方だから、当然のことながら、さらなる店舗リストラ、FCリストラは避けられないはずだ。その一方で、Tカードから離脱しようとする企業も出てきているようだ。
そうした中での様々なプロパガンダが、ここにきて前面に押し出されているのだろう。その渦中にいる日販とMPDはどこに向かおうとしているのか。
8.精文館書店の決算が出された。
売上高196億円、前年比2.6%減。営業利益5億円、同11.3%減、当期純利益2億7600万円、同25.3%減の減収減益。
売上内訳は、書籍・雑誌は113億円、文具、セル、レンタル75億円だから、日販子会社、CCCFCの典型的複合店の現在ということになる。店舗数は50店で、1店当たりの書籍・雑誌販売金額は月商換算すると、1900万円を割り、日商は63万円である。しかも雑誌シェアが高い。それに文具、セル、レンタルを複合させてきたのだが、書籍・雑誌に加え、この3分野もマイナスとなり、既存店の不振もいうまでもない。
日販やトーハンの傘下書店売上はそれぞれ700から800億円に及ぶとされるが、ここまで雑誌が落ちこみ、複合のメインたるレンタルも同様となると、もはやビジネスモデルが揺らいでいるというしかない。これ以上の出店も同様である。
9.文教堂GHDの連結決算は299億円、前年比7.0%減。営業利益は8900万円、当期純利益は2400万円で、前年の赤字決算から黒字に転換。
新規出店は5店、閉店は8店、改装店舗は14店とされ、スクラップ&ビルドを推進し、アニメ関連に特化した業態店「アニメガ」が好調などによる黒字とされる。
しかし売上高は減少を続け、有利子負債もそのまま抱えているはずで、健全な黒字決算とは思えない。
精文館にしても文教堂にしても、いずれも日販の傘下にあるわけだが、来期の決算がどうなるのかが問われることになろう。
10.三五館が事業停止。
1992年設立で、宗教、ビジネス、健康書などを出版し、2015年には売上高3億2000万円だったが、17年には2億5000万円まで減少し、今回の措置となった。負債は3億円。
もはや忘れられてしまったかもしれないが、三五館を設立した星山佳須也は情報センター出版局の編集長で、1980年代は星山と情報センターの時代でもあったのである。
情報センターの「センチュリイ・プレス」から椎名誠『さらば国分寺書店のオババ』 を始めとして、村松友視『私プロレスの味方です』 、関川夏央『ソウルの練習問題』 、呉智英『封建主義、その論理と情熱』 、栗本慎一郎『東京の血は、どおーんと騒ぐ』 、南伸坊『さる業界の人々』 などに加え、ハードカバーとして藤原新也『東京漂流』 を刊行し、ベストセラーならしめている。
それゆえに栗本によって、「現代をリードするソーソーたる執筆陣を擁して出版業界に大旋風を巻き起こしている原爆的張本人」とまで称されたのである。
情報センター出版局は大阪で、『日刊アルバイト情報』から始まったとされる。そして「センチュリー・プレス」の創刊に至るのだが、いずれ1980年代の星山と情報センターのことは誰かが書いてくれるだろう。
11.産経新聞出版は潮書房光人社が新設分割する潮書房光人新社の株式100%を取得し、社長には産経新聞出版の皆川豪志社長が就任。
潮書房は1956年設立で、当初は戦記ものではないジャーナリズム月刊誌『丸』を刊行していた。この雑誌に関しては、井家上隆幸『三一新書の時代』(「出版人に聞く」16)でふれられている。その後経営者が代わり、戦記物へと転換した。
光人社は1966年に潮書房の戦記物単行本のために設立され、NE文庫も刊行していたが、今世紀に入って合併し、潮書房光人社となっていた。
どこに産経新聞出版が潮書房光人社を買収する理由があるのかはっきりしないが、出版物から考えれば、戦記物に求めるしかない。かつてのサンケイ新聞と戦記物とのジョイントする分野の出版を想定してのことのように思われる。
12.『出版月報』(9月号)が「日記・手帳 人気の背景」を特集しているので、それを紹介してみる。
*日記・手帳は出版社と文具メーカーと大きく2種類に分かれ、販路もまた書店、文具店、雑貨店、量販店(ホームセンターなど)と多岐にわたる。主要ルートは書店、文具店、量販店。 |
*出版社が刊行する書店ルートの市場規模は200億円、販売シェアは1.6%。ちなみに児童書や学参は5%であり季節商品としては安定したシェアを維持。 |
*2009年から7年連続で前年を上回り、この5年間の伸び率は12年7%、13年11%、14年8%、15年7%、16年2%のプラスで、手帳が9割を占める。 |
*高橋書店、日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)、博文館新社の老舗3社が点数、部数ともに突出し、販売金額シェアは高橋書店が40%超、JMAMが30%、博文館新社が10%で、3社80%以上を占めている。日記だけの場合、博文館新社が60%シェアとなる。 |
*日記は06年349点から16年162点と半減しているが、手帳は652点から1499点とこちらは倍増で、出版社は85社に及んでいる。 |
*返品率は25~30%。 |
何も印刷されていないといっていい日記や手帳が7年連続で売上を伸ばし、分野としても安定し、返品率も低いことは、現在の出版業界において、誠に皮肉なことだというしかない。それは活字の魅力が失われてしまったことを示唆してもいる。
13.『文化通信』(10/2)の「文化通信BB」が「長岡義幸の街の本屋も見て歩く」47で、大阪屋栗田が今年1月に立ち上げた少額取引店向けの卸サービス「Foyer(ホワイエ)」を紹介しているので、それを要約してみる。
*これは雑貨屋カフェなどの他業種が新たな商材として簡便に書籍販売に取り組めるように、商品代以外の初期費用ゼロ(取引信認金なし)で卸売りする新たな出版販売の仕組みである。 |
*東京港区のホテル「ザエムインソムニア赤坂」、鹿児島県の東シナ海の甑島の民泊・食料品店の山下商店、和歌山市のイベントスペースを改装した住宅の交流施設の本屋プラグ、静岡県袋井市の家具・雑貨店CoCoChi HIROOKA、熊本県阿蘇市の移動書店310BOOKS、世田谷区豪徳寺の「絵本と育児用品の店Maar(まーる)」など50店以上が取引。 |
*取引条件は正味83%、1回の注文2万5000円以上、送品時送料は大阪屋栗田、返品時は300枚2000円で購入したシールを1箱に1枚貼り、送料は店持ち。 |
本クロニクル107で、児童書専門店、個人の小規模書店、ブックカフェ、雑貨店の取次で、クレヨンハウスの子会社である子どもの文化普及協会を紹介しておいたが、さらにニッチのホワイエといてかまわないだろう。
単独での採算は難しいだろうが、大阪屋栗田によるひとつの試みとして、紹介しておく。
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14.『日経MJ』(10/18)が「第6回ネットライフ1万人調査」を実施し、「欲しいものはスマホの中」と題して3面にわたり、特集を組んでいる。
それによれば、スマホ経由でインターネットを使う人が6割に迫り、若者を中心にしてスマホがコミュニケーションだけでなく、ほしいものを見つけて買う手段としても浸透しているという。
ネットの買い物で総合的に使うサイトやサービスは楽天市場67.3%、アマゾン66.6%、ヤフーショッピング33%だが、10代ではメルカリなどのフリマアプリが大手ネット通販サイトに近い影響力を持つほど成長してきたことがレポートされている。
前回もマーケットプレイスとしてのメルカリに言及し、書籍などの「メルカリカウル」にふれた。実際に村上春樹の『騎士団長殺し』を検索してみると、アマゾンが数十冊であることに対し、メルカリは販売済も含めて千冊以上の出品がある。すでにベストセラーのリユース市場としてはメルカリのほうが量的に多く、値段も安い。しかもメルカリはトータルとして毎日100万点の出品があるというから、商品の移動とスピードはかつてない現象を生じさせているかもしれない。何と自著も9冊あった。
このような「欲しいものはスマホの中」にある「流通新大陸」が成長し続ければ、ユニー・ファミマHDが発表したサークルKとサンクスの664店の閉店ではないけれど、リアル店舗の大閉店時代を迎えることになるかもしれない。
15.ヤマト運輸とアマゾンの運賃交渉は大筋合意し、値上げ幅は4割超となるようだ。
本クロニクル111で、ヤマトは1.7倍の値上げを要請したと記しておいたが、それでは合意できず、1.4倍という落としどころになったと考えられる。
ヤマトのアマゾン向け運賃は280円前後とされるので、400円を超えることになる。他の割引契約を結ぶ大口顧客1000社とも値上げ交渉を進め、7~8割は合意したとされる。また個人向け宅配便の基本運賃も荷物1個当たり140~180円(平均15%)を値上げしている。
佐川便も11月から値上げし、日本郵便のゆうパックもすでに値上げとなっている。
これらの運送業者の値上げは、出版流通にも大きな影響を及ぼしているようで、ある区間では2億5000万円の値上げになったと伝えられている。
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16.宮田昇『昭和の翻訳出版事件簿』(創元社)を読了した。
今回の著書は戦前の翻訳史への誤解をはらす一冊で、翻訳権のことなど、ある程度は無視して日本で出版されていたとばかり思っていたが、それなりの配慮があったことを教えられた。また戦後に関しても、具体的な例を挙げての真相究明で、まさに拳々服膺すべき「翻訳出版事件簿」といえよう。
『出版社大全』(論創社)の塩澤実信、『文壇うたかた物語』(筑摩書房)などの「文壇三部作」の大村彦次郎、『逝きし世の面影』(平凡社)の渡辺京二の3人に、宮田を加え、私は勝手に「四翁」と称んでいる。この4人は高齢社会にあって範とすべき翁たちであり、その中でも宮田は今回の著書を90歳で上梓している。さらなるご健筆を祈ります。
17.「出版人に聞く」シリーズ番外編としての関根由子『家庭通信社と戦後社会』の編集を終えた。
年内に刊行は難しいかもしれないが、地方新聞の家庭面への記事配信をめぐる半世紀の物語である。ご期待下さい。
今月の論創社HP「本を読む」㉑は「再びの丸山猛と須賀敦子」です。
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