出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話664 青磁社版『嘔吐』、馬淵量司、美和書院

別の機会に書くつもりでいたが、前回の光の書房版『神秘哲学』と同時代にサルトルの『嘔吐』も刊行され、井筒俊彦もそれにふれているので、続けて取り上げてみる。井筒は安岡章太郎との対談「思想と芸術」(『井筒俊彦著作集』別巻、中央公論社)の中で、次…

古本夜話663 光の書房と上田光雄

前回、「興亜全書」の一冊である『アラビア思想史』の戦後改訂版『イスラーム思想史』に神秘主義(スーフィズム)が加えられたことを既述しておいた。しかしこれが戦後に書かれた「アラビア哲学」という論文に基づくもので、光の書房の「世界哲学講座」第五…

古本夜話662 博文館「興亜全書」、井筒俊彦『アラビア思想史』、前嶋信次『アラビア学への途』

前回、岩波文庫版の『コーラン』の訳者として、井筒俊彦の名前を挙げておいたが、本連載564などでふれてきたように、井筒もまた大東亜戦争下のイスラム研究者の一人であり、昭和十六年には『アラビア思想史』を刊行している。これは博文館の「興亜全書」…

古本夜話661 坂本健一と『コーラン経』

本連載655で示した松宮春一郎による「世界聖典全集刊行之趣旨」からわかるように近代科学文明の積弊に対して、その出版は霊的源泉、精神文明の輝きとしての世界の諸聖典の翻訳紹介を目的としている。それは国際状況からすれば、日露戦争から第一次世界大…

古本夜話660 田中達と『死者之書』

大正九年から十年にかけての『世界聖典全集』前輯の刊行は、前回の鈴木重信の一人にとどまらず、もう一人の死者を伴わなければならなかった。しかもそれは第十巻、十一巻『死者之書』上下の翻訳者の田中達であった。 (『耆那教聖典』)『耆那教聖典』に寄せ…

古本夜話659 ピッシェル『仏陀の生涯と思想』

前回の『耆那教聖典』の松宮春一郎の「故鈴木重信君を憶ふ」の中で、次のふたつの事柄が言及されていた。ひとつは鈴木が大正二年に公刊を目的とするのではなく、ドイツ語の研修のためにピッシェルの仏陀伝を翻訳したこと、もうひとつは病者心理の研究対象、…

古本夜話658 鈴木重信と『耆那教聖典』

前回記したように、まだ興亡史論刊行会を名乗っていた松宮春一郎が、『世界聖典全集』の刊行を決意したのは、一時に妻子を失うという身近な死を受けてのことだった。しかし『世界聖典全集』刊行にあっても、予期しない死に遭遇せざるを得なかった。 それは「…

古本夜話657 荒木茂と宮本百合子『伸子』

『世界聖典外纂』で、「ミトラ教」「麻尼教」「スーフィー教』を担当している荒木茂は、その前年の大正十一年に岩波書店から『ペルシヤ文学史考』を上梓している。彼は古代から近代に至るペルシア語を一貫して学び、東大でペルシア語を教えた最初の日本人だ…

古本夜話656 世界文庫刊行会と松宮春一郎

かなり長きにわたって、世界文庫刊行会と『世界聖典全集』に関して探索を続けているのだが、その全貌と詳細はつかめないままで、すでに二十年近くが過ぎようとしている。それもあって、ここでわかったことだけでもまとめておきたい。世界文庫刊行会は本連載…

古本夜話655 世界文庫刊行会『世界聖典外纂』

近代にあって、新たなムーブメントやエコールの形成は必ず雑誌や書籍という出版物を伴って作動していく。それは欧米のみならず、日本でも同様で、これまた既述してきたように、新仏教運動も明治三十三年の『新仏教』創刊に結びつき、それに三十七年にスター…

出版状況クロニクル108(2017年4月1日〜4月30日)

17年3月の書籍雑誌の推定販売金額は1766億円で、前年比2.8%減。送品稼働日が1日多かったことにより、マイナスが小さくなっている。 書籍は1050億円で、同1.2%減、雑誌は716億円で、同5.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が603億円で、同4.2%減、週刊誌は112億…