出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話473 小村雪岱と邦枝完二『お伝地獄』

大越久子の『小村雪岱―物語る意匠』(東京美術)の第二章は「ふたりの女おせんとお伝」と題され、邦枝完二の『絵入草紙おせん』と『お伝地獄』における雪岱の装丁と挿絵、とりわけ後者に焦点を当てている。そのことによって、雪岱の挿絵における江戸の浮世絵…

古本夜話472 小村雪岱と新小説社

本連載428「長谷川伸、新小説社、『大衆文芸』」で、長谷川が昭和八年に私家版で出した和本詩集『白夜低唱』にふれておいた。しかしそれが小村雪岱の装丁であることには言及してこなかった。実はそのことに気づかなかったのである。それを知ったのはしば…

混住社会論103 松本健一『エンジェル・ヘアー』(文藝春秋、一九八九年)

前回の村上春樹の『羊をめぐる冒険』において、三部作の主要な背景となる「ジェイズ・バー」の由来、それを営む中国人ジェイの命名の事実が語られている。ジェイは戦後米軍基地で働いていた時、本名の中国名が長く発音しにくかったので、アメリカ兵たちが勝…

古本夜話471 修道社版 柴田天馬訳『定本聊斎志異』と諸星大二郎

しばらく飛んでしまったけれど、創元社補遺編をここに付け加えておく。大谷晃一の『ある出版人の肖像』の口絵写真の一枚に、昭和十年頃とされる神田三崎町の創元社東京支店前での集合写真がある。それは矢部良策や小林茂を始めとして、二十六人が写っている…

古本夜話470 田宮虎彦、千代『愛のかたみ』と平野謙

田宮虎彦に関して、もう一編続けてみる。田宮といえば、昭和三十二年にベストセラーとなった『愛のかたみ』に言及しないわけにはいかないだろう。それにたまたまこの本も入手しており、奥付を見ると、四月一日初版、五月十五日二十四版とすばらしい売れ行き…

混住社会論102 村上春樹『羊をめぐる冒険』(講談社、一九八二年)

前々回取り上げた中上健次の「路地」とその消滅後の作品群の中にあって、その消滅の一因と考えていい郊外消費社会とロードサイドビジネスはダイレクトに描かれてはいなかった。それは中上の作品群とほぼ同時代に書き進められていた村上春樹の『風の歌を聴け…

古本夜話469 田宮虎彦と『文明』

前々回新田潤『妻の行方』の「あとがき」のところに、文明社の伊東正夫の名前が出てくることを既述したが、文明社とは田宮虎彦が昭和二十一年二月の創刊した『文明』の発行所である。田宮は自動車修理工場などを営む友人から資金援助を受け、『文明』創刊に…

古本夜話468 八雲書店、石川達三『ろまんの残党』、久保田正文『花火』

前回、八雲書店の名前を挙げたが、これにもモデル小説があるので、それも紹介しておこう。『書肆「新生社」私史』を著した福島保夫は新生社の倒産後、八雲書店に移り、それからさらに暮しの手帖社、荒木書房、河出書房など、次々と職場を変えざるを得なかっ…

混住社会論101 赤坂真理『ヴァイブレータ』(講談社、一九九九年)

前回、中上健次のロードサイドノベルと見なせるであろう『日輪の翼』を取り上げたが、それに先駆けて書かれた「赫髪」(『水の女』所収、作品社、集英社文庫)という短編がある。これは開発中の「路地」を背景にして、ダンプカーの運転手が山を切り開いてつ…

古本夜話467 新田潤『わが青春の仲間たち』と『妻の行方』

前々回既述しておいたが、新生社は昭和四十年代に青山虎之助によって再建されたようなのである。『回想の新生』の中の一ページに「その後新生社は終ったと伝えられていたが、新生社は健在である。現在、月刊誌『人間連邦』と『味の手帖』を発行している」と…

古本夜話466 東京文芸社の富田常雄『春の潮』

本連載463の井上友一郎の『絶壁』ではないが、青山虎之助をモデルとする小説も書かれているので、それも紹介しておくべきだろう。[f:id:OdaMitsuo:20141203150543j:image]その前に私的記憶にふれてみたい。昭和三十年代の桃源社や東方社や東京文芸社の本…

出版状況クロニクル83(2015年3月1日〜3月31日)

出版状況クロニクル83(2015年3月1日〜3月31日) 15年2月の書籍雑誌の推定販売金額は1477億円、前年比3.5%減。その内訳は書籍が同5.1%減、雑誌が1.6%減。雑誌のうちの月刊誌は1.1%増だったが、週刊誌は12.6%減と大幅に減少。 返品率は書籍が34.0%、雑…