出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

混住社会論107 宮部みゆき『理由』(朝日新聞社、一九九八年)

事件が発生したのは一九九六年六月二日のことで、強い雨が降る夜だった。それは高層マンションの一室で起きたのである。まずはその建物と開発、建設プロジェクトの全容を示そう。 普通なら、営団地下鉄日比谷線北千住駅のホームからも望むことができる、「ヴ…

古本夜話479 プロレタリア大衆文学と貴司山治『ゴー・ストップ』

『戦旗』において繰り拡げられた、所謂「芸術大衆化論争」は未来社の『現代日本文学論争史』上巻に収録されている。これは中野重治、蔵原惟人、鹿地亘、林房雄の論考に加えて、日本プロレタリア作家同盟中央委員会名での「芸術大衆化に関する決議」も添えら…

古本夜話478 実録文学研究会、満月会、国防文芸連盟

『文学建設』に至るまでにはその前史があるので、それを書いておこう。近代出版史を通じて見るのであれば、昭和円本時代に平凡社からともに刊行された『現代大衆文学全集』と『新興文学全集』によって、大衆文学とプロレタリア文学が広範な読者を獲得するか…

混住社会論106 黄 春明『さよなら・再見』(めこん、一九七九年)

日本で初めて翻訳された現代台湾小説として、黄 春明の『さよなら・再見』(福田桂二訳)の刊行を見たのは一九七九年であった。この小説は日本人による「買春観光」をテーマとするもので、七三年に台湾で発表されている。台湾への日本人旅行者は六七年には七…

古本夜話477 乾信一郎『「新青年」の頃』、『文学建設』、『新編現代日本文学全集』

前回ふれた『文学建設』について続けてみる。『新青年』の歴代編集長の森下雨村、横溝正史、延原謙、水谷準がいずれも『新青年』時代について、まとまった記録を残さなかったことに比べ、五代目の乾信一郎だけは『「新青年」の頃』(早川書房)という一冊の…

古本夜話476 岡戸武平『続・筆だこ』

前回『尾崎久彌小説集』の「序に代えて」を岡戸武平が書いていることを既述した。なおもうひとつの序を記し、表紙と装丁を担当しているのは、「名古屋豆本」の刊行者亀山巌である。彼のことは別の機会に譲ることにして、その岡戸の著書も同じ名古屋の古本屋…

混住社会論105 日影丈吉『内部の真実』(講談社、一九五九年)

(社会思想社、現代教養文庫版) 前回の映画『セデック・バレ』に続き、同じく台湾を舞台とする小説、しかも日本人によって書かれたミステリーを取り上げてみる。それは日影丈吉の『内部の真実』である。日影は一九四九年に『宝石』コンクールに応募した「か…

古本夜話475 尾崎千代野編「尾崎久彌小説集」

もう一編、大越久子の『小村雪岱―物語る意匠』に教示されたことを書いてみる。本連載55、56で尾崎久彌に関してふれてきたけれど、尾崎の『綵房綺言』や尾崎編『洒落本集成』(いずれも春陽堂)が、雪岱の手になる装丁だと気づいていなかった。これは長谷…

古本夜話474 石井鶴三『「宮本武蔵」挿絵集』と『大菩薩峠』

前回小村雪岱と邦枝完二の小説の挿絵のことを書いたこともあり、別の挿絵本も取り上げておきたい。それは石井鶴三の『「宮本武蔵」挿絵集』で、これも浜松の時代舎で購入したものである。吉川英治の『宮本武蔵』は全巻を読んだことがないのだが、挿絵に添え…

混住社会論104 ウェイ・ダーション『セデック・バレ』(マクザム+太秦、二〇一一年)

出版状況クロニクル84(2015年4月1日〜4月30日)

出版状況クロニクル84(2015年4月1日〜4月30日) 15年3月の書籍雑誌の推定販売金額は1880億円、前年比3.3%減。その内訳は書籍は同0.4%増、雑誌は8.1%減。雑誌のうちの月刊誌は6.1%減、週刊誌は16.2%減で、雑誌のマイナスが大きく目立つ。 『週刊少年サ…