出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2016-02-01から1ヶ月間の記事一覧

混住社会論134 古谷実『ヒミズ』(講談社、二〇〇一年)

前回の『団地ともお』とほぼ同時代の二一世紀初頭に、それとまったく対極的な家庭と社会状況に置かれた中学生を主人公とするコミックが提出されていた。それは古谷実の『ヒミズ』という作品である。 この奇妙なタイトルの「ヒミズ」とは『日本国語大辞典』(…

古本夜話538 高畠素之『マルクス十二講』と新潮社

新潮社版『資本論』は入手していないけれど、高畠素之の『マルクス十二講』は所持しているので、それを参照し、もう少し高畠と新潮社の関係をトレースしてみる。新潮社の大正四年から始まる「思想文芸講話叢書」については、本連載181「加藤武雄と『近代…

古本夜話537 高畠素之訳『資本論』

ヴェブレンの『有閑階級論』や『特権階級論』と同様に、大正時代にマルクスの『資本論』も翻訳刊行されていった。それは高畠素之によってであるが、それ以前にも松浦要訳の経済社からの第一、二冊、生田長江訳の緑葉社からの第一冊が出されたけれど、それら…

混住社会論133 小田扉『団地ともお』(小学館、二〇〇四年)

それは「天皇制」とか「民主主義」とかいう公式の価値からすれば無にひとしいようなものである。 それは母親のエプロンのすえたような洗濯くさい匂い、父がとにかく父としてどこかにいるという安心感、といったようなものの堆積にすぎない。 しかしそういう…

古本夜話536 ヴェブレン『有閑階級論』と『特権階級論』

前回、大正時代に続けて、新渡戸稲造の『武士道』に出てくるカーライルの『衣裳哲学』が翻訳刊行されたことを既述したが、同じくヴェブレンの『有閑階級論』も大正十三年に而立社の『社会科学大系』第十一巻として、大野信三訳で出されている。戦後になって…

古本夜話535 カーライル、土井晩翠訳『鬼臭先生 衣裳哲学』

本連載531「新渡戸稲造『武士道』と桜井鷗村」において、明治三十二年にアメリカの出版社から刊行され、翌年に日本の裳華房からも出された Bushido : the Soul of Japanは、同時代の思想のパラダイムの中で、世界に向けて発信された内なるオリエンタリズ…

混住社会論132 篠原雅武『生きられたニュータウン』(青土社、二〇一五年)と拙著『民家を改修する』(論創社、二〇〇七年)

本連載「混住社会論」の読者とおぼしき未知の人物から著書を恵送された。それは篠原雅武の『生きられたニュータウン』で、サブタイトルは「未来空間の哲学」とある。著者紹介によれば、一九七五年にニュータウンで生まれ育ち、専門は哲学、都市と空間の思想…

古本夜話534 押川春浪、武俠世界社、興文社

前回、大橋省吾の文武堂は彼の死とパラレルに衰退していったのではないかと述べておいた。それを示すかのように、博文館の『冒険世界』の明治四十四年新刊活躍号巻末の「博文館出版図書抜萃目録」において、これも前回文武堂の出版物として挙げた『玉突術続…

古本夜話533 桜井鷗村と文武堂

続けてふれてきた桜井鷗村に関することで、これは本連載230「田中英夫『山口孤剣小伝』と京華堂・文武堂『東都新繁昌記』」ともつながっているように思われることもあり、それも書いておこう。『日本近代文学大事典』の桜井の立項は少しばかり長いことも…

出版状況クロニクル93(2016年1月1日〜月31日)

出版状況クロニクル93(2016年1月1日〜1月31日)15年12月の書籍雑誌の推定販売金額は1290億円で、前年比5.6%減。 その内訳は書籍が572億円で、同1.4%増、雑誌は718億円で、同10.5%減、そのうちの月刊誌は600億円で、9.3%減、週刊誌は117億円で、16.5%減…