出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル133(2019年5月1日~5月30日)

 19年4月の書籍雑誌推定販売金額は1107億円で、前年比8.8%増。
 書籍は603億円で、同12.1%増。
 雑誌は504億円で、同5.1%増。その内訳は月刊誌が416億円で、同5.9%増、週刊誌は88億円で、同1.4%減。
 返品率は書籍が31.4%、雑誌は43.0%で、月刊誌は43.1%、週刊誌は42.7%。
 書籍、雑誌がともに前年増となったのは、初めての10連休の影響が大きく、とりわけ書籍は連休前の駆け込み発売で、出回り金額が5.9%増となったことによっている。また5月連休明けまで書店の返品も抑制されたことも作用していよう。
 それゆえに今月の大幅なプラスは大型連休がもたらした一過性の数字とみな日販の赤字決算すべきで、その反動は5月の販売金額と返品に露呈することになるだろう。
 月末になって日販の赤字決算が出されているが、6月にトーハンなども含め、言及するつもりだ。


1.『出版月報』(4月号)が特集「ムック市場2018」を組んでいる。そのデータ推移を示す。

■ムック発行、販売データ
新刊点数平均価格販売金額返品率
(点)前年比(円)(億円)前年比(%)前年増減
20057,8590.9%9311,164▲4.0%44.01.7%
20067,8840.3%9291,093▲6.1%45.01.0%
20078,0662.3%9201,046▲4.3%46.11.1%
20088,3373.4%9231,0621.5%46.0▲0.1%
20098,5112.1%9261,0912.7%45.8▲0.2%
20108,7622.9%9231,0980.6%45.4▲0.4%
20118,751▲0.1%9341,051▲4.3%46.00.6%
20129,0673.6%9131,045▲0.6%46.80.8%
20139,4724.5%8841,025▲1.9%48.01.2%
20149,336▲1.4%869972▲5.2%49.31.3%
20159,230▲1.1%864917▲5.7%52.63.3%
20168,832▲4.3%884903▲1.5%50.8▲1.8%
20178,554▲3.1%900816▲9.6%53.02.2%
20187,921▲7.4%871726▲11.0%51.6▲1.4%

 18年のムック市場は初めて800億円を下回り、726億円、前年比11.0%減となった。
 販売冊数もさらに悪化し、こちらも8000万冊を割りこみ、7440万冊、同16.2%減である。1億冊を割ったのは昨年だったことからすれば、2年で25%以上のマイナスで、19年は16年の半分近くになってしまうかもしれない。
 返品率も4年連続で50%を超え、下げ止まる気配はない。ムックの場合、週刊誌や月刊誌と異なり、書店滞留時間も長く、ロングセラーも生まれ、再出荷もできることがメリットであったが、それももはや失われてしまったのであろう。
 ムックの起源は1960年代後半の、平凡社の「別冊太陽」だとされるが、それは半世紀前のことで、スマホ時代に入り、雑誌刊行モデルとしては広範に機能しなくなっていると考えられよう。
 それに決定的なのは書店の半減、及びコンビニ売上の失墜であり、とりわけ今世紀に入って進行した雑誌販売市場のドラスチックな変容というしかない。
 なおここでのムックには廉価軽装版コミックは含まれていない。



2.紀伊國屋書店弘前店が閉店。

 これは4月の大分店の閉店に続くものである。弘前店は1983年の開店で、仙台店よりも早く、東北で初めての紀伊國屋書店だった。
 弘前店は372坪、大分店は734坪であり、この2ヵ月で紀伊國屋の売場面積は1100坪が減少したことになる。



3.三省堂名古屋高島屋店が閉店し、名古屋本店へと統合。

 名古屋高島屋店は2000年の開店なので、20年の歴史に幕を下ろしたことになる。それは書店市場の悪化の中で、テナント契約更新が難しかったことを推測させる。
 4月の書店閉店は47店と、19年に入って最も少なかったが、それでもTSUTAYAと宮脇書店が各3店、文教堂と夢屋が各2店、また文真堂や Wonder GOOの各1店も含まれている。
 また文真堂は資本金を500万円減少して1000万円に、資本準備金6億5265万円を0円にすると発表。

 5月以後の書店閉店状況はどうなるのかが、19年後半の出版業界の焦点となろう。これは不動産プロジェクトのコストやテナント料の問題から見れば、大型化した書店はチェーン複合店も含めて、もはや採算がとれなくなってきている現実を露呈させているからだ。
 本クロニクル130などで既述しておいたように、18年から続くTSUTAYAの大量閉店はその事実を象徴しているし、4月のTSUTAYA3店の閉店坪数も600坪を超えている。
 それは大量返品として大手取次と出版社へと跳ね返り、本クロニクル131のコミックス、コミック誌、前回の文庫、1のムック販売状況へとリンクしているのである。

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4.そのWonder GOOはRIZAP傘下にあるのだが、今期のRIZAP連結決算は193億円の赤字となっている。

 この決算で明らかになったのは、Wonder GOO=ワンダーコーポレーションの不採算事業の撤退費用として、48億円の特別損失が出されていることである。
 本クロニクル130でふれたワンダーコーポレーションが売上高からすれば、RIZAPの中核企業であり、TSUTAYAのFC、つまり日販が取次だから、その再建の行方は両社にも多大な影響を及ぼしていくだろう。また同127で既述しておいたように、そのうちの15店は大阪屋栗田に帳合変更しているので、そちらへも波及するかもしれない。
 前回、文教堂GHDにふれ、その不採算店の閉店などにより、債務超過もさらに拡大していると伝えてきた。それはワンダーや文教堂だけでなく、撤退、閉店にはそれに伴う特別損失が生じているという事実を浮かび上がらせている。
 とりわけ文教堂やワンダーは上場企業であるだけに、再建の行方が注視されているし、文教堂は残された時間が少ないところまできていよう。



5.三洋堂HDの加藤和裕社長は粗利益を35%に改善する7ヵ年計画を発表。
 「書籍・雑誌」から「古本」「フィットネス」へ売上構成比を高めていくことで、19年には粗利益率30.8%、25年には35.0%にする。

 本クロニクル124などで、三洋堂の筆頭株主がトーハンになったこと、フィットネス事業などへの参入に関して既述しているが、もはや三洋堂にしても、ポスト書店の段階に入っていることの表明である。
 加藤社長によれば、週刊誌と月刊誌は20年半ばに消滅するかもしれないし、19年には三洋堂コストとしての信販手数料、返品運賃ポイント関連費用などで2億円増加するとのことである。
 それからあらためて認識させられたのは、返品運賃の急騰で、19年には18年の1.8倍の1億3000万円に達するとされる。これはすべてのナショナルチェーンに共通するものだと考えられる。それはこれからのキャッシュレス決済コストも同様であろう。
 7年後に35%の粗利益を達成するにしても、そこに至るまでに一体何が起きるのか、それが上場企業でもある三洋堂の焦眉の問題であろう。
 これも本クロニクル122でふれておいたように、18年は500万円という「かつかつの黒字」、19年予想は純損失3億円と見込まれているからだ。

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6.トーハンの近藤敏貴社長はドイツをモデルにしたマーケットイン型流通を主とする5ヵ年中期経営計画「REBORN」において、従来の見計らい配本から発売前に書店注文を集約しい、AIを駆使した配本システムを融合するかたちに移行すると表明。
 それにより返品率を抑制し、そこから派生する利益を出版業界全体で再配分し、18年の40.7%の返品率を23年度には33.4%、最終的に20%まで引き下げる。

 本クロニクル124で、近藤社長によるトーハンの「本業の回復」と「事業領域の拡大」を紹介しておいた。だが後者の不動産事業などはともかく、前者はさらに出版状況が失墜していく中で、埼玉の書籍新刊発送拠点「トーハン和光センター」の稼働を挙げることしかできない。 
 ドイツをモデルとしたマーケットイン型流通にしても、これも本クロニクル131で言及しておいたが、設備投資の失敗で、マーケットイン型流通が日本の出版業界において成立するとは考えられないし、誰もが信じていないだろう。それは取次や書店の現在状況からして明らかなことだ。
  
 大阪屋栗田の子会社であるリーディングスタイルも2店目の「リーディングスタイルあべの」を180坪で開店。デジタルサイネージを50台設置し100席のカフェとイベントスペースを併設。それこそ大阪屋栗田の「本業の回復」と「事業領域の拡大」に貢献するのだろうか。
 それらはともかく、取次の決算発表も間近に迫っている。



7.『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)などの大原ケイが『文化通信』(5/20)に「米2位の書籍取次が書店卸から撤退」を寄稿している。
 それによれば、北米第2位の書籍取次(ホールセラー)であるベイカー&テイラー、以下(B&T)がリテール(書店)向け卸業から撤退すると発表した。
 アメリカの書籍流通業には日本の取次に近い「ホールセラー」と、中小出版社に代わり、受注、発注、営業も請け負う「ディストリビューター」がある。
 ホールセラー第1位のイングラムがリテール(書店)に広く書籍を流通させているのに対し、B&Tは書店だけでなく、全米公立図書館の9割に及ぶ6000館を抱えている。後者の年商は22億ドルだったが、2016年にフォレット社傘下に入った。
 フォレット社は北米の他に140ヵ国で、小学校から大学、学校図書館など9万団体に及ぶ教育機関を対象とし、電子教科書を含む教育コンテンツを製作販売する企業である。
 今回のB&Tの書店からの撤退は、「地域コミュニティを支えている公共図書館を支援する」という親会社のフォレット社のビジネスに適ったものだとされる。

  それに加え、アメリカでは出版社と書店の直接取引が主流になったこと、ふれられていないが、アマゾン問題も絡んでいるのだろう。
 このB&Tの撤退を受け、書店では日本でいう帳合変更、全米書店協会や大手出版社のサポート、中小出版社の「ディストリビューター」の支援も始まっているようだ。
 アメリカのことゆえ、他山の石とも思えないので、ここに記してみた。

ルポ 電子書籍大国アメリカ(『ルポ 電子書籍大国アメリカ』)



8.『日経MJ』(5/6)に「ゲオが新業態」という記事が掲載されている。
 ゲオ傘下の衣料品販売のゲオクリアが横浜市に「ラック・ラック クリアランスマーケット」を開店した。これはメーカーや小売店から余った新品在庫を直接買い取り、定価の3割から8割引きで販売するという新業態店である。
 売場面積は1400平方メートルの大型店で、衣料品はブランド類100種類を扱い、雑貨や装飾品も含め、商品は5万点に及ぶ。
 ゲオはグループで最大手の1800店を有し、古着、中古スマホ、余剰在庫や中古ブランド品などの新業態で、さらなる成長を模索するとされる。

 これもポストレンタルを見据えた上での新業態ということになろう。それがTSUTAYAと異なるのは、前回も示しておいたように、TSUTAYAが他社とのジョイントによって新業態をめざしていることに対し、ゲオの場合は自社によるチェーン店化も想定されているし、「メルカリ」などとともに、中古品市場をさらに活性化させるかもしれない。
 このようなゲオとTSUTAYAのコントラストは、直営店とフランチャイズシステムによる企業本質の違いに基づくものであろう。



9.町田の大型古書店の高原書店が破産し、閉店。
 高原書店は1974年に町田の最初の古書店として開店し、支店も出店する一方で、85年には小田急町田駅前のPOPビルに移転し、大型古書店の名を知らしめた。2001年には町田駅北口の4階建に移り、徳島県に広大な倉庫を置き、インターネット通販にも力を入れていた。
 作家の三浦しおんがアルバイトしていたこともよく知られ、古本屋のよみた屋や音羽館が高原書店の出身で、他にも古本人脈を形成するトポスであった。

 親しい古本屋から高原書店の危機の話が聞いていたが、その予測どおり、連休明けに破産してしまった。 
本クロニクル129で、大阪の天牛堺書店の破産を伝えたが、古書業界では在庫量と店舗数で西の天牛堺書店、東の高原書店と称されていたという。
 その2店が破産してしまったのだから、古書業界も書店市場と同様の危機に見舞われていることになる。

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10.『日本の図書館統計と名簿2018』が出されたので、公共図書館の移を示す。

日本の図書館統計と名簿2018

■公共図書館の推移
    年    図書館数
専任
職員数
(人)
蔵書冊数
(千冊)
年間受入
図書冊数
(千冊)
個人貸出
登録者数
(千人)
個人貸出
総数
(千点)
資料費
当年度
予算
(万円)
1971 8855,69831,3652,5052,00724,190225,338
1980 1,3209,21472,3188,4667,633128,8981,050,825
1990 1,92813,381162,89714,56816,858263,0422,483,690
1997 2,45015,474249,64919,32030,608432,8743,494,209
1998 2,52415,535263,12119,31833,091453,3733,507,383
1999 2,58515,454276,57319,75735,755495,4603,479,268
2000 2,63915,276286,95019,34737,002523,5713,461,925
2001 2,68115,347299,13320,63339,670532,7033,423,836
2002 2,71115,284310,16519,61741,445546,2873,369,791
2003 2,75914,928321,81119,86742,705571,0643,248,000
2004 2,82514,664333,96220,46046,763609,6873,187,244
2005 2,95314,302344,85620,92547,022616,9573,073,408
2006 3,08214,070356,71018,97048,549618,2643,047,030
2007 3,11113,573365,71318,10448,089640,8602,996,510
2008 3,12613,103374,72918,58850,428656,5633,027,561
2009 3,16412,699386,00018,66151,377691,6842,893,203
2010 3,18812,114393,29218,09552,706711,7152,841,626
2011 3,21011,759400,11917,94953,444716,1812,786,075
2012 3,23411,652410,22418,95654,126714,9712,798,192
2013 3,24811,172417,54717,57754,792711,4942,793,171
20143,24610,933423,82817,28255,290695,2772,851,733
2015 3,26110,539430,99316,30855,726690,4802,812,894
20163,28010,443436,96116,46757,509703,5172,792,309
2017 3,29210,257442,82216,36157,323691,4712,792,514
2018 3,29610,046449,18316,04757,401685,1662,811,748

 21世紀に入ってからの書店の減少は本クロニクルでずっとトレースしてきているが、公共図書館は書店とは逆に700館ほど増えている。19年は戦後初めての3300館を超えることになるだろうし、それがさらに書店数のマイナスへとリンクしていくのは自明だろう
 しかし貸出数は2010年代に入り、7億冊を超えていたが、14年以後は下降気味で、18年は6億8000万冊と、この10年間で最低となっている。ひょっとすると、図書館にしても、スマホの影響を受け始めているのだろうか。
 いずれにせよ、登録者数も微減しているし、高齢化社会の進行もあり、個人貸出数は10年代前半でピークを打ち、これ以上の増加は難しく、こちらも微減を続けていくように思われる。



11.たまたま新刊の曽我謙悟の「170自治体の実態と課題」というサブタイトルの『日本の地方政府』(中公新書)を読み、10の公共図書館に関しても教えられることが多かったので、ここで取り上げておきたい。
 とりわけ言及するのは第2章「行政と住民―変貌し続ける公共サービス」である。そこでの図書館絡みの重要なところを要約してみる。世界的に1990年代までは公共サービスや公共事業は行政がほぼ一手に担っていたが、2000年代以降、民間企業、NPO、及びPFI(Private Finance Initiative)を始めとする種々の官民協働方式が登場して大きく様変わりした。
 PFIは公共施設の建設に、指定管理者制度は公共施設の運営に、民間部門を参入可能にするものである。日本では1999年にPFI法、2003年に指定管理者制度が導入され、さらに2011年のPFI法改正で、コンセッション方式と呼ばれる民間部門の手で、施設の建設から運営までが可能になった。
 そこで登場してくるのが「ツタヤ図書館」なのである。これは要約しないで、直接引用しておくべきだろう。

日本の地方政府

 佐賀県武雄(たけお)市に登場したいわゆる「ツタヤ図書館」も、指定管理者制度によるものである。二〇一三年四月の武雄市にはじまり、その後神奈川県海老名(えびな)市、宮城県多賀城(たがじょう)市、岡山県高梁(たかはし)し、山口県周南市(しゅうなん)市宮崎県延岡(のべおか)市に導入され、和歌山市にも導入予定である。他方で、愛知県小牧(こまき)市での計画は住民投票の結果を受け、撤回された。書店やカフェを併設することにとどまらず、新たな書籍の購入や独自の配列基準に基づく書架への配列、ポイントカードを貸し出しカードとすることなどは、指定管理者の制度によって可能となった。
 PFIや指定管理者制度を地方政府が多く用いるのは、財政と職員の不足が要因である。これにより新たな市場が生まれることを歓迎する民間事業者も背景にある。たとえば、二〇一八年に開館した周南市の「ツタヤ図書館」に支払われる指定管理費は年間一億五〇〇〇万円である。PFIと指定管理者制度が生み出した「行政市場」は、現在の日本には珍しい成長市場である。行政と事業者の双方が求めるのだから、PFIや指定管理者制度が拡大するのも当然である。


 この部分を読むに至り、10において、公共図書館の専任職員数が1999年の1万5000人から、2018年には1万人と減少していることとパラレルに指定管理者制度が導入され、「行政市場」が成立したとわかる。
 それはまさに公共における「新自由主義」の導入に他ならず、思わず中山智香子の『経済ジェノサイド』(平凡社新書)を連想してしまった。こちらに引きつけて例えれば、純然たる「民営化」と「行政市場」のメカニズムの相違は、出版と出版業の乖離以上のものがあることになる。いずれも新書として好著なので、一読をお勧めする。
 本当に公共図書館もまたどこに向かおうとしているのだろうか。
 経済ジェノサイド



12.『人文会ニュース』(No131)に東大出版会の橋元博樹営業局長による「平成の『出版界』―専門書と書籍流通の30年」が掲載されている。

 このような論稿が『人文会ニュース』に書かれるようになったのは、行き着くところまで来てしまったことに加え、その内部の営業責任者もそうしたプロセスの中で、否応なく成熟せざるを得なかったことを告げているように思われる。
 筑摩書房の田中達治営業部長が存命の頃は私も出かけていって、出版社、取次、書店の人たちと話し合う機会を多く持った。しかし特に出版社の人たちは自らのポジションからの思い込みに束縛され、トータルな視座からの出版業界の分析、それに基づく危機の問題を説明することは難しい印象が強かった。だからこのような出版史も、出版社側からは提出されてこなかったのである。
 ただそれは2010年までのことであり、現在ではもはや危機は至るところに露出し、このような橋元の論稿も書かれ、掲載されることになったのだろう。
 拙著も出てくるからではないけれど、広く読まれることを願う。


13.またしても訃報が届いた。講談社の元編集者白川充が亡くなった。

 白川は1980年前後に船戸与一『非合法員』、志水辰夫『飢えて狼』を送り出し、冒険小説ブームのきっかけを担ったといっていい。
 その仕事は原田裕『戦後の講談社と東都書房』(「出版人に聞く」14)でふれられ、新保博久『ミステリ編集道』(本の雑誌社)で語られている。
 最後に会ったのは5年前の、前者の出版記念会の席だった。
 ご冥福を祈る。
非合法員  f:id:OdaMitsuo:20190530001657j:plain:h111 戦後の講談社と東都書房  ミステリ編集道



14.拙著『古本屋散策』が刊行された。
 読み切り200編を収録しているが、きっと何冊かは読んでみたいと思う本に出会えるはずだ。
 600ページという大冊になってしまい、高定価でもあるので、図書館にリクエストして頂ければ、有難い。
古本屋散策


15.今月の論創社HP「本を読む」㊵は「草風館、草野権和、『季刊人間雑誌』」です。

出版状況クロニクル132(2019年4月1日~4月30日)

 19年3月の書籍雑誌推定販売金額は1521億円で、前年比6.4%減。
 書籍は955億円で、同6.0%減。
 雑誌は565億円で、同7.0%減。その内訳は月刊誌が476億円で、同6.2%減、週刊誌は89億円で、同11.3%減。
 返品率は書籍が26.7%、雑誌は40.7%で、月刊誌は40.7%、週刊誌は40.8%。
 4月27日から大型連休が始まり、当然のことながら、書籍雑誌の送品は減少するだろう。
 4月、5月はそれがどのような数字となって跳ね返るか、書店売上にどのような影響を及ぼしていくのかが、問われることになろう。


1.『出版月報』(3月号)が特集「文庫本マーケット2018」を組んでいるので、その「文庫本マーケットの推移」を示す。

■文庫マーケットの推移
新刊点数推定販売部数推定販売金額返品率
増減率万冊増減率億円増減率
19954,7392.6%26,847▲6.9%1,396▲4.0%36.5%
19964,718▲0.4%25,520▲4.9%1,355▲2.9%34.7%
19975,0577.2%25,159▲1.4%1,3590.3%39.2%
19985,3375.5%24,711▲1.8%1,3690.7%41.2%
19995,4612.3%23,649▲4.3%1,355▲1.0%43.4%
20006,09511.6%23,165▲2.0%1,327▲2.1%43.4%
20016,2412.4%22,045▲4.8%1,270▲4.3%41.8%
20026,155▲1.4%21,991▲0.2%1,293 1.8%40.4%
20036,3733.5%21,711▲1.3%1,281▲0.9%40.3%
20046,7415.8%22,1352.0%1,3132.5%39.3%
20056,7760.5%22,2000.3%1,3392.0%40.3%
20067,0253.7%23,7987.2%1,4165.8%39.1%
20077,3204.2%22,727▲4.5%1,371▲3.2%40.5%
20087,8096.7%22,341▲1.7%1,359▲0.9%41.9%
20098,1434.3%21,559▲3.5%1,322▲2.7%42.3%
20107,869▲3.4%21,210▲1.6%1,309▲1.0%40.0%
20118,0101.8%21,2290.1%1,3190.8%37.5%
20128,4525.5%21,2310.0%1,3260.5%38.1%
20138,4870.4%20,459▲3.6%1,293▲2.5%38.5%
20148,6181.5%18,901▲7.6%1,213▲6.2%39.0%
20158,514▲1.2%17,572▲7.0%1,140▲6.0%39.8%
20168,318▲2.3%16,302▲7.2%1,069▲6.2%39.9%
20178,136▲2.2%15,419▲5.4%1,015▲5.1%39.7%
20187,919▲2.7%14,206▲7.9%946▲6.8%40.0%

 文庫の推移販売金額はついに1000億円を割りこみ、しかも前年比6.8%減という最大のマイナスで、946億円となった。ピーク時は2006年の1416億円だったことからすれば、18年は500億円近くの減少となる。それでいて、14年からの前年比を見ても、下げ止まる気配はまったくない。 
 同特集はスマホが与えた影響を大きいとし、10年にスマホの世帯保有率が9.7%だったことに対し、17年が75.1%に及んでいることを挙げている。
 確かにそれも大きな要因だが、推定出回り冊数から見ると、1998年は4億2025万冊で、18年は2億3677万冊とほぼ半減している。それはちょうどこの20年で書店が半減してしまった事実を反映しているし、書店における文庫の滞留在庫も同様であることを意味していよう。

 1980年代の郊外書店全盛期において、主力商品は雑誌、コミックス、文庫が三本柱で、売上の半分以上のシェアを占めていた。だが本クロニクル129で示しておいたように、雑誌は1990年代の1兆5000億円から、18年には6000億円のマイナスとなり、コミックスも前回挙げておいたように、2400億円から1500億円台へと落ちこみ、今回の文庫も加えれば、トリプル失墜という販売状況である。 
 また複合店にしても、それらとDVDレンタルが主力だったわけだから、こちらは四重苦のような中で、暗中模索、もしくは閉店に追いやられている。

 3月の書店閉店状況も86店に及び、1月の82店を超えている。それに100坪以上の大型店は24店を数え、こちらもとどまる要因は見つからない。取次の決算も絡んで、4月はどうなるのだろか。

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2.トーハンと日販は検討を進めてきた物流の協業化に関して、「雑誌返品処理」「書籍返品処理」「書籍新刊送品」の3業務の協業を進めることで合意と発表。

 前回、ドイツの大手取次KNVの倒産を伝え、それが広大なロジスティックセンターの新設という設備投資の失敗によることを既述しておいた。
 トーハンにしても日販にしても、桶川SCMセンターや王子流通センターを始めとして、多大の設備投資を行なった。その果てに、本クロニクル129などでトレースしておいたように、出版物推定販売金額は1996年の2兆6000億円から、2018年には1兆3000億円を下回り、半減してしまったのである。それによって生じた過剰設備化が、トーハンと日販の物流協業化の背後に潜んでいる大きな問題であろう。すなわち半減しているのだから、一社でまかなえるということにもなろう。

 しかしさらなる重要な取次問題は、今回の協業化に含まれない「雑誌送品」で、総コストにおける配送運賃の7割を占めている。結局のところ、先送りされていることになるが、前回や同127などで取り上げておいたように、出版物関係輸送も危機に追いやられている。このままでいけば、さらなる出版物の発売の遅れも蔓延化していくかもしれない。



3.文教堂GHDの2019年第2四半期連結決算が出された。
 売上高は127億300万円、前年比10.2%減、営業損失2億3200万円、経常損失2億8800万円、親会社に帰属する四半期純損失3億6500万円で赤字幅が増加。
 そのために、前年連結決算における2億3358万円の債務超過もさらに拡大し、5億9700万円となった。期中における不採算の6店の閉店などにより、売上、利益が圧縮され、財務が悪化した。
 昨年度に引き続き、増資を検討し、金融機関からの借入金返済、支払い猶予の同意を得ているとされる。

 本クロニクル129などで既述してきているが、文教堂GHDの増資や再建は難しく、赤字幅は増加していく一方である。
 3月も400坪の大型店も含め、3店が閉店しているし、さらに売上、利益、財務が悪化していくことは必至だ。
 東京証券取引所は文教堂GHDに対し、最後通牒というべき上場廃止猶予期間入り銘柄に指定している。そのために今期中に財務を健全化しなければ、上場廃止が待ち受けていることになる。文教堂GHDにとって、残された時間は少ない。



4.TSUTAYAの2018年1月から12月の書籍雑誌販売額が1330億円、前年比3.3%の増で、過去最高額を更新と発表。
 その理由として、全国に於ける大型店40店の新規オープン、「TSUTAYA BOOK NETWORK」への新規加盟による店舗数の増加、独自の商品展開やデータベースマーケティングが挙げられている。
  40店は「BOOK&CAFE」スタイルだが、「TSUTAYA BOOKSTORE」は「ライフスタイル提案型」店舗である。島忠とジョイントした「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」はホームリビング、オートバックスとの「TSUTAYA BOOKSTORE APIT東雲店」はカーライフをテーマとしている。

 しかしそれらのトータルな店舗数は開示されておらず、大型店出店と「TSUTAYA BOOK NETWORK」の新規加盟店の増加によって、「過去最高額」がかさ上げされたと推測するしかない。また旭屋書店も子会社化されている。
 TSUTAYAの18年の出店については本クロニクル130、大量閉店に関しては同129で取り上げているので、そちらを見てほしいが、閉店に追いつく出店なしといった状態で、それはやはりこれも同130で示しておいたように、19年に入っても続いている。
 これらの出店と閉店の尋常ではないコントラストは、日販とMPDの決算に確実に反映されるだろうし、それらはTSUTAYAの「過去最高額」の内実を知らしめるであろう。

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5.丸善CHIホールディングの連結決算が発表された。
 連結子会社は丸善ジュンク堂、hontoブックサービス、TRC、丸善出版、丸善雄松堂など29社。
 売上高は1770億円、前年比0.7%減、当期純利益は24億円で、前年の赤字から減収増益決算。セグメント別の90店舗とネット書店売上高は740億円、同2.2%減、営業利益は3300万円。

 店舗ネット販売事業も前年は赤字だったので、減収増益ということになるが、営業利益は3300万円で、かろうじて黒字を保ったとわかる。それは出版事業も同様で、売上高43億円に対し、営業利益50万円。
 つまり丸善CHIホールディングスの場合、書店や出版事業は利益がほとんど上がらず、文教市場販売や図書館サポート事業などにより、バランスが保たれているである。
 株価もずっと300円台だが、今期はどうなるのか、とりわけ丸善ジュンク堂はどこに向かおうとしているのだろうか。



6.大垣書店が京都経済センターに京都本店をオープン。
 同センターは京都府や京都市などが再開発を進めてきたビルで、その商業ゾーン「SUINA室町」1階全フロア700坪を大垣書店が借り上げ、そのうちの350坪を書籍、雑誌、文具、雑貨売場とする。そして残りの350坪には大垣書店とサブリースした8社が飲食店、フードマーケット、カフェなどの10店を出店し、大垣書店はデベロッパーを兼ねるポジションでの出店となる。。
 なお大垣書店は続けて、「京都駅ビルTHE CUBE」、堺市に「イオンモール堺鉄砲町店」を出店。

 これはまったく新しいビジネスモデルというよりも、TSUTAYA=CCCが先行し、本クロニクル120で紹介しておいた有隣堂の東京ミッドタウン日比谷の「HIBIYA CENTRAL MARKET」などに続くものだろう。
 さらに今年は日本橋の複合商業施設「コレド室町テラス」に、有隣堂がライセンス供与を受け、「誠品生活日本橋」を出店することになっている。ポストレンタル複合店の模索がなされていくわけだが、年商7億円を目標とするサブリースによるデベロッパーを、書店が兼ねることができるであろうか。



7.東京都書店商業組合員数は4月現在で324店。

 『出版状況クロニクルⅢ』において、1990年から2010年にかけての各都道府県の日書連加盟の書店数の推移を掲載しておいた。
 東書商組合員数もほぼそれと重なっているはずなので、それを引いてみると、1990年には1401店、2010年には591店となっている。何と30年間で、1000店以上の書店が消えてしまったのである。しかもそれはまだ続いていて、この10年でさらに半減し、来年は300店を割ってしまうだろう。
 1400万人近くの人口を擁する東京ですらも、こうした書店状況にあるのだから、他の道府県の書店環境も推して知るべしといっていい。書店の黄昏は出版や読書の現在を紛れもなく照らし出している。
出版状況クロニクルⅢ



8.幻戯書房の田尻勉社長が「出版流通の健全化に向けて」というプレスリリースを発表し、出荷正味を60%とすると表明。そのコアの部分を引いてみる。

 小社では少部数で高定価の書籍が多く、新刊は書店様から事前注文に基づいて、取次会社に配本していただいており、取次の見計らいの配本は多くありません。しかしながら、配本後すぐの返品も増え、返品類も増えています。また、一部の取次は、月一度の締日を考慮することなくムラのある返品となり、小社の資金計画に支障を来しています。こうしたことから、出版流通に携わる方々も厳しい状況にあると推察しております。
 業界をあげて、先人が築いてきた出版流通の仕組みが疲弊していることに対して、表立った改善策の提案が上がっていません。小社としては、読者の方々に届けていただくためにも、取次会社・書店が機能していただかなくてはなりません。そのために小社としては出荷正味を原則60%といたします。(但し、お取引先からのお申し入れをいただき、詳細は別途相談させていただきます)。

 この提起に対して、『文化通信』(4/8)や『新聞之新聞』(4/12)も、田尻社長のインタビューを掲載しているので、それらも参照されたい。

 こうした提起を幻戯書房の田尻があえてしたのは、次のようなインタビューの言葉に集約されていよう。
 「出版流通がどうしようもなくなっているにもかかわらず、どこからも表だって具体的な改善策は示されない。そこで、小さいとはいえ、一石を投じたいと思いました。」「そもそも販売を取次、書店へ外部依存してきた出版社として、何ができるかと考えたとき、最もインパクトがあるのが『正味』を下げる宣言だと考えました。」
 このような田尻の視座は、彼が冨山房で書店、藤原書店で取次書店営業、そして12年から幻戯書房を引き継いだことで、出版業界の生産、流通、販売という3つのメカニズムを横断し、熟知していることで成立したといえるだろう。
 幻戯書房へは大手取次や書店からもすぐに連絡が入り、書店ではフェアを開くといった話も出ているという。これからも幻戯書房に関しては見守っていきたい。



9.文藝春秋がスリップを廃止。

 本クロニクル125で、スリップレス出版社を挙げておいたが、その後も続き、現在では60社に及んでいる。
 とりわけ文庫本はKADOKAWAから始まり、講談社、幻冬舎、光文社、実業之日本社、祥伝社、宝島社、徳間書店、竹書房、PHPが続き、それにこの4月から文春も加わることになる。
 スリップ関連経費は2円から3円とされ、そのコストカットは取次の運賃協力金の原資になっているとも伝えられている。
 それとは別に、小出版社にとってもスリップ経費は年間を通じると、それなりのコストとなってしまうので、スリップレスに向かう状況にあるようだ。
 近代出版流通システムの終焉は、このようなスリップレス化にも象徴されているのだろう。

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10.『FACTA』(4月号)が「『川上切り』角川歴彦の大誤算」というレポートを発信している。それを要約してみる。

* ネット業界の有望株ドワンゴと出版業界の異端児KADOKAWAによる経営統合から4年半がたち、カドカワが窮地に追い込まれている。2019年3月期は43億円の最終赤字に沈む見通しである。
* 経営統合当初はドワンゴの「ニコニコ動画」を柱とする「niconico」事業が右肩上がりで、ドワンゴ優位だったが、その後「YouTube」に太刀打ちできず、プレミアム会員数も256万人から188万人にまで減少してしまった。
* それにM&Aの失態も重なり、ドワンゴは17年から赤字続きとなり、今期も12月までの純損失が63億円に上り、もはや土俵際に追いこまれた状況にある。
* ドワンゴの川上量生創業者は統合後のカドカワの社長を務め、辞任して取締役に降格、ドワンゴはKADOKAWAの子会社へと格下げになった。だが川上はカドカワの8.4%の株を握る筆頭株主で、角川歴彦はその5分の1以下しか所有していない。
* だが絶大の権力者である角川歴彦は川上を後継者として考え、ドワンゴはその壮大な構想を叶える推進力はずだった。しかしそれらを失った中で、400億円の投資となる「ところざわサクラタウン」の建設が進み、昨年は冨士見の社屋に高級レストラン「INUA」を開店している。


 このレポートは「その行く末が案じられるばかりだ」と結ばれている。
 このカドカワとドワンゴ問題に関しては、本クロニクル130で既述しているし、さらなるリスクとしての「所沢プロジェクト」にもふれてきている。
 これは詳細が定かでないけれど、かつての角川書店とCCC=TSUTAYAは深く関係し、後者が大手株主だった時期もあった。そのような関係から、角川はTSUTAYAが手がけている代官山プロジェクトのような不動産開発プロジェクト事業へと接近していったのではないだろうか。 
 しかし1980年代から90年にかけて、郊外型書店全盛時代に、ゼネコンやハウスメーカーの不動産プロジェクトに巻きこまれ、多くの悲劇が起きたことを知っている。大垣書店のサブリースデベロッパーに危惧を覚えるのも、それゆえだが、「ところざわサクラタウン」は400億円という巨大な投資に他ならず、「その行く末が案じられるばかりだ」と思わざるをえない。

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11.フレーベル館がJULA出版局の全株式を取得し傘下に収める。
 JULA出版局は1982年に日本児童文学専門学院の出版部として始まり、絵本「プータン」シリーズがロングセラーとして知られていた。

「プータン」シリーズ
「プータン」シリーズ

12.岩崎書店が海外絵本輸入卸の絵本の家の全株式を取得し、子会社化。
 絵本の家は1984年に設立され、英語の海外絵本の輸入・卸販売を主として、キャラクター関連グッズの制作なども手がけ、ショールームも兼ねた直営店では小売りも行なっていた。
 岩崎書店は絵本の家の子会社化によって英語教材の強化を図る。

13.辰巳出版グループの総合図書、富士美出版、スコラマガジンの3社が、スコラマガジンを存続会社として合併し、経営の効率化をめざす。

14.主婦の友社は、子会社の主婦の友インフォスの株式をIMAGICAグループに譲渡。
 主婦の友インフォスは、主婦の友社発行の雑誌、書籍などの編集製作会社で、「ヒーロー文庫」「プライムノベル」などのライトノベル、月刊誌『声優グランプリ』を手がけている。
 IMAGICAグループはロボットなどの61社の連結子会社を有し、劇場映画、テレビドラマ、アニメ作品などの幅広い分野の映像コンテンツの企画、製作を行なっている。
 今後、主婦の友社、主婦の友インフォス、IMAGICAグループは新たな企画開発、戦略的メディアミックスの取り組みを推進していく。

15.世界文化社が100%子会社としてプレミアム旅行社を設立し、旅行事業へと進出。

16.JTBパブリッシングは中央区築地に新店舗「ONAKA PECO PECO byるるぶキッチン」をオープン。
 新店舗は地方創生共同事業として、「るるぶキッチン」を運営するJTPパブリッシング、デジタルマーケティング支援のmode,コラボレーション店舗の企画、運営ノウハウを持つツインプラネット3社のタイアップ。
 「るるぶキッチン」は東京の赤坂見付、京都、広島に続く4店目のオープン。

 11から16は、たまたま3月から4月に集中してしまったけれど、ポスト出版時代に向けての各出版社をめぐるM&A、合併、他業種進出の動向を伝えていることになろう。
 トーハンもサービス付高齢者向け住宅事業の第2弾「プライムライフ西新井」を開業しているし、出版社、取次、書店の他業種進出はこれからも続いて行くだろう。もちろん成功するかどうかはわからないにしても。



17.『朝日新聞』(4/16)の一面に『漫画アクション』(No.9)本日発売広告が掲載され、矢作俊彦×大友克洋による新作「気分はもう戦争3(だったかもしれない)」の告知があったので、それを購入してきた。

漫画アクション ( 『漫画アクション』) 気分はもう戦争

 『漫画アクション』を買ったのは何十年ぶりで、確か『気分はもう戦争』が連載されていたのは1980年代初頭で、リアルタイムで読んでいたことからすれば、広告にあるように「38年ぶり」の再会ということになる。17ページの「完全新作」は国際状況の変化とテクノロジーの進化を伝え、読者の私だけでなく、矢作や大友の高齢化をも想起してしまう。私たちだって38年前は若かったのである。
 「気分はもう戦争3(だったかもしれない)」の後に、本連載122で取り上げた吉本浩二『ルーザーズ』が続き、1960年代後半から70年代にかけて連載されたモンキー・パンチ『ルパン三世』、小池一夫、小島剛夕『子連れ狼』を始めとする作品が紹介されていく。当時は『漫画アクション』の読者だったことを思い出す。
 それから数日して、モンキー・パンチと小池一夫の訃報が伝えられてきた。彼らの死はやはりひとつの時代が終わってしまったことを痛感させられた。

 たまたま私は坂本眞一『イノサン』(集英社)をフランス版『子連れ狼』として読んでいるのだが、その第3巻にダンテの『神曲』を想起させる見開きのシーンがあり、そこに「この得体の知れない不安感は何だ……?/まるで僕一人だけが真っ暗な穴に迷いこんでいくような……」という言葉が表記されていた。これこそは20世紀後半の『漫画アクション』ならぬ21世紀コミックの声なのであろう。
ルーザーズ f:id:OdaMitsuo:20190427152907j:plain:h112 >『子連れ狼』 イノサン 

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18.今月も出版人の死が伝えられてきた。
 それは太田出版の前社長の高瀬幸途である。

 前回、宮田昇の死を記したが、高瀬も宮田と同じく、日本ユニ・エージェンシーに在籍していた。その関係もあって、『出版状況クロニクルⅤ』で取り上げておいた、宮田の『出版の境界に生きる』を始めとする太田出版の「出版人・知的所有権叢書」の成立を見たと思われる。その後の続刊を確認していないけれど、宮田に続いて高瀬も亡くなってしまうと、刊行も難しくなるかもしれない。
 いずれ太田出版と高瀬のことは近傍にいた編集者が書いてくれるだろう。

出版の境界に生きる



19.今月の論創社HP「本を読む」㊴は「新人物往来社『近代民衆の記録』と内川千裕」です。
 『日本古書通信』に17年間連載した拙著『古本屋散策』は200編1000枚を収録して、連休明けに刊行予定。

古本屋散策

出版状況クロニクル131(2019年3月1日~3月31日)

 19年2月の書籍雑誌推定販売金額は1221億円で、前年比3.2%減。
 書籍は737億円で、同4.6%減。
 雑誌は473億円で、同0.9%減。その内訳は月刊誌が389億円で、同0.3%減、週刊誌は84億円で、同3.6%減。
 雑誌のマイナスが小幅なのは、前年同月が16.3%という激減の影響と返品減少で、ムックとコミックスの返品の改善によるものである。
 その返品率は書籍が33.2%、雑誌は41.5%で、月刊誌は41.6%、週刊誌は41.0%。
 雑誌の返品率は16年41.4%、17年43.7%、18年同じく43.7%と、続けて40%を超え、19年も同様であろう。
 3月は第1四半期と取次の決算などが重なり、どのような影響を及ぼしていくのだろうか。


1.日販は10月1日付で持株会社体制に移行すると発表。
 4月1日付で子会社を新設し、子会社管理、及び不動産管理以外のすべての事業を簡易吸収分割により継承する。
 その「10月1日以降のグループ体制の概要(予定)」を示す。

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『新文化』 (2/21)

 つまり日販の新体制において、持株会社は新お茶の水ビルなどの資産を保存し、グループの経営に特化する。グループは「取次」「小売」「海外」「雑貨」「コンテンツ」「エンタメ」「その他」「グループIT」「シェアードサービス」の9事業に分かれ、それぞれに子会社が配置されることになる。
 「取次事業」は新設の日販を始めとして、出版共同流通などの物流子会社、文具卸の中三エス・ティ、TSUTAYA卸のMPDなどから構成される。
 「小売事業」は中間持株会社NICリテールズに6法人、273店の書店が入る。折しもクロス・ポイントはファミリーマートとの一体型店舗「ファミリーマートクロスブックス我孫子店」を開店。同店は旧東武ブックス我孫子店で、1階がCVS、2階が書店。NICリテールズとしては2店目で、CVSとの融合を加速させていくようだ。
 「海外事業」は台湾での日本出版物の卸の日盛図書有限公司、中国で日本出版物の翻訳出版に携わる北京書錦縁諮詢有限公司。
 「雑貨事業」はダルトン、「コンテンツ事業」はコミックや小説の電子書籍を発行するファンギルド。
 「その他事業」のASHIKARIはブックホテル「箱根本箱」を経営、日本緑化計画はそら植物園との合弁会社、蓮田ロジスティクスセンターは倉庫会社。
 「エンタメ事業」と「シェアードサービス」は10月以降の将来構想とされる。

 前回の本クロニクルで、トーハンの「機構改革」と月刊広報誌『書店経営』の休刊にふれ、「ポスト書店を迎える中での取次のサバイバルの行方」を象徴していると既述しておいたが、日販の持株会社体制移行もまた同様だと見なすしかない。本クロニクル119などで、「日販非常事態宣言」に言及してきたが、その1年後の動向となる。
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2.トーハンは岐阜・多治見市のアクトスとフランチャイズ契約を締結し、フィットネスビジネス運営事業に参入。
 アクトスは1998年に設立され、フィットネスクラブなどを全国90店舗展開している。トーハンは「スポーツクラブアクトスwill-G」の屋号で、文真堂書店ゲオ小桑原店の2階に開店し、群馬県高崎市、埼玉県熊谷市にも新規出店。

 これはポストDVDレンタルの行方のほうを伝えてもので、この3店がそれなりに好調であれば、トーハン傘下の書店に続けて導入されていくだろう。
 だが2月の書店閉店状況を見てみると58店で、大型店の閉店が増えている。これらは日販だが、フタバ図書GIGA福大前店は700坪、同高陽店は600坪、TSUTAYA天神駅前福岡ビル店は710坪である。

 新規事業の導入にしても、大型店の場合は家賃コストとテナント料の問題もあり、すべての店舗に可能だとはいえない。それらのことを考えれば、これからも大型店の閉店は続いていくはずだ。それからTSUTAYAの6店に加え、チェーン店の未来屋が2店、宮脇書店も3店が閉店している。これらも気にかかるところだ。
 また東海地方のカルコスチェーンが、日販からトーハンへ帳合変更。



3.取協は4月1日から中国、九州地方で、雑誌や書籍の店頭発売が1日遅れになると発表。
 これは中国、九州地方への輸送を受け持っている各運送会社からの要請を受けたものである。現行のトラック幹線輸送が運行や労務管理上、法令違犯の状態にあり、出版社からの商品搬入日や発売日を含む輸送スケジュールの見直しが、法令順守やコストの点からも迫られていたからだ。

 本クロニクル127などで、出版輸送問題に関して、出版輸送事業者の現状からすると、もはやコストも含め、負担も限界を超え、明日にでも出版輸送が止まってしまってもおかしくない状況にあることを伝えてきた。
 今回の中国、九州地方での発売の遅れは、その一端が現実化してしまったことを告げている、しかもそれで問題解決とはならないのである。それから最も気になるのは、これがさらなる中国、九州地方での雑誌離れにつながり、dマガジンなどの電子雑誌への移行を促すのではないかということだ。
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4.『ニューズウィーク日本版』(3/5)が特集「アマゾン・エフェクト」を組んでいる。
 その巻頭に「誰もがアマゾンから逃れられない」を寄せているビジネスライターのダニエル・グロスは、「今も広がり続けるアマゾン・エフェクトの脅威、生活を支配する怪物企業は世界の破壊者か変革者か」と問い、急成長を続けるアマゾンの現在を次のように描いている。

ニューズウィーク日本版

 アマゾンが扱う品目は2000万点を超える。しかも物流(専用の貨物機と倉庫網を運用する)や食品販売(自然食品チェーンのホール・フーズ・マーケットを買収した)、映像コンテンツ(動画配信のプライム・ビデオ)、クラウドホスティング(アマゾンウェブサービス、略称AWS)、そしてゲームの世界(動画共有サービスのツィッチ)でも巨大な存在だ。(中略)
 その急成長を物語る数字には唖然とする。見たことがないような急速かつ多角的な事業拡大だ。18年度の総売り上げは2329億ドルで、前年度の1780億ドルから30%増。100億ドルという前代未聞の営業利益も記録した。(中略)事業の多角化が奏功し、今や売り上げの半分近くはネット通販以外で稼いでいる。
 この四半世紀にわたる躍進で、今では誰もがアマゾン・エフェクト(アマゾン効果)―アマゾンの急成長と多角化がもたらす影響、市場の混乱や変革を指す―を感じている。
 アマゾンは消費者を囲い込み、注目と忠誠と出費を促す。そのために提供するのは利便性、価値、そして商品とサービスの拡充だ。人々はアマゾンを身内のように信頼し、自宅に招き入れる。使い勝手の良さで関係が深まれば、もう他社は割り込めない。


 このようなアマゾンの急成長の背後には、「リテールズ・アポリカス(小売店)の残骸」が散らばり、それらも具体的に写真に示される。
 書店チェーンのボーダーズの経営破綻、バーンズ&ノーブルの店舗の減少、玩具チェーンのトイザらス、家電販売大手のラジオジャック、靴の安売りのペイレス・シューソース、通販のシアーズの経営破綻、これにショッピングモールも続いている。
 そしてフォトジャーナリストのセフ・ローレンスの「アマゾン時代の“墓場”を歩く」という「フォトエッセイ」には、それらのショッピングモールの廃墟が映し出されていく。

 私もロメロの映画『ゾンビ』を論じて、「やがて哀しきショッピングセンター」(『郊外の果てへの旅/混住社会論』所収)なる一文を書いているが、それらの写真はもはやゾンビも出没しないであろう何もない無残な姿を浮かび上がらせている。
 日本ではまだここまでの、「リテールズ・アポリカス」は出現していないと思われるが、書店状況を考えれば、その日も近づいているのかもしれない。
 なおこの特集は18ページに及ぶものなので、実際に読むことをお勧めする。
ゾンビ 郊外の果てへの旅(『郊外の果てへの旅/混住社会論』)



5.『出版ニュース』(3/下)に緑風出版の高須次郎が「アマゾンの『買い切り・時限再販』宣言に出版社はどう対応すべきか」を寄稿している。それを要約してみる。

郊外の果てへの旅

* 再販制下にあって、アマゾンが出版社との直接取引で、「買い切り」を条件とし、売れ残りを時限再販するというのは、越権行為に他ならず、時限再販をする、しないは出版社の専横事項に属する。
* 時限再販や部分再版については取引条件交渉のらち外の問題で、アマゾンから要求を持ち出すこと自体が、出版社の自由意思を妨げる行為、すなわち現行再販制度の任意再販、単独実施の原則に反する行為である。
* それにこれを日本最大の小売書店といえるアマゾンが要求することは圧力であり、事実上の強要である。出版社はアマゾンとの交渉内容を記録し、不公正な取引方法、優越的地位の乱用で公取委に訴えるなどの断固たる対応が必要である。
* アマゾンの要求に屈して、出版社が「買い切り・時限再販」を呑んでしまえば、出版社は完全にダブルスタンダードとなり、アマゾンでは買い切り・時限再販、一般書店では従来通りの返品条件付き委託の定価販売を求めることになり、現行再販制度上できる話ではない。
* 出版社の正当な権利も行使せず、アマゾンの要求を呑めば、次には完全な部分再版=自由価格取引を要求されることになり、出版界は自ら崩壊への道をたどっていくだろう。


 これはアマゾンと取引していない緑風出版の経営者の立場だからいえることで、直接取引している2942社は千々に乱れている状況にあると推測される。
 現在の出版危機下にあって、アマゾンとの直接取引によってサバイバルしている中小出版社も多いからだ。
 それに再販制に関する視座として、高須と私は異なっているので、いずれあらためて再販制の起源と歴史、その功罪をめぐって意見を交わしたいと思う。



6.5と同じ『出版ニュース』の最終号の伊藤暢章「海外出版レポート・ドイツ」が「大手取次店の倒産の影響」を伝えている。
 2月14日にドイツの大手取次KNV(コッホ、ネフ&フォルクマール有限会社)が突然、倒産申請し、出版業界を震撼させ、様々な論議を呼んでいる。
 KNVは1829年にライプツィヒで書籍の委託販売業を創業したことから始まり、それがドイツの書籍取次店の淵源であった。そして時代の変遷とともに、いくつもの同業他社の吸収合併、グループ化などがあり、大取次の地位を占めることになった。
 現在のKNVは5600の書店に納本し、その内訳はドイツが4200店、オーストリアとスイスが800店、その他の国が600店、また70ヵ国以上に輸出している。
 KNVは5000社以上の出版社の50万点の書籍を常備し、ニューメディアも6万3000点以上、ゲームなども1万6000点を扱い、「KNV書店輸送サーヴィス」という独自の配送システムを有し、全商品が翌日に販売拠点に配達されるという。
 倒産の原因は赤字の累積に加えて、広大なロジステックセンターの新設という設備投資の失敗によるもので、複雑ではあるけれど、書籍市場そのものになく、いわばKNV「自家製」の危機とされている。そのために出版社も書店も全面支援体制を組み、KNVをつぶしてはならないということで、援助策が打ち出されているようだ。

 ただそうはいっても、KNVの場合もアマゾンの影響がまったくないとは言い切れないだろう。このKNVのその後の行方もたどりたいが、『出版ニュース』は最終号なので、もはやそれもかなわない。その後『文化通信』(3/25)でも報じられている。
 本クロニクルとしては「海外レポート」を最も愛読、参照してきたので、これが終わってしまうのはとても残念だ。といって、各国の出版情報誌を講読する気にはならないし、日本だけのことに専念することにしよう。
 そういえば、かつて「ドイツの出版社と書店」(『ヨーロッパ 本と書店の物語』所収、平凡社新書)を書いたことがあった。新書なので、よろしければ参照されたい。
ヨーロッパ 本と書店の物語



7.『DAYS JAPAN』(3、4月号)も届いた。
 やはり最終号なので、『出版ニュース』に続けて取り上げておこう。
 この最終号は第一部「広河隆一性暴力報道を受けて検証委員会報告」、第二部「林美子責任編集による特集「性暴力をどう考えるか、連鎖を止めるために」で、前者は14ページ、後者は実質的に26ページの構成となっている。

DAYS JAPAN

 この構成からわかるように、「広河隆一性暴力報道」は十分に「検証」されているとはいえず、斎藤美奈子がラストページに書いているように、「広河事件の背後に見えるもうひとつの闇」を浮かび上がらせているような印象をもたらしてしまう。
 戦前の出版史に伴う文学、思想史をたどっていると、女性に関して白樺派は女中、左翼はハウスキーパー、京都学派は祇園ではないかとの思いを抱かされる。それが戦後も出版業界で同様に続いていて、広河事件はそれをあからさまに露出してしまったことになる。
 ただ私としては、セクハラもパワハラも無縁だと自覚しているが、『リブロが本屋であったころ』の中村文孝からは「出版業界にいるだけでパワハラだ」といわれているので、自戒しなければならないと思う。
DAYS JAPAN



8.『日経MJ』(3/15)が「ビッグ・バッド・ウルフ」というブックフェアを紹介している。
 これは洋書中心のブックフェアで、欧米で在庫処分となった洋書を大量調達し、定価の5~9割引という格安価格で売りさばくのが特徴で、期間限定だが、24時間営業である。
 同記事はミャンマーのヤンゴンでのブックフェアを伝え、11日間の営業中の来場者は15万人、在庫数は合計100萬冊に達し、ヤンゴンの書店にはその1%の在庫すらもないので、5冊、10冊のまとめ買いは当たり前とされる。
 ブックフェアはマレーシアから始まり、アジア8ヵ国、地域に広がっている。これはマレーシアのクアラルンプールの郊外の書店の若きオーナー夫妻が始めたもので、「赤ずきん」などに登場する「大きな悪いオオカミ」から命名され、子どもたちにこそ読書に親しんでほしいという思いがこめられているという。

 このブックフェアがのアマゾンの動向とリンクしているのかは詳らかにしないが、10年目を迎え、世界最大の洋書フェアと謳われるブックフェア「ビッグ・バッド・ウルフ」のことは初めて目にするし、どこにもレポートされていないと思えるので、ここで紹介してみた。



9.『出版月報』(2月号)が特集「紙&電子コミック市場2018」を組んでいる。
 18年のコミック市場全体の販売金額は4414億円、前年比1.9%増。
 その内訳は紙のコミックスが1588億円、同4.7%減、紙のコミック誌が824億円、同0.1%減。
 電子コミックスは1965億円、同14.8%増、電子コミック誌は37億円、同2.8%増。
 そのうちの「コミック市場(紙+電子)販売金額推移」と「コミックス・コミック誌推定販売金額」を示す。

■コミック市場全体(紙版&電子)販売金額推移(単位:億円)
電子合計
コミックスコミック誌小計コミックスコミック誌小計
20142,2561,3133,56988258874,456
20152,1021,1663,2681,149201,1694,437
20161,9471,0162,9631,460311,4914,454
20171,6669172,5831,711361,7474,330
20181,5888242,4121,965372,0024,414
前年比(%)95.389.993.4114.8102.8114.6101.9


■コミックス・コミック誌の推定販売金額(単位:億円)
コミックス前年比(%)コミック誌前年比(%)コミックス
コミック誌合計
前年比(%)出版総売上に
占めるコミックの
シェア
(%)
19972,421▲4.5%3,279▲1.0%5,700▲2.5%21.6%
19982,4732.1%3,207▲2.2%5,680▲0.4%22.3%
19992,302▲7.0%3,041▲5.2%5,343▲5.9%21.8%
20002,3723.0%2,861▲5.9%5,233▲2.1%21.8%
20012,4804.6%2,837▲0.8%5,3171.6%22.9%
20022,4820.1%2,748▲3.1%5,230▲1.6%22.6%
20032,5492.7%2,611▲5.0%5,160▲1.3%23.2%
20042,498▲2.0%2,549▲2.4%5,047▲2.2%22.5%
20052,6024.2%2,421▲5.0%5,023▲0.5%22.8%
20062,533▲2.7%2,277▲5.9%4,810▲4.2%22.4%
20072,495▲1.5%2,204▲3.2%4,699▲2.3%22.5%
20082,372▲4.9%2,111▲4.2%4,483▲4.6%22.2%
20092,274▲4.1%1,913▲9.4%4,187▲6.6%21.6%
20102,3151.8%1,776▲7.2%4,091▲2.3%21.8%
20112,253▲2.7%1,650▲7.1%3,903▲4.6%21.6%
20122,202▲2.3%1,564▲5.2%3,766▲3.5%21.6%
20132,2311.3%1,438▲8.0%3,669▲2.6%21.8%
20142,2561.1%1,313▲8.7%3,569▲2.7%22.2%
20152,102▲6.8%1,166▲11.2%3,268▲8.4%21.5%
20161,947▲7.4%1,016▲12.9%2,963▲9.3%20.1%
20171,666▲14.4%917▲9.7%2,583▲12.8%18.9%
20181,588▲4.7%824▲10.1%2,412▲6.6%18.7%

 16年までのコミック市場全体の販売金額は4400億円台で推移し、17年は4300億円と前年マイナスになっていたが、18年はプラスとなった。しかしこれは『出版月報』でもリストアップされているように、紙の大手コミックレーベルの価格値上げの影響が大きい。
 電子コミック市場は初めて2000億円を超えたけれど、1965億円という電子コミックスの伸びによるもので、これは海賊版サイト「漫画村」の閉鎖とリンクしている。
 それらを考えると、コミック市場全体が回復しつつあるとの判断は留保すべきだろう。それに1997年は紙のコミックス、コミック誌だけで、5700億円を販売していたのであり、2018年はそれが半減以下の2412億円まで落ち込んでしまっている。このマイナスはまだ続いていくだろうし、電子コミックスはまだ伸びていくにしても、この5年間のコミック市場全体の販売金額の推移からすれば、4300から4400億円台を上回る成長は期待できないように思われる。

 それから最も留意すべきはコミック誌の販売金額で、17年に1000億円を割りこみ、917億円だったのが、さらに93億円のマイナスで、824億円となってしまったのである。19年は確実に700億円台になるだろう。1997年には3279億円だったから、5分の1の販売金額で、コミック誌の終わりの時代を象徴しているかのようだ。

 またこれは本クロニクル119でも書いておいたが、電子コミックス市場にしても、紙のコミックス市場がそうであるように、あくまで紙のコミックス誌が母胎となって形成されている。その母体であるコミックス誌の凋落は確実に電子コミックス市場へとも反映されていくだろう。
 海賊版サイトが閉鎖されても、旧作の電子コミックス化が一巡してしまえば、それほどの成長を期待することはできないのではないだろうか。



10.講談社の決算が出された。
 売上高は1204億円、前年比2.1%増、当期純利益は28億円、同63.6%増。
 その内訳は雑誌509億円、同8.9%減、書籍は160億円、同9.4%減。広告収入50億円、同8.6%増、事業収入443億円、同24.1%増。
 事業収入のデジタル関連収入は334億円、同33.9%増、そのうちの電子書籍売上は315億円、同44.1%増、国内版権収入は60億円、同5.2%減、海外版権収入は47億円、同9.3%増。

 雑誌と書籍のマイナスを電子書籍などの事業収入でカバーし、3年連続の増収となった。
 それはで既述したコミックの定価値上げ、海賊版サイトの閉鎖も作用しているはずだ。
 これも本クロニクル118で、講談社は出版社・取次・書店という近代出版流通システムからのテイクオフをめざしているのではないかとの推測を述べておいたが、19年のアマゾンとの取引はどうなるのか、それを注視すべきだろう。
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11.文化庁の著作権侵害物の全面的なダウンロードを違法化の提出は、今国会では見送りとなった。

 これは前回の本クロニクルでもふれているが、2月27日に日本漫画家協会に加入する1600人の漫画家たちの異議申し立てが大きな力となったようだ。
 日本漫画家協会理事長、里中満智子へのインタビューが『朝日新聞』(3/13)にも掲載され、それらの事情、漫画家としての立場が語られている。
 やはり問題なのは「著作権者である私たち漫画家が知らない間に話が進んでいて」、漫画家は政府や文化庁から意見を聞かれることもなく、出版社からも説明や経過報告を受けていないことだ。つまり肝心な当事者に説明責任を果たすことなく、万事が進められていたのだ。
 里中も海賊版には悩んでいるけれど、「現案では、漫画を護るゆえに一般の方が不自由になってしまうのはかえって不本意です」と述べている。まさに正論というべきであろう。



12.地球丸が破産手続き。
 同社はアウトドア専門誌出版社で、ルアー&フライフィッシング雑誌『Rod and Reel』などを出していた。
 負債は7億1700万円。
Rod and Reel

13.医薬ジャーナル社倒産。
 同社は1965年設立で、『医薬ジャーナル』などの5点の月刊誌の他に、医学専門書を出版し、大手製薬会社、病院、薬局などを定期購読者としていた。
 負債は3億8800万円。

f:id:OdaMitsuo:20190324223416j:plain:h120

 本クロニクルでも趣味の雑誌の世界の解体にふれてきているが、12の地球丸の破産も、その具体的な一例となろう。
 13の医薬ジャーナル社の倒産は、事情通によれば、これから起きるであろう医学書出版社の危機の前ぶれであるとのことだ。
 その他にも数社の破綻が伝えられているが、複数の確認がとれていないので、今回は書かない。



14.大修館書店の関連会社大修館A.S.が、ゆまに書房の全株式を取得し、グループ会社化。
 大修館の鈴木一行社長が、ゆまに書房代表取締役社長に、ゆまに書房の荒井秀夫社長が代表取締役会長に就任。
 社員19人の継続雇用と、当面の間の取引先変更はなく、編集、営業、物流、制作面でのシナジー効果を高めたいと説明されている。

 私は ゆまに書房の『編年体大正文学全集』を所持していることもあって、ゆまに書房が大修館と一緒になって、文芸書における新たな企画と分野に進出してほしいと思う。
 これは知らなかったけれど、ゆまに書房は1975年創業で、大学市場に強く、千代田区の本社、茨城の杜やロジスティックスセンターも自社物件であるという。それに加えて今回の決定は後継者問題ゆえだとされている。
編年体大正文学全集



15.釧路市の絵本と童話の専門店、プー横丁が閉店。
 そのプロフィールは次のようなものだった。

 「おとなとこどものプー横丁」
 本好きが高じてなってしまった絵本と童話の店。読み聞かせが好きで小さい人が来てくれたら読まずにいられない。その為か個人の文庫か私設の図書館みたいな所、と勘違いされる時もあるが、れっきとした読み・売り本屋です。


 夏の閉店を前倒しして、3月いっぱいで閉店となったようで、やはりいろいろな事情が絡んでいるのだろう。
 本クロニクル115でも名古屋のメルヘンハウスの閉店を取り上げているけれど、児童書専門店は1980年代から90年代にかけて、ブームの感すらもあったけれど、現在はどうなっているのだろうか。
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16.産業編集センター編著『本をつくる―赤々舎の12年』を読了。

本をつくる―赤々舎の12年

 これはサブタイトルに「赤々舎の12年」とあるように、京都のアートブック、写真集専門出版社といっていい赤々舎の創業者姫野希美へのインタビュー、及び170冊の写真集などの書影も添えた、赤々舎の歴史と出版目録を兼ねた一冊である。
 12年間でこれほど多くの写真集を刊行し、そのうちの10冊近くが木村伊兵衛写真賞を受賞しているのは驚くしかない。それらを挙げてみれば、岡田敦『I am』、志賀理江子『CANARY』、浅田政志『浅田家』などだ。
 だがかつて写真集は返品されるとダメージが大きく、採算などが難しいとされていた。現在ではそのような問題はクリアーされたのであろうか。それらも含めて、姫野に会う機会があったら、そっと経営の秘訣を教えてもらいたいと思う。
I am CANARY 浅田家



17.安田浩一×倉橋耕平の対談集『歪む社会』(論創社)を読み終えた。

I am

 これは論創社から献本され、読んだのだが、思いもかけずにこの一冊が歴史修正主義、ヘイト本、ネット右翼、新自由主義の出版史に他ならないことに気づいた。
 そうした意味において、『歪む社会』は現代出版史としても読めるし、広く推奨する次第である。



18.宮田昇が90歳で亡くなった。

 宮田は早川書房や日本ユニエージェンシーなどを経て、出版太郎名義の『朱筆』全2冊(みすず書房)から、『出版状況クロニクルⅤ』で紹介しておいた近著『昭和の翻訳出版事件簿』(創元社)までを著わしている。それらは宮田でしか書けなかった戦後の出版と翻訳史であり、出版界はかけがえのない証言者を失ってしまったことになる。
 謹んでご冥福を祈る。
朱筆  昭和の翻訳出版事件簿



19.今月の論創社HP「本を読む」㊳は「新人物往来社『怪奇幻想の文学』と『オトラント城綺譚』」です。

出版状況クロニクル130(2019年2月1日~2月28日)

 19年1月の書籍雑誌推定販売金額は871億円で、前年比6.3%減。
 書籍は492億円で、同4.8%減。
 雑誌は378億円で、同8.2%減。その内訳は月刊誌が297億円で、同7.6%減、週刊誌は81億円で、同10.2%減。
 18年12月の、2年1ヵ月ぶりのプラスである同1.8%増の反動のように、19年1月は17年の6.9%、18年の5.7%という通年マイナスの数字へと逆戻りするスタートとなってしまった。
 返品率は書籍が35.6%、雑誌は47.4%で、月刊誌が49.3%、週刊誌は39.3%。
 雑誌の返品率は18年5月の48.6%に次ぐもので、月刊誌のほうはコミックの販売金額7%増がなかったならば、50%を超えていたであろう。
 またそれに週刊誌の落ち込を重ねると、19年も雑誌の凋落が続いていくことは確実で、かつてない書店市場の激減に立ち合うことになるとも考えられる。
 そのようにして、19年が始まっているのである。


1.出版科学研究所による18年度の電子出版市場販売金額を示す。

■電子出版市場規模(単位:億円)
20142015201620172018前年比
(%)
電子コミック8821,1491,4601,7111,965114.8
電子書籍192228258290321110.7
電子雑誌7012519121419390.2
合計1,1441,5021,9092,2152,479111.9

 18年度の電子出版市場規模は2479億円で、前年比11.9%増。
 それらの内訳は電子コミックが1965億円、前年比14.8%増で、その占有率は79.3%に及び、来年は確実に売上とシェアは2000億円、80%を超えるであろう。
 それに対して、電子雑誌は193億円、前年比9.8%減で、200億円を割り、シェアは7.8%となった。
 要するに日本の電子出版市場は電子コミック市場と見なしていいし、電子雑誌は初めてのマイナスで、「dマガジン」の会員数が2年連続して減少したことが影響している。それらを考えれば、電子出版市場の成長もあと数年しか続かないかもしれない。
 18年の紙と電子を合わせた出版市場は1兆5400億円で、前年比3.2%減、電子出版市場の成長が止まれば、合体の出版物市場もさらなるマイナスへと追いやられていくだろう。



2.アルメディアによる18年の書店出店・閉店数が出された。

■2018年 年間出店・閉店状況(面積:坪)
◆新規店◆閉店
店数総面積平均面積店数総面積平均面積
11300300726,41490
2428471818,412106
3142,940210937,32982
4163,292206383,08593
51120120545,15999
671,259180473,45280
7102,118212595,948106
81107107555,876109
981,757220444,804117
104582146402,96774
11113,777343421,97952
1273,696528391,82952
合計8420,23224166457,25491
前年実績16534,69221065861,793101
増減率(%)▲49.1▲41.714.60.9▲7.3▲10.3

 出店84店に対して、閉店は664店である。
 17年の出店は165店だったから、ほぼ半減となり、閉店は高止まりの横ばいだったので、実質的に書店坪数は3万7000坪の減少となった。
 本クロニクル118において、13年から続いてきた出店と閉店のフラットな数字の反復は、18年に入ると疑わしいと既述したが、ついに出店は100店を割りこむ段階に入り、それでいて閉店は変わらず続いているという最悪の書店状況を迎えている。
 しかもそれが19年も続いていくだろうし、そうしたプロセスに立ち会うことになる取次は、どのような事態に追いやられていくのだろうか。
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3.2と同じく、アルメディアによる取次別新規書店数と新規書店売場面積上位店を示す。

■2018年 取次別新規書店数 (面積:坪、占有率:%)
取次会社カウント増減(%)出店面積増減(%)平均面積増減(%)占有率増減
(ポイント)
日販48▲41.515,790▲26.532925.678.016.1
トーハン26▲65.33,722▲68.8143▲10.118.4▲15.9
大阪屋栗田4▲20.0528▲56.4132▲45.52.6▲0.9
中央社3200.010088.733▲37.70.50.3
その他350.092178.83182.40.0▲0.1
合計84▲49.120,232▲41.724114.8100.0
                           (カウント:売場面積を公表した書店数)


■2018年 新規店売場面積上位店
順位 店名所在地
1江別 蔦屋書店江別市
2高知 蔦屋書店高知市
3蔦屋書店龍ヶ崎店龍ヶ崎市
4フタバ図書ジアウトレット広島店広島市
5TSUTAYA BOOK STORE岡山駅前店岡山市
6TSUTAYA東福原店米子市
7ブックスミスミ日向店日向市
8TSUTAYA BOOK STORE Oh!Me大津テラス店大津市
9TSUTAYA大崎古川店大崎市
10ブックス・モア本荘店由利本荘市

 取次別の新規書店数を見ると、日販が48店、1万5790坪に及び、全体の半分以上を占め、売場面積シェアも78%に達している。
 しかも売場面積上位店からわかるように、大半がTSUTAYAの大型店であり、これも本クロニクル116で指摘してきたように、16年から続いていて、異常な出店状況だというしかない。
 しかしこのような出版状況が19年も続いていくとは考えられない。それを支えてきた日販の体力が落ちこんできているのは明らかだし、MPDにしても、それは同様である。すでに今期決算も近づいているし、文教堂問題も予断を許さない状況下に置かれている。取次にとっては薄氷を踏むような事態の中にあると推測される。
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4.19年1月のTSUTAYAの閉店と坪数を挙げておく。

■2019年1月TSUTAYA閉店名と売場面積
店名売場面積(坪)
フジワTSUTAYA国分店120
TSUTAYA高須店170
TSUTAYA府中駅前店280
蔦屋フジグラン四万十270
TSUTAYA JR野田店240
TSUTAYA砥部店280
TSUTAYA上尾原市店280
TSUTAYAフジグラン十川店200
TSUTAYA宇都宮鶴田店270
TSUTAYA仁戸名店400
TSUTAYA祖師谷大蔵店166
TSUTAYA上尾駅前店240

 1月の閉店数は83店で、そのうちの12店がTSUTAYAと蔦屋で占められているわけだから、でふれた出店の異常さは、閉店も同様であることをあからさまに伝えていよう。
 前回の本クロニクルで、18年の81店というTSUTAYAの全国的な大量閉店にふれ、さらに19年が大型店も含め、それ以上の本格的な閉店ラッシュに見舞われるのではないかと予測しておいた。何とすでに1月だけで、2916坪のマイナスが生じたのである。それはの売場面積上位3店の合計売場面積に相当するものだ。
 この1月のTSUTAYA閉店状況を見ると、まさにそのように進んでいくと考えるしかない。



5.『朝日新聞』(2/4)が各社の「ポイントカードなど個人情報を扱う各社の対応例」表を添え、CCCの「Tカード」が会員の知らないままに個人情報を捜査当局に任意提供していたことに言及している。

 おそらくTSUTAYAの大量閉店も「Tカード」の行方とリンクしているのだろうし、それは本クロニクル128でもふれたばかりだ。ファミリーマートのTポイント離脱に、ドトールも続いている。
 その他にも動画配信サービス「TSUTAYA TV」の全作品見放題宣伝は虚偽で、景品表示法違反に当たるとして、消費者庁はTSUTAYAに課徴金1億円の納付命令を出している。
 また一方で、ネット証券のSBI証券がTポイントで株式投資ができるSBIネオモバイバル証券を、CCCグループと資本業務提携して設立。早期に50万口座の獲得をめざすという。これらに関してはいずれ『FACTA』などが内幕をレポートしてくれるだろう。
 なお本クロニクル121でもCCCによるフェイスブックへの個人情報の提供などに言及しているので、ツタヤ図書館との関係もあり、ぜひ参照してほしい。
 それから『出版ニュース』(2/下)にも田井郁久雄「マスコミの図書館報道を検証する」が掲載されていることを付記しておく。

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6.もう少し4の1月の書店閉店に関して続けてみる。
 TSUTAYA以外に、複数の閉店がある書店とその数を示す。
 天牛堺書店11、ヴィレヴァン4、宮脇書店3、文教堂2、WonderGOO 2、福家書店2、夢屋書店2となっている。

 天牛堺書店と福家書店は本クロニクル129,128でレポートしておいたように、破産に伴う閉店、ヴィレヴァンも18年に続く閉店ラッシュ、宮脇書店はフランチャイズシステムの限界、文教堂はこれも前回の本クロニクルでふれたとおりの延長線上にある。
 だがWonderGOO の場合は本クロニクル127などで取り上げてきたように、少し入り組んでいて、これもTSUTAYAのFCだから、その閉店と関係があるだろうし、親会社のRIZAPの動向も反映されていよう。
 後者については『週刊東洋経済』(2/2)が深層レポート「RIZAP役員大幅削減の真相」を掲載している。それによれば、ワンダーコーポレーションの内藤雅也会長兼社長は元大創専務だが、「ワンダーを本格的にこう変えていこうというビジョンも戦略」もなく、「経営者としての資質には疑問符がつく」とされている。赤字とはいえ、ワンダーは売上高700億円に及び、RIZAP中核企業で、再建の失敗は許されない状況にあることは間違いない。
 書店閉店状況は、より深刻化する出版危機を照らし出す鏡のようにして、出版業界の現在を虚飾なく映し出しているといえよう。
週刊東洋経済

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7.トーハンの「機構改革」「役員人事」「人事異動」の「お知らせ」が届いた。

 「機構改革」や「役員人事」からうかがえるのは、明らかにポスト書店を迎える中での取次のサバイバルの行方ということになるだろう。書店と出版物販売に関してはリストラ、不動産事業とそれにまつわる新たな業態の開発などに向っていることが伝わってくる。
 そのことを象徴するかのように、トーハンの月刊広報誌『書店経営』が3月で休刊となる。これは1957年に創刊され、747号まで出されてきたのだが、その廃刊はかつての「書店経営」という言葉が死語となってしまった時代を迎えたことをも意味していよう。

 そのかたわらで、トーハンは中小出版社に対し、2月後半の新刊配本が3月にずれこむと通達してきた。これはまったく報道されていないし、また文書によるものではないこともあり、大手出版社の書籍に関しても同様なのか、確認ができていない。
 しかしこのような処置が全出版社に対して行なわれているようであれば、大手出版社、老舗出版社こそ資金繰りの問題に直面することになろう。いってみれば、様々な原因は考えられるにしても、大手取次による新刊配本のデフォルトであり、これからも反復されていくのではないだろうか。



8.アマゾンは買切取引を始めると発表。
 現在の返品率は既刊が3%だが、新刊は20%に達しているので、買切によって返品率低下をめざす。
 書籍、雑誌、コミックの全分野に及ぶ。
 商品選定は出版社との話し合いにより、在庫過多になった場合、出版社と協議し、ケースバイケースで対処する。買切仕入れ条件や時限再販も同様で、一律の条件設定はしない。

 しかしこのアマゾンの買切仕入れには疑念がつきまとう。確かに既刊本に関しては販売データの蓄積により可能かもしれないが、新刊については難しいのではないか。AIによる自動発注のテスト運用を開始し、返品率を改善するとの言は鵜呑みにはできない。
 現在のアマゾンの新刊返品率は50%を超えるものもかなりあり、仕入れの難しさは明らかである。自店の売れ行き動向をつかんでいる書店にしても、適正な新刊仕入れは困難であり、それがAIによって可能になるとは思われないからだ。
 現在のアマゾンの直取引出版社数は2942社、その取引率は取次ルートを越える56%に達しているとされるが、それこそ各出版社が「ケースバイケース」で判断していくしかないだろう。



9.持ち株会社カドカワの川上量生社長がドワンゴの動画配信サービス「niconico」の業績不振のため引責辞任し、ドワンゴはKADOKAWAの子会社となる。
 カドカワの第3四半期連結業績は売上高1521億円で増収増益だったが、ドワンゴの固定資産減損損失を計上したことで、純損失21億6900万円。
 新社長には松原眞樹代表取締役専務が就任。
 これらに関しては『週刊ダイヤモンド』(2/9)が「財務で会社を読む」で「カドカワ」に言及し、さらなるリスクとしての「所沢プロジェクト」にもふれている。

 本クロニクル126で、カドカワの川上社長がブロッキングの導入推進派の急先鋒で、カドカワの角川歴彦会長は「ブロッキングに反対」とのコントラストを紹介しておいたばかりだ。
 川上の立場もそのようなドワンゴ動画配信サービス状況、及び角川会長との意思の相違も影響しているのかもしれない。
 動画サイトという新しいメディア企業にしても、様々な思惑が犇き合っているのであろう。
週刊ダイヤモンド
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10.大阪地裁は海賊版リーチサイト「はるか夢の址」を運営する主犯格の3人に、それぞれ懲役3年6ヵ月から2年4ヵ月に及ぶ執行猶予がつかない実刑判決を下した。

 前回の本クロニクルで、海賊版サイトを強制的に止めるブロッキング法制化が事実上棚上げになったことを既述しておいた。その一方で、文化庁が海賊版ダウンロードの違法範囲をネット上のすべてのコンテンツに広げ、国会への著作権法開催案の提出を目論んでいることも。
 それを文化審議会著作権文化会が了承し、通常国会に提出することが明らかになった。これは権利者の許可なくインターネット上に挙げられているコミック、写真、論文などのあらゆるコンテンツのダウンロードは全面的に違法とするもので、「はるか夢の址」の主犯3人の実刑判決もそのような流れの中で出されたように思われる。
 本クロニクルで繰り返し述べてきたが、東京オリンピックを目にしての、規制と管理によって、社会が包囲されていく兆候の表われと見なせよう。
 出版広報センターも2月21日付で、「今国会に提出される著作権法改正『リーチサイト規制』『ダウンロード違法化の対象範囲見直し』について」という声明を出している。



11.ベストセラーズの月刊男性ファッション誌『Men’s JOKER』が休刊。
 2004年創刊で、18年は7万部近くを保っていたが、発行部数と広告収入は減少していた。

Men’s JOKER


12.エムディエスコーポレーションのデザイン専門総合誌『MdN』休刊。
 1989年創刊で、18年12月号から隔月刊に移行したが、休刊になってしまった。

MdN

 それほどポピュラーでもないのに2つの休刊を記したのは、まず11の場合、本クロニクル118で記しておいたように、新たな経営者が株式を取得したことと関係しているのかもしれない。やはりM&Aされると、当初はともかく、出版内容は変わらざるを得ないようで、最近もM&Aされた人文書出版社がビジネスと自己啓発書の分野に方向転換し、既存在庫も最低ロットを残し、断裁されるという話を聞いたばかりだ。

 12に関しては月刊、隔月刊、休刊という流れゆえに取り上げたのである。実は大手出版社の雑誌も40誌ほどが刊行サイクルを減らしていて、その主なものを挙げてみる。
 文春の『オール読物』が年10回、マガジンハウスの『Hanako』が各週から月刊、講談社の『FRaU』、セブンアイ出版の『saita』がそれぞれ不定期刊となっている。

 もはや月刊誌というコンセプト自体が揺らいでいる。万年赤字に他ならない文芸誌『文学界』『新潮』『群像』などにしても、『オール読物』のような道筋をたどるのかもしれないし、それも遠からずやってくるだろう。
 雑誌といえば、『噂の真相』の岡留安則も死んだし、それはインディーズ雑誌に他ならなかったけれど、雑誌の終わりの時代を象徴しているようにも思える。


オール読物 Hanako FRaU saita 文学界 新潮 群像



13.村崎修三の『昭和懐古 想い出の少女雑誌物語』(発行 熊本出版文化会館 発売 創流出版 販売代行 武久出版)を読んだ。

 昭和懐古 想い出の少女雑誌物語

敗戦後のGHQ占領下を含め、二十年間の少女雑誌のカレードスコープ的物語が目前で展開されているような思いを味わった。
 塩澤実信『倶楽部楽雑誌探究』や植田康夫『「週刊読書人」と戦後知識人』(いずれも「出版人に聞く」シリーズで語られていた『ロマンス』や『銀の鈴』も取り上げられている。
 初見の雑誌が多く、それらが大半を占めていて、雑誌収集の奥深さとすごみを教えてくれるとともに、戦後に出現した少女雑誌物語があったことを実感させてくれる。
 私が愛読していた草の根出版会の『ママのバイオリン』『ユカをよぶ海』などが講談社の『少女クラブ』に連載されたことも教えられた。
 そしてあらためて、戦後は続いているはずだが、時代はまったく異なってしまったことも。「雑誌とともに去りぬ」というフレーズも思い浮かべてしまう。


倶楽部楽雑誌探究 『「週刊読書人」と戦後知識人』 ママのバイオリン ユカをよぶ海



14.そういえば、やはり亡くなった橋本治も少女漫画ファンであり、デビュー作の『桃尻娘』(講談社)にしても、それを抜きにしては語れないだろう。

桃尻娘 花咲く乙女たちのキンピラゴボウ

 実は「本を読む」で、いずれ橋本と北宋社のことを書くつもりでいたが、彼の存命中に間に合わなかったことが残念である。
 橋本は1980年代に北宋社から少女漫画論『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』全2冊を始めとして、合わせて6冊刊行している。
 まだそれほど売れてなかった橋本にとって、北宋社は「つなぎ」の役割を果たした小出版社であり、それは橋本だけでなく、その他にも何人もの著者を挙げることができる。いずれそれらのことを書いておきたい。
 それにつけても、北宋社の渡辺誠とはもう20年以上会っていない。お達者であろうか。



15.今月は岡留や橋本治に続いて、2人の出版人の訃報が届いた。
 それは春秋社の澤畑吉和と以文社の勝股光政である。

 澤畑とは長きにわたる付き合いで、最後に会ったのは彼が春秋社の社長に就任した頃だった。その時、会社を訪ねている。
 それから数年前に、私と論創社の森下紀夫、緑風出版の高須次郎が三島の畑毛温泉に行く際に、一緒にどうかと誘ったところ、行きたいのは山々だけれど、今回は遠慮するということで、会えずじまいになってしまった。
 今になってみれば、当時すでに病んでいたのではないかとも思う。また会おうといっているうちに、それが果たせず亡くなってしまった一人に澤畑も加わっている。心からご冥福を祈る。
 以文社の勝股は理想社や筑摩書房を経て、以文社を引き継ぎ、現代思想書のベストセラーであるアントニオ・ネグリたちの『〈帝国〉』(水嶋一憲他訳)を刊行したことはまだ記憶に新しい。
 今回の本クロニクルで挙げた4人の死者たちは、いずれもほぼ同世代といっていいし、私たちもそのような時代を迎えていることを本当に実感してしまう。
 
『〈帝国〉』



16.今月の論創社HP「本を読む」㊲は「ハヤカワ・ミステリ『幻想と怪奇』、東京創元社『世界大ロマン全集』、江戸川乱歩編『怪奇小説傑作集』」です。

出版状況クロニクル129(2019年1月1日~1月31日)

 18年12月の書籍雑誌推定販売金額は1163億円で、前年比1.8%増。
 これは16年11月以来の2年1ヵ月ぶりのプラスである。
 書籍は586億円で、同5.3%増。双葉文庫の佐伯泰英の新刊『未だ行ならず』(上下)、ポプラ社の原ゆたか『かいけつゾロリ ロボット大さくせん』、トロル『おしりたんてい』シリーズなどの大物新刊が多かったこと、また返品率が改善されたことによる。
 雑誌は576億円で、同1.6%減。その内訳は月刊誌が490億円で、同1.2%減、週刊誌は85億円で、同4.3%減。
 返品率は書籍が35.0%、雑誌が39.7%で、月刊誌は39.1%、週刊誌は42.7%。
 18年の最後の月は本当に久し振りのプラスで年を越したことになるが、年末年始の書店売上動向は日販が4.3%減、トーハンは3.8%減である。
 19年1月の販売金額と返品は、18年12月の反動の数字となるかもしれない。

未だ行ならず かいけつゾロリ ロボット大さくせん おしりたんてい
 


1.出版科学研究所による1996年から2018年にかけての出版物推定販売金額を示す。

■出版物推定販売金額(億円)
書籍雑誌合計
金額前年比(%)金額前年比(%)金額前年比(%)
199610,9314.415,6331.326,5642.6
199710,730▲1.815,6440.126,374▲0.7
199810,100▲5.915,315▲2.125,415▲3.6
1999 9,936▲1.614,672▲4.224,607▲3.2
2000 9,706▲2.314,261▲2.823,966▲2.6
2001 9,456▲2.613,794▲3.323,250▲3.0
2002 9,4900.413,616▲1.323,105▲0.6
2003 9,056▲4.613,222▲2.922,278▲3.6
2004 9,4294.112,998▲1.722,4280.7
2005 9,197▲2.512,767▲1.821,964▲2.1
2006 9,3261.412,200▲4.421,525▲2.0
2007 9,026▲3.211,827▲3.120,853▲3.1
2008 8,878▲1.611,299▲4.520,177▲3.2
2009 8,492▲4.410,864▲3.919,356▲4.1
2010 8,213▲3.310,536▲3.018,748▲3.1
20118,199▲0.29,844▲6.618,042▲3.8
20128,013▲2.39,385▲4.717,398▲3.6
20137,851▲2.08,972▲4.416,823▲3.3
20147,544▲4.08,520▲5.016,065▲4.5
20157,419▲1.77,801▲8.415,220▲5.3
20167,370▲0.77,339▲5.914,709▲3.4
20177,152▲3.06,548▲10.813,701▲6.9
20186,991▲2.35,930▲9.412,921▲5.7

 本クロニクル126や同128で、18年の出版物推定販売金額は1兆3000億円を割りこみ、1兆2830億円前後に落ちこむのではないかと予測しておいたが、12月がプラスとなったことで、かろうじて1兆2900億円台を保ったことになる。
 しかし19年はさらに深刻な危機に見舞われていくことは確実だ。雑誌は1997年に比べ、3分の1の販売金額になるだろうし、書籍もまた半分近くに迫っていくだろう。
 そのような出版状況の中で、どんぶり勘定を象徴する再販委託制は、もはや破綻に限りなく近づき、それに依存してきた大手出版社、大手取次、大手書店をさらなる危機へと追いやっていく。
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2.トーハンと日販の2007年から18年にかけての売上高の推移も示しておく。

■トーハンと日販の売上高推移(百万円)
トーハン日販2社合計
売上高
売上高前年比(%)売上高前年比(%)
2007641,396▲2.1648,653▲4.41,290,049
2008618,968▲3.5647,109▲0.21,266,077
2009574,826▲7.2632,673▲2.21,207,499
2010 547,236▲4.8613,048▲3.11,160,284
2011519,445▲5.1602,025▲1.81,121,470
2012 503,903▲3.0589,518▲2.11,093,421
2013 491,297▲2.6581,3550.61,072,652
2014 492,5570.2566,731▲2.51,059,288
2015 480,919▲2.4538,309▲5.11,019,228
2016 473,733▲1.5513,638▲4.6987,371
2017 461,340▲2.6502,303▲2.2963,643
2018427,464▲7.4462,354▲8.0889,818


 2社の売上高は合わせて、2007年が1兆2900億円であったが、18年には8898億円で、この10年間で4000億円のマイナスとなっている。
 能勢仁は『昭和の出版が歩んだ道』(出版メディアパル、2013年)の「取次盛衰記」において、1998年の神田村取次の松島書店の自主廃業から「取次受難期」が始まり、柳原書店、北隆館、鈴木書店、神奈川図書、日新堂書店、安達図書、三星、金文図書などの倒産の2005年まで続いたと指摘していた。
 だが残念なことに、そこで終わったわけではなく、本クロニクルにおいても、それ以後の東邦書籍、栗田出版販売、大阪屋、太洋社、日本地図共販などの倒産をレポートしてきた。
 中小取次の倒産のかたわらで、トーハン、日販の4000億円のマイナスも生じていることになり、で見た出版物売上高の凋落が2大取次にも如実に反映しているのである。
 しかもこれも前回の本クロニクルで取り上げておいたように、2社の中間決算は赤字基調で、通年決算は大幅な赤字が予想される。それに流通業の場合、一度赤字になれば、それは加速し、累積するばかりの道をたどるであろう。
昭和の出版が歩んだ道



3.『FACTA』(2月号)が文教堂レポートとして、「『暗愚の火遊び』上場書店が徳俵」を掲載している。
 サブ見出しは「創業家出身者のままごと遊びで文教堂GHDが上場廃止の危機。トップ交代にはかない望み」とある。それを要約してみる。

*文教堂GHDは1949年に川崎で島崎文教堂として始まり、ピーク時には全国で200店を超え、売上高は500億円となり、94年に文教堂としてジャスダックに上場し、2008年に持ち株会社制に移行。
*しかし業績は振るわず、赤字続きで、18年連結売上高はピーク時のほぼ半分の273億円、前年比8.5%減。5億9100万円の赤字となり、2億3300万円の債務超過で、それらは20店の不採算店舗閉鎖と13店舗のリニューアルの結果でもある。
*その文教堂GHDに対し、昨年11月東京証券取引所は上場廃止の猶予期間入り銘柄に指定し、最後通牒を突きつけた。今期中に財務を健全化しなければ、上場廃止となる。
*その原因として、出版市場の低迷もあるが、「文教堂の中興の祖である嶋崎欽也の息子で、欽也の跡を継いで社長に就いた富士雄の『火遊び経営』が債務超過を招いた」ことによる。
*それらはコミック専門店「アニメガ」の出店、ゲオとの提携、トーハンから日販への帳合変更などだが、結果がついてこなかった。
*それでいて、書店経営の基本的な部分は思いつきで、地域担当者も置かなかった時期もあり、社長と少数の取り巻きからなる川崎市の本部が、全国140店を直接支配する体制で、「典型的なブラック企業」だった。
*そのとばっちりを食らったのが16年に筆頭株主となった日販で、社長は経営改善案にまったく聞く耳を持たず、同じく大株主のDNPやみずほ銀行などの金融機関も匙を投げた状態だった。 債務超過にもかかわらず、社長の座に固執し、周囲の説得により、ようやく株主総会の前日に降りたという。
*経営を引き継ぐことになったのは、文教堂GHD生え抜きではない佐藤協治で、彼は88年に北海道の「本の店岩本」に入社し、文教堂がそれを買収したことにより、2000年に文教堂入りしている。
*しかし文教堂GHDの再建はかなり厳しく、財務健全化の期限の月までに打てる手立てはさらなる店舗の削減、不動産売却や賃貸、もしくは日販やDNPの増資を期待するしかない。だが増資は難しいだろう。


 本クロニクル127などでの言及と重複するところもあるが、これも『FACTA』のような直販誌でしか書けないレポートだと見なせるので、詳細に紹介してみた。
 しかし出版業界はこの文教堂GHDの一件を単なる「創業家出身者のままごと遊び」として片づけることができるだろうか。再販委託制を逆利用し、出店バブルという「暗愚の火遊び」に加わったのは文教堂だけでなく、その他の大手チェーン、ナショナルチェーンも同様なのである。このレポートは日販からのリークを主として書かれているように判断できるが、それは取次も同罪だといっていい。

 しかも『出版状況クロニクルⅤ』でもふれておいたように、文教堂GHDの株はDNP、丸善ジュンク堂グループが筆頭株主だった16年に日販へと譲渡され、日販が筆頭株主となっていたのである。これは現在から見れば、文教堂GHDとは関係のない株式売買ゲームに位置づけることができよう。それゆえに、これらの株式売買ゲームも「暗愚の火遊び」に他ならず、その果てに文教堂GHDの上場廃止の危機も必然的にもたらされたというべきだろう。
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4.(株)出版人の今井照容が【文徒】2018年12月3日号で、18年1月から12月までのTSUTAYAの閉店をリストアップしている。

 このリストを見れば、誰でも知っているTSUTAYA店があることに気づかされるだろう。それほど多く、しかも全国的に閉店している。
 で文教堂が20店舗閉店したことが赤字の要因であることを既述しておいたが、TSUTAYAの場合、その4倍に及び、平均坪数にしても200坪は下らないのではないか。それにこれらはCCCの直営店、FC、FCのFCと多岐にわたり、さらに各地域会社のTSUTAYAが絡み、複雑に入り組んだかたちで大量閉店が起きているのである。
 このようなTSUTAYAは出店に際し、開店初期在庫の支払いは据え置きとなっていると伝えられているので、出版物に関しては返品してもマイナスが生じることになる。
 その81店に及ぶトータルなマイナス金額は予測以上のものになるだろう。それに加えて、様々な閉店にまつわるコストを考えると、日販とMPDに逆流する損失は多大なものになると判断するしかない。文教堂が前門の虎とすれば、TSUTAYAは後門の狼のようにして、日販を包囲しているといっていい。

 またこの18年の大量閉店にしても、閉店コストが少ないところから始まっていることは確実で、むしろ19年のほうが18年以上の本格的な閉店ラッシュとなる可能性も高い。もしそうであれば、フランチャイズシステムにベースを置くレンタルと出版物の複合大型店、すなわちTSUTAYA方式はビジネスモデルとして崩壊し、成立しなくなりつつあることを露呈していくはずだ。
 そしてそれが結局のところ、日販とMPDを直撃する。本クロニクル119で、流通コストの問題から発せられた「日販非常事態宣言」にふれておいたが、その1年後には閉店ラッシュと債務超過を背景とする「主要取引先、及び傘下書店非常事態宣言」をも公表しなければならない状況に追いやられていると見なせよう。
 で取次も危機の連続であったことを示したが、今年はその最大の危機を迎えているといっていい。 
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5.大阪の天牛堺書店が破産。負債は18年5月時点で16億4000万円。
 天牛堺書店は1963年創業で、新館と古本を中心とし、CDや文具等も扱い、大阪府内に12店舗を展開していた。
 新刊と古本を併売する業態で知られ、古書や専門書にも通じ、大学図書館、研究室とも取引があり、1998年には売上高28億円を計上していた。しかし近年のアマゾンや電子書籍の台頭などにより、集客力と売上が低下し、18年には18億円にまで落ちこんでいた。 
 また不採算店の閉店に伴う資金繰りの悪化を受け、取次や銀行の支援もあったが、先の見通しが立たず、今回の措置となった。

 本クロニクル127で、山口県の鳳鳴館の負債が6億5000万円であり、前回のクロニクルで、広島県の広文館はさらに負債は多く、これからの書店破産はそのようにして続いていくという予測を述べておいた。 
 それが早くも出来してしまったことになるし、また実際に多額の負債を抱えた破産が続いていくだろう。
 なお取次はトーハンである。



6.『日経MJ』(1/16)の「2019トップに聞く」にゲオHDの遠藤結蔵社長が登場しているので、それを紹介してみる。

*リユース事業は好調だが、レンタル業は苦戦している。スマホの登場後、時間の消費が多様化したことが原因で、レンタル事業からの撤退はないが、モバイバルなどの他の商材に切り替えることはある。
*リユース事業はフリマアプリが成長を後押しし、まだまだ広がり、中古品買い取り競争が続く。ゲオの強みは創業期から増やし続けてきた実店舗と多彩な買い取り品目で、「ゲオショップ」と「セカンドストリート」の2つの屋号で何でも買い取っていくし、好調に推移している。
*店舗数はグループ全体で1800店を超え、業界最多となっているが、今後も買い取りの拠点を増やすために、2022年までに2000店舗を実現し、さらに新業態を増やしていきたい。


 ゲオとトーハンの関係は定かになっていないけれど、やはりレンタルからリユースへとシフトするようなコラボレーションを展開しているのだろうか。
 FCシステムによらないゲオにしても、レンタル事業は苦戦しているとのことだから、TSUTAYAの場合はさらに苦しいことが想像できる。ゲオは直営多店舗+リユース事業という、レンタルから一歩進んだところに新たなビジネスモデルを構築しようとしているのだろう。



7.折しも2のノセ(能勢)事務所より、出版社645社、書店300店ほどの売上高実績表を恵送された。

 これらに関してのコメントは差し控えるが、多くがの出版物販売金額や取次売上高の推移とパラレルであることはいうまでもないであろう。
 ただ気になるのはこれらのデータの今後の行方である。これらは『出版ニュース』も毎年掲載していたが、3月には休刊となってしまうので、途切れてしまうことになる。といってノセ事務所に代行をお願いするのは心苦しい。
 それに『出版ニュース』ならではのデータ提供、また『出版年鑑』に基づく実売データも同様で、今後は出版業界における多様で総合的な出版データの把握すらも難しくなっていくかもしれない。



8.セブン-イレブンとローソンは8月末までに全店での成人向け雑誌の販売を原則中止。

 昨年1月のイオングループのミニストップの販売中止に続くもので、20年の東京オリンピックに向けてのコンビニ清浄化の一環として、他のコンビニも追随していくであろう。その後、ファミリーマートも続いた。
 それは所謂「エロ雑誌業界」を壊滅させることになるだろう。だが飯田豊一の『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(「出版人に聞く」シリーズ12)にも明らかなように、「エロ雑誌業界」も出版のアジールであり、そこが多くの著者や編集者も含めた人材の揺籃の地だったことは、出版史に記録されなければならない。
 だがそれと同時に、そのような時代が終わっていくことも。
『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』



9.海賊版サイトを強制的に止めるブロッキングの法制化に関し、政府は通常国会での関連法案提出を見送り、事実上の棚上げとなる。

 本クロニクル126などでも、このサイトブロッキング問題にふれてきたが、実質的に出版業界の主張が受け入れられず、「通信の秘密」を侵害する恐れという慎重論が優勢だったことを伝えていよう。
 だがその一方で、文化庁が海賊版ダウンロードの違法範囲をネット上のすべてのコンテンツに広げ、国会への著作権法改正案の提出を目論んでいる。これもまた実効性が疑わしく、拙速な議論によって進められ、サイトブロッキング法制化の断念の代わりに、政府の体面を維持するためのものだとの観測もなされている。
 コンビニの成人雑誌販売中止ではないけれど、東京オリンピックを前にして、規制と管理が社会の隅々にまで及んでいくように思われる。



10.WAVE出版は12月にぎょうせいグループ会社の一員となる。
 WAVE出版は1987年創業で、ビジネス、自己啓発、実用書、児童書などでベストセラー『働く君に贈る25の言葉』『インバスケット思考』『石井ゆかりの12星座シリーズ』、課題図書『がっこうだってどきどきしている』を刊行している。

 他にも何社かM&Aの話が伝わってきているけれど、最終的に確認がとれていないので、今回はふれないことにする。
 しかしこのような出版状況下ゆえ、水面下でM&Aが進められているはずで、判明したら、できるだけ本クロニクルでも伝えていきたいと思う。
働く君に贈る25の言葉 がっこうだってどきどきしている



11.駒井稔の『いま、息をしている言葉で。』(而立書房)を読了した。
 サブタイトルにあるように、「『光文社古典新訳文庫』誕生秘話」に他ならない。

 駒井は1979年に光文社に入り、81年に『週刊宝石』創刊に参加し、週刊誌編集者を16年間続けた後、97年に翻訳編集部に異動となる。そして2006年に古典新訳文庫を創刊し、10年にわたり編集長を務める。その「誕生秘話」を語った一冊である。 
 光文社が「古典新訳文庫」を創刊したことは、私も翻訳やその出版に携わっている関係もあり、それなりのインパクトを受けた。ただそれは単行本シリーズではなく、「新訳文庫」というコンセプトによって提出されたことに対してではあった。それゆえに本棚の一段分は買っている。
 しかしその創刊の内幕事情、及び駒井が長きにわたる週刊誌記者だったことは知らなかったので、とても興味深く読んだ。巻末の「刊行一覧」を見ると、よくぞここまで出したというオマージュを捧げたくなる。
 いま、息をしている言葉で。



12.『フリースタイル』41の特集『THE BEST MANGA 2019このマンガを読め!』が出た。

 年々歳々、新刊マンガと新刊小説を読むことが減っているのを自覚しているが、19年BEST10で読んでいたのは3の吉本浩二『ルーザーズ』(双葉社)の一冊だけだった。同書は幸いにして、それに先駈け、本クロニクル122で紹介しておいてよかったと思う。
 呉智英の「マンガ史マンガにまた傑作が生まれた」との言はまさに『ルーザーズ』にふさわしいし、続けて読んでいこう。
 4の山田参助『あれよ星屑』(KADOKAWA)は5年前に第1巻だけしか読んでいないし、第7巻で完結とのことなので、あらためてこれから読むつもりでいる。

THE BEST MANGA 2019このマンガを読め! ルーザーズ あれよ星屑
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13.『創』(2月号)の恒例の特集「出版社の徹底研究」が出された。

 その「深刻不況の出版業界をめぐる大きな動き」という座談会で、本クロニクルへの言及もあるが、それよりも巻頭の篝一光のカラーグラビア「東京street ! 」が連載終了になったことにふれておきたい。
 その理由は篝夫人が病気で倒れ、彼がカメラを持って都内を自由に歩き回れる状況ではなくなってしまったことによるという。私の周辺でも、そのようなことがしばしば起き始めていて、同世代の哀感を強くする。

 これは書いてもかまわないはずで、篝はかつて伊達一行という作家で、『沙耶のいる透視国』(集英社)を書き、カメラマンとして写真集も出し、私はそれを彼から直接購入している。「東京street ! 」はその延長線上にある仕事として、ずっと楽しませてくれた。かつてはストリートカメラマンとよんでいい人たちもいたけれど、いつの間にか篝しかいなくなってしまったように思われる。再開の時がくることを祈る。

 なお、『DAYS JAPAN』(2月号)と広河隆一問題にもふれるつもりでいたが、3月最終号にて真摯に検証し、公表するというので、それを待ってのこととする。

創 沙耶のいる透視国 創



14.SF作家で明治文化史研究家の横田順彌が73歳で死去。

 1980年頃に、今はなき『日本読書新聞』で、私は「大衆文学時評」を担当していたことがあり、12の伊達一行や横順を読む機会に恵まれた。それをきっかけにして、『日本SFこてん古典』(早川書房)を読み、このような文献発掘もあることを教えられた。横順の仕事を範とし、ミステリー研究や文献探索も深化していったように思える。
 それに加えて、今世紀を迎え、『日本古書通信』で連載をともにしていた時期もあったのである。面識はなかったけれど、ご冥福を祈る。
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15.元未来社の編集者で、後に影書房を設立した松本昌次が91歳で亡くなった。

 松本と最後に会ったのは、これも2014年に急逝した元講談社の編集者鷲尾賢也のお別れの会においてだった。元信山社の柴田信に会ったのもこれが最後だった。
 鷲尾は『小学館の学年誌と児童書』(「出版人に聞く」シリーズ18)の野上暁とともに松本にインタビューし、『わたしの戦後出版史』(トランスビュー)を残している。これを読むと、松本が編集した多くの本を読んだことを、今さらながら思い出す。本当に時は流れたが、彼が何よりも長寿を全うしたことはよかったと思う。
小学館の学年誌と児童書 わたしの戦後出版史



16.今月の論創社HP「本を読む」㊱は「『澁澤龍彦集成Ⅶ』、ルイス『マンク』、『世界幻想文学大系』」です。