21年3月の書籍雑誌推定販売金額は1529億円で、前年比6.5%増。
書籍は970億円で、同5.9%増。
雑誌は559億円で、同7.7%増。
20年12月から4ヵ月トリプル増で、かつてないプラスが続いている。
雑誌の内訳は月刊誌が478億円で、同10%増、週刊誌は81億円で、同4.1%減。
返品率は書籍が24.9%、雑誌は38.8%で、月刊誌は38.2%、週刊誌は42.1%。
書籍のプラスは大部数の文庫本が多かったこと、改訂新版が相次ぐ中学学参などで送品ボリュームが増え、出回り金額が同5.0%増となり、返品率が改善されたことによっている。
雑誌も週刊誌以外は返品率の改善と『呪術廻戦』や『怪獣8号』などのヒットが続き、『鬼滅の刃』による激増ほどではないにしても、プラスとなっている。
だが店頭売上はコミックを除くと、書籍も定期誌もムックもマイナスである。
送品と実売のギャップは5月以後、どうなるのだろうか。
1.4月25日に新型コロナウイルスの感染拡大が続く東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に3度目の緊急事態宣言が出された。
その中で、小売業はどうなっていくのか。『日経MJ』(4/2)に衣料品・靴専門店13社の2月販売実績が掲載されているので、本クロニクル154に続いて書店の販売動向と比較する意味で挙げておく。
店名 | 全店売上高 | 既存店売上高 | 既存店客数 | |
カジュアル衣料 | ユニクロ | 1.3 | 0.4 | 0.1 |
ライトオン | ▲9.2 | ▲6.5 | ▲5.3 | |
ユナイテッドアローズ | ▲30.5 | ▲32.1 | ▲29.8 | |
マックハウス | ▲14.3 | ▲9.3 | ▲18.5 | |
ジーンズメイト | ▲46.1 | ▲41.6 | ▲35.1 | |
婦人・子供服 | しまむら | 2.1 | 2.2 | ▲2.7 |
アダストリア | ▲8.5 | ▲9.6 | ▲10.1 | |
ハニーズ | ▲7.9 | ▲8.1 | ▲6.4 | |
西松屋チェーン | 0.8 | ▲0.6 | ▲6.3 | |
紳士服 | 青山商事 | ▲25.6 | ▲23.7 | ▲22.6 |
AOKIホールディングス | ▲20.1 | ▲19.1 | ▲14.8 | |
靴 | チヨダ | ▲19.3 | ▲17.7 | ▲15.5 |
エービーシー・マート | ▲8.5 | ▲9.8 | 0.3 |
13社のうちで、既存店売上高は11社が前年を下回り、先の第3波の緊急事態宣言の影響をうかがわせている。
プラスを確保しているユニクロとしまむらは在宅や春、夏物衣服が好調で底堅さを示したとされるが、衣料品・靴専門店の明暗は今後も続き、エッセンシャルと非エッセンシャルとに分断されていくのだろうか。
ただアメリカの場合、これも本クロニクル154で既述しておいたように、破綻した主要小売企業は40社に及び、閉店も1万1157店と過去最高記録に至ったようだ
ちなみに、同じ『日経MJ』(3/31)によれば、1月のファミレス、モスフード、居酒屋などの外食35社のうちの30社が減収で、持ち帰りや宅配需要のマクドナルド、ファストフード、ケンタッキー・フライド・チキンの3社は増収となっている。
これらの衣料品・靴専門店、外食の大手はともかく、中小零細に他ならない、単店、個人店舗の苦戦はいうまでもあるまい。果たして5月以降はどうなるのか、今後も注視していきたいと思う。
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2.『出版月報』(3月号)が特集「文庫アンケート2020」を組んでいる。
その「文庫本マーケットの推移」を示す。
年 | 新刊点数 | 推定販売部数 | 推定販売金額 | 返品率 | |||
点 | 増減率 | 万冊 | 増減率 | 億円 | 増減率 | ||
1999 | 5,461 | 2.3% | 23,649 | ▲4.3% | 1,355 | ▲1.0% | 43.4% |
2000 | 6,095 | 11.6% | 23,165 | ▲2.0% | 1,327 | ▲2.1% | 43.4% |
2001 | 6,241 | 2.4% | 22,045 | ▲4.8% | 1,270 | ▲4.3% | 41.8% |
2002 | 6,155 | ▲1.4% | 21,991 | ▲0.2% | 1,293 | 1.8% | 40.4% |
2003 | 6,373 | 3.5% | 21,711 | ▲1.3% | 1,281 | ▲0.9% | 40.3% |
2004 | 6,741 | 5.8% | 22,135 | 2.0% | 1,313 | 2.5% | 39.3% |
2005 | 6,776 | 0.5% | 22,200 | 0.3% | 1,339 | 2.0% | 40.3% |
2006 | 7,025 | 3.7% | 23,798 | 7.2% | 1,416 | 5.8% | 39.1% |
2007 | 7,320 | 4.2% | 22,727 | ▲4.5% | 1,371 | ▲3.2% | 40.5% |
2008 | 7,809 | 6.7% | 22,341 | ▲1.7% | 1,359 | ▲0.9% | 41.9% |
2009 | 8,143 | 4.3% | 21,559 | ▲3.5% | 1,322 | ▲2.7% | 42.3% |
2010 | 7,869 | ▲3.4% | 21,210 | ▲1.6% | 1,309 | ▲1.0% | 40.0% |
2011 | 8,010 | 1.8% | 21,229 | 0.1% | 1,319 | 0.8% | 37.5% |
2012 | 8,452 | 5.5% | 21,231 | 0.0% | 1,326 | 0.5% | 38.1% |
2013 | 8,487 | 0.4% | 20,459 | ▲3.6% | 1,293 | ▲2.5% | 38.5% |
2014 | 8,618 | 1.5% | 18,901 | ▲7.6% | 1,213 | ▲6.2% | 39.0% |
2015 | 8,514 | ▲1.2% | 17,572 | ▲7.0% | 1,140 | ▲6.0% | 39.8% |
2016 | 8,318 | ▲2.3% | 16,302 | ▲7.2% | 1,069 | ▲6.2% | 39.9% |
2017 | 8,136 | ▲2.2% | 15,419 | ▲5.4% | 1,015 | ▲5.1% | 39.7% |
2018 | 7,919 | ▲2.7% | 14,206 | ▲7.9% | 946 | ▲6.8% | 40.0% |
2019 | 7,355 | ▲7.1% | 13,346 | ▲6.1% | 901 | ▲4.8% | 38.6% |
2020 | 6,907 | ▲6.1% | 12,541 | ▲6.0% | 867 | ▲3.8% | 35.3% |
新刊点数は15年ぶりに7000点を下回り、出回り数は2000年の半分の2億冊を割り、販売部数も同様の1億2541万冊、数年後は1億冊以下となるのだろう。
それとパラレルに販売金額もついに900億円を下回る867億円となってしまった。
本クロニクル153の推定販売金額からわかるように、出版物売上を支えてきたのは、コミックを含む雑誌と文庫であり、それが書店の集客力の源泉であった。
前回の本クロニクルで、『鬼滅の刃』などのコミックの爆発的売れ行きによる回復を伝えておいたが、雑誌のもうひとつの柱であるムックは、本クロニクル154のそれを主力とする枻出版社の民事再生法申請に象徴されているように、週刊誌や月刊誌と同様に凋落の道をたどっている。
要するに1970年代以後の出版業界を支えてきた大量生産と大量消費の文庫と雑誌の両輪がもはや役割を果たすことができなくなっているのである。それが現在の日販とトーハンの取次事業に集約されているといえよう。
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3.トーハンとメディアドゥは資本・業務提携契約を締結し、29億円ずつ出資し、株式を持ち合う。
この資本提携によって、メディアドゥはトーハンの株式の5.56%を保有する筆頭株主となる。
4.トーハンは三菱地所などの5社と本社跡地有効活用事業に関する基本協定書を締結し、24年にオフィ棟、住宅棟の賃貸用建物を竣工予定。
本クロニクル154と155で、電子出版市場規模と電子コミック市場販売金額推移を取り上げておいたけれど、電子市場の成長と紙の市場の衰退の狭間にあって、トーハンもメディアドゥの提携を試みるしかなかったように思われる。ただしそれが書店の活性化を導いていくかは疑問だが。
それにトーハンの筆頭株主がメディアドゥになったことは象徴的で、前回の日販がCCC=TSUTAYAに寄り添う役員体制とともに、取次がもはや出版社や書店との三位一体のポジションからテイクオフし始めたことを告げているのだろう。楽天BNがまさにそうであるように。
トーハンの不動産プロジェクトに関しては本クロニクル146や前回も書いてきたように、水面下に進められていたものであろう。しかし複雑なサブリースが張りめぐらされた長期にわたる不動産プロジェクトがトーハンを支えるものになるとは思えないし、むしろ売却し、そのキャッシュフローで取次事業のリストラを図るべきだったのではないだろうか。
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5.メディアドゥは「メディアドゥとトーハン、NFT活用『デジタル付録』を全国書店で展開へ/書店の来店者・売上増による出版業界の活性化を目指す」とのリリースを発表。
トーハンの業務得提携の目的は書店の活性化のためで、ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替制トークン)を活用した「デジタル付録」サービスを開始する。
このサービスに関してはKADOKAWA,講談社、集英社、小学館と健闘中で、書店でのデジタルコンテンツを入手可能とするrデジタルフォーメーションを実現したい。
6.メディアドゥはRIZAPのグループ会社である日本文芸社の全株式を取得し、子会社化。
19年のジャイブに続くもので、ジャイブは少女漫画レーベル「ネクストF」を刊行している。
7.メディアドゥの連結決算は売上高835億4000万円、前年比26.8%増、営業利益は26億6400万円、同43.8%増、経常利益は27億2000万円、同54.4%増、当期純利益は15億1900万円、同71.7%増。
売上高における「電子書籍流通事業」は823億円、同28%増、営業利益は25億9000万円、同39%増。
取引出版社は2200社、電子書店は150店、取扱コンテンツ数は200万点以上とされる。
トーハンと関連して、メディアドゥの動きを続けて取り上げてみた。
メディアドゥのことは本クロニクル145などでトレースし、また同153で、藤田社長へのインタビューを紹介してきた。
1でふれた衣料品・靴専門店や外食産業とは逆に、このコロナ禍、及び「漫画村」の閉鎖がメディアドゥなどの電子書籍市場を成長させる大きな要因となったようだ。また東証1部の株価は6000円台で推移し、本クロニクル143で示しておいた上場企業の書店株価の低迷を圧倒している。
しかし3、4に関して前述したように、メディアドゥとトーハンの「デジタル付録」サービスの試みが書店を活性化するかは疑問だし、是も本クロニクルで繰り返し書いてきたように、電子コミックそのものが『鬼滅の刃』のような大ベストセラーを生み出していけるかという問いに尽きるであろう。
6に関しては後述する8のビーグリーのぶんか社のような位置づけに当たるのかもしれない。
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8.『新文化』(4/8)がビーグリーの「吉田仁平社長に聞く」を掲載している。
同社はスマホ向け電子ストア「まんが王国」を開設し、電子コミックや電子小説を配信して急成長し、20年度は売上高123億円、今期は196億円なると予測されている。
それを要約してみる。
* ビーグリーは2004年設立、17年に東証マザーズ上場、その翌年に東証第1部格上げ。筆頭株主は9%を保持する小学館。 |
* ビーグリー単体売上高の9割を占める「まんが王国」の販売コンテンツは10万点、無料で読める「じっくり試し読み」点数は常時3000点以上ある。 |
* 会員数は19年10月時点で300万人が現在は450万人で、この1年半で150万人の新ユーザーを獲得。「まんが王国」の会員は半数以上が女性で、そのうち20~40代が6割を占めている。それは各種サービスやポイントなどの特典によるもので、ビーグリーのビジネスモデルとなっている。 |
* ビーグリーは電子取次会社を通さず、1800の出版社や作家との直接取引によって収益性を高め、販促費やライセンサー還元費にあてることができるので、そこが強みである。 |
* 3ヵ年計画、コンテンツ配信会社からコンテンツプロデュースカンパニーへの移行を推進し、マンガだけでなく、ラノベ小説、ゲーム、アニメ、映像などをプロデュースしていくことをめざす。 |
* リアル書店との共存は『鬼滅の刃』に顕著で、書店での紙の本を通じて大ベストセラーになったのであり、新しい作品が創出され、新人を育てなければならないし、書店と敵対しない関係をつくり、様々な書店と話したい。 |
ビーグリーに関しては本クロニクル150で、ぶんか社グループを53億円で買収したことに言及しておいたが、それも功を奏し、21年度における60%増という高成長へと結びついたのであろう。
もちろんそれが「災害ユートピア」の賜物とはいわないけれど、メディアドゥのコロナ禍におけるプラスと共通している。
同じく東証1部の株価のほうはメディアドゥほど高くはないけれど、1400円前後で推移し、やはり上場書店の株価低迷とは異なっている。文教堂に至っては80円を下回ったりしているからだ。
そのようなメディアドゥとビーグリーの株価推移を見ると、電子コミックの時代に入ったことを実感してしまうし、映画がビデオへと移行した1980年代が想起されてくる。
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9.国会図書館は21年から5年間で、100万点以上の所蔵資料をデジタル化する「NDLビジョン 」を策定し、「NDLデジタルシフト推奨期間」とする。
10.日本電子図書館サービス(JDLS)が提供する電子図書館サービス「LibrariE」(ライブラリエ)は401館となる。
昨年3月は155館だったので、コロナ禍を契機として一気に増え、そのうち公共図書館は168館。
11.TRCと富士山マガジンサービスは電子図書館事業と雑誌の図書館向けの定期購読サービス拡大のために業務契約を締結。
それに伴い、TRCはカルチュア・エンタテイメントが所有する富士山マガジンサービスの株式(3億円)を取得し、保有率は10.56%となった。
12. note と博報堂は業務提携契約を締結し、両社による法人向け―ビス「new branding with note」を展開し、企業のオウンドメディアの立ち上げを支援する。
13.KADOKAWAの新社長にNTTドコモ出身でドワンゴの夏野剛社長が8代目として就任。
14.マガジンハウスは福祉をテーマとするウエブマガジン『こここ』を創刊。
co-coco.jp
9から14にかけては、5から8のメディアドゥやビーグリーと同じく、コロナ禍中でのデジタル化その問題をめぐる動向として記しておくことにした。
9、10、11をめぐっては前回のクロニクルで日本出版著作権協会の高須次郎の反対声明や日本ペンクラブの声明を紹介しておいたが、さらなる論議が必要なことはいうまでもあるまい。
12は本クロニクル152で、noteの第三者割当増資と引受先の文藝春秋の業務提携にふれているが、ここで博報堂もリンクしていくことになる。
13はこれも同151の「ところざわサクラタウン」や電子コ
ミックや電子書籍の配信、韓国のIT大手のカカオとの関係も絡んでいるのだろう。
14のようなウエブマガジンの創刊もこれからさらに試みられていくと推測される。
いずれにしても、コロナ禍の中で起きていることに留意すべきである。
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15.「地方小出版流通センター通信」(4/15)が裏面に「M&J変更対照表」を示し、「このような大規模の取次の変更はかつてないことで、当社の最大の危機と認識しています」と書いている。
確かに戸田書店も含んだ66店に及ぶリストはあらためて見ると、一体どのくらいの返品が押し寄せるのかという恐怖心を募らせる。
いずれも書籍を多く抱える大型店であり、中小出版社にしてもものすごい返品で、逆ザヤにならなければ幸いだという声が聞こえてくるほどだ。
それは多くが返品によって売上どころか、数ヵ月先の納品すらも相殺されてしまう返品状況を意味している。
そして新たにトーハンや日販を通しての同量の注文は出されないであろうし、大きな書籍市場としての丸善&ジュンク堂グループの縮小を伝えていよう。
16.『選択』(4月号)がテレビ、新聞、雑誌、ラジオという「マスコミ四媒体」の広告費を超えた2兆2290億円に及ぶ「ネット広告が直面する『二つの壁』」、「泣く子も黙る『文春砲』の謎」、「NHK会長『前田晃伸』」、「首都における『地方紙』ともいえる東京新聞」問題を取り上げている。
「NHK会長、『前田晃伸』」以外は大見出し記事ではないし、大きな記事ではないけれど、コロナ禍の中にあって起きているマスコミや雑誌問題といえるし、これらのいずれもが今後の焦点として浮かび上がってくるようにも思われる。
コロナ禍の影響と『選択』のような直販誌の関係は不明だが、コロナによって部数が減ったとも聞いていないので、かなり健闘しているのではないだろうか。
17.月刊誌『日本カメラ』が21年5月号で休刊し、日本カメラ社も解散する。
本クロニクル146で朝日新聞社の『アサヒカメラ』の休刊を伝えたが、それに続くことになる。
戦前のカメラ雑誌やカメラ書、写真集などについては『近代出版史探索Ⅱ』などで言及している、スマホなどのデジカメの出現を見て、カメラ雑誌の役割も終わったといえるのかもしれない。
18.『ブルータス』(5/1)の特集「やっぱりマンガが好きで好きで好きでたまらない」と、さいとう・たかを『ゴルゴ13 200 亡者と死臭の大地』(リイド社)を一緒に書店で購入してきた。
残念ながら、前者に挙げられたマンガはほとんど読んでいないことに比べ、後者は1968年の『ビッグコミック』連載開始から読んでいて、恥ずかしながらほぼ全巻を読破している。それに何とこの巻ではフェミニストとしてのゴルゴ13に出会えるのだ。
かつて冗談で、『空手バカ一代』で空手、『キャプテン』や『プレイボール』で野球、『キャプテン翼』でサッカー、『スラムダンク』でバスケットボールをめざした読者はいても、『ゴルゴ13』を読んで殺し屋になろうと思った奴はいないだろうといっていたことがあった。
それはともかく、確認してみると、リイド社の創業は1960年で、おそらく貸本マンガプロでクション兼出版社としてスタートしたと思われる。それが60年以上続いていることは特筆すべきことだし、やはり「ゴルゴ13」の原作者の小池一夫の小池書院の失敗と対照的であることは出版史に記録されなければならない。
19.山本義隆『リニア中央新幹線をめぐって』(みすず書房)を読了。
サブタイトルに「原発事故とコロナ・パンデミックから見直す」とあるように、福島原発事故、コロナ禍、リニア中央新幹線を一直線でむすんで、戦後の巨大プロジェクトとエネルギー問題を論じ、戦前からの大企業の既得権益と、変わることのない経済成長への過信を浮かび上がらせている。
これらの三つの問題をテーマとする同書は、時宜を得た好著で、たまたま政府による福島第一原発の処理水の海洋放出方針の決定が報道される中で読んだこともあり、まさにリアルな著作として刊行されたことが了解される。
20.金彦鎬著、舘野晳監修『カラー版世界書店紀行』(山田智子・宗実麻美・水谷幸恵英訳、出版メディアパル)を、ノセ事務所の能勢仁から恵送された。
目の保養になる一冊で、私も『ヨーロッパ 本と書店の物語』で、シェイクス・アンド・カンパニイ書店のことを書いていることを思い出す。
21.本クロニクル127で紹介しておいたジェンカ・ブルーダー『ノマド』(鈴木素子訳、春秋社)を原作とするクロエ・ジャオ監督『ノマドランド』がアカデミー賞を受賞。
春秋社の前社長澤畑吉和が存命であったら、さぞ喜んだであろう。
早速映画も観てきた。アマゾンも出てくるけれど、『ノマドランド』はちょうど半世紀前の『イージーライダー』の現代版のように思えた。
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22.論創社のHP「本を読む」〈63〉は「イザラ書房と高橋巖『ヨーロッパの光と闇』」です。
『出版状況クロニクルⅥ』は遅れてしまい、5月下旬発売。