2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧
パリの中心部とそれを取り巻く区域、それがパリっ子たちにとっては世界のすべてである。彼らはけっしてその外に出ない。 イヴリー、ジャンティイ、オーヴェルヴィリエ、ドゥランシーなどは、いずれも地の果てなのである。 ユゴー『レ・ミゼラブル』もう一編…
松崎天民の『銀座』は安藤更生の昭和六年の『銀座細見』よりも先に出て、いずれも半世紀を経て中公文庫に収録されることになった銀座論、及び考現学の先駆けとも称すべき著作である。これは昭和二年に小暮信二郎を発行者とする銀ぶらガイド社から刊行されて…
本連載397に続いて、銀座の流行歌にもう一度ふれてみる。安藤更生は本連載350の『銀座細見』の中で、「かつての銀座を指導したものは、フランス趣味であり、芸術青年であつた」が、それらはまったく後退し、「今日銀座を横行するものは、モダンボーイ…
もはや名前もわからなくなった人々を死者の世界に探しに行くこと、文学とはこれにつきるのかもしれない。 (モディアノが「日本の読者の皆さんに」で引いている心を打たれた書評の一節)パトリック・モディアノの小説は一九七〇年代から翻訳され、『パリの環…
本連載で断続的に西條八十、野口雨情、福田正夫などによる流行歌の系譜をたどってきたが、彼らが詩人であるという出自を考えれば、歌謡曲自体が近代文学のひとつのバリエーションと見ていいのかもしれない。しかもメディアミックス化され、レコードや映画の…
『西條八十詩謡全集』第六巻の「時謡」の「一九三三年−一九三五年」のところに、「サムライ・ニッポン」がある。この第一、二連の歌詞を挙げてみる。 『西條八十詩謡全集』 人を斬るのが侍ならば 恋の未練がなぜ斬れぬ のびた月代寂しく撫でて 新納鶴千代(に…
堀江敏幸も『子午線を求めて』(思潮社)のセリーヌと郊外とロマン・ノワールに関する論考で指摘しているように、セリーヌの『夜の果ての旅』を始めとする作品の影響は、ロマン・ノワールの分野に大いなる陰影を落としていく。一九七〇年代末から新しい推理…
前回の磯田光一の『思想としての東京』に間違いがあるので、それを訂正するとともに、そのことに関連して、間奏的一編を挿入しておきたい。磯田は田山花袋の『東京の三十年』(岩波文庫)への言及の前置きとして、「明治十四年二月、群馬県から上京してきた…
前回、『西條八十詩謡全集』第六巻が「民謡篇」で、そこに「時謡」と題する章があることを記しておいた。西條の「あとがき」によれば、「時謡」とは「所謂流行歌」のことで、それを意識して書き始めたのは昭和二年の日活映画『椿姫』のテーマソング「椿姫の…
前々回の堀江敏幸の『郊外へ』の第七章において、既述しておいたように、フランソワ・ボンの『灰色の血』とパリ北郊のラ・クルヌーヴ市への言及がなされている。堀江によれば、ボンは著名ではないが、ミニュイ社から郊外の匂いを漂わせた癖のある作品を三冊…
出版状況クロニクル73(2014年5月1日〜5月31日)4月の出版物推定販売金額は1339億円で、前年同月比6.5%減となり、近年の最大の落ちこみである。その内訳は書籍が7.7%減、雑誌が5.4%減、雑誌のうちの月刊誌が4.1%減、週刊誌は10.1%減で、返品率は書籍が3…