出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ブルーコミックス論8 山岸涼子『青青の時代』(潮出版社、一九九九年)

山岸涼子の『青青(あお)の時代』は英語タイトルとして、The Blue Era も添えられているが、全四巻に及ぶ物語の中に、ダイレクトな「青」への言及や「青」にまつわるエピソードは何も記されていない。 それでもあえてその痕跡や手がかりをたどろうとすれば、…

古本夜話145  安彦良和『虹色のトロツキー』、『合気道開祖植芝盛平伝』、出版芸術社

大正から昭和にかけての新たなる宗教や霊術、治療法や健康法をめぐる人々の中に、武術家たちをも見出すことができる。そのうちの二人はいずれも二十世紀末になって、安彦良和により、コミックの中に召喚され、主人公に寄り添う特異なキャラクター像を表出さ…

古本夜話144 三井甲之と『手のひら療治』

大正時代に百花斉放したかのような多様な健康法について言及していくときりがないのだが、手元に本があるので、もうひとつだけふれてみたい。それは三井甲之の『手のひら療治』である。ただし同書は昭和五年にアルスから刊行されたものでなく、二〇〇三年に…

ブルーコミックス論7 白山宣之、山本おさむ『麦青』(双葉社、一九八六年)

一九八〇年代に刊行された双葉社のA5版の「アクション・コミックス」は『青の戦士』の他に、もう一作「青」のタイトルが付された二冊本を送り出している。それは白山宣之と山本おさむの共作による『麦青』である。 俳句の季語に「青麦」があることは承知し…

古本夜話143 岡田虎二郎、岸本能武太『岡田式静坐三年』、相馬黒光

『食道楽』の村井弦斎が肥田式強健術と同様に興味を示したのは、これも当時ブームになっていた岡田式静坐法であった。すでに述べておいたが、明治末から大正時代にかけて、このふたつだけでなく、多くの健康法が流行し、現在に至るまでの民間療法の起源はこ…

古本夜話142 肥田春充『国民医術天真法』と村井弦斎

井村宏次の『霊術家の饗宴』(心交社)が明らかにしたのは、大正時代における霊術家たちの台頭ばかりでなく、同時に近代医学に接するような多彩な治病法や健康法も続々と名乗りをあげ、それらが現在でも存続していることである。これは同書に言及はないが、…

ブルーコミックス論6 狩撫麻礼作、谷口ジロー画『青の戦士』(双葉社、一九八二年)

ミステリアスなボクサーがいる。その名を礼桂(レゲ)という。年齢とプライバシーは定かならず。デビューは昭和50年4月、戦績は32戦12勝20敗、12勝はすべてKO勝ち、20敗もすべてKO負け。全日本ライト級の三位から十位を上下。だが彼のパンチ力のある試合は熱狂…

古本夜話141 島木健作『生活の探求』と柳田民俗学

前回の昭和十三年刊行『土に叫ぶ』は、羽田武嗣郎の証言によれば、「たいへん当たり」、発売元の岩波書店から毎月三千円の支払いがあったという。この本の定価は一円八十銭であるので、部数は定かでないにしても、ベストセラーに類する売れ行きだったことを…

古本夜話140 松田甚次郎『土に叫ぶ』と羽田書店

本連載136「国柱会、天業民報社、宮沢賢治」に続き、もう一編 宮沢賢治にまつわる出版譚を記しておく。 昭和十三年に出版された松田甚次郎の『土に叫ぶ』は、宮沢賢治の後輩として盛岡高等農林学校に学び、山形県最上郡の自らの村へと帰ってきたひとりの…

ブルーコミックス論5 安西水丸『青の時代』(青林堂、一九八〇年)

(青林堂版 箱) (光文社文庫版)安西水丸の『青の時代』(後に光文社文庫)は くすんだ青紫である紫苑色の箱入りで、本体は箱よりも色が薄いコバルトブルーで装丁されている。このタイトルを見ると、たちどころに三島由紀夫の『青の時代』と、ピカソの「青…

古本夜話139 田中守平と太霊道

前々回ふれた井村宏次の『霊術家の饗宴』(心交社)は「プロローグ」として、「霊術家の運命」が冒頭にすえられ、大正九年七月、名古屋から中央線で二時間あまりの大井駅の場面から始まっている。数万の群衆が待ち受ける中、特別仕立ての列車から現われたの…

古本夜話138 円地文子の随筆集『女坂』

前回 昭和十四年に人文書院から出された円地文子の随筆集『女坂』にふれた。少しばかり連載のテーマとずれる間奏的一章となってしまうが、この際だから続けて書いてみる。またこれは戦後へと持ちこまれてしまうにしても、いずれ円地の夫に関して言及するつも…

ブルーコミックス論4 佐藤まさあき『蒼き狼の咆哮』(青林堂、一九七三年)

佐藤まさあきは一貫して犯罪にこだわってきた劇画家である。六十年安保のかたわらで、政治的テロリストとして構想された『影男』、土門拳の写真集『筑豊のこどもたち』に表出する戦後の貧しさに触発され、炭鉱出身の少年が狼となって権力に立ち向かう『黒い…

出版状況クロニクル41(2011年9月1日〜9月30日)

出版状況クロニクル41(2011年9月1日〜9月30日)東日本大震災に続く、かつてない台風の被害に伴い、「深層崩壊」というタームが語られるようになってきている。これはあらためていうまでもないかもしれないが、台風による山崩れや崖崩れにおいて、滑り面が深…