出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2025-03-01から1ヶ月間の記事一覧

「ロス・マクドナルド論――ハードボイルド派の〈神話〉」その13

『VOLO』第3号 昭和50年10月1日発行 ⅩⅢ 優しさと諦念としっかりしていなかったら生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない。① (チャンドラー『プレイバック』) 「失われた父の伝説」と「偉大なる母親の物語」、そしてエディプス・…

「ロス・マクドナルド論――ハードボイルド派の〈神話〉」その12

『VOLO』第3号 昭和50年10月1日発行 Ⅻ 見出された〈神話〉 「運命は汝の胸に横たわれり」 小栗虫太郎『黒死館殺人事件』 ロス・マクドナルドの蒼ざめた世界の中を「鳥」が飛翔して行く。このマクドナルドの作品の至る所に登場する「鳥」は一体内を表象してい…

「ロス・マクドナルド論――ハードボイルド派の〈神話〉」その11

『VOLO』第3号 昭和50年10月1日発行 Ⅺ 殺人者たちの瞬間(とき) かかるエディプス・エレクトラの曲率の世界の底で、犯罪は発酵し、無意識的な間隙をぬって日常世界へと突出する。殺人者たちの真の動機は、金銭でも、痴情の果てのものでもない。「父」の不在の…

「ロス・マクドナルド論――ハードボイルド派の〈神話〉」その10

『VOLO』第3号 昭和50年10月1日発行 Ⅹ 偉大なる母の物語 「わたし本当におばあさんが憎らしかった。殺してやりたかった。父を子供の時から変な風に育てていまみたいにしてしまったのよ。エディプス・コンプレックスがどんなものかご存知でしょ?」「知ってる…

「ロス・マクドナルド論――ハードボイルド派の〈神話〉」その9

『VOLO』第3号 昭和50年10月1日発行 Ⅸ 失われた父の伝説 ロス・マクドナルドは『動く標的』以来、リュウ・アーチャーを主人公とする『魔のプール』(五十年)、『人の死に行く道』(五一年)、『象牙色の嘲笑』(五二年)、『犠牲者は誰だ』(五四年)、『凶…

「ロス・マクドナルド論――ハードボイルド派の〈神話〉」その8

『VOLO』第3号 昭和50年10月1日発行 Ⅷ リュウ・アーチャー ここで少し「私立探偵(プライベート・アイ)について考えてみる必要があるだろう。職業的意味を云えば、「私立探偵」とは、依頼人の依頼に応じて、就職、結婚、離婚調査を主とした様々な雑的調査に携わる者…

「ロス・マクドナルド論――ハードボイルド派の〈神話〉」その7

『VOLO』第3号 昭和50年10月1日発行 Ⅶ ロス・マクドナルド登場 ロス・マクドナルドは私立探偵リュウ・アーチャーを主人公とする一連のハードボイルドを書く以前に、本名のケネス・ミラー名義で、四作のミステリーを発表している。それは、処女作『暗いトンネ…

「ロス・マクドナルド論――ハードボイルド派の〈神話〉」その6

『VOLO』第3号 昭和50年10月1日発行 Ⅵ ハメットとチャンドラーの女たち わたしはハメットとチャンドラーの世界における男たちの世界に対する憧憬、失われて行く男たちへの哀歌とその執着について語り過ぎたかもしれない。それでは彼らの世界では女たちは如何…

「ロス・マクドナルド論――ハードボイルド派の〈神話〉」その5

『VOLO』第3号 昭和50年10月1日発行 Ⅴ レイモンド・チャンドラー ハメットの男たちの世界に対する憧憬とアメリカ近代社会における軋みの中で生じた男たちの失墜に対して、イロニイをこめた哀切で歌ったものはレイモンド・チャンドラーであった。そしてチャン…