出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話1275 『我等』と大山郁夫

前回、大正時代における雑誌の『社会思想』『我等』『批判』という系譜にふれた。このうちの『我等』は『日本近代文学大事典』第五巻に一ページ近い解題があるので、要約してみる。 (『我等』創刊号) 総合雑誌『我等』は大正八年に創刊され、昭和五年は『社…

古本夜話1274 改造社『社会科学大辞典』と社会思想社、荘原達

本探索1270で、葉山嘉樹の『海に生くる人々』が堺利彦と青野季吉を通じて、改造社の山本実彦のところに持ちこまれていたことを記述しておいた。改造社は大正八年の『改造』の創刊、翌年には賀川豊彦の『死線を越えて』のベストセラー化、同十五年は『現代日…

古本夜話1273 野田映史編『別役実の風景』、『季刊評論』、烏書房

これは戦後に飛んでしまうのだが、やはり青野季吉絡みなので、ここで続けてふれておくことにしよう。 最近論創社から野田映史編の追悼集『別役実の風景』が刊行され、恵送された。別役たちが早稲田小劇場を立ち上げる前に属していた劇団自由舞台の昭和四十年…

古本夜話1272 青野季吉とトロツキイ『自己暴露』

青野季吉『文学五十年』には出てこないけれど、彼の訳として、トロツキイ『自己暴露』がある。これは「わが生活(Ⅰ)」というサブタイトルを付し、昭和五年にアルスから刊行されている。おそらく続刊と同工の函はいかにも当時のプロレタリア文学出版物を彷彿…

古本夜話1271 青野季吉『文学五十年』と葉山嘉樹のデビュー

前回、葉山嘉樹の「淫売婦」などが『文芸戦線』に発表されたのは青野季吉を通じてだったことを既述しておいた。これには少しばかり補足も必要なので、もう一編書いてみる。 まずは『文芸戦線』だが、これはその半分ほどが近代文学館により復刻されている。し…

古本夜話1270 葉山嘉樹『海に生くる人々』

本探索1255の小林多喜二の『蟹工船』の成立にあたって、葉山嘉樹の『海に生くる人々』が大きな影響を与えたことは近代文学史においてよく知られていよう。この日本プロレタリア文学の記念碑とされる『海に生くる人々』は大正十五年に改造社から刊行され、例…

古本夜話1269 スタア社『亜米利加作家撰集』

前回の奢灞都館の「アール・デコ文学双書」のラインナップを見ていて思い出されたのは、スタア社の『亜米利加作家撰集』のことである。これは昭和十五年刊行の並製三四五ページの一冊で、ヘミングウエイの「五萬弗」が収録されていたことから、『明治・大正…

古本夜話1268 エリナ・グリン、松本恵子訳『イット』と奢灞都館「アール・デコ文学双書」

前回の松谷与二郎『思想犯罪篇』の巻末広告にエリナア・グリーン、松本恵子訳『イツト』が見出された。そこには「世界的流行の尖端イツトの原本! クララ・ボウによつて全世界にふりまかれたイツト イツトとは? 人生の大問題たる性関係、性心理、性道徳を一…

古本夜話1267 天人社「世界犯罪叢書」と松谷与二郎『思想犯罪篇』

前々回の天人社に関して、もう一編続けてみる。この版元に関しては拙稿「小田律と天人社」(『古本探究Ⅲ』所収)で、ヘミングウェイ、小田律訳『武器よ・さらば』の初訳などに言及し、不完全ながら『現代暴露文学選集』や「新芸術論システム」の内容を紹介し…

古本夜話1266 牧野信一『鬼涙村』

前回に下村千秋に言及したこともあり、ここで牧野信一にもふれておきたい。牧野は下村や浅原六朗と異なり、『現代暴露文学選集』には名前を連ねていないけれど、彼らは大正八年創刊の同人誌『十三人』の中心メンバーだった。しかも下村や牧野ほどではないけ…

古本夜話1265 下村千秋『ある私娼との経験』と平輪光三『下村千秋 生涯と作品』

前回、天人社の『現代暴露文学選集』をプロレタリア文学シリーズのひとつとして挙げたが、これはすでに『近代出版史探索Ⅱ』394で取り上げていることを思い出した。 そこで言及したのはその一冊の中本たか子『朝の無礼』で、彼女がプロレタリア文学者にして蔵…

出版状況クロニクル168(2022年4月1日~4月30日)

22年3月の書籍雑誌推定販売金額は1438億円で、前年比6.0%減。 書籍は944億円で、同2.7%減。 雑誌は494億円で、同11.7%減。 雑誌の内訳は月刊誌が419億円で、同12.4%減、週刊誌は75億円で、同7.5%減。 返品率は書籍が23.8%、雑誌は39.3%で、月刊誌は38.9%、週…