2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧
私は自らの浅学非才と無知をよく承知しているので、それを補うことと編集の仕事の必要もあって、かなり多くの辞典や事典類を所持し、毎日のようにそれらのいくつかを引いている。それらの辞典や事典の中で装丁、内容、図版、用紙など、どれをとってもすばら…
新潮社の『フィリップ全集』とほぼ同時期に、春秋社で『ゾラ全集』が企画され、その第一巻『ルゴン家の人々』が昭和五年に吉江喬松訳で刊行された。しかしこれは第一巻と第三巻の武林無想庵訳『巴里の胃袋』が出ただけで中絶してしまい、この『ルゴン家の人…
(新装講談社版) (竹書房版) 『古事記』における出雲神話は次のように伝えている。 高天原を追放された須左之男命は出雲国に降り立った。するとそこに老夫婦と娘の奇稲田姫がおり、泣いていた。須左之男命がどうして泣いているのかと問うと、わしには八人の…
和田伝編『名作選集日本田園文学』には吉江喬松の農民文芸運動の先駆的な一文「百姓、土百姓」が収録されている。これは『近代文明と芸術』(改造社、大正十三年)所収のものだが、ここでのテキストは白水社の『吉江喬松全集』第四巻掲載のものを使用する。…
和田伝編『名作選集日本田園文学』には農民文芸会の中村星湖の短編「この岸あの岸」も収録されている。これは大正六年に『中央公論』掲載の短編なので、筑摩書房の中村星湖集も兼ねる『明治文学全集』72や『精選中村星湖集』(早稲田大学出版部)でも読むこ…
戦後史の記憶の中にあって、色彩、それも「青」に関するエピソードとして、最も強い印象を残したのは、人類史上最初の宇宙飛行士となったソ連のガガーリンの「地球は青かった」という発言であろう。それは人間が初めて外から地球を見ての証言であり、まさに…
二回続けて農民文芸会の中心メンバーである和田伝の『農民文学十六講』の「仏蘭西に於ける農民文芸」、同じく和田編の『名作選集日本田園文学』を取り上げてきたが、和田のことについて、ほとんどふれてこなかったので、ここで一編を書いておこう。なぜなら…
前回、農民文芸会のメンバー、もしくは編集者が日本の農民文芸アンソロジーを構想したにちがいないと書いておいた。確かめてみると、それらは二冊ほど刊行されていて、加藤武雄、木村毅他編『農民小説集』(新潮社、大正十五年)、和田伝編『名作選集日本田…
とりわけコミックやアニメの分野において、核戦争などに象徴されるカタストロフィが起きたその後の世界の物語が無数に紡ぎ出されてきた。例えば、大友克洋の『AKIRA』は第三次世界大戦、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』や原哲夫の『北斗の拳』は核戦争といった…
やはり新潮社の「思想文芸講話叢書」の内容とタイトルを踏襲した一冊に農民文芸会編『農民文芸十六講』があり、大正十五年に春陽堂から出版されている。実はこの農民文芸会は他ならぬ加藤武雄が属していたもので、同書はこの会の成果の集成との評価もある。…
加藤武雄が多くの代筆をしたとされる新潮社の「思想文芸講話叢書」の「十二講」や「十六講」という形式は、売れ行きに示されているように、読者から好評をもって迎えられたために、他社からも多くの類似した著作が刊行されたと思われる。この読者からのヴィ…
この『青ひげは行く』は医者を主人公とする多くのドクターコミック群の中にあって、特筆すべき作品ではない。だがタイトルにある主人公の町医者の名称「青ひげ」にいくつかのイメージと記憶を喚起させられたので、それらを書いてみたい。思わず医者を主人公…
中村武羅夫の『文壇随筆』を取り上げるにあたって、彼と並んで大正時代の新潮社を支えた編集者であり、また同じような大衆小説家へと転じていった加藤武雄に関しても、著作などを読んでみた。幸いにして、中村と異なり、加藤の代表作である自伝的長編『悩ま…
出版状況クロニクル46(2012年2月1日〜2月29日) 出版業界は失われた15年を通じて、一万店を超える書店を始めとして、多くの出版社やいくつもの取次も失い、8500億円に及ぶ出版物販売金額のマイナスを見てしまった。しかしこれは本クロニクルで繰り返し言及…