出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話1408 竹村書房と正宗白鳥『旅行の印象』

前回松本八郎の『日本古書通信』における赤塚書房「新文学叢書」への言及を取り上げたが、彼が赤塚書房と並んで、プロフィルが不明なのは竹村書房と竹村坦も同様だと書いていた。 松本ほどではないにしても、私も同じような思いを抱く。かつて「尾崎士郎と竹…

古本夜話1407 山室静『現在の文学の立場』と赤塚書房「新文学叢書」

『近代出版史探索Ⅶ』1385の秋田雨雀を所長とする国際文化研究所はその後プロレタリア科学研究所へと改組されていくのだが、その芸術学研究会には山室静、平野謙、本多秋五たちもいて、彼らは初期の力作を発表していたとされる。しかしペンネームでの執筆だっ…

古本夜話1406 『辞苑』と新村猛『「広辞苑」物語』

続けて「南蛮物」の著者としての新村出を取り上げたが、新村といえば、やはり岩波書店の『広辞苑』の編纂者ということになるだろう。 『近代出版史探索Ⅴ』852で明治大正のロングセラーの定番辞典として、上田万年などの『大日本国語辞典』、大槻文彦の『大言…

古本夜話1405 村岡典嗣『吉利支丹文学抄』

例によって浜松の時代舎で、村岡典嗣の『切支丹文学抄』を見つけた。菊判上製、付録を合わせると三五〇ページの一冊である。裸本ながら藍色の本体に寄り添うような、天金ならぬ天青の造本は、神父の僧服を彷彿とさせるし、三円五十銭の定価はこうした分野の…

古本夜話1404 長沼賢海編『南蛮文集』と「南蛮物」

前々回ふれなかったが、三島才二編校註『南蛮稀聞帳』は浜松の時代舎で見つけたもので、そこに長沼賢海編『南蛮文集』(南陽堂、昭和四年)もあり、一緒に購入してきている。 (『南蛮稀聞帳』) 前者の鮮やかな色彩の装幀は既述したが、後者は黒衣をまとっ…

古本夜話1403 「万有文庫」とクロポトキン『相互扶助論』

まったく偶然だが、前回の潮文閣の高橋政衛を発行者とする「万有文庫」をまとまって十六冊入手した。それはヤフーのオークションを通じてで、妻が発見してくれたのである。そこで一編挿入しておきたい。( 万有文庫)「万有文庫」のことは『近代出版史探索Ⅱ…

古本夜話1402 潮文閣と三島才二編校註『南蛮稀聞帳』

前々回、『雨雀自伝』において、『新思潮』の出資者が長谷川時雨の親戚にあたる木場の旦那との指摘から、それが材木問屋の数井市助であることが判明した。またその編集所が潮文閣と呼ばれていたという事実は、『近代出版史探索Ⅱ』217などの潮文閣の始まりも…

古本夜話1401 片山潜、『労働世界』、『平民新聞』

あらためて『近代出版史探索Ⅶ』1388の『雨雀自伝』を読んで、日露戦争をはさんでの数年が、日本の社会主義トレンドの隆盛期だったことが伝わってくる。雨雀は明治三十六年における体験を次のように記している。いかにも雨雀らしい率直な告白なので、これもそ…

古本夜話1400 『雨雀自伝』、『新思潮』、潮文閣

本書1388の『雨雀自伝』は戦後の昭和二十八年に美作太郎の新評論社から刊行された。戦前の美作に関しては拙稿「日本評論社、美作太郎、石堂清倫」(『古本屋散策』所収)などで既述しているが、『雨雀自伝』は後に未来社から出版された『近代出版史探索Ⅱ』20…

古本夜話1399『戦艦ポチョムキン』と映画評論社『定本世界映画芸術発達史』

中野重治の『空想家とシナリオ』でただちに連想されたのはエイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』のことであった。この作品の中で、彼が想定しているシナリオとは『戦艦ポチョムキン』のように思われてならないのだ。『空想家とシナリオ』は高杉一郎の要…

出版状況クロニクル181(2023年5月1日~5月31日)

23年4月の書籍雑誌推定販売金額は865億円で、前年比12.8%減。 書籍は483億円で、同11.6%減。 雑誌は382億円で、同14.2%減。 雑誌の内訳は月刊誌が324億円で、同15.1%減、週刊誌が57億円で、同8.9%減。 返品率は書籍が31.9%、雑誌が42.3%で、月刊誌は41.2%、…