20年3月の書籍雑誌推定販売金額は1436億円で、前年比5.6%減。
書籍は916億円で、同4.1%減。
雑誌は519億円で、同8.1%減。
その内訳は月刊誌が434億円で、同8.5%減、週刊誌は84億円で、同6.4%減。
返品率は書籍が25.5%、雑誌は40.7%で、月刊誌は40.6%、週刊誌は41.4%。
書店売上は前月と同様に、書籍が2%減となっているけれど、政府による学校の休校や外出自粛要請もあり、学参は30%増、児童書は12%増となった。
雑誌は定期誌9%減、ムック16%減、コミックス19%増で、『キングダム』の新刊発売と『鬼滅の刃』が相変わらず売れ続け、4ヵ月連続の二桁増。
前回の本クロニクルで、3月の書籍雑誌推定販売金額には新型コロナによる影響で、かつてないマイナスに陥るのではないかと予測しておいた。
だが影響はあるにしても、3月は二桁減には至っていない。やはり問題は4月以降ということになろうか。
1.『日経MJ』(4/22)に衣料品・靴専門店13社の3月販売実績が掲載されているので、リードの書店販売状況と比較する意味で、引いておく。
店名 | 全店売上高 | 既存店売上高 | 既存店客数 | |
カジュアル衣料 | ユニクロ | ▲28.1 | ▲27.8 | ▲32.4 |
ライトオン | ▲40.1 | ▲39.1 | ▲35.3 | |
ユナイテッドアローズ | ▲38.8 | ▲40.2 | ▲36.8 | |
マックハウス | ▲36.1 | ▲32.4 | ▲35.8 | |
ジーンズメイト | ▲33.4 | ▲36.6 | ▲29.0 | |
婦人・子供服 | しまむら | ▲11.8 | ▲12.1 | ▲12.5 |
アダストリア | ▲24.3 | ▲24.2 | ▲20.0 | |
ハニーズ | ▲28.3 | ▲28.8 | ▲31.3 | |
西松屋チェーン | 19.3 | 21.3 | 15.3 | |
紳士服 | 青山商事 | ▲41.1 | ▲41.2 | ▲33.2 |
AOKIホールディングス | ▲36.5 | ▲32.9 | ▲35.0 | |
靴 | チヨダ | ▲24.8 | ▲24.4 | ▲23.5 |
エービーシー・マート | ▲31.1 | ▲29.9 | ▲29.1 |
13社のうちの12社が大幅なマイナスで、営業時間の短縮や休業店舗の増加も影響している。それに入学式や卒業式の中止も重なっていよう。
唯一のプラスは子供服の西松屋チェーンだが、紙おむつやウエットティッシュなどの消耗品、室内用子どもおもちゃの需要が伸びたことによっている。
4月はさらに政府の緊急事態宣言、自治体による外出自粛要請による休業や時短営業が広がり、3月以上のマイナスが予測される。
なおコンビニ大手7社の3月の売上高は8338億円で、前年比5.8%減、来客数も同8.2%減。
2.続けて『日経MJ』(4/3)だが、新型コロナウィルスの大打撃の中で、「外食の生き残り、業界の先達に聞く」として、すかいらーくの元社長、日本フードサービス協会会長、現「高倉町珈琲」の横川竟会長に一面インタビューしている。それを要約してみる。
★ 外食業界にとって最大のピンチで、東日本大震災やリーマンショックとは異なる。 |
★ 今回は日本全体、海外の経済、全世界の70億人に及ぶもので、経済を大木に例えると、これまでは枝が折れただけだったが、この感染拡大は根が枯れかねない。 |
★ 従来とはまったく異なるという認識が必要で、政治が対策を巡って、リーマン時との多寡を議論している時点で見通しが甘い。 |
★ 「高倉町珈琲」の売上高は前年比8%ダウンで、レストランは25~30%、居酒屋は半分に落ちているようだ。 |
★ 消費者は直観的に選別し、クレンリネス(清潔さ)、接客などの安心できるブランド力が問われ、それが落ち幅を左右している。 |
★ 飲食店は売上高にかかわらず、家賃、人件費などのコストが発生するし、3割が原材料費なので、売上高が5割以上も減る事態が続けば、赤字になってしまう。 |
★ 政府の資金繰り対策や支援は実態と異なる。 |
小売り、外食、卸に必要なのは運転資金で、金利付きでの返済猶予、10年程度の長期返済といった、困っている事業者に資金が回る仕組みが必要だ。貸し倒れリスクはあるにしても、すぐに融資すべきだ。 |
★ 飲食店の経営者が最優先すべきは会社を潰さないこと。それと働く人を護ることで、規模を小さくして働く人を守れるのであれば、店を閉めるべきだ。 |
★ 平成の外食は安さを競ってきたが、令和は新たな価値を模索する時代となる。 |
その価値を生み出すのは大手チェーンストアよりローカルチェーン、オーナーチェーンで、大手が生き残っても、中小零細が潰れるようでは外食はダメになる。 |
★ 感染拡大による影響とその収束は1、2年ではすまないし、消費税の引き下げなどの思い切った施策を打って、「見えない不安」を取り除かないと、消費は底入れしない。 |
★ 消費者は政治対応の混乱を目にし、将来不安から生活防衛に入るので、外食の価値も変わる。 |
来てもらい続ける店の条件は3つ、安全で、おいしい商品を出し、従業員が楽しく働く。そうした店を作る、維持するという経営者の思想が必要だ。 |
新型コロナウィルス危機に関する経営者の発言を多く聞いているわけではないけれど、この横川の発言は、シンプルにしてグローバル、しかも本質的な透視図を示し、真摯な現状分析と思われるので、ここに紹介してみた。
ここで何よりも重要なのは、今回のコロナ問題が大手メーカーや大手企業ではなく、中小零細の小売り、外食、卸を危機に追いやっているという指摘である。つまり現在の消費社会はそれらによって形成され、支えられているので、その危機はそのまま社会の危機へとつながり、コロナ感染拡大はそこを直撃しているのである。外食産業と郊外消費社会の発端から寄り添ってきた横川ならではの視座といえるし、グローバリゼーション化した高度資本主義消費社会の本質をついていよう。
残念ながら、出版業界では出版社、取次、書店にしても、このような現状分析、未来像も含んだビジョンは提出されていないからだ。ここで語られている外食産業、飲食店は出版業界、中小出版社、中小書店にもそのまま通じるものである。
ただ規模的に外食産業は出版業界よりもはるかに大きく、25兆円の市場と450万人の雇用を生み出しているので、社会にもたらす影響は比ぶべくもない。
実際にこれも『日経MJ』(4/20、4/22)が続けて、「サバイバル外食不況」を特集しているが、そこに示された3月売上高は、サイゼリア21%、大庄41%、すかいらーくHD23.5%、壱番屋9.8%減となっている。それらの見出しは「瀬戸際の大手会社死守に奔走」、「中小資金繰り背水の陣」とあり、横川の言のように進行していることになる。
その後、同じく『日経MJ』(4/27)に「主要外食3月の商況」として、35社のデータが出されている。
なお1970年の横川兄弟によるすかいらーくの創業はその後の郊外消費社会の先駆的試みだった。それらの1970年代状況は拙稿「アメリカ的風景の出現」(『〈郊外〉の誕生と死』所収、論創社)を参照されたい。
3.『選択』(4月号)がコロナ特集といっていいほどの記事を、「world」「政治」「経済」「社会・文化」の全領域にわたって発信している。
それらの主な記事タイトルを挙げてみる。
*「世界『コロナ恐慌』の暗黒」
*「『コロナ以前』に戻れない中国経済」
*「五輪と安倍退陣『W延期』」
*「新感染症に無策の『国歌安全保障局』」
*「米国株『パニック相場』の行方」
*「『二重症化』日本経済への処方箋」
*「コロナ治療薬『開発競争』の最前線」
*「病院にも迫る『コロナ倒産』の足音」
*「新型コロナ専門家会議」
このような特集や記事を多く読んでいないが、これらの『選択』の記事は4月1日発売という早い時期だったにもかかわらず、極めて充実し、示唆に富んでいたと判断できるし、直販誌ならではのコロナ特集号の白眉として推奨する次第だ。
それを自覚してか、「編集後記」に次のように述べられている。
「新型コロナウィルスの感染拡大で、日本にも『自主隔離』の時代がやってきた。こういう時には小誌を読もうと思っていただければ、出版人としてこれに勝る喜びはない。」
「出版人として」書かれていることに注視すべきであろう。
4.書店休業に関しては『新文化』(4/16)が「1000店規模」、『文化通信』(4/20)が「800店以上」として、丸善ジュンク堂書店を始めとするナショナルチェーンの8都府県35店、及びその他の休業をレポートしている。
4月7日の政府の「緊急事態宣言」の発令によって、ナショナルチェーンなどの休業が増加し、ショッピングモールやスーパーなどに出店している書店も、その意向から休業、時短営業を余儀なくされている。
その一方で、東京書店組合に属する多くの地場書店は営業を続け、客が集中し、売上が伸びているようだ。書店によっては前年の倍の売上になっているとも伝えられてくる。それが学参、児童書の売上増とリンクしているのだろう。
また東京都は4月13日に「古本屋」に休業要請し、「本屋」はその対象外という方針を打ち出した。それによって神保町古本街も休業が一気に増えた。「古本屋」には休業補償がなされ、「本屋」にはそれがないということになるのだろうか。
休業しても、家賃やリース費、人件費は発生するし、「本屋」だろうと書店だろうと、休業は死活問題となっていくことだけは確実だ。
ただ幸いにして、小学館、集英社、宝島社などにおけるコロナ感染者の発生、及びそれに関連する雑誌発売延期などの問題は書店現場からは伝えられていないので、それだけは救いである。しかしこのような感染拡大が続けば、書店も巻き込まれていくことになろう。
おそらく「緊急事態宣言」を受けて、公共図書館の多くが休館となっているはずで、私が利用している市立図書館も一週間前に休館となっている。
そこでブックオフは「古本屋」か「本屋」なのか不明だが、営業を続けている。だがやはり何らかの方針は伝えられているようで、入口消毒、立ち読み禁止、15分以内の買物がアナウンスされていた。
このような出版物をめぐる販売、貸出インフラ状況は5月連休明けを迎えても、ドラスチックには改善されないと思われる。
そのようにして出版危機は深まっていくばかりだ。
5.『出版月報』(3月号)が特集「文庫本マーケットレポート2019」を組んでいる。
その「文庫本マーケットの推移』を示す。
年 | 新刊点数 | 推定販売部数 | 推定販売金額 | 返品率 | |||
点 | 増減率 | 万冊 | 増減率 | 億円 | 増減率 | ||
1999 | 5,461 | 2.3% | 23,649 | ▲4.3% | 1,355 | ▲1.0% | 43.4% |
2000 | 6,095 | 11.6% | 23,165 | ▲2.0% | 1,327 | ▲2.1% | 43.4% |
2001 | 6,241 | 2.4% | 22,045 | ▲4.8% | 1,270 | ▲4.3% | 41.8% |
2002 | 6,155 | ▲1.4% | 21,991 | ▲0.2% | 1,293 | 1.8% | 40.4% |
2003 | 6,373 | 3.5% | 21,711 | ▲1.3% | 1,281 | ▲0.9% | 40.3% |
2004 | 6,741 | 5.8% | 22,135 | 2.0% | 1,313 | 2.5% | 39.3% |
2005 | 6,776 | 0.5% | 22,200 | 0.3% | 1,339 | 2.0% | 40.3% |
2006 | 7,025 | 3.7% | 23,798 | 7.2% | 1,416 | 5.8% | 39.1% |
2007 | 7,320 | 4.2% | 22,727 | ▲4.5% | 1,371 | ▲3.2% | 40.5% |
2008 | 7,809 | 6.7% | 22,341 | ▲1.7% | 1,359 | ▲0.9% | 41.9% |
2009 | 8,143 | 4.3% | 21,559 | ▲3.5% | 1,322 | ▲2.7% | 42.3% |
2010 | 7,869 | ▲3.4% | 21,210 | ▲1.6% | 1,309 | ▲1.0% | 40.0% |
2011 | 8,010 | 1.8% | 21,229 | 0.1% | 1,319 | 0.8% | 37.5% |
2012 | 8,452 | 5.5% | 21,231 | 0.0% | 1,326 | 0.5% | 38.1% |
2013 | 8,487 | 0.4% | 20,459 | ▲3.6% | 1,293 | ▲2.5% | 38.5% |
2014 | 8,618 | 1.5% | 18,901 | ▲7.6% | 1,213 | ▲6.2% | 39.0% |
2015 | 8,514 | ▲1.2% | 17,572 | ▲7.0% | 1,140 | ▲6.0% | 39.8% |
2016 | 8,318 | ▲2.3% | 16,302 | ▲7.2% | 1,069 | ▲6.2% | 39.9% |
2017 | 8,136 | ▲2.2% | 15,419 | ▲5.4% | 1,015 | ▲5.1% | 39.7% |
2018 | 7,919 | ▲2.7% | 14,206 | ▲7.9% | 946 | ▲6.8% | 40.0% |
2019 | 7,355 | ▲7.1% | 13,346 | ▲6.1% | 901 | ▲4.8% | 38.6% |
販売金額は2年続いての900億円台だが、小野不由美『十二国記』(新潮文庫)の新刊4点、254万部のメガヒットがなかったならば、確実に900億円を割っていただろう。
それゆえに20年は800億円台となり、ピーク時の2006年の1416億円にくらべると、600億円近くのマイナスで、21年に至ってはその半減を見ることになろう。
それに合わせるように、販売部数も1億冊のマイナスで、新刊点数はまだ7000点台を保っているけれど、それを割り込んでいくだろう。
その一方で、新刊平均定価は698円に達し、20年は700円を超え、文庫本は安いというコンセプトから逸脱していく。
2012年に販売金額284億円のライトノベル文庫も19年には143億円と半減しており、明らかにスマホとの競合がうかがわれる。
結局のところ、文庫本のマイナスはまだ続いていくと考えるしかない。
6.商業界が自己破産。
同社は1948年設立で、小売流通業界専門誌『商業界』を始めとして、『販売革新』『食品商業』『ファッション販売』などの主力雑誌を刊行し、それに関する単行本の出版、各種セミナーも開催していた。
ピーク時の2001年には年間20億円を計上していたが、19年には8億円にまで減少し、『飲食店経営』や『ファッション販売』を他社に譲渡していた。
負債額は8億8000万円。
商業界は設立者の倉本長治は鈴木徹造『出版人物事典』(出版ニュース社)に立項されているように、戦後の小売流通業のイデオローグの一人であり、高度成長期の商店街のカリスマだったといえるであろう。
しかし商店街の没落とともに、中小の小売流通業は衰退し、商業界の占めていた役割も終わりを迎え、自己破産へと至ったと見るべきだろう。
なお倉本と『商業界』のルーツは戦前の誠文堂の『商店界』にあり、それは小川菊松『出版興亡五十年』(誠文堂新光社)に詳しい。
7.おうふうが破産手続きを開始。
同社は1993年の設立で、辞典や国文学関連の書籍を手がけ、2001年には売上高4億5000万円を計上していたが、19年には7200万円まで落ちこんでいた。負債は4億7000万円。
おうふうはかつての桜楓を引き継いで設立された版元だったと思う。
これも6の商業界ではないけれど、大学における国文学や近代文学研究の衰退を受けての結末と考えるしかない。
それは国文学や近代文学研究書の出版に関わっている版元に等しく訪れている危機と密接にリンクしているのだろう。
大学、高校の教科書なども手がけていたと伝えられているが、それも確固たるベースにならない時代を迎えつつあることを、おうふうの破産は告げていよう。
8.小林出版が自己破産。
同社は2017年設立、大学の福祉系学部で使用される介護や社会福祉の教科書を発行、販売していた。
新型コロナウィルスの影響で、4月に大学生協で販売予定だった教材の納品が9月に延期され、資金繰りの目途が立たず、事業継続を断念した。
昨年の売上高は1500万円で債務超過に陥っていて、負債額は1600万円。
この版元は初めて目にするもので、設立年度が3年前と最近で、しかも教科書出版であるにもかかわらず、自己破産したことになる。
7のおうふうに続いて、今月は教科書関連出版社が2社自己破産に追いやられたことになる。
9.秀作社出版が後継者不在のために自主廃業。
同社は1987年創業で、水墨画の技法書や仏教関連書など600点以上を刊行してきた。
毎年公募作品を集めた全国水墨画秀作展を開催するイベントも含め、様々に展開してきたが、33年の歴史に終止符が打たれた。
秀作社出版の刊行物は目にしていたし、水墨画や仏教関連書を出していることは知っていたが、創業30年を超えていたことは認識していなかった。
そういえば、1980年代に水墨画ブームといっていいのか、各社から水墨画の本が出されるようになったことを記憶している。
おそらく秀作社出版もそのようなトレンドに合わせるかたちで設立され、水墨画緒秀作展も開催するようになったのであろう。
だがそのような趣味とそれに併走する出版の時代も終わっていくのだろう。
長きにわたる本クロニクルにおいても、6、7、8、9と4社の自己破産と廃業を記すのは初めてである。しかもその背景に新型コロナウィルスの影響があるのは確実だから、その予兆のような出版社の自己破産と廃業となるのかもしれない。
10.仏教総合月刊誌『大法輪』が7月号で休刊。
同誌は1934年に仏教専門出版社の大法輪閣によって創刊され、仏教の大衆化、広範な普及を目的として、87年にわたって刊行されてきた。
休刊理由は部数の減少、編集者の問題もあり、従来のような雑誌づくりの継続が難しくなったからだという。
大法輪閣は国際情報社の石原俊明が設立した版元である。
この『大法輪』の何代目かの編集長が塩澤実信『倶楽部雑誌探究』(「出版人に聞く」シリーズ13)の中に出てくる。
それは戦後、講談社出身のメンバーによって設立されたロマンス社においてで、塩澤はそこで編集者の仕事をスタートさせている。その雑誌のひとつに『婦人世界』があり、編集長が福山秀賢で、彼がその後『大法輪』の編集長になっている。
福山は中央公論社の『婦人公論』、講談社の各雑誌の編集長だったが、前者に菊池寛をモデルとする広津和郎の小説「女給」を掲載し、菊池に殴られたというエピソードを有していた人物だった。さらなる詳細は同書に当たってほしい。
11.『朝日新聞』(4/24)が「自由訴える書店 台湾で復活」との見出しで、香港の銅羅湾書店の台北市内における4月25日の開店をレポートしている。
銅羅湾書店に関しては『出版状況クロニクルⅣ』や『同Ⅴ』、本クロニクル141でも取り上げたばかりだが、ようやく開店に至ったことをここで祝すべきだろう。
レポートに「銅羅湾書店に関するできごと」年表が付されているが、それは15年の書店関係者5人の失踪と中国本土での拘束から始まる受難史であり、香港での言論の自由問題を象徴する事件ともなっていた。
昨年から続く香港の抗議デモにしても、この銅羅湾事件を背景にしていたとも見なすことができよう。
台湾における銅羅湾書店はどのような軌跡をたどっていくのだろうか。こちらも中国の万聖書園と同様に、続けて追跡していくつもりである。
odamitsuo.hatenablog.com
12.『キネマ旬報』(4/上)が恒例の「映画本大賞2019」を発表している。
第1位は『映画監督 神代辰巳』(国書刊行会)で、同書編集者の樽本周馬へのインタビューも付されている。
1ヵ月ほど前に、『三島由紀夫VS東大全共闘』を観たこともあり、その時代と映画についても、色々と思い出された。
『映画監督 神代辰巳』はまだ読む機会を得ていないけれど、彼の一本といえば、『赫い髪の女』を挙げる。最後に観たのは『棒の哀しみ』だった。
今回のベストの中で、第3位の四方田犬彦『無明 内田吐夢』(河出書房新社)、第10位の野村正昭『デビュー作の風景』(DU BOOKS)は読んでいるが、第5位のダーティ工藤『新東宝1947-1961』、第8位の小澤啓一『リアルの追求』(いずれもワイズ出版)も触手をそそられる。
また選者の一人が19年における洋泉社の映画本の消滅を嘆いていた。だが幸いなことに『映画秘宝』は4月に双葉社によって復刊された。
13.講談社のコミック、朱戸アオの『インハンド プロローグⅡ』(イブニングKC)の「ディオニュソスの冠」がまさにコロナウィルスをテーマとしているので、ぜひ一読されたい。
カミュの『ペスト』(新潮文庫)がベストセラーとなっている。
だがありとあらゆるテーマを探究している日本のコミックも、すでに先行して16年にこの作品は発表されていた。このシリーズは寄生虫専門家と厚労省・患者安全委員会調査室員を主人公とするもので、感染症をテーマとする作品連作と見なせるだろう。
朱戸の作品はその他に『リウを待ちながら』(講談社)全3巻があり、こちらは「パンデミック・サスペンス」と銘打たれている。続けて読まなくては。
14.つげ義春の『無能の人』の英訳がThe Man Without Talent (TRANSLATED AND WITH AN ESSAY BY RYAN HOLMBERG , New York Review Comics, 2019)として刊行された。
この英訳タイトルは明らかにヘミングウェイの作品集から取られていて、違和感を覚えるけれど、それ以上にこの一冊が英訳されたことはよかったと思う。
フランスではすでにつげの仏訳全集も出されているので、信じられないような気にもなるが、つげも国際的なマンガ家としてのポジションについたことになるのだろうか。
また『スペクテイター』(41号、2018)が特集「つげ義春探し旅」で、つげの新たな探究を試みているように、21世紀のグローバリゼーション下におけるつげの新しい読解の時代を迎えているのかもしれない。
15.『近代出版史探索Ⅱ』は5月連休明けに刊行される。
現在の書店状況から考えても、店頭で手に取ることは難しいかもしれないが、ネットなどでの出会いを試みてほしい。
なお今月の論創社HP「本を読む」〈51〉は「「バタイユ『大天使のように』と奢霸都館」です。