出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話277 緑園『後藤隠岐』と武士道文庫『後藤又兵衛』

博多成象堂の武士道文庫の著者がすべて凝香園であることから、同じく「園」を含んだ緑園や碧瑠璃園といったペンネームを使用した渡辺霞亭を想起し、凝香園もその関係者ではないかという推論を、前回提出しておいた。もちろん後で出てくる塚原渋柿なども「渋…

混住社会論11 小泉和子・高薮昭・内田青蔵『占領軍住宅の記録』(住まいの図書館出版局、一九九九年)

本連載8で論じたハルバースタムの『ザ・フィフティーズ』と同様に、『〈郊外〉の誕生と死』において参照すべきであったと思われる著作がある。だがそれも拙著の上梓後に出版されたので、残念なことにかなわなかった。それは『占領軍住宅の記録』上下で、小…

古本夜話276 博多成象堂、武士道文庫、凝香園

立川文庫や大川文庫に続けてふれたので、やはり同時代に刊行されていた博多成象堂の武士道文庫にも言及しておくべきだろう。『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』も、大正期における新聞連載小説の人気を受け、広く大衆娯楽小説が普及した事実にふれ、…

古本夜話275 大川文庫と作者たち

前回既述したように、池田蘭子は『女紋』の中で、立川文庫は袖珍文庫を見て思いついたと書いているが、明治三十年代に東京の大川屋から出ていた大川文庫のことも念頭にあったにちがいない。大川屋については以前にも坪内逍遥の大川屋版『当世書生気質』に関…

混住社会論10 ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』(河出書房新社、一九五九年)

(大久保康雄訳、新潮文庫) (若島正訳、新潮文庫)ナボコフの『ロリータ』については『〈郊外〉の誕生と死』でも少しだけ言及しているのだが、この連載でも再びふれるべきか、いささかためらっていた。 しかしこの小説がチャンドラーの『長いお別れ』と同様…

古本夜話274 中川玉成堂『元和勇士 山中武勇伝』、立川文庫、池田蘭子『女紋』

立川文庫については ほるぷ出版の復刻本を一冊持っているだけで、深い読書体験もないし、足立巻一の『立川文庫の英雄たち』(中公文庫)という優れた研究も出されているし、言及しないつもりでいた。だが立川文庫の原型と見なせる講談本を入手したこと、しか…

古本夜話273 立川文明堂『明治大正文学美術人名辞書』と大文館『増補古今日本書画名家辞典』

前回、松要書店、巧人社、近代文芸社が三位一体となった「造り本」を紹介したこともあり、私の所持している大阪の他社の本も取り上げておくことにしよう。私は何度も書いているが、辞書や辞典類の編集や出版が困難なことを承知しているので、とりわけ戦前の…

混住社会論9 レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』(早川書房、一九五八年)

残念なことに、前回のハルバースタムの『ザ・フィフティーズ』にレイモンド・チャンドラーの名前は出てこないけれど、彼の『長いお別れ』も五四年に出版された、紛れもない五〇年代の作品なのである。 それは消費社会とハードボイルド小説が無縁でないことを…

古本夜話272 近代文芸社『現代詩の作り方研究』、松要書店、巧人社

四六判布装、箱入の『現代詩の作り方研究』という五百ページほどの本がある。奥付には昭和四年九月六版発行、定価二円二十銭、著作者は富永直樹、発行者は松浦一郎、発行所は近代文芸社で、その住所は大阪市東区博労町と記されていた。それは八人の共著であ…

古本夜話271 和田芳恵と博文館『一葉全集』

前回、和田芳恵の『一葉の日記』のことにもふれたので、ここでもう一編書いておきたい。和田は作家であると同時に、樋口一葉の研究者であり続け、決定版『一葉全集』(筑摩書房)も編纂し、また十冊以上に及ぶ研究書や解説書を刊行しているが、その代表作は…

混住社会論8 デイヴィッド・ハルバースタム『ザ・フィフティーズ』(新潮社、一九九七年)

(新潮文庫版) 『〈郊外〉の誕生と死』において、言及できなかった著作が、大江健三郎や北井一夫の写真集だったことを、その理由なども含め、前回と前々回で既述しておいた。 そのような参考資料的著作がもう一冊あって、それはD・ハルバースタムの『ザ・フ…

出版状況クロニクル57(2013年1月1日〜1月31日)

出版状況クロニクル57(2013年1月1日〜1月31日)『週刊ダイヤモンド』(1/26)が新年早々から、特集「倒産危険度ランキング」を組んでいる。それは近年の大企業の崩壊と凋落、中堅・中小企業の劣化の二つの視点を通じ、その倒産リスクと危機の内実を浮かび上…