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【自治会、宗教、地方史】No. 37 第二部11  県市町村誌/史の衰退、または残り続ける錯誤

県市町村誌/史の衰退、または残り続ける錯誤

A : それはどこでも同じじゃないかな。先に名著出版が昭和43年に創業し、全国の県市町村などの復刻を始めているが、それは43年の明治百年を迎えての近代日本の見直しというか再考のトレンドとなり、多くの関連文献が出版された。

 それに合わせて、ずっと絶版状態にあった県市町村誌 などにもスポットが当てられ、復刻が盛んになったのであり、そのことを抜きにして、地方史文献のことは語れないのではないか。

小田 : なるほど、それは確かにいえるね。でもそれらの復刻にしても少部数で、書店の外商を通じての販売が主で、書店の店売商品としてではなかったので、やはり目にふれる機会は少なかった。

A : それはしょうがないよね。結局のところ、それらは地方、郷土史文献で、全国的に売れるものではなく、高定価買切商品だから書店の店頭で売る対象にはならない。
 それにブームの時ならともかく、売れる部数にも地域差があるらしく、なかなか復刻も完売は難しいと聞いている。

小田 : それで思い出したが、『震災に負けない古書ふみくら』の佐藤周一さんは 昭和61年に郡山の駅前で 郷土史を中心とする古本屋を開店し、当時はよく売れたようだ。
 佐藤さんの言によれば、個人的にも郷土史が趣味で、それで力を入れたわけだが、地方自治体にしても、それぞれ市町村史を編んで刊行するのがブームでもあり、それに便乗したことも功を奏したといいます。

震災に負けない古書ふみくら (出版人に聞く 6)

A : ということは前世紀、つまり20世紀の間はまだ地方史ブームは続いていたことになるね。

  地方・小出版流通センターが発足したのが昭和51年だった。それまで地方出版物、小出版社の出版物は通常の書店ルートでは流通販売されていなかったので、地方・小出版流通センターの発足は意義深いものがあった。

小田 : 契機となったのは 51年の 百貨店でのブックフェア で、それに刺激され、全国各地でフェアが開かれ、地方・小出版流通センターは出版業界のみならず、社会的にも認知されていった。

A : ただ残念なことに、県市町村史 などは非売品扱いで市販されていなかったこともあり、地方・小出版流通センターにのることもなかった。それもあって名著出版などの復刻も続いていた。

小田 : ところが平成に入り、21世紀を迎えると、郷土史、地方史文献は安くなったどころではなく、下落してしまい、それらを中心とする古本屋は成立しなくなってしまった。

 それは県市町村史が出され続けていれば、先行する史資料が必要とされるし、集書しなければならないのだが、それらの出版ブームが終わってしまうと、途端に見向きもされなくなり、暴落してしまった。それに市町村合併が輪を掛けた。

A : そうか、県市町村史が出されなくなれば、かつてと異なり、復刻も必要とされない。それにデジタル化を考えれば、これから紙の県市町村史にしても刊行されるかどうかわからないところまできている。

小田 : そういうことだと思う。佐藤さんの話はすでに10年以上前のことで、現在では県市町村史にしても、無用のものと化しているかもしれない。

 それからもうひとつ心配しているのは地方史、郷土史の錯誤や間違いが修正されず、そのまま残ってしまい、それが真実であるかのように通用してしまうことも問題だ。地方史、郷土史が編まれ続けていけば、それらは修正され、新たな記述と解釈も可能だが、それも不可能になってしまう。

 実際に『郡誌』『市誌』、これはまだ取り上げていないが、『市誌』を読み、比較してみると、大正時代の『郡誌』から見れば、新たな発見によって、地方史、郷土史としては進化しているといえる。これはどこの地方史、郷土史においても同様だと思う。

A : あなたがいうと余計にリアルだね。T王寺=T應寺=T応寺の件で腹に据えかねたことがよくわかる。

小田 : そうおっしゃってくれたので、話を戻します。