21年2月の書籍雑誌推定販売金額は1203億円で、前年比3.5%増。
書籍は718億円で、同0.6%増。
雑誌は484億円で、同8.0%増。
20年12月、21年1月に続く3ヵ月トリプル増で、かつてない連続プラスとなっている。
雑誌の内訳は月刊誌が412億円で、同11.5%増、週刊誌は72億円で、同8.4%減。
返品率は書籍が29.7%、雑誌は37.4%で、月刊誌は36.1%、週刊誌は44.0%。
雑誌のうちの月刊誌の好調は前月に続いて『呪術廻戦』の既刊、『鬼滅の刃』の全巻、『ONE PIECE』の新刊などのコミックスの売れ行きによるものである。
だが週刊誌と同様に、定期誌とムックは相変わらずマイナスが続いている。
書籍は芥川賞の宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社)が45万部に達し、児童書の好調さと相俟って、書籍のプラスの要因となっている。
1.『出版月報』(2月号)が特集「コミック市場2020」を組んでいる。
その「コミック市場全体(紙版&電子)販売金額推移」と「コミックス・コミック誌推定販売金額推移」を示す。
■コミック市場全体(紙版&電子)販売金額推移(単位:億円)
年 | 紙 | 電子 | 合計 |
コミックス | コミック誌 | 小計 | コミックス | コミック誌 | 小計 |
2014 | 2,256 | 1,313 | 3,569 | 882 | 5 | 887 | 4,456 |
2015 | 2,102 | 1,166 | 3,268 | 1,149 | 20 | 1,169 | 4,437 |
2016 | 1,947 | 1,016 | 2,963 | 1,460 | 31 | 1,491 | 4,454 |
2017 | 1,666 | 917 | 2,583 | 1,711 | 36 | 1,747 | 4,330 |
2018 | 1,588 | 824 | 2,412 | 1,965 | 37 | 2,002 | 4,414 |
2019 | 1,665 | 722 | 2,387 | 2,593 | コミックス コミック誌統合 | 2,593 | 4,980 |
2020 | 2,079 | 627 | 2,706 | 3,420 | コミックス コミック誌統合 | 3,420 | 6,126 |
前年比(%) | 124.9 | 86.8 | 113.4 | 131.9 | | 131.9 | 123.0 |
■コミックス・コミック誌の推定販売金額(単位:億円)
年 | コミックス | 前年比(%) | コミック誌 | 前年比(%) | コミックス コミック誌合計 | 前年比(%) | 出版総売上に 占めるコミックの シェア(%) |
1997 | 2,421 | ▲4.5% | 3,279 | ▲1.0% | 5,700 | ▲2.5% | 21.6% |
1998 | 2,473 | 2.1% | 3,207 | ▲2.2% | 5,680 | ▲0.4% | 22.3% |
1999 | 2,302 | ▲7.0% | 3,041 | ▲5.2% | 5,343 | ▲5.9% | 21.8% |
2000 | 2,372 | 3.0% | 2,861 | ▲5.9% | 5,233 | ▲2.1% | 21.8% |
2001 | 2,480 | 4.6% | 2,837 | ▲0.8% | 5,317 | 1.6% | 22.9% |
2002 | 2,482 | 0.1% | 2,748 | ▲3.1% | 5,230 | ▲1.6% | 22.6% |
2003 | 2,549 | 2.7% | 2,611 | ▲5.0% | 5,160 | ▲1.3% | 23.2% |
2004 | 2,498 | ▲2.0% | 2,549 | ▲2.4% | 5,047 | ▲2.2% | 22.5% |
2005 | 2,602 | 4.2% | 2,421 | ▲5.0% | 5,023 | ▲0.5% | 22.8% |
2006 | 2,533 | ▲2.7% | 2,277 | ▲5.9% | 4,810 | ▲4.2% | 22.4% |
2007 | 2,495 | ▲1.5% | 2,204 | ▲3.2% | 4,699 | ▲2.3% | 22.5% |
2008 | 2,372 | ▲4.9% | 2,111 | ▲4.2% | 4,483 | ▲4.6% | 22.2% |
2009 | 2,274 | ▲4.1% | 1,913 | ▲9.4% | 4,187 | ▲6.6% | 21.6% |
2010 | 2,315 | 1.8% | 1,776 | ▲7.2% | 4,091 | ▲2.3% | 21.8% |
2011 | 2,253 | ▲2.7% | 1,650 | ▲7.1% | 3,903 | ▲4.6% | 21.6% |
2012 | 2,202 | ▲2.3% | 1,564 | ▲5.2% | 3,766 | ▲3.5% | 21.6% |
2013 | 2,231 | 1.3% | 1,438 | ▲8.0% | 3,669 | ▲2.6% | 21.8% |
2014 | 2,256 | 1.1% | 1,313 | ▲8.7% | 3,569 | ▲2.7% | 22.2% |
2015 | 2,102 | ▲6.8% | 1,166 | ▲11.2% | 3,268 | ▲8.4% | 21.5% |
2016 | 1,947 | ▲7.4% | 1,016 | ▲12.9% | 2,963 | ▲9.3% | 20.1% |
2017 | 1,666 | ▲14.4% | 917 | ▲9.7% | 2,583 | ▲12.8% | 18.9% |
2018 | 1,588 | ▲4.7% | 824 | ▲10.1% | 2,412 | ▲6.6% | 18.7% |
2019 | 1,665 | 4.8% | 722 | ▲12.4% | 2,387 | ▲1.0% | 19.3% |
2020 | 2,079 | 24.9% | 627 | ▲13.2% | 2,706 | 13.4% | 22.1% |
20年のコミック全体の推定販売金額は6126億円、前年比23.0%増。その内訳は紙のコミックスが2706億円、同13.4%増、電子コミックスが3420億円、同31.9%増。
「コミックス・コミック誌推定販売金額推移」にはもれているが、そのピークは1995年の5864億円だったので、コミック市場全体では過去最大の販売金額となった。
しかも20年の出版物推定販売金額は1兆2236億円だから、その半分に及ぶ。コロナ禍と『鬼滅の刃』の超ベストセラー、電子コミック31.9%増という高い伸び率がトリプル相乗してのものであるにしても、この販売金額は突出している。これからの出版物の生産、流通、販売状況の行方では浮かび上がらせているように思われる。
1995年のコミック市場のピークは『週刊少年ジャンプ』600万部、『週刊少年マガジン』400万部台のコミック誌に支えられ、3357億円であったが、20年は627億円と5分の1になってしまった。それは発行部数も同様で、返品率に至っては43.2%と高止まりし、95年の18%の倍以上である。
したがって20年のコミック市場は『鬼滅の刃』に象徴されるコミックス、電子コミックスの大幅な伸びによって最大の販売金額を記録したことになる。
しかしその販売インフラの変化も視野に入れれば、書店、コンビニ、キオスクなどから電子ストアと移行していることが歴然で、さらに電子コミックも伸びていくだろう。
その過程で、電子コミックそのものが『鬼滅の刃』のような作品を生み出して行くかもれない。そうしたコミック市場を迎えた場合、出版社はともかく、コミックにおける取次や書店の流通販売はどうなっていくのだろうか。
2.講談社の決算が出された。
売上高は1449億6900万円、前年比6.7%増。デジタル版権分野を中心とする「事業収入」が、初めて紙媒体の売上を上回った。利益面では営業利益160億円、同79.8%増、経常利益163億円、同44.2%増、当期純利益108億7700万円、同50.4%増。
売上高内訳は「製品」635億900万円、同1.2%減、「広告収入」55億2200万円、同6.8%減、「事業収入」714億5700万円、同16.4%増となっている。
「広告収入は全体の6割近くがデジタル媒体広告。「事業収入」のうち、「デジタル関連収入」は544億円、同16.9%増、「国内版権収入」は82億円、同0.3%増、「海外版権収入」は88億円、同32.9%増。
講談社の決算にしても、『鬼滅の刃』の集英社ではないけれど、1のコミック市場において、電子コミックが紙の売上を上回ったこととコミックスの好調な動向が反映され、連動していよう。
講談社も電子コミックを中心とする電子書籍の伸長、コミック・書籍原作の映像化、ゲーム化、商品化のアジア・北米での積極的展開によって、収益構造が変わりつつあることを示している。
それはコミックを有する小学館や集英社も同様であろうし、1で書いているように、そのようなシフトが加速した場合、取次や書店の流通販売はどうなっていくのだろうか。
3.ここで続けて魚住昭『出版と権力』(講談社)にもふれておくべきだろう。
すでに過褒的な書評が『朝日新聞』(3/20)や『文化通信』(3/22)にも出始めているが、かつての佐野真一の『だれが本を殺すのか』(プレジテント社、2001年)のように、読まれかたによっては現在の出版危機を別の方向へとミスリードしていく懸念を孕んでいるからでもある。
『出版と権力』はサブタイトルの「講談社と野間家の一一〇年」に示されているように、講談社というよりも、野間清治に始まるオーナー一族の軌跡をたどり、そこに集った人々の群像ドラマとして読まれるべきだろう
しかもそれは講談社ウェブサイト『現代ビジネス』に連載されたものである。1959年の社史『講談社の歩んだ五十年』の編纂に際しての、秘蔵資料150巻を発見しての大河ノンフィクションと謳われている。
だが『出版と権力』は野間一族の物語として読まれるべきで、出版業界の「一一〇年」を描いているわけではない。それでも魚住の優れた着眼は創業者の野間清治の出版、株、土地が三位一体の投機のような特異なかたちで結実していったことに注視しているところであろう。
それと私は『日本出版百年史年表』と『日本近代文学大事典』を毎日のように使っているのだが、この二冊は戦後の講談社を含めて、野間省一の存在なくして成立しなかったと実感していることを付記しておく。
4.『日刊工業新聞』(2/26)にCCCによる「合併及び吸収分割公告」が出された。
蔦屋書店などの連結グループ会社20社を吸収合併し、権利・義務を承継し、解散させ、CCCに一本化する。
公告にはそのうちの14社の貸借対照表も示され、6社の債務超過が明らかになっている。
これはCCCによるADR=私的整理と見なすべきだろう。20世紀末にCCCは各地のFC本部を吸収合併していたはずで、その再現とも考えられる。
しかし当時はまだ出版物販売金額も2兆5000億円をキープし、CCCの複合大型店出店も活発になり、レンタルも全盛だった。まだアマゾンも上陸しておらず、電子コミックも開発されていないし、ネットフリックスなどの動画配信も始まっていなかった。おなじようなADRにしても、出版と書店状況がまったく異なっている。
文教堂やフタバ図書のADRにしても、前者は相変わらず経済誌で存続疑義とされているし、後者の場合も不透明のままである。
それは出店に際しての店舗契約だけにとどまらない複雑なサブリースが幾重にも張り巡らされ、清算や民事再生が困難になっているのではないだろうか。そうした事情は取次や銀行との関係も同じだと思われるし、戸田書店と楽天BNの清算の問題へともリンクしているのではないだろうか。
このCCCの合併及び吸収分割については、『FACTA』の細野祐二による専門的分析「会計スキャン」を期待したいところだ。
5.日販GHDの役員体制が発表された。
吉川英作代表取締役副社長が代表取締役社長、平川彰社長は取締役会長となる。
今回の役員体制によって、日販GHDが出版社や書店というよりも、明らかにCCC=TSUTAYAに寄り添うかたちで転回しているとわかる。
吉川社長、及び日販社長を兼ねる奥村景二専務取締役が、いずれもMPD社長であったことは象徴的だ。それに増田宗昭社外取締役がCCCや蔦屋社長などのCEOであることはいうまでもないだろう。
それから執行役員、日販アイ・ピー・エスの佐藤弘志社長、同、NICリテールズの近藤純哉副社長が元ブックオフであるという事実は、日販、CCC、ブックオフの関係がまだ深く続いていたことを浮かび上がらせている。
それに対して、出版社としては社外取締役としての講談社の野間省伸社長がいるだけだ。これらの従来の出版業界とは異なる日販GHDの役員体制は、4のCCCのグループの「合併及び吸収分割」と密接に連鎖していると考えられる。
日販も含めて、日販GHDもどこに向かいつつあるのだろうか。
6.トーハンは東部支社と中部支社を統合して、東日本支社、名古屋支社と近畿支社を統合して東海近畿支社、中国四国支社と九州支社社体制は4支社体制となる。
これらの理由として、マーケットイン型出版流通の実現のためとされている。だがやはり挙げられているように、2019年の書店主って99店に対して、閉店は650店に及び、1万店を割ろうとしている書店の減少が、支店の統合を促していることは歴然である。
1990年代の書店が2万店を超えていた当時、トーハンは支社の他に多くの支店を有し、それなり在庫も持ち、書店に対する転売と補充機能も果たしていたが、そのような視点の光景も消えていくのだろう。
実際に今回も大阪支店と神戸支店が統合され、大阪神戸支店となっている。
本クロニクル146で既述しておいたように、リストラ後の支社、支店はトーハン跡地と同じく、開発の対象にされていくのであろう。
それは日販も同様だと思われる。
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7.「地方・小出版流通センター通信」(3/15)が、M&J(丸善&ジュンク堂・戸田書店も含む)チェーンの楽天BN(旧大阪屋栗田)からの帳合変更によって、つぎのような返品と変化が生じるとしている。
これまで楽天経由の場合は当方を通していながらも、トーハンや日販と直接取引ある出版社の書籍につきましては、変更時までに楽天に原則返品されると予想されます。現在届いている返品予定額は本体価格で約800万円になります。各出版社さんにはご迷惑をおかけすることになります。申しわけありません。
いままで、楽天の出版分の80~90パーセントがM&Jチェーン分でした。今後、楽天の扱いは少額になるものと予想されます。取次の楽天は、ネット関係於仕入れを残し、リアル書店への流通は日販と協業する(委託する)と発表しています。今まで、M&Jチェーン分以外の「楽天扱い」であった書店の出荷は、いままで通り楽天扱いですが、物流は日販に移行ということになる模様です。そこから抜け落ちるものも一定程度あると思いますが、予想がつきづらいのが実情です。悩ましい限りです。このような大規模の取次変更と既存取次の規模縮小はかつてないことです。独占禁止法の問題はありますが、現状の出版売上では、公正取引委員会も追認するしかないように思います。
この楽天BNの返品に関しては、他の中小出版社からも懸念の声が挙がっている。
楽天BNは前身が大阪屋栗田であり、膨大な返品不能品を抱えているはずで、それらがこの機会に返品となって戻ってくるのではないかというものである。
本クロニクルでも、20年からの楽天BNの書店の大量閉店による返品のために、入金ゼロが続いている中小出版社の状況を伝えておいたが、さらなる返品に見舞われないことを願うばかりだ。
8.アルメディアが書店調査事業を中止したことで、『文化通信』などに掲載されてきた書店の出店、閉店などのデータ集計が追跡できなくなった。6の出店、閉店数もそれによっているのである。
『新文化』の元編集長だった加賀美幹夫雄がアルメディアを立ち上げたのは1990年代半ばであり、『ブックストア全ガイド』などの書店情報と調査事業、それに関連書の出版にも携わってきた。
彼も年齢のことばかりではなく、書店調査事業の中止を決定したのは出版業界の凋落の中で、そうした仕事に対しての採算が難しくなったことも、原因ではないだろうか。
JPO(日本出版インフラセンター)の共有書店マスタもあるけれども、本クロニクル146に示しているように、ずっとアルメディアのデータによってきたので、終了はとても残念である。そういえば加賀美とも20年ほど会っていない。お達者であろうか。
アルメディアの書店調査事業の終わりは『出版ニュース』の休刊を想起させる。それによって出版物実売金額、リアルタイムでの出版や図書館情報、海外出版ニュースなどが届かなくなって久しい。
いってみれば、出版業界がアルメディアや出版ニュース社のデータベース仕事を支えられなくなった事実を浮かび上がらせていることにもなろう。
9.『朝日新聞](3/7)の「朝日歌壇」に佐佐木幸綱編として、次の一首があった。
「書店から消えた海外ガイド本
空っぽの棚に表示残して」
(札幌市) はづきしおり
これはダイヤモンド・ビッグ社の「地球の歩き方」シリーズなどをさしているのだろう。
本クロニクル151で、同社の海外ガイドブック「地球の歩き方」を主とする出版が学研プラスに譲渡され、市中在庫はダイヤモンド社が返品を受けることを既述している。
それを受けて、書店が返品し、棚が空っぽになったことを詠んでいるのである。
だがこれは意外でもないけれど、ブックオフの一本棚にそのまま移されていたのを見たばかりだ。
返品はただちにブックオフに売られ、そのような棚となって再現されたことになる。もちろん「表示」はなかったけれども。
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10.コロナ禍の中で、図書館などの出版物へのインターネットによるアクセスや送信をめぐって、著作権法の一部改正案が閣議決定された。
この問題に関して、日本出版著作権協会代表理事、緑風出版の高須次郎が「著作権法の一部改正案に反対する声明」を出している。
同じく日本ペンクラブでも、文化審議会著作権分科会法制度小委員会「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタルネットワーク対応)に関する中間まとめ」について、「図書館デジタル送信についての日本ペンクラブの基本的な考え方」を発表している。
本クロニクルは基本的に高須の「声明」を支持するポジションにある。
それに何よりも、高須がいうように、「出版関係者が審議会委員にいない」し、「論議の公正さに疑義がある」からだ。
この問題に関しては取り上げなければならないと思っていたので、これを機会として高須と連携し、本クロニクルでも追跡していくつもりだ。
11.ユニクロが村上春樹とのコラボレーションによって、T シャツを発売。
『ノルウェーの森』や『海辺のカフカ』などの8種類。
『村上T』(マガジンハウス)やDJ「村上RADIO」に連なる企画であろう。
私見によれば、インターナショナルな郊外消費社会をベースとして、ずっとユニクロと村上は通底していると思っていたけれど、これらのTシャツ企画だけでなく、近年さらにその関係は顕著になってきている。
21年開館予定の早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)はユニクロの柳井創業者の寄付金によるものだし、ユニクロの『LifeWear magazine』は「Hello, Haruki」というタイトルで、インタビューを掲載している。
ユニクロの村上Tシャツはベストセラーとなるだろうか。
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12.『キネマ旬報』(3/下)が「映画本大賞2020」を発表している。ベスト3だけを挙げておく。
野村芳太郎著、小林淳他編『映画の匠 野村芳太郎』(ワイズ出版)、秋吉久美子、樋口尚文『キネマ旬報』『秋吉久美子調書』(筑摩書房)、大林宣彦『A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る』(立東舎)。
今年はベスト10のうちの一冊も読んでいなかったし、そのうちの半分は刊行も知らずにいて、本クロニクル153のコミックの「BEST10」と同様に、不明を恥じるばかりだ。
それでもベスト10のデイヴィッド・リンチ他『夢見る部屋』(山形浩生訳、フィルムアート社)の刊行を教えられたので、早速読むことにしよう。
それに続いて、『キネ旬』同号にケネス・アンガー『マジック・ランタン・サイクル』HDリマスター版の発売に際し、後藤護、工藤遙対談の「ケネス・アンガー・ライジング」が掲載され、リンチの『マルホランド・ドライブ』の関係も語られているからだ。それ以上に『ブルー・ベルベッド』はアンガーからの引用と影響を示して余りあると断言できよう。
13.ペトル・シュクラバーネク『健康禍』(大脇幸志郎訳、生活の医療社)を読了。
サブタイトルは「人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭」。
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図書館の新刊棚に置かれていて、著者、訳者、出版社も始めて目にする一冊であった。
イヴァン・イリッチの『脱病院化社会』(金子嗣郎訳、晶文社)と同様に、すべてを肯うつもりはないけれど、コロナ禍の中にあって、またポストコロナ禍状況を考える上で、読まれるべき本であろう。
紹介や書評を見ていないので、ここでふれてみた。
14.伊藤清彦、内野安彦『本屋と図書館の間にあるもの』(郵研社)が刊行された。
本クロニクル142で、『盛岡さわや書店奮戦記』の伊藤の急逝を既述しておいたが、追悼本のようなかたちで、この対談集が刊行されたことになろう。タイトルも彼にふさわしい。
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15.『スペクテイター』の赤田祐一から『サン出版社史since1972』を恵投された。
思いがけない社史で、すばらしい一冊ゆえに、1970年代からのもう一つの出版史が想起された。かつて前田俊夫『血の罠』(全6巻、ジョイ・コミックス)を読んでいたことも。
それにここには前回の野田開作が「作家・当年100歳・鎌倉在住」として登場しているのだ。島田雅彦「散歩者は孤独ではない」は、「創作」ではなく、まさに「実話」だったことになる。
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16.論創社HP「本を読む」〈62〉は「神谷光信『評伝 鷲巣繁男]』です。
『出版状況クロニクルⅥ』は4月刊行予定。
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