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【自治会、宗教、地方史】No. 38 第二部12  文化と宗教と開発の三位一体?

文化と宗教と開発の三位一体?

小田 : 『市誌』の刊行は昭和29年で、T王寺とT應寺が同じだと誰も思わなかったし、まして地区の薬師如来像が『市誌』にある「古文化財」だと誰も認識していなかった。それが20年後に市の指定文化財として申請されたわけで、本当に冗談もいい加減にしてほしいというのが正直な気持ちだ。

 申請したJ寺の先代も先代だが、それを認可した市や教育員会にしても、無知につける薬はないし、夜郎自大な行為だとしか思えない。私も歴史家の端くれなので、まずは歴史的な事実から検証してみる

 『市誌』の「市内の古文化財(藤原時代)」は平安時代の794年の中期から12世紀末にかけてをさしている。ここに挙げられているのはその時代の「古文化財」で、T王寺と薬師如来像もそこに位置していることになる。

 ところが、『郡誌』によれば、自治会のほうのT應寺=T応寺の創立は1600年、安土桃山時代の慶長5年。ちなみにJ寺は1580年、天正8年。そうした歴史的事実から見ても、T王寺とT應寺=T応寺が同じはずがない。

A : 当然だね。少なく見積っても、タイムラグが4世紀もあるわけだから。それは薬師如来像にしてもしかりだし、子どもでもわかる事実だ。

 それにT王寺の薬師如来像が何らかの遍歴を経て、T応寺へ伝わったにしても、その4世紀のタイムラグは長すぎて、最初から信じられないというのが実際のところだろう。

小田 : そうでしょう。それが当たり前の反応だと思う。それなのに何の疑問もなく、スムーズに認可されてしまった。

 情報公開によって明らかにされたのは『市誌』上巻「202頁」がその根拠だということだけだ。本来であれば「203頁」の「市内の古文化財」であるはずなのに、それすらも間違っているし、石田茂作は鑑定などしていないと思われる。[編注:下記記事参照]
odamitsuo.hatenablog.com

  だから、202、203頁も含んだ「平安時代に於ける美術」を読めば、そうした根拠にもなっていないし、誤読と曲解によることは明白だ。

A : 確かに文化財専門審議委員のリテラシーと見識を疑ってしまう。ところでその委員会の議事録はなかったのかしら。

小田 : なかったし、「別記の答申」として、「[旧T應寺本尊]薬師如来像 一本造[四尺三寸]所有管理者J寺」に対する次のような手書きの「推薦理由」が挙がっているので、それを引いておきます。

 「平安後期の作」と推定されているが、後世の補修により、原形を損じている。
 当地方としては、数少ない藤原仏の1体であり、文化財として貴重なものである。
[昭和26年石田茂作博士 調査:市誌p202]

 先に202頁の半分ほどを引用しておきましたが、このような「推薦理由」はどこにも記されていないのです。
 それに加えて、やはり手書きで、「寺伝によれば、定朝法師の真作と伝えられる。天正年間[編注:1573‐1592年]に眼病が流行した時、病気の平癒祈願をしたところ、大変ご利益もあり、家康も信仰され」とも書かれている。

 この「寺伝」も真偽は疑わしい。定朝は仏師であっても「法師」=僧侶ではないし、1057年=永承12年に死去している。T王寺の創立は慶長5年=1600年だ。ここでもタイムラグが6世紀も生じているのに、まったく脈絡もなく、説明も欠けた記述に他ならない。

 それから「推薦理由」の「藤原仏の1体」「後世の補修」などの文言は210、211頁の西光寺薬師如来に関しての記述を抽出アレンジしたもので、これらの手書き文字はすべて先代によるものだと思われる。つまり自作自演の指定文化財申請だと断言していいでしょう。

A : ということはすべてでっち上げということになるのかな。

小田 : そのように判断していいと思う。先代は市議会議長にも就き、政教一致を体現する存在として、また当時の南部地区開発の実力者として、自分のいうことであれば、何でもフリーパスで通ってしまうと思うまでになっていたのでしょう。

 それに私欲も絡み、さらには県会議員への立候補の野心も生じていただろうし、定朝の薬師如来像で箔もつけたいし、それを通じて土地も建物もJ寺のものにしたいと考えたのではないか。そうした私欲と野心の表われが、昭和49年の御開帳をともなうO寺の大修理と改装、50年の薬師如来の指定文化財化、58年の薬師堂登記へとつながっていった。それに連鎖するのは南部地区の土地開発で、これもまた薬師堂化と密接にリンクしている。

 だから先代の自治会における政教一致というポジション、O寺の薬師堂化と薬師如来の指定文化財化、南部地区の土地開発は三位一体のような関係で進められたと見なせる。

 でもこのことに言及する前に、あなたのほうでもいいたいことがあるんじゃないかな。