出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2018-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話829 『新潮社七十年』と山内義雄訳『モンテ・クリスト伯』

河盛好蔵は『新潮社七十年』において、創業者の佐藤義亮の企画編集による『世界文学全集』の成功が、大出版社としての基礎を固めたと述べている。これは昭和二年から七年にかけての第一期全三十八巻、第二期全十九巻に及ぶ六年間にわたる出版であった。この…

古本夜話828 山田珠樹『フランス文学覚書』とユイスマン

ずっと辰野隆にふれたからには、その盟友である山田珠樹を取り上げないわけにはいかないだろう。山田と結婚し、同じくフランス文学者の山田[ジャク]をもうけた森茉莉の証言によれば、二人の関係はホモソーシャルな秘密結社のようだったとされる。 しかも山…

出版状況クロニクル125(2018年9月1日~9月30日)

18年8月の書籍雑誌推定販売金額は926億円で、前年比5.2%減。 書籍は480億円で、同3.3%増。雑誌は446億円で、同12.8%減。 雑誌の内訳は月刊誌が364億円で、同13.1%減、週刊誌は82億円で、同11.7%減。 返品率は書籍が40.2%、雑誌が45.1%で、月刊誌は45.7%、週…

古本夜話827 豊島与志雄訳『レ・ミゼラブル』と新潮社『世界文学全集』

辰野隆は『仏蘭西文学』の中で、フランス文学の重要な訳業として、豊島与志雄によるヴィクトル・ユゴー『レ・ミゼラブル』を挙げているが、これがフランス語原書からの初めての大長編小説の翻訳だったからである。 まず『レ・ミゼラブル』は大正七年から八年…

古本夜話826 ゴンクウル『ジェルミニィ・ラセルトゥウ』

前回ふれたように、戦後を迎えての『ゴンクウルの日記』の翻訳刊行に伴い、ゴンクウル・ルネサンスというほどではないにしても、小説の『ジェルミニイ・ラセルトゥ』と『娼婦エリザ』が様々な版元から出されるに至った。前者は同タイトルで前田晃訳、平凡社…

古本夜話825 大西克和訳『ゴンクウルの日記』と鎌倉文庫

辰野隆は『仏蘭西文学』の中で、『ルナアル日記』とともに、『ゴンクウルの日記』を挙げ、フランス近代文学における「骨の髄まで文学者であつた人間のドキュマンとして、罕に見る宝庫」だと述べている。 (『ゴンクウルの日記』) だが『ルナアル日記』と異…

古本夜話824 青山出版社と岸田国士『生活と文化』

前回や本連載786の岸田国士『生活と文化』も出てきたので、これも取り上げておきたい。それは昭和十六年十二月に青山出版社から刊行されていること、また内容は先の『力としての文化』と重なり、大政翼賛会と文化の新体制に関する文章から構成されている…

古本夜話823 岸田国士訳『ルナアル日記』と『にんじん』

これまで昭和十年代におけるフランス文学翻訳ブームといったトレンドにふれてきたが、その中の一人がルナアルでもあった。それは本連載808のブールジェほどではないにしても、私たち戦後世代にとっては馴染みが薄い。『にんじん』の作者であることは承知…

古本夜話822 秦豊吉『伯林・東京』と岡倉書房

本連載819のピチグリリ『貞操帯』に序を寄せた丸木砂土が本名の秦豊吉で、昭和八年に岡倉書房から『伯林・東京』というエッセイ集を出している。冒頭にはまず「秦生」名による「小序」が置かれ、それは丸木名による艶笑随筆的なものとまったく異なる秦の…

古本夜話821 谷口武訳『現代仏蘭西二十八人集』とコント

前回のカルコの『モンマルトル・カルティエラタン』において、これを映画とすれば、カルコ主演で、共演が詩人でコント作家のピエール・マコルランだと既述しておいた。この「コント」に関して教えられたのは、柳沢孝子の「コントというジャンル」(『文学』…

古本夜話820 永田逸郎、フランシス・カルコ『モンマルトル・カルティエラタン』、春秋書房

昭和十年前後のフランス文学翻訳ブームは、これまで取り上げてきた全集に値する文学者たちばかりでなく、マイナーポエットにまで及んでいる。それは前回のピチグリリではないけれど、その典型を昭和八年に刊行されたフランシス・カルコの『モンマルトル・カ…

古本夜話819 ピチグリリ『貞操帯』と和田顕太郎

もう一冊、建設社の単行本を取り上げておく。それは前々回、書名を挙げなかったけれど、ピチグリリ作、和田顕太郎訳『貞操帯』である。これは昭和六年の刊行なので、建設社の創業の翌年の出版物に位置づけられる。 和田顕太郎は本連載791の『バルザック全…

古本夜話818 原久一郎訳『大トルストイ全集』と中央公論社

前回の建設社、及び河出書房や白水社のフランス文学全集類と競うように、昭和十一年から十四年にかけて、中央公論社から『大トルストイ全集』全二十二巻が刊行されている。しかもこれは原久一郎の個人訳によるもので、入手しているのは昭和十四年五月の第二…

出版状況クロニクル124(2018年8月1日~8月31日)

18年7月の書籍雑誌推定販売金額は919億円で、前年比3.4%減。 書籍は439億円で、同6.0%減。雑誌は480億円で、同0.8%減。 雑誌の内訳は月刊誌が384億円で、同0.6%増、週刊誌は96億円で、同6.2%減。 月刊誌が前年を上回ったのは16年12月期以来のことだが、それ…

古本夜話817 建設社と『ジイド全集』

前回、昭和十年代に入って招来した、第一書房と白水社を中心とするジイドの時代にふれたが、両社に先駆け、いずれも昭和九年に『ジイド全集』が建設社と金星堂から刊行されている。金星堂版は後述するつもりなので、ここでは建設社版を取り上げておきたい。…

古本夜話816 ジイドの時代と『ソヴエト旅行記』

やはり白水社のアンドレ・ジイドの『贋金つくり』(山内義雄訳)を入手している。これは昭和十年二月初版発行、十四年八月十三版と奥付に示され、順調に版を重ねているとわかる。『白水社80年のあゆみ』を繰ってみると、前々回も記述しておいたように、昭和…

古本夜話815 ポオル・モオラン『レヰスとイレエン』と伏字

前回の堀口大學訳『ドルヂェル伯の舞踏会』の「同じ訳者によりて」一覧に示したように、ポオル・モオランの『夜ひらく』『夜とざす』『恋の欧羅巴』の三冊は挙げられていたけれど、私が浜松の時代舎で入手している『レヰスとイレソン』の記載はなかった。こ…

古本夜話814 ラディゲ『ドルヂェル伯の舞踏会』と堀口大学

前回、長谷川郁夫の『堀口大學』における堀口、長谷川巳之吉の第一書房と東京、京都帝大仏文科の対立にふれたが、出版社の場合、そのような構図はあったにしても、フランス文学翻訳者は限られているし、売れる企画は耐えず追求されなければならない。 前々回…

古本夜話813 ヴァレリイ、堀口大学訳『文学論』と斎藤書店

前々回、堀口大学と第一書房によるポール・ヴァレリイの翻訳『詩論・文学』と『文学雑考』を挙げておいたが、これは戦後の昭和二十一年四月に斎藤書店から、合本『文学論』として復刻されている。第一書房の二冊は所持していないけれど、こちらは手元にある…

古本夜話812 河盛好蔵と白水社『キュリー夫人伝』

河盛好蔵の『河岸の古本屋』(毎日新聞社)所収の「著者略年譜」によれば、前回のヴァレリー『詩学叙説』の他に、昭和十三年にはジイド『コンゴ紀行』とエーヴ・キュリー『キュリー夫人伝』 を翻訳刊行している。後者は川口篤、杉捷夫、本田喜代治との共訳で…

古本夜話811 ヴァレリー『詩学序説』と河盛好蔵

前回の林達夫『文芸復興』の戦前版が巻末広告に掲載されている一冊を入手している。それは昭和十三年に小山書店から刊行されたポール・ヴァレリーの河盛好蔵訳『詩学叙説』で、菊判一一四ページ、函入の堅牢にして瀟洒な本といっていいだろう。巻末広告には…

古本夜話810 フランス『舞姫タイス』と林達夫『文芸復興』

前回の全集の中にもあったアナトール・フランスの『舞姫タイス』は次のような物語である。 (『舞姫タイス』、白水社) この長編小説は四世紀のアレクサンドリアが栄えた時代を背景としている。原始キリスト教の苦行僧たちの若き指導者パフニュスは世俗生活…

古本夜話809 『アナトオル・フランス長篇小説全集』と『小さなピエール』

やはり昭和十年代後半に白水社から、『アナトオル・フランス長篇小説全集』が刊行されている。これは昭和十四年からの、同じく『アナトオル・フランス短篇小説全集』が全七巻の完結に続く企画で、全十七巻予定だったが、十冊が出されただけで中絶し、全巻の…

古本夜話808 太宰施門『ブゥルジェ前後』と髙桐書院

本連載799の辰野隆『仏蘭西文学』と同様に、太宰施門の『ブゥルジェ前後』も、戦前からの企画が戦後になって実際に刊行に至ったと考えられる。「序」の日付は昭和二十一年三月、発行は八月で、版元は発行者を馬場新二とする髙桐書院、住所は京都市中京区…

古本夜話807 金尾文淵堂と徳富健次郎・愛『日本から日本へ』

吉江孤雁や国木田独歩の著書を出した如山堂や隆文館が、金尾文淵堂や文録堂と並んで、春陽堂以後の「美本組」だったという小川菊松の『出版興亡五十年』の証言を、本連載801で紹介しておいた。私は小川菊松のいうところの「美本組」出版社にはあまり関心…

出版状況クロニクル123(2018年7月1日~7月31日)

18年6月の書籍雑誌推定販売金額は1029億円で、前年比6.7%減。 書籍は530億円で、同2.1%減。雑誌は499億円で、同11.2%減。 雑誌の内訳は月刊誌が406億円で、同11.5%減、週刊誌は92億円で、同9.6%減。 返品率は書籍が41.4%、雑誌が44.5%。 6月の大阪北部地震に…

古本夜話806 田山花袋『花紅葉』と大盛堂書店

続けて国木田独歩とその周辺にふれてきたが、新潮社の『二十八人集』や改造社の『国木田独歩全集』の編纂者として、田山花袋の功労を見逃すわけにはいかないだろう。本連載77などや262などでも田山に言及しているけれども、独歩と同様に花袋もまた、柳…

古本夜話805 小杉未醒『漫画一年』と独歩

これは本連載801の吉江孤雁『緑雲』や同803の国木田独歩『欺かざるの記』後篇を入手する半年ほど前のことだが、やはり浜松の時代舎で小杉未醒の『漫画一年』を購入している。これは明治四十年に編纂兼発行者を戸田直秀とし発行所を佐久良書房として刊…

古本夜話804 博文館『縮刷独歩全集』と改造社『国木田独歩全集』

国木田独歩の全集は、前回の『欺かざるの記』後篇刊行の翌年の明治四十三年に博文館から『独歩全集』前・後篇が出され、昭和五年には円本として改造社から全八巻の『国木田独歩全集』が刊行されている。これは幸いにしてというべきか、博文館版は大正時代の…

古本夜話803 国木田独歩『欺かざるの記』後篇と隆文館

実は前々回の吉江孤雁『緑雲』と一緒に、浜松の時代舎から購入してきた一冊があり、それは国木田独歩の『欺かざるの記』後篇である。これも続けて書いておくしかない。 (『緑雲』) この『欺かざるの記』は本連載156で、前篇を刊行した佐久良書房にふれ…