19年8月の書籍雑誌推定販売金額は850億円で、前年比8.2%減。
書籍は414億円で、同13.6%減。
雑誌は435億円で、同2.4%減。その内訳は月刊誌が359億円で、同1.2%減、週刊誌は75億円で、同7.5%減。
書籍の大幅減は7月に大物新刊が集中したこと、前年同月が3.3%増と伸びていたことによっている。
返品率は書籍が41.6%、雑誌は43.3%で、月刊誌も43.3%、週刊誌は43.4%。
トリプルで40%を超える高返品率となった。
いよいよ10月からは消費税が10%となる。この増税は出版業界にどのような影響を与えることになるだろうか。
1.8月の書店閉店状況は76店で、6月が57店、7月が33店だったことに比べ、増加している。
9月以降はどうなるのか、書店市場は予断を許さない事態を迎えているはずだ。
やはりチェーン店の閉店が続いているので、それらを挙げてみる。
TSUTAYA5店、未来屋5店、フタバ図書3店、文教堂、戸田書店、くまざわ書店、とらのあなが各2店である。ちなみに閉店合計坪数はTSUTAYA 1460坪、フタバ図書 1530坪、文教堂 350坪。
この3店を抽出したのは本クロニクルなどで、TSUTAYAの18年から続く大量閉店、フタバ図書の長きにわたる粉飾決算、文教堂の債務超過と「事業再生ADR手続き」などに関して、ずっと言及してきたからだ。
しかも文教堂の場合、このタイムリミットは9月末であり、どのような結末となるのだろうか。経済誌などでも、その後の推移はレポートされていない。
月末になって、文教堂の再生計画が報道され始めている。また文教堂は「事業再生ADR手続の成立及び債務の株式化等の金融支援に関するお知らせ」、日販は「株式会社文教堂グループホールディングス事業再生計画における当社の支援について」というニュースリリースを出している。これらは10月に言及することにする。
2.8月の書店閉店状況において、突出しているのは日本雑誌販売を取次とする24の小さな書店がリストアップされていることだろう。
これは本クロニクル134で既述しておいた日本雑誌販売の債務整理と、それに続く自己破産を受けての閉店に他ならない。そのことに関して、多くのアダルト誌を扱う「小取次の破綻だが、その波紋は小さなものではないように思われる」と記したばかりだが、所謂 街のエロ雑誌屋を壊滅状態へと追いやっていく状況が浮かび上がってくる。
折しもこの9月からセブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートが「成人向け雑誌」の販売を中止した。それに合わせるかのいうに、『ソフト・オン・デマンド』10月号が「コンビニエロ本・イズ・デッド」と銘打ち、最終号となっている。
エロ雑誌の終わりは前々回の安田理央『日本エロ本全史』においても伝えたが、まさに取次や販売市場も終わりを迎えようとしている。
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3.丸善丸の内本店と日本橋店が日販からトーハンへ帳合変更。
本クロニクル131などでふれてきた、日販の10月1日付での持株会社移行に伴う取次事業としての新子会社日本出版販売の発足とほとんどパラレルであるから、連関していると考えざるをえない。2店の売り上げは60億円に及んでいるので、日販にとっては痛みを伴うであろう。
それに1に挙げた3社の書店の問題も大きく影響していることは想像に難くない。それこそ、はたして落としどころはあるのだろうか。
いずれにせよ、丸善の帳合変更、3社の書店問題を抱えて、日販の持株会社体制への移行は最初から波乱含みということになろう。
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4.9月27日に日本橋の複合商業施設「コレド室町テラス」に「誠品生活日本橋」がオープン。
これは本クロニクル132でふれておいたように、台湾の人気複合書店の日本初出店で、有隣堂がライセンス契約を得て運営する。
坪数は877坪で、取次は日販。当然のことながら、この「誠品生活日本橋」の出店も丸善のトーハンへの帳合変更の理由のひとつに挙げられるであろう。しかし有隣堂も書店経営というよりも、「誠品生活」を中心とするサブリース・デベロッパーで、年商7億円をめざすとされている。
このような複合書店は「誠品生活」だけでなく、カナダの「インディゴ」もアメリカに初進出している。同社はカナダ最大の書籍チェーンだが、ブックストアではなく、「カルチュラル・デパートメントストア」として、書籍だけでなく、ホームファッション、衣料、雑貨などを揃えるフォーマットである。
おそらく10月以後の出版業界の話題は「誠品生活」一色になるだろうし、いずれ「インディゴ」の日本進出もありうるかもしれない。その際にはもちろん取次はトーハンとなろう。
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5.大垣書店の今期決算見通り売上高は119億9000万円、前年比6%増で、過去の最高額を更新。直営店35店、提携店2店で、既存店だけでも2%増。
部門別では「Book」前年比4%増、「CD・DVD」同7%減、「文具」同6%増、「カフェ」同36%増、「カードBox」同18%増。
これも本クロニクル132で取り上げておいたように、大垣書店は京都経済センターの「SUINA室町」に京都本店をオープンしている。それは大垣書店が1階全フロア700坪を借り上げ、そのうちの350坪を書籍、雑誌、文具、雑貨売場とし、残りの350坪は大垣書店のサブリースによる8社の飲食店、カフェなど104店が出店している。
いうなれば、4の有隣堂と同じデベロッパーを兼ねるポジションの出店で、それが部門別売上にもリンクしているのだろう。しかし利益面に関しては公表されていないし、来期売上高目標は121億円となっているので、やはりデベロッパーも難しいことを告げているように思われる。
6.集英社の決算は売上高1333億円で、前年比14.5%増。当期純利益も前年の4倍強の98億7700万円。
その内訳は「雑誌」が513億円、同2.3%増、「書籍」が123億円、同3.9%増、「広告」96億円、同3.7%増、デジタル、版権、物販などの「その他」は599億円、同30.0%増。
前期売上高は1164億円で、「その他」は461億円だったので、今期の決算の好業績はデジタル、版権、物販などの「その他」の138億円の増加に多くを負っていることはいうまでもないだろう。
「雑誌」も内訳を見てみると、コミックスの映像化によるヒット、『ONE PIECE』の単行本が前年より1巻多いことに支えられ、「書籍」にしても、書籍扱いの『SLAM DUNK』新装再編版全20巻の寄与によるものである。
つまり定期雑誌や書籍が回復したわけではなく、コミックスのフロック的寄与が大きい。したがって来期も続くとは限らない。結局のところ、集英社の場合も「その他」収入がどれだけ伸ばせるかということに尽きるだろう。
7.光文社の決算は売上高203億円、前年比6.5%減の3年連続の減収で、経常損失7億6500万円。だが保有していた光文社ビルを売却したことにより、当期純利益は36億2400万円と黒字決算。
やはりその内訳を見てみると、「販売」96億7500万円、前年比9.7%減で、そのうちの雑誌66億1500万円、同7.3%減、書籍が30億6000万円、同14.6%減となっている。
月刊誌『VERY』『STORY』も振るわず、光文社文庫や光文社新書も前年を下回り、返品率は雑誌が48.5%、書籍は40.2%と高止まりしたままだ。
本クロニクル129で、光文社古典新訳文庫の誕生秘話としての駒井稔『いま、息をしている言葉で。』(而立書房)を推奨したこともあり、同文庫がリストラの対象とならないことを祈るばかりだ。
8.メディア・コンテンツを展開するイードはポプラ社と資本業務提携し、第三者割当による25万株の自己株式の処分を行う。
両者の業務提携の内容は、既存事業のノウハウの共有、相互連携強化などによる事業の拡大と深耕、ポプラ社の有する多数のコンテンツとイードのデジタルマーケッティング力を融合させた新規事業の創出である。
具体的にいえば、イードが第三者割当により2億円を超える資金を投入し、ポプラ社の大株主になることだ。またイードは富士山マガジンサービスとも業務提携している。
出版社のM&Aは公表されているケースとそうでないケースが多く生じているけれど、やはりM&Aされた場合、既存の出版路線を貫くことは難しく、在庫の問題も含め、否応なく転換が迫られているようだ。
【付記】10月1日
その後、消息筋からの情報によれば、ポプラ社がイードの株を引き受けたとのことで、イードがポプラ社の大株主になったのではないようだとの指摘もなされている。
9.『人文会ニュース』(No132)で知ったが未来社が人文会から退会し、誠信書房も2年連続の休会となっている。
人文会は創立50周年を迎えていることからすれば、1960年代末に創立されている。
そういえば、かつて人文書取次の鈴木書店の店売には、人文会会員社の書籍が揃って常備として置かれていた光景を思い出す。それももはや20年前のものになってしまった。
まさに人文会の「オリジナルメンバー」に他ならない未来社の退会も、人文会の設立、鈴木書店の倒産と同様に、出版業界の変容を象徴しているのだろう。
10.『岩田書院図書目録』(2019~2000)が届いた。
巻末に「新刊ニュースの裏だより2018・7~2019・4」がまとめて収録されている。
久しぶりに「裏だより」を読み、歴史書の岩田書院のこの10カ月の動向と内部事情を教えられる。岩田書院も創立25周年を迎えているのだ。その中から興味深い記述を拾えば、4回にわたる「在庫半減計画」が挙げられる。これは直接読んでもらったほうがいいだろう。
また一人だけの「新たな出版社」として、歴史、民俗、国文系の3社が紹介されていた。
「「小さ子社」は思文閣出版にいた原さん、「七月社」は森話社にいた西村さん、「文学通信」は笠間書院にいた岡田さん」で、私もここで初めて知ったといっていい。
それは次のように続いている。
「私が岩田書院を作った時(25年前)は、景気こそ良くなかったけど、今に比べると、まだ本が売れていた時代。でもこれからやる人はたいへんだ。10年先、この業界がどうなっているかも、見えないし。」
この続きもあるが、これも直接読まれたい。
11.日本ABC協会の新聞発行社レポートによる、2019年上半期(1月~6月)の平均部数(販売部数)が出されたので、全国紙5紙のデータを挙げてみる。
新聞社 | 2019年上半期 | 前年同期比 | 増減率(%) |
朝日新聞 | 5,579,398 | ▲374,938 | ▲6.3 |
毎日新聞 | 2,435,647 | ▲388,678 | ▲13.8 |
読売新聞 | 8,099,445 | ▲413,229 | ▲4.9 |
産経新聞 | 1,387,011 | ▲115,009 | ▲7.7 |
日経新聞 | 2,333,087 | ▲102,886 | ▲4.2 |
合計 | 19,834,588 | ▲1,394,740 | ー |
全国紙5紙の合計マイナスは139万4740部で、『毎日新聞』は約39万部減で、ついに250万部を割り込んでしまった。新聞配達の人に聞いても、地方紙はともかく、近年の全国紙の落ち込みは激しということだ。朝日新聞の500万部割れも近づいていよう。
本クロニクルで繰り返し書いてきたように、毎日の新聞に掲載される雑誌や書籍広告が書店へと誘うチラシであり、それによって出版物販売と購入が促進されてきたのである。
しかしこのような新聞の落ち込みは、その効果がもはや衰退しつつあることを示しているし、まして新聞書評に至ってはいうまでもないことだろう。
12.またしても訃報が届いた。
それは木村彦次郎で、講談社の『群像』や『小説現代』の編集長を務め、退社後『文壇栄華物語』(筑摩書房)などを著わしている。
大村からは5月に手紙が届き、下咽頭癌で入院すると知らされていた。それから便りがなかったので、その後どうしているのかと気になっていたところに、訃報がもたらされたのだった。
彼からは何度も「浅酌」に誘われていたが、なかなか時間がとれず、またしても呑まずじまいに終わってしまった。
大村の死で、宮田昇に続き、私のいう出版界の四翁のうちの二翁が失われ、これまた講談社の原田裕、白川充の三トリオも鬼籍に入ってしまったことになる。
13.こちらも死者をめぐってだが、追悼本『漫画原作者 狩撫麻礼1979-2018』(双葉社)が出された。
狩撫麻礼に関しては本クロニクル135でもふれたばかりだが、このような追悼本が刊行されるとは予想だにしていなかった。しかもそれは双葉社・小学館・KADOKAWA・日本文芸社による狩撫麻礼を偲ぶ会・編である。
確かに1960年代から70年代にかけて、「漫画原作者」の時代があり、狩撫がその系譜上に位置する最後の「漫画原作者」だったことをあらためて認識させられる。
それも含め、現代マンガ史のための必読の一冊として推奨しよう。
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14.『古本屋散策』に続き、10月半ばに『近代出版史探索』(論創社)が刊行される。
やはり200編収録だが、こちらは長編連作で、前著を上回る770ページの大冊となる。
今月の論創社HP「本を読む」㊹は「平井呈一『真夜中の檻』と中島河太郎」です。