出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル30(2010年10月1日〜10月31日)

出版状況クロニクル30(2010年10月1日〜10月31日)


今年は例年になく、各地に出かける機会が多かった。そして今さらながらに、21世紀に入っての巨大な郊外ショッピングセンターの出現によって、ただでさえ衰退していた地方の商店街が壊滅的な打撃を受け、ところによっては廃墟寸前にまで追いやられている姿を目撃した。

寺山修司「書を捨てよ、町へ出よう」と言ったのは1960年代後半だった。それから半世紀近くが過ぎ、もはや捨てるべき書もなければ、出るべき町もなくなってしまった。

郊外消費社会の悲惨な状況を描いた奥田英朗『無理』文芸春秋)に、「こういう競争をして、いったい誰がしあわせになるのよ。わけがわかんねえ」というセリフがあった。本に限って言っても、郊外ショッピングセンターの出現によって、読者も書店員も幸せになったものがいるだろうか。


1.その訪れた地方のひとつに、東北があった。

第62回書店東北ブロック大会が7月15、16日に開催され、現在の取引制度・慣行に対する声明が出された。

大手新聞や業界紙などでは伝えられていなかったが、『全国書店新聞』(8/1)だけが掲載し、その後『出版ニュース』(9/下)が各種レポートに紛れこませるようなかたちで、「書店の現況を端的にしめす声明」として、転載している。

こちらも遅ればせになってしまったが、現在の出版業界と書店の問題の核心をついているので、重要な部分を要約してみる。


*東北ブロックの書店数は現在411店で、10年間で半減している。個性豊かな様々な大小の書店が地域に数多く根づくことが文化国家の理想の姿であるのに、現実は逆の流れをたどっている。

*その原因は薄利な商売であると同時に、現行の出版社及び取次との取引制度・慣行、営業の問題に起因するので、早急な改革が必要である。

*新刊委託品については取次からの見計らい送品を止めるべきで、出版社が事前に十分な商品情報を提供し、書店の仕入れは原則的に「予約注文制」とする。それに従い、出版社は正味を書店側の条件に応える。それが「責任販売制」のカギである。

*取次と書店間の委託制は書店が送品額を全額先払いにするシステムで、返品未入帖処理の問題と絡み、実質的に書店に対して二重払いを強いているし、デフレ不況下の経営破綻の原因となっている。

*一般小売商の販売価格政策は商品の「交叉比率」200以上を基準としているが、書店の交叉比率は105から115で、返品が認められているにしても余りに低く、これが書店が苦しんでいる「低い生産性」の元凶である。出版社は再販制下で定価設定権を持ち、実質的に書店の仕入れ正味価格をも拘束しているのだから、価格設定の際に書店の交叉比率200を念頭に入れて決めてほしい。

[きわめて切実にして正当な要求だと思う。書店からこれほどまでに具体的ではっきりとまとまった声明が出されたことは、これまでなかったのではないだろうか。地方の書店もそこまで追いつめられていることの証明であり、大手出版社はどうしてこのような切実な書店の声に対して、応えようとしないのだろうか。

マスコミも業界紙も、出版業界の問題の核心、もしくは真摯にして改革の急を要する声明に対して、どうして真剣に報道しないのだろうか。おそらくこの書店からの声明を取り上げると、たちまち再販制の問題に突き当たってしまうので、ふれようとしないのだ]

2.『出版ニュース』(10/中・下)にニッテンの安藤陽一による09年出版社と書店の売上ランキング、販売ルート別推定出版物販売額が発表された。後者の10年間の推移を示す。











■販売ルート別推定出版物販売額(単位 百万円)
書店CVSインターネット駅売店スタンド生協輸出その他
20001,521,392491,135241,17626,86658,03018,0857,0002,363,684
20011,494,192490,073231,63124,66257,17717,5887,0002,322,323
20021,459,412503,690217,48523,28157,48017,1267,0002,285,474
20031,451,505494285208,73522,09456,01716,3335,9002,254,869
20041,449,139491,018191,90321,36555,99915,2193,2002,227,843
20051,437,176489,215183,17320,57453,53214,4222,9342,201,026
20061,431,479473,969176,97619,32049,23314,9342,4422,168,353
20071,394,656395,246175,50017,91049,10015,49276,8002,124,704
20081,384,889356,10383,400121,87678,71642,57414,7782,082,336
20091,355,797313,30593,500101,81674,20041,72512,1511,992,494

  ※その他は割賦販売。2007年はインターネットを介した推定販売額との合算

    ※2008年より販売ルートとしてインターネットを新設し、その他を廃止した

[合計出版物販売金額は出版科学研究所の数字と多少のずれはあるが、両社ともパラレルな減少を見ていることは同様だ。
ニッテンの安藤の調査の特色は、コンビニ、駅売店のデータが揃っていることで、これは今世紀を迎えての雑誌の凋落をはっきりと告げていよう。

本クロニクルでも09年のコンビニ売上は3000億円を割るのではないかと記してきた。だがかろうじてそれは避けられたにしても、02年に比べれば、2000億円の落ちこみであり、10年は3000億円を割っていることは確実だ。

コンビニは上位9社で2794億円を売っていて、その09年の雑誌総売上高の25%に及んでいる。それゆえに大手コンビニの売上動向が今後の雑誌のメルクマールにならざるをえない。もし雑誌売場スペースの減少ということになれば、たちまち影響が出てくる。

それから駅売店の落ちこみも激しく、00年から1400億円のマイナスで、半分以下の売上となっている。週刊誌によっては多少回復してきたと伝えられているが、雑誌全体から見れば、まだまだマイナスは続くだろう]

3.次にやはりニッテンの安藤による09年の出版社売上ランキングも挙げ、05年と比較してみる。ただし総合出版社だけであるが。























■出版社売上実績金額(単位 百万円)
 2009年2005年増減比
集英社133,298137,848▲3.3%
講談社124,500154,572▲19.5%
小学館117,721148,157▲20.5%
学習研究社76,34670,864+7.7%
文藝春秋29,65931,860▲6.9%
角川書店29,41695,066▲69.1%
新潮社27,80029,000▲4.1%
光文社24,50032,500▲24.6%
日本放送出版協会21,43922,880▲6.3%
岩波書店18,00020,000▲10.0%
マガジンハウス16,80021,300▲21.1%
PHP研究所14,56714,030+3.8%
朝日新聞出版13,362
ダイヤモンド社12,00915,200▲21.0%
徳間書店11,75113,739▲14.5%
東洋経済新報社10,62111,507▲7.7%
幻冬舎9,30510,947▲15.0%
日本文芸社7,2698,814▲17.5%
中央公論新社6,959
実業之日本社5,9588,029▲25.8%
平凡社2,9283,500▲16.3%

[比較対照できる出版社だけを見ても、05年よりも売上が伸びている会社は、学習研究社PHPだけである。角川書店のような会社分割によるものは例外としても、軒並マイナスとなっている。

10年のマイナス幅はさらに大きいと予想され、総合出版社も出版危機の只中にあって、様々な改革が迫られているはずなのに、経営者たちは何ら真摯な発言をしようとしない。それともこの期に及んでも、再販委託制という破綻していることが明らかなシステムにしがみついていたいのだろうか]

4.紙と再販制に基づく新聞社の売上高も、出版物売上高とパラレルに減少を続け、こちらも10年度には2兆円割れが確実になってきている。
日本新聞協会による09年の「新聞社総売上高推計調査」を示す。

■新聞社総売上高の推移(単位 億円)
 総売上高販売収入広告収入その他収入
2007年度(97社)22,49012,4286,6463,416
 (100.0%)(55.3%)(29.6%)(15.2%)
前年度比▲3.6%▲0.7%▲6.2%▲8.2%
2008年度(97社)21,38712,3175,6743,396
 (100.0%)(57.6%)(26.5%)(15.9%)
前年度比▲4.9%▲0.9%▲14.6%▲0.6%
2009年度(95社)20,01912,1004,7913,128
 (100.0%)(60.4%)(23.9%)(15.6%)
前年度比▲6.4%▲1.8%▲15.6%▲7.9%

[4年連続のマイナスで、09年は6.4%減少である。とりわけ07年に比べ、1855億円の広告収入の落ちこみは深刻で、雑誌の危機と新聞が合わせ鏡になっているとよくわかる。

中堅広告代理店の中央宣興が76億円の負債を抱え、自己破産したが、それを確実に反映している。
また1で駅売店の雑誌の売上の落ちこみを示したが、新聞も販売収入は02年から8年連続マイナスとなっているので、同様の減少に見舞われてきたのだろう]

5.児童書の理論社民事再生法を申請。負債は22億円で、そのうちの借入金は15億円。

[10年度の売上高は12億円に対して、それを上回る15億円の有利子負債があり、年間の利子負担だけでも5000万円というのは通常の会社であれば、とっくに倒産していたであろう。

この状態はずっと続いていたようで、ほぼ15年間にわたって債務超過のままで経営されてきたことになる。それが可能だったのはスポンサーがいたからなのだろうか。

年内にもスポンサーを決め、スピード再生を掲げているが、それこそ児童書にふさわしい「足長おじさん」は現われるのだろうか。
しかしこの理論社民事再生をめぐって、またしても書店に大量の返品不能品が発生することは避けられないだろう。まして児童書であるだけに、最大の冊数に及ぶ可能性もある]

6.『週刊ダイヤモンド』(10/16)が特集「電子書籍入門」、『出版月報』(10月号)が「電子書籍大特集」を組んでいる。

[前者は出版業界の現在の状況、電子書籍をめぐる最近の動き、端末10機種の比較公開、大日本印刷と流通プラットフォーム、電子書店の使い方、電子化の波にさらされる取次と書店問題と総花的で、後者は出版社に対するアンケート調査をまとめたもので、双方を読めば、電子書籍と出版社、取次、書店をめぐる見取図がそれなりに把握できるだろう。

しかし紙から電子へ向かうプロセスにおいて、本が無用の用ではなく、有用の用へと向かっていることが何よりも特徴的なのではないだろうか。それは端末メーカーの発言にも明らかだ。だから電子書籍問題の底流にあるのは、本を有用の用として実現できるかという問いのようにも思えてくる。

長年本を読んでくると、名著、名作も確かに必要だが、重要なのはそれらを生み出した雑書群であることがわかってくる。そしてそれらが無用の用しかないことも。名著、名作は有用の用の幻想ゆえにかならず電子書籍化されるだろう。しかし雑書群は決してそうはならない。そうなってみて、初めて紙の本の無用の用でありながらも、奥の深さが認識されることになろう]

週刊ダイヤモンド10/16 

7.『文化通信』(10/11)が95年から15年にわたって電子書店を運営し、この6月にジャスダック上場を果たしたパピレス社長天谷幹夫にインタビューしている。

 *売上高は07年20億円、08年34億円で、これは携帯配信コミックが急伸したためで、09年は伸びが鈍化し、10年は37億円、今季は39億円が目標。

 *電子書籍ブームは電子書籍への認知度を高めたが、事業への影響はほとんどない。

 *新しいデバイスが登場しても、普及には時間がかかるし、コンテンツを販売する側からすれば、数百万台ではだめで、1千万台を超えなければならない。

 *現在はバブル的ブームに包まれているが、それでも電子書籍化は着実に進行していくだろう。

 *デバイスや通信環境の変化に伴い、若い層向けコンテンツから、年配者層を掘り起こしていきたい。

 *デバイス、プラットフォーム、電子書籍フォーマットは様々に出てきているが、まだ熟成しておらず、変化するし、何が残るのかは現時点でわからない。

 *配信市場は音楽やゲームが3割、映像2割になっているが、出版物は5%にも至っていない。ただ電子書籍も動画、音声が入るようになれば、増えていくだろう。

 *私の求める究極のデバイスは下敷きのように薄く、多様な大きさのものが数千円で買え、用途に応じて一人が何台も持っていることだが、そこまでいくには何十年もかかる。

[今年になって様々に語られてきた電子書籍言説がホットなものであるのに対し、天谷の発言は15年間の電子書店運営の経験を踏まえた、きわめてクールなものに映る。電子書籍元年狂騒曲でほぼ半年が過ぎてきたが、そのようなホットと天谷のクールをよく対照してほしい]

8.7月に雄松堂は丸善と業務提携したが、CHIグループ株式交換により、CHIの子会社となることが決定。

[この経営統合によって、洋書市場を活性化し、将来的に取次と書店を兼ねる日本最大の洋書販売グループの構築をめざすとされている。

これで大日本印刷の子会社CHIグループはTRC、丸善丸善書店ジュンク堂、雄松堂となったわけだが、これに文教堂も加わっていくだろう。

しかしこれはまだ全貌がよく見えていないが、各社には様々な子会社があり、TRCだけでも児童書の岩崎書店とリブリオ出版を抱えている。そこに理論社も加わることも考えらえられるだろう。つまりTRCが理論社の「足長おじさん」となる可能性もある。

DNPやTRCにおいても、今回の理論社民事再生法は児童書シェアの拡大のための絶好の機会だからだ。

その他にもブックオフの株式問題なども絡んでいるし、CHIグループによる出版業界の再編はさらに予想以上の拡がりをもって進行しているのかもしれない]

9.本クロニクル29で既述した紀伊國屋書店の役員人事のその後だが、『新文化』(10/28)に続報が掲載されている。

 それによれば、9月13日の取締役会で、松原治会長、乙津副会長、鎌田、西口両常務の退任案件が提出され、19人の役員多数決10対8(棄権1)で可決された。そして二派に分裂した取締役グループは株主の金融機関、大手出版社、取次などへの根回しを進め、役員でただ一人の株主の松原を名誉会長、その長男で角川GHD取締役松原真樹を社外取締役に新任、三人の役員は退任させることで、11月29日の株主総会の承認を得る意向だという。

[だが誰が新たな会長や社長になるのかは依然としてわかっていない。

丸善DNP傘下入りし、急速に再編を進め、ジュンク堂紀伊國屋梅田店のライバルとなる出店を間近に控えている。

紀伊國屋はどこに向かおうとしているのだろうか]

10.角川GHD角川書店角川映画、角川マーケティングなどの子会社、孫会社を四社に再編し、映像、雑誌、デジタル事業の強化を図ると発表。

 またグループ10社の電子書籍を中心としたコンテンツの直営配信プラットフォーム「BOOK☆Walker」を立ち上げ、角川GHDは5年後に電子書籍事業売上高を130億円と想定。

角川GHD紀伊國屋の松原治が役員を務め、角川兄弟分裂後の後見者のような立場にあった。そして角川歴彦に次ぐ第2位の株主がCCCの増田宗昭であることは『出版状況クロニクル』ですでにふれてきた。

拙著『ブックオフと出版業界』が出版された時、松原は『アエラ』で佐野眞一のインタビューに応え、「ブックオフはインチキだ」と明らかに私の本を読んだ上での発言をしていた。しかし角川と増田の関係からなのか、それ以後そうした発言を引っこめてしまった。

角川GHDの再編と紀伊國屋の人事の関係も、松原の長男に象徴されるように、何らかの絡みがあるのだろう]

11.CCCはシャープと提携し、シャープが12月にスタートさせる「ガラパゴス」向けにエンターテインメント系コンテンツ配信を行なう。

内訳は12月開始当初は電子書籍3万冊、来年3月には映画、音楽、ゲームも含め20万点を予定。

 両社は共同出資会社を設立し、サービス名は「TSUTAYA GALAPAGOS」で、5年後に売上高700〜800億円をめざす。

[シャープの「ガラパゴス」の第一弾は新聞と雑誌の定期配信、第二弾は映画、音楽、ゲームなどのエンターテインメント配信、第三弾が流通と販売、第四弾が医療端末や電子教科書とされるから、CCCは「ガラパゴス」の第二弾を一社で引き受けたことになる。他の端末メーカーの場合はどうなっていくのだろうか]

12.同じくCCCは、中古本チェーンで「古本市場」を116店全国展開するテイツーの株式を5億円で取得し、第2位の株主となる。

 CCCはTSUTYA直営店で中古本販売を始め、5年後には200店に広げる予定とされ、今回の出資で、中古本の商品調達力を強化する。

[これもずっと本クロニクルで言及してきたことだが、CCC=TSUTAYAブックオフの盟友であり、TSUTAYAブックオフの大株主だった。

ところが創業者の退場と、DNPグループと大手出版社によるブックオフの買収以来、その提携関係が変わったのか、ブックオフはCCCのTカードから脱退し、CCC=TSUTAYAは独自の中古本販売を進め、今回はテイツーへの出資と提携に至った。TSUTAYA所有のブックオフ株式の行方が気にかかる]

13.ゲオは東京メトロ10駅構内にDVD自動レンタル機「GEOBOX」を設置。支払方法はクレジットカードで、DVD1枚100円。

  一方で10月23、24日限定だったが、50円レンタルを全国展開。

[レンタルもいよいよアメリカ並みに自動レンタル機の時代に移行してきたということなのか。

またレンタル料のデフレ化は止まったわけではなく、50円にまで下がったことは、フランチャイズを主とするTSUTAYAにとっては衝撃的な金額だろう。このゲオの50円レンタルがどのような波紋をもたらすのか、レンタル市場を占う意味でとても興味深い。私も借りに行ったが、さすがによく借りられていた]

14.デフレ化といえば、これも本クロニクルで既述してきた『ニューズウイーク』のことだが、ワシントンポストから音響会社などを経営する事業家へ経営権が売却されるにあたって、その価格がわずか1ドルだったことが明らかになった。

 大半の社員の雇用の維持、雑誌発行とニュースサイトの充実などの条件を含んでの経営権売買であるにしても、また1933年創刊で、世界各国でも刊行されている『ニューズウイーク』が3千万ドルの赤字だったとしても、1ドルの価格しかつかない時代に入ってしまったのだ。

[これは21世紀における新聞や雑誌の凋落の果てを象徴する出来事かもしれない。自社で赤字続きのために発行できなくなれば、廃刊するか売却するしかない。ところが圧倒的買い手市場のために、信じられない価格で売買されることになる。

この出来事と関連してだが、日本においても多くの出版社が売りに出されているが、まったく買い手が現われないようだ。かつては大手取次口座があるだけで、数百万円の価格がついたとされるが、もはや見向きもされない。もっとも現在の出版社の事情に通じていれば、1円の価格でも買い手が躊躇することは明らかであろう]

15.『日経MJ』(10/29)が一面で、中古品リユース市場のブックオフの後に続く「群雄割拠」状態を特集している。主として特集に挙げられたのは、古着のドンドンダウン、ジャンブルストア、TSUTAYAのエコブックス、ブックオフスーパーバザーである。

[この特集にはドンドンダウンが持ちこまれた中古衣料品を量り買いする写真が掲載され、すぐに「目方で男が売れるなら こんな苦労も こんな苦労もかけまいに かけまいに」という寅さんの歌が思い出された。かつてのチリ紙交換同様に、服も目方で買われるようになったのだ。

ゲオも古着売場を併設しているが、ブックオフもこのドンドンダウンのフランチャイジーとなり、古着部門の商品調達に及んでいることがわかる。

同じようにこれらのリユース市場も様々なフランチャイズが交差することで、「群雄割拠」的状態がもたらされていると思われる]

16.「女性私立探偵」V・I・ウォーショースキーを主人公とするミステリーの書き手であるサラ・パレツキー『沈黙の時代に書くということ』山本やよい訳、早川書房)を読んだ。

 するとあらためて驚くべきことではないけれども、アメリカの9・11以後の社会状況に対する真摯な発言、及び出版市場の変化に関する絶えざる直視も含まれ、実生活においても、ウーマン・プライベート・アイの立場で生きていることを伝えてくれる。

「沈黙から発言へ―それがどの作家もたどる困難な道のりだ」と承知しつつ、その沈黙を強いるもののひとつが出版市場の変化でもあると書いている。
メディア界の多国籍企業が出版社を買収するようになって以来、その経営は本作りに携わる人々から離れ、マーケティングや会計を専門とするMBAの手に移り、本を単なる商品に変えてしまった。

 そして流通販売も変わり、かつては多様な書店で買われていたが、ディスカウントストア、巨大なチェーン、アマゾン、スーパーマーケットで売られるようになった。両者の変化により、作家の世界でもスターシステムが導入され、確実に売れる作家=コンテンツ提供者がブランドとなり、本の多様性に対して深刻な影響を及ぼしている。

 このような出版市場からは、もはや売れなくても出版者が惚れこんで刊行したメルヴィルやフォークナーは生まれるはずもなく、多くの作家たちが出版社の後ろ盾を失い、本が出せなくなり始めている。サラはそれらの状況を「全体主義国家の布告よりも市場のほうが沈黙を強いる力を狡猾に発揮する」と記し、かつての出版業界を次のように愛惜している。

「もちろん、出版社も書店もつねに、金儲けのために本を出版し、販売してきた。しかし、商品そのものへの深い愛情から多くの人々が長い歴史のなかで集まってきた市場は、ほかにはない。“商品”―魂に命を吹きこむことのできる言葉に対して、これはまた何とひどい呼び方だろう。」

[アメリカの出版状況よりもさらに深刻で特殊な日本の出版状況に対して、日本の作家や著者たちはほとんど発言していない。佐野眞一がいるではないかという冗談は止めてほしい。おそらく大半が現在の出版危機の構造について、無知であるか、もしくは直視もせず、知ろうとすることもなく書いているからだろう。

しかしそのような危機感すらも内包しない小説や著作がリアリティを持つはずもないことは明白である。サラ・パレツキーの小説が読まれ続けているのは、そのような危機に対する切実感があふれているからだと判断できよう]

沈黙の時代に書くということ

17.幻冬舎が上場を廃止し、見城徹社長が全額出資とするTKホールディングスが全株取得を試みる。上場を廃止することで、コストを削減し、資本と経営を一体化させ、電子書籍を含めて改革を急ぎ、出版不況の中でのサバイバルをめざす。

永井荷風は出版とは家業でやるものだと書いた。もしMBO(経営陣による自社株式の買い取り)に成功したら、見城は出版社における『株式上場という病』でも書いたらどうだろうか]

18.『彷書月刊』が300号を刊行し、10年10月号で休刊になった。9、10月号は全号の総目次を掲載している。

[『彷書月刊』は彷徨舎と田村治芳編集長時代に多くのスポットが当てられているが、休刊号の「あとがき」で、編集者の皆川秀がふれているように、神田で古書店の自游書院を営む若月隆一を中心にして出版社の弘隆社が設立され、85年に『彷書月刊』が創刊されたのである。また一時期は論創社が経営と発行を兼ねていたこともあった。これらも出版史の事実として書き添えておこう]

19.日本古書通信社から「古通手帖2011」というサブタイトルを付した『古本屋名簿』が出た。

[全国古本屋めぐりの必携ガイドブック『全国古本屋地図』01年版が品切になって以来の、待望の新しい古本屋散策手帖である。

私などは年齢からすると、最後に手にする全国の古本屋名簿になるかもしれない。ぜひこの一冊を買って、旅先に携え、古本屋を訪れてほしい]

古本屋名簿

以下次号に続く。


 

◆バックナンバー
出版状況クロニクル29(2010年9月1日〜9月30日)
出版状況クロニクル28(2010年8月1日〜8月31日)
出版状況クロニクル27(2010年7月1日〜7月31日)
出版状況クロニクル26(2010年6月1日〜6月30日)
出版状況クロニクル25(2010年5月1日〜5月31日)
出版状況クロニクル24(2010年3月26日〜4月30日)
出版状況クロニクル23(2010年2月26日〜3月25日)