法的問題と道義的問題
小田 : そのことはひとまずおくとして、弁護士の「受任通知」に対して、「宗教法人法抵触と道義的問題について」という質問状を送った。それを簡略に箇条書きにして挙げてみます。
1.長期にわたる寺と自治会の関係は旧来の寺と檀家の構図、すなわち寺に檀家が帰属するという関係をなぞってきたもので、本来の意味での自治会活動ではなかった。政教一致に加えて、公私混同が甚だしい。
2.その間の宗教行事、及びお布施や花代、保険料、修繕費、維持費、仏具費などのために費やされた自治会のコストは多大なものに及ぶ。
3.O寺と老人憩の家の併設は自治会総会の了承を得たと見なすことはできず、後者は公的資金による建設にもかかわらず、登記もなされておらず、それらの事情は明らかでない。
4.O寺の薬師堂登記は薬師如来の文化財指定と密接に絡んでいるはずだし、それにまつわる「御開帳法要」に示された歴史記述はそれを裏付ける史資料の提示もなく、鑑定書も存在しない。
5.[中略]
6.これらの諸々の反映が、昭和60年のO寺の薬師堂保存登記 に象徴的に表出している。そこに老人憩の家はなく、O寺=薬師堂だけがあり、登記自体が違法でないにしても、併設者が先代で、自治会長だったことを考えれば、それらは意図的で、道義的な疑念を覚えざるをえない。
A : 今まで話してきたところの政教一致の自治会とそれを司ってきた寺への批判だね。
小田 : こちらも何もせずに放置しておいたことに関して、内心忸怩たるものがあるけれど、せっかくの弁護士相手だから、本当のことを言うしかないと思った。
この場合は宗教法人と自治会法人の係争と考えるべきだし、それぞれの社会通念も含まれることになるわけだから。
A : でも弁護士のほうの社会通念は人それぞれだから、そんなに期待しないほうがいい。あなたは例によって甘いところがあるし、我々が知っている出版業界の各法人とは異なる宗教法人だし、その代理人としての弁護士であることを十分に踏まえるべきだ。
小田 : それも認識していたので、この文書を提出するに際して、『全国に30万ある「自治会」って何だ!』も持参し、献本しておいた。 多少なりともこちらの姿勢や視座がわかるかと思ったんだ。
A : でも期待外れだったんでしょう。
小田 : そういうことで、寺のほうからは2ヵ月間何の返答もなかったが、弁護士のほうは3ヵ月を要している。
A : おそらく弁護士は演繹法によっているから、不動産登記の実態をたどり、それで結論を出したと考えていたんじゃないかな。それが「受任通知」における内容で、仕事は済んだと思っていた。
ところが帰納法で、個々の具体的な例から一般に通じる事業例を提出したことになり、かなり戸惑った。
小田 : なるほど、そうかもしれない。確かに二度目に会った際に、机の上にあった『全国に30万ある「自治会」って何だ!』は付箋だらけだったけれど、 何の質問も出されなかった。
A : 当然だよ。対談によって具体的な例を示しながら、真実を浮かび上がらせるという帰納法的ディスクールを主眼としているのだから。ましてそれに則り、「宗教法人法抵触と道義的責任について」なんていう質問状を出されたので、本当は困ってしまったと思われる。
小田 : でもそれを言い出したら、出版業界や図書館界の人々も同じで、本質的なことを指摘し、剔抉したとしても、論議にも論争にもならず、意図的に先送りされてしまう体質と変わらないことになってしまう。
A : そういうことで、弁護士の返答はどうだったの。
