出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2011-01-01から1年間の記事一覧

 44 FBI と紀ノ上一族

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話125 「パリの日本人たち」と映画

小島威彦と仲小路彰の科学文化アカデミアが戦争文化研究所、世界創造社、スメラ学塾へと展開されていくためには、小島の昭和十一年から十三年に及ぶ、ビルドゥングス過程とでもいうべきヨーロッパ留学が不可欠であった。小島の旅と留学は『百年目にあけた玉…

古本夜話124 国民精神文化研究所と科学文化アカデミア

創立に参画した酒井三郎による『昭和研究会』(講談社文庫、後に中公文庫)のような記録が上梓されている昭和研究会は例外にして、これまで取り上げてきた国際政経学会、太平洋協会、国民精神文化研究所などの政府の外郭団体的な研究所についての詳細な証言…

43 その後の紀ノ上一族

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話123 小島威彦『世界創造の哲学的序曲』と西田幾多郎

田中美知太郎は『西田幾多郎』(『日本の名著』47、中央公論社所収)の上山春平との対談「西田哲学の意味」の中で、東京のアカデミズムにおける京都学派の「インペリアリズム」のことを語り、小島威彦がその世話役だったと述べている。ともに獄死することに…

古本夜話122 小島威彦『百年目にあけた玉手箱』、戦争文化研究所、世界創造社

前回まだその著書を入手していなかったので、あえて名前を挙げなかった人物がいる。それは小島威彦で、彼は他ならぬ「パリの日本人たち」とスメラ学塾の中心人物である。小島は九十歳を超えた一九九五年に『百年目にあけた玉手箱』という全七巻、二百字詰一…

42 紀ノ上一族の少年たち

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話121 高楠順次郎『知識民族としてのスメル族』、スメラ学塾、仲小路彰『肇国』

太平洋戦争と大東亜共栄圏の進行下において、多くの人々がその強力な磁場の中へと引き寄せられ、奇怪な言説や歴史を語り出すようになる。それは本連載で繰り返し言及してきた『大正新修大蔵経』や『世界聖典全集』の企画、編集、翻訳の中心人物である高楠順…

古本夜話120 平野義太郎と『太平洋の民族=政治学』

前回ハウスホーファーの『太平洋地政学』(岩波書店)を翻訳した太平洋協会について、詳細がわからないと書いておいた。しかしその数年後に海野弘の『陰謀と幻想の大アジア』(平凡社)を読むに及んで、そこに太平洋協会への言及を見出したのである。それは…

出版状況クロニクル39(2011年7月1日〜7月31日)

出版状況クロニクル39(2011年7月1日〜7月31日)私は10年以上にわたって、東北のある地酒を好み、それだけをずっと飲んできた。しかしその地酒は東日本大震災もあって、品薄になっているようだ。しばらく入手できない時期も生じていた。それに関連して想起さ…

41 パナマにおける紀ノ上一族

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話119 ハウスホーファー『太平洋地政学』と太平洋協会

ナチズム三大聖典の日本での翻訳刊行に続いて、やはり重要なナチズム文献が昭和十七年に岩波書店から出版されている。それはハウスホーファー著、太平洋協会編訳『太平洋地政学』である。 この「地政学」なるタームが昭和五十年代に「ゲオポリティク」として…

古本夜話118 シュペングラー『西洋の没落』、室伏高信、批評社

前回の村上啓夫訳『性と性格』の「訳者付言」に、諸外国語に関する教示について、村松正俊に対する謝辞があった。前々回の室伏高信に続いて、村松の名前も出たことからすれば、ヴァイニンガーと同年生まれの青年が出版した、同じドイツのベストセラーにも言…

40 メキシコ人と紀ノ上一族

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話117 ヴァイニンガー『性と性格』とダイクストラ『倒錯の偶像』

オットー・ヴァイニンガーの『性と性格』がヒトラーの『わが闘争』などにも影響を与えたことをあらためて確認したのは、ブラム・ダイクストラの『倒錯の偶像』(富士川義之他訳、パピルス)においてだった。ダイクストラは『性と性格』が「第三帝国総統の図…

古本夜話116 第一書房版『我が闘争』と小島輝正『春山行夫ノート』

ナチズム三大聖典のうちの『プロトコル』と『二十世紀の神話』を続けて取り上げたからには、もうひとつのヒトラーの『我が闘争』にふれないわけにはいかないだろう。既述したように、これは第一書房から昭和十五年六月に室伏高信訳として刊行されている。私…

39 排日と紀ノ上一族

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話115 バハオーフェンと白揚社版『母権論』

ローゼンベルクの『二十世紀の神話』について、「読むに堪えない」もので、ナチスの指導者たちさえも読んでいなかったのではないかというノーマン・コーンの指摘を、前回記しておいた。しかし実際に『二十世紀の神話』を通読してみると、そこに呪術的な言葉…

ExLibrisは森洋介+書物蔵である。

私の「ExLibris=森洋介」の指摘に対して、当人ではなく、書物蔵(id:shomotsubugyo)が7月11日に「twitter」を発している。 そそっかしい小田光雄氏がまたぞろ、キョーレツな間違いを。「誤植訂正はExLibris=森洋介によっている。以後はことわらない。」 Ex…

古本夜話114 ローゼンベルク『二十世紀の神話』と高田里惠子『文学部をめぐる病い』

ノーマン・コーンは『シオン賢者の議定書』において、『プロトコル』、ヒトラーの『わが闘争』、ローゼンベルクの『二十世紀の神話』を、ナチズムの三大聖典とよんでいる。そしてローゼンベルクと『二十世紀の神話』は『プロトコル』のユダヤ人の世界陰謀神…

38 久生十蘭 『紀ノ上一族』

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話113 藤沢親雄、横山茂雄『聖別された肉体』、チャーチワード『南洋諸島の古代文化』

前回『猶太思想及運動』や『四王天延孝回顧録』の四王天が、パリやジュネーブの国際連盟に出向していたことは既述したが、それは大正十三年から昭和二年にかけてだった。彼は『回顧録』の中でそれを、「現職生活中公私共に最も印象深いものの一つ」と述べて…

古本夜話112 四王天延孝『猶太思想及び運動』と内外書房

『驚異の怪文書ユダヤ議定書』の「訳者の言葉」において、久保田栄吉はユダヤ研究の権威として、「四王天延孝閣下及安江陸軍、犬塚海軍其他の先輩」の名前を挙げ、謝辞を恩師の相馬愛蔵、黒光や杉山茂丸などに掲げている。後者の相馬夫妻や杉山のことはひと…

37 ブラジル上陸

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

出版状況クロニクル38(2011年6月1日〜6月30日)

出版状況クロニクル38(2011年6月1日〜6月30日)2010年の日本の自殺者数は3万1690人で、13年連続で3万人を超えている。それは小さな市や町の人口に相当する。だから日本社会は東日本大震災によって、現実的にも多くの市町村が失われてしまったことに加え、…

古本夜話111久保田栄吉訳『驚異の怪文書ユダヤ議定書』とノーマン・コーン『シオン賢者の議定書』

私はかつて ユーゴスラヴィアの作家ダニロ・キシュの『若き日の哀しみ』と『死者の百科事典』(いずれも東京創元社)について、「死者のための図書館」(拙著『図書館逍遥』所収、編書房)という一文を書いたことがあった。この二冊の短編集はナチスによるジ…

古本夜話110 酒井勝軍と内外書房『世界の正体と猶太人』

小谷部全一郎の『日本及日本国民之起原』に表出している妄想的としかいいようのない日ユ同祖論、あるいは木村鷹太郎の日本民族のギリシャ、ラテン人同種論にしても、同様な奇怪な言説でしかないのだが、それらは酒井勝軍というトリックスターを得て、さらな…

36 航海と船の中の日々

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話109 高島嘉右衛門、高木彬光『大予言者の秘密』、神宮館

前回の小谷部全一郎の『日本及日本国民之起原』を高木彬光の『成吉思汗の秘密』で閉じた。しかしこの二人にもう一人の人物の名前を加えると、飛ばすことができない三題噺を形成してしまうので、その一編を書いておくことにする。 小谷部の同書は言及が遅れた…

古本夜話108 春山行夫と小谷部全一郎『日本及日本国民之起原』

春山行夫は独学で英仏語とエンサイクロペディア的知識を取得し、モダニズム詩人として出発し、関東大震災後の大正十三年に名古屋から上京し、昭和三年に厚生閣書店に入る。そして「エスプリ・ヌーヴォー」にふさわしく、すべてが新しいといっていい出版社、…