出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2011-01-01から1年間の記事一覧

35 石川達三『蒼氓』

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話107 小出正吾『聖フランシス物語』と厚生閣書店

前回論じた宮崎安右衛門が、曹洞宗僧侶桃水や聖フランシスなどを模範とする求道生活をめざしていた頃、キリスト教陣営の側からも聖フランシスに関する本が出された。それは大正十一年に小出正吾が著した処女出版『聖フランシスと小さき兄弟』(厚生閣書店)…

古本夜話106 望月桂、宮崎安右衛門、春秋社

続けて二回、多種多様な刊行会による、大正時代における宗教書出版を見てきた。あらためて考えると、大正時代こそは宗教書ルネサンスとよんでいいほどで、それに合わせるように出版社と宗教はこれまでになく接近し、つながり、密接だったと考えられる。本願…

34  『黒流』のコアと映画『カルロス』

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話105 国民文庫刊行会『国訳大蔵経』

前回大正時代における仏教・宗教書出版につい書いたので、乱歩絡みの仏教書のことも書いておこう。松村喜雄は『乱歩おじさん』の中で、花咲一男と乱歩の書物談議を紹介し、花咲が『国訳大蔵経』を勧められ、「この本を〈文学〉として読め、と乱歩さんが教え…

古本夜話104 『世界聖典全集』と世界文庫刊行会

本連載46「折口信夫『口ぶえ』」のところで、『世界聖典全集』にはふれないと書いた。だが新光社の仲摩照久が高楠順次郎の『大正新修大蔵経』の出版に取り組んでいたこと、及びジャネット・オッペンハイムの『英国心霊主義の抬頭』(工作舎)を続けて取り…

33 日本人移民の暗部

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話103 黒岩涙香と出版

本連載91「大内三郎『漂魔の爪』と伊藤秀雄『明治の探偵小説』」のところで、「探偵実話」や黒岩涙香の「探偵小説」の出版社に少しふれたこと、そして前回 黒岩の『天人論』に言及したので、この機会に涙香をめぐる出版のことも書いておこう。涙香の著作を…

古本夜話102 黒岩涙香『天人論』とマイアーズ『霊魂不滅論』

前回言及した英国心霊研究協会とその七代目会長フレデリック・マイアーズが著したHuman Personality and Its Survival Bodily Death は、明治後半から大正時代にかけて、日本の文学者たちに予想以上に広範な拡がりを持って、大きな影響をもたらしていたよう…

出版状況クロニクル37(2011年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル37(2011年5月1日〜5月31日)若かりし頃は自分がこのようなクロニクルを書くことになるとは夢にも思っていなかった。しかし思いもかけずに出版状況論を書くことになり、いつの間にか10年以上が過ぎてしまった。そして仲間内で最も若か…

32 黄禍論とアメリカ排日運動

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話101 コナン・ドイルと英国心霊研究協会

松本泰、恵子夫妻が英国に滞在していた一九一三年から十九年にかけては、コナン・ドイルがシャーロック・ホームズを復活させ、第四作目の長編『恐怖の谷』を連載し、またホームズ引退の短編『最後の挨拶』を発表した時代であった。またその一方で、ドイルは…

古本夜話100 新光社「心霊問題叢書」と『レイモンド』

松本泰は奎運社設立と『秘密探偵雑誌』創刊に至る以前の大正十年に、野尻抱影や水野葉舟と並んで、新光社の「心霊問題叢書」の翻訳に取り組んでいた。私はすでにこの「叢書」と水野葉舟について、「水野葉舟と『心霊問題叢書』」(『古本探究3』所収、論創…

31 人種と共生の問題

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 "> アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本…

古本夜話99 奎運社と『探偵文芸』執筆者人脈

ここで少し時代を戻したい。江戸川乱歩は『探偵小説四十年』において、大正十四年頃が探偵小説の草創期だったと書き、『新青年』の他に松本泰の『探偵文芸』、大阪の三好正明の『映画と探偵』、乱歩たちの『探偵趣味』の四誌が同時に発行されていたと述べて…

古本夜話98 「心理試験」と中村白葉訳『罪と罰』

江戸川乱歩に関する事柄を長きにわたって書き続けてきた。松村の『乱歩おじさん』も興味深いが、それほどまでに『探偵小説四十年』も次々と関心を募らせる、広範な大正から昭和にかけての近代出版史、文化史を投影させた自伝を形成しているのだ。 最初の章の…

30 日本における日系ブラジル人

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 "> アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本…

古本夜話97 岡本綺堂と『世界怪談名作集』

森下雨村も延原謙も、また渡辺温にしても、改造社の『世界大衆文学全集』の訳者陣に加わった経緯、及び翻訳、代訳事情について、記録を残していない。それは他の多くの訳者たちも同様だが、ただ一人だけそのことをかなり詳細に日記に記している作家がいた。…

古本夜話96 渡辺温と『ポー・ホフマン集』

改造社の『世界大衆文学全集』について、もう二編書いておきたい。江戸川乱歩は『探偵小説四十年』の中で、翻訳の代作について述べ、この全集の第三十巻にあたる『ポー・ホフマン集』にふれている。 改造社の、私の訳となっている「ポオ・ホフマン集」も、私…

29 聖隷福祉事業団と日本力行会

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話95 改造社『世界大衆文学全集』と中西裕『ホームズ翻訳への道―延原謙評伝』

私見によれば、円本時代の平凡社の『現代大衆文学全集』と改造社の『世界大衆文学全集』によって、新しい文学としての時代小説と探偵小説のかつてない読者層の広がりがあり、現在の時代小説とミステリーの全盛期の始まりのベースが築かれるに至った。さらに…

古本夜話94 森下雨村と西谷退三訳『セルボーンの博物誌』

江戸川乱歩の『探偵小説四十年』の昭和六年の記述に「森下雨村の博文館退社」という一章があり、「日本に探偵小説を流行させた生みの親ともいうべき森下さんが、ジャーナリズムから退いたことは、探偵小説史に記録すべき一つの出来事であった」と書かれてい…

28 浜松での印刷と長谷川 保

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 "> アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本…

出版状況クロニクル36(2011年4月1日〜4月30日)

出版状況クロニクル36(2011年4月1日〜4月30日)日本ショッピングセンター協会によれば、3月売上高は前年同月比12.2%減で、そのうちの東北地方は30.8%減、関東地方は21.9%減となっている。全国で3000近くに及ぶその過半数が郊外ショッピングセンターであり…

古本夜話93 八切止夫と日本シェル出版

〇七年の『探偵作家追跡』に続いて、若狭邦男の『探偵作家尋訪―八切止夫・土屋光司』が日本古書通信社から出された。若狭の蒐書をたどっていくと、尋常な努力では収集できないと思われる雑誌や書籍に出会うことになり、私などは本当に横着な古本探究者でしか…

古本夜話92 ヴァン・ダイン、伴大矩、日本公論社

江戸川乱歩は『探偵小説四十年』の中で、日本におけるエラリー・クイーンやヴァン・ダインのいち早い紹介者兼翻訳者が、伴大矩であったと書いている。少し長くなるが、その部分を引いてみる。 伴大矩君は、別名の露下紝と両方を使いわけて、翻訳工場式に拙速…

27 『黒流』のアメリカ流通

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 "> アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本…

古本夜話91 大内三郎『漂魔の爪』と伊藤秀雄『明治の探偵小説』

前々回 記した松柏館のことも詳細は不明だが、それにもまして誰も取り上げていない探偵小説が手元にある。それは国会図書館にも架蔵されていない。しかも江戸川乱歩がいう探偵小説の第二のブームを迎えようとしている昭和八年に出され、「傑作探偵小説全集」…

古本夜話90 梅原北明『殺人会社』とジャック・ロンドン『殺人株式会社』

前回 『夢野久作の日記』にふれたので、それにまつわる一編を挿入しておきたい。彼は昭和元年八月二十八日(ママ)の日記に「夜、暑し。殺人会社を読む」と記している。これは梅原北明の『殺人会社』と判断していいだろう。梅原を読む夢野、それはあらためて二…

26 ナショナリズム、及び売捌としての日本力行会

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…