出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル58(2013年2月1日〜2月28日)

出版状況クロニクル58(2013年2月1日〜2月28日)


BS朝日で、「世界で最も美しい書店」(2/23)を放映した。それは次の4ヵ国の書店の紹介である。
* オランダの「セレクシス・ドミニカネン」/13世紀のゴシック教会建築を利用した書店。
* アメリカの「バートズ・ブックス」/ロサンゼルス近郊のオーハイにある、パリのセーヌ河岸の古本屋にヒントを得た、屋外に在庫20万冊を並べる書店。そのために日没時間に閉店。
ポルトガルの「レロ書店」/ポートワインで有名なポート市にある、1906年に創業したステンドグラスや美しい曲線美を見せる「天国への階段」を備えたネオゴシック建築の書店。
* 代官山蔦屋書店/これはコメントするまでもないが、雑誌、文芸書、旅行書などに詳しい、各分野の「コンシェルジュ」による販売風景を伝える。

   

海外の3店に関しては訪れてみたいと思うし、このような時代であっても、歴史と特色を活かし、サバイバルしていると考えられる。
しかし代官山蔦屋書店に関してはどうなのであろうか。開店してからまだ1年ほどしか経っておらず、売り上げ状況についても、軌道に乗っている、成功だとの声は少しも聞こえてこない。これも松岡正剛松丸本舗と同様に、言ってみれば、広告代理店のプレゼンテーションをそのまま店舗コンセプト、商品構成に反映させてしまったように思われてならない。「コンシェルジュ」という言葉自体が、書店現場にあっていかにふさわしいものではないか、ご当人たちが最もよく承知しているのではないだろうか。

この番組自体が代官山蔦屋書店に触発されたものだと伝えられているが、こうした企画そのものが、出版業界と書店の真の危機を隠蔽してしまうことになる。

それに番組プロデューサーは代官山蔦屋書店を、「心をきれいにする、自分を高められる場所」と考え、この番組を企画したというのであるから。


1.アルメディアによる2013年1月の書店調査が出された。1月期の出店はゼロで、これは同社の調査史上初めてだとされる。2002年以降の1月の新規店と閉店数を示す。

■1月の新規店と閉店
新規店数増床(坪)閉店数減床(坪)
2002118701475,254
20039701573,640
20046466934,457
20056388933,579
20068444925,788
20075294593,259
200871,034996,982
200981,516764,120
20103510603,480
20114918867,019
20123149453,227
201300979,359

[おそらくこれはアルメディア調査より遡る1980年以降で、初めてのことではないだろうか。

出店ゼロに対して、閉店は97店で、この12年間でも3番目に位置する高い数字になっている。しかも前年比は倍を超え、その閉店の平均坪数が100坪であるので、減少坪に至っては3倍に及び、こちらは突出している。

1月の数字だけで断言できないにしても、これまでと異なる書店の出店、閉店状況を迎えようとしていることは間違いないだろう。はっきりいえば、80年代から続いてきた出店バブルが終わり、書店市場が縮小し始まる兆候を露呈しつつあると見なせるだろう。
このような出店と閉店状況はまずどこに反映されるか。それは言うまでもなく返品率上昇となって表われるだろう]

2.その返品率の推移もたどっておく。ほとんど書店の出店と閉店がなかった70年代と、バブル出店を重ねてきた80年代以後を比較するために、70年代から挙げてみる。

■部門別返品率
書籍雑誌
197030.0%19.4%
197529.6%19.2%
198033.5%22.5%
198539.5%24.6%
199034.0%20.7%
199535.5%25.3%
199636.1%27.1%
199739.3%29.5%
199841.0%29.2%
199939.9%29.6%
200039.4%28.9%
200139.1%29.4%
200237.7%29.4%
200338.8%31.0%
200436.7%31.7%
200538.7%32.9%
200638.2%34.5%
200739.4%35.2%
200840.1%36.5%
200940.6%36.2%
201039.0%35.5%
201137.6%36.1%
201237.8%37.6%

[70年代に比べ、いかに返品率が上昇しているか、ただちにわかる。しかも雑誌は1970年の19.4%に対して、2012年は37.6%と倍近い上昇であり、これもまた出版業界始まって以来の高返品率だといっていい。

これまで繰り返し言及しておいたが、日本の近代出版流通システムは雑誌から始まり、それに書籍が相乗りするかたちで展開され、成長してきた。したがって雑誌の売上と低返品率が出版流通を支えてきたのである。それこそ70年代までは出版流通において、雑誌が黒字ゆえに赤字の書籍を支えることができると公言されていた。

しかしその雑誌自体が、70年代の赤字とされていた書籍の返品率をはるかに超える40%近い数字に至っているという出版流通状況を迎えているのだ。このまま進めば、書籍と雑誌の双子の赤字という事態を招来することになろうし、すでにそれはで見た書店閉店状況と相まって現実化していると見るべきかもしれない]

3.1と2に見られる書店状況と対照的に、アマゾンの2012年度日本売上高が7300億円と判明。全世界の売上高5兆7800億円の13%にあたり、前年比18.6%増。

本クロニクル56で挙げておいたように、11年のアマゾンの出版物売上高は1920億円とされるので、12年度は2000億円を優に超えたと推測できる。そのシェアは30%弱ということになり、アマゾンがネット書店のみならず、ネット通販企業としても、驚くべき成長をとげてきたとわかる。

『週刊ダイヤモンド』(2/16)の「数字で会社を読む アマゾン・ドット・コム」によれば、この5年間で4倍に成長し、書籍などのメディア商品よりも、家電や日用品の売上のほうがはるかに上回り、16年には世界のEC市場の24%を占める15兆円に達するのではないかと予測されている。

これも本クロニクル57で、12年のCCCのTSUTAYA BOOKS全696店の雑誌書籍売上高が1097億円となり、紀伊國屋の1082億円を抜き、首位になったことを既述しておいたが、アマゾンはTSUTAYAや紀伊國屋の2倍ほどを売り上げていることになる。出版敗戦、ここに極まれりという声を上げるしかない。

ちなみにアマゾンは自社で在庫を抱え、販売するシステムだが、小売業者に販売の場を提供するモール型ビジネスは、販売額と手数料を合計する流通総額によるので、楽天が1兆4460億円(ネット通販2858億円)、ヤフーは3082億円とされる]

週刊ダイヤモンド(2/16)

4.アマゾンに続いて、電子書籍状況についてもレポートしておこう。

『日経MJ』(2/22)が一面特集「電子書籍ブレークの芽」を組んでいるので、要約してみる。

* これまで「コスト」と著作権などの「権利」という2つの壁があり、国内流通タイトル数は25万点にとどまっていたが、ブレークする可能性が出てきた。

* それは経産省とJPOによる「コンテンツ緊急電子化事業」がきっかけで、中小出版社が「電子書籍バレー」といえる東北に集積する製作会社を自由に選べるようにしたことによって、電子書籍に踏み切れるようになったからだ。
* その結果、463社が緊デジに加わり、6万7000タイトルに及び、国内流通タイトルを押し上げるだろう。今春以降は出版デジタル機構がコストを肩代わりする方針である。

* 「権利」に関して、角川GHDは電子書籍の電子書店取引窓口を一本化し、価格交渉と著者のお金の取り分を有利に進める。同グループは3万タイトルが流通しているが、数年でほぼ電子化が完了する。

* アマゾンの電子書籍サイト「キンドルストア」はその独自のサービス「キンドル・ダイレクト・パブリッシング(KDP)」において、キンドルストア独占販売は著者の取り分70%、兼売は同じく35%。

* 講談社は「復☆電書」なる企画で、紙の書籍で入手困難な作品を電子書籍で復活させ、そのタイトルを増やす。

* ところがが、20代から60代男女1000人へのインターネット調査によれば、電子書籍に関して73.5%が「買ったこともないし、今後も買いたいとは思わない」と回答。

[羊頭狗肉の特集で、明らかに電子書籍プロパガンダと「流用」の事実をそらすための提灯記事のニュアンスが強い。

本クロニクル57で、『河北新報』も伝えているように、「緊デジ」が東京中心の復興予算の「流用」であり、わずか1ヵ月ほどで、6万点の申請が増えたのは、所謂「動員をかけた」にちがいないと指摘しておいた。

それに対して、「電子書籍ブレークの芽」は、東北の「電子書籍バレー」で製作されるかのようにその「集積」地図を掲載しているが、メインの電子化作業写真は「DNP東北」のものであるから、馬脚をあらわしていることになる。

JPOや経産省のリークや働きかけによって成立した特集だと見なされても仕方がないであろう。

最後にこのような記事に少しは気がとがめているのか、「『電子書籍買わぬ』なお73%」というオチは本当におかしい]

5.電子書籍に関するアマゾンとの契約などについて、角川GHDの角川歴彦会長に、『新文化』(2/21)がインタビューしている。こちらも要約してみる。

* 日本はIT先進国で、e コマース事業は映画やアニメのDVDの45%を占有し、年間売上は10兆円で、アメリカは20兆円だから、日本より遅れている。

* 電子の時代は必ず到来すると覚悟していたので、アマゾン、グーグル、アップルなどの黒船対策も含め、トライ&エラーであっても前向きに対処してきた。

* 角川アスキー総研設立はクラウド、ソーシャル、スマート時代を見据え、これからIT化する日本の産業や社会を捉えるという未来志向的目的をめざしている。なぜならば、IT技術の産業化、社会化がもたらす世界の将来はどうなるかわからないし、混迷を深めていくかもしれないので、その道標を示したいからだ。

* 電子書籍市場は数年後に、昨年の書籍販売金額8013億円の45%を占めるようになる。それで全体のパイは広がり、純増となる。だから出版業界全体が真剣に考えている。紙の本と電子書籍は売り方がちがうけれど、読者への働きかけをリアル書店と共有していく。

* アマゾンのキンドル投入によって、電子書籍売上は驚異的になっているし、そのネット販売は脅威だけれど、アマゾンから学ぶことも多い。だが電子書籍契約について妥協していないし、公取委、価格、裁判国、再ダウンロード、出版社の権利問題も含め、業界の契約水準を高めてきたと自負している。

* 戦後の出版業界はトーハン、日販体制を是認してきたが、現実は苦しむ書店を放置してきた。これからの取次は出版社や書店の救済に取り組むべきだし、事態も変えていく時期だ。今の電子書籍は「ネット書籍」というべきものだし、取次、書店もネット化しなければならないし、そのようなビジョンを出版社と共有する必要がある。

クラウド時代と〈クール革命〉
[これはほぼ二面にわたるインタビューなので、少しばかり長い要約になったしまった。このインタビューは2010年に出された角川の『クラウド時代と〈クール革命〉』以後の、電子書籍問題を主とする現在の立ち位置を伝えているのだろう。

しかしインタビューの制約を含んでも、角川のビジョンは前著より後退しているのではないだろうか。それは〈クール革命〉を担うクールジャパンの失墜と、国家プロジェクトとしてのクラウド「東雲」計画への言及がなされていないことに起因しているように思える。
その代わりに電子書籍をめぐるアマゾンとの戦略的交渉、ネット書籍を中心とする出版社、取次、書店のビジョンの共有が語られていることになるが、その前提となる予測は正しいのだろうか。

例えば、最終的に電子書籍の規模は3600億円を占めることになると言明しているけれど、出版業界の歴史と現在の状況から考え、きわめて疑わしい。まずその数字の発祥は、本クロニクル48などで言及しておいたように、昨年出版デジタル機構発足にあたって示した、5年後に電子書籍100万点、売上2000億円という根拠なき数字にある。それがいつの間にか、15年に2000億円、ここで角川が語っている3600億円などといったように、あたかも既定の実現可能な数字として一人歩きしていることが問題であろう。

もう一度その売上2000億円という数字を検討してみる。10年の電子書籍市場は650億円で、その内訳はケータイ電話によるコミックが572億円と88%を占めている。しかもコミックは雑誌に分類されるので、書籍は78億円の売上しかない。ちなみにコミックの11年の売上は2253億円で、それは新刊1万2000点をベースとする4億5216万冊の販売によって成立している。

つまり2000億円という電子書籍規模は11年のコミック売上に相当するもので、価格からすれば、それ以上の点数を売らなければならないことは明白である。いかに日本がIT先進国であっても、それが数年後に実現するとはとても思われない。

そのような電子書籍問題よりも、角川は危機の只中にある出版業界に関して、出版社、取次、書店をめぐる問題点、護送船団方式で営まれてきた再販委託制の制度疲労、時限再販についての見解などを、率直に語るべきではないだろうか]

6.「日経BPパソコンベストムック」の一冊として、『これ一冊で完全理解 電子書籍』が出された。

これ一冊で完全理解 電子書籍
[これは電子書籍に関する啓蒙書として勧めることができる一冊である。もちろんソフトというべき読書行為についての考察は見えないにしても、ハードとしての端末の比較レビュー、及び電子出版の現在についても満遍なく言及されていて、当ムック監修の西田宗千佳「遅れてきた『電子書籍元年』の現実と課題」はとても参考になる。

この一文を読むと、電子書籍端末と電子書籍ストアは揃ったけれど、日本の出版業界特有の問題も様々に抱えていて、本当に「元年」なのか、どこの向かうのかわからないニュアンスをも伝えているように思われる。

例えば、価格問題だが、日本の場合、出版社が価格決定権を渡していないこともあって、紙と電子書籍はほとんど変わらない設定になっている。とすれば、マーケットプレイスの1円本、ブックオフの100円本、公共図書館の無料の貸し出しに、電子書籍は対抗できるのだろうか。アマゾンの場合は少なくとも、安い「価格の魅力」によって電子書籍を普及させてきたのだから、これだけでも「元年」の意味が異なっていることになる。

このような問題を含め、45の口直しに、この一冊に目を通されれば幸いだ]

7.6の末尾でブックオフにもふれたので、アメリカのブックオフを取り上げておこう。

(コスタメサ)

(ウェストミンスター)

たまたま、現地で出されている日本語のフリーペーパー『ブリッジUSA・デジタルマガジン』2013年2月号の記事を読んだからだ。これもブックオフUSAの女性経営者へのインタビューなので、やはり要約してみる。

* アメリカ進出は2000年で、ニューヨークのマンハッタンに第1号店を出し、翌年の01年に南カリフォルニアのガーデナ市に2号店をオープンした。

* 進出理由はアメリカに住む日本人の要望があり、そのニーズに応えるためで、当時は日本人マーケットしか考えていなかった。

* だが今まで成長率前年比120%となってきていて、08年からアメリカマーケットに本格的進出を始めた。サンディエゴ店を出したところ、店舗が広かったので、現地のものも置くと予想以上に反応がよかった。つまり本、CD、DVDを売りにくるアメリカ人が多くいて、彼らが購入するリピーターになり、とても喜ばれた。

* それでこれらの3店に加えて、コスタメサ、ウエストミンスター、トーランスのデルアモ、ハワイのアラモアナとパールリッジを出店し、8店舗あり、そのうちのウエストミンスター、デルアモ、パールリッジはアメリカマーケット店舗なので、日本語商品は置いていない。コスタメサとサンディエゴは日本語と英語の双方を置く「ハイブリッド店」で、3月にはレイクウッド市のモールに最大の新店をオープンする。

* アメリカのマーケットは書籍よりもDVDなどが主力商品で、日本のMANGAやゲームもニーズはあり、置いてはいるが、ビジネスには至っていない。

* 競合他社はほとんどなく、各店の店長は日本人だが、従業員の半数はアメリカ人である。


[さらに興味のある読者は、直接この記事を読まれたい。写真掲載からわかるように、基本的に店舗は看板、カラースキームも日本と同じで、洋書の配置を除けば、店内のCD、DVD、コミック、書籍、1ドル棚構成もまた同様だが、この数年、明らかにアメリカ人従業員が増えてきているという。

アメリカマーケットにおいて、MANGAがビジネスにならないとの発言は、クールジャパン失墜問題とともに考えるべきであろう]

8.1や2の異常な事態をめぐって、書協、雑協、取協、日書連は出版税制対策委員会において、消費税増税問題で、出版物の軽減税率を求め、近く共同声明を発表することを決定。

[2014年4月に8%、15年に10%に上げる際に、出版業界は新聞業界とともに、軽減税率適用を求めているわけだが、これが現実的に難しいのは自明のことになってしまっているのではないだろうか。

安倍政権は、8%に上がる時に新聞などへの軽減税率適用を求めた日本新聞協会の陳情を退けた。またさらに13年度税制改定大綱の決定にあたって、10%に引き上げる時に「軽減税率制度の導入をめざす」と明記したが、これは「導入する」のではなく、「めざす」の表現であるから、実現はまず無理だとされている。

それは出版業界も同様であり、まして新聞と異なり、出版物はただちに書籍、雑誌、コミック、教科書と四つに分けられるし、それらの線引きは困難極まりない。ポルノ雑誌やコミックはどうするのか、誰がそれを決定するのか、最初から線引きが不可能なことはわかっているはずだ。

要するに出版4団体の出版税制対策委員会の軽減税率声明も実効なきパフォーマンスに終わってしまうだろう。そのかたわらで、出版危機はさらに深刻化していくばかりだというのに]

9.リードでふれたTSUTAYAに代表される複合店のレンタル状況についても『キネマ旬報』(2/下)所収の木村尚彦「2012年パッケージソフト業界総決算」を参照し、記しておこう。

ゲオが09年から全店で実施した旧作100円低価格サービスに対抗し、TSUTAYAも昨年4月から100円レンタルを全国規模で実施し、また11月には独占レンタル商品も導入した。

この「100円戦争」にレンタル市場が巻きこまれ、結果として回転数も下がり、売上減少に直結し、ゲオやTSUTAYAも下半期は前年割れが常態化し、一般店は厳しい経営状況に追いやられている。全国各地でレンタル店閉店や大手の売却が数多く見られた。

昨年12月時点で、レンタル店は3648店で、前年比256店減。このうちTSUTAYA1400店、ゲオ1200店で、一般店シェアは3割に満たない。

キネマ旬報(2/下)

[TSUTAYAに代表されるレンタル、雑誌、書籍の複合店が大型化し、ナショナルチェーンならしめたのは、レンタルの高利益率であり、それがフランチャイズ展開を可能にしたものだった。しかしそのトレンドはピークを越えたというべきだろう。

おそらくレンタルの不振は雑誌、書籍の返品率へと跳ね返ってくるはずで、それはMPDの業績へとダイレクトに反映されていくと思われる。

なおゲオは子会社で東証1部上場のウェアハウスにTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社とする。今年のゲオとTSUTAYAの店舗シェアはどうなっていくだろうか]

10.イオン子会社の未来屋書店が駅ナカ出店を開始。

新しい店名はラテン語の未来を意味する「Futura(フューチラ)」で、第1号店はJR海浜幕張駅(千葉市)。売場面積は300平方メートルで、雑誌、書籍の他に文具と雑貨を組み合わせた店舗。

未来屋書店はイオンのショッピングセンターを中心に240店を展開しているが、今後は都市部にシフトし、坪効率の高い駅周辺への出店に力を入れるという。

[未来屋の新たな都市型バラエティショップへの移行と試みということになるのだろうか。それとも郊外ショッピングセンターの飽和状況からの転進を意味しているのだろうか。

いずれにしても、それは今後のフューチラ出店状況が教えてくれるだろう]

11.書店との直接取引や注文出荷性によっている小出版社7社が、共同DM発送、共同受注する販売促進を始めた。
その7社はトランスビュー、ころから、アルテスパブリッシング、スタイルノート、サンライズ出版、バナナブックス、ベターホーム協会。

これらの各社の新刊情報、注文チラシを入れたDMを月末に書店に郵送し、共通のフリーダイヤルFAXで注文を受ける。送付書店数はトランスビューの取引先を中心とする1000店で、委託配本の取次システムとはちがう、もうひとつのシステムをめざす。

[かつて出版社の共同DM発送はNRを始めとして、いくつかの会やグループが試みていたものだった。だがそれらは取次システムに則ったもので、委託配本に変わりはなかった。

トランスビューの工藤秀之が立案し、実務を担当するということだが、それなりに反応があるようで、成功するようにとはいわずに、まずは持続することを祈っておこう]

12.『現代思想』1月号の特集は「現代思想の総展望2013」であるのだが、その中で、『現代思想』40周年イベントの大澤真幸+成田龍一の対談「現代思想40年の軌跡と展望」が掲載されている。

現代思想 1月号
[アメリカから『リーダーズ・ダイジェスト』を発行する米RDAホールディングスが民事再生法を申請するニュースが伝わってきたが、リトルマガジンといっていい『現代思想』がよくも持続して出されてきたことに感慨を覚えた。

やはり青土社の『ユリイカ』と同様に、功罪も含め、この2誌がなければ、40年間の出版シーンは異なっていたと思われる。そのような軌跡を伝えて、この対談はいろいろな示唆を与えるし、大澤が高校生の時に、一冊だけあった『現代思想』を買ったのが、松本の鶴林堂だと聞くと、数年前に閉店したままになっている店の前を通ったことが想起された。『現代思想』創刊時の40年前の書店はどれほど残っていることだろうか。

なお上野千鶴子の「日本女性の40年」も、フェミニズムが『現代思想』と併走してきたことを喚起させる]

リーダーズ・ダイジェスト ユリイカ

13.児童文学者の鳥越信が亡くなった。

[鳥越はその児童文学コレクション12万冊をベースにした大阪の国際児童文学館の館長を務め、『日本児童文学大事典』(大日本図書)の編纂にも携わっている。

大衆文学、コミックなどと並んで、児童書も収集が難しい分野であって、彼のコレクションがなければ、児童文学研究や復刻なども遅れていたのではないかと思われる。

これも近年亡くなった紅野敏郎や谷澤永一と同様に、古書収集が研究と切り離せないことを実証したとも考えられる。そのような人たちも次々に鬼籍に入っていく]

14.「出版人に聞く」シリーズは〈10〉として、内藤三津子『薔薇十字社とその軌跡』が3月初旬発売、トークイベントも予定されている。次に古田一晴の『名古屋と ちくさ正文館』が続く。

《近刊》
薔薇十字社とその軌跡


《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》

「今泉棚」とリブロの時代 盛岡さわや書店奮戦記 再販制/グーグル問題と流対協 リブロが本屋であったころ 本の世界に生きて50年 震災に負けない古書ふみくら 営業と経営から見た筑摩書房 貸本屋、古本屋、高野書店 書評紙と共に歩んだ五〇年