出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1550 高村光雲『光雲懐古談』と田村松魚

高村光太郎のことは父の光雲を抜きにして語れないし、吉本隆明『高村光太郎増補決定版』においても、『光雲懐古談』は参照され、この父と子について、「ぬきんでた器量をもって世に出た職人と、そのだいじな優等生の総領息子の関係にほかならなかった」と述…

古本夜話1549 高村光太郎『道程』と抒情詩社

少し飛んでしまったが、吉本隆明の『抒情の論理』にふれたわけだから、『高村光太郎』(春秋社)に言及しなければならない。その前に高村の『道程』の版元の抒情詩社を取り上げておく。あらためて近代文学館複刻の高村光太郎『道程』を保護函から取り出して…

古本夜話1548 西條八十と丸尾末広『トミノの地獄』

しばらくぶりで西條八十にふれたので、気になっていたことを書いてみる。大正の詩の時代と多くの詩集の出版が昭和を迎えての雑誌、映画、新聞などのマスメディアの到来にあって、広範な分野に影響を及ぼしたはずだ。だがそれをあらためて俯瞰検証しようとす…

古本夜話1547 西條八十『少年愛国詩集』と帝国在住軍人会『新興日本軍歌集』

前回、「現代詩人叢書」に西條八十『蝋人形』があることを示しておいたが、『西條八十全集』(国書刊行会)には書影掲載されているけれど、やはり収録されていない。それはアンソロジー詩集という理由にもよっているのだろう。 西條に関してはすでに『近代出…

古本夜話1546 百田宗治詩集『静かなる時』

これも浜松の時代舎で、百田宗治の詩集『静かなる時』を買い求めている。これまで『近代出版史探索Ⅵ』1008で百田が詩話会と新潮社の『日本詩人』の中心人物であり、椎の木社と詩誌『椎の木』を主宰していたこと、また同1031で百田のポルトレを紹介しておいた…

古本夜話1545 戦前と戦後の南北社

前回、大岡信の「保田与重郎ノート」(『超現実と抒情』所収)にふれ、審美社の『神保光太郎全詩集』に言及したこともあり、当時南北社から『保田与重郎著作集』が刊行されていたことを思い出したので、それにまつわる事情も書いておこう。 昭和四十年代前半…

古本夜話1544 大岡信『超現実と抒情』と神保光太郎「悲しき昇天」

これも前回の吉本隆明『抒情の論理』を読んでいた半世紀前のことだが、続けて大岡信の「昭和十年代の詩精神」のサブタイトルが付された『超現実と抒情』(晶文社、昭和四十三年)にも目を通している。 そこで同じように三好達治が論じられていたけれど、それ…

古本夜話1543 北原白秋童謡集『風と笛』と紀元社「国民学校児童の読物」

前回、三好達治の詩集『寒柝』の初版部数が五千部で、これが国策取次日配による買切制のもとでの出版だったことから、出版社にとっても詩人にとっても、大きな利益と収入をもたらすものであったことにふれた。 その事実を反映してだと思われるが、戦時下にお…

古本夜話1542 三好達治『寒柝』

かなり前に三好達治の詩集『寒柝(かんたく)』を入手している。それは均一台から拾ったもので、著名な詩人の初版詩集とはいえ、カバーも半ば破れ、装幀も粗末であり、奥付には五千部と記載されていたからだろう。そのことに加え、『寒柝』は昭和十八年十二月…

古本夜話1541 金星堂『新文学研究』と『ジイド全集』

『日本近代文学大事典』における辻野久憲の立項には、第一書房に在職し、『セルパン』編集長を務めたとあるけれど、本探索で指摘しておいたように、これは明らかに間違いで、『近代出版史探索Ⅴ』904の福田清人、もしくは拙稿「第一書房と『セルパン』」(『…

古本夜話1540 『詩・現実』と辻野久憲

『詩・現実』第二冊から第五冊にかけて、伊藤整、辻野久憲、永松定訳のジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』が翻訳連載されるのだが、この三人の訳者たちは同時に『詩・現実』の様々な分野における寄稿者でもあった。伊藤と永松に関しては『近代出版史探索Ⅵ』…

古本夜話1539 『詩・現実』第一冊と淀野隆三

前回の三好達治が詩を寄せていた『詩・現実』全五冊は、発行所を教育出版センター、発売所を冬至書房新社として、昭和五十四年に復刻されている。これも本探索1516、1492などの『生理』『四季』と同様に「近代詩誌復刻叢刊」シリーズである。 もっとも『近代…

古本夜話1538 三好達治「郷愁」と「今日の詩人叢書」、『測量船』

三好達治の「郷愁」という詩を知ったのは『三好達治詩集』(新潮文庫)か、もしくはやはり新潮社の『日本詩人全集』の一冊で、高校の図書室においてだったと思う。その全文を引いてみる。 蝶のやうな私の郷愁!・・・・・・。蝶はいくつかの籬(まがき)を越え、午後…

古本夜話1537 長谷川巳之吉、岩佐又兵衛「山中常盤」、辻惟雄『奇想の系譜』

第一書房に関してふれてこなかったことのひとつに、長谷川巳之吉による岩佐又兵衛の「山中常盤」の入手がある。それは社屋を芝高輪南町から麹町区一番町へと移転させた昭和三年のことだった。『第一書房長谷川巳之吉』では次のように述べられている。 ところ…

古本夜話1536 萩原朔太郎『詩の原理』と磯田光一『萩原朔太郎』

前回引いた第一書房のPR誌『伴侶』はモルナアル『お互に愛したら』にふれた後、次のように続いていく。「詩集としては『詩の原理』(萩原朔太郎著)の普及版は古い形容ですが、飛ぶやうに売れました。某師範学校の教科書に採用されたり、随分出ました」。 (…

古本夜話1535 第一書房、鈴木善太郎、モルナアル『お互に愛したら』

第一書房に関しては『近代出版史探索』116を始めとして断片的にふれてきているが、これから少し続けて言及してみたい。 創業六年目の昭和五年に第一書房はPR誌『伴侶』を創刊し、そこに「第一書房と昭和四年――高速度内幕話――」が掲載され、「単行本の成績」…

古本夜話1534 中村不折『芸術解剖学』と泰西名画家伝『ティチアン』

中央美術社と日本美術学院などに関しては拙稿「田口掬汀と中央美術社」(『古本探究Ⅲ』所収)の他に、『近代出版史探索』163や『同Ⅱ』243などでも言及してきたが、やはりその後入手した本も二冊あるので、ここで取り上げておきたい。 その一冊は拙稿でも書名…

古本夜話1533 講談社『佐々木邦全集』と細木原青起の挿絵

日本漫画会は円本漫画シリーズとジョイントしていただけでなく、その他の全集などともコラボレーションしていた。それは『近代出版史探索Ⅲ』484の『現代ユウモア全集』において、岡本一平、近藤浩一路、田中比左良、細木原青起、水島爾保布、池部鈞、麻生豊…

小田光雄 逝去のお知らせ

小田光雄は、2024年6月8日、病気のため永眠しました。享年73。葬儀は近親者のみにて執り行いました。戦後社会論をライフワークとした小田光雄の出発点は『〈郊外〉の誕生と死』であり、その延長線上で、出版・古書・図書館など多岐にわたる分野を論じ、多く…

古本夜話1532 建設社「漫画講座」、日本漫画会、加藤悦郎

これは昭和初期円本時代ではなく、昭和九年に刊行されているが、やはり一連の漫画シリーズと見なせるので、続けて書いておくべきだろう。 それは建設社の「漫画講座」第四巻で、例によって浜松の時代舎で入手した一冊であり、日本漫画会編と銘打たれている。…

古本夜話1531 中央美術社『現代漫画大観』、『日本巡り』、田口鏡次郎

『漫画六家撰』の版元である中央美術社に関しては拙稿「田口掬汀と中央美術社」(『古本探究Ⅲ』所収)において、もうひとつの漫画円本企画『現代漫画大観』 を挙げ、このうちの二冊に言及している。だが最近もう一冊入手したこと、及び前回の『裸の世相と女…

古本夜話1530 中央美術社「漫画六家撰」、下川凹天『裸の世相と女』、金子文子

これも浜松の時代舎で入手したのだが、下川凹天の『裸の世相と女』が手元にある。同書は昭和四年に中央美術社から「漫画六家撰」シリーズの一冊として刊行されているので、はやり円本時代の企画のひとつに数えられるだろう。それゆえに、この「漫画六家撰リ…

古本夜話1529 平凡社『川柳漫画全集』と『寸鉄双紙(明和の巻)』

百科事典や大部の辞典類が続いてしまったが、昭和円本時代には漫画シリーズもすでに企画出版されていたことにもふれておこう。 出版における戦後のコミックの隆盛の中にいると、それが当たり前のように錯覚するけれど、昭和三十年代まではまた「ポンチ絵」と…

古本夜話1528 三省堂『日本百科大辞典』

かつて拙稿「三省堂『ウェブスター氏新刊大辞書和訳字彙』と教科書流通ルート」(『古本屋散策』所収)において、三省堂の『日本百科大辞典』はそれとは別の物語になると記したことがあった。だが本探索で平凡社の『大百科事典』を取り上げたし、『近代出版…

古本夜話1527 巌谷小波編『大語園』

本探索の平凡社は『大辞典』によって第二次経営破綻を迎えてしまうのだが、同時期にやはり売れ行きが芳しくなかったと思われるシリーズを刊行していた。それは昭和十年に始まる『大語園』である。まずは『平凡社六十年史』を引いてみる。 巌谷小波編の『大語…

古本夜話1526 平凡社版『世界興亡史論』と『印度史観』

前回ふれた平凡社の昭和六年の第一次経営破綻の前年には円本時代が終わりを迎えていたにもかかわらず、多くの全集、叢書、講座物が出されていて、それらの自転車操業的出版と雑誌『平凡』の失敗が重なり、倒産ではないにしても、開店休業の状態に追いこまれ…

古本夜話1525 平凡社『吉川英治全集』、『衆文』、『青年太陽』

『近代出版史探索Ⅵ』1058などで続けて言及した新潮社の『昭和長篇小説全集』は、円本時代の大衆文学出版の系譜上に成立した企画だが、当初の予定と異なる収録作品の事実から考えても、それらの作家たちが人気を集め、よく読まれていたことを物語っていよう。…

古本夜話1524 「家庭図書館」「総合大学」としての『大百科事典』

『近代出版史探索Ⅲ』427などで見てきたように、平凡社では昭和二年の『現代大衆文学全集』から始まり、出版社としては最多の円本の版元となっていく。この事実に関してはそれらをリストアップした拙稿「平凡社と円本時代」(『古本探究』所収)を参照され…

古本夜話1523 平凡社『大辞典』

平凡社が前回の『や、此は便利だ』という辞典から始まったことや下中弥三郎の出版構想からしても、『大百科事典』=エンサイクロペディアに対応する『大辞典』=ディクショナリーの企画を考えたのは当然の帰結であった。それに『大百科事典』のために増えて…

古本夜話1522 平凡社『や、此は便利だ』と「新しい女」

平凡社に関してはかつて「平凡社と円本時代」(『古本探究』所収)、『近代出版史探索Ⅱ』240などを書いているけれど、その後 入手したものもあるので、これらを取り上げてみる。 『平凡社六十年史』には「創業前史」として、下中弥三郎の生い立ちから大正三…