出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1337 三宅雪嶺と『志賀重昂全集』

『日本及日本人』(『日本人』)が三宅雪嶺や志賀重昂を中心とする政教社から刊行され、そこに前回の鵜崎鷺城『薩の海軍 長の陸軍』、中島端『支那分割の運命』、コナン・ドイル、藤野鉦齋訳『老雄実歴談』、『青木繁画集』、長谷川如是閑『額の男』『倫敦』…

古本夜話1336 鵜崎鷺城『頭を抱へて』と興成館書店

前回の大正二年の『日本及日本人』第六〇四号のトップ書名記事に鷺城学人「誤られたる大隈伯」が挙げられていることにふれた。これは「人物評論」としての連載の一編のようで、武内理三他編『日本近現代史小辞典』(角川書店)を参照し、大正二年三月の政治…

古本夜話1335 政教社『日本及日本人』

前回の満川亀太郎『三国干渉以後』において、大正三年に彼は『大日本』の編集者となり、その六年近くに及ぶ雑誌記者生活の中で、「日本国家改造と亜細亜復興問題」を生涯の事業と決意したと述べている。 (論創社版) この『大日本』の立項は他に見出せない…

古本夜話1334 満川亀太郎『三国干渉以後』

前回既述しておいたように、下中弥三郎『維新を語る』の出版をきっかけとして、維新懇話会が発足し、下中がその代表世話人となり、そのメンバーに満川亀太郎も名を連ねていた。 実はこの満川も『維新を語る』の翌年に平凡社から自伝『三国干渉以後』を刊行し…

古本夜話1333 下中弥三郎『維新を語る』と維新懇話会

前回の維新社だが、『平凡社六十年史』はダイレクトに言及していないけれど、昭和六年の『大百科事典』の刊行後、満州事変などを背景として、下中弥三郎の社会活動が活発になっていったことが記述されている。これを補足しているのは『下中弥三郎事典』の「…

古本夜話1332 陸軍画報社と中山正男『一軍国主義者の直言』

『神近市子自伝』において、日蔭茶屋事件で出獄後の大正九年に、彼女が四歳年少の鈴木厚と結婚したことが語られている。彼は早稲田大学を中退した評論家で、文学、歴史、社会主義に通じていて、辻潤が連れてきたのだった。 ところがその後、三人の子どもをな…

古本夜話1331 雑誌委託制の始まりと婦人誌の全盛

明治三十年代後半から大正にかけて、多くの女性誌が創刊され、大正時代には神近市子や望月百合子たちが新聞の婦人記者となり、昭和に入ると婦人誌が全盛となっていく。だが二十世紀の昭和時代が婦人誌の全盛だったことを記憶している読者や出版人はもはや少…

古本夜話1330 阿部真之助『現代世相読本』

『神近市子自伝』に戻ると、そこには思いがけない人物が出てくる。それは神近の東京日日新聞社の婦人記者としての社会的ポジションと英語ができる女性という評判が作用していたのであろう。ところがそうしたキャリアも、大正五年に大杉栄との恋愛問題で反故…

古本夜話1329 中西悟堂と『野鳥』

前々回、石川三四郎の近傍の人脈として中西悟堂の名前を挙げたが、彼は思いがけないことに『日本アナキズム運動人名事典』にも長く立項され、それは『日本近代文学大事典』も同様なので、悟堂にまつわる一編も書いておこう。 小林照幸の「評伝・中西悟堂」と…

古本夜話1328 上野英信編『鉱夫』と新人物往来社『近代民衆の記録』

前回の最後のところで、本探索で続けて言及してきた田口運蔵、片山潜、近藤栄蔵、永岡鶴蔵たちと加藤勘十が社会主義運動史において、炭鉱と鉱(坑)夫というラインでつながり、そこにゾラの『ジェルミナール』の翻訳も必然的にリンクしていたことにふれておい…

出版状況クロニクル174(2022年10月1日~10月31日)

22年9月の書籍雑誌推定販売金額は1051億円で、前年比4.6%減。 書籍は635億円で、同3.7%減。 雑誌は416億円で、同6.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が353億円で、同5.2%減、週刊誌は62億円で、同10.5%減。 返品率は書籍が30.9%、雑誌は39.4%で、月刊誌は38.4%、週…

古本夜話1327 加藤シヅエ『ある女性政治家の半生』とマーガレット・サンガー『性教育は斯く実施せよ』

前回、加藤シヅエ『ある女性政治家の半生』に関して、石本静枝時代をラフスケッチしただけなので、表記を加藤に代え、もう一編続けたい。 (日本図書センター復刻) 加藤は大正九年に渡米し、ニューヨークでバラードスクールに籍を置き、速記タイプライターな…

古本夜話1326 石本恵吉、大同洋行、エリゼ・ルクリユの蔵書

エリゼ・ルクリユ『地人論』の訳者の序には当時の石川三四郎の人脈が記され、この翻訳をめぐって吉江喬松、山下悦夫、芹澤幸治郎(ママ)、古川時雄の好意と助力を得たとされる。吉江は『近代出版史探索』189などで既述しておいたように、フランス文学者で、前回…

古本夜話1325 エリゼ・ルクリユ『地人論』

前回、石川三四郎が千歳村で「土民生活」を始め、望月百合子とともに共学社として『ディナミック』を創刊したのはルクリユの影響が大きかったのではないかと指摘しておいた。そして当時、石川がルクリユの『地人論』を翻訳していたことも。 それは昭和五年に…

古本夜話1324 共学社と『ディナミック』

本探索1321で、昭和二年に石川三四郎が世田谷の千歳村で土民生活の実践としての共学社を発足させ、それに望月百合子がパートナーとして加わったことを既述しておいた。 その共学社から昭和四年に二人の編集で、月刊紙といっていい『ディナミック』が創刊され…

古本夜話1323 新潮社「現代仏蘭西文芸叢書」と望月百合訳『タイース』

前々回もふれたように、望月百合子は百合名義で、大正十三年に新潮社からアナトオル・フランスの『タイース』を翻訳刊行している。『タイース』は『近代出版史探索Ⅴ』810で、『舞姫タイス』として取り上げているし、望月訳はこれも同815で挙げておいた「現代…

古本夜話1322 満州と和田伝『大日向村』

望月百合子『大陸に生きる』を読んでいて、舞台は満州でありながらも、日本の昭和十年代を彷彿とさせたのは、『近代出版史探索Ⅲ』530の小川正子『小島の春』や『同Ⅴ』812の白水社の『キュリー夫人伝』 が取り上げられていることである。また周作人との対話の…

古本夜話1321 望月百合子『大陸に生きる』と大和書店

前回、『女人芸術』創刊号の「評論」は山川菊栄「フェミニズムの検討」、神近市子「婦人と無産政党」に続いて、望月百合子「婦人解放への道」が並んでいることを既述しておいた。その内容にふれると、婦人解放は単なる参政権の獲得や職業上の平等だけでなく…

古本夜話1320 『女人芸術』創刊号

前回、神近市子が長谷川時雨と『近代出版史探索Ⅵ』1054の生田花世に誘われ、『女人芸術』に加わったことにふれた。 (『女人芸術』創刊号) 私は「夫婦で出版を」(『文庫、新書の海を泳ぐ』所収)を始めとして、『近代出版史探索Ⅲ』434、435などで、三上於…

古本夜話1319 エロシェンコと『神近市子自伝』

前回、神近市子がバハイ教のアグネス・アレグザンダーの部屋の常連であったことにふれた。高杉一郎は『夜あけ前の歌』において、主として『秋田雨雀日記1』に基づくと思われるが、「エロシェンコはとりわけ神近市子がすきであった」と記し、続けて次のように…

古本夜話1318 エロシェンコ、アグネス・アレグザンダー、バハイ教

これも高杉一郎の『夜あけ前の歌』で教えられたのだが、「バハイ教」と題する一章があって、エロシェンコの来日と同年の大正時代の日本に、アグネス・アレグザンダーがその布教のためにやってきて、住みついていたのである。(『夜あけ前の歌』) 「バハイ教…

出版状況クロニクル173(2022年9月1日~9月30日)

22年8月の書籍雑誌推定販売金額は801億円で、前年比1.1%減。 書籍は423億円で、同2.3%減。 雑誌は378億円で、同0.2%増。 雑誌の内訳は月刊誌が315億円で、同0.3%増、週刊誌は62億円で、前年同率。 返品率は書籍が37.9%、雑誌は41.8%で、月刊誌は41.5%、週刊…

古本夜話1317 エロシェンコ、正木ひろし『近きより』、福岡誠一

エロシェンコの人脈の中にはエスペラントや社会主義運動関係者以外にも親しい人たちがいて、高杉一郎は『夜あけ前の歌』において、「あたらしい友だち」という章を設け、大正九年に東京大学に入学した正木ひろしや福岡誠一の名前を挙げている。(『夜あけ前…

古本夜話1316 『文求堂唐本目録』と中国語教科書出版

魯迅とエロシェンコの関係もあって、藤井省三の『東京外語支那語部』(朝日選書、平成四年)も読み、文求堂が東京外語グループによる『現代中華国語文読本』『支那現代短篇小説集』『魯迅創作選集』を刊行し、教科書革新運動と魯迅の紹介を担ったことを教え…

古本夜話1315 魯迅とエロシェンコ

本探索1308、1309、1310と続けて魯迅にふれたので、ここでエロシェンコとの関係にも言及しておくべきだろう。魯迅の『吶喊』は北京の文芸クラブ新潮社の「文芸叢書」第三巻として刊行されたのだが、その第二巻は魯迅訳によるエロシェンコの『桃色の雲』であ…

古本夜話1314 吉本隆明「〈アジア的〉ということ」とヘーゲル、河野正通訳『歴史哲学緒論』

前回の昭和十年代の東洋、支那、アジアという出版のコンセプトからただちに想起されるのは、吉本隆明の「〈アジア的〉ということ」(『ドキュメント吉本隆明』1、弓立社、平成十四年)である。その「序」にあたる「『アジア的』ということ」で、吉本はヘー…

古本夜話1313 佐野袈裟美『支那歴史読本』

続けて日本評論社「東洋思想叢書」や大東出版社『支那文化史大系』にふれてきたが、昭和十年代に入ると、東洋、支那、アジアにまつわる企画が多く出されるようになり、それらは単行本にしても、シリーズ物にしても、かなりの量に及んだと推測される。 (「東…

古本夜話1312 大東出版社『支那文化史大系』と楊幼炯『支那政治思想史』

前回、大東出版社「東亜文化叢書」を挙げたが、その後、浜松の典昭堂で同社の『支那文化史大系』の一冊を入手している。これは菊判函入の学術書的装幀と造本で、巻末広告によれば、全十二巻とある。そのラインナップを示す。 1 呂思勉 小口五郎訳 『支那民族…

古本夜話1311 日本評論社「東洋思想叢書」

日本評論社の「東洋思想叢書」は企画編集者の赤木健介によれば、当初全八十三冊の予定だったとされる。ただこの「叢書」は『全集叢書総覧新訂版』にも記載されていないので、赤木が挙げている長与善郎『韓非子』を入手して確認してみると、「刊行予定書目」…

古本夜話1310 竹内好『魯迅』と赤木健介

藤井省三『魯迅「故郷」の読書史』では近代中国における「故郷」の読書変遷史がたどられているのだが、日本での魯迅の受容とそのプロセスはどのようなものであったのだろうか。 それは前々回、竹内好訳『魯迅文集』第一巻所収の「故郷」をテキストとしたこと…