21年9月の書籍雑誌推定販売金額は1102億円で、前年比6.9%減。
書籍は659億円で、同3.8%減。
雑誌は442億円で、同11.1%減。
雑誌の内訳は月刊誌が372億円で、同12.1%減、週刊誌は70億円で、同5.6%減。
返品率は書籍が31.6%、雑誌は41.2%で、月刊誌は40.6%、週刊誌は44.0%。
前年のコロナ禍巣ごもり需要や『鬼滅の刃』の神風的ベストセラーの余波も止んだようで、
再び6月から前年比マイナスが4ヵ月にわたって続いている。
10月から緊急事態も蔓延防止処置も解除され、年末へと向かっていくが、果たしてどうなるであろうか。
1.出版科学研究所による21年1月から9月にかけての出版物販売金額の推移を示す。
月 | 推定総販売金額 | 書籍 | 雑誌 | |||
(百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | |
2021年 1〜9月計 | 917,926 | 0.5 | 520,557 | 2.4 | 397,370 | ▲2.0 |
1月 | 89,651 | 3.5 | 50,543 | 1.9 | 39,108 | 5.7 |
2月 | 120,344 | 3.5 | 71,855 | 0.6 | 48,490 | 8.0 |
3月 | 152,998 | 6.5 | 97,018 | 5.9 | 55,980 | 7.7 |
4月 | 107,383 | 9.7 | 58,129 | 21.9 | 49,254 | ▲1.8 |
5月 | 77,520 | 0.7 | 42,006 | ▲0.9 | 35,515 | 2.6 |
6月 | 96,623 | ▲0.4 | 49,074 | 0.2 | 47,548 | ▲0.9 |
7月 | 82,077 | ▲11.7 | 42,677 | ▲4.6 | 39,400 | ▲18.2 |
8月 | 81,109 | ▲3.5 | 43,333 | ▲0.1 | 37,776 | ▲7.2 |
9月 | 110,221 | ▲6.9 | 65,922 | ▲3.8 | 44,299 | ▲11.1 |
幸いにして、9月までは9179億円で、前年比0.5%増となっているが、6月からは連続4ヵ月マイナスであることからすれば、21年も前年比減は避けられないだろう。そうなると1兆2000億円を割ってしまうことになるかもしれない。
それに加えて、コロナかとコミックの好調の中にあって、一時的に保たれていた書店状況が、さらにドラスチックに悪化していく可能性もある。その要因は本クロニクルでもたどってきたように、大手出版社を中心とするコミックのデジタル化とその配信、アマゾンとの直取引なども相乗していくだろう。
またすでにアマゾン直取引は3600社に及んでいるとされるので、取次ルートの数字に基づく出版物販売金額の数字に強くはね返っていくかもしれない。
9月の書店閉店は40店を超え、またしても増え始めたように感じられる。今年も余すところ2ヵ月となった。
2.インプレス総合研究所によれば、2020年度電子書籍市場規模は4821億円、前年比28.6%増。
その内訳はコミックが4000億円を超える83.0%に及ぶが、写真集なども含む非コミックも556億円、同14.9%増となっている。
本クロニクル154で、出版科学研究所による20年電子出版市場が3931億円であることを既述しておいたが、インプレス総合研究所データは20・4・1から21・3・31と時期が異なるにしても、900億円近くの上乗せとなる。
それは「kindleストア」(アマゾン)、「楽天kobo電子書籍ストア」(楽天グループ)、「ebookjapan」(イーブックイニシアティブジャパン)などの大手電子書籍ストアの成長、200を超えた電子図書館の増加も影響しているのだろう。
これも本クロニクル153で、20年の出版物推定販売金額として、書籍が6661億円、雑誌が5576億円であることを示したが、インプレス総合研究所の電子書籍市場規模に従うならば、おそらく数年内に雑誌だけでなく、書籍も上回ることになる。
前回、集英社の決算にふれ、書籍雑誌の売上高380億円に対して、デジタル・版権収入が936億円に及んだことをレポートしておいた。それに小学館や講談社も続いていくであろうことも。
そうなれば、取次と書店はどうなるのか。そうした電子書籍市場に、取次と書店は対峙していかざるを得ないところまできてしまったのである。
3.精文館書店の決算は売上高220億9500万円で、前年比6.3%増と過去最高で、当期純利益4億900万円、同17.3%増の2期連続増収増益決算。
4.大垣書店の決算は売上高132億5000万円で、前年比9.3%増で、3と同様に過去最高とされる。
5.11月に丸善が大阪松原市にセブンパーク天美店を282坪、紀伊國屋書店が山口県下松市にゆめタウン下松店を250坪オープン。
6.日本経営センター子会社のフローラル出版の姉妹会社BRCが、ふたば書房の京都駅八条口店を共同運営。
BRCは55坪のうちの10坪を「売場の広告化」し、同店の家賃や人件費などを負担し、売上はBRCに計上する。ふたば書房は日販から仕入れ、BRCに卸す2次取次という立場になる。
7.楽天BN帖合の一般書店が日販へと変更。
その書店数が800に及ぶ「楽天→日販への移行表」は地方・小出版流通センターの「取引出版社様」にあるので、ダウンロードできる。
8.那須ブックセンターが12月末で閉店。
9.日書連は加盟書店に対する21年度一般賦課金7400円を5400円に減額。
明暗こもごもの書店状況を列挙してみた。
3、4、5の大手書店、及び取次傘下グループは出店を続け、異業種も組みこむことで、売上を維持し、伸ばすという構図だが、どこまで続くのか。
6は他業種とのコラボレーションだが、立地の問題が大きく、どの書店にも応用できるものではない。おそらく店舗貸借契約期間がまだ残っているので、その間のつなぎのようなかたちで試みられたのであろう。
7の日販への帳合変更が数も多く、すべての書店がスムーズに移行するのかが気にかかる。 日販にしても、取引選別は不可欠だと考えるからだ。
8の那須文化センターは『出版状況クロニクルⅥ』で危惧しておいたとおりの結果となった。
同センターは株式会社書店と本の文化を拡める会が栃木県那須市で55坪のコンビニ閉店店舗を安く借り、2017年に開店している。
代表取締役を務めるベレ出版の内田眞吾会長が私財から3000万円の初期費用を負担して始まったが、赤字続きで、さらに持ち出しとなったと推測される。
当初はマスコミの取材や露出も多く、売れると思いこんでしまったのだろう。『本の雑誌』(5月号)が「本屋がどんどん増えている!」という無責任な特集を組んでいたが、「本屋」と「書店業」の区別も弁えていないことは明白である。9は現在の日書連加盟書店の窮状を示す象徴的な減額であろう。2000円といえば、1万円の売上の粗利だから、そこまで追いつめられていることになろう。
コロナ禍の中で、書店閉店は減少気味であったけれど、9月はTSUTAYAを始めとして増加しつつある。それはこれからも続いていくだろう。
10.出版物貸与権センターは20年度分貸与権使用料として、17億円を54の契約出版社に分配した。出版社を通じて、著作権者にさらに分配される。
昨年の分配額は14億9000万円だから、前年比14%増、レンタルブック店は1781店で、こちらは同75店減。
レンタルブック店は減っていても、貸与権使用料は増えたわけだから、コロナ禍の巣ごもり需要とコミック人気が結びつき、このような増になったのだろう。
レンタルブック市場規模はわからないけれど、貸与権使用料17億円を考えれば、かなりの規模になるし、現在のDVDなどのレンタル複合店にしても、動画配信の影響によるDVDの落ち込に対し、コミックは前年を上回っているので、他の売場に替えられることはないはずだ。だがこれ以上電子コミック配信が増えていけば、当然のことながらレンタルコミックにも影響が出てくると思われる。
11.新聞や出版などのマスコミ業界専門誌『新聞展望』が休刊。
同誌は1952年創刊で、令和とコロナ禍を迎え、「真実・自由・勇気」を信条とする業界紙としての一定の役割を終えたとの判断からとされる。
かつてはよく『新聞展望』も見かけたが、近年はまったく目にしていなかった。『出版ニュース』に続く「業界紙」の休刊で、これまでの所謂「業界」すらも消滅していくことを問わず語りに伝えているように思われる。
いずれにせよ、近代出版業界は終焉しようとしている。
12.岩波書店の坂本政謙社長が『文化通信』(10/19)のインタビューに応じているので、それを要約してみる。
*これまで通りでは立ち行かなくなるので、「岩波書店」の看板以外はすべて変えるという思いがなければ、外部環境に対応できず、淘汰されていく。
*「岩波書店」の看板を裏切らずに、書籍をトータルにプロデュースし、営業も編集者もそれを実践していく。
*電子書籍化は文庫、新書が中心で、単行本はほとんどなかったけれど、コロナ禍で電子版ニーズもあるとわかったので、その対応も進めていく。
*新卒採用はしばらくやっておらず、社員の年齢は日本社会と同じ高齢化だが、自分が56歳、執行役員の書く編集、製作、営業担当の3人は40代である。
*昨年は『宮崎駿とジブリ美術館』、桐野夏生『日没』、梨木果歩『ほんとうのリーダーのみつけかた』、『岸恵子自伝』がよく売れた。
*買切はこの出版状況下で、積極的に変えなければならないと思っていない。
結局のところ、新社長として何も言っていないに等しい。現在の出版状況下において、看板と買切制は変えずに、営業も編集も一丸となって、現在に見合う書籍を送り出し、売っていくしかないということに尽きる。とても「業界全体の問題として対応を考えて」いるとは思えない。
この一年間に二度、岩波文庫が棚一本分、ブックオフで売られているのを見た。一方は青帯の哲学系、他方は緑帯の日本文学系で、いずれも110円であった。それはもはや驚くべきことでもないが、それだけの分量が地場の古本屋に売られず、ブックオフに持ちこまれてしまったことに問題が凝縮しているのではないだろうか。
かつての岩波文庫の読者であれば、親しい古本屋がいるのが当たり前で、読者、書店、古本屋の三位一体が成立していた。しかしもはやそのようなコミュニティは崩壊してしまったのである。
これからはそれが常態になるだろうし、そのことも淘汰の原因となるかもしれない。
13.「岩波ブックレット」(No.1052)の駒込武編『「私物化」される国公立大学』を読んだ。
私はアカデミズムに属していないので、日本学術会議問題にしても、ほとんど関心がなかった。
しかし直販誌などでは毎月のように法人化された大学と病院の不祥事がレポートされ、それにこのブックレットが提起している問題を重ねると、私がこれから出していくつもりのいくつかのコモン論とリンクする病巣のように見えてきた。
ここではこうした国公立大学の「私物化」が政府自民党による新自由主義的改革に起因すると述べられているけれど、グローバリゼーションとインターネット環境に包囲されつつある中での、日本社会の大政翼賛会化と見なすべきではないだろうか。
14.アマゾンが個人の紙の書籍をネットの「キンドルストア」で出版・販売できるサービスを発表。
サービス名は「キンドル・ダイレクト・パブリッシング」で、これまでは電子書籍だけが可能だったが、コミックも含む全ジャンルが紙でもできるようになる。
注文に応じての印刷であり、著者は在庫を抱えることはなく、販売価格も自分で決められ、印税も最大60%受け取れる。
これはアマゾンによる自費出版の取りこみということになろう。
自費出版市場規模は不明だが、大手出版社の場合、その経費は数百万円に及ぶらしく、誰でも出すことができるものではないようだ。それは地方新聞社も含めて、新聞社の自費出版も同様で、ブランド料が高いのである。
そうした自費出版だけでなく、学術書、研究書、翻訳書などにしても、助成金付きのものが多いので、それらを含めると、トータルとしての自費出版市場はかなり大きなものになると推測される。
それらのすべてをアマゾンが囲い込んでいけば、そうした自費出版の分野でも、アマゾンが一人勝ちということになってしまうかもしれない。
15.落合博『新聞記者、本屋になる』(光文社新書)を読了。
私はこうした本を読むことはほとんどないのだが、書店で見て、巻末の[本屋を始めるにあたって参考にした本と雑誌]リストに、このような本にしてはめずらしく、拙著と「出版人に聞く」シリーズ6冊が挙がっていたので、購入してきたのである。
この本を読み、現在の「本屋」をめぐる状況と環境、情報と人脈が、私が試みた「出版人に聞く」とはまったく異なることを教えられた。
そしてまた本屋にはイベント、カフェ、雑貨がつきもので、それでいてどのように採算がとれているのか不明であることも。
台東区寿の落合が店主を務めるReadin `Writin′ BOOKSTOREは2017年に始まり、現在まで営まれている。ご自愛をと祈るしかいいようがない。
この本にも出てくるマルジナリア書店の小林えみが『人文会ニュース』(No.138)に、「置いてある本が売れる」という一文を寄せ、2021年1月に開店した同書店で、100冊以上販売した書籍が7点あると書いていた。それはどのような本なのであろうか]
jinbunkai.com
16.『東京人』(11月号)が特集「谷口ジロー」を組んでいる。
谷口が2017年に亡くなった際には、『出版状況クロニクルⅥ』において、『LIVE ! オデッセイ』(双葉社)のレゲエシーンを引き、追悼に代えたことがあった。
この特集でも夏目房之介によって『LIVE ! オデッセイ』は「ロックやレゲエの音に満ちた場面を、擬音や動線・効果線も入れずに描く試みを成功させた。これは音楽描写の革新であった」と評されている。
谷口がフランスの「バンド・デシネ」を愛し、また彼がフランス語圏の「バンド・デシネ」作家として著名であることも知られていて、この特集でも原正人「バンド・デシネ作家として欧米で愛される理由」が寄せられ、フランス語訳された書影も掲載されて楽しい。
『遙かな町へ』はフランスで映画化され、私もDVDで観ている。そのフランス語訳は25ユーロながら30万部を超えているという。
これは今年になって読んだのだが、やはり原訳、グヴィッド・ブリュドム『レベティコ』(サウザンブックス)の一冊がある。これはギリシャのスラム街のブルースをテーマとするもので、『LIVE ! オデッセイ』の音楽シーンを彷彿とさせた。
私は「バンド・デシネ」のファンというわけではないけれど、すっかり感心してしまった。ブリュドムも谷口を読んでいたかもしれないのだ。
今年は『ベルセルク』(白泉社)の三浦建太郎、『ゴルゴ13』(リイド社)のさいとうたかをも鬼籍に入ってしまった。かつて私は船戸与一=外浦吾郎原作の『ゴルゴ13』を論じてもいたのである(拙著『船戸与一と叛史のクロニクル』所収)
この二人も谷口のような特集が組まれるといいのだが。
ここまで書いている時に白土三平の死が伝えられてきた。
拙著『近代出版史探索外伝』のタイトルの「外伝」が『カムイ外伝』に由来するのはいうまでもないだろうし、私は戦後の漫画として、白土の『忍者武芸帳』を一番に挙げたいと思う。いずれ「神話伝説シリーズ」も含んだ白土論を書くつもりだ。
17.『韓流スター完全名鑑2022』(コスミック出版)を購入。
これは1211名の男優、女優の詳細データを収録した一冊で、2000円のムックとして、高い平積みとなっていたことからすれば、初版は10万部近かったのではないだろうか。
本クロニクルでも既述してきたけれど、昨年ネットフリックスで『愛の不時着』を観て以来、すっかり韓国の映画とラブコメドラマにはまってしまい、DVDと動画配信で毎日のように楽しんでいる。
するとわかってきたのは、韓国の映画やドラマはかつて日本の映画全盛時代のプログラムピクチャーのように生み出され、それを多彩な主演男優、女優たちだけでなく、きわめて層の厚いバイプレイヤーたちが支えているという事実だった。その典型が『愛の不時着』であろう。
ところがなかなか俳優名を覚えられないので、格好の一冊をと思っていたところに『韓流スター完全名鑑2022』が出されたのである。これを手元に置き、俳優名をたどっていくのは楽しい。
私は映画の確認のために、キネマ旬報社の『日本映画俳優全集・男優編』『同女優編』のシリーズを常備しているが、それにこの一冊を加えることにしよう。
18.書店のバーゲン雑誌コーナーに21年の『映画秘宝』(双葉社)2月号と5月号があったので、購入してきた。
前者は50%OFF、後者は20%OFFからさらに80%OFFとなっていたけれど、いずれも100円だった。
定価は1320円だから、1220円引きとなる。返品されたバックナンバーがTSUTAYA系傘下書店に放出されたのであろうが、出版社出し正味は定価の10%ほどなのであろうか。
同じコーナーには十種類以上の雑誌が並んでいたが、『映画秘宝』のような趣味性の強い雑誌であればともかく、一般的な雑誌などは安くとも売ることは難しいだろう。
それで思い出したのは塩澤実信の『倶楽部雑誌探究』(「出版人に聞く」13)における証言で、双葉社は返品された十種類以上の「倶楽部雑誌」をすべて全国卸商業協同組合へと放出し、特価本として全国で売り捌いていたというエピソードである。
何か時代が巻き戻されていると思うのは私だけだろうか。
19.『近代出版史探索外伝』に続いて、中村文孝との対談集『全国に30万ある「自治会」って何だ!』が11月中旬に刊行予定。
さらにコモン論第二弾としての『図書館について知っている二、三の事柄』の対談も終えているので、来年早々に出せるであろう。
論創社HP「本を読む」〈69〉は「あぽろん社と高橋康也『エクスタシーの系譜』」です。
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