出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2012-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話244 杉谷代水と『書翰文講話及文範』

楠山正雄のことを確認するために『冨山房五十年』に目を通していて、冨山房の創業時代の功労者で故人となった人たちを写真入りで紹介している数ページがあり、そこに杉谷代水も含まれていることに気づいた。その写真は他の編集者たちよりも大きく、それは付…

古本夜話243 平凡社『世界美術全集』と中央美術社

本連載や『古本探究3』で、近代出版史において重要な人物が、隆文館の草村北星と中央美術社の田口掬汀ではないかと何度も既述してきた。それは私見のみならず、すでに紹介しておいたように、小川菊松も『出版興亡五十年』の中で、新潮社の佐藤義亮と並んで…

ブルーコミックス論54 岡崎京子「Blue Blue Blue」(『恋とはどういうものかしら?』所収、マガジンハウス、二〇〇三年)

前回岡崎京子によるボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』にふれたこともあり、表題作でも長編でもない短編だけれど、ここで彼女のブルーコミックにも言及しておこう。その「Blue Blue Blue」は九六年に『アンアン』に発表されたこともあってか、岡崎の多く…

古本夜話242 平凡社、下中緑、権藤成卿『自治民範』

本連載199で、渋谷定輔の『農民哀史』(勁草書房)にふれたが、これについては別の機会にゆずると書いておいた。ところが前々回『世界家庭文学大系』と『世界家庭文学全集』を確認するために、久しぶりに尾崎秀樹の手になる『平凡社六十年史』に目を通し…

古本夜話241 大村謙太郎と精華書院

前回、精華書院にふれたように、そこから秋田雨雀の『太陽と花園』が出され、それはほるぷ出版の「名著複刻 日本児童文学館」の一冊として、昭和四十九年に刊行されている。 『太陽と花園』『太陽と花園』は大正十年の発行で、これが「創作童話」の一篇であ…

ブルーコミックス論53 ジョージ朝倉『バラが咲いた』(講談社、二〇〇三年)

なぜ『バラが咲いた』がブルーコミックスに挙げられているかというと、英訳タイトルとしてBlue Rose Bloomed とあるように、このバラは他ならぬ青いバラを意味しているからだ。しかもこれは五つの作品から編まれているのだが、もう一編「青色的少年」(Le Ga…

古本夜話240 平凡社『世界家庭文学大系』、精華書院、楠山正雄訳『不思議の国』

『楠山正雄の戦中・戦後日記』における三香男の「解説」によれば、楠山が昭和十七年から日記をつけ始めたのは、長女冨美の見合いから婚礼に至る記録のためであったようだ。その結婚相手の同盟通信ハノイ支局長前田雄二は前田晁の息子で、前田と楠山は早稲田…

古本夜話239 楠山正雄『夢殿』と講談社版『小川未明童話全集』

楠山三香男編『楠山正雄の戦中・戦後日記』(冨山房)はタイトルに示されているように、楠山の日記の部分が半分以上を占め、それは昭和十七年九月から死に至る前年の二十四年四月に及んでいる。戦前はまだ『国民百科大辞典』に引き続いて、冨山房の『国史辞…

出版状況クロニクル53(2012年9月1日〜9月30日)

出版状況クロニクル53(2012年9月1日〜9月30日)先月三島の北山書店の閉店と半額セールにふれたが、今月もう一度訪れることができた。かなり売れているようで、山積みになっていた在庫も明らかに減り、これまで目にする機会がなかった棚も見え、ずっと探して…

古本夜話238 楠山正雄と『国民百科大辞典』

既述しておいたように、楠山正雄は明治末期から昭和十年代にかけて、三つの辞典の編集に携わっている。最初は早稲田文学社の『文芸百科全書』で、これは隆文館から刊行され、後の中央公論社の『世界文芸大辞典』全七巻のベースとなったものである。そして冨…

古本夜話237 冨山房「模範家庭文庫」と平田禿木訳『ロビンソン漂流記』

楠山正雄の「模範家庭文庫」というと、たちどころに山本夏彦の同名のエッセイ「模範家庭文庫」(『「戦前」という時代』所収、文春文庫)を思い出す。そこで山本は次のように書いていた。 模範家庭文庫は文庫とはいえ菊判(今のA5判よりやや大)、厚表紙、天…

ブルーコミックス論52 原作朝松健・漫画桜水樹『マジカルブルー』(リイド社、一九九四年)

物語のプロローグとして、Dを横にしたマークを掲げた魔術スクールの授業シーンが描かれ、そこで学んだひとりの女子学生が魔術儀式を行ない、ペットを虐殺したり、男子高生を死に追いやったりする場面がまず提出されている。魔術スクールと彼女の背後にいる…

古本夜話236 博文館「近代西洋文芸叢書」とシユニツツラア、楠山正雄訳『広野の道』

これから楠山正雄の編集者としての軌跡をたどっていくつもりだが、その前に早稲田文学社の『文芸百科全書』に続く仕事として、博文館の「近代西洋文芸叢書」におけるシユニツツラアの『広野の道』の翻訳にふれておきたい。博文館の「近代西洋文芸叢書」は『…

古本夜話235 楠山正雄『近代劇十二講』

しばらく飛んでしまったが、大正時代の戯曲や演劇のことにもう一度ふれてみたい。 大正時代の戯曲や演劇をめぐって何編か書き、『秋田雨雀日記』なども参照してきたが、それらに必ず登場してくる人物がいて、それは楠山正雄である。金子洋文の『投げ棄てられ…

ブルーコミックス論51 名香智子『水色童子K.K.』(小学館、二〇〇四年)

この『水色童子K.K.』を取り上げるべきか、いささか迷ったのだが、これもタイトルはブルーに属しているし、挙げておくべきだと判断したのである。本連載で後述することになるボリス・ヴィアンに『北京の秋』(岡村孝一訳、早川書房)というブラックユーモア…

古本夜話234 大原社会問題研究所と同人社『日本社会主義文献』第一輯

前回の同人社と大島秀雄について、その後法政大学社会問題研究所編『大原社会問題研究所五十年史』を読んだこと、及び昭和四年の同研究所編、同人社刊行『日本社会主義文献』第一輯を入手したこともあるので、もう一編書いておきたい。それはまたこれまで参…

古本夜話233 同人社、大島秀雄、石浜知行『闘争の跡を訪ねて』

梅田俊英は『社会運動と出版文化』(御茶の水書房)において、改造社が『改造』を左翼的編集にすることで当った現象を背景に、大正九年頃からジャーナリズムの左翼化が生まれ、商業的左翼出版社も発生していったと述べ、それらの出版社として叢文閣、大鐙閣…

ブルーコミックス論50 吉田基已『水の色 銀の月』(講談社、二〇〇六年)

『水の色 銀の月』のストーリーを紹介することから始めてみよう。これは2巻本だが、1巻と2巻は登場人物が同じであるにしても、主人公も物語も異なるものなので、それは1巻についてだと了承されたい。亜藤森は日吉ヶ丘芸術大学の6年生で、2浪に2留を重ねてい…

古本夜話232 光風館、中興館、矢島一三『八洲漫筆』

前回泰平館と提携していた中興館にふれたこともあり、ここで中興館に関する一編を書いておきたい。本連載63や203でも中興館を取り上げてきたが、創業者の矢島一三も含めて断片的であり、『出版人物事典』における立項をベースにして、いくつかの事柄を添えた…

古本夜話231 クロポトキン『相互扶助論』、『飼山遺稿』、泰平館書店

クロポトキンの『相互扶助論』に関する翻訳のことは、もう少し後で論じるつもりだった。だが『山川均自伝』にすでに記されていたように、三徳社のクロポトキン原著、山川訳補『動物界の道徳』が、『相互扶助論』の第一章の「動物の相互扶助」であり、幸徳秋…

出版状況クロニクル52(2012年8月1日〜8月31日)

出版状況クロニクル52(2012年8月1日〜8月31日)『出版状況クロニクル3』において、10年に日本古書通信社から刊行された『古本屋名簿』を紹介しておいた。これは全国の2000余の古本屋を紹介した最新の情報を収録している。 そこにも収録されている三島の北…

古本夜話230 田中英夫『山口孤剣小伝』と京華堂・文武堂『東都新繁昌記』

前回ふれた『山川均自伝』の中に、「赤旗事件が起きるまで」という一章があった。そこで『平民新聞』の筆禍により、服役していた山口孤剣の神田での出獄歓迎会をきっかけにして起きた、所謂「赤旗事件」のことがレポートされている。この明治四十一年の事件…

古本夜話229 白揚社、三徳社「民衆科学叢書」、有楽社「平民科学」

ここで再び左翼系出版社に戻る。梅田俊英の『社会運動と出版文化』において、「白揚社は商業的左翼物出版社のひとつの典型」で、当時の左翼からもあまり信頼を得られていなかったと指摘されている。しかしこれは出版ジャーナリストの甘露寺八郎の見解を踏襲…

ブルーコミックス論49 かわかみじゅんこ『軽薄と水色』(宙出版、二〇〇七年)

今回の『軽薄と水色』の「水色」は、前回のような夏休みを具体的に表象する色彩ではなく、若さ、それは「軽薄」の代名詞でもあるが、に伴う様々な感情のメタファーと見なせるだろう。それを示すかのようにfrivolité et blue clair というフランス語訳タイト…

古本夜話228 『婦人之友』と『羽仁もと子著作集』

続けて内外出版協会にふれ、その光というよりも影の部分にずっと焦点を当ててきたので、最後となる今回は、同協会から巣立った雑誌と出版社に言及してみる。内外出版協会の創業者山縣悌三郎の自伝『児孫の為めに余の生涯を語る』(弘隆社)において、明治三…

古本夜話227 三陽堂、東光社、三星社と菊池山哉

本連載218で、三陽堂、東光社、三星社については稿をあらためたいと書いた。この三社の本を何冊か集めてからにしようと思っていたからだ。しかし別のところで例を挙げ、書いていると本も出てくると記しておいたのだが、それがこの三社にも当てはまり、初…

ブルーコミックス論48 大石まさる『みずいろパーフェクト』(少年画報社、二〇〇八年)

前回と物語はまったく異なるにしても、夏であるから、それにふさわしい一編を続けてみよう。大石まさるのその『みずいろパーフェクト』を手にする以前に、同じ少年画報社から出された「水惑星年代記」シリーズを読んでいた。この五部作に、大石の水に関する…

古本夜話226 六盟館と新渡戸稲造 『ファウスト物語』

本連載220の佐々木邦訳『全訳ドン・キホーテ』のところで、島村抱月、片上伸共訳『ドン・キホーテ』は「村山何とかいう人」の名訳との、宇野浩二の『文学の三十年』などにおける証言を引いておいた。そこで宇野はこの名訳が森鷗外訳『ファウスト』、上田…

古本夜話225 前川又三郎、前川文栄閣、小島烏水『日本アルプス』

山縣悌三郎の内外出版協会のところで、『文庫』やその編集者の小島烏水にもふれたこともあり、烏水の山岳紀行文学の重要な著作を刊行した前川文栄閣のことも書いておこう。それは『日本アルプス』であり、岩波文庫に同様のタイトルで、アンソロジーが収録さ…

ブルーコミックス論47 グレゴリ青山『マダムGの館 月光浴篇』(小学館、二〇一〇年)

われ月明の砂丘にまろびて蜃気楼(かいやぐら)を観たり、楼上に一女仙ありてわれにくさぐさの恠(あや)しき物語などなしけり。横溝正史「かいやぐら物語」猛暑が続いているので、暑気払いのような一編を記してみたい。 一九九〇年に出版された石川賢治の写真集…