出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2017-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話709 鹿子木員信『すめら あじあ』

前回の朝倉書店の「現代哲学叢書」の推薦者の一人として、鹿子木員信の名前を挙げておいたが、彼は『現代日本朝日人物事典』に立項されているので、まずはそれを引く。 鹿子木員信1884・11・3~1949・12・23/かのこぎ・かずのぶ 思想家。東京都生まれ。1904…

古本夜話708 朝倉書店、「現代哲学叢書」、斎藤晌

大東亜戦争下においては出版社も総動員体制となり、それは哲学の分野にも及んでいった。その典型を朝倉書店の「現代哲学叢書」にも見ることができる。朝倉書店は同文館出身の朝倉鑛造によって昭和四年に創業された賢文館の後身で、教育書や農業書の出版から…

古本夜話707 「アジア内陸叢刊」と三橋富治男訳『トウルケスタン』

前回の『東亜学』の中に、生活社の鄧雲徳『支那救荒史』(川崎正雄訳、昭和十四年)の書評が掲載されていたことを既述しておいた。生活社に関しては本連載131で創業者と設立事情、同578で雑誌『東亜問題』を刊行したことに言及しているが、「アジア内…

出版状況クロニクル113(2017年9月1日~9月30日)

17年8月の書籍雑誌の推定販売金額は976億円で、前年比6.3%減。 書籍は464億円で、同3.7%減、雑誌は511億円で、同8.6%減。 雑誌の内訳は月刊誌が419億円で、同6.9%減、週刊誌は92億円で、同15.7%減。 返品率は書籍が42.2%、雑誌は44.4%で、月刊誌は45.3%、週…

古本夜話706 『東亜学』、日光書院、米林富男

大東出版社の「東亜文化叢書」、彰国社、龍吟社の「東亜建築撰書」と続けてきたので、もうひとつ日光書院の『東亜学』にもふれてみたい。 これは昭和十四年九月に第一輯が出され、裏表紙には『ORIENTALICA』とあり、英文目次も付されている。その後、同十九…

古本夜話705 島村抱月『文芸百科全書』と隆文館

前回久し振りに草村北星の龍吟社にふれたので、これも本連載151などで言及している北星が以前に設立した隆文館の書物に関する一編を挿入しておきたい。 これは本連載71でも既述していることだが、かつて「『世界文芸大辞典』の価値」(「古本屋散策」4…

古本夜話704 藤岡通夫『アンコール・ワット』と「東亜建築撰書」

本連載680で、農業書の養賢堂も南洋関連書を刊行していることにふれたが、それは建築書の分野にあっても同様で、彰国社からも「東亜建築撰書」が出されている。 この「撰書」に関しては本連載158「龍吟社と彰国社」で言及し、彰国社が戦時下の企業整備…

古本夜話703 井東憲『南洋の民族と文化』と「東亜文化叢書」

大東出版社は前々回の東亜協会との関係の他に、「東亜文化叢書」というシリーズも刊行している。国会図書館を調べると、九冊刊行されているが、昭和十六年十月時点で、四冊までは出版されている。それらを挙げてみる。 1. 実藤恵秀 『近代日支文化論』 2. 井…

古本夜話702 二宮尊徳偉業宣揚会と『二宮尊徳全集』

前回、『東亜連盟』の発売所が育生社で、その住所が『要説二宮尊徳新撰集』の二宮尊徳翁全集刊行会と同じであることから、両社は同じではないかとの推測を述べておいた。 そこで『二宮尊徳全集』の戦前における出版を、書誌研究懇話会編『全集叢書総覧新訂版…

古本夜話701 『東亜連盟』と育生社

前回の東亜協会が北支事変と同時に創立された華北協会の後身で改称されたこと、また同時期に、石原莞爾や宮崎正義たちによって思想運動団体としての東亜連盟が結成されたことを既述しておいた。 東亜連盟は『日本近現代史辞典』に立項されているので、それを…

古本夜話700 東亜協会編著『北支那総覧』

前回岩野夫妻の大東出版社にふれたこともあり、この版元の仏教書以外の書籍も取り上げておきたい。 まずは東亜協会編著『北支那総覧』で、昭和十三年の刊行である。菊判上製五〇五ページ、入手したのは裸本だが、定価が参円八拾銭とされていることからすれば…

古本夜話699 仏教経典叢書刊行会と立川雷平

もう一冊、大正時代の仏教書が残されているので、これもここで書いておこう。それは『現代意訳維摩経解深密教』である。同書は 著訳者を岩野真雄とし、仏教経典叢書刊行会から出版されている。 本連載513で『維摩経』については既述しておいたが、同じく…

古本夜話698 『岩波哲学小辞典』、伊藤吉之助、仲小路彰

前回の仲小路彰のことだが、『砂漠の光』をきっかけにして、出版の世界に足を踏み入れたようで、その痕跡を残している一冊がある。それは岩波書店の四六判『岩波哲学小辞典』に他ならない。これは昭和五年に初版、十三年に増訂版が出され、戦後に至るまでの…

古本夜話697 仲小路彰『砂漠の光』

これはその出版経緯と事情もまったくつかめていないけれど、やはり新光社から大正十一年に仲小路彰の長篇戯曲『砂漠の光』が刊行されている。それは七八一ページに及ぶもので、まさに個人としては前例を見ない長篇戯曲の出版だったと思われる。しかも奥付の…

古本夜話696 三井晶史『法然』

新光社のことは本連載171、172、173などで言及してきたし、同642でも経営者の仲摩照久についてはその経歴などを提出しておいた。だがその出版物に関しては全貌がつかめていない。 とりわけ出版物は雑誌の他に三百余点に及んでいるとされるけれど…

出版状況クロニクル112(2017年8月1日〜8月31日)

17年7月の書籍雑誌の推定販売金額は952億円で、前年比10.9%減。 書籍は467億円で、同6.2%減、雑誌は484億円で、同15.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が382億円で、同17.1%減、週刊誌は102億円で、同6.1%減。 返品率は書籍が42.0%、雑誌は46.2%で、月刊誌は47.8%、…

古本夜話695 畦上賢造訳『自助論』と内外出版協会

前回、これも言及できなかったけれど、山室軍平の『私の青年時代』の中に、活版小僧として働くかたわらで、勉強と読書にいそしんだことが語られ、次のような記述にも出会うのである。それは明治二十年頃だった。 其の頃私は又スマイルスの「自助論」(中村敬…

古本夜話694 山室軍平『私の青年時代』と救世軍

これは前回ふれなかったが、金森通倫『信仰のすゝめ』の巻末広告には山室軍平の『青年への警告』が掲載されていたし、星野天知の『黙歩七十年』には思いがけずに山室が伝道仲間だったことが記されていた。金森と同様に、山室に関しても、まず『世界宗教大事…

古本夜話693 金森通倫『信仰のすゝめ』と「大正伝道叢書」

ずっと新仏教運動と出版に関してふれてきたけれど、キリスト教においても、大正期は大いなる伝道の時代だったと思われる。 『信仰のすゝめ』という一冊がある。これが福澤諭吉のベストセラー『学問のすゝめ』(岩波文庫)のタイトルに由来していることはいう…

古本夜話692 金井為一郎『サンダー・シングの生涯及思想』と東光社

前々回ポール・ケラスの八幡関太郎訳『仏陀の福音』と同様に、これも長い間よくわからない一冊があった。それは 金井為一郎の『印度の聖者 サンダー・シングの生涯及思想』で、大正十三年十二月に初版が出され、入手しているのは十四年十二月の第九版である…

古本夜話691 ポール・ケーラス『悪魔の歴史』

前回のポール・ケラス=ケーラスだが、平成六年になって、未邦訳の『悪魔の歴史』(船木裕訳、青土社)が刊行されている。これは「悪魔学」の古典としての翻訳とされているが、それもあってか、正面からの言及を見ていないので、ここでふれておきたい。それ…

古本夜話690 ポール・ケラス、八幡関太郎訳『仏陀の福音』

前回のシカゴ万国宗教大会に関連して、もう一編書いてみる。大会の書記官長を務めたのがポール・ケーラスで、それをきっかけにして釈宗演は親交を結ぶようになり、釈は鈴木貞太郎=大拙をケーラスのもとに送ることになったのである。大拙は明治三十年に渡米…

古本夜話689 釈宗演、シカゴ万国宗教大会、佐藤哲郎『大アジア思想活劇』

本連載670で釈宗演が今北洪川の弟子にして、鎌倉円覚寺で、夏目漱石や杉村楚人冠の参禅に寄り添ったことを既述した。釈については『日本近代文学大事典』に立項が見えるので、まずそれを示す。 釈 宗演 しゃくそうえん 安政六・一二・一八~大正八・一一…

古本夜話688 ウォーレス『馬来諸島』と窪田文雄『南洋の天地』

前回、『南方年鑑』を取り上げたこともあり、ここで南洋協会に関してもふれておきたい。 この南洋協会から昭和十七年にA・R・ ウォーレスの『馬来諸島』が刊行されている。彼は『岩波西洋人名辞典』に立項が見出せるので、まずはそれを示す。 ウォーレス Wal…

古本夜話687 東邦社『南方年鑑』

戦前の地理学に関連して、三編ほど古今書院にふれてきたが、もう少し南進論絡みを続けてみたい。大東亜戦争下における南進論を象徴するような一冊がある。それは『南方年鑑』で昭和十八年版として、日本橋区本町の東邦社から刊行されている。年度版だが、こ…

古本夜話686 北原白秋『橡』、「多磨叢書」、靖文社

前回の「アララギ叢書」と併走するようにして、同じく歌集を中心とし、出版社も重なる「多磨叢書」が刊行されていた。古今書院と「アララギ叢書」にふれる機会を得たこともあり、これも続けて取り上げておきたい。この叢書を知ったのは、昭和十八年に靖文社…

古本夜話685 村田利明『早瀬』と川瀬清『アララギ叢書解題』

やはり前々回の古今書院の橋本福松の立項の中に、詩歌物も出版したという記述があった。その詩歌物を二冊ばかり入手していて、それらはいずれも歌集で、斎藤茂吉『寒雲』(昭和十五年)、村田利明『早瀬』(同十六年)である。 後者の巻末には斎藤茂吉、土屋…

出版状況クロニクル111(2017年7月1日〜7月31日)

17年6月の書籍雑誌の推定販売金額は1103億円で、前年比3.8%減。 書籍は541億円で、同0.2%減、雑誌は562億円で、同7.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が459億円で、同6.3%減、週刊誌は102億円で、同9.6%減。 返品率は書籍が41.6%、雑誌は44.8%で、月刊誌は45…

古本夜話684 山本熊太郎『新日本地誌』

前回の古今書院の創業者橋本福松の立項のところには見えていなかったけれど、山本熊太郎の『新日本地誌』がある。これは全六巻で、明細を見れば、関東・奥羽篇、北海道・樺太篇、中部地方篇、近畿・中国篇、四国・九州篇、外地篇という構成により、昭和十二…

古本夜話683 佐藤弘、古今書院、パッサルゲ『景観と文化の発達』

前回、ダイヤモンド社の『南洋地理大系』の編輯者の一人が佐藤弘であると既述しておいた。この佐藤は地理学者にふさわしく、古今書院からも翻訳書を刊行している。それは国松久彌との「共抄訳」のパッサルゲ『景観と文化の発達』で、昭和八年の出版である。…