出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2017-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話682 ダイヤモンド社と『南洋地理大系』

「南進論」と歩みをともにして、出版界も「南へ、南へ」と向かっていた。それをダイヤモンド社の『南洋地理大系』にもうかがうことができる。これは昭和十七年に全八巻で出されている。その明細を示す。 1 『南洋総論』 2 『海南島・フィリピン・内南洋』 3 …

古本夜話681 堀真琴と『世界全体主義大系』

前々回の室伏高信の『戦争私書』の中に堀真琴への言及がある。この堀に関しては『現代人名情報事典』に立項を見出せるので、まずはそれを引いておく。 (中公文庫版) 堀真琴 ほりまこと 政治家(生)宮城1898・5・24‐980・1・16 (学)1923東京帝大政治学科…

古本夜話680 養賢堂、「東亜共栄圏国土計画資料」、田中長三郎『南方植産資源論』

昭和十年代後半における南進論関係の出版ブームは、本連載584、585などでも既述しているが、多くの出版社が参画していったようで、それは養賢堂のような農業書の版元も例外ではなかった。養賢堂に関してはこれも同528で少しだけふれているけれど、…

古本夜話679 室伏高信、日本評論社、『戦争私書』

前回の室伏高信の『南進論』の巻末広告には彼の『論語』『孔子』『山の小屋から』『支那遊記』が並び、室伏と日本評論社の密接な関係を伝えている。実際に彼は昭和九年から十八年にかけて、『日本評論』の主筆を務めていたのである。本連載ではふれてこなか…

古本夜話678 室伏高信『南進論』

本連載675で、大谷光瑞の南進論にふれたが、それは昭和十一年に日本評論社から刊行された室伏高信の『南進論』から始まり、国策としての南進政策と大東亜共栄圏構想がリンクしていたと見なせよう。明治末期から大正前半にかけて唱えられた民間の南進論は…

古本夜話677 東日大毎近衛賞「政治小説」と松永健哉『海の曙』

前回、『純粋小説全集』刊行記念としての「一千円懸賞長篇小説」にふれたが、もうひとつよく知られていない賞があるので、これも続けて書いておきたい。それは「東日大毎近衛賞『政治小説』」であり、私も松永健哉の『海の曙』を入手して知った次第だ。この…

古本夜話676 有光社と『純粋小説全集』

前回の大谷光瑞などの南進論に寄り添った出版社としての有光社についてはまったくふれられなかったので、もう一編書いておきたい。有光社は住所も麹町区丸ノ内三丁目とし、発行者を村田鐵三郎とする版元で、私が最初にこの出版社の本を入手したのは半世紀近…

古本夜話675 有光社、大谷光瑞『蘭領東印度地誌』、澁川環樹『蘭印踏破行』

本連載671でも既述したように、新仏教運動の盛り上がりのひとつのきっかけは、西本願寺の大谷光瑞による桜井義肇の処遇にあった。桜井は『反省会雑誌』時代から編集実務に携わり、タイトルが『中央公論』に代わってからも編集主任を務め、同時に高輪仏教…

出版状況クロニクル110(2017年6月1日〜6月30日)

17年5月の書籍雑誌の推定販売金額は926億円で、前年比3.8%減。書籍は475億円で、同3.0%増、雑誌は451億円で、同10.0%減。 書籍は送品稼働日が1日多かったこと、及び前月がやはり10.0%減だった反動でプラスとなっている。 しかし雑誌は返品率の上昇で、2…

古本夜話674 加藤咄堂『大死生観』、井冽堂、積文社

本連載671で、加藤拙堂が要職にあった上宮教会の出版部が井冽堂で、その発行者山中孝之助が丙午出版社の創業メンバーであり、明治四十二年に亡くなったことを既述しておいた。それならば、井冽堂のほうはどうなったのだろうか。同じく書籍で比較してみる…

古本夜話673 丙午出版社と木村泰賢『原始仏教思想論』

ここに丙午出版社の書籍が二冊あるので、それらにもふれておきたい。その二冊は木村泰賢『原始仏教思想論』と新井石禅『修道禅話』である。両方とも裸本だが、いずれも大正時代の出版で、前者は菊判上製の専門書、後者はB6判上製の禅講話書といっていいだろ…

古本夜話672 大日本雄弁会『高嶋米峰氏大演説集』

本連載669の境野哲も同様だったとされる。その事実を伝えるように、『高嶋米峰氏大演説集』という一冊が編まれ、昭和二年に大日本雄弁会から刊行されている。その「序に代えて……(雄弁私見)」で、米峰は自らが雄弁家の天性を備えていないことを知ってい…

古本夜話671 高嶋米峰と丙午出版社

新仏教運動と出版に言及するのであれば、境野哲や杉村縦横(楚人冠)と同様に、『新仏教』編輯員だった高嶋玉虬=高島米峰にもふれなければならない。それに新仏教運動に寄り添う出版の第一人者として高嶋を挙げることに誰も異存はないと思われるからだ。そ…

古本夜話670 今北洪川『禅海一瀾』

前回は森江書店の、発行者を森江佐七とする麻生区飯倉町の森江本店の境野哲『印度仏教史綱』を取り上げたが、今回は本郷区春木町の森江英二の森江分店の書籍にもふれてみたい。後者が前者の養子で、独立して書店兼出版社を営んでいることも既述したばかりだ…

古本夜話669 境野哲『印度仏教史綱』と森江書店

新仏教運動にはずっとふれてきた世界文庫刊行会だけでなく、多くの出版社が併走していたので、それらもトレースしてみる。『新仏教』の発行者兼編輯者が堺野哲であることは本連載651で既述したが、彼は『日本近代文学大事典』に境野黄洋として立項されて…

古本夜話668 川辺喜三郎と「フリーメーソンリー」

しばらく続けて世界文庫刊行会の『世界聖典全集』とその別巻ともいうべき『世界聖典外纂』に関してふれてきたが、とりあえず終えるに当たって、少し異なる最後の一片を付け加えておきたい。それは川辺喜三郎の「フリーメーソンリー」についてである。 どうし…

古本夜話667 杉浦貞二郎と「基督教各派源流」

大東亜戦争下の昭和十六年に思想統制を目論んだ宗教団体法により、合同教会としての日本基督教団が成立した。しかし戦後は宗教団体法が廃止されたのだが、大半の宗派がそこにとどまったことで、キリスト教宗派はまとめられたような印象を与えてしまう結果を…

古本夜話666 シュタイナー『三重組織の国家』と浮田和民

やはり『世界聖典外纂』には宇井伯壽による「神智教」も収録されている。宇井は高楠順次郎門下のインド哲学や仏教学の碩学として知られ、三島由紀夫も『暁の寺』を書くに当たって、宇井の全六巻に及ぶ『印度哲学研究』(岩波書店)などを拳々服膺したと伝え…

古本夜話665 佐伯好郎『景教碑文研究』

少しばかり飛んでしまったが、本連載655の『世界聖典外纂』の佐伯好郎による「景教」は、『景教碑文研究』のリライト版とも考えられるので、それを簡略に見ておきたい。同653のゴルドン夫人の『弘法大師と景教』刊行の二年後の明治四十四年に、佐伯好…

出版状況クロニクル109(2017年5月1日〜5月31日)

17年4月の書籍雑誌の推定販売金額は1121億円で、前年比10.9%減。 送品稼働日が1日少なかったこと、返品の増加が主たる要因だが、2ケタマイナスは16年10月以来である。 書籍は550億円で、同10.0%減、雑誌は570億円で、同11.9%減。 雑誌の内訳は月刊誌が466…

古本夜話664 青磁社版『嘔吐』、馬淵量司、美和書院

別の機会に書くつもりでいたが、前回の光の書房版『神秘哲学』と同時代にサルトルの『嘔吐』も刊行され、井筒俊彦もそれにふれているので、続けて取り上げてみる。井筒は安岡章太郎との対談「思想と芸術」(『井筒俊彦著作集』別巻、中央公論社)の中で、次…

古本夜話663 光の書房と上田光雄

前回、「興亜全書」の一冊である『アラビア思想史』の戦後改訂版『イスラーム思想史』に神秘主義(スーフィズム)が加えられたことを既述しておいた。しかしこれが戦後に書かれた「アラビア哲学」という論文に基づくもので、光の書房の「世界哲学講座」第五…

古本夜話662 博文館「興亜全書」、井筒俊彦『アラビア思想史』、前嶋信次『アラビア学への途』

前回、岩波文庫版の『コーラン』の訳者として、井筒俊彦の名前を挙げておいたが、本連載564などでふれてきたように、井筒もまた大東亜戦争下のイスラム研究者の一人であり、昭和十六年には『アラビア思想史』を刊行している。これは博文館の「興亜全書」…

古本夜話661 坂本健一と『コーラン経』

本連載655で示した松宮春一郎による「世界聖典全集刊行之趣旨」からわかるように近代科学文明の積弊に対して、その出版は霊的源泉、精神文明の輝きとしての世界の諸聖典の翻訳紹介を目的としている。それは国際状況からすれば、日露戦争から第一次世界大…

古本夜話660 田中達と『死者之書』

大正九年から十年にかけての『世界聖典全集』前輯の刊行は、前回の鈴木重信の一人にとどまらず、もう一人の死者を伴わなければならなかった。しかもそれは第十巻、十一巻『死者之書』上下の翻訳者の田中達であった。 (『耆那教聖典』)『耆那教聖典』に寄せ…

古本夜話659 ピッシェル『仏陀の生涯と思想』

前回の『耆那教聖典』の松宮春一郎の「故鈴木重信君を憶ふ」の中で、次のふたつの事柄が言及されていた。ひとつは鈴木が大正二年に公刊を目的とするのではなく、ドイツ語の研修のためにピッシェルの仏陀伝を翻訳したこと、もうひとつは病者心理の研究対象、…

古本夜話658 鈴木重信と『耆那教聖典』

前回記したように、まだ興亡史論刊行会を名乗っていた松宮春一郎が、『世界聖典全集』の刊行を決意したのは、一時に妻子を失うという身近な死を受けてのことだった。しかし『世界聖典全集』刊行にあっても、予期しない死に遭遇せざるを得なかった。 それは「…

古本夜話657 荒木茂と宮本百合子『伸子』

『世界聖典外纂』で、「ミトラ教」「麻尼教」「スーフィー教』を担当している荒木茂は、その前年の大正十一年に岩波書店から『ペルシヤ文学史考』を上梓している。彼は古代から近代に至るペルシア語を一貫して学び、東大でペルシア語を教えた最初の日本人だ…

古本夜話656 世界文庫刊行会と松宮春一郎

かなり長きにわたって、世界文庫刊行会と『世界聖典全集』に関して探索を続けているのだが、その全貌と詳細はつかめないままで、すでに二十年近くが過ぎようとしている。それもあって、ここでわかったことだけでもまとめておきたい。世界文庫刊行会は本連載…

古本夜話655 世界文庫刊行会『世界聖典外纂』

近代にあって、新たなムーブメントやエコールの形成は必ず雑誌や書籍という出版物を伴って作動していく。それは欧米のみならず、日本でも同様で、これまた既述してきたように、新仏教運動も明治三十三年の『新仏教』創刊に結びつき、それに三十七年にスター…