出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2012-01-01から1年間の記事一覧

出版状況クロニクル49(2012年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル49(2012年5月1日〜5月31日)最近になって、地域の老舗である事務用品、文房具店が自己破産した。町の商店街は実質的に解体されて久しいが、それでもずっと同じ外観のままで残っていた数少ない店舗のひとつだった。ここは小中高などの学校…

古本夜話205 金子洋文『投げ棄てられた指輪』と新潮社「現代脚本叢書」

叢文閣の秋田雨雀『国境の夜』と一緒に買い求めた同時代の戯曲集があり、それは金子洋文の『投げ棄てられた指輪』で、前者と同様に背や表紙がかなり痛んでいたために、とても安い古書価で購入した記憶が残っている。『国境の夜』が「現代劇叢書」の一編だっ…

ブルーコミックス論37 山岸涼子『甕のぞきの色』(潮出版社、二〇一〇年)

(潮出版社) (秋田書店プリンセスコミック) (秋田書店) その魅惑的なタイトルゆえに、「山岸涼子スペシャルセレクション」4の『甕のぞきの色』を購入してしまった。ただこの作品は記憶の片隅に残っていたので、初出を見てみると、一九九二年十一月から…

古本夜話204 秋田雨雀『国境の夜』、叢文閣「現代劇叢書」、『秋田雨雀日記』

大正期には戯曲の「叢書」も出されている。 大正十年五月に叢文閣から刊行された秋田雨雀の戯曲集『国境の夜』がある。菊半截判の濃紺の上製本で、表題作を含めて四作が収録されている。叢文閣は説明するまでもなく、有島武郎の友人足助素一が営む出版社であ…

古本夜話203 矢島一三、中興館、海外文芸叢書『七死刑囚物語』

大正期の「叢書」について続けてみよう。 背の下の部分の傷みは激しいが、アンドレーエフ作、相馬御風訳『七死刑囚物語』を以前に入手している。大正二年に海外文芸叢書社から刊行された「海外文芸叢書」の第一篇で、菊半截判である。表紙に記憶があったので…

ブルーコミックス論36 金子節子『青の群像』(秋田書店、一九九九年)

金子節子の『青の群像』は、裏表紙カバーの内容紹介のコピーにあるように、その「青」を含んだタイトルはそのまま「青春群像劇」を意味していて、色彩の「青」の喚起するイメージは伴っていない。しかし主人公たちは男女の二卵性双生児で、姉は「碧(みどり)…

古本夜話202 宇野浩二『文芸夜話』と金星堂「随筆感想叢書」

本連載176などで数回にわたってふれてきた新潮社の「感想小品叢書」とよく似たシリーズが、新潮社をライバルとして文芸出版を始めていた金星堂からもほぼ同時期に刊行されているので、それも挙げてみよう。これは前回の文藝春秋社の命名も関係しているか…

古本夜話201 春秋社と文藝春秋社出版部

前回の庄野誠一に関連することもあり、文藝春秋社をめぐる一編を加えておく。本連載180で、文藝春秋社出版部なる名称が菊地寛によって、春陽堂から独立した小峰八郎に貸与されたものだと既述した。またそこで、この頃は文藝春秋社出版部の本に出会わない…

ブルーコミックス論35 原作李學仁・漫画王欣太『蒼天航路』(講談社、一九九五年)

前回の江戸川啓視と石渡洋司の『青侠ブルーフッド』は秦の始皇帝時代に端を発し、墨子を祖とする青幇への弾圧を物語のベースに置いていた。 秦の始皇帝といえば、ただちに秦始皇陵兵馬俑坑を思い浮かべてしまう。これは一九七〇年代に発見された中国古代文明…

古本夜話200 庄野誠一「智慧の環」と集英社『日本文学全集』

砂子屋書房の刊行書目を見ていて、昭和十三年に庄野誠一の短編集『肥つた紳士』が出されていることにあらためて気づいた。庄野ももはや忘れ去られた作家だと考えられるが、それでも『日本近代文学大事典』には立項がある。それによれば、明治四十一年東京芝…

古本夜話199 砂子屋書房「新農民文学叢書」と丸山義二『田舎』

ここでもう一度、砂子屋書房の出版物に戻る。 農民文芸会に端を発する文学史と出版史をずっとたどってきたので、柳田国男の農政学から埴谷雄高の左翼農民運動へと至る問題、渋谷定輔の『農民哀史』(勁草書房)や松永伍一の『日本農民詩史』(法政大学出版局…

ブルーコミックス論34 原作江戸川啓視、漫画石渡洋司『青侠ブルーフッド』(集英社、二〇〇五年)

前回の『プルンギル』の原作者江戸川啓視によるもう一編のコミックがある。それは石渡洋司の『青侠ブルーフッド』で、冒頭に次のような注記が置かれている。それはこれから語られる物語、事件、登場人物、対立する組織はすべてフィクションであるという、小…

古本夜話198 『居酒屋』の訳者関義と『展覧会の絵』

論創社版「ルーゴン=マッカール叢書」に『ナナ』の新訳を加えることが決まり、その参考のために、戦前だけでなく、戦後も含めて『ナナ』の既訳状況を調べたことがあった。その中に昭和三十年に青木書店から刊行された関義・安東次男訳も見出されたが、前回の…

出版状況クロニクル48(2012年4月1日〜4月30日)

出版状況クロニクル48(2012年4月1日〜4月30日)先月 記したように、山下耕作の『総長賭博』を40年ぶりに映画館で観たこともあって、続けて同じく東映仁侠映画の名作、加藤泰の『明治侠客伝 三代目襲名』や『緋牡丹博徒 お竜参上』なども、DVDで観てしまった…

ブルーコミックス論33 原作江戸川啓視、作画クォン・カヤ『プルンギル―青の道―』(新潮社、二〇〇二年)

新宿の廃ビルで、身体中の関節を外され、血を抜かれ、捻じ曲げられた若い女性の奇怪な全裸死体が発見された。死体のそばの壁には血で書かれたハングルの文章が残されていた。ちょうど一ヵ月前にも横浜で同じ状態の女の死体が見つかっていて、明らかに連続殺…

古本夜話197 島中雄三、文化学会、『世界文豪代表作全集』

前回井上勇訳として『ナナ』も挙げておいたが、これは大正十五年に刊行され始めた『世界文豪代表作全集』(同刊行会)の第十五巻所収で、いまだに見つけられない。『ナナ』の私訳の際に参考にするつもりでいたけれど、それは発行部数が少なかったゆえなのか…

古本夜話196 井上勇『フランス・その後』とゾラ『壊滅』

前回ゾラの先駆的訳者として、飯田旗軒を紹介したが、彼に続く同じような訳者の一人でもある井上勇についても書いておこう。井上も大正時代におけるゾラの翻訳者として、『ナナ』『制作』『罪の渦』を刊行している。私の手元にある『制作』(上下)と『罪の…

ブルーコミックス論32 高橋ツトム『ブルー・へヴン』(集英社、二〇〇二年)

高橋ツトムの『ブルー・へヴン』は映画『ポセイドン・アドベンチャー』から『タイタニック』に代表される、大型客船パニックドラマの系列に連なる作品と位置づけられるだろう。 巨大な豪華客船が冒頭の見開き二ページに描かれ、その次にバンドを背景に歌手が…

古本夜話195 ゾラの翻訳の先駆者飯田旗軒

大正時代におけるゾラの翻訳者として、まず挙げなければならないのは飯田旗軒であろう。しかも彼は「ルーゴン=マッカール叢書」の『金』だけでなく、「三都市叢書」の『巴里』、「四福音書」の『労働』も翻訳していて、ゾラの三つのシリーズの訳者ということ…

古本夜話194 特価本出版社成光館

前回成光館における翻訳書と譲受出版にふれたこともあり、かなり前に書いたものだが、ここで成光館に関する一文を挿入しておきたい。その全貌はつかめないのだが、梅原北明出版人脈は特価本業界にまで及んでいて、それらの刊行物は特価本出版社によって紙型…

ブルーコミックス論31 タカ 『ブルーカラー・ブルース』(宙出版、二〇一〇年)

前回、貸本漫画の読者として想定された「非学生ハイティーン」という言葉が、一九七〇年以後、成立しなくなったことを既述した。それと同様に工場労働者を意味する「ブルーカラー」も死語となり、ほとんど使われなくなってしまった。それは「ブルーカラー」…

古本夜話193 大正時代における「ルーゴン=マッカール叢書」の翻訳

思いがけずにゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」について、続けて言及することができたので、この機会にもう少し「叢書」の翻訳史をたどってみたい。本連載188で、フランス語からの初訳として吉江喬松による『ルゴン家の人々』を取り上げたが、実は大正時…

古本夜話192 「ルーゴン=マッカール叢書」(論創社版)邦訳完結に寄せて  『図書新聞』(〇九年五月二三日)掲載

論創社版のエミール・ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」は七年かかって一三巻を刊行し、同時期に出版された藤原書店の「ゾラ・セレクション」の六巻などを合わせると、ようやく日本語で「叢書」の全二〇巻を読むことができるようになった。フランスにおける…

ブルーコミックス論30 立原あゆみ『青の群れ』(白泉社、一九九六年)

一九六七年から七〇年代にかけて、『漫画主義』という同人誌が刊行され、当時の多くのリトルマガジンと同様に、特約の書店や古本屋で売られていた。『漫画主義』の同人メンバーは石子順造、梶井純、菊地浅次郎、権藤晋で、そのアンソロジーが六九年に青林堂…

古本夜話191 改造社「ゾラ叢書」、犬田卯訳『大地』、論創社「ルーゴン=マッカール叢書」

春秋社の『ゾラ全集』とほぼ同時期に、改造社から「ゾラ叢書」が刊行されている。だが「ゾラ叢書」も『ゾラ全集』のように二冊だけで終わったのではないにしても、三巻を出したところで中絶してしまっている。それらを示せば、第一篇『獣人』(三上於菟吉訳…

古本夜話190 ゾラの翻訳者としての武林無想庵

春秋社の『ゾラ全集』や改造社の「ゾラ叢書」の企画や編集をめぐる直接的な証言は残されていないけれども、訳者である武林無想庵に関するいくつかのエピソードとしては、山本夏彦の評伝『無想庵物語』(文藝春秋)の中で語られている。しかし山本が戦前の出…

出版状況クロニクル47(2012年3月1日〜3月31日)

出版状況クロニクル47(2012年3月1日〜3月31日)昨年の暮れに、映画館で40年ぶりに山下耕作監督の『総長賭博』を観て、様々に思い出されることがあり、10本ほどの一連の雑文を書いてしまった。ちなみに補足しておけば、この鶴田浩二主演の『総長賭博』は1960…

古本夜話189 企画編集者としての吉江喬松と中央公論社『世界文芸大辞典』

私は自らの浅学非才と無知をよく承知しているので、それを補うことと編集の仕事の必要もあって、かなり多くの辞典や事典類を所持し、毎日のようにそれらのいくつかを引いている。それらの辞典や事典の中で装丁、内容、図版、用紙など、どれをとってもすばら…

古本夜話188 春秋社『ゾラ全集』と吉江喬松訳『ルゴン家の人々』

新潮社の『フィリップ全集』とほぼ同時期に、春秋社で『ゾラ全集』が企画され、その第一巻『ルゴン家の人々』が昭和五年に吉江喬松訳で刊行された。しかしこれは第一巻と第三巻の武林無想庵訳『巴里の胃袋』が出ただけで中絶してしまい、この『ルゴン家の人…

ブルーコミックス論29 高田裕三『碧奇魂 ブルーシード』(新装版講談社、二〇一〇年)

(新装講談社版) (竹書房版) 『古事記』における出雲神話は次のように伝えている。 高天原を追放された須左之男命は出雲国に降り立った。するとそこに老夫婦と娘の奇稲田姫がおり、泣いていた。須左之男命がどうして泣いているのかと問うと、わしには八人の…