出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

書評 の検索結果:

古本夜話72 乱歩、谷崎潤一郎、クラフト・エビング『変態性欲心理』

…事者ならではの見事な書評を形成しているからだ。三島由紀夫による、柳田国男の『遠野物語』のその核心をついた書評を連想させる。 彼はふとした機会からクラフトエビングの著書を繙いたのである。その時の饒太郎の驚愕と喜悦と昂奮とはどのくらいであったろうか? 彼は自分と同じ人間の手になる書籍と云う物から、これ程恐ろしい、これ程力強いショックを受けたのは実にその時が始めであった。彼はペエジを繰りながら読んで行くうちに激しい身慄いが体中に瀰漫するのを禁じ得なかった。何と云う物凄い、無気味な事…

出版状況クロニクル33 (2011年1月1日〜1月31日)

…関しては以前に紹介と書評「カネコアツシ『SOIL[ソイル]』」を書いている。この完結を機に、この作品をぜひ一読されたい。そのエンターブレインから、鈴木みその『限界集落(ギリギリ)温泉』が出されている。これは昨年末に第2巻が出たばかりだが、さびれてしまった田舎の温泉を、社会からはじかれた小説家、ゲームクリエーター、コスプレイヤーに加えて、ゲーム、アニメ、フィギュアなどのマニアたちが参画し、限界集落と化した温泉の復興計画を進めていく試みを、スラップスティック的に描いたコミックであ…

出版状況クロニクル31 (2010年11月1日〜11月30日)

…うクジラ』への多様な書評を公開すべきではないだろうか] 5.河出書房新社が既刊書籍157点を時限再販とする「河出書房新社創業125周年記念謝恩価格セール」を実施。対象は『澁澤龍彦全集』や『須賀敦子全集』を含む人文、思想、歴史、美術書など1万部。定価の2割の報奨金が支払われるので、書店の粗利は40%強となる。 6.柴田書店が創業60周年記念事業と再販制度の弾力運用として、絶版、品切の料理専門書を復刻し、丸善、ジュンク堂、波屋書房の3書店限定で販売。 復刻点数は10点で、各600…

出版状況クロニクル29(2010年9月1日〜9月30日)

…になるが、例によって書評はひとつも出ない。再販委託制問題に加えて、本クロニクルが大手新聞や総合誌などを批判していることも作用しているのだろう。 それでもこの連載を続けているのは、日本の出版業界の、世界に例を見ない10年を超える深刻な危機状況に対して、私以外に誰も絶えざる警鐘を鳴らさないからである。そしてまた日本出版史のみならず、戦後社会史として、出版敗戦の経緯と構造は鮮明に記録されなければならないからだ。 これまでも繰り返し言及してきたように、日本の出版物販売金額は、1996…

古本夜話49 中山太郎と『売笑三千年史』

…の著作に対する唯一の書評「中山太郎著『日本巫女史』」 (『定本柳田国男集』 第二十三巻所収、筑摩書房)の中でわずかにふれ、「在来の遊蕩文学の連想があるために、(中略)疎遠なる待遇を受けていた」と述べている。婦人問題研究者にかこつけて言っているのだが、まさに柳田国男の見解と考えていい。このような理由で、中山は柳田民俗学から遠ざけられ、彼の再評価はほとんどなされず、現在に至っていることになる。ようやく〇七年になって、礫川全次編による『タブーに挑む民俗学』 (河出書房新社)という中…

出版状況クロニクル26(2010年6月1日〜6月30日)

…道ばかりでなく、新聞書評も同様である。6月6日の新聞書評を見ていたら、『読売新聞』『日本経済新聞』『中日新聞』(『東京新聞』)の写真入り著者インタビューの欄に、いずれも集英社から『母―オモニ』を上梓した姜尚中が出ていた。 [著者にも作品にも罪があるわけではないが、新聞書評欄がいかにフラット化しているかの典型的な例であろう。6月8日の『毎日新聞』夕刊、6月24日の『朝日新聞』夕刊にも、ともに同様の写真入りインタビュー記事が出ていた。 いくら何でも横並びも度が過ぎ、あきれる思いが…

10 カネコアツシ『SOIL[ソイル]』

…あれば、完結してから書評なり紹介なりをするつもりでいた。しかし郊外消費社会について続けて書いてきたこともあり、このような機会にふれておくのも、『SOIL』 にとって一興で、ふさわしいのではないかという気になるし、広く読まれてほしいので、ここで取り上げてみることにする。これまで小説のみならず、コミックやアニメでも多くの郊外が描かれてきたし、それらは枚挙にいとまがないほどだ。だがこの、『SOIL』 は郊外コミックとして群を抜いた異色の大作で、現在の郊外の深層のイメージを露出させて…

浅岡邦雄『〈著者〉の出版史』

…発されたので、ここで書評しておくべきだろう。私は学会の近代出版史研究のスタンスに通じていないが、浅岡は近世出版史研究の方法論を引き継ぎ、それに長年の大学図書館における資史料の博捜体験と前田愛の視座を重ね、近代出版史へと投影させているように思われる。その特色は第一次資史料の発見と駆使による新たな近代出版言説の提出であろう。『〈著者〉の出版史』 にはそれらが遺憾なく発揮されている。だが大半が出版史の専門的領域に属する研究であり、広く新聞や一般誌での書評や紹介は期待できないので、そ…

 3 アンドレ・シフレン『理想なき出版』

…る。たまたま刊行時に書評(『東京新聞』6月23日)を求められたので、まずはそれを再録する。 必然的に少部数から始まらざるをえない人文書の出版が危機を迎えているのは、日本ばかりでなく、アメリカも同様であり、本書はアメリカの出版業界がこの半世紀の間にどのような変貌をとげてきたかを伝えてくれる。 著者のアンドレ・シフレンは、亡命ロシア人の父親が創業したパンセオン・ブックスを引きつぎ、九〇年にニュープレス社という独立系出版社を立ち上げ、その六〇年代から現在にかけての編集者、出版者の体…

丸山猛と須賀敦子

…が消え去ろうとしていた90年代にあって、須賀敦子と丸山猛たちが演じていた未公開のドラマは、彼女たち固有のものであったにしても、出版史の記憶にとどめられる出来事だったのではないだろうか。 なお最後に、丸山以外の人々と私との関係も記しておくべきだろう。今泉と田口にはリブロ時代に、自社の最初の出版物のフェアを開いてもらい、須賀敦子には別の出版物の書評をしてもらったことがある。だがそれらも、はるか遠い出来事のように思われてくる。 須賀亡き後の「自由フォーラム」はどうなったのだろうか。

「葉っぱのBlog」への返信

…時の03年にbk1で書評していることを初めて知らされた。 http://www.bk1.jp/review/0000221424 そして続けて、ブログに00年8月の『図書新聞』に寄せた私の講演「検証・近代出版流通システム」を掲載してくれたので、それは論創社版『出版社と書店はいかにして消えていくか』に収録した旨をメールで伝えた。すると彼から返信があり、そこに60年代から70年代にかけて、今泉正光、田口久美子、丸山猛たちと一緒にキディランドで仕事をしていたことが記されていた。この…

続『書棚と平台』を批評する 番外編

…。 たまたま刊行時に書評を依頼され、書いたもの(『東京新聞』02年3月17日)が手元に残っているので、とりあえず再録してみる。 明治二十年代に立ち上がった出版社・取次・書店という日本の近代出版流通システムは、近代文学の誕生と軌を一にしている。この出版業界の成長と近代文学の成立の過程で、作者・出版社・取次・書店・読者からなる近代読者社会が出現し、様々な出版、書物神話、作者・作品崇拝、読書信仰が形成された。 そして、これらの視点から、出版は常に文化の名のもとに、ピュアなものとして…

続『書棚と平台』を批評する 4

…『書棚と平台』の紹介書評に言及して終えるつもりだったが、止めた。かえって柴野に同情したくなるほどの、このような学会的文章にこれ以上つきあいきれないからだ。これはまだ図書館などで容易に読めるはずであり、その学会的文章に興味ある読者は実際に読んでみてほしい。 なお柴野をはじめとして、ここに実名を挙げた人物、及び日本出版学会は反論、異論があれば、いつでも発信してほしい。間違いがあれば、訂正もしよう。もし発表の場を必要とするのなら、本ブログを提供してもかまわない。 最後に一言付け加え…

柴野京子の『書棚と平台』を批評する

…めに、的を射た紹介や書評の出現はあまり期待できないように思う。だからここで要約紹介し、いくつかのコメントを付け加えておこう。 柴野は同書の序章をまず近年の「出版危機言説」の分析から始めている。彼女によれば、それは出版不況を背景とした経営問題としてであり、その原因としての流通寡占、雑誌依存性、再販制といった固定的商習慣などの産業構造が問題化された。これらの要素に加えて、外部環境の変化、技術革新、教養主義的言説が相乗し、文化人や業界関係者たちがそれぞれ個人的利害や思い入れの上に個…